【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰でモチベが湧いてきます。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 アンケートのご協力、ありがとうございます。
 結果、イシグロの新武装は棍になりました。
 孫悟空が振り回してる如意棒みたいなイメージですよね。世界観の諸々を考慮すると、対人戦に向いた武器って感じになりそうです。
 その他もそれっぽく詰めるので、よろしくお願いします。


みだら荘と淫魔さんと

 淫魔王国とは、異世界における畜産最強国家である。

 それは質・量ともに最強なようで、衣服爆散級に美味い高級肉やラリス庶民でもおやつ感覚で食べられるヨーグルトなど、その品揃えに抜かりはない。

 肉に乳に嗜好品。輸出用だけでなく自国の民が食べる分も作っているので、国内には数多くの牧場があるという。自然、その規模たるや推して知るべし。

 

「おぉ~」

 

 青い空、緑の地平。見渡す限りの大牧場。

 ブモーという低い鳴き声。爽やかな風に混じって、昔牧場見学で嗅いだ牛の匂いが香ってくる。柵の中では白黒ブチの乳牛が呑気そうに草を食んでいた。

 なんだか、北海道旅行を思い出す光景である。

 

「こうも広いと壮観ね……」

「ボクのいた村とは比較になりませんね。飼ってたのも羊か鶏くらいでしたし」

「リンジュじゃあこんな大きいの作れんのぅ」

「そりゃ淫魔王国ッスからね!」

 

 ゆっくり進む車の上で、皆が各々感想を述べている。宿場を出てしばらく、淫魔王国行きの馬車隊は大きな牧場の間を通っていた。

 実に牧歌的である。ラリスと此処じゃあ時間の流れが違っているかのようだ。

 

「ふわぁ~、ねむ……」

「お疲れ様です、イシグロさん。昨晩は任せきりで申し訳ありませんでした」

「いえ、ああいう時くらいは働かないとですからね」

「おや、結局戦っていたのですね。どうせなら僕を呼んでくださればよかったのに」

 

 まさに、誰もが夢見る異世界スローライフ。

 二足歩行おチンチンや、媚薬体液フラワーがいる国とは思えない。

 牧歌的であり、勃起的でもあったとさ。

 

 結局、あのあと俺達は一晩中武器を振るっていた。

 被虐猛豚とかいう謎生物相手に、である。

 

 不幸中の幸いか、奴さん等は迷宮の魔物とは比較にならんくらい弱かった。

 魔物の群れなら圧殺されていたかもしれないが、一応一般アニマルであるらしい野生豚程度いくら群れようと銀細工の脅威にはなり得なかったのである。

 まぁ弱かったのはいいのだが、ちょっとばかり面倒な相手なのは確かだった。

 

 まず、何故か被虐猛豚は謎の不死性を持っていて、どれだけキツい一撃を入れてもミリで生き残る特質があったのだ。

 なら問答無用の斬首戦術でいいじゃんとも思ったのだが、ルクスリリアによると被虐猛豚の血液は魔法無効の土壌汚染を引き起こすらしく、できるだけ打撃で殺すのが望ましいというのだ。そのせいで一匹あたり二回殴る必要に駆られた訳である。思い切り殴ったら爆散する手前、本気で攻撃する事もできなかった。

 あまつさえ豚の群れは一気に来てくれず、まるでタワーディフェンスゲーのようにウェーブ制で襲ってきたのである。しかも襲撃イベントは朝まで続き、最前線にいた俺達は湧く傍から蹴散らしていく羽目に。そのせいで超眠い。

 

「不眠ポーション飲んどきゃよかった……」

「ご主人様、到着までお眠りしますか? 後ろなら何とか……」

「徹夜したくらいで疲れるなんて、人間って脆いのね……」

「言うてわしも眠いのじゃ~」

「アタシ等魔族は平気ッスけどね。おっ、そろそろ見えてくるッスよ」

 

 変わり映えのしない風景を見て心を癒していると、地元民のルクスリリアは現着が近い事を教えてくれた。

 やがて地平線の先が見えてきたようで、馬車に乗っている人達は歓声を上げている。気になった俺達は空戦車を降り、皆で目的地を見た。

 

「アレこそ淫魔王国唯一の都、常夢の“ケフィアム”ッス!」

 

 遠く視線の先にあったのは、太陽を反射する白亜の城壁だった。

 ラリス王国の進撃壁や、リンジュ共和国の似非ジパング城壁とは違う。精緻なレリーフの刻まれた城門は、まるで旅人を誘う理想郷の様。

 

「おぉ……」

「門構えも立派じゃし、壁だというのに傷ひとつないのじゃ。綺麗じゃの~」

「ええ、美しい造りね。建材は何かしら?」

「防衛はそこまで考慮してなさそうですね」

 

 あえてRPG風に例えると、ゲーム終盤に行ける魔導都市的な雰囲気。絶対良い感じのマジックアイテム置いてあるじゃん、みたいな。

 ここにきてやっと正統派異世界ファンタジーの街である。中身もそうだったらいいんだけどなぁ。

 

「おい見ろよ。淫魔達が歓迎してるぜ!」

「見えねーよ!」

「豆粒程度にしか……アレか!」

 

 馬車の方では、弓を背負った冒険者達がはしゃいでいた。と思ったら、俺とは別のところを見ているようだった。

 

「ん?」

 

 歓迎とな? と射手スキルの【遠視】を使って見てみると、何やら門の前に人だかりができているっぽかった。

 開けっ放しの門の前、如何にもアナルが弱そうな淫魔騎士が少数に、あんまり強くなさそうな淫魔市民が沢山いる。そんな淫魔達が、「おいでませ冒険者様♡」という横断幕を掲げている。

 

「あぁ、本当にされてるんですね……」

「知っているのかニーナさん」

「ええ。恐らく、交流会の審査に落ちた小淫魔達だと思います。合格者への反発を避ける為、落選者には初見童貞を与えるのだと……」

「な、なるほど?」

 

 そんな話をしつつ馬車隊が近づいていくと、徐々に淫魔達のキャーキャー声が聞こえてきた。

 彼女達はアイドルを出待ちするファンのようだった。厳めしい顔の門番はドルオタ淫魔を抑えつつ、冒険者の詰まった馬車をチラチラと見ていた。

 

「グレモリアだな、ご苦労。さぁ、こちらへ……間に合わなくなっても知らんぞ」

「ええ。挨拶は後ほど……。では皆さん、おいでになって!」

 

 グレモリアさんが生真面目そうな淫魔と短い会話をすると、冒険者達に降車を要請した。

 てっきりこのまま馬車で移動するのかと思っていたが、そうはしないらしい。言われるがまま冒険者が一人一人降りていくと、パンピー淫魔の視線は参加者の身体をスキャンし始めた。

 

「ぶほっ!? エチチ注意報! エチチ注意報発令! あ~んダメダメダメ! 流石ラリスの冒険者は格が違ったわ!」

「性闘力五千、六千……まだ伸びる! すごいわあの子! 私の性闘力計測器(スカウパー)に狂いが無ければ一晩で七回はイケる子よ!」

「くそぅ! くそぅ! ワッチも参加したかったでありんす! あんな試験受かるワケないでありんす! こんなの生殺しでありんす~!」

 

 ドルオタ淫魔の間を冒険者達が歩いていく。それはまるで、レッドカーペットを往く銀幕スターの様。

 こういう時、人それぞれ性格が出るものらしい。お調子者の射手は淫魔達に手を振り、気の弱そうな魔術師くんはおっかなびっくり歩いていた。どんな対応であれ、淫魔は大興奮で迎えていた。

 

「へへへっ、こいつぁ気分がいいな! おじさん淫魔王国に移住したくなってきたぜ!」

「あぁ~、みんな髪整えてて良いなぁ~。匂い嗅ぎてぇなぁ~」

「んほー! こりゃすげぇっすわ! こうまで歓迎されちゃあ何か勘違いしちまいそうだぜぇ!」

「ククク……」

「トリクシィさん、どうされました?」

 

 当然、銀細工や鋼鉄札の冒険者にも熱い視線が突き刺さる。

 何度も修羅場を潜っているだけあり、彼等の歩き姿は堂々としたものだった。が、それはそれとしてトリクシィさんとミラクムさん以外は鼻の下を伸ばしっぱなしだった。

 

「あれ? あそこにいるの淫魔じゃない?」

 

 ラザニアを戻し、戦車をアイテムボックスにぶち込んで、俺達はニーナさんの後についていく。

 そんな中、ルクスリリアは一部の淫魔から注目されていた。前に出て不躾な視線を遮断すべきかと思ったが、訝しげな注視を受けたルクスリリアはちっぱいを誇示するような堂々たるモデル歩きを披露した。

 

「ふふ~ん、こん中で誰より経験豊富なの考えたら、どう見られようがアタシの完全勝利ッスね!」

 

 大丈夫そうである。

 あんまり良い思い出がないっぽい故郷でも、そのへん特に気にしていないようだった。

 

「す、すごいですね……ボクちょっと怖いです」

「同じく、あんま居心地よくないのぅ」

「気にするだけ無意味よ。その気になれば一瞬で殺せる相手に怯える必要などないわ」

「物騒だけど、まぁ真理だよなー」

「それはそうでしょうが、あまり淫魔と目を合わせない方がよろしいかと……」

 

 淫魔をかき分け、門をくぐり、街を見渡した俺は再度目を見開く事となった。

 陳腐な表現だが、ケフィアムはとても綺麗な街だったのである。

 

「ようこそ皆さん! ここが淫魔の住まう街ですわ! 今住民は少し家に籠って頂いてますけれど、普段はもっと賑やかですのよ!」

 

 先導しながらグレモリアさんが両手を広げる。彼女の示す先には、異世界で見た中で最も美しい街並みが広がっていた。

 白を基調とした石造りの建物に、道端に飾られている色鮮やかな花々。綺麗に石畳の敷かれた道路は、歩く度に小気味よい靴音を返してくれる。

 また、道路には等間隔に魔導照明の街灯が設置されていた。夜になれば異世界の夜景が見れるのかもしれない。

 

「皆様、一党単位になって馬車にお乗りください。これから宿に向かいますので」

 

 ある程度歩いた後、広場に着いた俺達は再度馬車に乗せられていった。しかし、今度のは貴族が乗るような馬車で、車体には外を見る為のガラス窓がはめ込まれていた。

 車窓から街を眺めると、美しい街の陰から興味津々といった淫魔達を発見した。これ騒動防止の為に籠ってもらってたのね。

 

「さぁご覧ください! こちらが皆様に宿泊して頂く、“ホテル・乳鮑(ニューアワビ)”ですわ!」

 

 しばらく後に降車すると、眼前には五階建ての大きな宿が聳え立っていた。

 建築様式としてはラリス式によく似ている気もするが、何というかホテルの前に「ラブ」って付きそうな見てくれの宿である。

 これまた入口の前では、参加者を歓迎するように従業員……というかメイド服姿の淫魔達が整列していた。しかも、メイドのスカートは超が付く程のミニである。

 

「「「いらっしゃいませ♡ 冒険者様♡」」」

 

 淫魔達が深々とお辞儀すると、その大きな胸がブルンと揺れた。

 一部の童貞を除き、それを見た男達はデレデレである。巨乳好きのウィードさんなど、完全に目が血走っちゃっている。

 

「ニーナさん、アレもですか?」

「ええ、はい。あそこにいるのも落選者ですね。中でも理性の強い淫魔が従業員として選別されている……はずです」

「そうですか」

「一応、交流会が終わるまで吸精は禁止されていますが……」

 

 メイド淫魔達を見る。狩人の眼光で冒険者を値踏みしていた。

 冒険者達を見る。浮かれ切った顔でメイド淫魔に見惚れていた。

 

「お荷物お持ちしますね♡」

「おっふ! よ、よろしくお願いします……!」

 

 それから、一人の冒険者につき一人の侍従が急接近。こんなサービスを受けるのは初めてなのだろう。見るからに童貞の魔術師くんは顔を真っ赤にしている。

 童貞魔術師の童貞ムーブを見て、彼の荷物を持ったメイド淫魔は舌舐めずりしていた。

 彼、交流会が始まる前に卒業しちゃうんじゃないか?

 

「お荷物を……あら?」

 

 俺のところにも淫魔が来たが、目が合った彼女は怪訝そうな表情になった。そもそも俺は運営側で、武器以外の手荷物は持っていないのだが。

 怪訝そうな顔の淫魔は俺を見て、股間を見て、目を見開いて慄いた。

 

「こちらの方はラリス王国側の協力者で、“黒剣”のイシグロ・リキタカ様でございます。従業員の方には、規則に則った対応をお願いしますね」

「は、はいぃ……!」

 

 ニーナさんの笑顔を見るや、メイド淫魔はそそくさと退散していった。あー、そっちね。

 ぶっちゃけ、俺としちゃ巨乳メイドよりこのホテルの建築様式のが興味深いんだよな。ラリスとは似て非なる意匠の数々、ぜひとも見学してみたいところ。

 

「じゃ、俺達も行こうか」

「うッス!」

 

 まぁそれはいいとして、俺達も皆に続いてホテルに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 交流会参加者及び関係者が宿泊する事になるホテル・乳鮑は、一言で言うと三ツ星ホテルの様相だった。

 エントランス全体は華美じゃない程度に小洒落ていて、シャンデリア型の魔導照明が屋内を明るく照らしている。

 また、広い床にはフワフワの絨毯が敷かれており、それは土足で上がる事に引け目を感じてしまうほど上質な踏み心地だった。

 例え王都であっても最上級の中の最上級の宿に当たるだろうクオリティ。タコ部屋暮らしの食い詰め冒険者など、乳鮑の内装を見てはあんぐり開口して呆けていた。

 

「イシグロ様はこちらのお部屋になります。案内は必要ですか?」

「いえ、大丈夫です」

 

 あまつさえ宿泊者一人一人に部屋が用意されていて、トイレや風呂なんかも個人用に設置されているらしい。

 渡された鍵には、淫魔王国を象徴するハートマークが彫刻されていた。俺の部屋は二階の中央らへんか。

 

「当方には様々な娯楽施設を取り揃えてございます。冒険者様におかれましては、どうぞご自由にお使いくださいませ」

 

 凄いのは部屋だけではなく、ここは娯楽施設も充実しているようだった。

 支配人曰く、バーにレストランにカジノスペース。中にはプールなんかもあるらしく、それらにも専属の淫魔従業員がいてサービスしてくれるとか。

 観光に力を入れているらしい淫魔王国だが、これはちょっと凄すぎな気がする。ニーナさんにその事を訊いてみると……。

 

「元々、この宿は貴人を迎える為の屋敷だったのですが、交流会に際して大規模な改装を行ったようです。以前までプール等は無かったはずですし」

 

 どうやら、この事業には淫魔王国に加え、グレモリアさんを始め多くの淫魔が出資していたようだ。

 一応、公平性を期す為に出資額が高い淫魔だからといって必ず参加できる仕様にはなっていない。らしいが、ホントかなぁという気持ちである。

 

「はい皆さんご注目! 異種間交流会は後日となりますので、それまで皆様にはこのホテルにて滞在していただく事となりますわ。お外に出る際は専属の案内人が付きますので、その時は最寄りの淫魔にお声かけくださいな」

 

 一通りの説明が終わると、参加者は自由時間となった。

 すると、冒険者達は遠足で遊びタイムを伝えられた子供のようにテンションを上げていた。ホテル内の施設は好きに使えるのだ。そりゃもうワクワクなのだろう。

 

「酒! 酒! 移動中はずっと呑んでなかったからな! とりまバー行ってくるわ!」

「へへー、おじさんはおじさんらしく賭け事とか大好きだからな。ちょっくらカジノ行ってくるけど、お前等どう?」

「もちろんお供するっすわ! カジノ淫魔、すんげぇエロい恰好してくれるらしいじゃないっすか! くぅ~! 勃起が止まらん!」

「僕はこれからグレモリアさん達と王城に向かう予定なので。トリクシィさんはどうなさいますか?」

「あ、自分は部屋で休もうと思います……」

 

 リカルトさん達はホテル内施設を満喫するつもりのようだ。

 他方、運営側であるグレモリアさんとミラクムさんは王城へと向かう予定である。これは予め知っていた事なので、一応ルクスリリアの事を書いた手紙を渡しておいた。届くかどうかは分からないが。

 そして、運営側である俺達とニーナさんはここで一旦お休みとなる。以降はホテルの淫魔が参加者達を警護するのだ。

 

「さて、どうしようか」

 

 交流会は後日。今日はもう遅いし、外に出て公共図書館に行くのは時間的に厳しいだろう。第一、図書の閲覧許可も貰ってないしな。

 で。今から何すると訊いてみたら、パッとルクスリリアが手を挙げた。

 

「ッス! 最初はホテルの冒険ッスよ! 色々見てみてーッス!」

「そうね。バーも気になるし」

「わしは劇場を見てみたいのじゃ。淫魔王国の芸事ってどんなんなのかのぅ」

「本場の淫魔料理、楽しみです!」

「よし、じゃあ一つ一つ見に行こうか」

 

 決まりである。調べ物はまた明日で、俺達はこの広いホテルを見て回る事にした。

 気になるエリアには後々行くとして、最初は一階を散策。すると、異世界情緒のない施設内売店を発見した。

 

「へー、おみやげコーナーとかあるんだ」

「どんな土産があるのかしら」

 

 懐かしい雰囲気に吸い込まれるように、俺は売店に向かった。

 受付には駄菓子屋のお姉さんめいた優しい笑みを湛えた淫魔が座っていた。何故か机に肘を乗せたお胸強調スタイルである。

 

「いらっしゃいませ♡ こちら、我が国で人気のお土産を揃えております♡」

 

 とりあえず品揃えを見てみると、俺の中に渦巻いていた懐かしい気持ちは一瞬にして消え去ってしまった。

 

「えっ、なにこれは……?」

「媚薬です♡」

 

 それこそ駄菓子のように陳列された商品の中には、如何にも怪しい小瓶に入った怪しい色の怪しい液体が入っていたのである。

 

「淫国土産の定番アイテムでございますね♡ 男性ならば一晩中勃ちっぱなしイキっぱなし♡ 女性なら森人処女でも伝説の超ビッチに変身できる程の効果がありますよ♡ もちろん健康被害はありません♡」

「げ、劇薬なのじゃ……」

「なんか他国の偉いさんが買ってくらしいッスよ」

「こちらは芒果(マンゴー)味で、こちらは大甜瓜(デカメロン)味♡ そしてこれが淫魔ミルク味となっております♡」

「らしいわよ、グーラ」

「なんでボクに振るんですか……?」

 

 そうだった、ここ淫魔王国だったわ。

 その他の商品もまた、最高に頭サキュバスだった。

 

「これは何かしら……? 見たところ、ただのスライムのようだけれど」

「そちらの商品は、淫魔族のおっぱいの感触を忠実に再現した人工粘体(スライム)となっております♡ こちら、巨・爆・超の三種がございますよ♡ 肘置きとして使われる方が多いそうで♡」

「おっぱいマウスパッド……」

「えっと、これは何ですか? 手袋、ですよねこれ……」

「ケツ闘手袋ですね♡ これを淫魔に投げつける事で、ケツ闘を挑む事ができるアイテムとなっております♡ ケツ闘というのは、制限時間以内に……」

「いえ説明は結構です」

「グレモリアが好きそうな手袋ッス……」

「これは、何かしら? 水筒?」

「あー、そちらは哺乳瓶と言って、乳の飲みが悪い仔馬等に使う新開発の畜産用品です。これ、何故か他の国の人が買ってくんですよねー。そういえば、なんかラリスで工場作るとか聞きましたね」

「五つください」

「あら? 家畜を育てる予定でもあるのかしら……?」

 

 酷い商品ばかりだったが、その中から役に立ちそうなアイテムを購入する事にした。普通にエログッズが置いてある土産屋さんである。

 てか、この世界にもあったのね、哺乳瓶。発明されたばっかなようだし、これから普及するのかもしれない。

 

「えーっと、いくらになりますか?」

「合計で一万二千ルァレになります♡ あ、お会計はパイパイ(・・・・)でのお支払いが大変お得でございますよ♡」

「パイパイ?」

「はい♡」

 

 聞き覚えの無いワードに首を傾げていると、店員さんは腕組みしながら大きな胸を持ち上げてみせた。

 

「お会計は一万二千ルァレなので、三十六回のパイ揉みで決済可能です♡ さぁどうぞ♡ ヘイカモカモ♡」

「ルァレで」

 

 故意にしろそうじゃないにしろ、恋人以外の手を繋いだら浮気判定される事もある世間様。如何に金銭的にお得でも、俺は他人の胸を揉む気にはなれなかった。

 そもそも、俺はどんなおっぱいかより誰のおっぱいかが大事だと思っている派の人間だ。初対面淫魔のデカ乳など、何をかいわんや。

 

「吸精禁止のはずじゃがのぅ?」

「いや相手から手を出してもらうつもりなんスよ。したら罰も緩くなるんス、多分」

「さすが淫魔だな」

 

 売店はこんなんだったが、その他の施設も当たり前に淫魔クオリティだった。

 例えば、マッサージ室なんかは……。

 

「お客さん、ここすっごく硬くなってますよ~♡ 解して差し上げますね~♡」

「んほぉおおおおお♡」

「アレは何ですか……?」

「淫魔族に伝わる淫波(インパ)マッサージでございます♡ 身体に淫波を流し込み、股間の勃ち上がりを促進します♡」

「一応、氣は整っておるのぅ。股間周りだけじゃが……」

 

 大きな湯舟があるという共同浴場では……。

 

「男湯と女湯と、それと淫魔湯? なんで三つもあるのかしら……?」

「淫魔湯は混浴となっております♡ 中は個室となってまして、専属の淫魔がお背中を流すサービスがございます♡ それから、浴室にいる淫魔は大変惚れっぽい性質でして♡ 素敵なお客様には一目惚れしちゃうかもしれません♡」

「王道を往くソープ系じゃん」

 

 一番人気のカジノでは……。

 

「よござんすね!? よござんすね!? それでは! おっぱいルーレット! スタァーット!」

「うぉおおおおおお! すっげぇえええええ!」

「右! 右! 右! 右! よっしゃああああ!」

 

 バニーガール淫魔が左右のおっぱいを震わせて賭博を仕切っていた。

 

「ヤラセじゃないッスか」

「中山さんのルーレットがヤラセな訳ないだろ」

「中山さん……?」

 

 他にも色んな施設があったが、どれもこんな感じだった。

 まぁそれを除けば、ここは凄く良いホテルなんだとは思う。悔しいが、ここまで綺麗な宿に泊まった事ないもん俺。

 

「少しあからさま過ぎないかしら?」

「どれにも動じない主様は流石なのじゃ」

「興味ないね……」

 

 そうこうしていると良い時間になったので、俺達はホテル内のレストランに向かう事に。

 これまた悔しいがレストランも最上級の内装で、如何にもな高級机に如何にもなテーブルクロスが掛けられていた。あまつさえステージではドレスを着た淫魔がムーディな音楽を奏でてくれるサービスぶり。

 

「飯はコース選ぶ系らしいな。どれにする?」

「コース、ですか?」

「一つ一つ料理を出されるのよ。竜族風ね」

 

 どうやら俺も参加者と同じように食べていいらしいので、適当なコース料理を注文。

 そうして、お出しされたのが……。

 

「淫亀のスープでございます♡」

 

 すっぽんっぽい亀のスープ。

 すごく美味しい。

 

「淫魔ウナギのキッシュでございます♡」

 

 淫魔王国産のウナギ料理。

 めっちゃ美味しい。

 

「淫魔牛の絶倫ステーキでございます♡」

 

 食べ応えのある肉料理。

 どれもこれも、ビックリするくらい美味しいんだけど……。

 

「精のつくもんしかねぇッス!」

「自国の食材を使うなら自然とそうなるんじゃないかしら……?」

「ん~、実に繊細な味わいじゃ。これには何のタレを使っておるのかのぅ?」

「はい! 凄く美味しいです!」

「食べ終わったらバー行くか」

 

 流石は淫魔料理というべきか、他の席で食事をしていた冒険者は退席時には前屈みになっていた。

 まさか媚薬が入っているとは思えないが、テント敷設中の冒険者を見るウェイトレスの目は野獣の眼光になっている。

 いや、まさかね?

 

 

 

 

 

 

「んぅ……?」

 

 夜、布団の寒さに目が覚めた。

 部屋には五つのベッドがあり、俺達は各々異なる床に着いていた。

 起き上がり、膨らみのあるベッドを見る。皆、規則正しい呼吸をしていた。

 

 ルクスリリアを見ると、彼女は呑気そうな顔で爆睡しているようだった。

 呼吸に応じて膨らむ胸。小さな唇に目を奪われる。硬くなりかける愚息を、俺は強いて沈静化した。

 

 ルクスリリアが味覚障害を患ってから、俺は自主的に禁欲している。彼女が苦しんでいるのに、主人の俺だけ安楽な欲望に呑まれる訳にはいかないと思ったからだ。

 これは皆も承知してくれた。その代わり、最近皆とはいつもより情熱的なキスを交わしている。性欲が高まってか、キス魔のエリーゼ以外も日に日により深いキスをせがむようになる姿は堪らなかった。

 

「ん?」

 

 ふと、俺の敵味方識別レーダーに妙な感覚があった。

 敵……という訳ではない。不自然に敵と味方を意味する信号を発する反応が、そろりそろりとホテル内を移動しているのだ。

 例えるなら、赤青黄色が不規則に替わる感じだろうか。敵か味方かパンピーか、これじゃさっぱり分からない。こんなのは初めてである。

 

「何もなけりゃいいが……」

 

 一応の確認の為、俺は無銘を持って廊下に出る事にした。

 何事もなければそれでいい。厄介事なら先んじて済ませておくべきだろう。

 

「おや、イシグロ様」

 

 反応に向かって歩いていると、道中で顔見知りの運営側淫魔兵と遭遇した。

 彼女は如何にも堅物っぽい顔立ちをしていて、実際に真面目な淫魔さんである。鋭い眼差しといい、筋肉質な肉体といい、女騎士というより女軍人といった方がしっくりくる容貌だ。

 そんな彼女だが、今は夜間の警備を担当してくれている。曰く、夜這い防止の措置らしい。

 

「お疲れ様です。先ほど、よく分からない気配を感知したもので、確認の為に部屋を出てきました」

「気配ですか。ふむ……」

 

 軍人淫魔は顎に手を添えて考え事をする素振りをみせた。

 

「いえ、敵って感じはしなかったのですが……」

「そうですか。その、申し訳ありませんが、その気配がする方まで案内して頂けませんか? 私が巡回警邏している分には問題はなかったのですが、イシグロ様には何か見えているのかもしれません」

「はい。こちらです」

 

 そういう事ならと、俺は彼女を連れて件の謎反応に向かって移動していった。

 現在、このホテルは運営側の淫魔によってシャドーモセス島並みの警備体制が敷かれている。そう易々と潜入できるとは思えないが……。

 

「交流会に参加して下さる冒険者様は、今後の淫魔王国にとって重要人物でございます。単なる吸精とはいえ、他種族にとっては立派な傷害に当たります。万が一にも参加者様の心身を傷つける訳にはいきません。警戒はし過ぎて然るべきと考える次第です」

「そうですね。っと、この辺りだと思うんですが……」

 

 小声で話しながら進んでいき、例の反応の近くに到着。ここは談話スペースになっており、周辺には椅子やテーブルが並んでいる。

 謎の反応はこの辺をウロウロしているようだ。味方のようでもあるし、そうじゃないようでもある。本当に謎だ。レーダーでは近くに隠れているはずだが、パッと見だと影も形も無い。敵と味方とパンピーがカチカチ入れ替わっているので、気を抜くと反応自体を見失ってしまいそうだ。

 

「そこかッ!」

「ぐえっ!?」

 

 何処かなと探していると、椅子の背後に躍り掛かった淫魔兵さんが何者かを取り押さえたようである。

 慌てて回り込むと、そこでは売店で受付をやっていた淫魔さんが組み伏せられていた。

 

「いやぁーっ! 許してぇええええ! これには深い訳があるんですぅ!」

「この! 大人しくしろ! イシグロさん、至急応援を!」

「は、はい!」

 

 軍人淫魔さんが暴れる淫魔を制圧している間、俺は警備中の淫魔兵を呼びに走った。

 

「どうしました!? 何か声が聞こえましたが!」

「ステルス淫魔です!」

 

 結局、売店淫魔さんは夜這い未遂の容疑で逮捕される運びとなった。

 どうやら、例の童貞魔術師くんの筆下ろしに向かっていたところ、あえなく捕まってしまったようである。

 

「夜這いは禁止されているはずだ。何故こんな事をした?」

「うぅ、だって、だって……!」

 

 淫魔兵の詰問に、ポロポロと涙を流しながら売店淫魔は声を絞り出した。

 

「十秒目が合ったから同意だと思ってぇ……! もう辛抱たまらなくってぇ……!」

 

 淫魔からすると、見つめ合えば即ハメ実行となるらしい。あー、だからニーナさんはあまり淫魔と目を合わせるなって言ってたのか。

 努々、気を付けようと思った。あなたの常識は私の非常識。逆もまた然りである。

 

「そうか……」

「ゆるして」

「ダメだ、連れていけ」

「あぁんまりだぁ……!」

 

 滂沱の涙を流しつつ、売店淫魔は連行された。

 彼女を連行している淫魔兵も、少し同情的になってるように見えた。何故だか神妙な空気が流れている。

 

「イシグロ様、ご協力感謝します。とんだ恥を晒してしまいました」

「いえ……」

 

 まぁそれはいいのだ、それは。

 ていうか、今こうしてる間に、また一つ新しい謎反応を感知したんだが……。

 

 彼等の貞操、交流会まで持つのかな……。




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 パンピー反応時=ステルスに集中。イシグロはこれを感知できない。たまにムラッときて解除されていた。
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