【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。マジでやる気に繋がってます。

 今回はダンジョン回です。
 ただ、例によって隙あらば異世界語りをしているので、文量が無駄に膨らんでしまいました。
 おかしいですね。

 第二ヒロイン早く出したいですねー。


異世界ダンジョンに三ヵ月潜ってきたがようやく帰ってきた、ぞ

 鍛錬場でのトレーニング生活は、存外楽しいものだった。

 

 毎日、朝早くから運動場で汗をかき、お昼時になると二人でランチを食べて、少し休んだ後にまた運動。

 まるで失われた青春を取り戻しているかの様であった。部活の合宿でもしている気分だぜ。した事ないから分からないけど。

 

「ぐぇ!?」

「魔力過剰充填、“中治癒”。昨日は30手だったけど、さっきのは36手だったね。成長してるよ。大丈夫、強くなってる」

「は、はいッスぅぅぅ!」

 

 まあ、内容は内容だが……。

 

 最初に行ったのは、モーションアシスト含む共有チートの確認と習熟だった。

 これには危機察知とかの一人じゃできないものがあるので、俺はひたすらルクスリリアと打ち合って限界まで防御と反撃をしてもらっていた。

 もちろん、攻撃はかなり加減している。それに練習に使っているのはお互い刃引きしている武器なので、実際当たっても痛いだけで死にはしない。まあ、地球人なら死ぬかもだが。

 

 興味深かったのは、アクセシビリティチート持ち同士がやり合うと、まるで早送りした時代劇の殺陣シーンみたいにお互いの武器を高速でぶつけ合う拮抗状態になった事だ。

 そりゃ、互いが互いにどこにどう打ち込むか分かってて、意識せずとも普通に防御も反撃もできるのだから千日手になるのは当然ではあったのだ。練習中、俺とルクスリリアの間には絶えず金属同士を叩きつける音と激しい火花が散っていた。

 で、そんな状態で結局何が勝敗を決めるかというと、やはりステータスと集中力だった。

 

「はぅぐぁ!」

「魔力過剰充填、“中治癒”。39手、惜しいね。もう少しで40手まで行けたね。でもどんどん伸びてってるよ」

「はいッスぅ……!」

 

 ステータスはそのままの意味だ。膂力とはそれ即ちパワーであり、技量とは精密動作性であり、敏捷とは動きの速さである。人が虎に勝てないように、能力が違えば小手先の技術など意味がないのだ。

 その点。俺はルクスリリアの倍以上も膂力も技量も敏捷もある。その気になればゴリ押しで勝てる。けどそれだとトレーニングにならないので、そうはしない。

 

 集中力というのは、これまた読んで字の如しだ。あるいは慣れといってもいい。

 危機察知、最適な切り返し、危険攻撃への適切な対処。気が抜けると、わかっちゃいるが心と体がおいつかないってのが発生する。ゲームでどう動けばいいか分かってたのに何故かミスったみたいな経験。あんな感じだろうか。かくいう俺もそれで何度か失敗したし、異世界じゃあ何度も死にかけた。やっぱリンチが怖いよリンチが。

 車やバイクの運転というのは最初はわちゃわちゃしちゃうものだが、慣れると音楽聞きつつ人と話しながらできるだろう。そんくらい習熟させたいものである。

 

「じゃ、今日はラザファムの大鎌の練習をしようか」

「はいッス! 待ってたッスよ!」

 

 で、トレーニング開始から数日。

 ある程度チートを使えるようになってから、ルクスリリアは本格的に深域武装の練習に入った。

 

 アクセシビリティ同様、どんなモンスターマシンでもビビッて乗るとみみっちい運転しかできない。なので、本番で試し切りするよりしっかり武器自体にも慣れるべきだと思ったのだ。

 大鎌の動きに関しては街の武器屋さんで買った安い大鎌を刃引きしてもらった奴を使って練習してきたので無問題。あとはこの大鎌型深域武装の習熟だ。

 

「色々補助効果があるみたいだから一つ一つ試していこう。とりあえず、“形状変化”って奴からやってみようか」

「はいッス。ん~っと、こうッスかね? えい!」

 

 ひょいっと、厳めしい大鎌はネコパンチみたいな軌道で振るわれた。

 するとびっくり、モーションに連動するように鎌部分の刃がギャリギャリと分裂して伸び縮みしたではないか。いわゆる蛇腹剣、いや蛇腹鎌か。

 まるで鞭かガリアンソードか、形状変化した大鎌は見た目以上のリーチを発揮したのだ。

 

「うひょおおおおお! なんスかこれたまんねぇッスぅぅぅ! こんなん一方的に殴れるじゃないッスかぁあああ!」

 

 調子にのってギャリンギャリン鎌を伸縮させて遊ぶリリィ。それはさながら針付きの釣り竿を振り回す小学生の様。哀れ、鍛錬場の地面は数秒と保たずズタズタになってしまった。

 どうやら鎌部の伸長はモーションに応じて長短が決まるようだ。そんでモーションの終了と同時に元の形状に戻ると。まるでブラッドボーンの仕込み杖か獣肉断ちの様である。炎エンチャしたら綺麗かもしれない。

 

「リーチは大体刃渡りの3倍くらいか。先端チクチク戦法でも相手によっては普通に反撃届いちゃう距離だな」

「きひひっ、知らねぇんスかご主人? 戦いは距離なんスよぉ? あのリアルイーザ様もほとんど魔法使ってたらしいッスよ? 魔族史が証明してるッス!」

「じゃあ一回試してみる?」

「え……?」

 

 と調子に乗っていたので、深域武装持ちのメスガキは速攻でわからせた。

 空中飛び回りながらチクチクされてたらもっと面倒くさかっただろうが、まだそこまで習熟してないようだ。練習あるのみやね。

 

「はい隙あり」

「ぐへぇ!?」

「はい“中治癒”」

 

 この世界、ステさえ高けりゃ大概の無茶ができる。間合いの広さ、動きの速さは前世地球人の限界を優に超えているのだ。

 仮に、前世地球人の槍術の達人と戦ったとしても、異世界帰りチート継承の俺なら槍への接触なく接近して普通に殴り殺す事ができると思う。人は虎に勝てないし、達人は超人に勝てないのだ。

 

 その点、俺は幸運だった。前世で武道の類にマジになってなくて良かったと思う。もし俺が武道に自信ニキだったら、人間相手の合理性を怪物退治にも適用させてしまっていただろうから。

 ぶっちゃけ、前世地球の常識はあんまりアテにならない。武器の使い方も根本の思想が違うのだ。攻撃力10の斧の一撃より攻撃力100の短剣のひと刺しのが強い世界、前世で培われてきた人間同士の戦いの技術は前提が崩れる。

 まあ、もし同格同士の戦いなら別かもしれないが、それでも相当な工夫が必要だろう。やるとしたら陰実の主人公が前世武術を異世界流にアレンジしてたように、世界観に準じた合理性を追求すべきだ。悲しい哉、俺にそんな技術の蓄積はない。フルコン空手の経験など、ダンジョンアタックで如何ほど役に立とうかという話である。

 

「じゃあ次は魔力装填の魔法を使ってみてほしいんだけど、できそう?」

「やってみるッス!」

 

 そうして、俺とルクスリリアは深域武装の完熟訓練に勤しんだ。

 途中、装填された魔法の発動で魔力枯渇起こしたリリィに魔力補充(意味深)したりしたが、マッポが飛んでくる事はなかった。セフセフ。

 

「んはぁ~♡ 枯渇状態からの吸精ほんとキマるッス~♡ ハマッちゃいそ~♡」

「ん~、やっぱ容量の問題だよね。これはレベリングしないと解決しないかな」

 

 どうやら、大鎌に装填された魔法はリリィがもう少し強くならないと十全に扱えないらしい。

 それと、実際使ってみて分かったのだが、武器に装填された魔法には使用者の魔攻の補正が乗らないようだった。要するに、装填された魔法は固定値なんだな。魔攻10が使っても魔攻100が使っても同規模同威力と。

 その仕様にリリィは「なんじゃそりゃッス!」と嘆いていたが、俺は色んな使い方できそうだなぁと楽しくなっていた。魔力さえあれば誰が使っても同じなら、そもそも補正の乗らない魔法を装填すればいいのである。この武器じゃできないが、いつか魔法装填特化型の武器がほしいね。ゲーム脳が熱くなる。

 

「じゃあ、明日一日休んで、その次の日にダンジョン行こうか」

「かしこまッス! はぁ~! これでアタシも冒険者かぁ~……!」

 

 なんにせよ、成長が楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 この世界のダンジョンは、大きく分けて三種類ある。

 

 一つは、洞窟とか宮殿内みたいな四方を壁で覆われた“屋内型”。

 大きさも広さもマチマチで、迷路化してたりしてなかったりで、ボス部屋とかの概念がある最もスタンダードなダンジョンだ。

 こういうところで大事になってくるのは、やはり集団リンチ対策である。囲まれると普通に死ねるので、何よりもマップの構造を把握しながら進むのが肝要である。

 

 もう一つは、だだっ広いお外に召喚される“屋外型”。

 これはどっちかというといきなりオープンワールドゲームが始まったような感じである。出現エネミーも徘徊してるタイプが多く、ボス部屋とか罠部屋とかが存在しない。空こそ見えるが空模様は固定であり、夜ダンジョンはずっと夜だし雨ダンジョンはずっと雨だ。

 このタイプのダンジョンでいつも思うのは、やっぱ足が欲しいというものだ。そりゃ今の俺はサラブレッド並みに速いが、ラストスパートん時の速度を出してるとそのうち疲れる。疲れると戦いに支障が出るので、いつも疲れない程度に走っているのだ。今回はリリィも同行しているので、俺のペースに合わせる訳にもいかない。やっぱ車かバイクが欲しいものである。オープンワールドには高速移動手段が必要だろう。

 

 最後のは上記ふたつの要素を含んだ“複合型”だ。

 外で始まり、そこから地下なり建物なりに押し入ってボス部屋のボス倒して終わるのだ。これは初心者用ダンジョンには存在せず、ランクアップ後じゃないと行けない高難度専用ダンジョン限定の仕様だ。

 イメージでいうと、ブレスオブザワイルドのハイラル城に近い。なお、エリア外は謎バリアによって進行不可だった。攻略してて一番楽しいのはこれである。

 

 ちなみに、それら全タイプのダンジョンで共通なのが、入る度にダンジョンの構造が変わってるってところだ。

 これはシレンとかの仕様だろう。屋外型でも地面とか空模様とかは共通でも、配置されてる岩やら川やらは違ってたりする。慣れたダンジョンを走って攻略、とかはできないんだな。

 いずれにせよ、しっかりコツコツ油断せず行こうという話で。

 

 

 

 さて、色々あって俺たちがやってきたのは、屋外型のダンジョンだった。

 

 どんよりした曇り空に、見渡す限りの荒野。奥の方にはジャングルジムサイズから高層ビルサイズまで大小の岩山が点在している。

 そして、スタート地点兼撤退用転移スポットである楔の前に、俺とルクスリリアは立っていた。

 そう、本日ルクスリリアは冒険者デビューする事になったのだ。

 

「と、とうとう来ちまったッスね、迷宮に……。ふぅ……ここで強くなって、やがては大淫魔になってやるッスよ……!」

「このダンジョンは奇襲とか罠とか無いから、今はそんな緊張しなくていいよ」

「あ、そうなんスか?」

 

 転移直後、ルクスリリアは謎のファイティングポーズをしていた。緊張している様である。

 そんなルクスリリアにアイテムボックスから出した深域武装を渡しつつ、俺も一応周囲を警戒し始める。

 まだ経験はないが、転移直後にハイズドーンと攻撃される恐れがないではない。あり得ないなんて事はあり得ないって、好きな漫画の好きなキャラが言ってたし。

 

「なぁんか殺風景ッスね~。ここホントに迷宮なんスか? 魔物の反応がないッスよ~」

「説明した通り、此処のは近づかないと襲ってこないんだ。それまでは大人しいよ」

「へぇ、魔力探知にも引っかからないなんて、マジで寝てるんスね~」

 

 見渡す限り、荒野。その奥に、ちらちらと小さく見える大きな影があった。それこそがこのダンジョンの雑魚エネミーである“巨像”だ。

 このダンジョンは、通称を“巨像迷宮”といい、その名の通り大きな巨像……というか、色んな形のクソデカゴーレムたちしか存在しないダンジョンなのだ。

 そのゴーレムたちは一様にデカくて硬くてゴツい。今まで見た一番小さいのでもボトムズのスコタコくらいデカい。それなりに強いが、リンチはないのでそんな難しいダンジョンではないと思う。難しくは、ないのだ。

 

「じゃあ行こうか」

「はいッス」

 

 俺はアクセシビリティの一つ“目的地の表示”に従って、淫魔を連れて歩き出した。 

 これ、こういうチートは共有されないらしい。

 

「おさらいするよ。ここのゴーレムは大体寝てるし、起きてる奴もぼーっとしてる。気づかれると襲ってくるけど、見つからない限り無害なんだ。で、そのゴーレムはどんな攻撃してくるか、覚えてる?」

「はいッス。主以外はみんな物理攻撃のみで、魔法の類は使ってこないッス。けど、針飛ばしてくる奴はマジで強いので逃げるが勝ちッス!」

「エクセレント! すっげぇ!」

 

 道中、俺はルクスリリアとダンジョンについておさらいしていた。

 

 前述の通り、このダンジョンの敵は全部ゴーレムだ。

 ゴーレムというと、俺的にはモンスターファーム系のクッキングパパみたいな顔した玩具めいた石人形を想像する訳だが、ここのゴーレムはそんな愛嬌あるデザインではない。

 どいつもこいつも、なんかゴツゴツして粗削りで雑なデザインなのである。出現ゴーレムの形こそパターンはあるが、そのひとつひとつには細かな違いがある。巨人型でも腕の長い短いがあったり、獣型でもライオン型とか馬型があったり、しかも全部が全部微妙にデッサンが狂っていてなんというか絶妙に気持ち悪いのである。おまけにその目は漏れなくモノアイだ。強そうではあるが、愛嬌はない。

 

「ゴーレム戦の基本戦術は覚えてる?」

「えーっと、可能なら奇襲からのたたみかけ。基本は足を攻撃しまくって転がして、弱点部位に強いのを当てるッス。あ、でもアタシは空飛べるから頭上から魔法ブッパで勝てるとも言ってたッスね!」

「正解。まぁでも勝てるとまでは言ってないかな。多分、先にリリィがガス欠起こすし。でも飛んで死角に回り込むのは有用だと思う」

「がすけつ? 誰のお尻ッスか?」

「頭ドスケベ条例かよ」

 

 そんな不気味ゴーレムのいるこのダンジョンは、俺にとっては割と思い出深いダンジョンである。

 あれは駆け出しを卒業し、好きなダンジョン行っていいよ許可証が発行された後の事。俺はさらなる稼ぎを夢みて早速このダンジョンにレッツゴーしたのだ。

 が、いざ件のゴーレムと戦ってみると、なんと戦いの最中に武器が壊れてしまったのだ。

 

 流石にこれには焦ったよね。急いで撤退した俺は、翌日ギルドで大量の武器を買い込んで、買った武器を使い潰しながら再攻略したのだ。

 武器なんて消耗品ってのは分かっちゃいたが、これまでずっと数打ちの武器でやってた身としては文字通り武器を消耗しながら戦う敵はかなり衝撃的だった。

 おまけに、このゴーレムとくれば斬撃にも刺突にも打撃にも魔法にも強い万能耐久型だったのだ。何か明確に弱い属性がなかったので、ただただ堅い奴を殴るしか殺す方法がなかったのである。ちょっとゲームバランス崩れてんよー。

 

「ルクスリリア、もしお前の魔力がヤバくなったらどうする?」

「逃げるッス! アタシは飛べるんで、高度上げて避難するッス。それからゴーレムが待機状態になるまで隠れ続けるッス」

「判断が早い! いやー、リリィが逃げるの躊躇わない子でよかった」

「ご主人も逃げる事あるんスか?」

「そりゃ逃げまくりだよ。逃げるのは恥じゃないし、役に立つからね」

「きひひっ、やっぱご主人とは気が合うッスね」

 

 そんで、受付おじさん曰くこのダンジョンは他冒険者からは人気がないとの事。なんでかというと、敵が硬くて強いくせに儲からないからだとか。

 実際そうだった。ハッキリ言って此処はクソだ。

 

 再戦し、色々ありつつボスを倒して凱旋したはいいものの、いざいざ戦利品を売ってみるとそれはもうショボい事ショボい事。

 そりゃこれまで潜ってきた駆け出し用ダンジョンよりは儲かったが、武器代とか危険性の割にゃあ合わないんじゃないのというショボさ。ボス倒して脳汁ドバーのテンションに冷や水ぶっかけられたよね。

 で、それから俺は、「二度と来ねぇよこんな店!」となって此処に来る事はなかったのだが……。

 

「おっ、いいの居るじゃん」

 

 一時間ほど歩いたところで、遠くに良い感じのエネミーを発見した。

 それは大きさ凡そ5メートル程の人型ゴーレムだった。そいつは二階建て住宅サイズの岩山に背を預け、半立ち状態で脱力していた。休眠状態である。

 ここのエネミーの殆どは、ああやってポツンとぼっちをやってるのだ。その間、ゴーレムたちの目に光はなく、さながら眠っているかの様。俺はこの状態を勝手に休眠状態とか待機状態とか呼んでいる。

 

 で、そいつの何が良いのかというと、上手くやれば休眠状態のゴーレムには初手不意打ちからのハメ殺しができるのだ。

 前ならともかく、今の俺なら相当なタイム短縮もできそうである。

 

「打ち合せ通り、最初は俺がやってみせるから。リリィはそこで見てて」

「は、はいッス……!」

 

 俺は腰に差してあった杖を引き抜き、自身に“静寂”の魔法をかけた。これは文字通り自身の出す音を静かにしてくれる魔法で、足音や武器のカチャカチャ音などを消してくれる魔法だ。

 それからコンソールを弄り、ジョブを下位職の“ウィザード”から中位職の“ソードマスター”に変更した。杖をしまい、予備の剣を確かめた。

 そしてそのままカカッっと移動。奴さんの背面に回り込んで、音を立てないよう背後の岩山を登って行った。

 

 このダンジョンのゴーレムは、主に光と音と魔力で敵対者を感知している。

 だから、音を消した上で寝ている間に背後を取り、魔力を使わず接近すれば先制攻撃を入れる事ができるのだ。

 

 岩山のてっぺんに登り、一度ルクスリリアの方を見る。リリィは岩陰に隠れながらこっちを見ていた。軽く手を振って、よく見ておくよう合図する。

 それから眼下のゴーレムを見下ろし、意識を集中してアクセシビリティの“弱点部位の表示”を起動した。すると、俺の視界にゴーレムの部位ごとのダメージ倍率が表示された。

 イメージでいうと、モンハンワールドの調査表みたいな感じである。ここに攻撃入れるとこんくらいダメージ出るよみたいな。表示によると、奴は右肩を攻撃すると大きなダメージが出るようだ。

 

「ふぅ……よし」

 

 弱点は右肩。乗って突き刺しまくる戦術は逆に危ない。なら、やり方はひとつだ。

 覚悟を決め、抜剣した俺はその場で5メートルほど跳躍。全身に魔力を籠める。腹から肩、腕から指先へ。身体全体に、力が充填された。

 やがて、落下の勢いそのまま下方向目掛け“切り抜け”を使用した。瞬間、身体がグイと引っ張られる。落下+切り抜けで加速し、俺は奴の肩を深々と切りつけた。

 右肩から脇の下を切り裂いたものの、切断には至らない。というかできない、仕様だからだ。

 

「グォオオオッ!」

 

 時速にして何キロだったろうか。凄まじい勢いで地面に激突した俺は、アクセシビリティの“落下ダメージの無効化”の恩恵ですぐに姿勢を整え、間髪入れず奴の右足に“切り抜け”を使用した。魔力の通った剣が、ゴーレムの足首を切り裂いていく。

 人間でいうアキレス腱を切っても、この世界のモンスターは普通に立ち上がる。俺は右から左に切り抜けた後、今度は左足首目掛け“切り抜け”スキルをブッパした。そして反転して再び右足首に“切り抜け”る。移動と攻撃を同時に行えるこれは、俺が最も熟練した能動スキルだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉッ……!」

 

 右、左、右、左。ゴーレムが初撃を入れられてから立ち上がるまでに、計4回ほど足首に攻撃を入れた。それを上から見た場合、俺の動きは「8」の軌跡を描いていただろう。

 そして、奴はようやっと反撃し始めた。足元への攻撃は足踏みと相場が決まっている。巨大な足の動きに注意しつつ、構わず俺は切り抜けループで足首をズタズタにしていく。

 やがて奴は例によって姿勢を崩すと、ズシンと四つん這いになった。

 

「スゥゥー……はっ!」

 

 一拍、呼吸を整えた俺は、助走をつけて大きく跳躍。奴のお尻を片手跳び箱の要領で乗り越えると、弱点の肩目掛けてそのままゴーレムの背中を疾走した。

 疾駆の最中、ソードマスターレベル10で習得した能動スキル“剛剣一閃”を起動。黄金の光が剣身に凝集し、如何にも強い攻撃できまっせと教えてくれる。

 

「死ィねぇぇぇえええッ!」

 

 やがて迫った弱点に、俺は全体重を叩きつけるようにして剣を振り下ろした。

 攻撃ヒット後、勢いそのまま空中に投げ出される。空中で一回転し、しっかり両足で地面に着地した。

 地を滑り、慣性を殺す。即座に振り返ると、ゴーレムの身体は粒子となって俺の身体に流れ込んできた。

 初撃から、約20秒の出来事であった。

 

「ふぅ、まぁ前よりは上手く殺れたな。一応、剣も折れてないし……」

 

 俺は岩陰のルクスリリアに手を振って、勝った事を伝えた。

 するとリリィはものすごい勢いで飛んできて、俺の周囲をグルグル飛び始めた。その手には大鎌があるので、お迎えの天使というかお迎えの死神の様である。

 

「すごい! 凄すぎッスよご主人! なんスかあの動き! あんなのウチの将軍でもできるかどうかッスよ! マジかっけぇッス! 素敵! 抱いて!」

「まぁチートありきだけどね」

 

 前述の通り、ここのエネミーは皆ゴーレムで、動きは鈍いが硬いし強いし儲からない。

 だが、このようにすれば一方的に狩る事ができるのだ。当然、強さ相応に経験値も美味い。

 だから選んだ。

 

「リリィ、ドロップアイテム集めるの手伝って」

「はいッスー!」

 

 とはいえ、だ。

 やはり、ここのモンスターは嫌われて当然ではあると思う。

 

 地面に散らばった石を見る。

 拳大の黒い石とか、小さい宝石とか、なんか白い丸い石とか色々。

 単にこれを集めるの大変ってのがあるし、高く売れないってのもあるけど。

 それはいい、承知の上だ。

 

「ん? この石、魔力が籠ってないッスね。ダンジョン産のアイテムって皆この鎌みたいに先っちょからお尻までギッシリ魔力詰まってると思ってたッス」

「此処のはそうでもないんだよねー」

 

 この世界、ダンジョンのエネミーを倒すと、例によって何かしらのアイテムをドロップする。しない場合もあるが。

 獣系の奴なんかは分かりやすく、死んで粒子に還ったらご丁寧に毛皮なんかを落としてくれるし、宝石巨人みたいなの倒したら魔力の籠った宝石をポコジャカ落としてくれる。

 それらはダンジョン産のアイテムとして高値で売れるのだが、此処のダンジョンのエネミーは地上で採掘できる鉱石しか吐き出さない。量が量なのでそれなりの値段になるし需要もあるが、ぶっちゃけ割に合わない。だから人気がない。

 でも、俺的にはそれとは別の理由が一番嫌だと思う。

 

「集めてきたッスよー」

「ありがとう」

 

 ここのエネミーは巨大である。小さいので4メートルくらいで、大きいのは15メートルくらいある。ボスにもなるとサザビーサイズだ。

 そいつらは図体相応に力が強く、一撃の威力がハンパではない。歩き足にヒットしたら凄まじいノックバックとダメージでHPが半分くらい削れちゃうし、キックなんて食らおうものなら今の俺でも多分一発で瀕死だろう。

 

 ハメれば倒せるが、一撃が怖く報酬も渋い敵。

 まぁそれだけならいいのだ。ハメれば殺せる。

 ドロも渋いが、まぁいい。強いのも、まぁいい。

 そこじゃないのだ、そこじゃ……。

 

「はぁ……けっこう削れたなぁ……」

「何がッスか?」

 

 コンソールに書かれた、俺の新品の剣の耐久度。

 そこには、耐久度の半分が削れたよという悲しい事実が書いてあった。

 

 これである。ただ硬いなら許せる。多少渋い程度なら許せる。けど、このゴーレムたちは武器耐久度をガリガリ削っていくのだ。安物じゃあなくとも容赦なく。それはゴーレムが硬いから……ではなく奴さん等の特性らしい。

 

「はぁ……」

 

 先日買ったこの武器は、それなりに上等な剣だ。前使ってたのが攻撃力200だったのに対し、この剣は攻撃力500もあるのだ。耐久度もお値段以上である。

 にも関わらず、さっきの一戦で半分である。もっかい使ったら壊れる。最悪である。また買わないといけない。だから予備武器がいるのだ。で、予備武器代がかかるのだ。

 武器修復の魔法とか、あればいいのにと思う。

 

「リリィ」

「なんスか?」

 

 とはいえ、だ。

 

 今回はリリィのレベリングの為に来ているのである。未だ経験値の仕様は把握していないが、検証の為にもルクスリリアには色んな方法で何度も戦ってもらう予定だ。

 なにより、ルクスリリアの大鎌は深域武装。例え耐久度が削れても“自動修復”で何とかなる。壊れない武器があるなら、此処はそれなりにうま味なダンジョンなはずなのだ。

 チートもガン積み、例え正面からやっても空飛べるリリィなら何とでもなるはずだ。

 

「次は正面から当たってみるから、よく見ててね」

「はいッス!」

 

 まあ、それはそれ。

 

 やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。

 

 人を動かした事などないが、先人の知恵には倣っていこうと思う。

 俺はアイテムボックスから新しい武器を取り出し、さっきの剣と交換した。

 

「いやぁ、やっぱご主人って強かったんスね~! 銀細工持ちってあんな動けるもんなんスね! アタシ感動したッス!」

「他の冒険者がどれだけ強いかは知らないかな~」

 

 歩きながら、少し前を歩くリリィの背中を見る。

 ゆらゆら揺れる尻尾に、ばっくりと開いた背中。中心を通る窪みに、うっすら浮き出た肋骨が実にエッチだ。

 

 ……そいえば、ダンジョン内って他の人いないんだよな。

 

「なんスか?」

「なんでもないよ」

 

 俺は歩くスピードを上げ、次のエネミーを探し始めた。

 やっぱ、移動用の足が欲しい。




 感想投げてくれると喜びます。




【挿絵表示】




 この度、ぴょー様より素敵な支援絵を頂きました。
 掲載OKとの事で、思いっきり自慢します。どやと言いたい。

 支援絵の掲載は経験がないので、もし作者がアカン事やってたら「これはアカンぞ」「間違ってるで」って指摘してやってください。作者は愚かなので間違いが多いのです。
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