【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告も感謝です。ありがと茄子!
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
今回はグーラ回です。
よろしくお願いします。
「いてきまー」
「行ってきます」
イリハとのデートから一日空けて、この日はグーラとのデートとなった。
先のデートでは外で待ち合わせなどしていたが、本日は二人揃って家を出た。
理由を問うと、「長くご主人様と居たいです」との事。可愛すぎて幽体離脱しそうになった。
「二人だけで歩くのは、なんだか不思議な気持ちです。ちょっとルクスリリア達に申し訳ないような……えへへっ」
初デートなので、俺もグーラもいつもと違う服を着ている。
俺は獣人族に人気の運動着みたいな服。グーラは褐色肌の栄える白ワンピだ。童貞じゃないが俺特効のこれは、エリーゼによるコーデであるらしい。当然、俺は二人を褒めちぎった。
ちなみに、異世界人にはデート時にわざわざ新しい服を着るという感覚はあんまり無いらしい。そういうのをやるのは富裕層だけなんだとか。
「どうも。予約してたイシグロです」
「ご乗車ありがとうございます。どちらへ向かわれますか?」
さて、デートプランについてだが、今回は予め目的地を決めてある。東区にある王都の定番観光スポットだ。
俺の借家があるのは西区である。ここから東区まで徒歩で行くとなると、疲れはしないが時間がかかる。なので、俺達は前日に予約しておいた馬車に乗って向かった。異世界タクシーである。
「ふかふかですね。それに、外の音が遠いです」
「酔いそうになったら言うんだぞ」
現在、車内は俺とグーラの二人きりである。御者は外で手綱を握っている。向かい合って座る席の中、俺達はあえて隣り合っていた。
乗っているのが高級馬車という事もあり、車内の座席は存外座り心地がよかった。サスか道路か、どっちも良いのか、異世界馬車で覚悟していたケツ痛現象は起こらなさそうだ。
「どんどん景色が変わっていきます。もう南区なんでしょうか」
「多分まだ西区じゃないかな。ルート的には大通りをグルッと回るはずだから、あと少しかな」
さすが異世界最大の都市というべきか。王都はしっかりと道が整備されており、大きな通りは車道と歩道に分かれていた。これまた流石の異世界ホースぶりで、車道を走る馬車はなかなかの速度を出している。自然、徒歩よりずっと速い。
グーラを膝に乗せて流れる景色など眺めていると、気がつけば目的地の近くに到着していた。
「あっ、あそこです! ご主人様!」
馬車を降りると、グーラは少し早足になって歩いた。手を繋いでいるので、俺が引っ張られている状態だ。
ワクワクしながら先導する彼女は無邪気にはしゃぐ幼児のようでもあり、早足で歩くオタクちゃんのようでもあった。
いずれにせよ、グーラが楽しそうで何よりである。
「わぁ、すごい……!」
そうして辿り着いたのは、賑々しい王都には珍しい緑の静謐に満ちた公園であった。
名を、聖剣公園という。
聖剣公園は、王都民の憩いの場として親しまれてもいる観光名所の一つだ。
白亜の石畳で舗装された歩道の周りには、よく手入れされた芝生が広がっていて、街と公園を切り離すように沢山の木が植えられていた。
少額ながら入場料を取っているので、公園内に荒くれ者の姿はない。利用者は裕福な家族連れや、喧騒を好まない森人等が多い印象である。
「ほわぁ~……!」
そして、ここの公園の目玉となるのが、今グーラが見とれている勇者アレクシオスの剣のレプリカ石像である。
まるでマスソか選定の剣のように、如何にも聖剣といった風体の石剣が台座に突き刺さっている。陽を反射する台の表面には、その武器の名が彫られていた。
「聖剣テイラウス……」
「はい! アレクシオス様の愛剣として知られている武器で、これにより多くの魔物を倒したと伝わっています! テイラウスは迷宮の奥底から見出した深域武装と言われていて、書籍によりマチマチですがその権能は強力無比であったと……!」
何気ない呟きに、グーラは早口になって答えた。
スポーツ少女然とした身体つきのグーラだが、中身は大人しい気性の文学少女なのである。中でも“獣拳記”という前世地球で言うところの少年漫画ポジの英雄譚を好んでおり、それに関連する形で勇者アレクシオス一行の物語を愛好しているのだ。
「権能分かってないの?」
「はい! 一説には純白の雷を迸らせたとか、万物を切り裂く事ができたと伝わっています! 正確なところは分かりませんが、共通して何色かに光っていたようです!」
前世、一方的に自分の好きな話をするオタクというのは、基本的に忌避されるものだったと思う。良く言えば情熱的で、悪く言えばキモ語りだからだ。
だが、こういう話、俺は昔から好きだった。ミリオタにしろ鉄オタにしろ、楽しそうにしてる人の話ってのは中身があって面白いと思うからだ。
なので、俺的にはオタク語りするグーラも素敵だと思う。例えるなら、ネズミーファンの女子とネズミーランドにやって来たみたいな感覚だろうか。彼女が楽しそうにしてるから、彼氏も嬉しくなっちゃうのである。ハハッ!
「実は、アレクシオス様は聖剣テイラウスで災厄の残滓を屠っていた訳ではないんですよね。それまではずっと、普通の剣で戦っていました。学者様のお話によると、そのどれもが現代と比べれば遥かに脆い武器であったと……」
ドワルフ曰く、昔は深域武装と通常鍛冶の武器には、その性能に雲泥の差があったらしい。
しかし、最近では技術の進歩によって並みの深域武装より強い武器を作れるようになったという。俺の腰にある無銘など、SSR深域武装を除けば最上級の品であるそうだ。勿論、グーラのぶちぬき丸も。
そんな現代においても、嘘か真か聖剣テイラウスは古今東西最強の剣であるらしい。本当に伝説の通りの剣なら、だが。
「さっき言った通り、テイラウスって勇者伝説の後半にしか出てこない武器なんですよ。なのに何故か霧龍退治の絵画でテイラウスらしき剣が描かれたりしている事があったりするそうです。ボクはその絵を見てはいませんが」
「へぇ。それはどこで見れるの?」
「恐らく、西区の王立美術館にあると思います。勇者様関連はだいたいそこなので」
「近いじゃん。今度観に行こうか」
「ほ、本当ですかっ? ありがとうございます!」
そんな話をしつつ、聖剣石像を離れて彼の勇者一行の冒険が記された作品を巡っていく。
清浄樹を植える天使ジュスティーヌの銅像や、鍛錬場を作った賢者ゼノンの銅像。グーラの推し英雄である拳聖イライジャの銅像もあった。てか、西区にあったイライジャ像とお顔が違うような……?
公園のスタッフにお金を払えば作品の解説をしてくれるサービスもあったのだが、グーラだけで十分事足りた。マニュアルに沿った説明より、情感たっぷりなオタク語りの方が面白い。
「旅立ちの時、勇者アレクシオスの仲間は魔道賢者ゼノンだけでした。また、当時の二人に二つ名はなかったと言います。どちらも、ただのアレクシオスとゼノンだったんです」
長い屏風のような石壁には、道を歩く二人の人物の絵が描かれていた。みすぼらしい剣士と、ローブを纏った男魔術師である。
描かれているのは勇者様と賢者様なのだろうが、どうにも俺はそこに違和感を覚えてしまった。
「ん? ゼノンって男だったの?」
「あ、ご主人様それは……」
ふと疑問に思った事を訊いてみると、グーラは気まずそうな顔で固まってしまった。
さっきの銅像によると、ゼノン氏は平たい胸族の長身美女に見えたのだが……。
「えーっと、実際のところゼノン様の性別は分かっていないのです。男性だよ派の学者様と、女性だよ派の学者様がいて……。一応、現代では女性説が主流となっていますが、多くの古書で男性っぽい記述があるんです。獣拳記では女性説を採用していますが、こういった作品ではどちらとも取れる造形にされる事が多いですね」
「あー」
どうやら、ゼノン氏の性別関連はデリケートゾーンであったらしい。クラピカ性別問題的な? そういうの、異世界でもあるんだな。
なにも派閥同士で戦争が起こるような話題でもないらしいが、不文律としてゼノン氏は性別不明とするのが丸いのだろう。
「あっ、これです! わぁすごい! 感動です! この石像は“荒野の邂逅”といって、勇者一党に初めてイライジャ様が出会う場面を再現しているんです! この時、イライジャ様は群れを追い出されていた頃で……」
ゼノン氏の性別は置いといて、次の作品を見るやグーラは急にテンションをブチ上げた。推しの話をするグーラは、一段と早口になっていた。
早口な上、続くグーラの解説はさっきよりも明らかに情報量が多かった。さすが獣拳記ファンガール、熱量がある。
話によると、イライジャ氏は紆余曲折あって故郷を追い出されていた時期があるらしい。そんな彼が仲間と共に冒険を繰り広げる物語に、幼少時のグーラは勇気を貰っていたというのだ。
「こうして力を認め合った三人は、再び旅に出るんです。イライジャ様が加わった事で一党の戦力が増し、道中多くの魔物を屠って人々を救っていきました。この頃のお話は古式の獣拳記にも載っていて、中には貴重な日常会話の場面なんかも……」
グーラの語る勇者のお話は、まさに英雄神話そのものだった。
勇気だけがあった男と、彼を信じてついていった仲間達。困難な旅路も、知恵と力を合わせて解決していくのだ。時に意見の相違で争う事もあったりしたが、人類の危機には必ず背中を預けて戦い抜いたと。
そうして救われた人々が生き残って、今こうして彼等の偉業を語り継いでいるのである。たった二人から始まった旅は、やがて人類を守り抜いた英雄譚へと昇華されていったのだ。
「こうして六人となった一党は、どんどん世界を広げていきます。酸の雨を降らせる獣を倒し、死を司る蛇を倒し、霧を生み出す龍を討伐しました。霧が晴れた世界で、ようやく人類は国を作る事ができたのです。この、ラリス王国の前身となった国を。ん~、はぁ~……」
公園中の作品を巡っていると、最後にスタート地点の聖剣レプリカに戻ってきた。
熱を帯びていたグーラは、満足そうな息を吐いて恍惚の表情を浮かべていた。夢だった名所巡りができて、その感動を消化し終えたところなのだろう。
「あ、あっ! すみません! ご主人様の前で、こんな事を……!」
と、ここにきてグーラはハッと手で口元を覆った。隠せていない頬がほんの少し赤い。
彼女は何かしらの感情が閾値を超えると唇を隠す癖があるのだ。恐らく、テンション上げてオタク語りをしてしまったのが恥ずかしいのだろう。
「すすっ、すみません! ボクだけ好き勝手に話してしまって……!」
「いやいや、普通に興味深かったよ。本で読むより、グーラのお話の方が好きだな俺は」
「そ、そう、ですか……」
目を伏せ、耳を伏せ、ふにゃんと尻尾も垂れさせて、グーラはなおも恥ずかしそうにしていた。
事実、俺からするとゲーム内の世界観解説イベントみたいで楽しかった。味気の無い用語解説より、NPCの会話とか調べるコマンドのテキストの方が雰囲気あるよねって。
むしろ、こうしてグーラに解説してほしかったから少ししか調べてなかったまである。前に図書館で読んだのも、出来事と結果が淡々と書かれたやつだったしな。何となくしか知らんのだ。
「そっ、その……! そろそろお昼にしましょうか……!」
「ああ」
羞恥を誤魔化すように出された提案に、俺は乗っかる事にした。
今回も、俺達は弁当を持ち込んでいるのだ。公園の隅にある東屋みたいなトコに腰を下ろし、アイテムボックスからクソデカ重箱を取り出す。
「その、こんなものですが……。あ、いえ! 食材に対してという訳ではなく……!」
「分かってる分かってる」
そうして開かれたお弁当箱には、厳ついサイズのまん丸おにぎりが入っていた。
ふと思い出す。これ、クレヨンしんちゃんの映画で見たな。合戦中にお股のおじさんが食べてたやつ。
「イリハに教えてもらいながら握ってみたのですが、なかなか上手にできず……。申し訳ありません」
「いやいや、凄い嬉しいよ」
手を洗って、いただきますして食べ始める。
確かに慣れ親しんだ三角形ではないが、味はシンプルおにぎりだ。塩味が利いてて実に美味しい。グーラが握ったのだから、俺限定でバフが付くまである。
「うん、美味しい!」
「ありがとうございます。こう、イリハのようにはいかなくて……」
デカいおにぎりを食べ、同じく持ってきたスープも飲む。重箱にはおかずも入っているので、おにぎりをメインにおかずも食べた。まさに、男ってこういうのが好きなんでしょってやつの極致である。
黒髪褐色ケモミミロリ美少女の手作り弁当より上手い飯が現代日本にありますかという話だ。無論、百億パー無いと断言できる。
「この肉も美味いな。凄い柔らかいのに、しっかり火が通ってる。甘辛い味付けもよく合うね」
「あ、味付けはイリハにやってもらって。でも、お肉はボクが焼きました。昔から、焼くのだけは得意で、えへへ……」
種族特性により、グーラは自前の炎で食材を上手に焼く事ができるのだ。
どういう理屈か、獄炎獣の火で焼くと普通より美味しくなるんだよな。やはり、料理に大切なのは愛情と火加減なのだろう。
「ふぅ。やっぱ俺はこっちのが好きかな」
「いっぱい買ってましたもんね」
水筒の中身は、リンジュで買ったグリーンティーである。
塩にぎりには渋い緑茶がマッチする。俺達二人は、あっと言う間に重箱を空にした。
お茶を飲みつつ、グーラと一緒に公園の景色を楽しむ。風に揺れる芝生が美しい。遠い人々の話し声は、眠りを誘う音色のようだった。
「その、この後なんですが……」
食後休憩中、グーラがもじもじしながら口を開いた。
予定だと、この後は東区を巡って帰るのみとなっているのだが、今になって他にやりたい事が思い浮かんだのだろうか。
「ん?」
促すと、グーラは再度口元を隠し、俺の方をチラチラ見ながら言った。
「お、お宿で、
これまた断言するが、黒髪褐色ケモミミロリ美少女からの、こんな誘いを断れるロリコンは百億パー居ないと思う。
ぴこぴこと、羞恥に揺れる尻尾があまりにも可愛かった。
〇
この異世界にも、ラブホテル的な施設がある。所謂、連れ込み宿というやつだ。
安い所だと狭い部屋に硬いベッドだけらしいが、実際に行った訳ではないので真相は定かではない。
そして、今俺とグーラが休憩しているのは、西区にある高級連れ込み宿である。
高級宿ともなると、まず建物の造りが違う。貴人が使う事も考慮されているので、チェックイン時に人と鉢合わせにならないよう配慮された構造をしているのだ。セキュリティも万全で、宿側は利用者の情報を漏らさないような契約魔術がかけられている。
何故にそこまで詳しいのかというと、一時期ルクスリリアと利用しまくっていたからだ。
そんなお高い連れ込み宿に行き、入室して、グーラと一緒に風呂に入る。
全て準備が整ったら、大きなベッドの真ん中で、俺はグーラの小さな身体を横抱きにしながら……。
「その時、イライジャが言いました。俺は俺より強い戦士を知っている。俺は、一度として自分を強いと思った事はない。イライジャの言葉に、バーナードはビックリしました。バーナードにとって、イライジャよりも強い人がいるとは思っていなかったからです」
本を音読していた。
何かの比喩や隠語とかではない。そのままの意味だ。
二人で横向きに寝っ転がり、グーラを後ろから抱いて朗読する。読み聞かせ、というやつである。
「それから、バーナードはよりいっそう修行に励みました。拳を握り、爪を磨き、困った人を助けてあげました。修行だと思えば、今まで面倒だと感じていた事が楽しくなっていたのです」
今俺が読んでいるのは、グーラが大好きな“獣拳記”のスピンオフ作品だ。
これは子供でも読みやすい文章で書かれた一冊で、内容は児童文学といった感じ。これなら、未だ異世界語に堪能でない俺でも何とか詰まらずに読む事ができた。
「んぅ……♡」
目線の角度的に顔は見えないが、グーラはうつらうつらとしているようだった。退屈を感じてるというより、夢心地といった風である。
当初、グーラはこのお願いを子供っぽいものとして恥ずかしがっていた。こんなの断られると思い、勇気を出して言ってみたというのである。勿論、これを俺は快諾した。
分かっていた事だが、彼女はその境遇もあって若干ファザコン気味だ。昔してもらったように、子供にそうするように、優しくしてほしいという願望があるのだろう。バブみでオギャるの亜種、父性によって甘やかされたいのだ。
「ある日、バーナードのところに旅人が訪ねてきました。旅人はとても痩せていて、今にも倒れてしまいそうでした。バーナードはいつものように追い返そうとしましたが、ふとイライジャの言葉を思い出しました」
彼女が抱いている安心感を邪魔しないよう、落ち着いた声を意識して朗読を続ける。
保育士でもあるまいに、俺に読み聞かせの経験はない。それでも、彼女が安らげるよう出来る限りの努力をした。その甲斐あって、グーラの呼吸は徐々に深く長いものになっていった。
「バーナードは、自分の分の食べ物を、旅人にあげました。すると、旅人は涙を流してお礼を言いました。その時、バーナードは不思議な気持ちになりました。胸の奥が温かくなって、何故だか嬉しくなったのです」
グーラは、とても良い子である。
聞かされた話によると、彼女は故郷に出現した魔物から村人を守った後、守られた側であるはずの村長によって奴隷商人に売られたという。普通に考えたら、少なからず村の人達に負の感情を抱いて然るべきである。
にも拘わらず、彼女は当の村人達を恨んではいないらしい。むしろ、心配であるとさえ言っていた。
「バーナードにとって、それは初めての経験でした。バーナードはお腹が空いたままなのに、これまで空っぽだった心が満たされていったのです」
それは、単に彼女が優しい娘であるからというだけでなく、彼女の自尊心の低さが大きな要因の一つであると思われた。
今でこそ若干鳴りを潜めているが、元々彼女はあまり自分の主張をしないタイプの娘なのである。何をするにも奥手で一歩引いているのだ。それは今程に近い関係になっても変わらない。生来大人しいのはその通りだろうが、希望や願望を表に出すのに並みより多くのエネルギーを必要とする気質なのである。そして、願いを叶えてもらっても、同量の嬉しい気持ちと申し訳なさを感じ、後者の感情を溜め込んでしまうのだ。
そんなグーラが、今こうして俺に甘えてくれている。それこそ、父にそうしていたように、俺を信じてくれているのだ。彼女にとって、これは大きな一歩なのだと思う。勇気を振り絞って、甘えてくれたのである。
「それから、バーナードは沢山の冒険をしました。お腹が空いた子供には、野山で狩った肉を分けてあげました。魔物に怯える村を、自慢の爪で守ってあげました。そうする度、助けてもらった人達はバーナードにお礼を言ってくれました」
「すぅ……。んっ、んう……」
俺はこの甘えを、大いに肯定しようと思う。
現在、デート中という時間だからこそ、グーラはこうして俺に甘えているのだ。親しき仲にも礼儀ありというが、彼女の場合は遠慮のし過ぎだ。
引っ込み思案のグーラがもっと自然に罪悪感なく甘えられるようになる為、俺も努力しなければならないのだろう。単に言って聞かせる訳にはいかない、根気よく長い時間をかけて、彼女の心に刺さった棘が抜け落ちるまで見守ってあげるべきなのだ。
「……と、寝ちゃったか」
横抱きにしたグーラから、安らかな寝息が聞こえる。
時々ピクピクする耳は、獣系魔族の生理的な動きである。温かさを求めるように、グリグリと小さな背中を押し付けてきた。
「ん、すぅ……。ご主人、さま……♡」
もう起きたのかと思ったが、それは寝言だった。
理由は忘れたが、他人の寝言に返事をしてはいけないらしい。
代わりに俺は、彼女の頭を優しく撫でた。
起こさないように、ゆっくり、ゆっくりと……。
そのうち、俺も眠くなってきて、睡眠欲のままに瞼を閉じた。
未来でも、こうして過ごしたいなと思いつつ。
「ありがとうございます。ご主人様……♡」
眠りにつく寸前、そんな寝言が聞こえた気がした。
結局、俺達が家に戻ってきたのは、今にも太陽が落ちる門限ギリギリの時刻だった。
時間にルーズな異世界、少し遅れたぐらい何て事もないのだが、それでもラブホで寝過ぎた俺達は慌てて急いでドタバタと帰ったのである。
「あ、あの……!」
「ん?」
ただいまをする寸前、申し訳なさそうな顔のグーラは、一度逡巡した後に口を開いた。
「本日は、本当にありがとうございました。こ、これからも、どうぞよろしくお願いします……!」
少し顔を赤くして、努めて作ったのだろう柔らかな微笑みを浮かべている。
笑顔の意味と、言葉の真意。そんな彼女の気持ちを汲みとれない程、俺も鈍くはなかった。
「ああ」
それから、俺達は二人で玄関扉を開けた。
思い出を持って、皆の所に帰ってきたのである。
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ゼノンは男装女子エルフです。男装と貧乳と男性っぽい嗜好のせいで、後世一部の人から男性扱いされてしまいました。
また、聖剣テイラウスという名前は後世の創作です。実際の名前は違います。
性能が激ヤバの糞チートなのはその通りで、現在はラリスで最も安全な所にしまっています。聖剣の在処は現王とごく一部の人しか知りません。