【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、童貞組の貞操は淫魔王国で散らされる運命と相成りました。


婚約者はロリ淫魔、メスガキな、問題児。

 この世界には、同名の戦争が二度あった。

 その名は、魔王戦争。

 

 魔王戦争とは、かつて魔族の王を自称した者が文字通り世界征服の目標を掲げて起こした戦争である。

 災厄後、復興中の世界で勃発した第一次魔王戦争。魔王軍残党が決起し、全人類を恐怖させた第二次魔王戦争。

 ラリス率いる連合軍はそれらの戦争に勝利したが、人類全体で見た場合の損害は極めて甚大であった。魔族を中心に、少なくない数の種が絶滅したのである。

 

 戦火の中、淫魔という種族は不安定な立場にあったようだ。

 一度目の魔王戦争では淫魔は魔族側で参戦し、当時の淫魔女王が戦死した事で全面降伏。この時、夫を寝取られてキレた鬣犬族にボコボコにされたらしい。

 二度目の魔王戦争では、ラリスのスパイとして魔族側で参戦。魔王討伐に多大な貢献を果たす。戦後、淫魔族は正式に親ラリス種族として認められ、今の淫魔王国が形作られる事となった。

 

 淫魔戦史だと、これくらいの情報しか読み取れなかった。

 魔王戦争以前、さらに時代を遡ると、淫魔に関して興味深い記述があった。

 

 歴史書に曰く、古代の淫魔はとある種族に隷属して生きていたらしい。

 その種族とは、夢魔(インキュバス)という男版淫魔であった。

 

 無限の精を持つ夢魔(インキュバス)と、精がないと生きられない淫魔(サキュバス)

 割れ鍋に綴じ蓋と言える関係のような気がするが、実際はそうはならなかった。

 二種の関係は竜族と翼竜族のようなウィンウィンの共生関係ではなく、理不尽で絶対的な上下関係であったという。

 

 また、件の夢魔族は催眠種付けおじさんのような権能を持っていたようで、これにはあらゆる種族の女が抵抗できなかったらしい。全員女性種族の淫魔など、完全なる特効対象であった。

 一言で言うと、古代淫魔は夢魔に虐げられていたのである。

 

 そんな折、夢魔の支配から逃れた一人の淫魔は、とある英雄によって救済された。

 彼女を救ったのは、勇者アレクシオス。彼に救われたのは、後の初代淫魔女王である。

 

 アレクシオスは飢餓状態の淫魔に精を与え、自身との間に子を作らせた。一見ヒドい行いのようであるが、こっちの価値観だと行き倒れてるところに食料と武器を与えてくれた感じである。

 勇者の死後、かつて痩せぎすだった淫魔は王に相応しい力を身につけ、はぐれ淫魔を救う旅に出た。

 そうして淫魔族は次第に数を増し、長い時間をかけて小さな国を興す事となる。

 

 で、その後の淫魔史は、前述の戦史へと繋がるのだ。

 現代はハト派の三代目が女王を務め、淫魔王国は畜産最強国として確固たる地位を手に入れている。

 

 さて、先に述べた歴史の中には、時折変な特質を持つ淫魔が登場する。

 中でも代表的なのは、やはり初代女王その人だろう。

 

 淫魔女王を名乗るより以前、彼女は元々貧弱極まる処女淫魔であったそうで、アレクシオスに水揚げしてもらってからすぐに二人の子供を産んだという。

 生まれた子供は二人で、どちらも当時の淫魔女王を遥かに凌ぐ力を持っていた。一人は大淫魔で、もう一人は半魔人(はんまじん)の男の子であった。

 これの何が特殊なのかというと、淫魔が淫魔以外の種族を産んだところである。

 

 原則、淫魔の子は淫魔になる。にも拘わらず、彼女は魔族と人間のハーフである半魔人を出産したのだ。それも男子を、である。

 後に何度か出産を経験する初代女王だが、後にも先にも産んだ半魔人はアレクシオスの子供一人だけだった。

 しかしこれは英雄故の特殊性か、神話にありがちな謎設定といった風に解釈されているようで、図書館にはこの事を掘り下げる書籍は存在しなかった。

 

 淫魔女王に並び、もう一人特殊な淫魔がいる。第二次魔王戦争時に活躍した、対魔王一党の淫魔英雄だ。

 彼女は淫魔の天敵である夢魔相手に一歩も退かず、命を持って夢魔の血を根絶やしにした。これにより、魔王討伐が成ったのだ。

 夢魔の催眠権能は女性に対しては絶対的だ。そのはずが、件の淫魔英雄はそれを跳ねのけてみせたのである。淫魔の常識に当てはめれば、全く以てあり得ぬ事象であった。

 

 その他にも、長い歴史の中には何名か特殊な淫魔が確認されている。

 回顧録に曰く、彼女たち特殊淫魔の中には、ひとつの共通点が存在したようである。

 特殊な力を持つ淫魔は、概して吸精に対する意欲が乏しかったというのだ。

 これまた、淫魔の常識ではあり得ぬはずの共通点である。

 

 仮に、である。

 彼女たち特殊な淫魔が、ルクスリリアと同じ味覚障害を患っていたのだとしたら、吸精に対して無関心であったという記述に合点がいく感じはしないだろうか。

 もしそうなのだとしたら、より深く彼女たちの足跡をたどる事ができるなら、ルクスリリアの病を治す手がかりが見つかるんじゃないか。

 未だ、望みは薄いが……。

 

 残念ながら、この数日図書館を漁った限りでは、この程度の仮説しか立てられなかった。

 当然のように、ルクスリリアの症状が記された本は発見できなかったのである。

 

 

 

 昼にも夜にも問題は起きず起こさせず、時は流れて交流会前日。

 交流会の会場に向けて出発するのは昼食後。その間、俺達は図書館に向かっていた。借りていた本を返す為である。

 

「ニーナさんにはお世話になりっぱなしだ」

「ッスねー」

 

 ニーナさんにも手伝ってもらい、ここ最近の俺達はホテルと図書館を行ったり来たりしていた。

 しかし、直接解決に繋がるような新発見を得る事はできなかった。

 

 それというのも、ルクスリリアの言ってた通り淫魔王国の図書館はエロ本で埋め尽くされていて、数少ない学術書も戦史や畜産資料ばっかりだったのである。

 元より淫魔は病に罹りづらい種族なのだ。一応、淫魔特有の病も存在するようだが、ほとんどが精欠乏症による諸症状だった。それくらいは既に知っている。

 ともかくミリでも手がかりを見つけようと、あまり関係の無さそうな歴史書やらまで読み込んで気になるポイントをメモしたりした。

 

「しばらく活字ぁ読みたくねぇッス」

「ほとんど寝ていたじゃない、貴女」

「お主の事なんじゃがの~」

「淫魔の歴史は興味深かったですね」

 

 その結果が、先述の仮説である。

 お陰で歴史に詳しくなったが、一歩進んで二歩下がってる感が無くもない。

 

 公共図書館はこの有様なので、更に詳しく調べるなら王城にあるという書庫に行くしかない。

 それについても、一定の功が必要だろう。監視付きだったら大丈夫とか、できないもんだろうか。

 何にせよ、今は交流会を成功させねばならない。

 

 ちなみに、例の仮説をぶち上げた際の当人は……。

 

「つ、つまりアタシの背が低いのは特別な証……って事ッスか!?」

 

 このようなものだった。

 そして、今となっては……。

 

「まっ! うちのオカンもチビだったッスから、んな訳ないッスけどね!」

 

 というものに変化していた。

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 元気よく両手を振って歩く様は、如何にも能天気そうだ。

 味覚障害を患い、満足に吸精もできない状況だというのに、当のルクスリリアは随分と上機嫌である。苦しくはないのだろうか……。

 と、そのように思い返していると、俺はある重要な事項に気が付いた。

 

「交流会が終わったら、リリィのお義母さんにも挨拶に行かないとな」

 

 そう、ルクスリリアママへの挨拶だ。

 異世界にそういった風習があるかは知らないが、俺としては義理と使命で行くべきだと思う。

 

「ん? なんでッスか? はっ! まさかご主人、オカンの事狙って……? 言っとくッスけど、チビっつってもアタシより全然タッパあるし、胸もデカいッスよ!?」

「そうじゃなくてさ」

 

 やはり無かったらしい。

 なので、俺は皆に現代日本における結婚観と結婚に関する風習についてお話する事にした。

 

「へー、変わった文化ね。竜族の場合、そういうのは契約書と宴で済ませるものだけれど」

「ボクの村では結婚には村長の許可が必要でした。そんな感じでしょうか」

「ラリスというよりリンジュっぽいのぅ」

 

 と、ルクスリリア以外からはある程度の理解を得られたが……。

 

「あー、なるほど! オカン相手に自慢させてくれるんスね! おめーと違ってアタシぁ立派なご主人に捕まえてもらったぜいって!」

「ちょっと何言ってるか分からないですね」

 

 これぞ異世界カルチャーショック。こういう淫魔の感覚は、分かり易いようで把握が難しい。

 郷に入りては云々とも言うが、時にはこちらの習わしをやらせてもらっていいだろう。俺は此処を去る前に、彼女の母に会いに行く決意をした。

 

 ルクスリリアママ、どんな人なんだろう。

 願わくば、健康になった娘を見せてあげたいところだ。

 

 

 

 

 

 

「気を付けてね、トリィ君♡ 戻ったらまた牧場に行きましょう♡」

「う、うん」

 

 出発前、ホテル・乳鮑のロータリーにて。

 前にホテルにやって来た時のように、交流会に参加する冒険者達は会場行きの豪華な馬車に乗せられていった。

 中には、護衛淫魔兵と名残惜しそうに別れている冒険者の姿もあった。さながら戦地へ向かう恋人と再会を誓っているかの様。

 

「「「ぐぬぬぬぬ……!」」」

 

 例によって、そんなラブシーンもどきを見せられた従業員淫魔達は千切れんばかりにハンカチを噛んでいた。

 幸い、初日から今日にかけて参加者が襲われたとか、その逆の事件も起こってはいない。その辺は交流会の運営に厳しく取り締まられていたからである。

 だが、こうも参加者と護衛淫魔兵との距離が近くなるとは考えていなかったようで、運営責任者のグレモリアさんや淫魔騎士さんは現状に頭を抱えていた。

 吸精は取り締まれるが、他人様の恋愛事情に首を突っ込む事はできないのである。誰も法を侵している訳ではないのだから。

 

「まったく、最近の淫魔は弛んでいます」

 

 と言って憤っているのは、いつぞやの軍人淫魔さんだ。

 ニンジャスレイヤーのような腕組み仁王立ち。彼女は護衛対象にデレデレしている淫魔兵を厳しい双眸で睨みつけていた。

 

「そうなんですか?」

 

 参加者達の乗車を見守りつつ訊いてみると、彼女はなおも眉間のシワを深くした。

 

「ええ。どだい淫魔は不真面目な奴が多いのです。何事も適当で軽薄でちゃらんぽらん。特に異性が絡むと職務さえも忘れてしまう。私とて淫魔の端くれ、男性に惹かれこそすれ公私はしっかり分けているつもりです。軍人たるもの、むしろそうあって然るべきだというのに、あの者等ときたら……!」

「適当で、ちゃらんぽらん……」

 

 ルクスリリアを見る。彼女は俺の右腕にぶら下がりつつ船を漕いでいた。

 グーラを見る。彼女は今にも暴動を起こしそうな従業員淫魔を警戒していた。

 

「なるほど」

「その点、グレモリア様やニーナ様は実にご立派でいらっしゃいます。イシグロ様も、よくぞ淫魔の誘惑に耐えられました。お見事です」

「いえ……」

 

 そりゃ、俺はボイン属性無効だもの。ロリコンだからさ。

 この性癖、ニーナさんにはひと目でバレたっぽいのだが、ここにいる小淫魔達にはまだバレていないように思う。スケベセンサーの感知力には個人差があるのかもしれない。

 

「皆様、お乗りになりましたわね? それでは! 出発おしんこですわー!」

 

 ミラクムさん含め、参加者は馬車に乗って移動を開始した。俺達はその後を戦車でついて行く。

 まるで今生の別れのように、一部参加者と淫魔兵が手を振り合っていた。

 

「会場の警備についてですが、イシグロさん達には参加者様の近くでの警護をお願いします。場合によっては、発情した淫魔が襲ってくるかもしれないので」

「わかりました」

 

 道中、馬に乗ったニーナさん達と当日の警備体制についてお話する。

 これらは事前に訊かされていた事ではあるのだが、忘れないよう繰り返しているのだ。いくら銀相当の強さはあっても、俺は護衛のプロフェッショナルではないのだ。

 

「見えてきたわ。あれは……新しい竜族建築に近いわね」

「おっきい屋敷じゃの~」

「とても綺麗です。まるで貴族様のお屋敷みたいで……」

「実際貴族の屋敷ッスよ。はえ~、掃除が面倒そうな造りッス」

 

 馬車に乗ってしばらく後、陽が落ちる前に一行は大きな屋敷に到着した。

 背の高い壁と鉄門で守られたそこは、どことなく英国貴族の大邸宅のようだった。事実、この屋敷はとある淫魔貴族から借り受けたものであるらしい。

 

「いらっしゃいませ。私は当家にて侍従長を務めさせて頂いております、ネムトハーにございます」

 

 乗車したまま門を潜り、大扉の前で降車。参加者全員が降りると、真面目そうなメイド長淫魔の案内で屋敷の中に通される。

 銀細工や貴族さんは慣れっこなようだが、一般冒険者達は規模のデカい貴族邸クオリティに唖然としていた。

 俺とて仕事中という意識があるから惚けていないだけで、これがもしプライベートだったら百パーお上り観光客ムーブやらかしてたと思う。それくらい、この屋敷はセレブでリッチでゴージャスだったのだ。

 

「余が当屋敷の主、グラマ・ラース公爵である。楽にしてくれて結構。余は其方達との気兼ねない会話を所望する」

 

 到着後、参加者と俺達は屋敷の持ち主と一緒に夜ご飯を食べた。

 パンピーと貴族が一緒にご飯とかいいんですかねと思ったが、ルクスリリア曰く「あの貴族、今最高にムラついてるッスよ」と言われた。

 上も下も淫魔は淫魔である。童貞魔術師のおどおどトークを訊いている公爵は実に満足そうな顔をしていた。

 

「夜間の警備は我々が行いますので、イシグロ様はお部屋で英気を養っておいて下さい。明日が本番です」

「はい」

 

 夕食後は各々に用意されたお部屋で大人しく就寝。

 それは警護要員の俺も同様で、例によってこの日もおせっせは我慢。

 

「ちゅぱ♡ もっと舌伸ばしなさい♡ んっ、じゅる♡ んはむっ♡ んうっ………♡ ちゅっ♡ じゅる♡ むぢゅうううう♡」

 

 夜宴代わりのおやすみベロチュー。日に日に激しくなる攻勢に、今宵の俺は危うくノーハンドで暴発するところだった。

 が、ルクスリリアが苦しんでいる今、主人の俺が音を上げる訳にはいかない。俺はひたすらに竜族の舌攻撃を耐えた。

 

「ご主人♡ ガチガチじゃないッスか♡」

「とても苦しそうです。大丈夫でしょうか」

「てかコレ意味あるんかの?」

 

 ルクスリリア、あんま苦しんでなくない? とは思いつつ。

 俺が禁を破るのは、彼女が味覚を取り戻してからと決めている。

 俺は性欲なんかに絶対負けない。

 

 

 

 翌朝、交流会本番に向けて鼻息を荒くしていた冒険者達は、朝食後すぐに身を清める事となった。

 お風呂に入り、身だしなみを整え、武装を外して交流会に相応な恰好へとメタモルフォーゼするのである。

 

「さぁ、お好きなお召し物をどうぞ♡」

「「「おぉ……!」」」

 

 そうしてお着換え用に連れて来られた大部屋の中には、紳士服専門店のように並んだ服の数々があった。

 文字通り多種多様な冒険者に合わせ、そのバリエーションは実に豊富だった。貴族然とした華美な服に、獣人用の礼服。中にはリンジュの着物なんかもあったりした。

 これには普段ボロの服しか着ないような食い詰め冒険者もテンションを上げたようで、あれこれと試着してはメイド淫魔と楽しそうにしていた。

 

「ぐふふ♡ な、なら、これなんかは如何ですか?」

「どうだろ。に、似合うかな?」

「はい♡ とっても美味しゲフンゲフン! お似合いですよ♡」

 

 沢山の服を前にはしゃぐ冒険者達。

 そんな冒険者を着せ替えして笑顔を浮かべているメイド達。

 ていうか、これ……。

 

「遊ばれてるな」

「そのようね……」

 

 キャーキャーされてる冒険者は嬉しそうだし、彼等を着飾らせている侍従達も楽しそうだ。

 ある意味、ウィンウィンなのかもしれない。試着室の前で待ってるメイドさん、太もも擦り合わせてるじゃないか。

 

「俺こんなの着るの初めてだよ」

「とてもお似合いですよ♡ 脱がしやすそうで素晴らしいと思います♡」

 

 馬子にも衣裳というやつで、綺麗な服にお着換えした食い詰め冒険者達は立派な紳士になっていた。

 本人の趣味かメイドの趣味か、着てる服には一人一人個性が出ているようでもあった。

 

「どう? ラリスの礼服なんか着ちゃったけど、おじさんも結構イケるでしょ」

「俺なんかリンジュファッションだよ。あっちの鬼人ぁこんな動きづれぇ恰好してんのかってな!」

「まぁ俺は無難な獣人風っすわ。動きにくいのはちょっと……」

「クククッ、宴がはじまる……!」

「皆さん、とてもお似合いですよ」

 

 顔見知りの皆も、今日ばかりはバッチリ決まっていた。一応、参加者であるミラクムさんは他冒険者と違って服に着られてる感はなかった。

 異世界人らしく皆さんタイプの異なる美形でいらっしゃるので、ここが現代日本だったらさぞモテにモテた事だろう。

 

「イシグロさんはそのままなんですね」

「護衛ですから」

 

 ちな、俺と一党の皆はいつもと同じ迷宮用装備である。

 帯剣も認められているので、皆も同じように武器を持っている。グーラだけは素手だが、想定される状況ならぶちぬき丸より相応しいはずだ。

 同じように、他の運営淫魔達もしっかりと武装している。あまつさえピリついた剣呑オーラなんかを放っていた。

 

「皆様、おトイレなどは大丈夫ですわね?」

 

 現在時刻はちょうどお昼前といったところ。一同は連れ立って広場前の大扉の前に並んだ。

 扉の先にはすでに淫魔がスタンバっていて、これを開けたらばいよいよ交流会の始まりである。

 

「へへへっ、楽しみだなぁ」

「まぁな。オレ、淫魔さん達がこんなに良い人達だなんて知らなかったよ」

「やっぱ偏見ってよくないよな。全然怖くないじゃん」

「てか、冒険者なんか辞めてこっち移住したくなってきたぜ……!」

「「「わかる~!」」」

 

 ここまでの淫国生活、いい思いをしてきたらしい若い参加者達は余裕げに談笑していた。

 まるで、十把一絡げの冒険者である自分が、ベリー・インポータント・パーソンにでもなったような気分なのだろう。アレだけ歓待されたのだ。浮かれるな、と言うのは酷である。

 

「皆、準備はいいか」

 

 だが、この時、俺は既に勘付いていた。

 この戦い、気を抜いて挑めるものではないという事に。

 

「は、はい……!」

「わかったのじゃ……」

「大丈夫だとは思うけれど……」

「五分五分ってとこッスね」

 

 敵味方反応レーダーが、さっきからパカパカと例の激ヤバ淫魔の反応を示している。それが魚群レーダーめいて、大量に。

 これから、彼等を暴淫魔予備軍に差し出すのだ。油断できようはずもない。

 

「では、行きますわよ!」

 

 バーン! 先陣切ったグレモリアさんは、広場に通じる大きな扉を開けた。

 刹那、一斉に。

 

「「「ひっ……!?」」」

 

 きゃは♡ という、狂気の笑みは一瞬で、その面貌はみるみるうちに性欲塗れになっていく。

 獣ではない。狩人でもない。狡猾な淫魔兵ともまた違う。

 交流会の淫魔達は、捕食者の顔になっていた。

 

 大丈夫じゃない、問題だ。




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◆ざっくり淫魔史◆

・神話時代=後の初代女王、アレクシオスに助けられる。勇者の子供を産み、放浪。

・3000年前=第二大災厄にて初代淫魔女王死亡。タカ派の二代目女王が即位。

・2000年前=第一次魔王戦争。魔王軍側で参戦。二代目女王戦死。ハト派の三代目淫魔女王が即位。

・2000~1500年前=第二次魔王戦争。ラリスのスパイとして魔王側で参戦。土壇場で寝返り魔王討伐。土地をもらい、今の淫魔王国を作る。この頃は色んな種族から嫌われている。

・現代=親ラリス派で融和路線。小淫魔の数は増えたけど中~大淫魔が減少傾向。
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