【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。モチベが続いております。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 淫魔王国編ですね。
 よろしくお願いします。

 あ、今回アンケあります。
 すぐ閉じますので、お早めにどうぞ。


淫魔のメスガキは一途じゃないと思った?

 子供の頃、誰しも一度は空を飛びたいと思った経験があるだろう。

 某光の巨人のように、あるいは某野菜人のように。それで言うと、今の子は何に憧れるのかな。

 俺の場合、赤くて飛べる系豚さんみたいに飛んでみてぇと思ったものである。

 

 そんな俺は、異世界に来て空飛ぶヘラジカに騎乗するという経験をした訳だが、これは最高に気分が良かった。

 走行風は無色バリアで防いでくれるし、地上走る時もラザニアは上下に揺れないよう気遣ってくれるのである。なんて紳士な鹿さんなんでしょう。

 しかしながら当然に、バイクと同じで長い間またがっていると凄く疲れる。時速百キロオーバーで空を飛んでるのだ。落ちないよう、誰も落とさないよう気を付けないといけない。

 リンジュの道中、ラザニアは平気そうだったが、乗り手側の疲労を考慮して長期の移動ではちょこちょこ休む必要があったのである。

 

 時に、かつてこの世界には、空を飛ぶチャリオット――空戦車なる乗り物があったらしい。

 飛行可能な召喚獣に牽引してもらって、後ろの車に乗って戦う兵器。全盛期には粋に暴れ回ってたっていうぜ。残念ながら、戦争でその有用性を示す事はできず、そのまま廃れて今では博物館送りか倉庫の肥やしになってるようだが。

 でも、俺達一党のニーズには合ってる気がする。戦車に乗って戦うつもりはないが、前述の問題を解決する為、俺達は例の空戦車なるものを造ってもらったのである。

 のだが、それは思ってた以上に……。

 

「ヒャッホォゥ! 最高だぜぇーッ!」

 

 最の高だった。控えめに言って、超快適である。

 今、俺達は座席に座って空を走っていた。

 まさに空飛ぶオープンカー。可能なら大音量でアニソンを流したいところだ。

 

「ふふっ、素晴らしい速さね……」

「はい! 馬車よりずっと速いです!」

 

 車体を引いているのはラザニアだ。御者席ではルクスリリアが手綱を握っている。戦車部分の座席は前後二列の六人乗りになっていて、他メンバーは各々座席に座っていた。

 遠目に見たら、俺達は季節外れのサンタクロースに見える事だろう。荷車を引くヘラジカに、サンタポジのルクスリリア。荷物は俺とロリという構図だ。

 

「速いし、気持ちいいのじゃ! こりゃもう地上の車じゃ満足できんのぅ!」

 

 ガリガリダークエルフことケイン氏作の空戦車は、これまでとは比較にならないくらい快適な移動を提供してくれる代物だった。

 走行風は例によってラザニアがバリアしてくれるし、何より足を揃えて座れるのが素晴らしい。安全面を考慮して、座席には落下防止用の手すりやシートベルトまで完備されているのだ。

 おまけに、現在の最高速度は以前のバイクスタイルよりも速いのである。重い戦車を引いているのに何故? と思ったのだが、どうやら以前のラザニアは俺達を振り落とさないよう慎重に走っていた分、全力を出せなかったっぽい。戦車を装備したラザニアは、ノビノビと空を飛んでいた。

 

「あっ、また来ましたね」

「追いかけてくるのじゃ!」

「エリーゼ、よろしく」

「任せなさいな」

 

 まぁ走ってる間は快適でも、いつものように空の魔物は襲ってくるのだが。

 王笏を手に身を乗り出したエリーゼは、まるで機銃でも撃つように追跡魔物を撃墜していった。

 跨っている状態よりも射角が広いので、魔物の迎撃が容易になったのも有難いな。遊園地のアトラクションみたいだぜ。

 

「ルクスリリア、疲れてない?」

「へーきッスよ。ラザニアも余裕そうッス」

 

 疲労の具合を訊いてみると、御者のルクスリリアはいつもの調子で答えた。

 現在、彼女は精の味覚障害を患っている。発症当初は嘆いていた彼女も、今では以前までの元気を取り戻しているように見えた。無理しているという風ではない。一縷の希望を見いだせた事で、彼女は少し元気になってくれたのだ。

 そう、俺達は彼女の病を治す為、空戦車に乗って淫魔王国に向かっている最中なのである。

 

 ニーナさん曰く、淫魔女王ならこういった症状について何か知識があるかもしれないらしい。何の手がかりもない現状、藁にも縋る思いで彼女の故郷に向かっているのだ。

 元淫魔騎士のグレモリアさんにお願いして何とか女王に謁見できないかとも考えたが、それは現実的ではない。奴隷身分は王城に入れないようなので、ルクスリリアを診てもらうには向こうから招いてもらう必要があるのだ。

 無論、一介の冒険者が王城へ招かれるには相応の功を立てる必要がある。そこで、俺はグレモリアさんが計画していたお見合いパーティに協力する事にしたのだ。これだけで何とかなると思ってはいないが、やれる事はやっておきたい。少なくとも、何もしないよりは健全だろう。

 もちろん謁見の前に調べられる範囲で調べようとは思っている。それで解決したならそれでいいのだ。

 

「にしても、交流会のメンバー意外と集まったッスよね」

「あの紙だけでは何ともならなかったでしょう」

「なんだかんだ、銀細工のカリスマありきじゃったしのぅ」

「皆様の協力あっての事だと思います。あっ、ご主人様がダメだったとかではなく……!」

「やっぱ人脈って大事なんだなって思ったよ」

 

 お見合いパーティこと異種間交流会。案の定、グレモリアさんは冒険者を集められなかったので、参加者は全員俺経由である。

 気合を入れて挑んだメンバー集めだが、特に俺はこれといって何かをした訳ではない。まずリカルトさん達に話し、本人等の参加を取り付けた。それから彼等の冒険者ネットワークを使って食い詰め冒険者を募ってみたら、思いの外集まってくれたのである。

 しかし、ただ参加者を集めただけでは謁見に相応の功績とは言えまい。チリツモ精神を持ちつつ、今はとにかく何としても交流会を成功に導かねばならない。

 それに、謁見したい理由は、今回の件の他にもう一つあるのだ。

 

「淫魔王国には桃のお酒もあるのでしょう? 興味があるわ」

 

 あわよくば、淫魔女王にエリーゼの呪いも診てもらえないかと考えている。

 今回、最大の目標はルクスリリアの治療だ。だが、性関連最強だという淫魔女王なら、エリーゼの不妊の呪いも解除できるのではないかと思ったのだ。

 話によると、ルクスリリアは女王手ずから呪いをかけられたらしいし、並みの呪術師よりは呪いに詳しいはずだ。その事を話してみると、エリーゼからは「ルクスリリアを優先なさい」と言われたものである。

 捕らぬ狸の何とやら。それでもいつの日かはと心に留め置くべきだろう。やりたい事も大切だが、やるべき事も大事である。辛いところとは思わないし、俺は覚悟もできている。今後もずっと、俺は異世界で生きていくのだから。

 

「あそこッスね」

 

 街道を見下ろしながら飛んでいると、遠くの町に件の馬車隊が停まっているのが見えた。交流会の参加者たちである。皆には数日前から先に行ってもらっていたのだ。

 あちらも俺を見つけたのか、知り合いが手を振っていた。俺達は滑走路に降りていき、減速しながら着陸した。ラザニアの制動力とサスの優秀さ故か、地面に降りた感触はふんわりしていた。

 

「うぉ!? すげぇ迫力だな、おい!」

「アレなら飛んでても怖くなさそうっすね……」

「おう! なんだお前すげぇなコレ! 空飛べる上にすっげぇ速ぇじゃねぇか! おじさんも欲しいな~、こういうの!」

「リカルトさん、これは空戦車といって古代の戦争で使われていた兵器ですよ! 我が家にも一両保管されていますが、整備不十分で動かせないのです! まさか、現代で新造できる職人がいたとは……!」

「クククッ! 古の箱舟……! ククク……!」

 

 衛兵の指示に従って滑走路の外で停車すると、戦車の周りに人が寄って来た。皆、戦車に興味津々の様子である。

 

「イシグロさん、ちょうどいいところに来ましたわね! タイミング計ってましたの?」

 

 集まって来た冒険者達に挨拶していると、そこに運営側のグレモリアさんが現れた。

 どうやら、ついさっきこの町からの通行許可を取っていたようである。俺待ちだったところ、ちょうど到着した感じか。

 

「今からなら、夜の前に淫魔王国の宿場に入れると思いますわ。早速ですが、出発しても構いませんか?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 到着早々、再出発。俺達は馬車隊の最後尾から付いて行く事となった。

 これまでは優雅な空の旅だったが、これからは穏やかな地上の旅である。

 それというのも、ラリス王国内ならともかく、空戦車で他国に入るのは侵略行為と取られかねないらしいのだ。

 

「それにしても立派な空戦車ですね。どなたがお作りになられたのですか?」

「これは西区のケインという戦車工匠に造って頂いた代物になります」

「おぉ、戦車工匠……!」

 

 道中、馬上で並走してきたミラクムさんともお話する。

 この男の子はラリスのお貴族様であるらしく、貴人や武人というより爽やかなスポーツ男子といった雰囲気を持っている。身長は俺とそう変わらないのだが、彼の齢は十四である。やはり、異世界人は背が高い。

 おまけに乗ってる馬もなかなかにゴツく、それでいてサラブレッドのようにスラッとしているのだから素敵である。

 

「ミラクムさんの馬こそ立派な体格をしておりますね。お名前は何というのですか?」

「リントノホマレと言います。こいつとは十歳の頃からの相棒で……」

 

 そう言って爽やかに笑う彼は、邂逅時に俺を一党員として勧誘なんかをしてきた人である。ルクスリリア達の面倒も見るという申し出付きで。

 無論、当然、一も二もなく断った。一応の理由を話すと、なんと彼はこのお見合いパーティに参加してきたのである。

 どうやら、俺の勧誘に失敗した彼は、今はリカルトさん達を勧誘しようと画策してるっぽい。本命はトリクシィさんで、大穴に俺といったところか。鬱陶しくない範囲で声をかけてくるあたり、彼の為人が窺える。

 

「淫魔王国は久しぶりですね。以前は母と一緒でした」

「ニーナ先輩、王都生まれッスもんねー」

 

 交流会にはニーナさんも参加している。淫魔側というより、俺と同じ運営側でだ。彼女は馬に乗って馬車隊を護衛していた。

 それで言うと、俺も運営側という事になるので、こうして殿(しんがり)を務めている訳である。魔物が来ても遠距離持ちがブッパすればいいだけだからな。

 

「イシグロさん、関所に到着しました。こちらへ」

「はい」

 

 パッカパッカと長い間揺られていると、やっと関所に到着した。

 一応、貴族のミラクムさんと銀細工持ちの冒険者は軽い入国検査を受ける必要があるのだ。

 まぁそれはいいのだが……。

 

「見て見てあの男の子! ドーテーよドーテー! あぁ~、たまらねぇわ♡」

「ドーテーの上に強いのね……嫌いじゃないわ!」

「んん~ッ♡ 馬車の中からも香しいドーテースメルがしますぞ~♡ 夜の役割が持てますな♡ 即ハメ以外あり得ない♡」

 

 さっきから、関所の淫魔衛兵さんからの視線が鋭い。いや鋭いというか、熱いっつーかネットリしてるっつーか。ミラクムさん、童貞なのバラされちゃってるじゃないか。

 そんな変な視線を浴びつつも通行の手続きはスムーズに進んでいった。

 

「最近は国境付近で謎の失踪事件が発生していますので、くれぐれもお気をつけください。グレモリアさんがいらっしゃれば問題はないと思いますが……」

「失踪事件ですの?」

 

 手続きが終わるのを待っていると、淫魔衛兵から物騒な話を聞かされた。

 穏やかじゃないですね。俺は真面目じゃない淫魔からのチラ見を無視し、真面目な淫魔の声に耳を傾けた。

 

「はい。最初はラリスの女性が行方不明になり、それから淫魔王国の民も突如消えてしまったのです。しかし、現場付近に争った痕跡はなく、ただ行方知れずになったという事しか分からない状況で」

「魔物の仕業ですの?」

「分かりません。両王国ともに兵を派遣して下さっているのですが、未だ原因は不明なままです。その他、野生動物が活性化しているという情報もございます。先ほども申しました通り、くれぐれもお気をつけください」

 

 行方不明事件に、野生動物の活性化。実にタイミングが悪い。

 ちょっときな臭いが、まぁ馬車隊に被害が出るとは考え難いだろう。皆に言って、俺達は緊張し過ぎない程度に警戒を維持する事にした。

 忠告を受けた俺達は、淫魔衛兵の視線を頂戴しつつ関所を通って行った。

 

「この森を抜けた先に宿場がございますわ。気合入れていきますわよ!」

 

 関所を抜けてしばらく進んでいくと、馬車隊は鬱蒼とした森に差し掛かった。

 淫魔王国の街道はラリスほど舗装されておらず、基本的に土がむき出しになっている。加えて森の木々は背が高く、なんか進撃の巨人の森みたいだった。立体機動が有利そうなフィールドである。

 

「王都より空気が綺麗だ。こういうのも悪くないな」

「懐かしいッスね。ここも前に通った道ッスよ。ご主人と一緒に戻ってきたッスし、気分的には凱旋ッス!」

「それ、イリハもだいぶ上達したわね」

「こんなの、まだまだじゃよ」

「それでも凄いと思います」

 

 イリハの奏でるリュートを聴きながら、自然豊かな道を往く。

 これまでは目的地までの効率的な移動って感じだったが、今はなんか旅してるって気分。

 馬車隊の速度は遅いが、前世フィクションで見た馬車程にはトロトロしてないしな。これも異世界馬の実力か。

 

「なんだか長閑ですねぇ」

「そうじゃな。淫魔王国の戦力は国境に回しとるんじゃろ」

 

 ポロローンと、弦を弾くイリハの発言がフラグだったのだろうか。

 次の瞬間、俺の敵味方反応レーダーに感があった。

 

「襲撃! 敵は左右から!」

 

 声を上げた俺は、アイテムボックスから弓を取り出した

 護衛の面々も気づいたのか、馬車隊に速度を上げるよう指示した。鞭を入れられた馬が力強く土を蹴る。

 

「イシグロさん!」

「後ろから来ます!」

 

 レーダーによると、敵は左右の森から挟み込むように突っ込んできている。この速度なら、殿の俺達が対処すればいい状況になるか。

 それから徐々に、ドドドドと何者かの群れが走る足音が聞こえてきた。

 

「「「ピギャアアアアア!」」」

 

 先手必勝、矢を放とうとした俺。杖や刀や掌を構えた皆、ルクスリリア以外の我が一党は、襲撃してきた敵を見て固まってしまった。

 土煙を巻き上げ、地鳴りのような足音を伴い、馬車隊を追いかけてきたのは二足歩行のキノコ人間だった。

 否、キノコ人間と言うだけでは正確には伝わらないだろう。アレは、むしろ……!

 

「あれは……摩羅茸(マチンゴ)ッス!」

「マチッ……!?」

 

 それは、頭部と思しき箇所に光沢のある笠を被っていて、血管の浮かび上がった胴体をしていた。

 加えて奴等は個体差が激しいようで、大きくて太い奴から、小さくて細い奴。中にはビキビキと硬そうな奴や柔らかそうな奴なんかもいた。

 そんなモロチンモンスターの大群が、走る系ゾンビのように追いかけてきたのである。

 

「ひぃ!? 目ぇ合った途端足速くなったぞアイツら!」

「いいから焼き払いましょう。私が一掃するわ……!」

「いえ! エリーゼさんでは森への被害が大きすぎます!」

「ですね。皆、ニーナさんの援護だ!」

 

 言い終わるより前に、馬上のニーナさんは翼を広げ、腰の剣を抜き放った。

 俺は援護すべく、改めて矢を番えた。皆も各々遠距離攻撃の構えを取る。

 これまた、次の瞬間である。

 

「行くぞ、リントノホマレ!」

 

 タン! と、俺達の頭上を軽やかに跳んだ影があった。

 それは貴族子息のミラクムさんだった。収納魔法からグレイブを取り出し、追いかけて来るキノコ集団に真正面から突っ込んでいったのである。

 突撃、粉砕。舞うようなUターンからの再突撃。摩羅茸群の後ろについたミラクムさんは、巧みな槍捌きで以て群れの数を削っていた。

 

「うぉおおおおおおっ!」

 

 グレイブを振るう度、笠が切り飛ばされる。攻撃してきた敵を馬の脚が踏みつぶす。優雅にして苛烈。まさに人馬一体。摩羅茸軍団は全く相手になっていなかった。

 貴族に負けじと皆も戦い始める。邪魔しないよう弓矢で援護しながら、俺は彼の馬の動きに目を奪われていた。

 

「あの馬……!」

 

 銀竜道場で習ったスキルの感知。これに間違いがなければ、さっきあの馬は能動スキルを使っていたように見えた。

 Uターンしてからの再加速も、尋常な動きではなかった。もしかして動物が能動スキルを? いや、しかしミラクムさんからも魔力が流れてたような……?

 

「近くのはボクがやりますので」

「ほい。特に焦る必要はないのぅ」

「杖の選択を間違えたかしら……」

「変ッスねー、あいつら人なんか襲わないはずなんスけど……」

 

 地上を走るミラクムさんと、空中から攻撃するニーナさん。それに加えて戦車乗り勢の援護。

 如何な大群とて、その数はどんどん減っていく。そして、一際デカい一匹がスピードを上げて迫ってきた。

 鳴き声あげて走る摩羅茸。照準している。阿吽の呼吸でグーラと意思疎通。俺が矢を放とうとしたが、すんでのところでミラクムさんが反応した。

 

「対象指定、【疾走令】!」

 

 瞬間、リントノホマレが強く踏み込むと、爆発的な加速と共にその馬体が舞い上がった。

 それはまるで、遠投球の軌道を騎馬で再現するようで、やがて着地と同時に鋭い蹄が摩羅茸を踏みつぶした。

 ああ、なるほど。それは乗り手の指揮スキルだったのね。

 

「あ、ありがとうございます」

「いえ、貴族の務めですから」

 

 キラリと歯を光らせるミラクムさんは、きっと立派な貴族さんなんだと思う。まぁ対処できましたけどね? とは言い出しづらい雰囲気だ。これがあるから即席の一党は難しい。

 それはそれとして、俺は馬の能力に驚いていた。バフ込みとはいえ素晴らしい加速である。凄い凄いと思っていた異世界馬だが、まさかここまで凄いとは……。

 

「全体、減速! 減速してくださいなー!」

 

 摩羅茸を殲滅すると、一生懸命逃げていた馬車隊は徐々に速度を落として停止した。どうやら、馬車馬の方はお疲れらしい。

 通り過ぎた街道には、走る猥褻物チン列罪の死体が散乱している。こいつら魔物かと思ってたのだが、死体が残っているという事は魔物じゃあないらしい。こいつら原生生物だったのかよ……。

 

「このまま放置するのもよろしくありませんので、規定通り処分しましょう。宿場に着いたら報告ですわね」

「あ、処分なら俺がやっときますよ。後で追いつきますので……」

「いえ、イシグロさんはそのままお進みください。代わりに馬の方をお願いします。後処理は私が……」

 

 休憩の後、馬車隊はゆっくりと歩きだした。

 ニーナさんは摩羅茸の死体を処理しに行った。焼くのか埋めるのか、それとも退けるだけなのか。そこらへんは分からんが。

 

「ひどい目にあったわ……」

「変な形でしたね。何なのでしょうか、アレは」

「だから摩羅茸って言ってるじゃないッスか。言っとくっすけどグーラ、あれは食べれないキノコッスからね。毒があるんス」

「ボクのこと何だと思ってるんですか……?」

「よく分からん生き物じゃの~。まっ、ここ街道じゃし、流石にもう大丈夫じゃろ」

「なんか嫌な予感がする……」

 

 が、悪い予感は当たるもので……。

 

貴性蔦(ハイエロファント・クレイン)ッスよ! 捕まったら痺れるッス!」

「火は拙いか。エリーゼ、凍らせてくれ!」

「ええ。最初からこっち使えば良かったわ……」

 

 エロ触手モンスターに襲われたり……。

 

潮吹き淫花(スプラッシュ・マンドラゴラ)ッスよ! 吐き出してくる体液に触れると強制的に発情するッス!」

「あれではリントノホマレが近づけませんね。イシグロさん、よろしいでしょうか」

「はい。エリーゼ、頼む」

「便利ねぇ、これ……」

 

 媚薬体液を吹きつけてくる花に襲われたり……。

 

溶酸粘体(アシッド・スライム)の群れッス! 物理攻撃無効ッスよ!」

「おっ、ちゃんとファンタジーなの来たな!」

「気を付けるッス! あいつは服だけを溶かすスライムッスよ!」

「いつからここはエロRPGの世界になったんだ!」

「とりあえず凍らせるわね」

 

 その他にも、淫魔王国産の色々なモンスターに襲われた。

 しかもそのどれもがどっかで見たエロ系であり、しかもしかもそいつらは魔物ではなく淫魔王国原産の野生動物だというのである。なんじゃそれ。

 

「お疲れイシグロ、なんか凄い事になってたな」

「ええ、まぁ……」

「はぁ~、いいなぁ馬術も練習しようかな……」

「おや、トリクシィさんは馬に興味が?」

 

 結局、それらの後処理などをしていると、宿場に着く頃にはすっかり夜になっていた。

 宿はオーセンティックファンタジースタイルの木のお家で、灯りは蝋燭一つという趣のある宿部屋だった。

 俺が泊っているこの部屋は一党で占拠している。隣は運営の淫魔が使っていて、参加者達は別の宿屋に泊まっていた。

 

「淫魔王国って怖いところなんですね……」

「のじゃ。街道でコレとかどうかしとるのじゃ」

「淫魔王国兵が巡回していると聞いたのだけれど……?」

「おかしいッスね~。アタシが通った時は一度も襲われなかったのに」

 

 関所で衛兵が言っていた通り、マジで野生動物に異変が起こっているのかもしれない。

 民の行方不明事件に、野生動物の活性化。ルクスリリアの話じゃ摩羅茸は人を襲わないらしいし……。

 せめて、交流会の終了までは何も起きないでほしいと願うばかりだ。

 

「寝ようか」

 

 とりあえず、陸と空の移動のせいで疲労が溜まっている。

 場所が場所なのでいつものおせっせなどする事なく、持ってきた簡易ベッドに身を預けた。

 またまた、次の瞬間だった。

 

「襲撃ーッ! 襲撃ーッ!」

 

 カンカンカン! 夜も深まった宿場に、文字通りの警鐘が木霊した。

 バタンと、隣部屋の淫魔達が窓を開けて飛び発った音。有事ならば俺達も出るべきだろう。

 俺達はコンソールを使って即座に装備を整え、急いで外に出た。

 

「何事ですの!? 数と方向は!」

 

 淫魔が集合してる場所に着くと、グレモリアさんが兵士に声をかけているところだった。

 対し、一般淫魔兵は軍属らしいハキハキした発声で答えた。

 

「はっ! 被虐猛豚(マゾブタ)です!」

 

 兵士の報告を聞くと、集まっていた淫魔兵が音もなく震えたのが分かった。

 ん? いや、なに? マゾブタって言った今?

 

「なん……!?」

「被虐猛豚の群れです! 方角は南方! 統率個体は確認できず!」

「なんですってぇ!?」

 

 言って、上空に飛び上がって南方を睨むグレモリアさん。

 俺も見張り台に登り、射手スキルの【遠視】を発動する。

 するとそこには、報告通りの光景があった。

 

「ブヒ! ブヒッ! ブモモモモモ!」

「ブヒィイイイイイ!」

「ブゴゴゴゴ! ブガガガガガッ!」

 

 というか、それはただの豚ではなかった。

 四足歩行で走ってて、丸々と太っているのは別にいい。しかしその頭部はツルツルに禿げ上がっていて、口周りにギャグボール状の鱗があり、鞭のような尻尾を振り回して自身の身体を叩いていた。

 例えるなら、SMクラブに通う四つん這いM豚課長といった印象の豚だった。それが群れを成し、こっちに向かって突撃してきているのだ。

 イチモツを勃起させながら、である。

 

「「「ブヒィイイイイイ!」」」

 

 地獄かな?




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