【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告もありがとうございます。感謝の極み。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 ハクスラ要素はどこ……? ここ……?


脅威!男日照のサキュバスあらわる!

 人類最大の国家、ラリス王国。人類最高の畜産物輸出国、淫魔王国。

 グレモリアさんが企画し、両王国が主催する異種間交流会には、自力で男を捕まえる事のできない淫魔への救済措置という側面が含まれていた。

 

 今回、淫魔側の参加者に誰一人として処女は存在しない。にも拘わらず、彼女達は一様に男性への免疫がなく、乾いて飢えてて男を前にすると上の口の交渉より下の口での性交渉を所望してしまうらしい。

 男性経験の乏しさ故に、彼女達には慣れと余裕が全くないのだ。街の淫魔や淫魔兵はがっついてなかったのに、ホテル内の淫魔が軽挙妄動な振る舞いをしていたのにはそういった理由がある。

 

 有体に言って、彼女等は性癖拗らせて距離感バグったコミュ症恋愛クソザコ素人処女なのだ。

 俗に、これを乳食系淫魔と称す。

 

 国政的にも、福祉的にも、どげんかせんといかん。そうして始まったのが、この交流会であった。

 だが、単に男を用意して「はいどーぞ」としたらば単なる乱パが開催されるだけだ。条約に反してしまうし、それって根本的な解決にはなりませんよね? となる。

 故にこそ。国がサポートするのである。

 

 曰く、交流会参加に当選した淫魔は、今日まで講習を受けていたそうである。

 男性に接する時はこうしろとか。声かけられたからと言って、それは吸精歓迎の合図じゃないよとか。幼い頃の経験で身につけるはずの常識から他国でも通じる淫魔マナーまで、それはもうみっちりと教育される。

 それ以外にも、柔らかい表情の練習をしたり、心身を鍛える為に軍人ばりの訓練をしたり、事前に発散(・・)させたりもしたらしい。

 

 準備は万全。気合も十分。全身全霊で淑女道を全うする。

 そんな心構えをしていたはずの彼女達。その第一声は、このようなものであった。

 

「「「ヒャッハー! オスだぁあああああ!」」」

 

 まさに猿叫。あるいは淫叫。長机に並んで座ってた淫魔は一斉に立ち上がり、どこぞの水鳥拳の使い手のように跳び掛かってきた。

 身構える冒険者。前に出る護衛兵。俺の一党も武器を構えた。

 そして、美しく舞い上がった彼女達は……。

 

「「「ビガガガガガッ!?」」」

 

 ケツに仕込まれた魔道具で、蚊取り線香を前にした蚊のように墜落した。

 死屍累々。諸行無常。(つわもの)どもが何とやら。さっきまで「淫魔王国に移住してぇぜ!」とか言って盛り上がっていた冒険者は、唖然となって固まっていた。

 そんな中、ピクピク跳ねる淫魔の一人がニチャア~と口の端を歪め、冒険者を見上げて言葉を発した。

 

「ごきげんよう♡ 冒険者様ぁ♡」

 

 訓練された、完璧な淑女スマイルだった。

 電気ビリビリで痺れていなければ、の話だったが。

 

 

 

 そんなこんなありつつ、異種間交流会は開催された。

 予め参加者の失態を覚悟していたのか、淫魔兵含む彼女等の立て直しは迅速だった。何事もなかったかのように、皆さん元の位置に戻っていったのである。

 淫魔側と冒険者側に分かれ。長机に並んで座る。また、両者ともに胸には番号の書かれたバッジを付けていた。一見、普通のお見合いパーティに見える。

 だが、交流会はキンクリされたように再開されただけで、先の出来事がキンクリめいて消し飛んだ訳ではない。対面で座す冒険者達は困惑しきりでさっきまでの威勢は鳴りを潜めていた。

 

 それだけだったら、まぁ何とでもなっただろう。他人の失態を見て見ぬふりする優しさくらい、荒くれ冒険者にも存在している。訓練通り、教習で習った通りの振る舞いをしてくれさえすれば、時の流れと共に地に落ちた淫魔の名誉を挽回できるはずだ。

 けれど、そうはならなかった。そうはならなかったのだ。偏に、彼女達の心の繊細さが為に。

 

 そう、例えば童貞魔術師くんの前にいる、あの如何にも陰キャっぽいメカクレ淫魔さんなどは……。

 

「ぶふっ、へへへ……ご、ごごごごご趣味は?」

 

 この始末である。

 見つめ合うと、訓練通りのお喋りができないようだった。

 

 吸精となればアレだけハッスルできるのに、いざ男性を前にすると借りてきた猫のようになってしまう。それが乳食系淫魔という存在なのだ。

 これに似た光景を、俺は前世で見た事がある。要するに、男女が逆なのだ。女性経験の乏しい男性は、女性を前にするとついやらかしちゃうのである。

 これまた、人それぞれタイプの違うやらかしをしちゃうもので。

 

「趣味ですか? えっと、その……読書の方を少々。あまり冒険者らしくはないのですが……」

「読書!? わた、私も本読みます! はい! 気が合いますね! 運命感じちゃいますぅ!」

「そう、ですか。ちなみに、どんな本を……?」

「そりゃあもうアナルキッソス先生ですね!」

「あ、アナ……? えぇ……?」

「アナルキッソス先生をご存じでない? あ、あ、アナルキッソス先生は素晴らしいですよ! 彼女の作品はどれもお尻の描写が最高で……ふひっ、いつも持ち歩いてるんです! ほ、ほら……」

 

 一方的に趣味の話をしてしまうとか。

 

「今朝は何食べたの? へー、そーなんだー。好きな食べ物は? へーそうなんだー。淫魔王国には慣れた? それはよかったねー」

 

 聞き上手であれという教訓を意識し過ぎて、質問オンリーで会話デッキを回してしまうとか。

 

「ぐふっ♡ そうですな♡ 私も競馬については一家言ありますぞ♡ むふふふふ……♡」

 

 挙句、会話中に相手の胸やら何やらをガン見してしまうとか。

 この通り、淫魔側からのコミュニケートは惨憺たる有様だったのである。

 

 微笑ましいような、ちょっと胸が苦しくなるような。俺はなんだか無性に顔を覆いたくなっていた。

 どこぞのブロッコリーゴールキーパー先輩じゃあないが、見てられねぇぜとなる。今すぐ万里の長城をビバりたいところだ。

 

「処女の頃のアタシって、端から見るとあんな感じだったんスかね……」

「あはは……どうなんでしょう」

「深刻な問題ですわ。今後の淫魔族にとっては目下解決すべき課題ですの」

 

 いや、まぁアレ等はいいのだ。彼女等はそんなに危険な淫魔じゃない。

 真に俺達が見ておくべきは、ああいった大人しい奴等じゃあないのだ。

 もっと直接的で、情熱的で、性欲に支配されたモンスターが他にいるのである。

 

「はぁ♡ はぁ♡ あーもう辛抱たまらなズゴォ!?」

「ど、どうしました?」

「ななな何でもないです! えぇなんでも……」

 

 時折、全身を痙攣させて一瞬白目を剥く淫魔がいる。

 彼女の身体からは、ほんの僅かな魔力反応を感知できた。こう……ビリッと。詳細は知らんが予想はつく。凡そ発情ゲージが閾値を超えると雷魔法が発動するとかそんなんだろう。例のアレだ。

 開始早々受けていたはずなのに、今だって何度も受けているはずなのに、どうにも精神の制御ができないようだった。

 

「……私、目を瞑っていてもいいかしら」

「別の淫魔見てて」

 

 不幸にも、魔力感知に優れたエリーゼには、淫魔の中で迸る魔力が視えているようだった。詳しくは聞かないでおこう。

 幸い、イリハとグーラはよく分かってないっぽい。そのままの君でいて。

 

「ええ♡ 私の家は酪農を営んでおりまして♡ 毎日新鮮なミルクを飲んでます♡ お、お、お陰で、こんなに♡ デュフフ♡ 大きくなりました♡ はぁはぁ♡ うっ……!」

 

 発情ラインギリギリを攻める淫魔。彼女達の目は正気と狂気を行ったり来たりしており、何をしでかすか分からない魔物めいた剣呑さを放っていた。

 童貞ムーブの乳食系淫魔。電撃ビリビリ超肉食淫魔。

 彼女達に対し、冒険者の多くはこのような反応を示した。

 

「お、おう、そうか……」

「なるほど……?」

「はい……」

 

 困っていた。ていうか、警戒していた。

 あくまで情欲を煽ってくるだけだった従業員淫魔や、気のいい淫魔商人達。下心はありつつ甲斐甲斐しく面倒を見てくれた淫魔兵と比べると、交流会の淫魔は誰もかれもが異様で、陰も陽も例外なく今にも襲い掛かってきそうな凄みがある。

 食い詰め冒険者とて、カタギの奴よりは勘がいい。恋愛感情や性欲より先に、脅威に対する戦闘勘が働くのだろう、度々腰や背中にあるはずの武器を手に取ろうとしていた。まぁ今は武装解除されてて何もできないのだが。

 

「がはは! まぁ俺は普段から足腰鍛えてるからな! そりゃもう迷宮の後なんか娼館に住んでるくらいっすわ!」

「まあ♡」

 

 そんな中、淫魔の発情状態をそよ風の如く受け流す者達もいた。

 銀細工二人とお貴族のミラクムさん。それから性欲に自信ニキな少数の鋼鉄札冒険者である。

 恐らく、彼等には仮に襲われたとしても返り討ちにできる確信があるのだろう。そういった余裕の表れか、淫魔に恐怖してないようなのだ。

 

「うぅ、まぁ、はい……」

 

 一応、トリクシィさんも力を持ってるはずなのだが、女性経験の無さが災いして前者の反応をしてしまっていた。

 あのお姉さん淫魔兵とのコミュで慣れたものと思ってたが、そういう訳でもなさそうだった。

 

 定期的に席替えなどしつつ、そんな妙な時間は暫く続く事となった。

 一部は楽しそうにしていたが、淫魔も冒険者もどうにも噛み合っていなかった。

 

「一旦休憩ですわー!」

 

 という号令の下、冒険者達は席を立って休憩の為に会場を出る事となった。

 その際、彼等を見送る淫魔は皆さん据わった目をしていた。何気にこの時が一番危険信号を放っていた。

 すわ二度目の南斗聖拳かと思うくらいの気迫。チートが無くても感じ取れちゃうね。

 

 休憩用の待機室に集まると、冒険者達は一斉に緊張の糸を緩めていた。

 椅子でぐったりしたり、机に突っ伏す人。近くの冒険者と楽しそうに話す人。前者は童貞を中心とした食い詰め冒険者達で、後者は昼夜の戦いに秀でた猛者達だった。

 休憩室でも、疲弊してる冒険者と楽しんでいた冒険者に分かれていたのである。

 

「やっぱ、淫魔ってのは髪が綺麗だよな~。なんだろ、すげぇ良い匂いするし」

「おじさんがモテてるみたいだぜ。皆かわいかったよな~」

「俺なんかいつ襲っちまうかヒヤヒヤだったっすわ。あー、もうおチンタマ爆発しちまう!」

 

 とは、性欲自信勢。

 

「俺、淫魔さんが優しいのかと思ってたんだけどよ、ありゃ違うぜ。普通の淫魔はあんな感じなんだよな……」

「殺されねぇとは分かっちゃいるが、それでもつい反応しちまうよな。故郷の村外れで狼の群れ見た時と同じだもんよ」

「所詮、わしゃ鉄札の敗北者じゃけぇ。ここに住むとか言ってた奴ぁどこの誰じゃ。わしじゃ……」

 

 とは、淫魔こわいよ勢。

 そんな中、数少ない童貞冒険者は一度ガチで襲われかかったのがトラウマになってるっぽかった。

 こうも疲れてるのは少数だが、大多数は大なり小なり淫魔の肉食っぷりに驚いたりビビッてたりしていた。

 

「お疲れですね♡ 薬草茶(ハーブティー)をお持ちしました♡ どうぞお飲みください♡」

「優しいメイドさん……!」

 

 と、このように、グイグイ来ない男性慣れした淫魔の好感度だけが上がっていく。

 地球も異世界も、やっぱモテる奴がモテるってのが真理だったとさ。世知辛いね、まったく。

 

「皆さんは何故怯えていらっしゃるのでしょうか? 例え襲われたとしても数的には有利ですし、ご主人様も加勢されるというのに……?」

「そういう話じゃあないんだよ」

「最近の淫魔って皆あんな感じなのかしら?」

「やー、流石にあれは特殊ッスよ。アタシもちょっと引くッスもん。他人の事ぁ言えねぇッスが」

「あの者達、他の淫魔と比べても氣が少なかったのぅ。きっとお腹が空いとるのじゃろう」

 

 なんて話をしていると、時は進んで交流会は再開された。

 やる気満々の強い冒険者は意気揚々と、腰の引けた弱い冒険者は意気消沈して、俺達は再度交流会という名の戦地へと向かって行った。

 

「こちら、淫国産の美尻桃(びじりもも)で作ったお酒でございます♡」

「んぁ~! こういう甘いのもたまには良いな!」

「ええ、とても飲みやすいです」

 

 後半は立食パーティ風になっていて、皆さんお酒片手に紳士淑女めいて和やかな談笑……といきたいところだったが、例によって両参加者は二極化してしまっていた。

 童貞は童貞同士で、乳食系は乳食系同士で穴熊を決め込み睨み合い。しっかり交流してるのは、猛者冒険者と発情して理性がふやけている少数淫魔だけという始末。まるで陰キャグループと陽キャグループのようであった。

 こういう時、強い陽キャが女の子の視線を釘付けにするもんだと思っていたが、淫魔に関してはそうではなかったらしい。

 

「ぐふっ♡ お、お、お酒好きなんですか? デュフフ♡」

「は、はい。たしなむ程度には……」

 

 陰キャ淫魔は執念深いのか。深い混沌を湛えた瞳は、皆さん一人の冒険者にロックオンしているようだった。

 中でも童貞が人気なようで、童乳の二者はお互いがハリネズミになったかのような距離感を維持していた。

 

 が、それは再開してすぐの事で、彼等は徐々に近づいて行った。腰の引けた童貞と言ったところで、そりゃ興味あるから交流会来たのである。

 美味しいお酒など呑んでいると、彼等彼女等の間にはたどたどしくも徐々に会話が交わされていった。

 

「てな訳で! フィーリングタイムですわー!」

 

 と、良い時間になったところで、交流会は最後の儀式に移行した。

 フィーリングタイム。これは意中の相手を指名して、両想いとなったら仮カップル成立となり、交流会期間中に更なる親密な交流を図るという仕組みである。各々が身に着けていたバッジはコレに使う為にあったのだ。

 要するに、どこぞの恋愛企画モノみたいなノリである。

 

「お前どうする?」

「いやぁ……」

 

 ちなみに、交流会はこの一日だけで終わる訳ではないので、そう焦る事もない。双方、別に誰も指名しなくてもいいのだ。

 打ち解けつつあるとはいえ、多くの冒険者は尻込みしているようだが、淫魔の方はバリバリに狙っていた。今にもペルソナを出しそうな目元が実にホラーめいている。

 

「ミュージック・スタート! 行きますわよ行きますわよ! 記念すべき一組目のカップルは……じゃん! ラフィさんとヴァレフォリエさんですわー!」

 

 ドキドキの結果発表。すると、早速一つの仮カップルが成立した。鬼人銀細工のラフィさんである。

 彼は銀細工らしい強者然とした笑みを浮かべつつ、同じく名を呼ばれた淫魔に近づいていく。相手は黒髪ロングの大和撫子風淫魔さんだった。

 

「いやぁ悪いなお前ら! 俺はお先に失礼させてもらうぜ! じゃあな!」

 

 そうして、二人は仲良さげにお庭の方へ向かって行った。

 カップル成立と言っても、別に今から早速野外吸精をするという話ではない。軽く中庭デートなどしてから、一緒にご飯を食べるだけである。あくまで交流が目的なので、カップル成立=即ハメボンバーという訳ではないのだ。

 悠々と去り行く二人に対しては、おぉという冒険者からの賞賛と、ぐぬぬという淫魔からの嫉妬の視線が贈られていた。

 

「さぁて二組目は……あれ? 誰もいませんわ!」

 

 次は誰だと思ったら、なんと仮カップルの組み合わせはさっきの一つだけだったようだ。

 大多数の冒険者が保留を選んだのは知っていたが、ちゃんと指名した冒険者も上手く噛み合わなかったらしい。

 残された淫魔は、乾ききった暗黒の目をしていた。

 

「み、皆さん落ち着いて! て、撤収ですわー!」

 

 とりあえず、交流会の初日はこれにて終了である。

 

 

 

 

 

 

「お、おかしいですわ……! あれだけの人数がいて、なんでカップルが一つしかできなかったんですの……!?」

 

 異種間交流会の最終目的は、小淫魔と冒険者間でのカップル成立である。

 単に弱い淫魔に吸精をさせる事が目的なのではなく、お互い末永く寄り添える恋人を作ろうとしているのだ。

 

 何故、カップルを作ろうとしているのか。詳しい理由は知らないが、そのへんラリスにも得があるようなシステムにしてあるのだろう。

 だが、運営側が思っていたよりは上手くいかなかったようである。講習を受けさせ、信じて送り出した淫魔は一瞬で性欲に負けてしまったのだ。むべなるかな、アレじゃあ尻込みしちゃうでしょう。

 

「怯えてたッスね、童貞」

「そうですね。小淫魔達の性欲を甘くみていました」

「どれだけ鍛えたとしても、やはり男を知らないと理性的淫魔になれないんですのね……」

「お? なんスかザコアナル。今のが皮肉のつもりなら決闘申し込ませてもらうッスよ」

「い、いえ、そういう訳では……」

 

 普段着に着替えた冒険者が集まる談話室で、淫魔組は交流会についてアレコレ話している。グレモリアさんの見立てでは、一日目でバンバン成立すると思っていたようだ。

 が、俺視点では今日の交流会は全部が全部失敗だとは思えない。どだい初めての試みなのだ、多少の想定外はあって然るべきである。最善で最高ではなかったかもしれないが、初めてでこれなら悪いやり方じゃあなかったと思うのだ。

 会場はしっかりと他国の男性に配慮した造りをしていたし、会場にはこれまで見てきた淫魔王国節など無かったのである。

 

「なんか可哀想なのじゃ」

「淫魔の性欲は本能に根差しているものね」

「ルクスリリアが禁欲できてるのは、ご主人様がいるからですし……」

 

 一党の皆は、交流会の淫魔に同情的になっているようだった。

 元より、我が一党は社会の外れ者の集まりなのだ。各々、弱者の苦しみには人一倍共感しやすい性質を持っているのである。

 

「にしてもよー。ラフィの奴に一抜けされちまったのは、ちょ~っとおじさん的にゃあショックかな~。まさかアイツが選ばれるなんてよ~」

「羨ましいっすわ。俺の本命ちゃんは俺以外をご指名っすわ。モテねぇ男は嫌だねぇ。トリィ、お前どうよ」

「自分は特に……。その、ミラクムさんは何方を指名されたんですか?」

「指名については保留させて頂きました」

「そりゃあ何でだい?」

「皆さん、一党の仲間としては、少し浮ついているように思えたもので。それに、彼女達がどれほどの力を持っているか、現状では何とも言えませんから」

「真面目だねぇ」

 

 リカルトさんやその他性欲自信ニキ達はしっかりと投票してたらしいが、本命にはマッチングしなかったようである。

 同じ猛者サイドでも、トリクシィさんとミラクムさんは何にもしなかったと。後者に関しては理由が独特な気はするが。

 

「ともかく、交流会はまだ続きますわ! イシグロ様、明日からもよろしくお願いしますわね!」

「ええ、もちろん」

 

 と締めくくったところで、時間はすっかり夕食時である。

 緊張から解放されてか、元来健啖家の多い冒険者達は腹の虫を制御できないでいるようだった。ぐぅ~、という腹の音でちょっぴり和む。

 夕食もこの屋敷で食べるというのでメイドさんを待っていると、ふいにガチャりとドアノブが回された。

 

「あん?」

 

 が、不可解にも扉はやけに緩慢な動きで開かれていった。

 メイドさんなら事前にノックをするだろうし、そうでなくても速やかに開けるはずだ。にも拘わらず、待機所のドアは何故かギギギと軋みを上げていたのである。

 

「アア、アァ……」

 

 やがて現れた存在に、一同の注目が集まった。それは夕食を知らせに来たメイドではなかった。

 くすんだ金髪。艶が無くなった鬼角。身長の割にがっしりしていた全身の筋肉は、どういう訳だか萎みに萎んでミイラみたいになっている。

 また、その瞳には本来あるはずの生気が一切無く、ただただ虚無に覆われていた。肌も唇もカサカサで、声も徹夜カラオケ後めいて枯れていた。

 

「「「ラッ……ラフィッ!?」」」

 

 その男は、紛れもなくラフィさん本人だった。

 幽鬼のように数歩ほど歩いた彼は、倒れそうになったところをリカルトさんに支えられていた。

 

「なっ……なんで……!?」

「たたた、大変ですわ! ラフィさんの精がゼロになってますわ!」

「し、至急応援を! メディーック!」

 

 状況証拠的に、彼がこうなったのは淫魔の吸精によるものだろう。

 しかし、ラフィさんは前衛の銀細工だ。そう易々と絞り尽くされるとは思えない。

 

「とりあえず回復しますね。構いませんか?」

「ええ、よろしくお願いしますわ……!」

「魔力過剰充填、【手当て】」

 

 とりまリジェネでじっくり癒やす。やがてHPが全快し肌艶は取り戻したものの、ラフィさんの瞳は未だ暗く淀んでいた。

 魔力も吸われているのだろう。彼は魔力欠乏症を発症していた。こうなると、しばらく休ませるしかない。

 

「嘘だろオイ……お前ほどの男が、なんで……?」

 

 ウィードさんの疑問に応えるように、ラフィさんは緩慢な動作で冒険者達を見た。

 イケイケのリカルトさん。性欲お化けのウィードさん。夜戦に自信ニキの冒険者達。

 そして、未だ純潔を保っている童貞達と目を合わせ、彼は口を開いた。

 

「お、お前等、よく聞け……」

 

 そして、一言。

 

「淫魔に、主導権を握らせるな……!」

 

 ガクッ。

 言い残し、ラフィさんは意識を失った。いや、眠ったのだ。

 淫魔によって絞り尽くされた彼は、とても安らかな寝顔をしていた。間違いなく、天にも昇る経験をしたのだろう。

 その上での、あの言葉という訳だ。

 

「おいおい、嘘だろう……?」

「銀細工のラフィが……」

「“剛剣”のラフィが……」

 

 広い待機所に、冒険者達の戦慄が浸透する。

 やがて、畏怖と敬意と僅かな羨望を飲み込んで、男達は確信した。

 

「「「()られたッ……!」」」

 

 ここが、狩場である事を。

 

 

 

 残念ながら、あるいは幸いなのか。

 交流会期間中、仮カップル間での吸精は推奨されずとも許容されている。その事は両者合意の上で参加してきたはずだ。

 つまるところ、誰も悪くはない。悪くはないが、やり過ぎではあった。

 

 時に、淫魔という種族は、位階によって持ち得る力に格差がある。

 大淫魔は中淫魔より強く、小淫魔は中淫魔よりも弱い。

 同じく、精神力や忍耐力に関しても、小より大のが長けている。

 

 小淫魔といえど、雄の精を吸うのが本能であり、淫魔という種の本懐だ。

 ともすれば、小淫魔は大淫魔よりも容赦なく精を吸う。経験が乏しいなら、尚の事。加減が分からず自制もできず、欲望のまま思い切り力いっぱい吸っちゃうのである。

 

 後に、件の淫魔は運営側の淫魔騎士から事情聴取を受けた。

 絞り過ぎてはならないと、講習で習ったはずである。なのに、何故にすっからかんになるまで吸精をしたのか。

 その問いに、当の淫魔は……。

 

「ヤバいと思いましたが、性欲を抑えられませんでした」

 

 と、答えた。

 

 淫魔の吸精? 言うて相手は下級魔族っしょ? 生命力くらい、多少吸われても何ともねぇわ。

 そう、高をくくっていた銀細工は、弱いはずの小淫魔によって絞り尽くされてしまったという話だった。

 

 つまり、こうだ。

 

 精が出るなら、搾れるはずだ。

 例え、相手がマグロになったとしても。

 乳食系淫魔は止まらない。

 

 そこに、怒張陰茎(やま)があるならば。




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