【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で継続できております。
 誤字報告もマジ感謝です。ありがと茄子!
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、エリーゼの新杖は氷属性特化になりました。
 ていうか、風とか聖とかそういうの忘れてましたね。

 てなわけでダンジョン回です。
 よろしくお願いします。


龍の血 ロリの心

 俺が性癖を自覚したのは、小学校高学年くらいの頃だったと思う。

 当然だが、ロリコン化する前の俺は至って普通の男子小学生だった。

 人並みにケイドロが好きで、人並みに夏休みをダラけて過ごし、人並みに宿題が嫌い。畢竟、男子児童が好きな物は大体好きだったのである。

 

 前世、友人から一番好きなドラえもんの映画は? と訊かれた時、俺は少し迷ってから「のび太の恐竜」と答えた。

 ロボット兵団も好きだったが、やっぱりあの恐竜全盛期の雰囲気が子供心にグッときたのである。

 ブロントサウルスのサイズ感に圧倒され、ティラノの活躍に胸を熱くし、ピー助とお別れするシーンでは感動して涙を流したものである。

 

 ともかく、俺はロリコン的感性とは別腹で、オタクでもマニアでもない程度には恐竜というものが好きだった。

 子供の頃好きだったものは、何だかんだ大人になってからも好きなもんで。

 特に詳しい訳でもないが、恐竜には思い入れがあるのだ。

 

 まぁ、それはそれとしてドラゴンがカーニバルしてる系の狩猟ゲーも好きなんだが。

 アンジャナフ、いいよね。初見の時は感動したよ。リオレウスとかマジでナイスデザインだと思う。てかモンハンのモンスターは全般的に好き。

 ただしウケツケ・ジョー、テメーはダメだ。

 

 

 

 猛龍迷宮。

 そこは、オープンワールド風の屋外エリアと、森林ダンジョン的な屋内エリアの二つに分かれている複合型の中位迷宮だ。

 

 スタート地点は屋外固定。見渡す限り草原という景観は、禍々しいのが多い異世界迷宮の中では抜群に目に優しい。

 しかし、長閑な印象の草原にはパッと見恐竜にしか見えない大きな魔物が群れを成してそこら中をウロウロしており、彼等は本来あるべき縄張り争いなどせず血眼になって侵入者を捜索していた。

 美しい自然に、不自然な程の人類への殺意。ボヤボヤしてると、後ろからパックリだ。

 

 恐竜の群れ。そう、この迷宮のエネミーはボス含めて恐竜系で固定されている。

 俺からするとステゴとかトリケラとかに見えるこいつらだが、異世界魔物学的には“魔龍”というポジションに当たるらしい。

 魔龍系の弱点は種類により様々で、魔法に弱いやつとか雷に弱いやつとかもいれば、物理への絶対耐性とか刺突への反射を持ってるやつなんかもいる。

 ただ、共通して龍特攻的な補助効果には弱いらしく。龍殺しの魔剣を持ってイセカイサウルスを狩る専門冒険者なんかもいるんだとか。

 あと、全体的に氷属性に弱い傾向がある。しかしあくまで傾向であって、皆が皆コチコチになる訳ではない。

 

 ちなみに、エリーゼ曰く魔龍系は“ドラゴン”ではなく“大きなトカゲ”らしい。

 竜と龍。同族意識はないようで、むしろ竜族と魔龍をゴッチャにされるのは嫌であるようだ。

 そのくせ、異世界恐竜にワクワクする俺を見たエリーゼは、軽く嫉妬してカマチョなどしてくるのだが。

 

 で、そんな異世界恐竜こと魔龍はというと……。

 

凍えろ(・・・)……」

「「「ピイィィィィ!」」」

 

 白銀の竜が杖を突く。すると、まるで霜の長絨毯を広げるように極寒の冷気が大地を舐め、軌道上の悉くを氷漬けにしていった。

 氷の絨毯を踏んだフタバスズキリュウモドキ達は、断末魔の悲鳴を残して氷像へと変じた。もう助からないゾ。

 

 これは氷属性に付属する“凍結”というもので、凍結ゲージが最大まで蓄積すると耐性次第で全身氷漬けになっちゃうヤベー状態異常だ。

 残念ながら、この首の長い謎恐竜は氷属性が弱点だったので、凍結デバフをモロに食らって札幌雪祭り状態になってしまった訳である。

 

「グーラはデカブツを!」

「はい!」

 

 バリィン! 恐竜氷像の頭に武闘家グーラのライダーキックが突き刺さる。氷漬け恐竜の頭は尾崎豊を前にしたガラス窓のように砕け散った。

 凍結中は強制的に打撃属性と火属性が弱点になる。つまり、炎纏うグーラの打撃は跳満でダメージが入るのだ。あと、陰陽術限定で土属性でも特攻が入るっぽい。

 

「ふふふっ……ほぉら、凍りなさい(・・・・・)

 

 冷血竜族は止まらない。冷笑を浮かべつつ、次なる獲物へ冷酷な瞳を向けていた。

 突進してくるトリケラトプスに大玉転がしサイズの雪玉をぶつけ、瞬間冷凍。空飛ぶモササウルスに追尾氷礫を当て、凍結撃墜。スピノみたいなやつに槍状の巨大氷柱をシュートして串刺し&冷凍保存。

 そんな事をしていると、あっと言う間に草原は凍土へと変貌し。エリーゼの視界に入るや否やイセカイサウルス達はカチコチに凍らされていた。

 

「こいつは楽でいいのじゃ。ほいっと、【土行・石苦無】」

「それでも油断しないようにしましょう。早く砕かないとまた暴れ出すので」

「ヒャッハー! 汚物ぁ消毒ッスー!」

 

 恐竜氷象の博覧会みたいになってる中、前衛組は積極的に氷砕き大会に参加していた。

 グーラは大きい氷象の頭をパンチキックで砕きまくり、イリハは土属性の陰陽術でシューティングゲー。ヘラジカライダー・リリィは相棒と一緒に遠くにいる凍結エネミーを伐採していた。

 

「ガアアアア!」

「ご主人様!」

「無問題!」

 

 それでも流石は魔龍というべきか、一旦氷漬けになったとしてもデバフが解ければ元気いっぱいで襲ってくる。

 惨状の元凶を理解してか、クソデカ尻尾のアンキロサウルスモドキがエリーゼ目掛け突進してきた。エリーゼは迫りくる魔龍を一瞥し、特に気にせず次なる装填魔法に魔力を籠めていた。このままでは、よくて相打ち悪くて激突だ。

 だが、この為に俺がいる。今のロリコンは聖なる騎士。ロリータ・ナイトと呼んでもらおうか。

 

「ふん!」

 

 俺は武闘家の歩法スキルを使用してサッと龍とロリの間に割り込むと、超重量の突進攻撃を左手の盾で【弾き返し(パリィ)】た。

 ガギィィィンン! 重く、それでいて甲高い金属音が木霊する。衝撃により一歩後退する俺に対し、異世界物理法則により突進の勢いを失くしたアンキロサウルスは驚いたようにバックステップした。

 ガードした俺はノーダメージ。突進の威力の一部はアンキロが受けている。【弾き返し(パリィ)】、これは剣を使った【受け流し】とは別物で、盾専用の能動スキルだ。効果としてはより防御に振った【受け流し】といったところで、使用感としては使いやすくなったジャスガといった印象。

 

「援護するわ」

「次よろしく」

「了解」

 

 ロリを守るロリコンという構図。氷竜を殺すにはロリータ・ナイトを退かす必要がある。アンキロサウルスはその場で半回転し、ハンマーめいたご自慢の尻尾を振り回してきた。

 俺はその攻撃を、再度余裕を持って【弾き返し】た。体勢を崩しかけた魔物の頭に三連氷礫がヒットし、恐竜の顔に霜が降りる。凍結デバフ第一段階だ。

 全身が凍っている訳ではないが、これは攻撃チャンスである。俺は右手の“アンデッド絶対殺すメイス”に魔力を注ぎ、聖炎属性を起動させて奴の頭へ駆け出した。

 

「オラァ!」

 

 ドゴォ! 聖属性と炎属性に加え、槌系攻撃スキル込みの特攻打撃。頭蓋を割った感触こそあるが、こいつはまだ死んでいない。勢いそのまま身体を捻り、掬い上げるようなシールドバッシュを顎にぶち当て、追撃のメイスを叩き入れた。

 HP切れ、完全に死んだ。大きな音を立てて倒れた異世界アンキロサウルスは、やがて青白い粒子に変換されていった。

 

「よし次!」

 

 今回、俺の役割はタンクである。お呼びとあらば即参上し、皆を守るのがお仕事だ。

 その為の聖騎士。あとその為の盾。この飾り気のないカイトシールドは、大きさこそ中くらいだがその防御性能は平均大盾並みなのだ。

 

「あんなのの前に出るとか度胸あるのぅ。こっちは問題ないのじゃ」

「盾が優秀なんだよね。エリーゼ、空からお客さん!」

「任せなさい。墜ちよ(・・・)……!」

 

 草原はエネミーでいっぱいだ。ただでさえ見つかりやすい地形である上、エリーゼのチート魔力はあまりにも目立つ。そうなるとフィールド内の恐竜は我等に殺到してくる訳で。

 魚群めいた陣形で突貫してくるミニプテラノドン達に対し、エリーゼは氷の壁を生成した。壁に激突したエネミーは次々と墜落し、凍結デバフの影響で地上で蠢く事しかできなくなった。

 

「大漁ね……」

「グーラはデカブツ優先! 小さいのはリリィとイリハで!」

「はい!」

「わかったのじゃ!」

「おいコイツから殺していいんスかぁ!? イヤッフゥー!」

 

 落ちた飛行エネミーは完全にカモである。タンクの俺と大物狙いのグーラを除き、淫魔と天狐の砕氷班はミニプテラを刈り取るべく殺到した。

 前衛組がトドメを刺して回ってる通り、今回エリーゼはあまりエネミーを倒していない。あくまで敵にデバフを食らわせているだけで、それほど経験値を獲得してはいないのだ。

 

「大きいのが来たわね。雪玉いくわよ」

「グーラ!」

「はい! いつでもどうぞ!」

 

 ボン! 巨大プテラノドンに大雪玉が直撃し、片翼が凍った魔龍はガリガリと草原を削って不時着した。

 そこにグーラが躍り掛かり、目だ耳だ鼻だと龍の顔面にオラオララッシュをぶちかます。

 氷竜エリーゼ、その役割はデバッファーであった。

 

 

 

◆雪月の魔杖◆

 

・補助効果1=自動修復

・補助効果2=魔法装填(追尾する氷の三連球)

・補助効果3=魔法装填(貫く大氷柱)

・補助効果4=魔法装填(凍てつく轍)

・補助効果5=魔法装填(氷結冷線)

・補助効果6=魔法装填(断絶する氷壁)

・補助効果7=魔法装填(大雪玉)

・補助効果8=魔法装填(魔導吹雪)

・補助効果9=魔法装填(聖光の極大治癒)

 

 

 

 先日、ドワルフの店で受け取ったこの新杖は、氷属性満載の凍結デバフ特化の魔法構成をしている。

 敵を倒すというより、敵を止めるのが目的。いつものエリーゼカスタムを少し弄って、装填された魔法はどれも威力より凍結デバフの効率を優先してもらった。

 

 杖から漏れた氷の魔力は、まるでダイヤモンドダストのようだった。キラキラした粒を纏うエリーゼには氷の妖精という形容が相応しい。

 ドカンドカンと景気よく魔法を撃つ勇姿はどうだ。竜族らしくクールに見える顔をしているが、あれはエリーゼ流のドヤ顔である。単騎無双とは少し違う裏方ロールだが、デバフ杖もお気に召したようで安心した。

 

「アナタ、あそこ……」

「ん?」

 

 エリーゼが杖を向けた方向。そちらに目をやると、砂埃を巻き上げて一頭の巨大恐竜が走ってくるのが見えた。

 長い首に太い胴体。どう見てもブラキオサウルスである。巨体からは信じられない速度で迫る姿は、魔物ながらガチ怒り状態な事が分かる。

 加えて、奴さんのHPは他とは一線を画して多かった。主のいる場所を守ってるはずの番人が、侵入者を積極的に潰しに来たという訳だ。

 

「皆、集合! エリーゼの後ろに!」

 

 彼我の距離はまだ遠い。今のうちに一発大技を当てたいところ。

 皆がエリーゼの背後に集まると、俺は魔法の余波を防ぐようにスキル付きで盾を構えた。

 

「エリーゼ!」

凍てつけ(・・・・)……!」

 

 トン、と。杖の石突が地に着くと、エリーゼを中心として大小様々な多重魔法陣が生成された。

 やがて煌めく円は収束し、術者の頭上に青黒い渦が発生。まるで城門を開くように、渦の中心から極寒の冷気を伴う暴風が解き放たれた。

 

「寒いのじゃあッ!」

「俺も寒い。グーラ」

「はい、温めます」

「大変ッスねー」

 

 魔導吹雪。氷竜エリーゼの必殺技にして、古の英雄である魔導賢者・ゼノンのお気に入り魔法の一つだ。

 指向性のある吹雪を浴びたブラキオは、耐性任せに構わず突貫してきた。小さな氷柱が眼球に突き刺さるも、愚直に突撃を続けている。

 しかし、耐性にも限界がある。走りくる恐竜の表皮には霜が降り、その足は徐々に鈍っていく。怒りに燃えた眼には凍えて竦んだ様子は一切ない。

 

「エリーゼストップ! 行くぞ!」

「あいッス!」

 

 いい感じのところで吹雪を止めてもらい、前衛組は凍りかけのブラキオ目掛け接近戦を敢行した。

 瞬間、待ってましたとばかりに熱線を吐いてくる異世界恐竜。エリーゼに迫るブレスを、聖騎士である俺の盾が防いだ。地面を削り、じりじりと後退していく。押されているが、これでいい。

 

「うお!? こいつ硬ぇッスよ! 魔法が弾かれたッス!」

「ボクは足を狙います!」

「轢かれんようにの!【水行・霜泡】!」

 

 恐竜めいた巨体故、ブラキオサウルスの勢いは止められない。どかどかと皆で殴ってみても、あくまで目標はエリーゼに固定されているようだ。

 走りながら火の玉を吐いてくるブラキオ。火炎を纏う死球を、タンクである俺は【弾き返し】てファウルさせ続けた。

 

「右前脚を狙うわ! 這いつくばれ(・・・・・・)……!」

 

 お返しの冷凍ビームがヒットすると、ブラキオサウルスの前脚が凍り付いた。間髪入れず凍結部位にグーラのキックが突き刺さり、氷と化した前脚を粉砕。ブラキオサウルスはバランスを崩して転倒した。局所的な地震が発生するも、今更その程度の震動でビビる精神はしていない。

 頭が殴れる。指令を出すと同時、我が一党はここぞとばかりに総攻撃をしかけた。デカブツエネミーは起き上がるのに時間がかかるのだ。

 

「シャアア! 首置いてけッスー!」」

 

 ラストアタックはルクスリリアの大鎌大切断によるものだった。首を切断された異世界ブラキオサウルスは粒子に還っていった。

 草原エリアに静寂が戻る。空を見ても地平を見てもそこにエネミーの姿はなかった。草原の魔龍は絶滅したのだ。

 

「皆、無事だな」

 

 各々の無事を確認して、念の為に回復魔法を施す。

 複合型迷宮は屋外スタートの前半戦と、屋内エリアに潜る後半戦の二部構成だ。俺のチートでダンジョン内ダンジョンの場所は分かってるので、小休止の後はラザニアに乗って目的地へ移動した。

 やがて辿り着いたダンジョン入り口は、限界まで密集した森が大口を開けているかのようだった。あるいは木型エネミーの腹の中か。

 

「お疲れッス、戻れラザニア」

「迷宮で使える足があるのはホントに便利じゃのぅ」

 

 ラザニアを鎌に戻し、警戒しながらダンジョンに入っていく。

 ダンジョンの中は木の根で覆われた洞穴といった雰囲気で、ところどころデコボコと根が隆起した地面は気を抜くと転倒してしまいそうである。

 

「こっちだ」

「なんか臭いッスね。グーラ大丈夫ッスか?」

「問題ありません」

 

 根の穴は三次元迷路になっていて、実にややこしい構造をしていた。しかし、これまた俺にはマッピングチートがあるので、特に迷う事なくボスエリアに近づいていく事ができた。

 屋外と違い、屋内ダンジョンでは固まって動くものだ。盾持ちの俺を先頭に、エリーゼとイリハを守るような陣形。こういう時の為に盾を買ったのである。この世界の盾はさほど優秀じゃあないが、小型エネミー相手なら十分使える。

 

「レーダーに感あり。皆、準備して」

「臭いがします。走ってきてますね」

「突っ込んでくるのじゃ!」

 

 当然、迷路中でもエネミーは容赦なく襲ってくる。曲がり角から異世界ヴェロキラプトル群のエントリーだ。

 

「行くわよ。あら、避けられたわ」

「足が速いな。捕まえて一網打尽だ」

「あいッス!」

 

 とりま最初は強く当たる。俺は武闘家スキルを併用し、エリーゼの魔法を避けたエネミーにシールドバッシュをぶちかました。停止した先頭につっかえて後ろのヴェロキラの体勢を崩し、群れの勢いを削ぐ。

 しかしここまでだ。どこまで行ってもヒトは魔物にパワーで勝てぬ。突出して押し負けないよう後ろに下がり、続くヴェロキラの攻撃を盾でガードした。小さいくせに攻撃が重い。さすが恐竜である。

 

「はぁ!」

 

 青いオーラを纏ったグーラが突撃する。回り込もうとした恐竜にキックをぶち入れ、遠く壁に蹴り飛ばした。イリハの深域武装によるフィジカルアップの恩恵である。

 

「リリィ!」

「オラッ、【妖姫淫魔緊縛】!」

 

 タンクを跳び越えようとしてきたヴェロキラは、ルクスリリアの捕縛魔法でとっ捕まえた。横に避けた恐竜はイリハの足枷陰陽術に引っかかり、そいつは戻ってきたグーラのパンチで顎を粉砕されていた。

 

「グーラ、退きなさい!」

 

 そこにエリーゼの霜踏みが炸裂し、ヴェロキラ群は氷像になった。

 で、打撃持ちが凍りついたエネミーを砕いて遭遇戦終了である。

 

「よし、この調子で行こう」

 

 そんな小規模戦闘もありつつ、俺達は薄暗い迷宮をずんずん進んでいった。

 しばらく歩いていると、俺のマップチートに変化があった。ボスの居場所が移動している。否、俺達の方へ近づいてきているのだ。

 

「見つかった。戦いやすいところに行こう」

「さっきの広いとこッスね」

「何が出るか分からん。イリハ」

「うむ、初手は探りじゃな!」

「オーイエス」

 

 複合型迷宮のボスは、屋内型と違ってボスが移動する事がある。部屋に籠ってはいない、徘徊タイプのボスだ。

 どうやら先に見つかったっぽいので、予め戦いやすい場所に移動する事にした。

 

「ギャオオオオオオッ!」

 

 昔、映画で聞いた凄まじい咆哮。緊張が走る中、俺は別のドキドキを感じていた。

 根の壁をぶちやぶり、太古の暴君が姿を現した。ほんの一瞬、心を奪われた。なんてイカしたフォルムなんだろう。

 

「グオオオオオオ!」

 

 広場の真ん中でボスエネミーが吠える。大きく発達した顎。逞しい脚。そしてかわいらしい小さな手。

 ティラノサウルス。いや、これはジュラシックなやつでも、動画で見たやつでもない。幼少の頃、古い恐竜図鑑で見た最古の復元図……!

 

「すげぇ! ゴジラティラノじゃん! マジかっけぇ!」

「言ってる場合? さっさと殺すわよ」

 

 駆けつけ必殺。最高にカッコよかった頃のティラノは、開けた口に魔力を溜め始めた。ブレスの予備動作である。

 俺は聖騎士スキルの【陽動】を使って、奴の意識を此方へ誘導した。同じく聖騎士スキルの【抗魔壁】を発動し、盾に黄金の光を纏わせる。

 次の瞬間、構えた盾越しに凄まじい衝撃。腰を落とし、思い切り踏ん張る。ジャスガは成功したはずなのにこの威力、なるほど火力型か。

 

「氷の効きが悪いわ」

「うわ! 風跳ね返してきおったぞ!」

 

 俺がブレスを防いでいる間に、皆も動いてくれていた。

 事前の研究により、このダンジョンのボスの種類は膨大である事が分かってる。見た目が似てても別の属性を持ってる可能性さえあるというのだ。完璧な対策は不可能という事。

 なので、初手は弱点探しだ。後衛組が撃った氷と風はどちらも弱点ではないらしく、そのうち風は反射される模様。となると、ここで風属性のラザニアを出すべきではないな。

 

「とりまエリーゼは回復と支援! イリハは他属性でお試し! グーラは炎と雷を試してくれ! ルクスリリア、風は跳ね返される! 通常魔法だ! 顎に注意!」

「承りました! はァッ!」

「あいッス! ほな通常魔法を一発!」

 

 各員、威勢の良いお返事。俺は動き回るティラノの視界内に陣取って、ヘイト管理に集中する。その間、皆には各属性の効き具合を試してもらった。

 相手側もただでやられる訳ではない。映画ティラノより素早い動きで俺に噛みつこうとしてくるし、尻尾を振り回して前衛を払おうとする。

 こいつ、攻撃に雷属性が混じってるな。魔法防御の低い盾だったらデバフ食らいそうだ。

 

「お! 弱点見えたか!」

 

 隙間を縫うように放たれたイリハの土属性攻撃がティラノの頭に直撃。すると、明らかにHPとスタン値に大きな変化が見受けられた。

 つまり、こいつの弱点は土属性。下調べには無かった情報だが、これで作戦は決まった。

 

「チェンジ! フォーメーション・ガンマ!」

 

 フォーメーション・ガンマとは、イリハが適切な陰陽術を練る時間を稼ぐ為の連携である。

 俺がヘイトを取り、皆にはスタン値を溜めてもらう。相手がひるんだら、溜め込んだ土属性陰陽術をドカンだ。

 

「ご主人! こいつ刺突も効くッスよ!」

「ナイス! イリハ大丈夫か!?」

「問題ないのじゃ。尖った土行を突き入れてやればよいのじゃろぅ!」

 

 イリハに仕様変更を要請すると、余裕そうな返事がきた。

 陰陽術はターンを与えれば与えるほど術式を強固かつ精密にすることが出来る。それは主とする属性に他属性を混ぜるとか何とかで、とにかく五属性の氣を魔力でコネコネして形成するらしい。

 加入当初は一巡陰陽術は無理と言っていたイリハだが、魔力量の増大により可能になったのである。

 

「五行相生……! いつでも行けるのじゃ!」

「ひるんだら自己判断で撃て! エリーゼも攻撃に移ってくれ!」

「待ってたわ。貫け(・・)……!」

 

 総攻撃。炎のメイスが歯を砕き、蛇腹鎌が鱗を削り、氷の槍が突き刺さり、獣の蹴りが足を打つ。

 やがてティラノはたたらを踏んだ。無防備状態、弱点が露出した。好機である。

 

「そこじゃ、【土行・螺旋隆矛】!」

 

 刀の切っ先を地面に突き刺し、イリハは陰陽術を発動した。

 瞬間、ティラノの足元から柱のような土塊が隆起して、それはドリルのように螺旋回転しながら無防備な腹に突き刺さった。

 高速回転する土ドリルが強固な鱗を削り取る。火花はやがて真っ赤な鮮血と化し、肉と言わず骨さえ無残に掘削していく。

 

「グギャアアアアア!」

 

 勇ましさのない、痛みを訴える吠え声。かなりのダメージが入ったようだが、異世界ティラノはまだ死んでいない。

 けれどあと少しだ。二種の弱点属性に加え、クリティカルが入ったのだ。お陰でティラノは再度怯んだ。今ハメずしていつハメる。ハメ技は立派な戦法だ。

 

「チェンジ! フォーメーション・シータ!」

 

 ここで仕留めるという強い意思。シータのシーは死刑のシー。技後硬直で固まってるイリハを除き、各々最大火力をティラノに叩きこむ。

 槌に鎌に拳に氷。種類の違う四つの痛苦が膨大なはずの生命力を削いでいく。反撃の尻尾には力が入らず、腹に突き刺さった土槍のせいで思うように身動きできていない。

 

「どっせぇぇい!」

 

 最後の一撃。それはルクスリリアによる蛇腹鎌攻撃だった。

 分裂した刃が戻ると同時、ティラノは轟音を立てて倒れ伏した。

 躯が解け、青白い粒子に還っていく。次いで、ティラノのいた場所に帰還水晶が出現した。

 

「敵影なし。みんなお疲れー!」

 

 ボスは死んだ。敵味方反応レーダーに感はない。完全勝利でいいだろう。

 俺はティラノからドロップしたアイテムを確認した。残念ながら、奴が落っことしたのは売価の低い汎用の魔龍牙だった。

 

「ハズレだな。これあんま高く買い取ってくれないんよなぁ」

「武器にも使えないらしいッスね。王家はなんでこんなもん買い取ってくれるんスかねー」

「武器にはならないけれど、これは立派なコップになるのよ」

「えぇ? 牙でお茶飲むんかの?」

「一部の獣人族は大型動物の牙でお酒を呑むらしいです」

「おぉ、いいね。ロマンあるよ」

「陶磁器の方がいいわ」

 

 ドロップアイテムを収納し、俺はコンソールを開いてステータスを確認した。

 今回、俺は中位職の“聖騎士”を使っていた。不足している頑強ステを引き上げる為である。

 最前線で攻撃を受ける役割の貢献度が考慮されてか、聖騎士レベルが十に達して新しい派生ジョブが生えていた。

 えーっと、聖騎士の派生ジョブは……?

 

「えー、聖守護者(セイントガーディアン)? 闇滅騎士(ダークスレイナイト)?」

 

 なんか、字面的に中学生の頃の俺が好きそうなジョブ来たな。

 タップして調べてみると、どうやら聖守護者は盾特化の聖騎士で、闇滅騎士は対闇特化の聖騎士にあたるようだ。

 やはり、この世界のジョブは派生すればするほど何かしらに特化していくようである。これは後回しかなぁ。

 

「んぅ~、れべるあっぷは気分がよいのぅ~」

 

 他メンバーのステも見る。イリハも退魔士レベルが十になった事で、新しく“退魔侍”と“陰陽侍”というジョブが生えていた。

 それぞれ、前者は陰陽術師寄りの侍で、後者は侍寄りの陰陽術師といった印象。陰陽術と剣術、イリハはバランスよく育成する方針なので、あとで報告だけしてとりあえずは今のままでいいかな。

 

「力が高まるッス……! 溢れるッス……!」

「私は特に変わってないわね」

 

 ブロリーみたいな事を言ってるルクスリリアは、言葉通りレベルアップしてステータスが爆上がりしていた。

 それは大変素晴らしい事なのだが、上級ジョブになってからというもの皆さんレベルアップの頻度が低くなっているようだった。

 ルクスリリアの場合、ラザニアに経験値吸われてる疑惑あるし、その上DPSが低く平均して獲得経験値が少ない。もう少ししたらDPSの高いエリーゼに追いつかれそうである。

 

「淫魔姫騎士の後は何になるのかしら」

「さぁ?」

 

 現在のルクスリリアのジョブレベルは十七だ。

 十の倍数は超えてるので既に派生ジョブが生えているはずなのだが、何故かその部分は黒く塗りつぶされてて表示されていないのだ。

 何か、種族ジョブ特有の条件があるのかもしれない。これも異世界攻略ウィキを見ないと分からない仕様だ。

 

「お、グーラは【剛掌底】覚えたっぽいな」

「うぅ~ん……はッ! こうでしょうか?」

「もう使いこなしとるのじゃ……」

 

 レベルアップした武闘家グーラは、重拳士スキルの【剛掌底】を習得した。これは通常掌底のヘビィ版であると同時に、反動を利用すれば移動スキルとしても使える優れものだ。

 二種の移動スキルは習得済みだし、今日【剛掌底】を覚える事ができた。とりあえず、一旦武闘家育成は終了でいいだろう。帰ったら元のソードエスカトスに戻して、次から鍛錬場でスキルレベルアップの為に反復練習だな。

 

「じゃ、帰るか!」

「あいッス!」

「楽しかったわね」

「戦いって感じではありませんでしたが」

「早う風呂入りたいのじゃ~」

 

 個人的に、この迷宮は好きだ。また来ようと思う。

 次は、映画で見たティラノに会えると嬉しいな。




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 よいお年を。



◆黒剣一党の武器◆

・無銘=イシグロの直剣。とても頑丈。
・アンデッド絶対殺すメイス=イシグロの打撃武器。聖属性と火属性。
・橘=イシグロの打刀。クリ特化のピーキー武器。
・湊=イシグロの脇差。受け流し特化の変態武器。
・デカい弓(仮)=イシグロの弓。重くてデカい。威力は高いが、小回りは利かない。
・地味なカイトシールド(仮)=イシグロの盾。魔法防御に秀でる。
・モブノの槍(仮)=モブノが持っていた真っ白な深域武装。

・ラザファムの大鎌=ルクスリリアの深域武装。ヘラジカを召喚できる。
・華美な細剣(仮)=ルクスリリアの護身武器。

・月明かりの銀杖=エリーゼのメイン武装。魔力系汎用杖。王笏。
・烈火の宝杖=エリーゼのサブ武装。炎特化。
・雪月の魔杖=エリーゼのサブ武装。氷特化。
・護身用の短杖(仮)=エリーゼの護身武器。ハリポタの杖。

・ぶちぬき丸=グーラのメイン武装。クッソ重い大剣。
・レダの短剣=グーラの深域武装。腕輪に鎖付きの短剣がぶら下がっている。スパイダーウェブ、立体機動装置。
・分厚いナイフ(仮)=グーラの護身武器。

・綾景之太刀=イリハの深域武装。魔法の発動媒体。守護霊を操る。派手な刀。
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