【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。助かってます。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
今回は三人称。
淫魔女王視点、よろしくお願いします。
淫魔に生まれ、齢十を過ぎた頃、彼女には自身の生まれた種族の絶滅が見えていた。
故に、彼女は誉れと名を捨てて、沈みゆく国の女王になったのだ。
当代の女王を謀殺し、有害な同族を抹殺し、人間族の王に首を垂れた。
そして、禊として夢魔の血を根絶やしにしてみせた。
ここまでして、やっと始める事ができたのだ。
国家千年の計。
淫魔を救う計画を。
太古の昔、淫魔は被支配者層であった。
無限の精を持つ
一見、健全な共生関係のようだが、実際にそうはならなかった。偏に、両者の種族特性故に。
淫魔にとって精は生きるに必要不可欠だが、夢魔にとって淫魔は必要不可欠な種族ではなかったのである。
夢魔は他種族の女を孕ませて数を増やす。しかし淫魔を孕ませても、生まれてくるのは淫魔のみ。そうなれば、自然と下女の扱いなどぞんざいになる。
要するに、生かさず殺さず管理される事となったのだ。
権能により、夢魔はあらゆる種族の女を隷属させる事ができる。種族柄、女しか存在しない淫魔族は如何なる夢魔の命令にも逆らえない。
凄惨なる略奪戦争。矢面に立つのは淫魔族。益を得るのは夢魔だけで、淫魔は雄を貪れない。反逆されないように、力の源である精の接種量を制限されていたのだ。
常に飢えていて、ろくに腹を満たせない。戦争の駒として利用され、得られるモノはほんの僅かな食料のみ。
当時、淫魔は文字通り汚れた床を舐めて生き延びていた。夢魔にとって、その光景は愉悦そのものであった。
そこからの歴史は、この世界の多くの人が知っている。
勇者アレクシオスにより、一人のはぐれ淫魔が救われ、やがて勇者率いる連合軍は夢魔の王を打倒してみせたのだ。
こうして、淫魔は自由を得たのである。
かつて勇者に救われた淫魔は、仲間を助け、数を増やし、やがて王となって国を興した。
淫魔女王の統治によって、かつて蔑まれていた種族は見事に繁栄したのである。
初代女王の死後、しかして淫魔は暴走した。
これまで夢魔により制限されていた略奪戦争を、今度は自分達の為に起こしまくったのである。
二代目淫魔女王は、同族達の願いを叶えてやったのだ。
時に既婚者の男を誘拐し、嫁の目の前で
時に傭兵として戦に参じ、軍旗をシーツにして敵将を搾り取った。
時に、拘束吸精によって竜殺しを成した。
有体に言って、当時の淫魔は世界中の種族から嫌われていた。
在りし日の夢魔と同様に、いずれ滅ぼされるべき害悪魔族として見做されていたのである。
そして、ついに始まった魔王戦争。
後に三代目淫魔女王となる女は、信頼できる同志と結託し、タカ派の二代目淫魔女王を謀殺した。
続く第二次魔王戦争では、ラリス王国への帰順を証明する為、スパイとして魔王側で参戦。魔王軍幹部・夢魔大公の首級を以て、正式に人類の仲間入りが許された。
戦後、三代目淫魔女王の治世は、以前とは真逆の方向を向いていた。
同意のない吸精の禁止。一方的な淫魔特性の行使の禁止。他国での誘惑行動全般の禁止。自ら進んで淫魔を縛る条約を結んでいったのだ。
まず、性欲に狂う淫魔を大人しくさせる必要があった。偏に、淫魔という種族をこの世界に受け入れてもらえるように。
淫魔女王の政治方針は、魔人種基準でも遠大なものであった。
一言で言うと、淫魔という種の変革を成そうとしているのである。
男を見るや即ハメ即実行という思考回路を破壊し、新たな価値観を芽生えさせる。教育と、代替わりによってだ。
当座の課題として、世界中のお方々に淫魔を無害で有益な種であると認識してもらう必要があった。
この方法として最も手っ取り早いのが、人類生存圏の守護を請け負う事である。ざっくばらんな言い方をすれば、人を守って良い子アピールをするという事だ。
ラリスなんかはその筆頭であるし、リンジュ共和国やグウィネス部族連合もそのようにしている。
しかし、淫魔にとって守護の任を全うする事は困難に思われた。
そもそも、あくまで淫魔は他種族の雄に強いだけであって、魔物相手だと並みの魔族より脆弱なのである。悲しい哉、魔物は誘惑できないのだ。
第一、淫魔王国が強くなる事に他国が良い顔をしない。「また戦争がしたいのか、あんた達は?」と思われてしまうからだ。場合によっては、内憂として今度こそ滅ぼされてしまうかもしれない。淫魔の天敵である鬣犬族はラリス王国とズブズブの関係なのである。
結論、淫国が軍事力を売る事は不可能であった。
なので、淫魔王国は食料輸出国としての道を歩む事となった。夜森人と同じ方針である。
幸い、畜産なら得意だった。配合の相性は完璧に把握できるし、繁殖も自由自在。少量ながら、動物の乳からは精を摂る事もできるので一石二鳥だ。
試行錯誤の末、淫魔王国は最高の畜産物輸出国の地位を確保できた。
今の淫魔は大人しい。そうであれと教育される。
時たまやってくる観光客や行商人、あるいは国が招いた人たちを食べて生きる。もちろん、両者同意の下で、決して絞り殺さないよう加減をする。
出会って二秒で即吸精なんて思考回路の古淫魔は、見事に撲滅されたのである。
女王が施策した淫魔の変革は、彼女の目論見通り順調に進んでいった。
今の小淫魔は、動物の乳があれば生きられる。一度吸精さえできれば、子供を産む事だってできる。
以前に比べると、淫魔全体の性欲も弱くなった。代を重ねるごとに理性の高い淫魔が増え、他国で生活できる程に大人しい淫魔も生まれてきた。
間違いなく、淫魔は変わる事ができたのだ。そして、これからも変わり続けられる。
だが、不満は溜っているようだった。
本能だろう、淫魔は乳のみに生きるにあらず。やっぱり男の生精が欲しい。貴族ばかりズルい。庶民にも精を分けろ。
そういった不満は、言葉にされずとも女王の耳に届いていた。
言いたい事は分かるが、女王にだって言い分はある。
貴族が吸精をするのは、小淫魔と違って乳だけでは飢え死にしてしまうからだ。貴族が死ぬと最低限の軍事力を維持する事ができず、早晩どこかのアホが攻めて来るかもしれないんだぞ。その時、ラリスが守ってくれると思っているのか。
いくら福祉を充実させても、いくら娯楽を提供しても、いくら芸術に没頭させたとしても。
結局、淫魔は男を求めてしまうのだ。
制御しなければ夢魔の二の舞である。この哀れな種族が、世界の敵になってはならない。
乳だけで生きられるとはいえ、暴走しない程度に雄は必須であった。かといって、国策としての大規模な吸精は許されない。それこそ軍事力が高まってしまうからだ。
これには、淫魔女王含め国営に携わる全ての淫魔が頭を抱えた。
条約により、淫魔が他種族の雄を購入する事は禁じられている。それは奴隷でも、死刑囚でも同様だ。
他国に“吸精刑”という過去に実在していた刑の実施を提案してみてはどうかという案もでたが、却下された。それこそ他国にメリットがないからだ。罪人には色々と使いでがあるのだ。それをむざむざ淫魔に渡す理由がない。どだい、それでは淫国が流刑地扱いされてしまう。将来的に負の遺産になる可能性さえあった。
個人の範囲で、条約に準じて上手に生きている淫魔は存在する。
けれどもそれは知性と理性に優れた上澄み淫魔の話であって、多くの国民はそんな難しい事はできないのだ。
何か、打開策はないか。
だましだまし続けるのも、限界がある。
もっと根本的な解決法が必要だ。
そんな中、淫魔女王は天啓を得た。
先の戦の大英雄、ラース公爵が残した研究資料によって。
これで全てが解決するとは思えない。けれど、これなら理性の乏しい小淫魔にも希望はある。
仮説、検証。
結果、実験は成功した。
淫魔剣聖シルヴィアナが、公爵の仮説を体現してみせた。
あとは、これを誰にでも分かる形で証明すればいい。
その為には、とにかく多くのサンプルが必要だった。
他の種族にあって、これまでの淫魔にはなかったもの。
今の淫魔に本当に必要なもの。
即ち、
愛を知った淫魔こそ、この閉塞した種族を真に変革する事ができる。
小淫魔だけではない。全ての淫魔にとっての希望が見えた。
そんな矢先だった。
「復活したよん。今後ともヨロシク」
悪夢の残滓が、追いかけてきた。
〇
拘束なり、封印なり、そういった手を使って夢魔を利用すれば、半永久的に精を供給できるのではないか。
そう思っていた時期が女王にもあった。だが、不可能である。
何故なら、ラリス王国が夢魔の存在を許さないからだ。
否、ラリスだけではない。この世界のあらゆる種族が、夢魔が生きる事を許容しない。
その憎悪に巻き込まれぬように、淫魔が奴等を根絶やしにしたのである。
見敵必殺。仮に生き残りがいたとして、夢魔は見つけ次第滅ぼさなくてはならない。
そう、人類平和条約で定められているのだ。
ただでさえ、淫魔は不安定な立ち位置にある。
ほんの僅かであっても、夢魔と通じていると見做されてしまえば、夢魔もろとも滅ぼされてしまうかもしれない。
そんな種族が、今。
よりにもよって異種間交流会の最中に。
むしろ交流会だからこそ、なのか。
いや、そんな事はどうでもいい。
かくなる上は、夢魔の首級で以て、淫魔の潔白を証明する他ない。
三代目淫魔女王は、事ここに至って覚悟を決めた。
「ふぅん? 君が三代目か。随分とまぁ肥えた身体だ。良い子を産みそうじゃないか、ええ?」
首根っこを掴まれた白い虹彩の淫魔――夢魔は、窮地にあって軽薄な声を発していた。
言葉の主は夢魔だが、この声と身体は紛れもなく小淫魔である。直接精を与えて催眠し、遠隔から操っているのだ。
誰あろう、淫魔王国の民をである。
「で、そこにいるのがイシグロ・リキタカか。噂通り妙な奴隷連れてんな。が、噂ほど聖人君子って訳じゃあねゲッ!?」
夢魔の発言を止めるべく、首を絞める力を強めた。
淫魔女王は怒りを押し殺した双眸で、半ば無理矢理夢魔の視線を自身へと向けさせた。
「おいおい乱暴してやんなよ。壊れちまうぜ? オレにとってもお前にとっても、愛しい愛しい民草だろう?」
「淫魔の国で、私の民よ。断じて貴方の所有物ではないわ」
「いずれそうなる」
言って、虹彩の白い夢魔は言葉を継いだ。
さも、大劇場で歌う千両役者めいて、大仰に。
「契約をしよう。淫魔女王」
広い執務室に、空虚な美声が響き渡る。
女王は何の感情も浮かんでいない相貌で、じっと夢魔の発言の続きを待っていた。
「淫魔王国、凄いじゃないか。感心したよ。よくぞここまで栄えさせた。数はもう十分揃っている。次はオレとお前の力でもっと繁栄させていこうぜ」
「……続けて頂戴」
女王の口から出た予想外の返答に、淫魔騎士はおろかその場にいた部外者のイシグロさえも驚愕した。
得たりと、夢魔は口角を上げて歯を剥きだしにした。
「兵を増やした後は魔族国と合流して新しい国を作る。オレが王で、お前が王妃だ。なに、オレは古臭い夢魔とは違って、お前ら淫魔を冷遇するつもりなんてないぜ。むしろ淫魔族を上級国民にしてやるよ。大も小もねぇ、誰でも吸精し放題だ」
「気前がいいのね。けれど、それをラリス王家が許してくれると思うの? 上森人王なんて、夢魔と聞いただけで戦争をしかけてくるでしょう」
「だろうな、分かってるさ。勿論、その辺は考えてある。さっきのは全部、次の災厄を超えた後の話だ。向こうには聖王子がいる。十中八九勝つだろう。そうなったら広がった世界を誰が治めるってんだ? 天使共は言うに及ばず、地下の連中も黙っちゃいねぇ。そうさ、手つかずな土地の奪い合いだ。新天地には何がある? 見渡す限りの草原? どこまでも続く砂漠? ずっと溶けない雪の大地があるかもしれない。いずれにせよ、災厄ばりの大戦争が始まるぜ。いいや、始めさせんだよ。予想してんじゃねぇ、そうなるように動いてんだ」
「気に喰わないわね。仮にそうなったとしても、古代と同じ轍を踏まない保証がないわ」
「契約魔術で縛ればいいのさ。種族単位での大規模契約。お前ならできるだろう? 夢魔と淫魔は対等になるんだ。お互い、持ちつ持たれつでいこうぜ。過去は水に流してさ」
「それだけでは不十分ね。夢魔は近くにいるだけで危険なのよ」
「人類牧場を作ればいい。何も夢魔が直接精を与えずとも、他種族同士を配合させて色んな家畜を育てるんだ。そうして完成した作品を分け合うんだよ。夢魔は上質なメスを、淫魔は上質なオスを。それに淫魔は得意だろ、畜産」
「……そうね。努力してきたもの、皆」
満足したような顔をする夢魔は、表情そのままこの場に居る淫魔達を見渡した。
今にも武器を抜こうとしている淫魔騎士二人。むっつりと唇を引き結んでる生真面目そうな小淫魔。それから、奴隷身分の醜い淫魔を。
「お前等だって腹ぁ減ってんだろ。そこのチビ淫魔も人間だけの精より、色んな種族の味とか知りてぇよな? 随分と染まってるみてぇだが、ぶっちゃけもう飽きてんだろ。オレだってそうだ。二度抱ける女なんざそうそう居ねぇ。お互いこんな風に生まれたからにゃあ、色んな種族とヤラねぇと損ってモンだ。毎日いつでも誰とでもヤレるんなら、他の淫魔もオレに賛同してくれると思わないか? 女王様よ」
「どうでしょうね、訊いてみないと分からないわ」
「お前は違うのかよ? 腹ン中すっからかんじゃねぇか。辛ぇよな? ラリスのクソ共のせいで、そんなひもじい思いしてんだもんよ」
「で? 話はおしまい?」
「ああ。後はお前の判断次第だ。んぁー、とりま此処に居る奴等を殺してくれりゃいいぜ」
「そう。なら、私の返答はこうよ」
瞬間、ひっそりと溜め込まれていた魔力が、淫魔女王の身体を駆け巡り……。
「痛ぇッ!?」
悲鳴。それは、女王に宙吊りにされている夢魔から出たものだった。
エリーゼ視点、女王から放たれた憎悪の籠った魔力の一部が突然消失したように見えた。
「えっ、何だ今の? 何故届いた?」
「貴方が無防備過ぎるだけじゃない? それと、ベラベラ喋ってくれてありがとう。お陰で準備が整ったわ」
「準備?」
困惑する夢魔とは対照的に、今度は淫魔女王の方が笑みを浮かべた。
超絶美形種族・淫魔の長、その名にふさわしい淫靡な微笑み。その瞳には、激しい怒りと憎悪が渦巻いていた。
「お前を殺す準備♡」
瞬間、淫魔女王を中心に、地鳴りを思わせる膨大な魔力が広がった。
放射された魔力は淫魔王国の各所に装填された魔術式を起動し、やがて国土全体を包み込む魔力障壁を形成した。
窓から覗く夜に、青白い魔力の壁が見える。現在、淫魔王国はドーム状の障壁に覆われていた。
「バカな!? このような術式、どこにも無かったはずだ! あのクソババア、適当な情報よこしやがったな!」
「古代ラリス式障壁魔術、森人式守護魔術、リンジュ式結界術……。自慢じゃないけれど、私はこの世界でも有数の魔工師でもあるのよ。例え上森人王であっても、事前の情報なしにコレを見破るなんて出来ないわ」
「ざけんな……!」
両者の表情は、ここにきて完全に逆転した。
柔らかな笑みを浮かべ、余裕を見せつける女王。余裕を失くし、怒りの沸点に達して顔を赤くする夢魔。
女王が如何な判断を下し、どちらが優勢になったかは一目瞭然であった。
「この障壁の効果は単純。来る者を拒まず、去る者を逃がさない。要するに、いざという時に性欲に狂った淫魔を外に出さない為の措置ね」
「何やってんだお前!? 阿呆か貴様! これもラリスの指示か!? そこまで落ちぶれたか、魔族の恥さらしめ!」
「私の方が提案したのよ。これで、いつでも淫魔を滅ぼせますよってね」
「お前それでも女王かよ!」
再度、淫魔女王の身に憎悪の籠った魔力が駆け巡る。
次なる魔法を行使せんとしているのだ。
「改めて言うわ。貴方のお誘いは断固拒否。己を磨いて出直しなさい、おつむの弱いクソガキくん♡」
「が、ガキだと!?」
「あらぁ~、子供扱いされて怒るあたり、やっぱり貴方って生まれたばかりのバブちゃんなのね。どーりでバカだと思ったわ~」
「老害め! 魔王戦争で脳が焼けたか! 災厄が近いんだぞ!」
「あーっと、さっきの言葉、ひとつ撤回するわ。出直さなくて結構、朝になる前に殺してあげるから」
トンと、軽やかな足踏みひとつ。淫魔女王の身体から魔力の波が放射される。
それは彼女を中心として、国土の隅から隅までに迸った。
「ぐっ!? な、なんだ今のは……!」
「教えてあげな~い。でも、代わりに別の事を教えてあげるわね」
そして、淫魔女王は一度見たら忘れられないような、確定一発で初心な少年の初恋を奪ってしまうだろう至高の笑顔を作ってみせた。
「私、この城の中なら、ラリス王より強いのよ♡」
「じょうだ……!」
夢魔の返事を待たず、女王は手中にある細首にゼロ距離魔法をぶっ放した。
その魔法は催眠されている淫魔の身を傷つける事なく、魔力を通して遠い地にいる夢魔の胸骨にヒビを入れてのけた。
淫魔騎士からすると、神業過ぎてコメントできないレベルの超絶技巧だった。
「へ、陛下、今のは……」
「少し待ってなさい」
一転、元の優しげな表情に戻った女王は宙吊りにしていた淫魔を姫抱きにし、優しく目を合わせて催眠を解除した。
「ん、え……? あれ、ここは? って、うぇえええ!? へへへ、陛下ぁ!」
「どもー、女王陛下でーす。ごめんだけど、後で全部説明するから、貴女はしばらく王城で休んでなさいな」
「王城!? ここ王城なの!? あたし何も悪い事してないです! ホントです! せいぜい昨日お酒飲み過ぎた程度で……!」
「貴女は懸賞に当たって今夜だけ倉庫のお酒飲み放題権を得たのよ」
「え!? タダ酒! マジすか! やったー! 女王陛下万歳!」
上手く? だまくらかした淫魔を騎士に任せ、女王は側近騎士に目を向けた。
「玉座へ向かうわ。騎士を集めなさい」
騎士を見る。淫魔兵を見る。そして、イシグロの隣にいるルクスリリアを見つめた。
その瞳は、現ラリス王にも劣らぬ、紛れもない王の覇気を宿していた。
「王の役目を果たすわ。皆、手伝って頂戴」
もしかしたら、夢魔との共存を望む淫魔は女王の想定よりも沢山いるのかもしれない。
精に困らない生活。上級魔族に成り代わって、色んな種族を吸精しまくり、淫蕩に耽る日々を送る。
そんな生涯に憧れる淫魔もいるのだろう。
だが、そんな淫魔は切り捨てる。
切り捨てざるを得ない。
慈愛なくして王は務まらぬ。
けれども、慈愛のみしか持ち得ぬ王に、国を守る事はできぬのだ。
王の両手は民の為にある。時に拳を握り、時に民を慰撫する手のひらに。
今は、拳を握る時であった。
「残党狩りよ」
三代目淫魔女王の政策は一貫して穏健で、彼女自身争いを好まぬ性格である。
事実として、淫魔女王は他国の王と比してさほど強い訳ではない。
しかし、戦を知らぬ王ではなかった。
第二次魔王戦争にて、挙げた首級の数は如何ほどか。
真実は、ラリス王国のみが知るところである。
〇
女王が玉座へと向かった頃、交流会中のラース邸では……。
「これは、どういう事ですの!?」
かつて、交流会の参加者達が汗を流していた広い中庭に、虚無の瞳をした冒険者達が集っていた。彼等の意識は朦朧として、手に手に武器をぶら下げている。
曖昧になっている彼等の中には、銀細工のリカルトやラフィの姿もあった。あまつさえ、その後ろには先ほどまで吸精をしていたであろう淫魔達もいる。彼女達もまた、他と同様目に生気が無い。
「グレモリアさん、この人たち正気じゃありませんよ!」
「見れば分かりますが、どうすればよろしいの! 淫魔騎士はどちらに?」
「あそこに!」
「あっち側じゃありませんの!」
その時、狼狽する淫魔兵に、曖昧になった冒険者が襲い掛かった。
性的な襲撃だったら受容しただろうが、実際は武器を振り上げてのガチ襲撃だ。
「ぐっ! ひとまずこの場の指揮はわたくしが執りますわ! 皆さん、よろしくって!?」
突然の障壁、突然の襲撃。
彼女達は、訳も分からず交戦を開始した。
誰が敵かも分からぬまま。
「まったく、あのババア……王のくせして聞き分けのない」
そんな騒ぎを、ラース邸の屋根から見下ろす影があった。
「所詮、お前等なんざ都合のいい肉奴隷でしかねェんだよ」
夜空を覆う障壁に、長い髪をなびかせる淫魔。
黒髪の小淫魔、ヴァレフォリエ。
「さて、見つかっちまったし、最低限の土産くらい持って帰らなくっちゃな」
その双眸は、真っ白な光を放っていた。
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作者のやる気に繋がります。
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・初代淫魔女王
夢魔国から亡命したはぐれ淫魔。アレクシオスに助けられ、共に夢魔の圧政から同族を救う。
後に淫魔王国を作る。当時は今の場所とは違うところに淫魔王国があった。
勇者との間に大淫魔と魔人の姉弟を授かる。
トランジスターグラマー。
・二代目淫魔女王
第二大災厄で崩御した初代に代わり、淫魔王国を統べた。
淫魔版チンギス・ハンのような存在。彼女の統治でアップしていた淫魔のイメージがガタ落ちした。
魔王戦争にて、同族達の裏切りによって死亡。公的には当時のラリス王が殺した事になっている。
・三代目淫魔女王
現在、淫魔王国を統治している淫魔。二代目淫魔女王を謀殺し、第二次魔王戦争ではラリスのスパイになった。情報戦などで魔王討伐に貢献。同志と共に夢魔を掃討した。
政治家としては完全な穏健派で、長い時間をかけて淫魔の性質を変革しようとしている。