【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 8歳と9歳と10歳の時と!

 12歳と13歳の時も、僕はずっと!

 待ってたッ!


スイート・メロリーズ

 王都に帰って二度目の朝、俺達は以前と同じ高級レストラン上階の宿部屋で朝食を摂っていた。

 この部屋にはしっかりした台所はないので、今食べているのは下階食堂の宅配ご飯だ。恐らく、料理としてのクオリティは食堂のが高いのだろうが、俺としてはイリハ飯の方が美味しいと思える。

 

「なんじゃ、この緑のベトベトしたやつは?」

「刻んだ薬草を混ぜ込んだチーズよ」

「パンに付けて食べると美味しいですよ」

「こうかの? ん~、鼻がツンとするのじゃ~」

「チーズはこれ……ん、淫魔王国産じゃあないッスね。なんつーか淡泊な味ッス」

 

 今現在、俺達は前と同じ場所に宿泊中だ。

 イリハの要望もあり自炊用の台所がある宿を探してみたのだが、そういったお宿はカタギの方が住まう中級宿が多いらしく、銀細工相応の高級宿では中々見つからなかったのである。

 あったとしても、そういうトコは同盟単位で貸し切っているパターンが多く、そうなるとワイ等のような一党は間に挟まる事ができなかった。例え出来たとしても、お隣に銀細工がいる生活は精神的にキツそうだが。

 

「新しい家も楽しみッスね」

「落ち着いたら漬物とかも作りたいのじゃ」

「リンジュのお漬物、また食べたいです」

「いい加減で買った本を並べましょう。書斎が欲しいわ」

 

 で、皆と話し合った結果、カムイバラの時と同様に借家を借りる事にしたのだ。

 不動産屋に行って良い感じの借家を探してもらい、紹介された屋敷に予約を入れておいた。借家予定の屋敷には質の高い台所に加え、自宅用の風呂もあった。周辺の治安も良く、まさに理想通りのお家だったのである。

 

 ただ、俺達が住むには特注のベッドが必須なので、必須なので、当日中に家具屋に行って特大ベッドをオーダーメイド注文しておいた。

 今はベッド待ちという状況。せっかくなので、素材から何から一番良いのを作ってもらう事にした。とても楽しみである。

 

「せっかくじゃし、こっちの料理も勉強したいのじゃよ。献立の種類は多い方がよかろぅ?」

「確か、王立図書館にレシピ集があったと思います。今度行きましょう」

「勉強熱心なのはいいけれど、ほどほどにね」

「ッス、詰めまくってちゃ続かねぇッス」

 

 ひとまず、そういう事になった。

 一昨日は帰還、昨日は借家探し、そして今日は武器の受け取りと、願わくば別の買い物をしようと思う。

 

「皆、今日はドワルフの店に行こうか」

「どわるふ?」

 

 ドワルフの店。武器工匠のアダムス。要するに、オーダーメイド武器の専門店だ。

 懇意にしてる店主への帰還報告もそうだが、リンジュ出発前に注文してた武器を受け取る為でもある。

 

「ここも久しぶりッスねー」

 

 そんな訳で、朝食を食べ終えた俺達は例の店がある転移神殿エリアへと足を進めた。

 少し歩いた現着。転移神殿エリアの隅、建物と建物の間にひっそり門を構えるそこは、やっぱりちょっと怪しい雰囲気が漂っていた。

 

「お邪魔しまーす」

 

 ドアを開けると、奥の方から「あいよー」という店主の声が聞こえてきた。

 相変わらず雑多な印象の店である。店内は古い木の匂いに満ちていて、紙やら本やらでごちゃごちゃしていた。

 

「おっ! 旦那じゃないですかい! ここはお帰りと言っておきやしょうかねぇ!」

「どうも、お久しぶりです」

 

 武器工匠のアダムスさん。武器全般の専門家で、俺の手持ち武器の多くを設計してくれた人だ。

 イケメンイケボイケエルフ。けれども仕草はパブリックイメージドワーフ職人という、ドワーフみたいな森人。俺はこの人を内心ドワルフと呼んでいる。

 

「へへへ、カムイバラはどうでした?」

「大変良かったです。向こうでは縁あって道場に通う事になって、色んな武器の扱い方を教えて頂きました」

「そいつぁ結構。あ、そちらのお嬢さん方も、どうぞお座りくだせぇ」

 

 見ると、店の端には真新しい小さな椅子があった。サイズ的にロリショタ用だ。

 これまで立ちっぱだった彼女達へのドワルフなりの気遣いだろう。とても有難い。ルクスリリア達はちょこんと件の椅子に座った。

 

「どうぞ、こちらリンジュ土産になります」

「ん? ほうっ! こいつぁ……!」

 

 挨拶もそこそこに、俺はまずリンジュ土産を渡す事にした。渡したのは飾り気のない木刀だが、これは鍛錬用ではない迷宮用武器である。

 この木刀はリンジュの特殊な木工技術で作られた物らしく、刀という武器種にして攻撃属性が打撃であるという変わりものだ。

 つまり、これを使えば刀モーションで打撃攻撃ができるという事。強そうだが、この木刀はまだ技術試験的な意味合いが強く、どれだけ頑張っても中位以上の迷宮には持っていけない程度の代物である。今後に期待のリンジュ最先端技術だ。

 

「へへへ、こいつは有難ぇ! 見てみてぇとは思ってたが、なるほど実物ぁこうなってんのかい!」

 

 同じ武器好きとして土産に選んでみたのだが、喜んでくれて何よりである。

 しばらく木刀を眺めた後、仕事モードに移ったドワルフは我が一党の新顔であるイリハを見た。いや、イリハというよりその腰にある派手な刀を見ていた。

 

「新入りさんは深域武装持ちか。ってなると、武器の注文って訳でもねぇのかい?」

「それは後で。今日は注文していた物を受け取りに来ました」

「あぁそうだったそうだった! ちょっと待ってな!」

 

 合点がいったとばかりに頷いたドワルフは、店の奥に引っ込んでいった。

 暫し後、特大ピザが入ってそうな箱と布グルグル巻きの棒の二つを持ってきた。

 

「へへっ、ご注文のブツでさぁ!」

「ありがとうございます」

 

 卓上に置かれた二つのうち、まず最初にピザ箱を開けた。中には、くすんだ鏡のような表面をした盾が入っていた。

 これは以前から注文していた中盾であり、SEKIRO戦法が厳しい状況でタンクをする為の騎士用カイトシールドである。

 この盾は物理受けより魔法・属性受けを重視していて、味方の守護という設計思想で作られている。また、例によって希少金属を使っているので、純粋にクオリティが高い。中盾にして平均大盾並みの防御力があると言えば分かり易いか。

 さっそく手に取ってみる。重すぎず軽すぎず、いい感じだ。これで騎士系のジョブを上げていけるな。タンク人口の少ない異世界だが、ナイトがいない一党に未来はにいのだ。知らんけど。

 

「エリーゼ、これ持ってみて」

「ええ、悪くないわ。早く使いたいわね……」

 

 もう一つはエリーゼ用の新しい杖である。

 ぐるぐる巻きの布を解いたエリーゼは、うっとりと杖を撫でていた。なんだよ嬉しそうじゃねぇかよ。エリーゼの杖代、プライスレス。

 

「あと、整備の方もお願いします」

「あいよー」

 

 言いつつ。俺は橘と湊とデッカい弓。あとエリーゼの王笏とぶちぬき丸を提出した。

 これらは全部この店で注文したオダメ武器である。そのどれにも自動修復の補助効果が付いているので必須ではないのだが、迷宮での使用に際しては定期的なメンテが望ましいのだという。曰く、術式の綻びとかをチェックして、解れてたら直してくれるらしい。無銘預けるのは橘が戻ってからだな。

 

「これぁ随分と使いこまれましたなぁ。向こうでも迷宮探索を?」

「はい」

 

 しばし、ドワルフとカムイバラトーク。そのうち話題は今俺が一番欲している空飛ぶチャリオットに移行していった。

 彼に依頼をする訳ではないが、ツテがあれば繋げてほしいと思っての事だ。空戦車なるものは現在は廃れているらしいし、いるかどうかも分からない。一から探すよりは近道だろう。

 

「ほう、空戦車をですかい」

 

 ツテはないかと訊いてみると、ドワルフは頭をガリガリして唸った。

 彼は武器専門なので門外漢なのは承知の上だが、やはり戦車職人へのツテは無かったか。

 

「いや無ぇワケじゃねぇよ? けど、アイツぁ生きてっかな~ってな具合でよ……」

「というと?」

 

 どうやら、知り合いはいるらしいが、その人とは長い間会ってなくて生きてるかどうか分からないというのだ。

 

「旦那ぁ、空戦車については?」

「第一次魔王戦争の時に使用されたと伺っております」

「そう、造られてたのぁ今から二千年前なんでぇ。そっから一気に廃れちまって、今じゃ王家か貴族しか持ってねぇや。しかも戦場じゃあ……」

 

 いつもの知識確認に答えると、ドワルフはこの世界の空中戦車について説明してくれた。

 ドワルフ曰く、空飛ぶチャリオットは軍主導で大々的に造られたはいいものの、大した戦果を挙げられなかったようである。

 戦車で飛ぶくらいなら、飛行可能な召喚獣に乗ればいいじゃんという話で、そうでなくとも空を飛べる魔術師を育成する方が安上がり。御者と射手あるいは魔術師のツーマンセルより、二人組の魔術師のが強いらしいのだ。

 

「で、空戦車自体が廃れちまって、今生きてる当時の戦車工匠は今は馬車とか作ってますわ。そもそも、造るにはガチ専門の知識が必要だってんで、んな役立たずの金食い虫ぁ上も下も造りたくねぇんだよ。移動に使ってるお貴族だって、戦場だと普通に馬乗ってるしな」

「なるほど……」

 

 で、ドワルフの知り合いである戦車工匠さんも、今は馬車職人をやってるらしい。

 件の彼は同じ森人系だそうで、第一次魔王戦争の時はバリバリに戦車製造にハマッていたと……。

 

「あっしが知ってる戦車工匠はソイツだけですわ。一応、居場所とか書いときますんで、訪ねてみては如何でしょう?」

「ありがとうございます」

 

 ドワルフに紹介状を書いてもらい、諸々の用件を終えた俺達は店を出た。

 

「やっぱ廃れてたんスねー」

「普通に考えて、有翼魔族より遅い空戦車が空中戦で勝てる道理がないものね。硬いのはそうでしょうけれど、それなら地上の射手に墜とされるでしょうし……」

「一応、対地奇襲には強かったらしいですね。それ以外にマトモな戦果は無かったようですが」

「強い戦士を御者にするのも勿体ないからのぅ」

「だな。えーと、何処かな~っと……」

 

 話しつつ、教えてもらった住所を確認する。場所は前に行った鍛冶区の外れだった。

 今日はまだ時間あるな。生存確認だけでもしに行こう。

 

「じゃ、行ってみよう」

「あいッス」

 

 しばらく歩き、いくつか通りを越えていくと、周囲の建物から鉄と硝煙の匂いが香ってきた。カンカンと鉄を打つ音に混じり、職人が弟子を叱責する声も聞こえてくる。

 人混みをかき分けかき分け、目的地に向かって歩く。冒険者の姿もチラホラあり、そんなに治安の良い印象は感じられない。

 

「おうてめぇ、ジャンプしてみろやジャンプ!」

「はいぃぃ!」

「なんだ、あんじゃねぇかよ。最初から出せや」

「そ、それだけは勘弁してくださいよ! オレぁもう二日もマトモな飯食ってねぇんだ! やってられっか!」

「返済が優先だろうが! このクズエルフ!」

「んぎゃああああ! 耳引っ張らないでぇええええ!」

 

 一歩往く度どんどん治安が悪くなり、少し遠くでは借金取りと思しきスキンヘッドが痩せた夜森人(ダークエルフ)を恫喝していた。

 あの夜森人(ダークエルフ)がロリだったら助けたが、野郎だったので無視した。あんなのラリスの日常茶飯事である。いちいち気にしてたら王都じゃ生きてけない。先行こ先。

 

「よ、読めねぇ……」

「一応、工匠の印はあるけれど……」

「がっつりハゲてるッス! 塗装すかすか! 情けない看板ッス!」

 

 教えてもらった住所に着くと、そこには年季の入った小屋が建っていた。

 扉の上にある看板は塗装が剥げていて、ここが何かの工匠店である事しか分からなかった。

 住所を再確認しても間違いはなかった。恐る恐るドアノッカーを使ってみるが、反応がない。生きてるかどうか分からんって言ってたし、死んでるとか? いや、留守だと思っとこう。

 

「不在でしょうか?」

「死んだんじゃないの……?」

「滅多なことを言うでないわ」

「はえ? あんた等、お客さん?」

 

 横方向からの声。見ると、声の主は痩せぎすの森人男性だった。

 細身でスラッとしてる森人系にしたって、ちょっと心配になるくらい痩せている。ドワルフが細マッチョなのに対し、目の前の夜森人は純粋なガリガリだった。否、ただのガリじゃねぇ、ド級のガリガリ。ドガリガリだ。

 また、彼の頭には真新しいタンコブが付いていた。これではせっかくのイケメンが台無しである。

 

「ええ。はい。武器工匠のアダムスさんからの紹介で」

「アダ……!?」

 

 返答すると、ガリガリダークエルフ氏は目を見開いて顔いっぱいに驚愕の表情を浮かび上がらせた。

 やがて彼はピシッと表情筋を引き締めて、営業用と思しき笑顔になった。

 

「ようこそお客さん! ささ、入って入って! ちょっと変な匂いするけど入って入ってー!」

 

 すると、ガリガリダークエルフ略して仮称ガリダフ氏は俺達を目の前のボロ小屋へと誘った。

 いざいざ入った店の中は実に殺風景で、これまたドワルフの店とは対照的だ。机に椅子に道具箱ひとつ。まるでマインクラフトのトーフハウスである。

 

「いやぁこのご時世に個人依頼なんて嬉しいねぇ! へへっ、このオレに設計頼むたぁお目が高い! 欲しいのは馬車かい? 鳥車かい? うちはどんな車でも大丈夫だぜ! あ、その前にちょっと紹介状見せてもらっていい?」

「あ、はい。どうぞ」

 

 ドワルフからの紹介状を渡すと、彼は真剣な面持ちになって読み始めた。

 

「なんか怪しくないッスか……?」

「危険そうではありませんが……」

 

 手紙を読むにつれ、ガリダフは徐々に顔色を悪くしていった。

 やがてうなだれるように俯くと、絞り出すようにして声を発した。

 

「すまねぇ……! 今ぁ、空戦車は造れねぇんだ……!」

 

 その言葉には単なる拒絶の意ではなく、悔恨の念をはじめとした複雑な感情が混じっているように感じられた。

 造りたいけど、造れないのだというニュアンス。血を吐くような彼の声音は尋常ではなかった。

 

「それは、何故ですか?」

「素材が手に入らねぇ……! 輝銀魔石(シルウィタイト)って言ってな、アレは石商連に相当なコネがねぇと寄越しちゃあくれねぇんだ……! チクショーチクショー! 輝銀魔石さえ、輝銀魔石さえ手元に在れば……!」

「あ、持ってます」

「……はぇ?」

 

 件の輝銀魔石を出す。見てくれはデカいパチンコ玉である。出したのは一個だが、銀行にはまだまだ在庫がある。

 どうやら空飛ぶ戦車にはコレが必要らしいが、仮に足りなかったとしてもまた迷宮に取りに行けばいいだけの話である。

 

「ほ、本物……?」

 

 机に置かれたパチ玉を、ガリダフは恐る恐る突っついた。

 

「うわごべっ!?」

 

 次の瞬間、驚愕した拍子に後方バックステップした彼は壁に後頭部を打っていた。

 

「ま、マジかこれ! すっげー! 最高品質じゃねぇの! こんな上物、魔王戦争ん時以来だぜぇ!」

 

 痛みを気にしてないのか、ガリダフは第二のたんこぶを気にする事なく詰め寄って来た。

 

「一応、ギルドからの証明書はありますが……」

「おいおい、アンタぁ並みの銀細工じゃねぇな? 何者だい?」

「あ、申し遅れました」

 

 そういえば、まだ名乗っていなかった。古事記にも書かれている大事な儀式を忘れては、スゴイ・シツレイの烙印を押されてしまう。

 俺はカード型冒険者証を手に取り、名刺のようにして差し出した。

 

「私、イシグロ・リキタカと申します」

「イシグロ? イシグロ、イシグロ……!?」

 

 ガリダフは冒険者証と俺の銀細工を交互に見た。

 それから手紙を見た。そこにはドワルフらしい簡素な文字列しか並んでいなかった。

 次に俺の後ろにいるルクスリリア達を見た。奴隷証を見て、装備を見て、最後にイリハが佩いている深域武装に目をやった。

 

「つぁッ……!?」

「はい」

「つゥ! 造らせてくれーッ!」

 

 次の瞬間、ガリダフはその場で垂直跳躍すると、リンジュ式土下座を敢行した。

 どがん! 冷たい石床に夜森人の額がぶち当たる。たんこぶ三つ目だ。

 

「頼む、お願いだ! 空戦車なんて何年も造ってねぇが、造るんに要る知識は全部頭に入ってる! やる気はある! 嘘じゃねぇ! 戦車なんて、これから一生一度だって造れるか分からねぇ! 死ぬ前にもう一回! オレに戦車ぁ造らせてくれ! 頼むッ!」

「えっ、ちょ……!?」

 

 そのへん鈍い俺でも、彼が本気な事くらいは分かる。戦車製造に関して、彼には並々ならぬ情熱があるに違いない。

 仮にも工匠という国家資格を持つ男だ。やりたい事はハッキリしてて、やれる腕もある。けれど時代と需要が合わなかったのだ。俺が軽い気持ちで依頼しようとした戦車の製造依頼は、彼にとっては千載一遇のチャンスだったのだろう。

 慌てて立ち上がるも、俺としてはどうすればいいか分からない。とりあえず頭を上げさせようとしても、彼はグリグリと床に額を擦り付け続けていた。

 

「頼む! オレに借金を返させてくれ!」

「ん?」

 

 なんか、流れ変わったな。

 情熱があるのは確かなんだろうが、そこに別の事情も混じってきたぞ。それも切実な……。

 

「この前カジノでやらかしちまって! とにかく金が無ぇんだ! つい先月工場長と喧嘩して仕事もクビになっちまってよ! このままじゃあ、何時まで経っても返済しきれねぇ! 酒呑みてぇ煙草吸いてぇ中級……いや激安店でいいから娼館でイキてぇ! ちまちました荷車の組み立てじゃなくて、ドカンとでっけぇ空戦車を造りてぇんだ!」

「えぇ……?」

 

 いや、あの、うん……。

 大丈夫だろうか?

 

「オレぁ工匠業がやりてぇんだよぉーッ!」

 

 ……大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

 戦車工匠とは、その名の通り空戦車及び車全般の工匠の事だ。

 で、ドワルフみたいな工匠というのは、注文された物品を設計したり作成工程を監督したりする管理職である。

 当然、仕事にまつわる知識は膨大で、才能あるひと握りの傑物だけが工匠の称号を授かるのだ。

 

「で、オレがその数少ない戦車工匠の生き残りってワケよ」

 

 自慢げにそう言って、ガリダフこと戦車工匠・ケイン氏は胃に優しい異世界七草粥をかっ込んだ。

 筋肉質な人が多い異世界人の中で、ガリダフはガチで心配になるくらい痩せている。なので、仕事云々の前に栄養を付けてもらおうとお粥屋さんからテイクアウトして食べてもらっているのだ。

 ついでに俺達もお粥を食べた。転移直後、この粥にはお世話になったものである。俺とエリーゼは同じ七草粥っぽいやつで、他の皆は肉入りの麦粥を食べていた。

 

「んあぁ~! 食った食った! マジでクソ久々に満腹になったぜぇ! ありがとよイシグロさん!」

「いえ、それはいいんですが……」

「あぁ、仕事だけじゃなく食いモンまで恵んでくだすったんだ! 最高の仕事をしようじゃないの! そんじゃ工匠らしく、まずどんな車が欲しいか訊こうかねぇ! 確か、空戦車が欲しいって話だったよな?」

「ええ」

 

 促されるまま、俺は空戦車というファンタジック・チャリオットの要望を話した。

 まず戦闘は意識していない事。空を飛ぶ召喚獣に牽引してもらおうと思ってる事。できれば乗り心地の良いやつが良い事などなど……。

 そも、空戦車なるものがどういう物でどういう風に空を飛ぶのか分からないのだ。本職からのお話を伺いたいところである。

 

「……という感じです」

「なるほどなぁ。じゃあ、とりあえずその召喚獣ってのを見せてくれねぇか? そうじゃねぇと始まらねぇ」

 

 と言うので、ガリダフについていき、開けた場所でラザニアを召喚する。ギルドからの許可は貰ってるので、問題はないはずだ。

 そうして呼び出された翼有るヘラジカを見て、ガリダフは感嘆の声を上げた。

 

「ひゃー、こいつぁ立派な召喚獣様だ。如何にも空戦車向きでいらっしゃる……」

 

 陶然とぼやくガリダフの言葉を理解したのかしてないのか、ラザニアは気持ち誇らしそうに鼻息を吹いていた。

 

「車に乗るのは五人か?」

「今のところ。ですが、ある程度の余裕は欲しいですね」

「あいあい。んじゃあ、御者含めて七人乗りでいいだろう。そうなると二輪はキツいな。やっぱ四輪か……」

 

 顎に手を添え、ぶつぶつと呟くガリダフ。そういう仕草はドワルフにそっくりである。

 

「おっと、その前にこいつの力ぁ見せてもらっていいか? それで結構変わってくるんだ」

「力ですか?」

「ああ。こういう召喚獣は自分だけじゃなくて廻りのモンも魔力で浮かせちまえるんだよ。翼で飛んでる訳じゃねぇんだな」

「なるほど」

 

 それからしばらく、ラザニアの馬力チェックをした。

 ルクスリリアの指示で近くの石を浮かせたり、俺等全員を浮遊させたり、壊れた馬車を動かしたり。存外ラザニアはパワフル且つ繊細な制御ができるようで、自分の周りにある物を自在に浮かせる事ができていた。

 また、浮かせた物は周囲に風バリア的なやつを纏うようで、ラザニアパワーで浮いたガリダフは風使いみたいになっていた。

 

「なるほど、なるほど。はっはぁ! こいつぁ逸材だぜ……!」

 

 測り終えたらばラザニアは鎌に戻ってもらって、俺達はガリダフのボロ工房に帰還した。

 工房に帰るなり、ガリダフはボロ紙に筆を走らせ、ほとんど一筆書きの勢いで戦車のラフを描いてみせた。

 

「こんな感じ?」

「いいですね」

 

 描かれていたのは、ホイールの付いたジェットコースターの車体といった感じの戦車だった。

 先端に御者用の座席があり、その後ろに前部後部で分かれた六人乗りの席がある。座席の大きさはロリサイズなので、俺が座ると二人用席を三分の二ほど使ってしまいそうだ。詰めたらいけるか? って感じ。

 

「へえ、いいじゃないッスか」

「これならゆったりできそうですね」

「悪くはないと思うけれど、恰好良くはないわね……」

「それ要るかのぅ?」

「要るわ」

「まぁその辺は外付けで何とか。これでお願いします、ガリ……ケインさん」

「じゃ! これを元に明後日までに計画詰めとくんで! また来てくれよな!」

「早いですね」

「そりゃもう! 今すぐ欲しいからな! 金ェ!」

 

 彼個人の信用の問題で、通常全額前払いのところ料金は分割という事になっている。

 プロジェクトメンバーが集まり次第、再度設計し直すらしい。そういうのいいね、情熱を感じる。

 何にせよ、完成が楽しみである。

 

 

 

 翌々日……。

 

「もうダメだぁ、おしまいだぁ……!」

 

 工房に行ってみると、ガリダフは絶望した顔でうなだれていた。

 気持ち一昨日よりやつれているまである。目元には深い隈が刻まれており、その双眸に生気がない。

 

「何があったんですか?」

「部品職人が誰も手伝ってくれなかったんだ……!」

「えぇ……?」

 

 曰く、知り合いの職人に空戦車製造の仕事を振ったところ、誰一人としてガリダフを信用せず、チーム入りしてくれなかったという。

 それというのも、最近――長寿種族基準――の彼はかなり落ちぶれていて、馬車製造の職場でもやらかしまくって界隈での信用を失っているのだとか。自業自得なのは確かだが、同情できなくもなくはない。

 その点、如何にも映画の中盤で死にそうな商人キャラみたいなドワルフは職人達から信頼されてたんだなぁと。

 

「鍛冶師が居ねぇと輝銀魔石を加工できねぇ! 車輪職人が居ねぇと道を走れねぇ! 木工職人が居ねぇと車体を作れねぇ……! あー、もうオレの戦車道はおしまいだ! 不甲斐ない男と笑いなさい……!」

「素材はあるんです。そう言わないで下さい。あと止めるなら輝銀魔石返してください」

「ご勘弁をぉぉぉぉ!」

 

 そうは言うが、この現状をどうしようというのだろうか。

 

「もうラザニアの鞍を大きくする感じでいいんじゃないでしょうか」

「えー、でもやっぱ狭くないッスか?」

「私は空戦車に乗りたいわ」

「わしも、できればもっとゆったり乗りたいのぅ」

「つってもなぁ……」

 

 設計図通りの車なら、そりゃ俺も乗りたいさ。

 が、当の設計チームがコレではどうしようもないだろう。彼以外に民間の戦車工匠は居ないらしいし、う~ん。

 

「嗚呼! 救いはないのかよぉ……!」

 

 ガリダフの慟哭に、工房を諦めムードが覆った。

 その時である。

 

「へっへっへっ! どうせこうなるだろうと思ってたぜぇ!」

 

 バァン! ボロい扉を押し開け、輝くばかりのイケメンが現れた。

 逆光を背に立つ姿はあまりにも神々しい。何を隠そう、界隈にその人ありと謳われているらしい武器工匠・アダムス氏の参上である。

 

「お、オメェは、アダムス……!」

 

 呆気に取られる俺達を置いて、彼はキラリと眩しいイケメンスマイルを浮かべてみせた。

 

「へっ、生憎(あいにく)あっしぁ武器が専門。戦車の事ぁな~んも知らねぇ。が、旦那の車とありゃあモノホンじゃねぇといけねぇや。だからよォ……!」

 

 ドワルフがサッと横に退くと、見覚えのある一人とプラス新顔二人がエントリーしてきた。

 

「ドワーフ三銃士を連れてきたぜ!」

「「ドワーフ三銃士?」」

 

 驚くルクスリリアとイリハを置いて、武器工匠のアダムスは連れてきた男達を紹介し始めた。

 

「車輪の専門家、ネイス」

「うっす、よろしく」

「鍛冶の専門家、インヴァ」

「がんばります、よろしく」

「木工・馬具などの専門家、コトー」

「よっす、どうも」

 

 連れて来られたドワーフは、皆似たような顔と体格をしていた。そのうちインヴァさんは顔見知りである。グーラのぶちぬき丸を作ってくれた人だ。

 アダムスさんの招集に応じたという事は、三銃士は空戦車の製造を手伝ってくれるという事だろうか。これなら、何とかなるんじゃないか?

 

「とりあえず集まったのはこれくらいだが、俺がひと声かけりゃあ他部門のトップが来てくれるはずだぜ」

「おぉ! おぉ……! ありがてぇ! 流石アダムスだ!」

「礼なら旦那に言いな。あっしぁただ、現代に蘇る古の空戦車を見てぇだけなんだからよ……」

「ああ! ありがとうイシグロさん!」

「はあ」

「早速ですが、設計図をお見せ頂けませんか?」

「ああ、これだ」

 

 挨拶もそこそこに、職人たちは客そっちのけで狭いテーブルを囲み設計会議を開始した。

 ああでもないこうでもないと、設計図を眺める技術者は各々の見地から意見を交わしていた。

 皆、目がキラキラしている。武器専門のアダムスさんも混じって楽しそうである。

 

「どうせなら最高の空戦車にしましょう! 現代の技術で、過去の汚名を雪ぐんです! 戦車革命ですよ!」

 

 という三銃士のうちの誰かが言った台詞に、チーム全体は異様な盛り上がりを見せた。

 

「車体のフレームには金剛鉄(アダマンタイト)を主とした合金を使用しましょう。うちの技術なら、軽さと丈夫さを両立させる事が可能です」

「お? なら車輪にも使わせてもらっていいですか? 金剛鉄車輪、そそるぜこれは……!」

「手綱にも魔力伝導率の高い素材を使いましょう。各部をリンジュ産の木材で補強して……」

 

 会議が進むにつれ、職人達のキラキラお目々は妖しく淀んだ変態技術者の目に変貌していった。

 なんか、前とは別の意味で大丈夫か? ってなった。

 

「あの、すみません。帰ってもいいですか?」

「へへへ! 明日までにゃあ詰めとくんで! また来てくだせぇ!」

 

 ドワルフまで興奮している。その目には深い情念が宿っていた。

 こんな所に皆をいさせられない。俺達は帰らせてもらった。

 

「てか、別に戦う訳じゃねぇんスから、空戦車じゃなくて空荷車ッスよね」

「空飛ぶ荷車……」

「移動用でも、勇壮さは必要よ」

「それ要りますか?」

「要るわ」

「わしは乗り心地が良ければ何でもいいがのぅ」

 

 そんな感じで、去ったのだが……。

 

「なぁにこれぇ……?」

「いやぁ、年甲斐もなくはしゃいじゃってよぉ」

 

 翌日、見せられた設計図には、それはもうゴージャスな戦車が描かれていた。

 それはチャリオットと言うにはあまりに大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして厳つ過ぎた。それはまさに、タンクの方の戦車だった。

 

「なんスか、この装甲? これじゃ重すぎて魔物から逃げられないッスよ」

「しかし、戦いを想定しないにしても強度は大切です。不意打ち対策の多層装甲も……」

「四角いわね。これは勇壮ではあっても優美ではないわ……」

「その分、装飾には凝ってまして……」

「車輪が八輪になっていますね」

「大きな四輪ではなく、小さな八輪の方が良いかと思い……」

「これ、御者はどうやって前を見るんじゃ?」

「覗き窓を用意してますので。ここから見てもらえれば……。死角に関しては、後部座席の方が上から首を出してですね……」

「てか、搭乗口が上って……」

「強度を考えるとこうなったんです」

 

 流石にこれは失敗だと思ったのか、徹夜明けっぽい職人達はバツの悪そうな表情になっていた。

 

「なんというか、まとまりがないですね」

 

 という、的を射たグーラの素人発言により、この場の技術者はノックアウトされた。

 一番張り切っていたガリダフも、連日の徹夜で半分アンデッド化している。

 

「まぁ確かに、あっし等も好き勝手言い過ぎた感ありますわな。あっしなんか門外漢なのに、アレ付けろコレ付けろってよ……へへっ、申し訳ねぇ」

「やっぱ、リーダーのガリダフさんが決めちゃった方がいいんじゃないですか?」

 

 ドワルフに続いた俺の発言に、一同の視線は唯一の戦車専門家であるガリダフへと注がれた。

 冷静になった三銃士も。言外に「そうだそうだ」と言っている。

 

「お、オレが一人で設計しちゃっていいのか……?」

「そりゃ、オメェさんは戦車工匠だからな。最初からそうすりゃよかったんだ……」

「そ、そうか。なら……」

 

 呟き、ガリダフは完全にハイになった目のまま立ち上がった。

 それから机の上に置かれた残骸を退かし、新しい紙に新しい設計図を描いていく。

 

「過剰な装甲は要らねぇ。重要なのは前後だ。車体強度は金剛鉄合金で固めて、外部への守りはリンジュ式結界術を施して何とかしよう。無けりゃラリス式でもいい。アダムス」

「アテはあるぜ。どっちもな」

「なら結界でいこう。全体は別の合金にして、リンジュの木材で挟むんだ。外側は錬金術師に頼んで魔防塗料を塗ろう。どうせ消耗するんだ、車検の都度塗り直せばいい」

「車輪はどうする?」

「初期設計通り、四輪だ。戦場で走る訳じゃねぇんだから、小回りに拘る必要はねぇ。あの召喚獣なら速度で何とかなると思うしな。それから……」

 

 そのまま、ガリダフを中心とした設計会議は進んでいった。

 一度方針が決まると速いもので、戦車工匠主導の設計には皆が納得しているようだった。

 

「できた! こんな感じでどうだ?」

「いいですね。エリーゼさん、チェックを」

「いいんじゃないかしら」

「では、これでお願いします」

 

 そうして出来上がったのは、戦車と荷車の合の子のような、それでいて兵器としての造形美を併せ持つナイスデザイン・チャリオットだった。

 何というか、レベルカンストしたサンタが乗ってそうな感じ。ソリじゃあないが。

 

「よっしゃ! 細かい仕様は追って伝える! 一旦解散して、寝よう!」

 

 リーダーの解散宣言に、三銃士は半分ゾンビみたいになりつつ、笑顔を浮かべながら去って行った。

 

「すいやせんねぇ。下らねぇモン見せちまって。じゃ、あっしもこれで。ふわぁ~、徹夜なんていつぶりだか……」

 

 言って、ドワルフも帰って行った。彼も彼で、専門分野じゃないモノにあそこまで熱中できるあたり、それはそれで凄いと思う。

 

「イシグロさん、オレぁアンタの為に、アンタに相応しい最高の空戦車ぁ仕上げてみせるぜ! それまで待っててくれ! 後悔はさせねぇ!」

「はい」

 

 という感じで、俺達もガリガリダークエルフの店を後にした。

 本来もっと時間かけるだろう設計をスラスラやっちゃうあたり、やっぱり彼は凄腕の戦車工匠だったんだろう。

 これまでの迷走を虚無期間とは言うまい。良いもん見させてもらったと思っておこう。

 それは、それとして……。

 

「空戦車って、高いんだな……」

「素材持ち込みで六億ッスもんねー」

「私よりは安いのね」

「プライスレス」

「しかも王家専用車はもっと高いって仰ってましたよね……」

「上の人と比べたらキリがないのじゃ」

 

 そう、空飛ぶチャリオットは値段がバカほど高かった。

 俺用口座に加えて、一党用口座からもかなりの金がぶっ飛んだよね。

 それでもすっからかんになってないあたり、やっぱこの世界の冒険者家業はアホほど儲かるって話だが……。

 

「迷宮行くかぁ」

「ッスね~」

 

 特注ベッドは未完成だし、引っ越しもまだ遠そうだ。

 エリーゼ用の新しい杖も欲しいし、それとは別に俺用武器も欲しい。

 

 ちょっくら、迷宮潜るか。

 エリーゼの新杖と、俺の新盾も使いたいしな。

 

「よし、今から鍛錬場だ」

 

 勿論、トレーニングしてからだ。

 準備運動は大事。多分、古事記にも書かれている。




 クリスマスプレゼントだろ!
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