ロリコンと奴隷少女の楽しい異世界ハクスラ生活   作:いらえ丸

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淫魔さんとの約束

「う、美味ぇ! この氷菓(アイス)、キンッキンに冷えてやがる……! ありがてぇッス!」

「んむんむ、やはり乳の濃さが違うのぅ」

「はい! 味の種類も多いですし、こればかりは王都より明確に上かと!」

双形甘蕉(フタナリバナナ)味、美尻桃(びじりもも)味、芒果(マンゴー)味……どれも美味しいのだけれど、なんなのかしらねこの気持ちは……」

 

 ラース邸からホテルに戻り、数日の時が経つ。

 淫魔兵に警護の任を引き継いだ俺達は、淫魔王国唯一の都であるケフィアムを観光していた。

 美しく舗装された歩道に、色鮮やかな建物。常夢のケフィアムには、王都アレクシストとは違うどこか遊園地めいた魅力があった。

 上下左右、どの方向を見渡してもケフィアムはとても綺麗な街なのである。

 

「ご主人ご主人! あそこにあるのが観光名所の“真実の壁尻”ッス! あの穴にチンチン挿れて嘘吐きかどうか判断するんス!」

「嘘吐きならどーなんの?」

「すごい締め付けてくるらしいッス!」

 

 時折見かける妙ちくりんオブジェ以外は、マジで美しい街なのだ。これだけはハッキリと真実を伝えたかった。

 先ほど見た真実の壁尻を筆頭に、この街には謎のエロアートが沢山ある。そのどれもが無駄に高度で無駄に洗練されているのだから凄いというか何というか。

 

「あの銅像は初代淫魔女王ですか」

「見事な像ね、素晴らしい技術よ……」

「胸は立派じゃが、存外小さい御方じゃったんかの」

「んー、なんか古代の淫魔は今ほどデカくなかったらしいッスよ」

 

 一応、スケベ系以外の健全モニュメントも存在する。

 エロ方面にばかりに目が行くが、淫魔という種族は意外にも手先が器用でモノづくりが上手なのである。何故だかクリエイティブな国民が多いのだ。

 芸術以外もその通りで、畜産用に哺乳瓶を作っていたし、今俺達が食べている異世界アイスクリームも淫魔王国発祥だ。その他、ラリスの衛兵が使っているらしい魔封じの鎖や頑丈な手錠なんかも淫魔王国民が開発したそうである。

 

「へえ、生姜と牛乳でこんなにも美味しいお茶になるなんて……」

「お気に召して頂いたようで、いち淫国民として誇らしい気持ちです」

 

 ふと見ると、街角のお洒落なカフェで交流会を撤退した冒険者と護衛の淫魔兵が親しげにお茶をしていた。

 なんというか、淫魔兵は抜け目ないなと思った。押してダメだったから引いているのだ。性欲に流される乳職系淫魔と違い、彼女等は性欲を乗りこなしている。同じ小淫魔なのに、どうしてこうも差が出るのか。経験、性癖の違い?

 

 ちなみに、同じく交流会離脱組であるトリクシィさんは、今日も今日とて牧場で乗馬の練習をしているらしい。例によって、護衛のお姉さん淫魔兵と一緒である。

 ここ最近、彼は談話スペースで楽しそうに日刊馬トークを話してくるのだ。冒険者にしては珍しく貯金の多いトリクシィさんは、いずれ淫魔王国産の馬を購入するつもりであるらしい。

 イキりコートに刀に馬。彼の方向性が固まってきたような、ブレているような。何にせよ、彼が楽しそうで何よりである。

 

「乗馬かぁ。今度俺も体験してみようかな」

「ご主人様は馬がお好きなんですか?」

「なんかいいじゃん、馬」

「アタシも馬は好きッスよ」

「貴女は賭け事が好きなだけでしょう?」

「でも、アレは賭博目的じゃなくてももう一度観てみたいのじゃ」

 

 なんて話をしつつ、淫魔王国の都を散策する。

 ケフィアムはそこまで広くはない。貴族の住む区画を含めても、その面積は王都の半分も無かったりする。

 多くの淫魔はこの街で暮らしているらしいが、淫魔王国全体で見るとその領土の殆どは畜産関係で埋め尽くされている。ケフィアム近郊の牧場の場合、そこから通勤している淫魔も少なくないとか。

 

「あの公園の真ん中でグレモリアが派手にケツイキしてたッス!」

「そんなの教えてくれなくていいから……」

「けついき……?」

 

 楽しそうに思い出を語ってくれているルクスリリアも、ケフィアム生まれケフィアム育ちの都会っ子である。

 現在は牧場に住んでいるというルクスリリアママは、彼女が自立したと同時に引っ越してったそうである。以降は一度も会ってないという。

 

 ルクスリリア母への挨拶。覚悟こそしているが、それでもちょっと怖い。

 淫魔の思考回路的に、娘さんを性奴隷にしてますってのは全然悪い扱いじゃないのは分かっている。分かっちゃいるが、それでも彼女の母を前にどんな顔をすればいいというんだ。

 いずれ奴隷証を返すつもりであるとは、伝えるつもりだが……。

 

 現実逃避をするように、空を眺める。

 男根型の雲があった。

 なんでだよ。

 

 

 

 そうこうしていると、太陽の近くの空が赤みを帯びている事に気が付いた。

 さほど広くはない街でも、何かある度に立ち止まっていては時間などあっと言う間に過ぎていく。まんま観光旅行と同じ時間感覚だ。

 そろそろ戻ろうかと、俺達はホテル・乳鮑の方向へ歩いて行った。

 

「ん? あそこにいるの、ニーナ先輩じゃないッスか?」

「あらほんと」

 

 と、その道中で眼鏡淫魔のニーナさんと軍人淫魔さんの二人を発見。

 現在、ニーナさんはラース邸の警備をしているはずだが、何故かケフィアムの入り口近くで淫魔兵と何事か話していた。

 何かあったのかと思って見ていると、振り返った彼女と目が合った。話の続きを軍人淫魔さんに引き継いだようで、彼女はこちらに歩み寄って来た。

 

「どうも、イシグロさん。ケフィアム観光はどうでしたか?」

「ええ、大変素晴らしかったです。ところで、ニーナさんは何故こちらに?」

 

 ホテルの淫魔兵に仕事を引き継いでから、俺達は遊び呆けていたのである。勤務中の仕事仲間達と会うのはちょっと気まずい。

 話題を逸らすように問うと、彼女は常と変わらぬ柔らかな表情で返答した。

 

「本日が交流会の最終日となりますので、衛兵の方にそれを伝えに来たところです。ホテルの淫魔兵には伝達済みですが、イシグロさんにも共有を」

「そうでしたか」

「はい。今宵は最終決戦(・・・・)ですので、イシグロさんの側でも注意して下さればと」

「かしこまりました」

 

 彼女の言う通り、本日は異種間交流会の最終日である。

 この夜に何が行われるかというと、仮カップルから仮が消えるかどうかの一大イベントが発生するのである。

 真カップル成立の仕組みは単純で、どこぞのリアリティショーのように淫魔が冒険者に告白し、オッケーなら別室で吸精フィーバーとなるのだ。

 ちなみに、今宵の吸精は淫魔兵の監視付きだ。なので、ニーナさん達は万一の為に夜通し監視するらしい。

 

「ところで、ヴァレフォリエさんは見つかりましたか?」

「それが、まだ見つかってないんですよね……。ラース公爵の魔力探知にも引っかからないようで……」

「何か他に見つける手段はないんですか? 魔法とか」

「女王陛下なら淫魔王国民の居場所を把握する事もできるそうですが、迷子の為に謁見を申し出るのはどうなのかとグレモリアさん達は悩んでいましたね……」

 

 どうやら、以前言っていた行方不明淫魔の足取りはまだ掴めていないようだった。

 漫画脳の俺からすると、内側の監視も大事だろうがカップル不成立の淫魔の暴走をこそ警戒したいところである。

 これまた、会議段階で俺は吸精監視の任からは外されていた。ホテル・乳鮑を守らなくてはならないからだ。最後の夜だからと、過ちを犯そうとする淫魔がいるかもしれないのである。なので、今日の俺は夜勤だ。不眠ポーションを使う予定である。

 

「それは……ん?」

 

 別れの挨拶をしようとしたところで、何か門の方が騒がしくなっている事に気が付いた。

 門の方を見ると、淫魔兵が外の方に止まれ止まれと叫んでいた。“遠視”を使って見てみれば、遠くから馬が駆けて来るのが見えた。

 

「暴れ馬? いや違うな」

 

 よくよく見てみると、駆けてきている馬の背には人が乗せられているのが見えた。手綱を持っているのではなく、荷物のように人が運ばれているのだ。

 走ってる馬はむしろ背中の人を落とさないようにしている。角度的に顔は見えないが、その人の服には見覚えがあった。

 

「と、トリクシィさん!?」

 

 イキりコートのトリクシィさんである。彼は完全に意識を失っているようで、今にも落馬しそうになっていた。

 門に近づくにつれ、馬は徐々に速度を落としていった。大人しく止まってくれるらしい。俺は皆を連れて馬へと駆け寄った。

 

「すみません。彼は交流会の参加者です。こちらには回復手段があります。失礼」

 

 対処に惑っている門番を押しのけ、俺はぐったりしているトリクシィさんを馬の背から下ろした。ニーナさんと軍人淫魔さんが兵士達に事情を説明してくれて、門番さんは馬の方を対処していた。

 トリクシィさんに回復体位を取らせ、容体を確認する。目を瞑っている。意識がない。脈と呼吸に問題はない。ところどころ小さな擦り傷や打撲跡はあるが、そう大きな怪我はなさそうである。HPも余裕だが……。

 

「イシグロさん、回復魔法を」

 

 門番に説明してくれていた軍人淫魔さんが、エリーゼのチート治癒を要請してきた。

 何が何だか分からんが、ここで出し惜しみはしない。俺はアイテムボックスから王笏を取り出し、エリーゼに手渡した。

 

「エリーゼ」

「ええ。治りなさい(・・・・・)

 

 権能付きの完全回復魔法。ほんの一瞬、淡い緑色の光が彼の身体を覆う。

 ひとまず微弱に減っていたHPは全回復した。呻き声は聞こえるが、未だ彼の意識は戻っていない。

 続いて状態異常回復魔法。淡い光に包まれた後、彼は風邪でも引いているような緩慢さで瞼を開けた。

 

「トリクシィさん。聞こえますか? えーっと、頷けますか? 意識があったら頷いてください。難しそうなら瞬きを」

 

 声をかけるが、返事がない。ボーッとしていて、目の焦点が合っていなかった。

 まさか、精神疾患さえ瞬時に癒やせるエリーゼの状態異常回復に効き目がないのか?

 

「ニーナ先輩、これ……」

「失礼します」

 

 何か勘付いたらしいルクスリリア。続いて、ニーナさんが彼の眼を覗き込んだ。

 何事か呟きながら暫く彼を視診した彼女は、やがて目を丸くした。

 

「催眠魔法……! それも、淫魔の……!」

 

 その言葉に、俺を含め周囲にいた淫魔兵達は身体を震わせた。

 

「現在、彼は催眠にかかっています。それも、相当に強力な……危険な状態です!」

「え、それって……」

 

 淫魔による催眠。まさかあのお姉さん淫魔が? いやいや、今は犯人はどうでもいい。

 とにかく、エリーゼが回復させられないくらいにはヤバい状態な訳で、これを何とかするのが最優先だろう。

 

「ご主人、淫魔のガチ催眠はマジでヤベーんス! 回復魔法じゃどうしようもねぇッスよ!」

「ひとまず安全なところへ。催眠解除法は心得ています」

 

 淫魔兵が担架を持ってこようとしたが、それではあまりに遅い。俺はニーナさんの指示の下、トリクシィさんをおんぶして運んだ。

 抵抗しない身体は、思ってたより背負いにくかった。

 

「あれ?」

 

 トリクシィさんを背負っている間、何か違和感があった。

 そうだ、普段からトリクシィさんの腰にある刀がない。鞘がベルトに引っかかっているだけで、肝腎の刀が抜けていたのだ。

 つまり、あの怪我は戦ってできた傷なのか。抵抗していた? 何に? そもそも二人はとても親密だったのだ。催眠なんか必要かという話で。

 いやいや、これも今はいい。冷静になれ。エリーゼを見る。可愛い。よし戻った。

 

「ここにお願いします」

 

 門番の詰所に入り、言われるがままトリクシィさんを椅子に座らせる。

 彼は今なお正常な意識を取り戻しておらず、ぐったりと脱力していた。左右に崩れそうになるトリクシィさんの身体を、軍人淫魔さんが後ろから支える。

 

「支えておいて下さい。まさか、これを使う機会があろうとは……いきますよ」

 

 ニーナさんは至近距離でトリクシィさんと目を合わせた。彼女の双眸は紫色に発光している

 すると、徐々に彼の目に光が戻っていき、やがてキョロキョロと辺りを見渡した。

 

「あれ? ここって……」

 

 かなり怠そうだが、トリクシィさんは意識を取り戻したようである。

 安堵したところで、詰所に新たな淫魔兵が入ってきた。淫魔兵の隊長である。

 

「ここはケフィアムにある淫魔兵の詰所です。こちらのニーナさんが貴方の意識を回復させました。トリクシィさん、先程まで貴方は催眠状態にありました。何があったか、思い出せますか?」

 

 呆然とするトリクシィさんに、淫魔隊長が問う。

 その言葉を聞くと、状況を理解するなり彼は勢いよく立ち上がろうとした。

 

「ぐっ! 手を退けてください……!」

「落ち着いてください。まだ完全に解除されている訳ではありません」

「その通りです。思うように動けないのではありませんか?」

 

 立ち上がろうとしたトリクシィさんは、自分より力が弱いだろう軍人淫魔さんに取り押さえられていた。

 弱っているというより、身体が言う事を訊かないといった風である。とてもではないが、走るなんてできそうになかった。

 

「先ほども言った通り、貴方は深い催眠状態にありました。十全に動けるようになるには、もう少し治療が必要です」

「ですが……!」

「失礼。対象指定、【鎮静】」

 

 焦燥感に満ちているトリクシィさんに、淫魔隊長が指揮系スキルを使って冷静にさせた。

 やがて落ち着きを取り戻したトリクシィさんは、半ば強引に呼吸を整えはじめた。流石、ギルドが認める天才剣士である。

 

「問題解決の為、我々に説明して頂けませんか?」

「はい……」

 

 呻くような返事の後、彼は今に至るまでの記憶を思い出すように言葉を紡いでいった。

 

「……夕方になる前だったと思います。自分とヴィーネさんは、彼女の実家である馬産牧場に行っていました。そこで乗馬の手解きを受けていたところ、自分とヴィーネさんは襲われたんです」

「何に襲われたんですか?」

 

 淫魔隊長の問いに、トリクシィさんは頭痛を耐えるような表情で答えた。

 

「淫魔です。小淫魔の群れ……」

「群れ……!?」

 

 その答えに、詰所にいた全ての淫魔の身体が硬直していた。最悪の状況を想像したのだろう。

 それで刀を抜いたのか。お姉さん淫魔に貪られるとか、そういう同人エロゲみたいな展開という訳ではなさそうだが。

 

「彼女達には言葉が通じず、抵抗の為にヴィーネさんと共に交戦しました。ですが相手の数が多く、彼女は自分を逃がす為に……!」

「治療にはもう少し時間が必要です。放置しておくと、重篤な後遺症が残る可能性があります」

 

 話をしていきり立ったか、再び動き出そうとするトリクシィさんをニーナさんが宥めた。

 

「彼女達はまともじゃなかったんです! 同族であるヴィーネさんにも攻撃を! は、早くしないと死んでしまうかも……!」

 

 淫魔の群れに襲われて、ヴィーネさんという護衛のお姉さん淫魔に逃がしてもらった。この状況、彼の視点だと今すぐ救援に行きたいところだろう。

 しかし、いくら戦闘力が上であっても、トリクシィさんは淫魔の催眠魔法を耐える事ができなかった。催眠魔法は精神耐性の補助効果や耐性ポーションで無効化ないし軽減できるのだが、彼はその手の対策アイテムを持っていなかったようである。

 

「隊長、どうなさいますか」

「偵察に行きたいところだが、この場の淫魔兵だけでは心許ない。そも、どのみち淫魔じゃ気付かれる。行くなら少数精鋭が望ましいが、ニーナさんは……」

「私が行きたいところですが、彼の治療は大淫魔の私しか不可能かと」

「騎士様を呼ぶには時間がかかるか……」

 

 まとめると、隊長もトリクシィさんも残された淫魔兵を救いたい。だが戦力が無い。ニーナさんは無理。騎士を呼ぶには時間がかかる。

 と、そういう状況な訳だ。

 

「ルクスリリア」

「ご主人なら大丈夫ッス」

 

 ここは、俺が名乗り出るべきではないだろうか。

 冷たいと言われるかもしれないが、こういう時に俺は他人の危機感や焦燥感に共感できない。天の助ではないが、「大変だねアンタら」とか思ってしまう。

 トリクシィさんがロリなら形振り構わず助けただろうが、そうでないならリスクを負う気になれはしない。俺と彼は友人だが、逆に言うとそれだけでしかないのである。

 だが、交流会運営側にいる俺としては、これは結構な問題な気がする。今すぐ解決すべき課題だと思う。なら、俺は部外者じゃないだろう。

 

 実際のところ、今すぐ偵察に向かう事が正しいのかどうかなど、俺には全く分からない。

 けど、そうなるならば、乗ろうと思った。

 

「すみません、よろしいですか?」

 

 淫魔隊長に、俺は声をかけた。彼女も俺の戦闘力を知らない訳ではないだろうに、立場上言い出せなかったのだと思う。

 幸い、俺はガチガチに精神耐性を固めているし、ルクスリリアからの太鼓判もある。万が一の為に、各種ポーションも揃えてあるのだ。

 運営としての義務。それから、薄情ながら彼への友情もほんの僅か。

 

「斥候の護衛なら、私にお任せいただけませんか?」

 

 あくまで、俺は斥候の護衛という役割。淫魔兵の指示には従う所存である。

 そう申し出ると、淫魔隊長は暫く思案した後に決断した。

 

 これより、二人が襲われた現場を偵察しに向かう。

 可能なら、お姉さん淫魔ことヴィーネさんを救出する。

 

「イシグロさん、ヴィーネさんのこと、よろしくお願いします……!」

 

 薄情だからこそ、冷静に遂行できる確信があった。

 

 

 

 

 

 

 鮮やかだった夕焼けが、暗い夜に変わる頃。

 俺達はトリクシィさんの襲撃現場を探る為,、全速力で淫魔王国の空を移動していた。

 

「皆、大丈夫か?」

「大丈夫ッス」

「なんだか不思議な気分だけど」

「むしろ楽じゃな、これ」

 

 ケフィアムから牧場まで、空中移動ならそう何分もかからない。なので、俺とグーラはラザニアに乗り、他の飛べる組をラザニアの角に括りつけた縄で牽引していた。

 時速百キロオーバーで飛ぶヘラジカに、縄で引っ張られてるロリ三人と淫魔兵。何となく、ウェイクボードみたいだなと思った。

 

「ヴィーネの牧場はそろそろです。何か見えますか?」

「誰もいないように見えますが」

 

 メンバーは俺の一党と斥候役の淫魔兵。斥候役に選ばれたのは、同じく交流会運営の軍人淫魔さんだ。

 曰く、彼女とヴィーネさんは同い年の同期であるらしい。

 

「ここからは徒歩で移動します。一旦降りましょう」

「はい」

 

 軍人淫魔さんの指示に従い、牧場から死角になるところで着地。ウェイクボード組も自身の浮遊能力を駆使して軟着陸した。

 一度遠くから牧場を観察した後、俺はこの場の全員に各種隠形系魔法をかけ、現場に足を踏み入れた。

 

 風通しの良い牧場内は、不気味な静寂に満ちていた。

 コソコソと隠れながら牧場の周りを探してみたが、罠や伏兵は見つからなかった。到着からこっちレーダーに感はない。目視でも淫魔はいないように思える。グーラとイリハの鼻にも反応はないようだ。

 

「変な魔力が滞留しているわ。不自然なくらい純粋な……」

「芝生が踏み荒らされています。この足跡は、剣士の踏み込み? 片手剣の足捌きのように思えますが……」

「家畜の匂いは……まだ居るようじゃの。何でじゃ? 普通、馬なり何なり盗んでくもんじゃろ」

 

 牧場の中、恐らく馬の放牧地であったところには、強く踏み込んだ人の足跡や魔法の痕跡などの争った形跡があった。

 ここにウィードさんがいればコールドリーディングができただろうが、軍人淫魔さんにそれは出来ないようだ。これまではステアップの為に純戦闘系ジョブを伸ばしていたが、今後の為に斥候系ジョブも伸ばした方がいいかもしれない。

 そんな事を考えつつ、俺は慎重に辺りを捜索した。

 

「これは……?」

 

 ふと、暗視ポーションで鋭敏になった視界に、見覚えのある物を発見した。

 手に取ってみると、それはトリクシィさんの愛刀だった。周囲の芝生にはところどころ焦げている箇所があり、ここでは特に激しい魔法合戦があった事が分かる。

 

「イシグロさん、これを見て下さい」

 

 見ると、軍人淫魔さんの手には半分に折れた短杖が握られていた。

 その杖の先端には、妙にファンシーなリボンが巻き付けてある。

 

「それは?」

「淫魔王国兵に支給される短杖です。このリボンは、ヴィーネがトリクシィさんから頂いたのだと自慢してきたモノで……奴の杖です」

 

 表情を変えずに言う軍人淫魔さんは、最後の方だけ声が震えていた。

 トリクシィさんを逃がして戦ったのだろうヴィーネさん。これを形見とは思いたくないが。

 

「探しましょう。皆、固まって」

 

 冷静な軍人淫魔さんに倣い、俺達は捜索を続行した。

 家畜小屋を除いてみると、そこには牧場で飼育されていたと思しき馬達がいた。皆、何かに怯えるように大人しくしていた。自主的に寝床へ戻っていたようだ。

 ヴィーネさんの実家にも入ってみる。牧歌的な家にそぐわない最新式の魔導コンロの上には、作りかけの夕食があった。半分だけ斬られた根菜の横に、包丁が無造作に置かれている。

 

 牧場には戦いの跡。馬は無事。家も荒されていない。

 この牧場には、淫魔だけがいなかった。

 

「目的は不明ですが、戦闘があったのは間違いありません。証拠も発見しました。一度、ケフィアムに戻りましょう」

 

 外に出ると、軍人淫魔さんは冷静に言葉を発した。

 こんな時でも、彼女は生真面目だった。目つきは鋭く、唇を硬く引き結んでいる。ただ、その瞳は友を害された怒りに満ちていた。

 

「ええ……」

 

 目的は偵察。可能なら現場の確認。最高の成果はウィーネさんの救出。だが、この牧場に人は居なかった。

 最低限の役目は果たした。いつトリクシィさんを襲った群れが現れるか分からない。もう戻るべきだろう。

 そう思った、その時である。

 

 レーダーに、敵反応。

 

 敵と味方で切り替わっていた暴淫魔の反応ではない。これは真っ赤な敵の印。魔物か、人類か分からないが、俺に害意のある存在が感知範囲のギリギリに出現したのだ。

 俺は敵からは見えない角度でルクスリリア達に手振りをした。敵反応。先制攻撃。目標は捕獲。

 ホント、備えあれば憂いなしだ。

 

「そうです……ねェ!」

 

 振り向き様、俺は居合モーションで無銘を投擲した。

 即座に反応した敵は、慌てて茂みから逃れた。翻る長い金髪、羊のような角。姿を現したのは、見知らぬ顔の淫魔だった。

 

「敵襲! 俺達でやります! 警戒を!」

「はい!」

 

 言うより早く、俺とグーラは駆け出していた。背中を向けて逃げようとする淫魔に、グーラの左手から鎖が射出される。相手は背中に目がついているように回避してのけた。だが勢いは減じた。追いつける。

 イリハに軍人淫魔さんを守ってもらい、俺とグーラで追い詰める。それでルクスリリアとエリーゼで捕獲する作戦だ。

 

「オラァ!」

 

 俺はアイテムボックスから対人棍を取り出し、水平に跳躍して馬上槍のように突き出した。

 振り向いた淫魔と目が合う。その虹彩は白く発光していた。戦う事を決めたのか、彼女は腰の小剣を抜いた。

 ギィン! 激しい火花、小剣で打突を受けられる。勢いそのまま流れるような連撃を見舞うも、淫魔は獣めいた体捌きで避けてくる。

 強い……というか、あまりにも速過ぎる。スピード云々ではなく、反応速度が異常だった。何となく、超反応するゲームのエネミーみたいな印象を受けた。

 

「はぁーっ!」

 

 死角からのグーラキックを、白目淫魔は文字通り倒れ込んで回避した。直前の体勢からして普通はできない動きである。次いで陸の魚のように跳び上がった白目淫魔は、片手と両足で着地した。

 

「相手が淫魔なら思いっきりいくッスよ! しゃあッ!」

動くな(・・・)!」

 

 追いついてきたルクスリリア達の魔法も、白目淫魔は異様なアクロバティックで避け続けた。無論、俺とグーラも攻撃しているが、その全てが回避される。

 危機察知チートでも持っているのか? ステータスは圧倒してるはずなのに、何故か相手を捉えられない。事実、白目淫魔のスピードは目でも脚でも余裕で追随できるのだ。なのに、これは何だ? 有体に言って気色悪い。知性ある戦士と戦ってる感じがしないのだ。

 

「ぐぅぅぅ……かぁッ!」

 

 大きくバックステップした淫魔は、ここで初めて攻撃姿勢をみせた。

 唸り、そして目を見開く。双眸の発光を強くして、イリハの後方にいた軍人淫魔さんを視線で以て射貫いた。

 

「くっ……! こ、これは催眠!? なぜ淫魔の私に……?」

 

 ビームのような眼光はイリハの結界を貫通し、モロに受けた軍人淫魔さんは金縛りにあったように硬直した。

 耐性ポーションのお陰で耐えているようだが、催眠されるのは時間の問題に見える。

 こういう時、対処法は教えられていた。

 

「イリハ!」

「失礼するのじゃ!」

「ぐぁ!」

 

 瞬間、イリハのヤクザキックが軍人淫魔さんを吹き飛ばした。交わっていた視線が強制的に剥がれる。これで大丈夫なはずだ。

 その間にも俺とグーラが殴りかかる。ムカデのように這って退避した淫魔は、再度目の光を強くした。次の狙いはルクスリリア。

 

「させないのじゃ!」

 

 ルクスリリアの身体に黄色いオーラが纏われる。イリハの深域武装から、状態異常耐性の守護霊を憑依させたのだ。

 これで無駄撃ちになった。すかさずエリーゼの拘束魔法が殺到し、回避しようとした白目淫魔の脚に絡みつく。

 

「仕留めたわ!」

 

 と思ったが、白目淫魔は自身の脚を切断して拘束を逃れてのけた。

 徐々に脚が生えてくる。いくら修復するとはいえ、痛いもんは痛いはずである。にも拘わらず、奴の表情に変化はない。それこそゲームのNPCのように、瞬き一つしない無表情のままだ。

 そういうトコも気持ち悪いが、(けん)に回って把握した。こいつ、そんなに賢くない。

 

「うぉおおおおおお!」

 

 俺は棍に装填された魔法の【雷の鞭】を発動し、両先端から雷属性の魔力紐を生じさせた。それから西遊記の悟空のように、棍を回転しながら白目淫魔との距離を詰めた。

 のたうち回る蛇のような挙動で、荒ぶる雷が地と空を焼く。淫魔はアクロバットを止めて距離を離そうとしている。

 

「はっ!」

 

 瞬間、回転の勢いを乗せて大きく棍を振り上げた。上から下へ、制御された雷の嵐が構える淫魔に迫り来る。その軌道は、僅かに左に寄っていた。

 予想通り、淫魔は回避しやすい方向へ身体を翻した。体捌きの起こりを見て、雷魔法を解除する。要するに、これは単なるフェイントだ。こいつは駆け引きができないのである。

 

「やぁ!」

 

 大袈裟に避けた淫魔の横腹に、グーラの炎雷ライダーキックが炸裂する。吹き飛ばされた淫魔はイリハの籠状結界にダストシュートされた。

 白目淫魔を捕らえると、イリハは籠の出口を塞いだ。半透明の結界に、長髪の淫魔を閉じ込めた状態である。

 

「魔力過剰充填、【淫魔妖姫誘眠】!」

 

 身動きの取れない相手に、ルクスリリアの睡眠魔法をぶち込む。最後、俺に向けて眼光を放とうとした淫魔は、睡眠デバフに負けてガクリと意識を失った。

 

「イシグロさん、大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。お怪我は?」

「少し痛いですが、これくらい何て事はありません。それより……」

 

 軍人淫魔さんは無事そうだ。

 牧場に静寂が戻る。馬小屋から悲壮な馬の嘶きが聞こえた。

 

「それにしても、こいつ何者なんスかね?」

「淫魔兵ではないようだけれど……」

「なんだか気持ち悪い動きでした。まるで魔物と戦っているような」

「着てる服は平民に見えるのぅ。とりあえず、一旦解除するのじゃ」

 

 各々感想を言いつつ、俺達はテキパキと白目淫魔を拘束していった。

 縄に目隠しに口枷足枷。なんかハードめのSMプレイみたいになってるが、再生能力持ちはこうでもしないと動きを止められないのである。

 

「今回もイシグロさんに助けられました。兵士として不甲斐ないばかりですが、礼を言わせてください」

 

 ともかく、怪しい淫魔を捕らえて一歩前進と考えたいところである。

 念の為に他の敵反応を探した後、俺達はケフィアムに戻る事にした。

 

 お姉さん淫魔、助けてあげられなかったな。

 

 

 

 

 

 

 詰所に戻り、証拠付で状況を説明すると、どういう訳か事態は急変した。

 急いでやって来た淫魔騎士に白目淫魔を見せる。すると、彼女は驚愕の表情を浮かべた後に、

 

「王城まで来てください」

 

 と言ってきて、俺達と軍人淫魔さんは王城へ向かう事になったのである。

 

 証拠として、更に魔術的拘束を強めた白目淫魔も運んでいく。あれこれと指示を出す淫魔騎士さんは硬く強張った表情をしていた。

 眠っているトリクシィさんをニーナさんに任せ、それから俺達は淫魔騎士と共に王城に飛んだのだ。

 

「緊急だ。報告した襲撃の件である。陛下にお目通りを」

 

 王城に着くと、門番に止められる事もなく、俺達はアレよアレよと城の中に通された。

 俺は部外者で一党員は奴隷身分だが、今はそれどころではないらしい。先導する淫魔騎士はがっつり廊下を走っていた。

 すると、あっと言う間に目的地へ到着。謁見の間ではなく、淫魔女王の執務室である。

 

「失礼します」

 

 最低限のノックと声かけ。淫魔騎士がガチャリと扉を開けると、俺達も中に入った。

 その部屋は、何となくかぐや様の生徒会室に似ていた。豪華な執務机に、死ぬほど胸のデカい淫魔がいる。彼女が淫魔女王だろう。その他、側近っぽい淫魔騎士が一名。

 

「礼は結構。報告して」

 

 跪こうとする俺達を制し、淫魔女王は端的に命じた。

 未だ眠り続ける白目淫魔を床に置き、軍人淫魔さんが女王の命令に応えた。

 偵察実行に至る経緯から、牧場の現状。拘束されてる白目淫魔について。彼女は軍人らしい声量で報告した。

 時々、俺にも質問がきた。その都度、俺はエリーゼに教えてもらった礼儀作法を思い出しながら答えた。

 

「緊急事態だから、細かい挨拶とかは後ね。早速だけど、その子の容態を見せてもらえる? 皆はちょっと離れてて」

 

 命じられるまま、俺達は部屋の隅に移動した。

 拘束されている淫魔に、女王は無造作に歩み寄っていく。仰向けの白目淫魔の目隠しを外し、瞼を開けた。その時、淫魔女王の顔つきはいっそう険しくなった。

 

 登城の前、見るからに怪しい白目淫魔なんて持ってっていいのかと思ったが、淫魔騎士は何も言わない事で返答としていた。その時、俺は強いて追及の言葉を避けた。思ってたより、ヤバいのかもしれなかったからだ。

 どうやら、マジでヤバかったらしい。

 

「……皆、念のために武器を構えなさい」

 

 冷たい声。考えるより先に武器を握ると、彼女は魔力を操作しながら小声で詠唱した。

 女王の指先に魔法の光が灯った。それを白目淫魔の額に当てる。柔らかな光。パチッと、白目淫魔が目を覚ます。

 

「まさか……!」

 

 同時、淫魔女王は目覚めかけた白目淫魔の首を鷲掴みにし、勢いよく立ち上がって宙吊りにしてみせた。

 何事かと思って身構える。よくよく見れば、あの無表情から一転、覚醒した白目淫魔は他人を小馬鹿にするような笑みを浮かべていた。

 

「あ~ぁ、見つかっちゃったか」

 

 それから、不気味な淫魔はこんな言葉を発した。

 拘束されている。身動き一つ取れない。追い詰められているはずなのだ。しかし、件の白目淫魔は軽薄そうな笑みを維持していた。

 

 ギリッと、女王は握力を強めた。長く綺麗な指が細首に食い込む。それでもなお、白目淫魔は余裕を失くさなかった。

 そして、淫魔女王は心底忌々しげな表情になり、吐き捨てるように低声を漏らした。

 

夢魔(インキュバス)……!」

 

 笑みを深める白目淫魔と、射殺すような眼光の淫魔女王。

 視線に圧力があるならば、両者の間には激しい火花が散っていた事だろう。

 緊張の糸が張り詰める。そんな中、白目淫魔だけが楽しそうに笑っていた。

 

復活(・・)したよん。今後ともヨロシク」




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・ニーナ
 眼鏡っ娘ドM淫魔。大淫魔。現在、トリクシィを治療中。

・グレモリア
 小淫魔から生まれた中淫魔。元エリートのですわ庶民。現在、ラース邸にいる。

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 ラフィを絞った黒髪大和撫子淫魔。現在、行方不明。

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 トリクシィの護衛であるお姉さん淫魔。トリクシィと実家の牧場で過ごしていたところ、淫魔の群れに襲われる。トリクシィを逃がす為に護衛対象を全力催眠。現在、行方不明。

・淫魔女王
 三代目。一番強い淫魔。魔術、とりわけ呪術や契約魔術に詳しい。催眠解除もお手の物。現在、怪しい淫魔を首絞め中。

・軍人淫魔
 真面目な淫魔。ヴィーネと同期の友人。

・白目淫魔
 虹彩が白く発光していた淫魔。イシグロ達を偵察しようとしたところ、交戦の末に拘束された。淫魔女王と首絞めプレイ中。



 今更ながら、軍人淫魔には最初から固有ネーム付けときゃよかったなって。

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