【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回はルクスリリア回。
 よろしくお願いします。


淫魔の純愛

「おぉぉぉぉッ♡ あぁう♡ まらいっれりゅ♡ とまらなっ♡ あひぃぃいい♡ らめェっ♡ おっ♡ おっ♡ んぉぁあああああッ♡」

 

 太陽が真ん中に昇る頃、妖しい光が照らす宿部屋で、俺とルクスリリアは同時に上り詰めた。

 俺も彼女も己の限界を試すように溜め込んだ上での大決壊だ。その勢いたるや双方ともにナイアガラかビクトリアの滝かといった様相である。絶頂尻穴(イグアス)の方は今日はまだだが、そのうちしようと思っている。楽しみは無限大だ。

 

「おぅ♡ おぅ♡ 美味しい♡ クッソ美味ぇッスよご主人~♡」

 

 淫魔の身体は神秘に満ちている。

 比喩ではなく一滴残らず絞ってくるし、収めたモノは文字通りに飲み込んで、時間をかけて栄養に変換するというのである。

 ちょっと想像しづらいが、あまつさえ下の口にも味覚があるらしいのだ。

 

「ご主人♡ 終わったらちゅーッスよ♡ ん、ちゅぅ……♡」

 

 一滴残らず納品し終えると、俺は両腕を広げる彼女に応じて上から覆いかぶさるように抱きしめた。

 互いの健闘を称えるように、チュッチュッとわざとらしい音を立てて唇を合わせる。ルクスリリアの小さく窄められた唇が触れる度、俺の心には充足感が満ちていった。

 

「ちゅう~……ん、はぁ♡ はぁ、はぁ……♡ カッコよかったッスよ、ご主人♡ でもちょっと休憩させてほしいッス♡」

 

 姿勢を整え、仰向けのルクスリリアに腕枕をして横になる。

 肘の部分に金髪美少女の頭がある。メスガキめいて釣り上がった赤い双眸は、今は悦楽の余韻を味わうように細められていた。

 

「ルクスリリアも良かったぞ」

「きひひ♡ もっと褒めていいんスよ♡ エロいとかシコいとか、可愛いとか♡」

「うん、凄い可愛い。この金の髪も綺麗だ」

「んぅ~♡ んふっ、きひひ♡ ご主人も最高ッスよ♡」

 

 お互いふざけながら単調な褒め言葉を言い合う。

 理由もなく額にキスしてきたり、耳を甘噛みしてきたり。じゃれついてくるルクスリリアは、まるで甘えモードの猫のようであった。

 俺はルクスリリアの腹に手を置き、パンパンに膨らんだそれを優しく摩った。

 

「体調どう?」

「全然♡ 少し休めば大丈夫ッス♡ 前のアタシとは違うんスよ、前とは♡」

 

 そう言って、淫靡な淫魔は淫蕩の色をした瞳を無邪気な笑みの形に歪めていた。

 願望が叶って嬉しいという、実にハッピーな笑顔である。

 

 ルクスリリアとのデートは、案の定朝から吸精三昧とのご要望だった。

 今朝は二人して瞑想や型稽古をして心身の調子を整え、軽くひとっ風呂浴びた後はイリハシェフの手料理を食べた。

 朝食の献立は淫魔王国産の食材で統一されていて、どの料理もあからさまに精が付きそうだった。これを見て、俺は戦いの覚悟を決めたのである。

 淫魔牛のフィレステーキを噛みちぎり、淫魔ウナギの蒲焼をかっ込み、淫魔果実の盛り合わせを頬張る。するとどうだ。みるみるうちに身体にエネルギーが溜っていくではないか。

 その後、馴染みの連れ込み宿に向かい、限界までチャージしてからのフルオープンアタックを敢行したのである。

 なんて厳しい戦いだったのかしら……。

 

「んんっ♡ ご主人、お腹撫でても早まらないッスよ~♡」

「嫌だった?」

「きひひ♡ そんな訳ないじゃないッスか♡」

 

 腕枕をしながら、二人でまったりする。静かな宿部屋では、俺と彼女の息遣いがやけに大きく聞こえる。

 腕に温かい感触。至近距離に、角の生えた美少女の顔がある。初めて会った日から思っていたが、ルクスリリアは本当に可愛い。

 ルビーのような瞳は驚く程に大きく、それでいて鼻筋はスッと通っている。プルンとした唇は、口紅を塗っている訳でもないのに煌めいている。

 血色の良い肌には少女らしいハリツヤがあり、どこを探してもシミ一つとして見当たらない。悪魔のような尻尾も、羊のような角も、彼女の美貌を際立たせるアクセントになっていた。

 

「なんスか?」

「いや」

 

 なんとなしに角に触れていると、淫魔の細い尻尾が俺の太ももに巻き付いてきた。

 淫魔にとって、尻尾は敏感な部位らしい。その事を鑑みると、今の彼女の行動はあまりにも分かり易かった。

 ルクスリリアもまた、もっとシたいのだ。

 

「めっちゃ溜まったッスけど、アタシ今どんな感じッスか?」

「ん? ああ」

 

 彼女が言っているのは、種族レベルの事だろう。元々、ルクスリリアは小淫魔という下級魔族の生まれなのだ。そんな彼女には、俺との交わりによって中淫魔へと進化した経緯がある。

 吸精する度に次の位階へ近づいているのだ。それは気になるところだろう。俺は空いた手を虚空に向け、タップしてコンソールを開いた。

 それからルクスリリアのステータスを表示し、ジョブレベルの近くにある種族レベルの欄を確認した。

 

「中淫魔の二十九だ。もう少しで三十」

「よく分かんないッスけど、あとちょっとでキリ良くなるッスね」

「ああ。けどそのちょっとが長いんだよなぁ」

 

 実際、俺と彼女は殆ど毎日肌を重ねている。だというのに、二十の大台を超えてからというもの一向に伸びなかったのである。中淫魔になって、もう一年も経過したにも拘わらずだ。

 種族レベルがジョブレベルと同じ仕様であるなら、三十になったルクスリリアは中淫魔から大淫魔にランクアップする事ができるはずだ。

 大淫魔になれば単純に能力値にブーストがかかり、曰くもっと上手に空を飛んだりできるらしい。なれるなら、なっていい種族だろう。

 本人も本人で、たびたび「戦力の拡充は急務ッス」と言っているのだから。

 

「大淫魔ッスかぁ」

 

 どんな国や種族に生まれても、尚武の気風が強いのが異世界人だ。

 そんな中、ルクスリリアは自身のランクアップを前に、半ば他人事のように呟いた。なんか意外だ。

 

「進化したくない?」

「いんや? 嬉しいッスよ。アタシも前は憧れてたもんッス」

「前?」

 

 姿勢を変え、俺の胸板を摩りながら口を開いた。

 

「今日日、小淫魔の子は一生小淫魔なのが普通ッス。寿命にしたって、せいぜい百年と少し。人間と比べりゃ長いッスけど、大淫魔の貴族連中はもっと生きるんス。そんなのズルいッスよね~って、前は思ってたッス」

 

 現在、淫魔王国は少数の大淫魔と多数の小淫魔によって成り立つ畜産最強国家であるという。

 戦える大淫魔や中淫魔は国防や外交を務め、戦っても弱い小淫魔は牧場で家畜を育てたり食材を加工したりして生きるらしい。これまた、お互いの仕事の関係で前者は雄のミルクを、後者は牛や山羊のミルクを飲んでいるのだ。

 いくら低燃費で実際に牛乳やらで代用できる小淫魔とて、男の精を吸いたいのが本能的な本音である。先述の通り、淫魔は吸精によって位階を上げる都合上、小淫魔は一生小淫魔のまま生きて死ぬのが普通なのだ。

 

「こういう事、魔族はあんま考えないんスけどね。文字通り心を削る死活問題ッスから。けど、思うんスよ……」

 

 目を伏せたルクスリリアは、常にない乾いた声音を発していた。

 それから、俺の腕をギュッと掴み、言葉を継ぐ。

 

「アタシが大淫魔になったとしても、ご主人とずっと一緒にいられる訳じゃないんスよねぇ……」

 

 如何ともしがたい寿命の差を、ルクスリリアは諦観の念を吐き出すように口にした。

 ルクスリリア曰く、小淫魔の寿命は百年とちょっと。中淫魔になるともう少し生きて、大淫魔になれば森人と同じくらいの寿命になるという。無論、これは生存可能な量の精を摂取していた場合である。

 例え精を吸わなかったとしても、中淫魔になった時点で人間より長生きするのは確実だ。そういった事情もあって、ルクスリリアは先の言葉を漏らしたのだろう。

 

「ゼツボーして自殺するとか、そういうつもりないんで安心してほしいッス。あいつらだけじゃなくて、その子供とかもいるんで寂しくはないはずッスから」

「ああ……」

 

 歴史書に曰く、歴代ラリス王の死因はその殆どが戦死であるらしい。

 中には百歳を超えてなお戦場に立ち、今際の際まで戦い抜いた王もいたようだ。そう、百歳で戦場にいたのだ。

 恐らくだが、この世界の人はレベルか体力ステの高さか、とにかく強い人は普通の人よりも長生きするんだと思う。その仮説でいえば、しこたまレベルを上げた俺も長生きするのだろう。

 しかし、それでも俺はルクスリリアより早く死ぬ。寿命が百歳から二百歳になったからといって、中淫魔時点で二百歳はオーバーする確率が高いのだ。どうしようもない。

 

「ルクスリリア……」

 

 らしくなく不安がる小さな彼女を、俺は優しく抱きしめた。

 自分の力でどうにもならない事は、考えないのが一番だ。

 せいぜい不老長寿になる手段なり何なりを探そうとは思っている。あるのかどうか知らないが……。

 

「それと、もういっちょ心配なのが……」

 

 腕の中、声音を戻したルクスリリアははぐらかすように口を開いた。

 

「一緒にいるうち、ご主人がアタシに飽きちゃわないかって、思う時あるッス、たまに……、いや、ないとは思ってんスけどね……?」

 

 続く言葉に、俺は一瞬キョトンとしてしまった。

 これは、つくづくらしくない。随分と的外れな心配事である。

 そんな俺のアホ面に気づいてか、ルクスリリアは目を逸らして言った。

 

「ほ、ほら、アタシってエッチな事ばっか考えてるじゃないッスか? エリーゼみたいにゲージュツを愛する教養とか、グーラみたいな才能とか、イリハみたいな役立つ趣味がねーんスよ。言っちゃあれッスけど、アタシは……うぅん」

 

 一拍、腕の中の少女は震えた声で感情を吐露した。

 

「ご主人が好きなだけの淫魔って、どうなんッスかね……」

 

 悩み少なそうな、事実そうなのだろうルクスリリアには珍しい声音だった。

 本心なのは間違いないのだろう。俺も俺で、彼女の言わんとしている事にようやっと共感ができた。そんなバカなと、明るく笑って流すべきではない。

 今、弱っている彼女にどうすべきかは分かっている。だが、この件に関しては感情のまま宣言できるほど浅慮にはなれなかった。誓い合った愛が不滅であるならば、世に離婚なんて概念は存在しないはずなのだ。

 俺は彼女を愛している。そこは自信を持って言えるし、誓える。だが、根本的に俺は俺を信じられない。それは恐らく、ルクスリリアも同様なのだろうと思う。

 

「こっち見て」

「ご主人?」

 

 頬に手を添え、至近距離で視線を交わらせる。

 自信のない俺に、自信のない彼女へ、何か気の利いた事を言えるとは思っていない。

 けれど、経験から言える本心は存在する。

 

「それでも、ずっと一緒にいる事はできる」

 

 要するに、例え自分の心に自信がなくても、共に積み重ねる事はできるという話だ。

 時に、幼馴染の友人に飽きる事があるだろうか? 飽きないだろう。生まれた時から一緒の家族に飽きるだろうか? 飽きないだろう。真に人間関係に肝要なのは、積み重ね続けられる関係性なのである。

 然るべき努力と慈しみがあれば、それは一過性の感情や欲望よりもよっぽど強固な絆になる。それを、人は“愛”と呼ぶのだ。

 これを一から十まで実体験で言えれば良かったのだが、残念ながら本の受け売りだ。幼い頃、俺は“星の王子さま”が大好きだった。

 

「……そうッスね」

 

 結局のところ、俺もルクスリリアも、エリーゼやグーラやイリハにしたって、ひたすらに孤独を恐れるぼっちちゃんなのだ。

 伴侶として、仲間として、主従として、家族として。何でもいいから繋がりを欲している。社会の外側にいた存在だからこそ、根本的に自信がないのだ。愛される自信が、である。

 

「俺はルクスリリアが好きだ」

 

 薄っぺらい俺の言葉など、何の重みも積み重ねもない。

 だけど、言葉にしなくちゃ伝わらない。

 だから俺は、彼女達へのアイ・ラブ・ユーを躊躇うつもりはなかった。

 

「最初は不純だった。顔が可愛い。目も可愛い。お腹周りがエロくて、角や尻尾があまりに素敵っていう」

 

 ルクスリリアの髪を撫でる。

 光を反射する金の髪は、俺にとって何にも代えがたい価値と魅力があった。

 触れる度、そんな確信を得る。

 

「次に、心を好きになった。俺には難しい。その心意気。尊敬できると思った」

 

 子供の頃は持っていた気持ち。今だけを楽しむ心。

 削れ、色あせ、やがて失うこれが、如何に尊いものであるか。人は気づかないまま忘れていく。そして、多くの大人が思い出せないままでいる。

 魔族の、ではない。誰でもない彼女の心意気だからこそ、尊敬しているのだ。

 

「ルクスリリアがいい。もう人生の一部なんだ。リリィ抜きじゃあ、苦しいよ」

 

 俺の人生は、既にルクスリリアがいないと回らない。

 幸せになるには、ルクスリリアに幸せになってもらわないといけない。

 俺にとって、ルクスリリアは既にそういう存在なのだ。

 

「ずっと一緒にいてほしいと思う。リリィが許してくれるなら」

 

 言い切ると、ルクスリリアは目を丸くし、一瞬身体を震わせた。

 やがて、脱力するように微笑むと、ちょっと上ずった声を発した。

 

「もう♡ しょうがないッスね、ご主人は♡ アタシがいないと泣き虫になるんスもんねー♡」

 

 細い腕が俺の首に絡みつく。自然と顔が近づき、慣れた動作でキスをした。

 唇を重ねるだけのキス。数秒後、ルクスリリアは名残惜しそうに口を離し、息のかかる距離でニッコリと笑った。

 

「なら、ご主人だけの(あい)で、アタシを大淫魔にしてほしいッス♡ 連れてくッスよ、ご主人の全部♡」

「ああ」

 

 もう一度キスをした。

 今度はがっつり舌を絡めたディープなやつだ。

 休憩は十分だったようで、淫魔のお腹は元のスレンダーさを取り戻していた。

 

 そうして、俺とルクスリリアは再び愛し合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 結局、この日は朝から晩までルクスリリアと連れ込み宿に籠っていた。

 午前は我慢の限界を試すように、午後からは盛りのついた獣のように、互いの欲望をぶつけまくった。質の前半戦、数の後半戦である。

 

 時間感覚も曖昧で、ふと窓を見ると暗くなっていた事に気づき、急いで帰宅したのだ。

 ギリギリ門限までに帰ると、留守番の三人から呆れたような顔をされた。イリハの仙氣眼には、俺とルクスリリアの身体がどうなってるか見え見えなのである。

 

 ところで、午前午後と淫らで爛れた一日を送っていた俺には、ぶっちゃけまだまだ余裕があった。体力面も精力面もである。

 量も数も持続時間も、前世なら間違いなくギネスに載っているだろう性パワー。相手がロリであるならば、今の俺なら玉切れ無しのマシンガンである。

 なので、今宵も皆でワッショイした。

 

「ふああああ♡ すごいいい♡ しゅごいのぉおおお♡ ああっ♡ いっぱい♡ いっぱいきて♡ いっ……ぐぅううううううう♡」

 

 夜も深まった寝室で、俺とルクスリリアは同時に上り詰めた。

 本日何度目になるだろう。数えていないが、最低でも十回は超えている気がする。けれども俺のバーストショットは勢いを維持し続けていた。

 

「今夜は随分と激しいですね」

「朝からと聞いていたのだけれど……?」

「発情期の獅子人を超えとる気がするのじゃ。いや見た事はないんじゃが」

 

 実況解説のお三方は、広い布団で女の子座りして俺とルクスリリアの最終決戦を眺めていた。

 勿論、彼女達にも完了済みだ。一人一人、今日ルクスリリアにしたように激しくねっとりじっくりと愛しまくった。

 

「ひっ♡ ひっ♡ ふぅーっ♡ ひっ♡ ひっ♡ ふぅーっ♡」

「おや?」

 

 事後、ヌプッと身体を離すと、ルクスリリアの様子が変になってる事に気が付いた。

 なんだろう、脂汗をかいてるとか過呼吸になってるとかはないが、常とは違う状態に陥っているようには見える。

 

「どうした、ルクスリリア?」

「な、なんか来るッス♡ アタシの身体で♡ なんか凄い事が起きてるッス♡ うおォン♡ 今のアタシはまるで淫魔型魔力製造機ッスぅ♡ き、気持ちいい~♡」

「えぇ……? だ、大丈夫?」

 

 特に危険はないようだが、それでも心配である。俺は特殊な感覚を持つ二人に目をやった。

 

「ルクスリリアの身体にいつも以上の魔力が駆け巡っているわ。まるで精を消費している時のような……いえ、少し違うわね。迷宮の主を倒した時に似ている気がするわ」

「ヘソの下あたりから陰陽の氣が錬成されておるのじゃ。特に害はなさそうじゃが、今下手に整えようとするとかえって危険かもしれんのぅ」

 

 おろおろする俺とグーラとは対照的に、二人は落ち着いていた。

 ひとまず、危険はないという二人の見立てを信じよう。

 

「んほぉおおおおおっ♡」

「うおっまぶしっ!」

 

 ルクスリリアが嬌声を上げた瞬間、彼女の全身に人修羅めいた文様が浮かび上がり、それはやがて眩い光を放った。魔力感覚でも、彼女の全身から大量の魔力が溢れ出たのを感知できた。

 光が収まると、そこにはいつもと変わらないルクスリリアが横たわっていた。さっきの文様も見つからないし、何だったんだ今の。

 

「な、なにがあったんですか……?」

「もしかして……」

 

 エリーゼとイリハの見立て。それからタイミング。思い当たる節があり、俺はコンソールを開いた。

 お昼に確認したルクスリリアの種族レベルは二十九。しばらく前から、この数値に変化はない。

 もし種族レベルもジョブ同様に三十で打ち止めなのだとすれば、そして先の吸精でレベルアップしたのであれば、ルクスリリアは大淫魔に進化したのではないか?

 そう思った、のだが……。

 

「あれ?」

 

 別にそんな事はなかった。

 そうはならなかったものの、それとは別にちょっとよく分からない事態になっていた。

 種族レベルの欄を見ると、中淫魔のレベルが三十になっている。それはいい。

 だが、数字の部分がピカピカと点滅しているのだ。これは一体どういう意味だ?

 

「ルクスリリア、何か変わったトコってない? 痛いとか苦しいとかは?」

「ん~?」

 

 呆然としていた当人に問うと、ルクスリリアは何事もなかったように起き上がり、自身の身体をぺたぺたと触りだした。

 角、胸、尻尾。そして、最後に首をかしげる。

 

「ん~? おっかしいッスね~。大淫魔になったら角が大きくなるとか聞いたんスけど。他にも色気が増すとか乳がデカくなるとか……」

「伸びてませんね」

「胸も変わっとらんのぅ」

「魔力量も少し増えただけで、劇的に増えている訳ではないわね」

 

 実際、ルクスリリアは大淫魔に進化していない。表記上は中淫魔のままである。

 パッと思いつくものとしては、単純に種族レベルの上限が三十ではなかったとか。しかし、ならば何故あのような反応があったのかが気になる。あからさまに今から進化しまっせという演出だったのだ。

 もしくは、イリハの退魔士ジョブみたいに何かしらの条件を満たしていないから大淫魔に進化できなかったとか。レベルは大丈夫だけど、何か足んねぇよなぁと……。

 

「まっ、どうでもいいッスけどね!」

 

 あれこれ考えていると、当のルクスリリアはペチンと角を叩いてペロッと舌を出した。

 不思議現象である。俺としてはめっさ気になる案件なのだが、当人としてはそんなに気になる事ではないらしい。

 

「ふぅん? 是が非でも大淫魔になりたい、という風ではないのかしら……? 今よりずっと強くなれると思うのだけれど」

「ん~、そうッスね~。けど大淫魔になると、すっげー燃費悪くなるらしいんスよ。そのコト考えたら、まぁ今のままがベストなんかなーって思うッス。なんであんま気にしてねぇッスね!」

「そんなもん?」

「そんなもんッス! あぁ、ご主人が気になるなら調査とかお勉強とか付き合うッスよー」

 

 まぁルクスリリアが言うなら、それでいいんだろう。

 とはいえ、本人が気にしていなくとも、気になるものを放置するのは俺としちゃちょっと嫌だ。

 とりあえず、今度また図書館に行こうと思う。俺が読んだ事のない淫魔専門書には何か手がかりがあるかもしれない。何も害が無ければいいんだが、調べずにはいられない。

 

「さっ! 明日からまた鍛錬ッスよ! 早く寝るッス!」

「そうですね」

 

 気になるには気になるけど、そう気にする程のものではない。然るべき備えをすればいいだけだ。

 そんなこんなありつつ、俺達は眠りにつくのであった。

 

 

 

 翌日、ルクスリリアは病を患った。

 実に共感し難い、当人としては一大事。

 それは……。

 

「せっ、精の味がしねぇッスゥ!?」

 

 味覚の消失であった。

 下の口の。




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