【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で続けられております。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は前半一人称、後半三人称です。
 よろしくお願いします。


炉利魂のカンパネラ

 焔岩迷宮。

 炎の川が流れるこの迷宮は、ハイファンタジー世界観のゲームにありがちな所謂火山エリアというやつで、ダンジョンの区分としては屋内型の中位迷宮にあたる。

 出現エネミーは火山エリアにマッチした炎+岩系で統一されており、マグマトカゲとか溶岩人形とかメラメラ燃えるスライム(可愛くない)とか如何にもソレっぽいのがワラワラ出てくる。

 ダンジョンギミック自体はシンプルで、地上移動を邪魔するような溶岩溜まりやファイヤー間欠泉やらが大半だ。特に注意すべきは、マグマ溜まりに潜む魔物の奇襲である。まぁそれは俺の敵味方反応レーダーでお見通しなのだが。

 

「あっつぅーっ! 熱中症になる前に水はこまめに飲んどこうな、イリハ」

「ねっちゅうしょう?」

「もっかい言って」

「水はいいけれど、その前に群れが来たわ。一度、全部冷やすわよ」

 

 火山エリアの例に漏れず、迷宮内には凄まじい熱気が漂っているのでガッツリ命を削ってくるのだが、我が一党で地形ダメージを食らってるのは俺とイリハだけだった。

 ルクスリリアはMPで受けてるし、熱ダメージも溜め込んだ精による自然回復量が上回ってて余裕そうだ。エリーゼも再生力が勝っていて、グーラなど完全無効である。

 そんな中、俺とイリハは装備の補助効果で何とか緩和していた。クーラードリンク的なポーションも飲んだし、溶岩に足突っ込まない限り大丈夫だ。まぁダメージは受けないだけで暑いものは暑いのだが、それは仕方ない。各種熱対策のお陰で、日本の夏よりマシくらいの感覚である。

 

「やぁーっ!」

 

 炎エリアで炎のエネミー。例によって例の如く、炎無効のグーラは無双していた。

 炎無効をいい事に、近づくだけでダメージ受けるエネミー相手に高速接近からの単純物理アタック。ぶちぬき丸を受けた溶岩人形は力任せに粉砕された。勢いそのままメラメラ燃える炎スライムに手を突っ込み、核を引きずり出して踏み潰すというバーバリアンムーブ。

 溶岩に足突っ込んでも顔色一つ変えないし、マグマ溜まりから出てくる火炎バードには得意のフォースライトニングで対応している。このダンジョン、マジでグーラが有利過ぎる。

 

「ひんやりするわよ。ルクスリリア」

「まっかせろ~いッス!」

 

 冷たい魔力が解き放たれる。巨大雪玉が直撃した巨大マグマエビは、ジュッという音を立てて単なる岩エビになってしまった。そうなると楽なもんで、固まった溶岩系エネミーは全ての物理属性が弱点になるのだ。哀れ、岩海老君はルクスリリアの大鎌で真っ二つにされた。

 エリーゼは最近マイブームの氷杖で溶岩エネミーを冷やしてくれていた。炎に氷は今一つだが、冷気で熱気を抑えられる。凍結状態にならずとも、戦いやすくなるのである。

 

「ふん!」

「後よろしくなのじゃ、【水行・逆さ時雨】!」

「爆発するッスよ! ほいっとな!」

 

 グーラに負けじと、俺達も頑張った。

 俺は盾と無銘でタンクを全うし、ルクスリリアは冷えた魔物や小さい魔物を狩っている。何気にイリハも大活躍で、水属性の陰陽術で上手く怯みを取っていた。

 

 鍛えてきた地力と、積み重ねてきた連携により、本日のダンジョンアタックも順調そのものだった。

 だが、油断はしない。ザコを倒してギミック避けて、ボス前来たなら一旦休憩。体力・気力を回復させて、いざいざもうひと踏ん張りだ。

 

「はい休憩終わり! これからボスと戦う訳だが、ここのボスは覚えてるか? レンジャー・ルクスリリア!」

「さーッス! 溶岩系のデカブツでありますッス!」

「正解だ! よく覚えていたな! では事前に説明した作戦を答えろ! レンジャー・イリハ!」

「れ? えっと、わしとエリーゼで脚を冷やしてグーラに壊してもらうのじゃ! ご主人は護衛で、ルクスリリアは取り巻き殲滅なのじゃ!」

「正解! よし、楽しいボス戦の始まりだ! 行くぞ貴様ら!」

「うおーっ!」

「おー?」

「ご主人様ってたまに変な情緒になりますよね」

「楽しそうだからいいじゃない」

 

 今日も今日とてお仕事お仕事。

 俺たちゃ自由気ままな冒険者。ダンジョンアタックが生業だ。命賭けだが利益は最高。強くもなれるし一石二鳥。

 好きな事で、好きな子と、好きな事シてイキていく。これぞ、異世界迷宮ハッピースパイラルである。

 

「炎のデカ猿! パターンA! 油断せずに行こう!」

 

 そんなこんな……。

 

「はい、今日もお疲れー」

「ん~、はぁ……。なんだか強くなった気がします」

「この一党におると何も怖くないのじゃ」

「イリハ、迷宮への恐怖を忘れてはいけないわ」

「なんか達人みたいな事言ってるッス!」

 

 無事、誰一人怪我なくボスを倒し、粒子に還った巨大火猿を見送った。広いボス部屋の真ん中に帰還水晶が出現する。

 ドロップアイテムを拾いつつ、周辺状況を確認してからコンソールを開いてみた。

 すると、グーラのジョブである“ソードエスカトス”がレベル十になってる事に気が付いた。

 

「グーラ、新しいジョブ生えてるぞ」

「はい。それは何でしょうか」

 

 ソードエスカトスとは、剣士系の上位職である。剣士やソドマス同様、刀剣類全般にボーナスが付き、筋力と技量が上がりやすいジョブだ。

 そんなソドエスの派生ジョブは、“特大剣士”と“双剣舞士”の二つだった。それぞれ、中位職の“大剣士”と“ソードダンサー”の上位版にあたるっぽい。

 前者は大剣に特化したジョブで、後者は二刀流に特化したジョブだ。後者はあり得ないとして、前者の大剣特化は悪くないと思える。ソドエスより、大剣を使った時のボーナスが上なのだ。

 

「……って感じだけど、どうする?」

 

 これまで、グーラは汎用性重視で通常剣士路線を主に育成してきたが、前線では予備武装の短剣を使わないし、今現在は徒手格闘の技術を身に着けている。ボーナスこそ低くなるが、一応短剣も使えはするのだ。

 俺視点、ジョブチェンジする価値は十分あるように思える。

 

「そうですね。一度、試させてもらっても構いませんか?」

「分かった。一回変えてみるから、違いがあったら言ってほしい」

「はい」

 

 コンソールを操作し、グーラのジョブを変更する。当然、ジョブを変えても見た目の変化はない。

 変更の完了を伝えると、グーラはぶちぬき丸を振り回し始めた。無月流の型、獣人剣術の型。相変わらず荒々しく、それでいて流麗だ。そこに無月流の教えが加わって、静と動の緩急が見事に融合している。

 一通りの型を終えると、グーラは首をかしげていた。言うて違いはないのかもしれない。

 

「どう?」

「う~ん……」

 

 声をかけると、グーラは目尻を下げた困り顔をしていた。

 最近はそうでもないが、その顔はお迎え初期によくしていた表情である。言いたい事はあるけど、言っていいのか分からなくなってる顔だ。

 色々あったが、俺とグーラの仲である。遠慮しないでいいと伝えると、グーラは申し訳なさそうに答えた。

 

「その……ちょっと軽くて、振りにくいです……」

「何が?」

「ぶちぬき丸が……」

 

 どうやら、大剣にアジャストされたジョブに変えた事で、これまで普通に使っていた武器を軽く感じるようになったらしい。

 そういえば、グーラは剣士系ジョブにしたって武闘家ジョブにしたって一貫して膂力ステが伸びやすかったんだよな。

 上位職でレベルが上がり、大剣アジャスト職に就き、あまつさえ両手剣の剣技を覚えたならば、そうもなろうという話か。

 

 娘の成長って早いなぁ。

 

 

 

 

 

 

「……って事があって、もっと重くできませんか?」

「バカなんですかい?」

 

 その事を相談すると、武器の専門家であるドワルフから鋭い返答がきた。

 当然だが、ぶちぬき丸自体の重量は変わっていない。相も変わらずクソ重く、俺は両手振り一発が限界で、試しに持ってみたイリハはビキッと腰をいわしていた。

 元々、ぶちぬき丸はグーラのチート筋力に合わせて重く作った剣である。最初は少し重く感じてて、次第に適正重量になっていき、今では軽くなっちゃったという話。最初ぶかぶかだった服がパツパツになっちゃったのである。こうなったら繕うなり買い替えるなりしてあげるのが主人の務めだろう。

 

「重く……というより、武器強化をしたいんです」

「強化ったって、ちょっとお勧めぁできやせんね。言っちゃアレですが、ウチで組んだ武器ぁ全部マジのガチでモノホンなんですぜ? 今で十分だと思いやすがね。これ以上の代物はラリス王家しか作れねぇや」

「王家なら作れるんですね」

「ああ。もっともっと金かけて、旦那の剣よりちょっぴり強ぇ剣を作れるぜ。そんなもんよ。それに、王家は古の技術を持ってるからな」

「古の技術……」

 

 ふと出てきたワードに、俺はキュンとときめいてしまった。

 古代技術、なんて良い響きなのかしら。

 

「色々ありますぜ? ルーン彫刻とか、魔石錬金とか……。だが、廃れた技には廃れたなりの理由があるんでさぁ。ルーンは血統に依存し過ぎてるし、魔石錬金は一定確率で失敗しちまう。どだい安定してねぇんだな。そんなヤクい技術にゃ戦士も職人も命賭けられっかよってな話でさぁ」

「なるほど」

「で、結局は誰でも使える伝統鍛冶技術が発展してって、今じゃ古代技術の殆どを追い抜いた。まぁ諸々の欠陥を度外視するンならもうちょい良いの作れるンだが、全く以て割に合わねぇよ」

「割に合いませんか」

「その点、鉱深鍛冶は良い技術だぜ。確かに採算度外視の技術なのはその通りだが、血統にも頼らねぇし、腕が確かならそうそう失敗もしねぇ。要るのぁ職人の腕と素材だけってな。コイツぁまだまだ発展すると思いやすぜ」

「へえ」

 

 武器トークは楽しい。聞いてるだけで心がぽかぽかする。

 が、女の子受けは悪いようで、グーラ以外の皆はつまらなさそうな顔をしていた。

 

「おっと、剣の話だったな」

「はい。もっと重く、できれば強くできませんか? 無理とは仰ってなかったように思いますが」

 

 話を戻すと、ドワルフは腕組みして背もたれに体重を預けた。

 

「あー、まぁできなくぁないですぜ? もっと重くして、もっと威力を上げる事ぁ、できる……。がよ、効率が悪ぃんでぇ」

「効率ですか」

「費用対効果が合わねぇんだ。ざっくり言うと、これまで金剛鉄(アダマンタイト)一つで少しの強化が出来てたところ、これからは金剛鉄二つ三つで前の一つ分の強化しか強くできねぇと。そのくせ重量は上がる威力と釣り合わない。お嬢ちゃんからするとそれでいいんだろうが、普通そんな勿体ない使い方ぁしねぇや。さっきの話と同じさ。旦那がゴロゴロ持ってる金剛鉄も、そりゃもうレアな石ころなんですぜ? それをちょっと重くする為に使うんじゃあ、石商連の奴等ぁ白目剥いて失神しちまうぜ」

 

 なるほど、分かり易い説明だった。

 ただでさえ素材をふんだんに使う鍛冶技術に、さらに素材を費やしてほんのちょっぴり威力を上げるというのだ。できるできないではなくて、やらない方が世の為だという話である。需要ありまくりの希少金属、そんなの素材が勿体ないと……。

 

「つまり、できるんですね?」

「はあ、まぁ……」

「あのご主人様、僕はやっぱりこのままでいいので……」

 

 そんな話をしていると、グーラが遠慮がちに口を開いた。

 だが、それこそ遠慮しないでいい。重くしたいと言ったのはグーラなのだ。素材の希少性など知った事か。俺は俺達の満足の為に生きてるのだ。費用も素材も度外視で結構。

 第一、手持ちの金剛鉄は俺達が頑張って集めたものである。その使い道を俺達が決めて何が悪いというのだろう。倉庫の肥やしにするよりは、よっぽど為になると思うがね。

 

「皆はどう思う?」

「いいんじゃないかしら? 私の杖なんて、もっと希少な石を使ってる訳だし」

「あたしは賛成ッス! 戦力の強化は急務ッス!」

「わしもいいと思うのじゃ」

「じゃ決定って事で」

「マジのガチですかい? へへっ……」

 

 決を取ると、ドワルフはニヤリと笑ってみせた。

 これまで効率だ何だと言いつつ、お互いそういうのはあんまり興味がない性質なのは分かっている。

 先の空戦車同様、異世界生活にロマンを求めるのは間違っているだろうか。否、間違ってなどいない。イシグロ・ファミリアの方針は、一にも二にもロリ優先である。

 

「へっへっへっ、承りました。また前みたいに良い感じの重さぁ計りますんで、倉庫の方まで来てくだせぇ」

 

 そうして、今のグーラにピッタリな重さを調べる事になった。

 フィッティング後は、前金と素材を渡して契約成立。ぶちぬき丸強化計画、開始である。

 俺はドワルフとウィンウィンの握手を交わし、武器工匠の店を出た。

 

「申し訳ありません、ご主人様。我儘を言ってしまって……」

「いいや、早めに言ってくれてよかったよ」

 

 ロリへの増資はプライスレスだ。倍プッシュに何の躊躇いがあろうか。

 実際、今の俺に以前刀を買った時のようなソワソワ感はない。後悔のない、実に清々しい買い物ができた確信がある。

 

「でも、これで金剛鉄は無くなっちゃったッスね」

輝銀魔石(シルウィタイト)も残り少ないわ」

「ど~りで、主様はそんなに武器持っとったんじゃのぅ」

 

 素材持ち込みしてる分、持ってる素材は使えば無くなる。

 まぁ、今後の事も考えて、無くなったもんは取り返せばいいだけだ。

 

「じゃ、しばらくはゴーレム狩りにしよう」

「久しぶりッスね!」

「ごーれむ?」

 

 ボスもザコも無視して、レアドロ吐き出す金ゴーレムだけを刈り取る期間。

 楽しい巨像迷宮イベントの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 太陽が昇り、鳥が歌う。そんな麗らかな春の朝。

 迷宮狂いの奇行が始まった。

 

 いつものように転移神殿に来たイシグロは、いつものように迷宮へと潜っていった。

 それだけならいつものイシグロじゃんとなるのだが、転移した先が巨像迷宮だったので、ギルド職員はこれは一体何事だとなった訳である。

 

 巨像迷宮といえば、イシグロとは縁の深い迷宮である。

 約一年前、イシグロは謎のチビ淫魔を連れて件の迷宮に挑み、大量の希少金属を持ち帰ってきた事があった。

 これまでは特定の鉱山でしか採れなかった金剛鉄や真銀(ミスリル)が、潜る価値なしとされてきた迷宮で発見されたのだ。この報により、鉱石を扱う商人達は大混乱し、各区ギルド長や王家の使いを交えて喧々諤々の会議が行われたものである。

 

 結局、イシグロは迷宮産の希少金属を外に流さなかった為、界隈に大きな波は立たなかったものの、迷宮から希少金属が出るという情報は一気に各方面へ拡散された。

 異世界ゴールドラッシュの始まり……と思われていたのだが、いざいざ巨像迷宮を潜ってみても例の金ゴーレムを見つけられないケースが多発したのである。よしんば例のゴーレムを見つけられたとしても倒せたり倒せなかったりで、並みの冒険者からすると巨像狩り周回は割に合わない仕事だったのだ。

 腐っても中位迷宮というべきか。なにせ、成功するかどうかは運次第な上、普通に他の迷宮潜った方が儲かるのである。あまつさえそこのゴーレムは武器や装備を壊してくるのだから堪らない。魔法も属性も大して効かないし、どうすりゃいいんだという話である。

 かといって腕のある凄腕冒険者に頼んでみても、色んな理由で断る者ばかりだった。移動が面倒とか、魔法効きづらいのは嫌だとか。中でも一番多かった理由が、「あそこは楽しくないから」であった。

 

 最終的に、巨像迷宮への採掘遠征は商人的にも冒険者的にも博打過ぎて手を出し難い金策と判断される事となった。

 そのうちラリス王家が本腰上げて調査するかもしれないが、未だ金細工が潜ったという記録はない。

 

 閑話休題。

 

 そんな曰く付きの巨像迷宮に潜ったイシグロはというと、何と数刻ほどで帰還してきたのである。

 これには関係者に「すわ迷宮狂いが探索失敗か?」と思われたものだが、神殿に戻って来た彼の表情に陰りはなかった。

 それから、帰還したイシグロは戦利品を換金する事もせず、その日のうちに再び迷宮に潜っていったのである。そしてこれまた普通に帰還して、翌日も同じ事を繰り返していた。

 

 一日二回、午前と午後の一回ずつ。ボスも倒してないようだし、聖遺物の換金もしていない。

 習慣で動くイシグロが、常のルーティンを崩してまでコレを繰り返すのは不可解を超えて完全に奇行である。

 とうとうマジでおかしくなったのかと、彼と仲の良い受付おじさんさえちょっと心配になっていた。

 

「何も無けりゃいいが……」

 

 例の事件を覚えている受付おじさん視点、最近のイシグロは不穏で仕方なかった。

 なんだ、春になるとゴーレムを狩りたくなる習性でもあるのかという話である。

 いやそれは流石に無いだろ……とは言い切れないあたり、ギルドにおけるイシグロの評価が分かるところであった。

 

「えぇ……? 俺が訊くんですか……?」

「お前しかいないだろ。頼んだぞ」

「へーい」

 

 そんな経緯もあり、受付おじさんは上司であるギルド長からイシグロ本人に最近の動向を尋ねてくるよう命じられた。

 いくらベテラン職員とはいえ、どこぞの銀細工のように武力を背景に上司の命令を拒否できる訳もない。おじさんは不承不承従う事になった。

 

「なぁイシグロ、ちょっといいか?」

「はい、何でしょうか」

 

 そうして、受付おじさんが本人に尋ねたところによると、やはりというか何というかイシグロの狙いは迷宮産の希少金属にあるようだった。雑談風に詳細を訊いてみると、このようなものだった。

 まず、迷宮に入るなり召喚獣で空を移動。広い迷宮内を爆走しながら金ゴーレムを捜索し、見つかり次第撃滅。見つからなかったら戻って再突入。以降、最近はこれを繰り返しているらしい。

 

「素材周回ですね。普通のゴーレムは殆ど無視してるんで、効率良く回れてます」

「お前正気か……?」

 

 イシグロの感覚では、巨像迷宮は道中が楽なので先の周回は大して難しくはないのである。しかし、現地勢からすると、いくら召喚獣に乗るったって捜索中に迷宮の主に見つかったらどうするんだという話だった。

 ただ、これまたイシグロはチートによってボスの居場所が分かっているので、そういったリスクは無きに等しいのである。仮に通常巨像に見つかったとしても逃げれば済む話で、追いかけてきてもエリーゼ砲やグーラパンチでボコボコにすればいいだけなのだ。

 それに、寝ているタイプのゴーレムは奇襲すれば倒しやすいので、ドロップはともかく経験値的には美味しいのである。今のイシグロからすると、攻撃モーションの分かり易い巨像はスキルレベル上げにちょうどいい動く木人君に見えていた。お陰で効率よく【弾き返し(パリィ)】の熟練度を上げられている。

 

「えーっと、集まったのか? その、お目当ての石は……」

「えぇ、まあ」

 

 どうやら、元より彼は獲得した希少金属を換金するつもりはなかったようで、だから迷宮から帰還してもいつもの換金をしなかったのだという。

 だが、今回ばかりはちょっと困る。一年前、例の会議で決まった新ルールがあるのだ。

 

「すまねぇが、迷宮で見つけた希少金属は一旦ギルドで鑑定するって決まりになったんだ。あー、悪いが、見せてもらっても構わねぇか? 当たり前だが、絶対返すからよ……」

「はあ。別にいいですけど、手持ちだけじゃなくて銀行に預けたやつもありますよ。それはどうすればいいですか?」

「あ、明日頼むぜ……」

「わかりました。これが今日の分です」

 

 そうして、ギルドでは春の希少金属鑑定祭りが始まった。

 申告通り、イシグロは大量の希少金属を持っていた。金剛鉄(アダマンタイト)聖銅(オリハルコン)真銀(ミスリル)輝銀魔石(シルウィタイト)等、その他多数……。それらがドバドバ運ばれてきて、本物かどうか入念に丁寧に執拗なほど過剰に調べる羽目になったのである。

 

「あ、ついでにこれも処分してもらっていいですか?」

「へ……?」

 

 かと思えば、道中に何となく倒したという通常ゴーレムの聖遺物(レリック)――普通の鉄や鉛や金や銀まで渡されてしまった。その数、大袋十個以上……。

 ゴミ置き場みたいになった鑑定台を見て、ギルド職員達は死んだ魚のような目になっていた。

 

「あーっとな、石商連が金剛鉄とか売ってくれって、言ってきてるんだが……」

「すみません。これらはすぐ使う予定があるので、売却のつもりはありません。それはギルドからの命令じゃないんですよね?」

「まぁそうだが」

 

 どうやら、イシグロは今回も希少金属を外に流す事はしないようだが、鉱物商人的には歯がゆいことだろう。何も無料で寄越せなんて言ってないのだから、少しくらい売ってくれてもいいじゃないかとなるのが人情である。

 それを、イシグロは全て武器に変えるという。正しい使い方なのは間違いないが、もっとこう上手いこと捌いてくれんもんかねといったところ。

 

 しかし、それこそ銀細工には通用しない話だった。最終的に暴力が物を言う世界、権力はそれほど万能ではないのである。

 イシグロの場合、所有奴隷が逆鱗であるとは何となしに把握されている。まともな商人としては、その手のもめ事を起こすつもりはなかった。もどかしいのはその通りだが、銀の怒りを買ってまで売ってほしい品でもない。実際、鉱山からの供給が止まった訳ではないのだから。

 幸い、イシグロは希少金属を銀行に預けてくれているので、今はほっとくのがいいだろう。

 

「とはいえ、アホな奴は文句言うかもしれねぇな。誰もちょっかいかけねぇといいんだが……」

 

 そうぼやきつつ、受付おじさんは今日も今日とて残業である。

 ただでさえ忙しいというのに、希少金属絡みで仕事が山積みなのだ。

 また、面倒臭い会議とかして、イシグロの関係者として呼ばれるのかなぁと思った。

 まぁそれは嫌な仕事ではないのだが。英雄候補の担当受付、悪くない響きである。

 

「あぁ~、腰痛ぇ……! そろそろ帰って寝るか……」

 

 そして、今日はこのくらいにしようとおじさんが席を立った。

 その時である。

 

「おじさん!」

「な、なんだぁ……!?」

 

 切羽詰まったような新米職員がやってきて、真っ青な顔で口を開いた。

 

「そ、外でイシグロが暴れています!」

 

 それから、少しの沈黙の後……。

 

「何人死んだ……?」

 

 おじさんの口から、ゾンビのような呻き声が漏れた。




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 一般の冒険者は、希少金属を使った武器よりも迷宮のドロップ品を加工して作る武器の方を好む傾向にあります。
 ドロップ品で作る武器は、応用が利かない代わりに頑丈で火力が高いです。希少金属製の武器より、材料費も加工費も安価な事が多いです。
 あれこれと補助効果を付けるより、単純火力を重視してるんですね。信頼性というやつで。
 逆に、上位層は希少金属をガンガン使った自分専用の補助効果マシマシ特化武装を好む傾向にあります。

 モンハン風に言うと、やり込み勢は鉄武器を好み、エンジョイ勢は骨武器を好む感じです。
 勿論、やり込み勢の中にも骨武器を愛用する人はいます。その逆もまた然り。
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