【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰でモチベが続いております。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回、序盤だけ三人称です。
 よろしくお願いします。


天狐の情愛

 王都アレクシストには、実に多くのモニュメントが存在する。

 南区に存在するジュスティーヌ大噴水。北区のゼノン魔道石碑。東区にある聖剣テイラウスの複製石像。

 後世において、そういった目立つ建造物は住民の待ち合わせスポットとして使われるようになるものだ。

 そして、数ある王都モニュメントの中には、特に獣人族に好まれる定番の待ち合わせ場所があった。

 

 王都西区、拳聖イライジャ像。

 建国英雄の一人を模して作られた像の前には、その日も多くの人が集っていた。

 現代日本で例えると、さながらハチ公前といった雰囲気。像のモデルが獅子人の英雄というだけあり、他スポットよりも獣人の比率が高いように見受けられた。

 

「おい、あの人……」

「すごい綺麗……」

「あの服リンジュのだろ? どう見ても庶民じゃないよな?」

 

 そんな中、件の銅像前に一人の狐人美女の姿があった。

 桜色の髪に、憂いを帯びた瞳。きめ細やかな肌は透き通っているかのように美しく、それでいて女としての色気に満ちている。また、着物に隠れたその胸は極めて豊満であった。

 艶やかな美に、楚々とした佇まい。これに、グッとこない王都男児はいなかった。

 

「へへへっ、お姉さん待ち合わせ中?」

「へへへっ、今暇? どこ住み? てか今暇?」

「へへへっ、どしたん? 話聞こか?」

 

 王都男児は攻めっ気が強い。一切物怖じせず、注目を浴びる狐人美女に声をかける者達がいた。

 犬人、猿人、鳥人の異世界チャラ男三人衆である。彼等の鞄には強制同意フ〇ック用の催淫団子が入っている。

 気安く話しかけてきた男達に対して、狐の麗人は薄い笑みを浮かべるばかりで何の返答もしなかった。

 

「へへへっ、何か言ってくれよ姉ちゃん」

「へへへっ、俺等そんなに口達者じゃねぇんだぜ姉ちゃん」

「へへへっ、身振り手振りでもいいから反応ほしいぜ姉ちゃん」

 

 美女は黙して語らない。深みのある双眸に見つめられると、性欲に塗れた三人もどうするべきか分からなくなった。

 だが、そこは王都に住まうチャラ男である。最も性欲の強い猿人が、欲望に負けて狐人美女の肩を抱こうとした。

 次の瞬間である。

 

「失礼、うちの連れに何か用ですか?」

「痛ぇ!?」

 

 猿人の伸ばした腕を、横合いから鷲掴みする手があった。

 その握力は凄まじく、今にも上腕の骨が折れてしまいそうなほど。如何な思惑があったとしても、これは明確に攻撃の意思ありと見做される。血の気の多い異世界チャラ男は反射的にいきり立った。

 

「なんだお前! 離せコラ!」

 

 振り払おうとする猿人だが、繋がった彼我の手は蝋で固められたように動かなかった。すわ冒険者かと、知性の高い――三人組の中では――鳥人が推察した。

 冷静になり、改めて声の主を見る。黒髪黒目の冴えないチビ男。王都では見ないリンジュ風の服を着ていて、その身の筋肉はあまりに薄い。如何にも弱そうだ。

 弱そうなのだ、が……。

 

「ぎ、銀……!?」

 

 燃え上がりかけた怒りは、男の首にある冒険者証を見るや一瞬で萎えてしまった。この弱そうな男は、ラリスの銀細工持ち冒険者であったのだ。

 銀細工とは、強さや身分の証明であると同時に、箍の外れっぷりを注意喚起する防犯グッズでもあるのだ。まして、善性を保証する飾りなどでは断じてない。

 漆黒の瞳が、狐人美女に手を出そうとした三人組を見ていた。

 

「「「す、すみませんでしたー!」」」

 

 王都男児は攻めっ気が強く、それでいて危機管理能力に優れている。銀の冒険者が手を離すと、犬猿鳥の三人はすたこらさっさと逃げて行った。

 

「行こうか」

 

 黒髪黒目の銀細工――イシグロは、狐人美女の手を取ってその場を去った。

 静々と手を引かれる美女の輪郭が、ほんの少しブレた。異世界女子的にキュンときて、魔力の操作が緩んじゃったのである。

 

 それから、二人は路地裏に入っていき……。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、気分爽快なのじゃ~!」

 

 ぼふんと煙を立て、狐人豊満美女はケモミミロリへと姿を変えた。

 さっきまでの美女スタイルはイリハが陰陽術によって変化した母親の似姿であり、何故か彼女はその姿で待ち合わせしたいと言ってきたのである。

 

「そんなもん?」

「うむ。わしが、というか母上の美貌がこっちでも通用するのを見るとな。なんかこう誇らしいのじゃ。むふー!」

 

 どうやら、モテ気分を味わって悦に入っているというより、母親の美しさが評価されるのが嬉しいらしい。

 後方彼氏面ならぬ、前方娘面? なんだろう、何となく分かるけど完全には理解できない心理である。

 

「それに、図らずも夢じゃった“逢引中に軟派な男に絡まれてたところを好きな男に助けられる”という願望も叶ったでのぅ。実に幸先が良いのじゃ!」

「それならいいけど」

 

 なんにせよ、イリハが喜んでくれるなら幸いだ。それに、俺を好きな男と捉えてくれるあたりが非常に嬉しい。

 それはともかく、俺は言うべき言葉を忘れてはいなかった。

 

「その着物、似合ってるね。特にブーツがいい感じ」

「むふふ、じゃろ~? まぁこれエリーゼが選んでくれたやつなんじゃが」

 

 今回、俺達はお互いにデート用の衣服を着ていた。

 俺はシンプルかつ質の高い侍スタイル。イリハは大正時代の女学生を思わせるハイカラさんスタイル。一応、二人とも腰に刀を佩いているのが異世界流だ。

 

「じゃ行こうか」

「うむ!」

 

 そうして、俺達は手を繋いで通りに出た。

 

 この日、俺とイリハは二人だけで出かけていた。先日決まったデートの為である。

 ホウレンソウ一党会議の結果、デートは一人につき一日という事となり、安全の為に門限が設けられた。

 

 デートプランはというと、主に皆の要望に沿う形となった。

 イリハの場合、まずイライジャ像で待ち合わせをするところから始まるのだ。

 

「アレクシストは毎日桜闘会が開かれとるみたいじゃのぅ」

「そだねー」

 

 で、以降のイリハの要望は「父と母の逢引を再現したいのじゃ」というものであった。

 話によると、彼女の両親には相当な身分差があったらしく、あまり外で会う機会がなかったのだという。こっそり行った逢引の時も、変装等を使いつつ少し街を歩いただけなんだとか。異世界基準でもそれは逢引というには質素だったようだが、当のイリハ母はそれはもう嬉しそうに当時の事を語っていたらしい。

 よって、イリハとのデートの前半は街ブラ企画と相成ったのである。

 

「王都はどこも綺麗なのじゃ。壁も屋根も色鮮やかで、キラキラしておる」

「リンジュとは別の綺麗さがあるよね。街全体が観光名所って感じ。俺はカムイバラも好きだけど」

 

 何処に行くでもなく、何をするでもなく、二人きりでただ歩く。

 俺にとっては見慣れた王都も、引っ越してきたばかりの彼女の目には新鮮に映るのだろう。彼女は王都の活気に圧倒されつつ、興味深げに辺りを見渡していた。

 

「わっ、あそこまた喧嘩しとるのじゃ!」

「大丈夫、あれくらいなら余裕だ。もし襲いかかってきても必ず守ってみせる」

「た、頼もしいのじゃ♡ 主様♡」

 

 転移して一年も経てば、自然と異世界女子が喜ぶ言葉を吐けるようになる。

 この世界、分かり易い強さアッピールこそが男のモテムーブなのだ。日本でモテそうな細身の優男より、マッチョなタフガイがモテるのである。その点、俺は全然タフガイではないのだが、位階相応の戦闘力は有しているので多少強気な発言も許される。

 堂々と胸を張ってイリハの方を見ると、彼女は僅かに赤らめたニンマリ顔で身体を寄せてくれた。好感度アップの音が聞こえた気がする。

 

「あそこ、さっき魚跳ねたな」

「美しい魚じゃ。水も綺麗じゃし、よく見えるのぅ」

 

 ちょっとした気づきに心を向け、お互い飾らぬ感情を共有する。

 強い刺激こそないが、二人の間には暖かな心地良さがあった。

 

「ん? アレは何の店じゃ? えーっと、ちょっと読みづらい字じゃのぅ……」

 

 ふとイリハが見上げた先には、あまり見ない類いの看板があった。

 描いてあるロゴの意味は分からないが、異世界文字は分かる。俺は言語チートに頼る事なく、頭の中の辞書を引いて答えた。

 

「楽器屋だな」

「ほう」

 

 言うと、イリハはその大きな瞳を輝かせた。

 こういう時、俺は脳内選択肢を間違えない。常に上を選べば好感度がアップする訳ではないのだ。そして、リアル選択肢には時間制限が存在するのである。

 

「入ってみようか」

「うむ」

 

 俺は気持ち強引めに入店した。

 彼女の性格上、自分から言い出す事はなさそうだからだ。キングが動かないとクイーンは動けないのである。知らんけど。

 

「らっしゃい」

 

 店に入ると、そこは前世日本の楽器屋とは雰囲気が大分異なっていた。

 淡い魔導照明により照らされた店内は、一面落ち着いた色の木材で囲まれていた。年季の入った台や壁に、沢山の楽器が陳列されている。

 見たところ、ここは弦楽器の専門店であるらしく、並んでいる楽器にはどれも弦が張られていた。また、店内に俺達以外の客は居なかった。

 

「おぉこれ知ってる。リュートだよ。こっちじゃ何ていうのか知らんけど」

「リュート?」

 

 中でも数が多かったのは、ファンタジーモノでよく見かけるリュートという弦楽器だった。ギターのお兄さんみたいなやつである。

 よくよく観察してみると、単にリュートと言っても色んな種類のリュートがあるらしく、大まかな形こそ似ているが弦の数が違ったり先端部分の形が異なったりしていた。

 

「三弦とは違うんかのぅ?」

「詳しくはないけど、素材とかその辺も違う気がする」

 

 元々、イリハは三味線によく似た弦楽器を演奏できるのだ。その点、こういった音楽関連には惹かれるものがあるのかもしれない。

 思い返すと、イリハは歓楽街の遊女パレードで変化しつつ演奏しながら歩いていた。アレって地味に高等テクニックなのではなかろうか。

 イリハの演奏していた楽器は弦の数が三本で、弾くのもお好み焼きのヘラみたいなのを使っていたが、リュートにそれは無いようだった。

 

「すみません。試奏ってできますか?」

「あ、はい。どうぞ……」

 

 入店時には愛想の悪かった店員さんだが、声をかけてみると一転遠慮がちに了承してくれた。

 なんか脅迫したみたいだが、これはもう慣れるしかない。努めて気にしないよう意識しつつ、イリハにリュートを持たせて試奏用と思しき椅子に座ってもらった。

 

「ん~? こうかのぅ?」

 

 ボロ~ンと、軽く爪弾くイリハ。しかし違和感があるのか、色々と試行錯誤して音を出していた。

 店員さんも恐る恐る覗いている。何か言いたそうにしているが、何も言ってはくれないようだ。

 

「あぁ~、これ指の腹で撫でるんじゃな」

 

 ポロロ~ン。暫くすると文字通り勘所を掴んだようで、イリハはリュートらしい音色を奏でてみせた。

 三味線とリュート。似ているようで全く違う楽器のはずだが、イリハはあっと言う間に弾き方を理解したようだ。

 

「いいね。きつね・ざ・ろっくが聞こえてくるよ」

「どういう意味じゃ?」

 

 流石にコードなり曲なりを奏でる事はできないようだが、ポロロンと弦を弾くイリハは上機嫌だ。

 恐々見ていた店員も、彼女の演奏を聴いて安心したように引っ込んでいった。ああ、壊すんじゃないかと思ってたのね。

 

「すまぬ。熱中してしまったのじゃ」

「構わんよ」

 

 良い音を探るように集中していたイリハは、途中ハッと気づいたように止めてしまった。

 俺としては楽器の練習をしてる女の子からしか得られない栄養素を享受できていたので、このまま続けてもらってよかったのだが。

 丁寧にリュートを戻すと、イリハは興味津々に別の楽器を見始めた。

 

「これは、お琴かの?」

「おっ、これガルパンで見たな。なんだっけ、スナフキンみたいな女の子が弾いてたやつ……」

「これも指で弾くやつっぽいのじゃ」

 

 そんな感じで、俺達はしばらく楽器屋で過ごした。こういうのも街ブラの醍醐味といえるだろう。

 これまであまり気にしていなかったが、異世界にも音楽文化はあるんだよな。使い手こそ少ないが、楽器を武器にしてる冒険者とかいるらしいし、戦術でも芸術でも異世界人と音楽は近い関係にあるのかもしれない。

 

「むふふ、ありがとうなのじゃ主様! こんな上等な物を……」

「武器に比べりゃ安い安い」

 

 結局、この店で俺は二つ楽器を購入した。イリハ用のハープと、俺用のリュートである。

 何気にリンジュではイリハ用の最新式最高級三味線を買ってあげたので、これで彼女は楽器二つ持ちとなる。そのうち、イリハは我が一党の音楽担当になるのかもしれない。一味には音楽家が欲しいところだしな。いいと思う。

 

「主様も一緒に始めてくれるのは、何だか嬉しいのじゃ。頑張って練習しようの、主様」

「お手柔らかに。俺、音楽の成績微妙だったから」

 

 今回、イリハ用だけでなく俺用の楽器も購入したのは、何となく趣味を増やそうと思ったからだ。

 長い異世界生活、趣味は多いに越した事はないだろう。それに、イリハと一緒なら楽しく続けられそうだしな。

 

「今度、皆とも楽器屋巡りに行きたいのじゃ。こういう事、言うていいって聞いたんじゃが……」

「そりゃもう、どんどん言ってほしい」

 

 自分からそう言ってくれるあたり、イリハもすっかり一党に打ち解けているのだろう。

 彼女の言う通り、皆とも楽器を見てみたいな。可能なら、皆とも一緒に練習したい。ロリコン&ロリバンド、始めるか。

 まぁ続くかどうかは分からんのだけども、こういうのは挑戦するのが大事だろう。男は度胸、何でもやってみるもんさ。

 

 

 

 

 

 

 楽器屋で過ごした後、俺達はイリハの作ってくれたお弁当を食べた。

 イリハは本当に料理上手である。基本的にはリンジュ発祥の和食によく似た料理を作ってくれるのだが、最近はラリス料理もお手の物だ。今日のお弁当は和洋折衷的な運動会スタイルで、俺の男の子ハートを真正面から貫いた。

 

 さて、午前は街をブラブラして過ごしたが、午後の部には明確な目的地があった。

 もう一つのイリハの要望、それは「王都の温泉に浸かってみたいのじゃ」というやつだった。

 なので、以前皆と行った異世界スーパー銭湯こと、西区ニカノル大浴場へとやって来たのである。

 

「お待たせなのじゃ~」

 

 脱衣場を出てすぐの場所。アーケード街を思わせる屋内空間で、武装を外した俺達は合流した。

 当然、お互い水着姿である。イリハは新しく購入していたパレオ付きの水着を着ていた。ヒラヒラ揺れる布がオシャレである。

 

「おぉ、いいね。凄い可愛い。色もよく似合ってる」

「どうも~。主様が喜んでくれるんなら幸いじゃ」

 

 合流後に即褒めると、イリハは小さな胸を張って応えた。

 出会った頃のイリハの身体は骨と皮みたいだったが、今ではすっかり健康的な丸みを取り戻していた。運動も頻繁に行っているので、その身には程よい筋肉がついている。

 何より素晴らしいのが、水着のお尻部分から出ているモフモフの尻尾である。ぜひ後ろから見たいと思わせてくれるナイスデザインだ。構造的に、ヒラヒラしてる所にも尻尾孔があるのだろう。

 

「にしても、王都の風呂屋はすっごいのぅ。規模がダンチじゃ」

「そういえば、俺カムイバラの大衆浴場には行った事ないな」

「向こうのはもっと狭いのじゃ。それに混浴じゃないんじゃよ。男湯と女湯で分かれててな……」

「イリハは入った事あるの?」

「客として入った事はないんじゃが、店主が良い人でのぅ。掃除の前に入らせてくれたんじゃよなぁ」

「良い人じゃんね」

 

 などと話しつつ、入り口近くの通路を歩き、屋外エリアに出た。

 

「はえ~」

 

 中央の屋外エリアに着くと、イリハは感嘆の声を上げた。

 真ん中にはラリスお得意のウエディングケーキ型噴水が聳え立ち、そこから大小の水路が放射状に広がっている。芝生の生えた箇所では日光浴をしてる人がいて、屋台の近くでは軽食を食べている人がいる。他にもプールや露天風呂や運動場なんんかもあった。

 リンジュの風呂屋しか知らないイリハにとって、この場はまさに新感覚のレジャー施設に見えるのだろう。入った事のある俺からしても、此処の規模には圧倒される。

 

「よ、予想以上なのじゃ……」

「色々あるよ。最初どこ入る?」

「うむ。蒸し風呂は家にあるからいいとして、まずは……」

 

 遊園地にあるような地図看板の前に行き、最初に入る風呂を決めてもらう。

 浴場を選ぶという経験もなかったのだろう。イリハは熱心にあれこれ書かれた地図を見ていた。

 

「とりあえず身体の汚れを落とすべきじゃろうな。かけ湯的な場所はあるかの?」

「それなら滝湯があるな」

「じゃあ、そこに行くのじゃ!」

 

 そうして、俺達の湯めぐりが始まった。

 滝湯を浴びて汚れを落とし、イリハ何人分になるか分からない広々とした湯舟に浸かる。暖まったら屋外の露天風呂に入り、全ての浴場を制覇する勢いでスーパー銭湯を満喫した。

 他にも色々あるよと、俺達は有料エリアにも向かっていった。

 

「あ、なにこれすご……と、溶けるのじゃ~」

 

 精神疲労を洗い流す聖水風呂に入ったり……。

 

「落ち着く匂いなのじゃ~。それに、湯の温度も丁度良い……。しばらく出たくないのぅ……」

 

 変な匂いのする薬湯に入ったり……。

 

「ん~、川とは勝手が違うのじゃ」

「泳げてる泳げてる」

 

 ガッツリ泳げる屋内プールで水泳の練習をしたりもした。

 中でも、イリハは薬湯が一等気に入ったようで、実にロリババアらしいリアクションをしていた。

 同じ薬湯に入っていたのは、森人や魔族など長寿種族が多かったように思う。なんかそういう、長寿種族を誘引する匂いとか効能とかがあるのかもしれない。ファンタジーだし。

 

「よっ、ほいっと」

「いけるいける。はい」

 

 一通り湯やプールを楽しんだ後、俺達は屋外エリアの運動場で蹴鞠っぽい球遊びをしていた。

 蹴鞠、そうその蹴鞠である。厳密にいうと違うのだが、ほとんどソレである。イリハ曰く、身分や老若男女を問わずリンジュ人はこれをして遊ぶらしい。

 

「おおっと。難しいな」

「意外じゃの~。主様なら余裕と思っとったのじゃ」

「力加減がね。あ、ごめんミスった!」

 

 エンジョイ勢のキャッチボールのように、柔らかい球を取りやすいように蹴り返す。これが存外難しく、戦いとは別種の精妙な足捌きを要求してくるのだ。苦戦する俺に対し、イリハは見事な球捌きをしていた。

 これまた、幼少期のイリハは友達がおらず、ずっと一人でリフティングをしていたらしい。いつか友達とやるのが夢だったとか。

 

「帰ったら皆でやろうか」

「そうじゃなっと」

 

 そんな遊びをしつつ、お腹がすいたら屋台の軽食を摂り、美味しい炭酸ジュースを飲み、身体が冷えてきたら再度風呂に浸かった。

 

「むふふ、独り占めじゃ」

 

 今浸かっているのは、同じく屋外エリアにある例の貝殻浴槽である。デカいが狭い殻の湯舟で、俺とイリハは密着していた。

 他の客も家族連れや恋人同士が多かったので、ここならイチャついてても目立たない。

 温かいお湯の中、彼女の肌はなおも熱かった。時折吹く風が大きな狐耳を揺らしている。

 

「のぅ、主様?」

「ん?」

 

 見ると、千歳緑の双眸がすぐ近くで俺を見上げていた。

 前に見た迷子の目ではない。希望に満ちた瞳である。

 

「主様に身請けしてもらってから、わしはずっと幸せじゃ。前と変わらぬ奴隷身分なのに、日に日にわしの心が自由になっていくのが分かる。寝る前がな、怖くないんじゃよ……」

 

 後ろ抱きの姿勢で、イリハはそう囁いてきた。

 遠い喧騒が聞こえる中、彼女の声は明瞭で、心底満足げであった。

 

「ありがとうのぅ、ほんに」

 

 そう言って見上げる彼女の顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。

 初めて会った時のような、今にも自殺してしまいそうな悲しい表情ではない。一切の曇りもない、世界一ピュアな笑みであった。

 

「改めて思う。わしも、ずっと主様と一緒がいいのじゃ♡」

「ああ。俺も」

 

 俺は彼女の小さな身体を、優しく抱きしめた。

 湯舟の中、柔らかな尻尾がお腹を撫でた。

 

 

 

 

 

 

「おい~っす」

「ただいまなのじゃ~」

 

 異世界銭湯を満喫した後、俺達は帰路の道中で食材を買いこんでから帰宅した。

 玄関扉を開けると、リビングにいたらしい皆が駆け寄ってきた。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様、イリハ」

「随分と早かったのね」

「まぁの。じゃ、わしは飯の準備をしてくるからの~」

「ん? な~んか変ッスね……」

 

 我が一党の取り決め通り、イリハは手洗いうがいをしてから台所へと引っ込んでいった。

 デート後というか、完全に平日と同じ行動である。恋人らしく手伝おうとしたら、ええからええからと台所を追い出されてしまった。

 

「あっ、わかったッス! ご主人からもイリハからも、全く全然これっぽっちもスケベな匂いがしねぇんス!」

「そりゃ、まぁ」

「あら勿体ない……」

「今日、ご主人様達は何をされていたのですか?」

 

 リビングのソファーに腰を下ろしつつ、皆に今日あった事を話した。

 街ブラして、楽器屋行って、風呂入って買い物して帰った事。各々デートプランは知ってるはずだが、詳細は知らないのである。

 

「かーっ! 連れ込み宿行かなかったんスか!」

「満喫されたのですね。それは何よりです」

「いやいやいや! 逢引の最後は連れ込み宿で休憩って相場が決まってるんスよ! 何やってんスか! もとい何でヤッてねぇんスかこのヘタレ!」

「いやー、ほんまもんのヘタレはハーレムなんぞ作らんと思うよ」

 

 まぁ確かに、俺にしては珍しく、随分と健全なデートではあったと思う。

 でも、たまにはそういう日もあっていいだろう。俺は絶倫マンである以前に、純粋に皆が大好きなロリコン野郎なのである。

 

「鍋が煮えたら食べれるからの……っと、何話しとるんじゃ?」

 

 と、ここでイリハが戻ってきた。

 どうやら、夕食はもうちょい先らしいので、早速スーパー銭湯で言ってた事を実行しようと思う。

 うちの中庭は広いのだ。

 

「わっ! すみません上がり過ぎました!」

「はぁああああ! 食らえエリーゼ! 淫魔雷電蹴撃(サキュバス・イナズマ・シュート)ォ!」

「甘いわね、その程度の攻撃では竜族の肉体には傷一つ付けられないわ……!」

「そういう遊びじゃないんじゃがのぅ。ほい、主様」

「おっとと、やっぱムズイなこれ」

 

 そんな訳で、飯が出来るまで皆で蹴鞠をして遊んだ。

 この球技に勝ち負けはないはずだが、存外白熱した戦いになった。

 異世界ハーレムで蹴鞠。なんて健全な遊びなんでしょう。

 

 こうして、イリハとのデート日は過ぎていくのであった。

 

 

 

 勿論、その晩はイリハの房中術で愛し合った。

 ナイトゲームの方では、皆は俺の球を使い回していた。ボールは友達、怖くないよ。

 結果、俺は何度もイーグルショットを放つ事となった。

 

「はぁ♡ はぁ♡ んぅ~♡ 主様、凄すぎなのじゃ~♡」

 

 向こうもその気らしかったので、イリハには抜かずのハットトリックをお見舞いした。

 そんな夜の延長戦は、遅くまで続いたのであったとさ。




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