【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で捗ってます。
 誤字報告にも感謝です。前話、ひどい誤字ありましたね。忍びねぇ忍びねぇ。

 作者が一番好きな大鎌はダクソ3の「フリーデの大鎌」です。非常にオサレ(隙鎌語)

 今回は三人称、おじさんとその周辺です。
 頂いた感想に触発されて今回過去の偉人が申し訳程度に出てきますが、あくまでフレーバーです。主人公たちとは全く関係がありません。


往きて、ロリし

 人類生存圏、中心部。

 

 ラリス王国。

 またの名を、英雄の生まれる地。

 

 力を貴び、知を敬い、なにより勇を誉れとするその国は、遥か昔の英傑たちの栄光によって興された。

 始まりの英雄たち。それは、六人六種の一党であった。

 

 彼の者、闇夜にて地に在る月の如し。

 放浪の竜、数多剣士の到達点。

 銀竜剣豪・ヴィーカ

 

 彼の者、鬣に太陽を宿すが如し。

 猛き雄、栄光を背に笑う者。

 獅子拳聖・イライジャ

 

 彼の者、真紅の美酒の香りの如し。

 血煙の麗人、永遠の眠り姫。

 純血大公・リアルイーザ

 

 彼の者、青空に浮かぶ白雲の如し。

 許されざる大罪人、病魔を殺す者。

 極光天使・ジュスティーヌ

 

 彼の者、清廉なる森の泉の如し。

 第一の友、魔道と知の探究者。

 魔道賢者・ゼノン

 

 そして、英傑を率いる者。

 勇気ある男。心折れぬ男。輝くは鎧にあらず、その魂こそ真なる黄金。

 勇者・アレクシオス

 

 古代、彼らは迷宮に挑み、幾度も凱旋し、その恩恵を万民に授けた。

 枯れた大地に水を。荒れた木々に命を。死の霧の原には太陽を。

 やがて謳われた、比類なき人の王。

 

 強き者、驕る事なかれ。

 弱き者、一歩ずつ進め。

 俯く者よ、我らが背を御覧じろ。

 

 人類よ、此処から始めよう。

 

 この世界の誰もが知る、建国の物語である。

 

 

 

 ラリス王国、王都西区。

 

 転移神殿の受付にて、ギルド職員の受付おじさんは昔聞かされた御伽噺を思い出していた。

 曰く、昔々の王様は色んな種族の人と一緒に迷宮に潜って、色々便利なモンを持って帰っては困った人に気前よく分けてくれたらしい。

 当時の人類は今よりずっと過酷な環境に生きてて、伝承によると吸うだけで死ぬ煙とか週一で来る魔物の大群とかでそれはもう大変だったようだ。

 おまけに地面は枯れ放題で、癒やしの雨には肌を焼く酸が混じってたらしい。夜になると何処からともなく骸骨が襲ってくるとか。怖すぎだろ。

 その頃の人からすると、今の人類様はさぞ楽してるように見えるんだろうなーと、おじさんは欠伸をかみ殺しながら思った。

 

 ギルド職員は多忙である。

 ただでさえ量の多い机仕事に加え、アホな冒険者の相手や人同士の諍いなどにも公平に対処せねばならないのだ。

 その点、おじさんは要領が良かった。人気がないので冒険者の相手はそれほどしないし、回ってくるごたごたもない。その代わりにと他職員の書類仕事をお手伝いしては上手にヘイト管理をしていた。

 パワハラもモラハラもアルハラもしない、実に良いベテランさんであったのだ。

 

 そんな中……。

 ある種、忙し過ぎて余裕のない職員の中で、おじさんだから気づいた事があった。

 

「そういや、イシグロの奴は今日も休みか」

 

 最近噂の彼、迷宮狂い氏の事である。

 彼は冒険者になってからというもの、七日に一日程度休むくらいでほぼほぼ毎日迷宮に入っていた。それ自体マジでアタオカなのだが、奴は加えて毎度毎度主を倒して帰還するのだ。意味不明である。

 いや、一回だけ撤退した事があったようだが、翌日にはお礼参りして凱旋した。迷宮の構造上同じものではないが、見事雪辱を果たした訳だ。

 

 そんな、迷宮狂い氏の迷宮狂いっぷりからして、二日連続の休暇はこれまでになかった異常事態である。

 仕事が落ち着いてくると他職員も違和感を覚え始めた様で、休憩室で彼についての話題が出た。

 

「今日も休みなんですね、イシグロさん」

「ですねー。まぁでも、これが普通……というか、それでもおかしいんだけど」

 

 銀細工持ち冒険者といえば、月一ペースで迷宮に潜るのがスタンダードだ。

 また、銀細工持ちの連中は勇気はあっても蛮勇の持ち合わせはない。優秀な奴ほど準備に余念がないものである。

 事前情報から適切な装備を整え、必要ならその都度武器を職人にオーダーメイドで作ってもらう。その上で鍛錬して手に馴染ませ、迷宮に入って楔を打って、楔が砕ける前に時間をかけて攻略するのだ。失敗しても、生きてりゃ勝ちだ。

 それから、金がなくなるまで遊びまくり、腕が鈍らないうちにまた迷宮に戻ってくるのである。

 

「おじさんは聞いてないですか? 迷宮狂いさんが休んだ理由」

「おじさんって言うな。まぁ……昨日街で会ったな」

「え!? イシグロさん街で遊んだりするんですか!?」

「いや、そんなんじゃなかったな。前紹介状書いた店で奴隷買ったらしい。真新しい服着て、奴隷連れて歩いてたよ」

「へ~、あのイシグロさんが奴隷を……」

「しかもあの店の奴隷でしょ? そりゃ、お金は余裕でしょうけど、何でだろ?」

 

 困惑する休憩中の職員たち、けれどおじさんは知っていた。

 知った上で、黙っていた。何故か? なんかそっちのがクールだからだ。

 

「変な性癖持ちとか?」

「いやいや、高級娼館でいいでしょ。それこそ西区には娼館なんて山ほどあるんだから」

「殺していい奴隷が欲しかった、とか……?」

「それこそその辺の安い奴隷でいいじゃない。ていうか、流石に失礼」

「特定の種族にしか興味ないとか?」

「あ~、上森人限定とか? 確かに、上森人抱ける店は西区にないよな~」

 

 きゃいきゃいと騒ぐ若者を背に、おじさんは椅子から立ち上がった。

 違う、奴は変な性癖持ちでも快楽殺人鬼でもない。

 

「……鍛えるのさ、自分について来れる英雄の卵を」

 

 ギルドのおじさんは(あえて)誰にも聞かれない声量で呟き、スタイリッシュにクールに去った。

 

 

 

 

 

 

 結局、件の迷宮狂いさんは翌日も翌々日も転移神殿に来なかった。

 これにはそういうのに敏感なギルド職員だけでなく、西区の転移迷宮を拠点とする冒険者たちもざわついていた。

 

 やれ死んだんじゃないのとか、借金返して引退する準備中なんじゃねとか、あるいは購入したらしい奴隷に夢中になって今もベッドで腰振ってるんじゃねぇのとか。

 神殿内のバーで、あるいは神殿前の広場で、イシグロは酒の肴にされていた。

 

「俺、今日見ましたよ。迷宮狂いさん」

 

 と、ギルドのバーで飲んでいたとある冒険者が言った。

 その発言に、バーテン含む近くの冒険者が驚愕して発言の主に視線をやった。

 言葉の続きを促されたと思った冒険者は、グラスの中のハチミツ入りワインを飲み干すと、ついさっきあった事を思い出しながら言った。

 

「えーっと、見たというか出くわしたって感じなんですけど。西区の綺麗な防具屋あるじゃないですか。自分がそこで新しい兜探してる時にやってきて、なんか店主さんと揉めてました」

「揉めてたって、あのイシグロがか?」

「まあ、何て言ってたのかは覚えてないですけど、店主さん頭下げてましたよ」

 

 迷宮狂いといえば、やってる事はガチ狂人なくせに温厚で誠実な人柄でお馴染みである。

 誰であっても物腰は柔らかく、問題を起こしたなんてのは一度も聞いたことがない。異常なほど昇格が早かったのには、功績の他にもそういうところが評価されていたというのもあるのだ。

 そんなイシグロが防具屋の店主に頭を下げさせるなど、何でどうしてという気持ちである。

 

「にしても、あのイシグロが防具ねぇ? なんか事情があるのかと思ってたが、やっとまともなモン着ける気になったか」

「いえ、なんか連れてた淫魔の奴隷の装備選んでましたよ?」

「淫魔ぁ?」

 

 飛び出てきたビックリ情報に、これまたバーテン含む周囲の人らがビックリ仰天した。

 

「淫魔の奴隷たぁ……んなもん何でって話だがなぁ……?」

「ある意味、流石っすね。俺じゃ絶対無理っすわ」

「俺もちょっと無理だわ。度胸試しっつっていっちょ相手してみたがよ、ありゃおっかねぇよ。悪い思い出じゃねぇが、二度目はいいや」

「そうかな? 僕は好きだよ。慣れれば逆に良いものさ。まさか彼も僕と同類だったとはね」

「淫魔狂いがよぉ……」

 

 この世界の淫魔は古いタイプの女性からは牛乳拭いて一日放置した雑巾の如く嫌われているし、人間族含む多くの種族の男からは憧れ半分恐れ半分といった目で見られている。

 なにせ、エッチな事をすると生命を奪われるのだ。曰く淫魔の吸精は最高に気持ちいいが、同時に本能的な恐怖を感じるらしい。それなら素直に娼館で発散した方が冒険者の感覚的には健全である。

 それで言うと、例の高級奴隷店で買ったらしい淫魔の奴隷でアレコレするなんてコスパ悪いわレア過ぎるわ度胸あり過ぎるわで意味不明である。

 

「いえ……なんでしょう、そんな感じはなかったというか……」

「なんだよ。まぁそりゃ淫魔フェチってんならああも女に興味ねぇのは分かるがよ。知ってっか? アイツ牛人族の女からのお誘い断った事あるんだぜ?」

「そうではなく、その淫魔奴隷ってのが……こう、子供みたいだったんです」

「子供?」

 

 話を聞いてた冒険者たちの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 淫魔といえば、皆が皆ムチムチボインで男好きのする身体の持ち主と相場が決まっている。にも関わらず、子供とは?

 

「ガキの淫魔って事か? あぁそりゃ、高級店にしか売ってねぇだろうな」

「ほう、子供の淫魔ですか……大したものですね。僕も一度淫魔の子供を自分好みに育ててみたいものです」

「あ~、それならオレにも分かるわ。で、育ったところで美味しくいただくと」

「馬鹿、お前なんざ一晩で干し物よ」

「最低でも一ヵ月の禁欲は必須です。さもないと貴方、絞り殺されますよ?」

「げぇ! んなら普通に娼館行くわ!」

 

 そうして、イシグロ=子供淫魔を育てて後に美味しく頂きたい系変態という話に落ち着きかけたところで、件の冒険者はさらなる話の種を投下した。

 

「いえ、子供ではなく、子供みたいな淫魔だったんです。ちゃんと角が生えてましたから」

「……はぁ?」

「ふむ、小柄な淫魔という事ですか?」

「はい。子供みたいっていうのは背とか胸とかの事で、魔力量的にも十分成熟した淫魔でしたね。あれは多分、中淫魔なんじゃないでしょうか」

「は、はあ……?」

「小柄な中淫魔ですか。とても希少ですが、まぁいなくはないでしょう。吸精の機会にも恵まれないでしょうから、恐らく生まれつきの中淫魔でしょうね」

「お、寝取りか? イシグロとやり合う気か?」

「バカ言わないでください。最低でも僕は僕の頭が埋まる程の胸にしか興味ありませんよ」

 

 つまり、アレである。

 イシグロという男は、高い金払って貧相な淫魔の奴隷を買って、ついでに自分用じゃなく奴隷用の装備を買いに行ったと。

 かけた手間的に、迷宮で使い潰すって訳でもなさそうである。こうなると、イシグロ考察勢の冒険者たちは振り出しに戻ってしまった訳で。

 あいつ、ホンマなんやねんって話である。

 

 

 

 

 

 

 その翌日。

 

 迷宮狂いさんはひょっこり転移神殿に顔を出した。

 小さな淫魔奴隷を侍らせて。

 

「あれ、イシグロか?」

「でもイシグロがあんな強そうな装備着ける訳ないだろ」

「ほなイシグロちゃうか」

 

 が、悲しい哉、件のイシグロさんは見てくれに変化があり過ぎて顔見知りの冒険者から別人判定されてしまった。

 イシグロくん21歳日本人。弱そうな装備=イシグロという風に覚えられていた。

 

「にしても、あの奴隷の装備はなんだ? さっきから鼻がヒクヒクするくらいの魔力感じるが」

「あぁ、ありゃただの防具じゃねぇ。どう見ても一級品……それも銀細工持ち冒険者でも上位の奴が着る鎧だ。背中も空いてるし、それこそ魔族とか翼人用に作られた一点モノだぜ」

「てかあの奴隷は何だ? 魔族だよな、淫魔に見えるが……」

「いや淫魔があんなちんちくりんな訳ないだろ」

「ほな淫魔ちゃうか」

 

 むしろ、イシグロよりもその隣の矮躯の奴隷に注目が集まっていた。

 魔力に敏感な者は、その鎧に込められた膨大な魔術的加工に鼻がヒクヒク目がチカチカする思いだった。

 さっきちらりと見えた奴隷証からして、あの男の奴隷なんだろうが、あれは奴隷に着せるようなモンじゃない。というか、主人の方は上等といえば上等だが割と普通の革鎧を着ているので、着るべき鎧の質が逆である。

 

 そうして、件の二人組は受付おじさん――迷宮狂いの担当職員扱いを受けている――の元へ向かい、何やら申請をし始めた。

 かと思えば、サインの段になると隣にいた奴隷が筆を取ったではないか。奴隷に主人の名を書かせるなど、考えられない行為である。無礼とか失礼とかじゃなく、恥ずかしい事なのである。

 

 そして、二人組は鍛錬場の方へと歩き出した。

 ちょうどその時、件の恥ずかしい主人と目が合った。

 

「あ、迷宮狂い……」

 

 その男、イシグロであった。

 輝くばかりの銀細工。前と違って上等な革鎧。隣には噂にあった小さい淫魔奴隷。マジだった。マジでちんちくりん。あいつマジでガキみたいな淫魔の奴隷連れてやがった。

 主人が主人なら奴隷も奴隷だった。レアな冒険者とレアな淫魔が合わさり変人に見える。まさにイロモノコンビであった。

 

 件のイロモノコンビは鍛錬場の転移石板を操作し、姿を消した。

 相変わらず、無駄な事をしない。ていうかアイツが鍛錬場行くの初めて見た。

 

「マジだったな」

「あぁ……」

 

 彼を見ていた冒険者二人は、呆然と石碑を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 イシグロ連休事件の後、幾日の時が経った。

 

 その間、イシグロと淫魔奴隷の二人組は毎日鍛錬場を利用し、昼になるとご飯を食べに行ってまた鍛錬場に入り、夜が近づくと帰るというルーティンをこなしていた。

 最初は「迷宮狂いが迷宮に行かない!?」とビックリしていた職員&同業者たちも、毎日の鍛錬場利用には「熱心だなー」と思うようになっていた。

 それと同時に、あの淫魔奴隷には同情の目が向けられていた。

 

 頭のおかしい冒険者でも、一等頭のおかしい冒険者の奴隷で、恐らく性奴隷でなく戦闘奴隷として買われたのだろう。そうでないと小さい淫魔を買う理由に説明がつかないからだ。

 その上で、あの迷宮狂い――史上最短銀細工到達者――と共に毎日鍛錬場を利用しているのだ。あの中ではどんな地獄が再現されているのか分かったものではない。迷宮狂いに相応の、王国騎士団が裸足で逃げだす訓練をしている事だろう。

 

 しかし、いざ奴隷の様子を観察してみると、件の淫魔は朝に鍛錬場へ行く時はゲッソリ鬱っぽい表情をしているのに、鍛錬場を出てくる時は満面スマイルなのだ。まるで今しがた“美味しいもの”でも食べてきたかのように。

 一体、何がどうしてそうなってるのか、さっぱり分からなかった。当のイシグロはというと、妙に晴れやかな表情で鍛錬場をエンジョイしてるのでこれまた意味不明である。

 

「あいつ、やっぱ頭おかしいな」

「奴隷の淫魔かわいそう」

「けど、ああやって鍛錬場に通うのは、見習うべきなのかもな」

 

 冒険者三人は、目を合わせ、今日の予定を決めた。

 そろそろ、次の段階に進もう。

 

 その前に、ちゃんと鍛錬をした上でだ。

 

 

 

 それから、しばらく。

 

 お馴染みイシグロ&淫魔奴隷の二人組は、何食わぬ顔で転移石碑の前に行き、石板を操作した。

 行き先は石碑を見れば分かる。あれは、駆け出しを卒業した者しか挑戦を許されない高難度迷宮。

 

 通称、巨像迷宮。

 

 決して、駆け出し同然の淫魔奴隷を連れて行っていいような迷宮ではない。

 そこは、堅い渋い怖いの三拍子がそろった、冒険者に嫌われてる迷宮ランキング上位の迷宮なのだ。

 

 二人は一切逡巡する事なく、ヤバい鉄火場へとあっさり転移していった。




 感想投げてくれると喜びます。



 なんか意味深な過去の世界設定ですが、別にこの異世界、遠い未来の地球とか遥か昔の地球とか地球とは違う銀河の星とかではないです。
 ただの異世界です。異世界にただもクソもあるかという話ですが。当然、物理法則も違います。
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