【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。やる気が湧いてきます。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回はエリーゼ回です。
 よろしくお願いします。


銀竜の友愛

 異世界に転移してから、俺は自然と早起きするようになった。

 時計がないので正確な起床時間こそ分からないが、空が明るくなったらパッと目が覚めるようになったのである。

 できた時間を何に使うか。そう、朝活だ。

 

 広い中庭、一心不乱に素振りや型稽古をする。身体の調子を確かめるように、じっくりと。気分としてはラジオ体操に近い。これが普段の朝活だ。

 だが、今日は違う。何たって、この日はエリーゼとのデートがあるのだ。一日の始まりから、ブルーアイズシルバードラゴンと一緒である。

 

「すぐ蒸気を作れるなんて、便利なものね……」

「エリーゼのお陰だよ。ありがとう」

「そうね、感謝なさい」

 

 お目覚め一発、朝飯前にサウナに籠って温まる。

 スーパー銭湯にあったやつと違って、自宅用のサウナは狭い。自然、俺とエリーゼは濡れた肌が触れあう距離で蒸気を浴びていた。

 

「ふぅ……」

 

 それなりの時間蒸し風呂に籠って、ようやっとエリーゼは俺と同じくらいの汗をかいた。

 エリーゼは竜族だ。竜族は基礎体温が低く、発汗しづらい生態をしている。だからこそ、竜族はこういった入浴を好むのだろう。

 

「そろそろ出ましょうか」

 

 いい感じに温まったら、中庭の特大デッキチェアで一休み。普段の俺なら水風呂代わりの噴水にダイブするのだが、今日はエリーゼに合わせて冷却無しの日光浴だ。

 イチャイチャと。芯から温まった身体を寄り添わせ、湯気と汗で蒸れた肌を擦り合わせる。熱を逃がしているはずなのに、まるで二人分の熱を交換しているかのようであった。

 

「あら、竜族果物(ドラゴンフルーツ)じゃない」

「むほほ、風呂上りに酸味の強いフルーツとは最高ですな」

「なぁに、その喋り方……」

 

 それから、人肌温度のお湯で汗を流し、朝食を食べた。

 メニューはエリーゼの好物で統一されている。これはイリハシェフの計らいによるもので、全体的にフルーツと野菜多めの爽やかモーニングだった。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 そうして、俺とエリーゼは家を出た。

 これから二人きりでデートをするのだ。

 

「ああ」

 

 差し出された手を、努めて紳士然と包み込む。

 エリーゼの手はとても硬く、金属質で、頑丈そうな感触だった。対する俺も、丈夫さとしなやかさを合わせた革の感触がするだろう。これまた、お互いに外出用ではないメインウエポンを装備していた。

 そう、俺達はデートの為に迷宮用装備を身に着けているのだ。

 

「楽しみだわ」

 

 無論、迷宮に行く為である。

 

 

 

 

 

 

 害畜迷宮。

 ランクは下位の屋内型で、かつ三人までしか入れないという制限のある洞窟風迷宮だ。

 その分、難易度自体は低い。迷宮内にはギミックらしいギミックは特になく、出てくる魔物もただ突っ込んでくる獣型エネミーで固定されている。

 そういった事情もあり、初めての迷宮に此処を選ぶ冒険者も多いと聞く。要するに、初心者御用達迷宮なのである。

 

 初心者用の下位迷宮。獲得経験値自体はそれなりだが、踏破したとて儲けの渋い残念ダンジョンだ。

 中位迷宮をヘビロテできる俺からすると、普通に考えれば行く価値のない迷宮である。

 では、何故に俺達がこのダンジョンに潜っているのかというと……。

 

消し飛べ(・・・・)……!」

 

 閃光一条。魔力の熱線が飢狼の群れを薙ぎ払う。射線にいた狼は跡形もなく消滅し、余波によって抉れた地形がその威力の程を物語る。

 だが、死の光線を逃れ、生き残った狼も存在した。咄嗟に避けた俊敏な個体と、運よく射線を外れていた個体だ。

 凄まじき暴威に、野生の狼ならば怯えて竦んで然るべきだ。しかし奴等は魔物であり、尋常の生物ではなかった。熱線が途切れるや否や、狼は小さな銀竜目掛け飛び掛かっていった。

 

「シャアアッ! 次ィ!」

 

 突っ込んできた先鋒の狼を、同じく駆け出した俺が真正面から切り裂いた。

 上下の顎から頸椎にかけ、皮・肉・骨と一刀両断。いつものように受け流さず、愚直に近付き斬っては次へ。返り血を浴びるより先に、第二第三の狼を屠っていく。

 初心者時代、雑魚一匹相手に何度も武器を振っていた俺が今はコレ。無銘は受け流し特化の変態剣だが、基礎性能が並みではないのだ。こういう雑魚が相手なら、こういう通常殴りが手っ取り早い。何より、俺の身体スペックは転移直後とはダンチなのである。

 

「エリーゼ!」

「問題ないわ」

 

 剣の間合いを離れた狼が、ジグザグ移動で後衛に飛び掛かる。相手が心の弱い魔術師ならば、肝を潰して噛みつかれていたかもしれない。だが、エリーゼの竜心(ドラゴンハート)は戦場仕様だ。

 冷静に、冷酷に、冷ややかな戦闘思考が愉悦と共に回転する。迫りくる牙、機を窺う。そして、呪詛の籠った【魔力の盾】が狼の身体を弾き返し(パリィ)た。

 弾かれた狼は、着地して姿勢を整えようとした。が、既に術中。王笏の先に、禍々しい魔力が収束する。それは万物破壊の剣にして、文字通りの必殺技だ。名を【斬滅の魔導剣】と言う。

 

「はぁあああッ!」

 

 令嬢らしからぬ裂帛の気合。牙突のように突き出された破壊の権化は、魔物の命を瞬時に抉り取った。盾パリイからの致命攻撃。流れるような一連の攻防はヴィーカ流剣術の基本動作であり、反復練習の成果だった。

 実際、エリーゼは後衛職だが、前衛ができない訳ではない。元より、指揮官ジョブのバランス成長のお陰でステは並みの鋼鉄札戦士よりも強いのだ。あまつさえ戦闘前には【血沸肉躍】という最上級身体強化魔法を発動している。つまり、エリーゼは近づいてドスッで倒せる後衛ではないのである。

 仮にジョブ当てクイズをしてみても、高確率で外れる結果になるだろう。魔術師かな? 違います。支援職かな? 違います。ならヒーラー? 違います。正解はそれら全部が可能な上に前衛もこなせるガチタン変態ビルドです。なんじゃそりゃ、である。

 

「ふん!」

 

 エリーゼは紛れもなくチートキャラだが、無敵キャラじゃあ断じてない。後衛を守るべく普段ならすぐ合流するところ、俺も俺で忙しくて出来なかった。苦手な飛行エネミー群が襲ってきたのである。

 俺はハイウィザードにジョブチェンジし、バックステップしつつ空いた左手を魔物へ向けた。魔力を操作し、イメージを固める。左の掌に帯電する魔力塊が生成された。

 相手はコウモリ。デカさは小で、数は多。脆いがウザいの嫌われエネミー。ならばやる事ぁ一つに限る。

 

「範囲拡大、【雷網】!」

 

 威力の弱い範囲魔法。ビリビリ光る電気の網が、群れて飛び来るコウモリ共を一網打尽に墜としてみせた。

 こうなると俺の出番は終わりだ。サイドステップで射線を開け、そこに銀竜が飛び掛かる。王笏には、既に魔力が籠っていた。

 

砕けろ(・・・)……!」

 

 地に落ち身動きの取れない魔物の群れに、巨人の拳のような【破城槌】が突き刺さる。

 上から下へ。チート魔力で放たれたそれは、コウモリはおろか迷宮の床をも粉砕し、着弾地点に深い大穴を開けた。

 

「終わったわね……」

 

 魔物を狩り尽くし、静寂が戻る。敵味方反応レーダーに敵影はない。

 安全を確認して、俺とエリーゼは武器を下ろした。

 

「ああ。もう少しでボスだな。油断せずに行こう」

「ええ」

 

 本日は晴天なり、絶好のデート日和。なので、迷宮に来たのである。

 前後の言葉が繋がっていない気もするが、これは紛れもなく事実だった。

 

 デートプランについて事前に話し合いをしたところ、エリーゼは俺とのツーマンセルで迷宮に潜りたいと言ってきたのである。

 この要望に、さしもの俺も困惑した。そりゃ、俺からするとダンジョンアタックは半分趣味の仕事みたいなところはあるが、それがエリーゼのリフレッシュになると思っていなかったのだ。だからこそ、休養日を設けている訳で。

 

「え! デートで迷宮探索を!?」

「なぁに? 怖いのかしら……?」

「できらぁっ!」

 

 という訳で、前代未聞のダンジョンデートと相成ったのである。

 いや、全然嫌じゃあないんだよ俺は。けど、女子的にはどうなのと思っちゃった訳である。まぁ杞憂だったんだけどもね。ビックリするよねって話だ。

 ちなみに、迷宮デートについて、皆からは「いいんじゃないッスか?」「大丈夫だと思います」「くれぐれも気を付けるんじゃぞ~」とのお言葉。信頼してくれてると思っておこう。

 

「ここがボス部屋だな。よし、いつもみたいに休憩しよう」

「私は余裕なのだけれど」

「集中力がさ。ほい、おやつ」

「お酒が欲しくなるわね……」

 

 屋内型の迷宮にはボス部屋があり、その前で小休止をするのが黒剣一党の流儀だ。

 お菓子を食べ、ジュースを飲み、諸々済ませて心身を整える。

 相手が下位迷宮の主とはいえ、油断禁物である。

 

「行くぞ」

 

 それから、万全の体調を整えてボス部屋へと入って行った。

 体育館ほどの広さのボス部屋の中心に、青白い魔力が凝集していく。やがて魔力は形を成し、一体の獣が姿を現した。俺は奴の名を知っている。少し小さめの鉄拳大熊(ナックルベア)である。

 ナックルベアくん、ナックルベアくんじゃないか。とても懐かしい。拳の大きなこの熊は、下位・中位・上位どの迷宮にも出現する汎用ボスだ。

 異世界転移してすぐの頃、こいつには何度も殺されかけたものである。俺にとって思い出深いボスだな。良い思い出とは言っていない。

 

「相手は熊、作戦通りに!」

「分かったわ」

 

 戦闘開始。俺達は同時に駆け出した。昔は苦戦したが、今なら圧倒できるはず。

 作戦は単純。前衛後衛に分かれるのではなく、相手の前後を挟むように立ち回るのだ。

 エリーゼが狙われてる間は俺がお尻を攻撃し、俺が狙われたらSEKIRO戦法で対処。当然、ボスも派手に動き回るので高度な柔軟性と臨機応変な対応力が必須である。

 

「そこッ……!」

「いいぞ、その調子!」

 

 ナックルベアくんの脅威は、その大きな拳である。なので多くの攻撃モーションは肩を見ていれば分かりやすい。時折ボディプレスや暴れ乱舞などをやってくる事もあるが、その時は欲張らずガードや回避に専念すればいいだけだ。

 俺が狙われている間は、エリーゼには奴の背中に魔法を撃ってもらう。俺を倒せないと見るや相手はエリーゼを狙おうとするので、これまた自衛に専念してもらえばいい。エリーゼほどじゃないが、出そうと思えば俺も火力を出せるのだ。

 

「そろそろキレるぞ! キレた! 少し下がれ!」

「了解」

 

 怒り状態になった熊は、振り向き様に俺へと大振りフックを放ってきた。視えている、分かっている。慌てずジャストで【受け流し】てやると、ナックルベアは目論見通り姿勢を崩した。無防備状態、会心チャンスだ。

 こうなった時の連携は訓練済みだ。互いの位置は把握している。俺は一歩踏み込んで斬撃。エリーゼは【残滅の魔導剣】を発動し、背中から胴体を切り裂いた。

 

「ガアアアアアアッ!」

 

 二撃決殺のエックス斬り。眩く光る斬撃跡から、間欠泉めいて青白い粒子が噴出する。やがて鉄拳大熊は爆発し、その残骸が倒れて消失していった。

 図らずして、ソード・アート・オンラインのOPのラストみたいな構図になっていた。シリカすき。

 

「フゥーッ! はい、お疲れー」

「なかなか戦い甲斐のある魔物だったわね……」

「だな。タイミングばっちりだったし、ナイスな連携だった」

「当然よ。どれだけ戦ってきたと思っているの」

 

 ボスから溢れた粒子を取り込むと、冬場の入浴時のような快感が身体中を駆け巡った。レベルアップの感覚である。

 帰還水晶の出現を確認しつつ、ドロップを拾う。それから、俺はコンソールを開いた。

 

 ステータスを見てみると、他ジョブの育成でしばらく放置していたが、俺のガチジョブである“ソードエスカトス”のレベルが十になっている事に気が付いた。

 十の倍数になった事で、グーラと同じ派生ジョブも生えてきた。けど、二刀流はともかく大剣は使わんから、これは放置でいいだろう。

 

 エリーゼの方はどうだと見てみると、レベルアップこそしていなかったが、もう少しで指揮官職である“ドラゴンロード”のレベルが二十になる状態になっていた。

 ドラゴンロードが十になった時は両方とも武器が絞られる前衛職が生えてきたのだが、二十になったらばどうなるのだろうか。楽しみである。

 

「じゃ、帰ろうか」

「ええ」

 

 確認を終えたところで、コンソールを閉じる。これ以上やる事もないので、さっさと戻る事にした。

 帰還水晶に触れ、拠点へと転移する。一瞬の浮遊感の後、俺達は見慣れた神殿へ転移した。

 

 

 

 神殿の出入り口を見てみると、外はまだ赤い夕陽の色をしていなかった。

 何となくの時間感覚ではサクサク終わってた気もしたが、外はそれなりに時間が過ぎていたようだ。それというのも、図書館の本に曰く迷宮の内外は時間の流れが異なるらしいのだ。それも一定の法則があるのではなく、その時々でマチマチであるのだと。

 まぁそんなのはどうでもいい。腹時計的には、午後のおやつタイムといった頃だな、今は。

 

「換金よろしくお願いします」

「うぃ、早かったな。緑の一番な」

 

 下位迷宮なので、儲けは少ない。受付おじさんにドロップ品を渡してすぐ、スピード重視の天秤換金をしてもらって外に出た。

 

「どこか寄ろうか」

 

 命懸けの迷宮帰りだが、このままいつもみたいに帰るのもアレなのでデートの続きを誘ってみた。

 こういう時、俺がリードすべきなのだろう。近くにオシャレなカフェとかあったっけと脳内マップを探っていると、エリーゼは俺の言葉より先に一つの店を視線で以て指し示した。

 

「あの店に行きましょう」

 

 彼女の双眸の先、そこは冒険者御用達の大衆酒場だった。

 前に一度入った事はあるが、中は如何にも異世界の冒険者が屯してる酒場って感じの店だった。それは実際にその通りで、酒頼んだら樽ジョッキで出てきた時はちょっと感動したものである。

 俺的には嫌いじゃないんだが、お世辞にも上品な場所じゃあない。同業者の話し声は神殿内よりずっと野卑だし、食べさせる料理も質より量といった風なのだ。これまた、デートとしてはどうなのだろうと思ってしまう。

 

「あそこでいいの?」

「ええ。前々から一度入ってみたかったのよ」

 

 君主(ロード)の休日。まるで街を散策するお嬢様のような足取りで、高貴なドラゴン令嬢は荒くれ者の集うお店に入っていった。デート中の恋人というより、今の俺はわんぱくプリンセスに振り回される従者といった風である。

 ワイワイガヤガヤした店に入ると、周囲にいた冒険者達がギロリと睨みつけてきた。彼等は一様に如何にも荒くれ者でございといった容貌で、中には筋肉スキンヘッドとか肩パットモヒカンとかインテリヤクザ風魔術師なんかもいた。

 

「「「うげ!?」」」

 

 が、彼等は俺を見るなりサッと目を逸らした。顔色が青い。

 そりゃ、俺は弱そうに見えるだろうが銀細工だもんよ。この業界、なんかあったら即喧嘩が日常茶飯事なのだ。いくら血気盛んな冒険者でも、勝てない相手に挑むのは勘弁なのだろう。

 

「上行こうか」

 

 この店は喫茶リコリコのような二階席があるので、そこに行く事にした。一階よりは静かだからというのもある。

 空いている席に向かい、紳士めいて淑女の椅子を引いてあげる。

 

「ふふっ、ありがとう……」

 

 不慣れなエスコートに、エリーゼは満足そうに言って優雅に席に座った。

 

「……と、何にする?」

「そうね……。あら、森人紅茶があるじゃない」

 

 おやつを食べすぎるのもよくないので、お互いお茶と茶菓子を注文した。やがて運ばれてきたメニューは、案の定そんなに上質なものではなかった。

 エリーゼはいつも通りに見えるが、俺としてはこれでいいのかという気持ちになっていた。先述の通り、これでは数が二人になっただけで、普段の皆との日常と変わらない。彼女から言いだしたプランとはいえ、相手が満足しているか不安である。

 

「ん? あぁ……」

 

 そんな俺の憂慮を察してか、エリーゼは慈愛を感じる表情を浮かべてみせた。

 それから、ゆったりと頬杖ついて、小さな唇を震わせた。

 

「竜族はね、戦で以て貴しと成すの。社会がというより、もはや魂に刻まれているのよ。それは知っているわよね?」

「そう本には書いてあったな」

 

 竜族とは、戦闘に特化した種族である。

 事実、竜族は敵を蹂躙する事はできても、新しい物を創造する事が苦手なのだという。生活面は隷属種である飛竜族がお世話をしているらしいし、建築や鍛冶に関しても基本飛竜任せである。

 彼女の言う通り、そんな特性を持つ竜族が力や戦いを求めるのは、存在意義に近い本能なのかもしれない。それは知っているが、何故に今その話をしたのだろうか。

 

「まぁ安心して聞きなさい。ふふっ……」

 

 魔力に混じる感情を読んだのか、エリーゼはなおも余裕げな微笑みを浮かべている。

 

「アナタは、弱くて身動きがとれなかった私を、一端の戦士にしてくれたのよ。あの日、アナタに出会わなければ、私はずっと囚われていたでしょうね……」

 

 生まれついての貴人であり、絶対なる支配者。その根底には力があって、エリーゼはそれを見出されずに生きていた。

 しかし、彼女は今、一党の中で最も重要な戦力と言っても過言ではない存在になった。勘違いでなければ、エリーゼはその事を誇りに思ってくれているはずだ。

 

「感謝しているのよ、知ってるでしょう……?」

 

 微笑んだままのエリーゼは、真っすぐと俺の目を見つめながら云った。

 これまた、その事は把握している。把握はしている、が……。

 

「おぅ……」

「あら、照れてるのね……」

 

 ちょっと、思考回路にカワイイデバフがかかった。俺は火の玉ストレートのハッピースマイルに弱いのだ。

 羞恥に目を逸らしてしまった俺に、エリーゼはくすくすと喉を鳴らして笑った。

 

「ちょっとね、考えた事があるのよ……」

 

 一階席の光景を眺めながら、銀竜の少女は言葉を継いだ。

 下階の冒険者達は、相変わらずどんちゃん騒ぎをしていた。潔癖な人なら眉を潜めて然るべき粗野な光景であるはずだが、高貴な出のエリーゼは、まるで尊いものでも見るように目を細めていた。

 

「もし、アナタと最初に出会ったのが、ルクスリリアではなく私だったなら……。ずっと、二人だったんじゃないかしら……」

「それは……」

 

 言われ、ほんの僅かな間、想像する。

 もし、奴隷商館で出会ったのが、ルクスリリアではなくエリーゼであったなら。

 恐らく、俺は彼女の為だけに生きるようになっていたのではないだろうか。

 

 元々、ルクスリリア一人の時点で、俺のハーレム欲は大分薄れていたのだ。変な言い方だが、童貞を卒業した事で落ち着いたのである。

 もし、初めての相手がエリーゼであったなら、どうか。俺は彼女から妾を取るよう言われるまで、どんな美少女を見ても無視するなり我慢するなりしていたのではないだろうか。

 これはルクスリリアよりもエリーゼの方が魅力的であるとか、そういった類いの話ではない。二人のスタンスの違いがそうというだけだ。そして、優柔不断な俺は相手のスタンスに合わせる性質なのだ。

 

 俺とエリーゼ。二人組の冒険者。

 きっと、力を貴ぶ彼女に感化され、俺は今より迷宮探索に傾倒し、更なる強さを求めていただろう。

 それから、彼女にかけられた呪いを解く為に世界中を奔走していたのではないだろうか。旅に出るとか、していたかもしれない。いや、それは何時かこの世界線でもやるべきかもしれない。アレクシストでもカムイバラでも、彼女の呪いを解く事はできなかったのだから。

 

「どうなんだろうな」

 

 二人きりで、二人だけの、竜の呪いを解く為の旅路。

 解呪が成ったら、何処かに小さな家を建て、家族を作って暮らしていたかもしれない。

 甘く、幸せな生活なのは間違いないと思う。

 けれど……。

 

「少し、寂しい世界だったでしょうね……」

 

 エリーゼの呟きに、俺は深く共感した。

 そこに、ルクスリリア達はいないのだ。

 そう思うのは俺が現状のハーレムを享受しているからで、件のイフ世界線の俺からすると知った事かという話だろう。あるいは、欲望のままハーレムを作った俺をクズ野郎と罵るかもしれない。

 それでも、俺はそのもしも(・・・)を寂しいと感じる。賑やかなルクスリリアも、頑張り屋なグーラも、世話焼きのくせに世話焼かれたがりのイリハもいない生活は、今の俺には考えられなかった。

 

「そうなっていたら、あの娘達は孤独なままだったでしょうし、私も友を得る事はできなかったでしょう。私だけが愛を知ったとて、それでは貧しいというものね……」

 

 支配と隷属によって成す社会に生まれ、同族から蔑まれてきたエリーゼは、半分以上の名を失って初めて友人ができた。

 彼女にとっても、ルクスリリア達のいない生活には耐えがたいものがあるのだろう。例えそれが、現実ではない想像の世界であっても。

 

「今日、改めて思ったわ。やっぱり、迷宮は皆で潜るものね……」

「そうだな。良い一党だと思う」

「ええ。お祖父様達に勝るとも劣らない。自慢の一党よ」

 

 竜族は戦闘種族だ。彼女にとって、迷宮探索は趣味であり生きがいの一つであるのだろう。ある意味、俺と同じで。二人で行くなら、デートであると言える程には。

 物差しの短い、ともすれば心の弦が張り詰めやすい俺に対して、銀の少女は優しく教えてくれたのである。遠回しだった分、俺は心底納得できた。ほんと、つくづく良い女である。

 

「まぁでも、前衛で戦うのは悪くない気分だったわ……」

「活き活きしてた」

「鍛錬の成果を発揮できるのは、誰でも楽しいものでしょう?」

 

 ふんと鼻息ひとつ、エリーゼはわざとらしく好戦的な笑みを浮かべてみせた。

 そんな彼女も最高に素敵だと思えるあたり、ハーレム作ってなおゾッコンなのだろう、俺は。

 

「これを飲み終えたら、帰りましょうか」

「そう? 早くない?」

「あら、連れ込み宿にでも行きたいのかしら……?」

「黙秘します」

「バレてるわよ。けど、今は家で過ごしたいの。それを分かって……?」

「ん、あぁ。そうだな」

 

 それから、俺達は軽く買い物などしつつ、我が家への帰路を歩くのであった。

 道中、皆へのお土産を吟味しながら。




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 カタログスペックだけ見ると、黒剣一党ではエリーゼがぶっちぎりの最強です。
 ただ、実際にグーラと戦った場合は普通に負けてしまいます。そんなもんです。
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