【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。貰えるとやる気がアップします。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回、とっっても重要なアンケがあります。
 お気軽にどうぞ。


未来はロリにもわからない!

「ん~、やっぱ現地の卵料理は格別ッスね~! 他の食材も産直ッスよコレ!」

「外はしっかり焼けているのに中身はトロトロしているのね……」

「美味しいですね! トロトロの卵と中の具が絡まって最高です!」

「ひき肉にこんな使い方があったとは……これ一回家でもやってみたいのぅ」

 

 翌朝、俺達はレストランで朝ご飯を食べていた。

 お出しされたのは昨晩食べたコース料理ではなく、大皿に色んな物が載ったタイプだった。メインっぽいオムレツがふわトロで凄く美味しい。

 

「ウィード様、こちらのお席へどうぞ」

「ぬふふ、よろしくっすわ~」

 

 ふと見やると、にやけ顔のウィードさんを初見の淫魔が案内していた。冒険者達は気づいていないようだが、ウェイトレス淫魔の多くはその顔ぶれを変えている。

 昨晩、元のウェイトレス淫魔達は不運(ハードラック)(ダンス)っちまったのだ。まぁその殆どは俺がサーチしてデストロイしたんだけども。

 

「ご主人様、あまり眠れていないようですけれど、大丈夫でしょうか?」

「少し寝たからそんなには……」

 

 結局、あのあと俺は一晩中リアル鬼ごっこをやっていた。斥候適性のある淫魔は俺のレーダーじゃないと発見できなかったのである。

 流石に現状の警備体制では拙いと思ってか、淫魔騎士さんは何やら索敵特化の深域武装の持ち込み許可を取ると言っていた。もう俺の出る幕はないだろう、多分。

 

「眠そうじゃし、今日は休むかの?」

 

 言って、イリハは淫魔ラッシーを飲んだ。ドロッとした白い液体が細い喉を通る。エロいと思ってすぐ、慌てて自制。

 禁欲何日目になるだろうか。最近の俺は彼女達の何気ない動作一つ一つにムラッとくるようになってしまっていた。

 

「むむっ!? 何かさっきドエロいオーラ嗅ぎ取ったんだけど、どこの誰?」

「さぁ? あっちらへんだと思うけど……」

 

 そう、感知されちゃうからね。別にバレてもいいのだが、恥ずいもんは恥ずい。

 

「いや、今日は図書館に行こう」

 

 実際、少し眠いだけで凄く眠い訳ではない。この程度、徹夜しまくりだった日本時代からすると余裕である。

 交流会がいつ始まるかはまだ分からないが、それまでにルクスリリアの症状について調べておきたいからな。

 そのように伝えると、皆は了承してくれた。

 

「あの、すみません。少々よろしいですか?」

「イシグロ様。はい、何でしょうか」

 

 朝食後、俺達は公共図書館の利用について、淫魔騎士さんにお伺いを立ててみた。

 なんか他国の人が入っちゃいけないとか、奴隷身分はダメとかそういったルールは無いもんかと思ったのだ。

 

「ええ、構いませんよ」

 

 あっさり了承された。

 しかも淫魔王国の図書館は自国民以外も無料で使えるらしく、受付に言えば本を貸してくれるサービスまであるというのだ。

 なんか、ラリスよりサービスが良いぞ。

 

「警戒の為、お出かけの際は淫魔兵がつく事になっていますが……」

「アタシがいるから大丈夫ッス!」

「そのようですね。それに、イシグロ様であれば暴淫魔も対処できるでしょうし」

 

 暴淫魔とは、要するに暴漢の淫魔版である。つまるところ昨夜捕まったステルス淫魔達の亜種だ。

 そんな彼女達への対処の為、参加者が外出する時は運営側の淫魔兵が同行するのが規則になっているのだ。

 が、俺の場合は一党の皆がいるから大丈夫だ。道案内もルクスリリアならできるしな。そもそも俺は運営側である。

 

「それでは行ってきます」

「はい。くれぐれもお気をつけて」

 

 淫魔騎士さんと別れ、俺達はホテル・乳鮑を出た。

 ロータリーでは俺と同じく外出する冒険者達がいて、彼等は真面目そうな淫魔兵と一緒だった。

 淫魔兵は従業員淫魔ほど男にベタベタしておらず、あくまでボディガードに徹しているようだった。彼女等の視線は屋根や物陰といった死角に向けられていた。

 

「図書館はこっちッス。広場突っ切ってくッスよー」

「淫魔王国の図書館、楽しみです。どんな本が置かれているでしょうか」

「エロ本ばっかじゃったりして」

「そうッスよ。あーでも隅っこに真面目なのもあったッス」

「期待できそうにないわね……」

 

 ホテルの敷地を抜け、通りを出て、ルクスリリアの案内で街に出る。するとすぐに昨日馬車で通り過ぎた広場に到着した。

 ラリスでよく見る広場には聳え立つ男根を模した噴水があり、その周辺にはいくつかの屋台や商店などが並んでいた。住民用というより、観光客用といった印象。当然、商人は淫魔オンリーだった。

 

「一般人はいないんだな」

「行商人とかはたまに来るんスけどね。いつも居る訳じゃねぇッス。今日はゼロっぽいスね」

 

 男根広場には何人か冒険者の姿があって、物珍しげに店を見ていた。

 対する淫魔達は観光客への対応に慣れているようで、商人らしい元気な声を上げていた。ラリスとはまた違う、どことなく縁日っぽい雰囲気だ。

 

「さぁさぁ見てってくださいな! これを舐めなきゃ帰れない! こちら淫国名物、淫敬飴(いんけいあめ)でございます! 甘くて美味しい淫敬飴ですよ!」

「えぇ? これどう見てもチン……」

「淫敬飴です! これを舐める時は作法があってね! まず先っちょをペロペロした後に裏っ側を舐め上げてから口に含むんです!」

「はあ」

「実演させて頂きますね! んちゅ♡ れろぉ~♡ じゅぼぼぼぼぼぼ♡」

 

 まるでお祭りのチョコバナナのように並ぶ陰茎型キャンディ。俺もうアレくらいじゃ動じらんねぇよ。

 

「けったいな飴じゃの~」

「子供の頃はよく舐めてたッスね。アレ。色ごとに味が違うんスよ」

「食べる?」

「はい! いただきます!」

「私はやめておくわ……」

 

 図書館に向かう傍ら、他の売店も見て回る。

 色や形はともかくとして、食べ物系はどれも美味しそうな匂いしてるんだよな。色や形はともかく……。

 

「ん? あれはバナナか?」

双形甘蕉(フタナリバナナ)ッスね。先っちょの皮を剥いて中の実をしゃぶるんス。美味しいんスけど、採ったらその日のうちに食べないとすぐ萎れちゃうんスよね」

「食べてみようかな。皆は?」

「ぜひ! 食べてみたいです!」

「アレは淫魔ソーセージかしら? ずいぶんと大きいわね……」

「そりゃ屋台用ッスからね。真っ白のマスターベードをかけると最高ッス!」

「美味しそう。食べる?」

「はい! ありがとうございます!」

「あの果物っぽいものは何じゃ? 瑞々しいのぅ」

「冷やしパイン。甘酸っぱくて美味しいッスよ」

「そこは普通なんだ……グーラ食べる?」

「いただきます!」

「ほんに大食いじゃのぅ」

 

 ホテル内と違い、観光客を相手にする淫魔はそこまでがっついてはないっぽい。あくまで気のいい屋台のお姉さんって感じ。

 美形ばかりの異世界人にあって、中でも淫魔は巨乳美女のバーゲンセールである。商品はアレでも、綺麗な売り子に声をかけられてる冒険者達は嬉しそうにしていた。

 デカい乳に興味はないが、お祭り自体は好きである。俺達はラリスとはまた違う賑やかさを満喫しつつ、時折買い食いなどしながら図書館に向かった。

 

「っと、ちょっと失礼……」

 

 近道だという公園に差し掛かった頃、公衆トイレを見た瞬間にちょうど俺の膀胱ゲージがイエローになったのを感知した。

 図書館に便所があるかどうか分からないし、出せる時に出しといた方がいいだろう。俺は皆に言って公衆トイレへ向かった。

 

「あ、ご主人そっちは……」

 

 この異世界、ラリスにもリンジュにも公衆トイレは存在する。勿論、男女に分かれている。俺は迷う事なく男子トイレに入って行った。

 トイレの造りはラリス王国と殆ど同じだった。現代日本で言うと映画館のトイレくらいの広さ。異世界公衆トイレは自然水洗式なので、壁側から川のせせらぎのような水音が聞こえてくる。ただ、男子用も個室があるのが意外だった。

 大ではなく小なのだがと思いつつ、俺は個室のドアを開けた。その時である。

 

「やらないか♡」

 

 ばたん。反射的にドアを閉めた。

 どうやら先客がいたらしく、個室の中には青い服を着た淫魔がいた。ここ男子トイレだけど、間違えて入ってきたのかな?

 気を取り直して、隣の個室をノック。返事がないので開けてみる。

 

「レザーをつけるとすぐ濡れやがる♡」

 

 ばたん。レザーを着た淫魔が入っていた。

 一応、隣の個室もノックして失礼。

 

「私が一番セクシー♡」

 

 ばたん。全裸の淫魔がいた。

 あー、これはダメみたいですね。ていうか、ここに居るの危険ですね。

 俺は尿意を忘れ、脱兎の如く逃げ出した。

 

「ルクスリリア! 男子トイレに女子がいる!」

「そりゃ、そこ淫魔用の男子便所ッスもん」

「はぁ?」

 

 ルクスリリアの話によると、こうだ。

 女子用は淫魔が用を致すトイレで、男子用は淫魔が精を飲む為のトイレであるという。

 要するに、便器の前に肉が付くかどうかという話で……。

 

「観光客用はこっちッス」

 

 見ると、公衆トイレの隣に小さい建物があった。こっちが男子トイレね、なるほど。

 分かるかこんなもん。

 

「いやぁごめんごめん」

 

 用を足し終えると、皆さん微妙な顔をしていた。

 

「男性は住みづらそうですね、淫魔王国」

「事実上の淫魔単一国家だものね」

「ちな、お上的には移住は大歓迎らしいッスよ。男なら各種サービスてんこ盛りッス」

「じゃあ此処に家建てるかの?」

「それは止めといた方がいいッス!」

「リリィが言うのか……」

 

 なんて話をしながら公園を歩いていると、ベンチに座っている二人の淫魔が何か大きな紙を持っている様が見えた。

 咥え煙草の淫魔と、朝から酒を呑んでいるおじさん臭い淫魔である。ラリスじゃ見た事はないけど、こっちには新聞があるのかな? と思って見ていると、二人は真剣そうな声音で話しだした。

 

「おう、今日のレースどうするよ? お前の本命ちゃん出走取消じゃねぇか」

「へっ、こうなりゃヤケの一点買いよ! あたしぁこの日の為に金貯めといたんだからな! パーッと使わねぇとやってられねぇや!」

「プレちゃん全ツッパか?」

「んな堅い馬券握ってなにが楽しいんでい!」

 

 レース? 馬券? あー、この世界にも競馬あるのね。んであの紙は差し詰め競馬の出走表ってところか。

 ここにきて競馬ときた。そういえば、前世地球でも競馬の歴史自体はそれなりに古いんだったか。なら興行として成り立つのも自然な流れなのかもしれない。

 と、興味を失った俺とは逆に、二人の会話を聞いたルクスリリアはハッとなって固まっていた。

 

「ご、ご主人! 今日何日ッスか?」

「え?」

 

 この世界、時間にゃルーズだが年月日自体は厳密に管理されている。

 困惑しつつ今朝確認した日にちを伝えると、ルクスリリアは頭を抱えた。

 

「なんてこった! いやなんて幸運! 今日は一大レースの日ッスよ! 淫魔女王杯ッス!」

「淫魔女王杯、ですか?」

 

 首を傾げるグーラ。俺を含めルクスリリア以外の面々も怪訝そうに顔を見合わせた。

 そんな中、いきり立った金髪ロリはなおも燃え盛っていた。

 

「競馬ッス! 馬を走らせて競うんスよ! レース自体は毎週やってんスが、中でも今日は大一番のグランプリなんス!」

「あー、G1的な」

 

 どうやら、今日この日は異世界競馬のG1レースがあるらしく、ルクスリリアはいつになく興奮していた。

 

「図書館なんてどうでもいいッス! 今見逃すと来年まで見れないッスよ! 競馬場行くッスよホラホラ!」

「お、おぅ分かった分かった……」

「図書館には貴女の病を治す手がかりを探しに行くのだけれど……?」

「まぁ焦ってないのは良い事だと思います」

「そういえば、競馬はリンジュにもあった気がするのぅ」

 

 こうして、ルクスリリアに押されるようにして、俺達は図書館とは真逆にある競馬場へ向かう事になったのだった。

 まぁ遊びに行く余裕は否定しないが、それでいいのか淫魔さん。

 

 

 

 

 

 

 ルクスリリアに案内された競馬場は、少し背の低いコロッセオのようだった。

 門を潜ってすぐ、簡素な観客席は沢山の淫魔で埋め尽くされていた。中には交流会の冒険者の姿もあったが、馬に夢中な淫魔は男の存在を気にしていないようである。

 

「ほえ~、こっちの馬は立派じゃの~」

「なんで回っているんでしょうか?」

「ああやって馬の状態を見せてるんスよ。それでどの馬に賭けるか決めてもらうんス」

「詳しいわね……」

 

 パドックというやつだろうか。淫魔に誘導されている馬が敷地内をぐるぐると歩き回っていた。

 それにしても、やはり異世界の馬は全体的に背が高いように見える。ミラクムさんのリントノホマレに似て、がっしりしつつもスラリと脚が長い。

 

「ご主人ご主人! 馬券買うッスよ!」

「馬券? まぁいいけど」

 

 馬券の購入など、前世含めて初めての経験である。

 そもそも歩いてる馬を見たところで調子なんて分からない。どの馬に賭ければいいという話だ。

 

「お? イシグロもこっち来てたか!」

 

 その時、覚えのある声が聞こえた。見ると、そこにはリカルトさんとトリクシィさん、それから二人の護衛の淫魔兵の姿があった。

 

「どうも。トリクシィさんも来てたんですね」

「天駆ける駿馬の嘶きに誘われたのだ。ククク……」

「イシグロ、まさかお前も馬やるとは思ってなかったぜ」

「いえ、これが初めてで。何をどうすればいいか分からない状態です」

「ほぉ! ならおじさんが教えてやるよ! 淫魔競馬ぁ初めてだが、俺ぁ世界中の競馬場回ってきたんだぜ!」

 

 言って、笑みを深くしたリカルトさんは小脇に抱えていた紙を広げてみせた。

 皆してそれを見る。紙にはコースの情報に加え、馬の出走表が書いてあった。これまた馬の名前には赤い印が描いてある。

 リカルトさんは出走表をとんとん叩きながら、パドックで歩いている馬を見て口を開いた。

 

「見ろ、今あそこで歩いてる白いのが前のラリスカップで優勝したドウテイプレデターだ。ドウテイプレデターは直線番長でな、尋常じゃないくらい末脚が鋭い。で、奥で歩いてる黒いのがダークリング。こいつは直線こそプレちゃんに劣るが多少の馬場荒れも苦にしねぇパワーがある。騎手との相性も悪くなさそうだ。マッスルスティックは目立った戦績こそねぇが、女王杯の性質上全然あり得ると俺は思うぜ。なんてったって鞍上が淫魔騎士上がりのレジーナだからな。戦場馬術はお手の物ってね。サキバシリは大逃げ中毒の駄馬だが、二度ほど奇跡の勝利を収めている。実際、前のレースじゃドウテイプレデターとはハナ差だったんだからな。鞍上も逃げの名人に代わってやがる。こいつぁどうなるか分からねぇぜ。一番小さいのはソチンスプラッシュで、血統の割にパッとしねぇな。あそこで五月蠅くしてるシャブラサレータは追込馬で……」

「あ、はい」

 

 よく分からんが、リカルトさんが競馬好きのおじさんってのはよく分かった。

 俺は出走表から目を離し、前の闘技場と同じで皆に任せる事にした。ていうか、仙氣眼ならパワフルな馬とか分かるんじゃね。

 

「イリハ、どれが強いか分かる?」

「ん~? 視るんかの?」

「おっと、賭けるなら魔眼はご法度ッスよ」

「そうじゃったか」

「闘技場では気にしなかったでしょう?」

「それはそれッス!」

「リカルトさんはどうしますか?」

「そりゃもうドウテイプレデター一択だろ。おじさんこう見えて堅い馬券しか買わねぇの」

 

 なんか知らんが、ルクスリリアには彼女なりのプライドがあるのだろう。

 リカルトさん含め他の参加者を見る感じ、件の白馬が人気なようだ。

 

「トリクシィ君はどの子にするんですか?」

「え、えーっと、じゃああの真っ黒な馬を……」

 

 見ると、トリクシィさんは護衛の淫魔兵さんに顔を赤くしていた。

 彼付きの護衛淫魔はおっとりお姉さんタイプとでも言おうか。トリクシィさんより背が高く、優しそうな顔立ちの淫魔だった。

 

「好きなの賭けていいよ」

「じゃあ、アタシは……」

 

 とりま参加するだけ参加しよう。単勝馬券しかないようなので、各々好きなのを購入。誰が勝っても儲けはない状況だ。応援馬券である。

 情報によると、このレースは芝とダートを交互に走らせるようだ。他にも色々とギミックがあるらしいが、さてどんな感じかな。

 

「本日は晴天なり、絶好の競馬日和でございます。各馬並びまして、淫魔女王杯……今、スタートしました!」

 

 ファンファーレはないのかなと見ていると、馬が並んだ途端にリンジュ式結界が解け一斉に駆け出した。

 瞬間、観客席の淫魔が歓声を上げる。ルクスリリアも興奮しているようで、手すりを持ってピョンピョン跳ねていた。

 

「さぁはじまりました淫魔女王杯。素晴らしいスタートを切ったのは六番サキバシリ、今日も今日とて逃げの一手。三番フィンガーバンが続きます。一番人気のドウテイプレデターは中団やや後ろ。冷静に機を窺っております」

 

 実況席の淫魔の声が聞こえてくる。恐らく指揮系スキルの応用で声を大きくしているのだろう。

 スタートしてすぐ、各馬はぐんぐんと速度を上げていく。観客席からは遠いのに、ドドドという蹄の音がけたたましく響いている。

 いや、ていうか……。

 

「脚速くない?」

「あれくらい普通ッスよ」

 

 リントノホマレを見た時も思ったのだが、この世界の馬は明らかに地球産サラブレッドよりも脚が速い。スピード感が完全にオートレースのソレである。

 コーナーに差し掛かると、馬も騎手も一気に姿勢を傾けて旋回していた。ドリフトである。減速するどころか、姿勢を直した馬はよりいっそうスピードアップした。レースゲームの仕様じゃんよ。

 

「淫魔女王杯は第一コーナーを抜けると魔法の使用が解禁される。単なるスピードレースじゃねぇぞ。位置取りだけじゃねぇ、攻守の掛け引きも大事になってくる。サキバシリの鞍上は防御魔法の達人だ。奴に生半可な妨害は通じねぇが、邪魔しねぇと先を行かれる。さぁどうする、ドウテイプレデター」

「どうした急に」

 

 腕組み仁王立ちで渋い顔をしたリカルトさんが言う。件の魔法解禁エリアに入った途端、ジョッキー達は一斉に魔法を詠唱した。

 後ろから先頭集団へ、驟雨のような魔法が飛来する。先を走っていた騎手が振り返ると、右手のステッキを掲げて防御魔法を詠唱した。それ魔法の杖だったのかよ。

 爆発、轟音。けれども全人馬に傷はない。馬群の中でも至近距離から魔法を撃ち合っていて、さながら騎馬合戦の様相を呈していた。

 

「うひょー! これこれ! これが見たかったんスよねぇ!」

「ええ。存外悪くないわね」

「普通に速さを競うだけじゃダメなんでしょうか……?」

「リンジュ競馬じゃと弓と刀だけって聞いた事あるのぅ。こっちのは派手じゃ」

「女王杯はここからが本番。ダートコースは土魔法による障害物があります」

 

 実況の言う通り、先頭の馬がスタンド前のダートエリアに入ると、行く手を阻むようにいくつもの障害物がコース上に隆起してきた。

 まさにサスケかフォールガイズか。人馬一体を成す彼女等は巧みな馬術で目の前の障害を避けていき、最後のそり立つ壁を勢いよく踏破してのけた。

 

「す、すげぇ!」

「そりゃ軍馬を育ててる訳ッスからね。あれくらい乗り越えてくれないと戦場じゃ役に立たねぇッス」

「そうなの?」

 

 ルクスリリア曰く、異世界の競馬は輸出用軍馬を選抜する為にやる興行らしい。

 実戦を経験した馬は人類同様に強さを遺伝させる事ができるようで、戦場を駆けた個体は種馬としての馬生を過ごす事になるのだ。そしてその仔が実戦もかくやというレースに出るという世代交代強化ループ。

 また、異世界馬は異世界人同様に寿命の寸前まで能力の衰えがないらしいので、若駒よりむしろ高齢馬のが速かったりするらしい。

 

「さぁレースは間もなく最終直線! ここからは魔法も障害物も一切ありません! 最後のコーナーを曲がり、最初にやって来たのは六番サキバシリ! スタミナには余裕がありそうだ!」

 

 やがて来た最終直線。馬場は荒れ放題のダート。障害物は無い。各々のタイミングで鞭が入ると、異世界競走馬は一気にギアを上げた。

 これまで後ろに控えていた馬がスピードを上げてくる。逃げ馬も負けじと走っているが、如何せん最高速度に差があり厳しい状況。いつの間にか、俺は先頭の逃げ馬を応援していた。

 

「行け! 行け! そのまま! サキバシリ!」

「やぁあああ! 負けるなプレデタァアアア!」

「ダークリング! ダークリング来い! 給料全額賭けてんだ!」

 

 淫魔達が興奮している。熱狂が観客席を覆う。応援を力へ変えるように、中団の二頭が殆ど同時に抜け出した。

 白い馬と黒い馬。先の逃げ馬を追い抜いて、レースは瞬時に一騎討ちへ。

 

「ドウテイプレデター! ダークリング! ここでやって来た人気馬! 競り合っている競り合っている! おおっと後ろからもう一頭! 凄まじい勢い! 十番ソチンスプラッシュ! なんとここでソチンスプラッシュが躍り出た!」

 

 二頭が競り合ってる間に、栗毛の小さい馬が滑り込む。ゴール板はすぐそこだ。

 追い抜かれんとした二頭も並ぶ。一歩進む度先頭が入れ替わる。最後の最後で三つ巴のレースになっていた。

 

「頑張れ! 頑張れ! プレデター!」

「イけ! イけ! ダークリング!」

「がんばえー! ソチンスプラッシュ!」

 

 ゴール板の目前、小さな馬が爆発的な末脚を見せた。

 ほんの一瞬、それは人気の二頭を置き去りに、単騎空を駆けたかの様。

 クビ差とかハナ差とかじゃない。レースの勝者は、誰の目にも明らかだった。

 

「イッたぁー! ゴォオオオオオル! 勝ったのはソチン! ソチンスプラッシュです! 二着はドウテイプレデター! 三着はダークリング! まさかまさか! ここにきて血統を証明しましたソチンスプラッシュ! 素晴らしい末脚! 会場からも暖かな拍手!」

 

 勝った馬はそのまま徐々にスピードを落としていく。鞍上の淫魔は呆然とした面持ち。そんな彼女に二着の騎手が声をかけると、彼女はようやっと勝利に気づいたようであった。

 よく分からんが、小さい馬の勝利は感動的なものであったらしく、負けたはずの観客達は勝者に惜しみない拍手を贈っていた。

 

「あぁチックショウ! 負けちまったかー! あーでも、初の淫魔競馬でこのレースなら、まぁ全然アリだな!」

「やった! やったッスよご主人! ソチンが勝ったッス! これは歴史的な勝利ッスよ! やっぱりタネツケキングの血統は最強なんス!」

「お、おう」

 

 儲けはゼロだが、確かに良いモン見させてもらった感はある。

 見れば、ルクスリリア以外の皆も各々熱くなっていたようだった。

 

「すご、かっこいい……!」

「あらあら♡」

 

 中でも、トリクシィさんは初レースに目をキラキラさせていた。

 空戦車とかリントノホマレに興味あったっぽいし、実際の競馬を見て何か感じ入るものがあったのかもしれない。

 そんな彼を、護衛の淫魔兵が微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 結局、今日は図書館には行かなかった。

 競馬場の近くにあった競馬史博物館的なところに行ったり、カフェで一休みしたり、公園で交尾していた猫を眺めたり。

 レースが終わった後も、色々見て回ってるうちに時間が過ぎていたのである。

 

「おや、お出かけしてましたのね」

 

 ホテルに戻ると、エントランスにはグレモリアさんとミラクムさんの姿があった。

 ミラクムさんは現地の淫魔騎士と話していた。何かしらの打ち合わせっぽい雰囲気だ。

 

「皆様には先にお伝えしましたけれど、交流会は五日後という事になりました。場所は王城近くの屋敷になります。前日には到着しますので、四日後の昼過ぎには出発しますわ。当日の警護もよろしくお願いします」

「わかりました」

 

 彼女が企画した異種間交流会は、ざっくり言うと淫魔と冒険者によるお見合いパーティみたいなもんである。

 そこまで堅苦しいものにはならないらしいが、会場はそれなりの場所を用意する必要があるのだろう。

 

「お手紙についてですが、今回淫魔女王にお会いする事はできませんでしたので、騎士団の団長に報告書と一緒に渡しておきましたわ」

「ありがとうございます」

 

 ルクスリリアの状態を書いた手紙を持って行ってもらったのだが、どうやら直接渡すのは無理だったらしい。

 まぁそんなもんだろう。ダメ元だったのだ。交流会だけじゃなく、今後も長い目で見て行動していく所存である。

 

「どうもイシグロさん。参加者の皆さんも淫魔王国に慣れてきたみたいですね」

「そのようです」

 

 ミラクムさんと挨拶すると、彼は談話スペースの冒険者を見渡して言った。

 今エントランスにいるのはお出かけしていた冒険者達である。彼等は護衛してくれていた淫魔兵相手に和気藹々とお話していた。

 

「だったら、牧場見学なんかはどうですか? うちのお母さんは牧場主だから、トリィ君がいいならわたしが案内する事もできますよ♡」

「ええ、ぜひ!」

「あらあら、うふふ……♡」

 

 女性耐性のないトリクシィさんも、今では護衛のお姉さん淫魔と普通に話していた。

 他の冒険者もそんな感じである。甘くネットリした雰囲気こそないが、どうにもナチュラルに距離が近い。

 

「「「ぐぬぬ……!」」」

 

 そんな彼等を見て、従業員淫魔はハンカチを噛んでいた。

 がっつかない淫魔兵の方が冒険者のハートを射止めているようである。

 淫魔兵は狩人の瞳こそしていないが、ワンチャン狙っているのは他所からすると見え見えなのだが。

 

 いや、ていうかこれ、ちょっと拙くないか?

 一応は交流会の名目で来ているのだ。お見合いの前にその護衛と……っていうのは、どうなんだろう。

 

 こっちの意味でも、交流会まで大丈夫かと思ってしまった。

 何も起きなきゃいいんだが……。




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