【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。いつも助かってます。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
今回は一人称です。
よろしくお願いさしすせそ。
俺と夢魔が戦った、あの夜……。
突然現れた白銀の機動戦士。
ひと目見て、戦っちゃいけないと思った。最初はそれが何故なのか分からなかった。
けど、今は確信している。
あの鎧の中には、ロリがいた。
帰り際、あの子は心から「助けて」と言っていた。
言葉として聞いた訳ではない。まるでラジオの電波が噛み合った時のように、ほんの一秒だけ心みたいなのが繋がって、確信したのである。
俺にしか聞こえなかったらしいが……。
顔も声も知らない。会った事も話した事もない。
あの子の事情も何も分からない。
けれど、もし本当にそうなら、助けたいと思う。
とはいえだ。
相手は奇襲してきた謎の鎧。お呼びに応えて夢魔の援護に来たようで、恐らくヴィランサイドのロリなのだろう。
どこに居るかも、いつ会えるかも分からない。それでも、願わくば助けたいと思う。
しかしだ。今の俺には、守るべきものがある。
ルクスリリア達を蔑ろにして、あの子を救うと猪突猛進する訳にはいかない。
仮にどちらか片方を選べとなった時、俺は迷う事なく皆を選ぶ。そういう覚悟はしておくべきだ。
あー、うん。でもやっぱ……。
あの子は助けを求めていたのだ。
応えたいとは、思う。
可哀想なのは抜けない。
〇
例の事件から、幾日の時が過ぎた。
淫魔王国は今やすっかり日常を取り戻し、本日は冒険者達をラリスに送り届ける日。
晴天の朝である。現在、冒険者達は交流会で知り合った淫魔達とお別れをしていた。
その光景はまるで戦争映画で恋人と別れるシーンのようである。中には抱き合って激しいディープキスを交わしているカップルなんかもいた。
というのも、旅券を持たない淫魔はこの国を出られないのである。また会う日まで、というやつで。
「今日で終わりかぁ」
「名物料理なんかは粗方食べてしまったわね」
「わしとしては主様の我慢が続いとるのが意外じゃったの」
「短かったですけど、色んな事がありましたね」
「まぁすぐ戻るんスけど」
グーラの言う通り、淫魔王国に来てから色んな出来事があった。
観光に、交流会に、夢魔騒動。
空を見上げ、俺はあれから今までの事を思い返した。
まず、元凶たる夢魔についてだが……。
「ふご! ふごごごご! んがぁあああ!」
「へえ! これが夢魔ですか! ホントに生きてたんですねぇ! 実物初めてみました! じゃ、さっそくスケッチさせて頂きますね!」
「いや、その前にこの書類に記入を……」
「ふんがぁあああああ!」
例の一件以後、奴はガチガチに捕縛され、生首状態で封印される事となった。
それから、ラリス王国の大使に夢魔の生首をお見せして、淫魔王国の潔白を証明。今回の騒動は交流会とは無関係であると認めてもらった。
現在、ゆっくりと化した夢魔はラリス側のエージェントが来るまで四六時中監視されている。
死ぬに死ねない生首状態のまま、裏で糸を引く黒幕について教えてもらうのだ。異世界の拷問技術はエグいと聞く。せいぜい苦しめと言っておこう。
また、万一にも逃げられないよう、頭の中には呪いと印と爆弾を仕込まれているらしい。ボルガ博士は可哀想だが、こいつは全然可哀想じゃない。
次、夢魔に捕らわれた淫魔達は、全員無事に救出された。
俺が夢魔と戦っている間に、グーラ達がやってくれたのだ。図らずも同じ場所にいた国境周辺のラリス国民も救出し、皆は被害者女性達からお礼を言われていた。
幸い、彼女達は丁寧に保管されていて、凌辱や拷問の跡は無かったという。
「ヴィーネさん……! あぁ良かった……! 目が覚めたんですね……!」
「と、トリィ君……? よかった……。無事だったん、ですね……」
助けられた淫魔の中には、お姉さん淫魔ことヴィーネさんとその母の姿もあった。療養中、母娘のお世話はトリクシィさんがしていたそうである。
ちなみに、そんな光景を見せられていた他淫魔は嫉妬の念で炎柱になりかけていたそうな。
「は~い♡ 治療の時間ですよ~♡ 脱ぎ脱ぎしましょうね~♡」
「先生! 自分、先生を見てると股間がムズムズします! これは何かの病気でしょうか!」
「そうなのね~♡ じゃあ先生が診てあげますね~♡」
「オッスお願いしまーす!」
騒動の後、傀儡淫魔による催眠を受けた交流会参加者達は、宿泊していたラース邸で治療を受ける事になった。
楽しい交流会でゾンビ化被害。これには参加者も怒り心頭かと思われていたのだが、療養中の彼等は白衣を着た治癒師の淫魔に鼻の下を伸ばしていて、むしろ喜んでるまであった。
異世界ナイチンゲール症候群とでも言うべきか。中には淫魔女医と交際を始めた冒険者なんかもいたらしい。交流会とは……?
「オラ! 催眠解除!」
「「「はっ! ここは何処!? 私は誰!? 交流会はどうなった!?」」」
傀儡にされていた淫魔達はというと、女王手ずから催眠解除されて即元気を取り戻していた。
幸か不幸か、白目淫魔も夢魔に操作されてた間の記憶はないらしい。多くは事後の記憶で止まっているようで、夢魔云々より交流会についてを気にしていた。
「此方ネトリ小隊、異常なし。オーバー」
「了解、引き続き警戒を続けろ。オーバー」
「便利ですね、女王の通信」
「習ったろ、緊急時以外は使えねーの」
「こんなに便利だと、いつか通信魔道具とか作られたりして」
「まっさか~」
「んなもん作れる訳ねぇだろ! ありえねー!」
「もしそんなんが発明されたら、アタシぁ王城の前で淫魔女王に反省を促すダンス踊ってやるよ! ぎゃははは!」
あと、夢魔事件の直後、淫魔兵達は各地で暴れだした野生動物の対処に駆り出されていた。
かねてより問題視されていた野生動物の件だが、これは夢魔の調教によるものであったらしい。統率していた夢魔の命令がなくなった事で、混乱した動物達は縄張り外の各地に散っていったのである。
「エリーゼ! ふぶき!」
「分かったわ」
「それにしても不思議な生き物ですよね。アレも食べられないんでしょうか」
「えーっと、確か食えなかったと思うッス。土に混ぜて肥料にするとか習ったような」
「それはそれでなんか嫌じゃのぅ。ホイッとな」
その間、俺達も野生動物掃討作戦に参加していた。
他にやる事がなかったからだ。淫魔女王は忙しそうだし、観光って状況でもないし。
「北北西! 来ます! 数は四!」
「了解しました! はぁあああ!」
ちなみに、ラリス貴族のミラクムさんも掃討作戦に協力していた。
騒動当時、彼はラース邸で人質になっていたそうだ。治療後、「おいは恥ずかしか! 生きておられんごっ!」となってたところ、合理主義者な軍人淫魔さんに「暇ならこっち手伝ってください」と言われたらしく、彼はあの夜の鬱憤を晴らすように粋に暴れ回っていた。
軍人淫魔さんと一緒に王国内を駆け回るミラクムさん。結局、交流会での仮カップルは不成立だったそうだが、共に戦う二人はいい感じに見えた。
「いやー、一日で終わってよかったわねー」
「私なんてアナニー中だったのよー。びっくりしてワイン抜けなくなっちゃったの」
「あらやだ大変ねー」
また、例の事件で畜産への影響はなかったようである。
ヴィーネさん家の牧場は直接被害に遭ってたのだが、飼ってた馬は全て無事だったらしい。あれから半日ほど放置されていたもののお馬さんってのは賢いもんで、淫魔兵が確認した時なんか勝手に放牧地に移動して草を食んでいたそうである。
確認してもらったところ、ルクスリリアママとその牧場も被害なし。聞き込みに行った淫魔兵曰く、当時ママは寝てて淫魔女王の放送も寝落ちしちゃってたようだ。娘は呆れていた。
で、だ。
交流会は終了。参加者も完治。野生動物の掃討作戦も成功。
今度こそ、異種間交流会は終了となり、今に至るという訳だ。
俺たち運営が見守る中、帰りの馬車を前にカップル達はまだ別れの挨拶を交わしていた。いい加減キスを止めようとタップする冒険者に対し、恋人淫魔は未練がましく吸い付いていた。
異種間交流会は、異種族と淫魔の間に継続的な恋人関係を作る事を目的とした催しである。
夜這い未遂とか夢魔騒動とか色々あったものの、この度はいくつかのカップルが結成された。
「トリィ君♡ 私、頑張って旅券もらってくるからね♡ それまで、待っててくれるかな?」
「ええ、待っていますよ。次会う時までに、しっかりと乗馬の鍛錬を頑張ろうと思います」
トリクシィさんとヴィーネさん。片方は護衛の淫魔兵だったとはいえ、今や交流会を代表する熱愛カップルになっていた。
最初はトリクシィさんからの矢印が大きかったように思ってたのだが、お別れの際にはヴィーネさんからクソデカ矢印が向いているようだった。抱き合って見つめ合う二人は完全に閉鎖空間を構築していた。
あと、トリクシィさんはいつの間にか
「旅券を手に入れた際は、ぜひうちの屋敷にいらして下さい。腕に縒りをかけておもてなしさせて頂きますよ」
「ええ、楽しみにさせて頂きますね」
あと、ミラクムさんと軍人淫魔さんも正式にお付き合いを開始したそうである。
先の二人ほど甘い雰囲気はないが、野生動物掃討作戦を通して強い絆を結んだようだった。こっちはミラクムさんからの矢印が強く、軍人淫魔さんは「しょうがないにゃあ」みたいな表情。とはいえ。まんざらでもないのは明白である。
後に聞いた話によると、フィーリング成功時にハッピーハッピー米津みたいになってたお相手淫魔さんは、今は次回交流会に向けて滝行なんかしてるらしい。切り替えが早いのは淫魔の良いところだ。
「帰ったらお手紙出しますね。僕の方も頑張ろうと思います」
「は、はいぃ♡ ぐふふ♡ も、もう一回……♡」
全体で見ると少ないが、運営が想定した手順で恋人関係を継続できたカップルも一応存在した。
結局、土産屋淫魔さんにロックオンされてた童貞魔術師くんの貞操は、交流会で知り合ったメカクレ陰キャ文学少女淫魔さんが食べちゃったようである。さっきまで人目も憚らずディープキスしてたのがこの二人だ。
残念ながら、リカルトさんやラフィさん、それからウィードさん達といった強者組は軒並みカップル不成立であった。
皆、吸精までは行ったのだが、問題はその後。夜のレッツパーリィにて、彼等は思い知ったというのである。
「悪ぃ、やっぱ辛ぇわ……」
「そりゃ辛ぇでしょ……」
「ちゃんと言えたじゃねぇか……」
とは各々三人の感想。聞けてよかった。
曰く、淫魔との本番叡智は「命の危機を感じて楽しめない」らしい。吸精後にカップルを解消した人が多いのは、こういう理由があったようである。
これはもう強さ云々ではなく、個人の感覚次第なんだよな。実際、強いラフィさんはギブアップしてるのに、HPがクソ低い魔術師くんは平気そうである。
けど、そんな彼等も淫魔の境遇には思うところがあったようで、今後は王都にある淫魔共済組合に精の提供をするつもりであるという。
グレモリアさん曰く、勇気を出して国を出たはいいものの精不足で乾く淫魔は多いらしい。これはベストではないだろうが、ベターな結果ではなかろうか。
何にせよ、交流会を通して淫魔族全体の好感度は上がったようである。
「では、グレモリアさん、ニーナさん。後はよろしくお願いします」
「ええ。イシグロさん、この度は本当に感謝いたしますわ」
「お疲れ様です、イシグロさん。いつか、うちの食堂にもいらしてください。母も喜ぶと思うので」
さて、長いお別れターンを見守り、国境まで冒険者を送り届けたら、俺のミッションは終わりである。
俺達は馬車隊から離れ、そのままケフィアムへとトンボ返りした。
「楽しみッスね! ご主人!」
「ああ。けど緊張してる」
「大丈夫よ。アナタ、何だかんだ上手くやるじゃない」
「誇っていい事だと思います。ドンと構えるべきかと」
「のじゃ。言うてリンジュん時の宴よりはマシじゃろ」
目指すは、淫魔女王のいるお城。
ご褒美をもらいに行くのだ。
〇
ケフィアムに戻って戦車を降り、送迎の専用馬車に揺られる事しばし。俺達は淫国の王城に到着した。
お出迎えしてくれた騎士団長に案内され、先日とは一転ゆっくり移動。前はあんまり見られなかったのだが、ケフィアム城は内部もバロックチックでお洒落だった。
ちなみに、案内役の騎士団長は奴隷堕ちしたルクスリリアの事を覚えていたようで、アナルの弱そうな顔に何とも言えない表情を浮かべていた。
「あ、お菓子発見! これ食ってもいいッスか?」
「いいんじゃないかしら」
「ぼ、ボクも頂きます!」
「ほえー。綺麗なもんじゃのー」
待機室で少々休憩した後、またも騎士団長に呼ばれて移動。案内されたのは、以前の執務室とは別の場所だった。
扉を開け、会議室のような場所に入る。オシャレな長机では、淫魔女王がゲンドウポーズをしていた。爆乳の彼女がやると、机に乗った胸を抱え込んでいるかのようである。
今日この日、俺は正式に女王と謁見するのだ。が、その前に頂くご褒美の中身を相談する。俺はそういう約束で単身夢魔に挑んだのである。
「どうぞ、座って頂戴」
挨拶もそこそこに、促されるまま対面の椅子に座る。
この時、更に促されて一党の皆にも座ってもらった。それを見た女王は微笑ましそうな表情を浮かべていた。
「夢魔の件についてだけど、あの時は本当にありがとうね。イシグロさんがいてくれたお陰で、我が軍に一切の被害なく終わらせる事ができたわ」
「光栄に存じます」
全員が席に着くと、女王直々にお礼を言われた。
夢魔討伐については俺の方から言い出した事なので、日本人お得意の「いえいえ」と返したいところだが、ここでそれを言うと異世界価値観的にシツレイになるらしい。だから、ここでは謙遜せずに応えるのが正解だ。エリーゼ先生の授業は一言一句覚えている。
「今日は……というか、今日も少し用件が立て込んでいるの。早速だけど、本題に入るわ。その前に、ルクスリリアさんの事について改めて説明させてもらうわね」
そうして、淫魔女王は交流会の始まりから、ルクスリリアの現状についてをお話してくれた。
というのも、当のリリィの現状をこそ、女王的には異種間交流会の最大目標であったが為である。
夢魔の討伐に向かう直前、俺達はルクスリリアの現状について教えてもらったのだ。
俺の仮説通り、現在ルクスリリアは初代淫魔女王や先代ラース公爵と同じ状態になっているらしい。
味覚の消失。催眠権能への抵抗力。それから、淫魔以外を産む事が可能になっている。
これを、派生進化の条件を満たした状態――純淫魔候補と言う。
その原因は、俺である。
曰く、人に恋をして愛が芽生えた淫魔。もしくは、一人の男性の精によって個体の成長限界を迎えた淫魔は、純淫魔という特殊位階になる事ができるらしい。
淫魔女王は、この純淫魔候補を増やしたかったから、ラリスと交渉して異種間交流会を開いたらしい。
「……で、これからなのだけれど、イシグロさんとルクスリリアさんには純淫魔に進化する為の契約儀式を受けてもらう事になるわ」
戦後、純淫魔候補となった先代ラース公爵が生涯をかけて研究した契約魔術。これを行う事で、純淫魔候補は正式に純淫魔へとランクアップし、消失した味覚を回復できるのだ。
そして、この契約儀式は、ルクスリリア一人で行うものではなく、俺と協力して行うもの。契約儀式というより、試練といった趣である。
「それで、なのだけれど……。イシグロさん、貴方は本当に構わないのね?」
「ええ」
女王の問いに、俺は迷わずきっぱりと答えた。
俺の返答を聞いた淫魔女王は、安堵したように微笑んでいた。
純淫魔に進化する為に行う、契約儀式。
それは、一言で言うと淫魔との一生の付き合いを約束するものである。
要するに、前世で聞いた事のあるフレーズをガチで誓うのだ。健やかなる時も病める時もってやつ。純淫魔契約では、これを魔法で契約するのである。
「俺はルクスリリアと一生生きていきます」
ただ約束するだけではない。異世界ファンタジーらしく、この契約は魔法チックな効果を発揮する。
最も大きなポイントとしては、俺とルクスリリアの寿命が共有されるところである。
基本、この世界の人間族は七十から九十弱くらいが寿命である。高レベルの人は二百年くらい生きるらしいが、まぁそれくらい。
対し、淫魔族は精さえあれば殆ど不老不死。異性の精がなくても、普通に暮らしてたら百歳過ぎから魔力変換能力が衰えていき、小淫魔の多くは百五十未満で亡くなる。ルクスリリアやグレモリアさんといった中淫魔も、二百年以上五百年以下は生きるようである。
これを、契約によって割るのだ。長寿が約束された俺と中淫魔・ルクスリリアの場合、だいたい二百から四百の間くらいになるだろうか。まぁ細かい数字は分からんわな。
俗っぽい言い方をすると、この契約は人間視点では他にもメリットが沢山ある。
寿命の延長と共に、人間族の俺は一部の魔族特性を獲得する。即ち、不老特性と肉体再生能力である。
不老についてはそのままの意味。再生能力の方は流石に魔族ほど高くはないらしいが、しばらく放置すれば骨も生えてくるようになるんだとか。
淫魔側のメリットとしては、先述の催眠抵抗力の向上と消失した味覚の回復。あと、これまでゆるゆるだった理性が強化されるようだ。契約者以外の雄への興味もなくなるらしい。
それから、位階の上昇に伴うステータスアップに加え、純淫魔は才能の限界を突破できる。分かり易く言うと、レベル上限の解放。才能開花である。
ただ、これにはお互いにデメリットも存在する。
寿命の共有と共に、死の連鎖も発動するようになるのだ。要するに、俺が死ぬとルクスリリアも死ぬし、ルクスリリアが死ぬと俺も死ぬのである。
それから、淫魔が契約者以外から吸精をすると、内部術式が発動して即死するらしい。ある意味、究極の浮気対策になるのだろうか。当然、連鎖で俺も死ぬ。俺が他の女性と叡智した場合は起こらないらしいが。
なんでこんな契約にしたんだと思ったものだが、物知りエリーゼ曰く「契約魔術とはそういうものよ」とな。
重いデメリットが無いと、大きなメリットは得られないようだ。分かり易いっちゃあ分かり易い設定である。
ちなみに、この純淫魔儀式には、成功例となる淫魔がいる。
誰あろう、淫魔剣聖シルヴィアナとその夫の森人さんである。
彼女はニーナさんの母親で、今ルクスリリアが着ている防具を発注した人だ。
上手くいけば、ルクスリリアは史上二人目の純淫魔となる訳だ。
まとめると、こうだ。
契約した二人は命を共有する。寿命は平均化され、俺は長寿にリリィは短命になる。
俺は不老長寿になり、再生能力を得る。あっ、それと副作用として少し性欲が強くなるらしい。
ルクスリリアは催眠抵抗力を得て、味覚が回復する。また、純淫魔に進化した事でレベル上限を解放できる。
そんな感じだ。てか、あったのね成長限界。
ともかく、俺にはメリットしかないのだが、ルクスリリアはどうなんだろう。
そう思って直接訊いてみると、「やらない理由なくないッスか?」とあっさり返された。
他の皆からも背中を押された。中でもエリーゼは大いに喜んでくれた。この先どうなるか分からんが、俺もずっと皆と居たいのはその通りである。
「前にも言ったけれど、これではご褒美にならないわ。私はこうなる事を計画して、交流会を開かせたのよ」
が、それはそれ。淫魔女王的に、この契約儀式はご褒美にはならないらしかった。
元より純淫魔候補を増やす為に企画された交流会なのだ。淫魔女王としては、シルヴィアナさんのような他種族と共に歩める淫魔が増える未来を目指しているので、むしろ俺達には何事も無ければ交流会後に女王からお願いするつもりであったと。
という訳で、他に欲しいものはないかと訊いてきた訳だが。
これは予め考えてあった。
「では、此方の者の解呪をお願いできませんか?」
褒美として、俺はエリーゼの解呪をお願いした。
エリーゼにかけられている不妊の呪い。当のエリーゼの意向もあり、今回はルクスリリアを優先していたが、願わくばこれも解除してもらえないかと思って行動していたのである。
過去、この呪いは王都にいた呪術師には特殊なアイテムさえあれば解呪可能かもしれないと言われたものである。
契約魔術や呪術に詳しい淫魔女王なら、解呪できるかもしれない。少しでも可能性があるなら、試すべきだろうと思う。
「分かったわ。じゃ、解呪の前に診せてもらうわね」
「よろしくお願いします」
それから、有言即実行とばかりに解呪用であるという部屋に案内され、そこでエリーゼの状態を診てもらった。
女王曰く、これまで何度か偉い人の解呪依頼を受けた事もあるようだった。彼女の腕は最上級呪術師を超えているという。
「ごめんなさい。今の私には難しいわ」
だが、そんな彼女であっても、エリーゼの解呪は困難なようであった。
この診断結果に、グーラとイリハは心配そうにしていたが、当のエリーゼは平然としていた。その顔は、出逢った当初のように固く凍っていた。
「そうでしたか」
表面上、エリーゼは動じていない。
ならばと、俺も強いて表情を制御した。診てくれた女王にも、エリーゼにも失礼にならないように。
「それでも、時間があればイケる気はするのよね。それまで鍛えておくから、解呪はまた今度ね」
「ええ……」
女王の言葉は、淫魔王国の言葉と同義である。
なら、今の発言もまた、そのように受け取っていいのかもしれない。
今は解呪できないようだが、いつかの未来には。
一縷であっても希望が見えた。そう思っておこう。
廊下を歩きながら、俺はエリーゼの手を握った。
時は進んでお昼時。
俺とその一党は、謁見の間で跪いていた。
「よろしい。イシグロ・リキタカ、それからその一党の者。頭をお上げなさい」
騎士達やラリス大使が見守る中、俺達は正式に女王に謁見した。
玉座に座った女王にお褒めの言葉をもらい、“準淫魔騎士勲章”なるアイテムを授与された。
事前に説明されたのだが、この勲章があれば淫魔王国の空を自由に飛んでいいし、王城にある書庫にも入ってヨシとなるのだ。ゲーム風に捉えると、ファストトラベルの解放と侵入禁止エリアの解放といったところ。
また、女王に謁見したという記録から、俺は間接的に淫魔王国の後ろ盾を得た形になる。
緊張の時間が終わると、お次は例の儀式である。
俺とルクスリリアの共同作業だ。
思えば。俺はこの為に淫魔王国に来たのである。
変な話、禁欲を続けていた手前、これを解禁できるのも純粋に嬉しかった。
儀式が終わったら、その日のうちにレッツパーリィだ。
〇
「じゃ、ちょっくら行ってくるッス!」
「頑張ってくださいね」
「よう分からんが、ガンバじゃ」
「アナタも、あまり気負わないようにね」
「うぃ」
王城の地下。大きな扉の前で、俺達は皆と一時のお別れをした。
これから、俺とルクスリリアは純淫魔契約の儀式に挑むのだ。
儀式に武器は要らないとの事なので、お互いにラフな格好だ。
「イシグロさん、ルクスリリアさん。どうか、ご無事で」
見送りに来てくれた淫魔女王からもお言葉を賜る。
過去、人類初の純淫魔であるシルヴィアナさんは、この儀式に複数回挑んだらしい。で、四度目で成功したという。
つまり、これは儀式というよりも試練といった趣が強いのだ。否応にも緊張するし、気合が入るというものである。
「はい。行こうか、ルクスリリア」
「あいッス!」
そして、俺達は皆に背を向け、手を繋いで扉を開けた。
そのまま、二人並んで歩き出す。背後で扉の締まる音。
静寂の中、二人分の靴音がやけに響いた。
扉の先は長い廊下になっていた。
等間隔に灯された魔導照明は薄暗く、何とも不気味な雰囲気である。
ラスダンというか隠しダンジョンというか、普通じゃ行けないエリアに入ってる感じ。
しばらく歩くと、水自体が淡く発光している水路に差し掛かった。
これは事前に聞かされていたので、俺達は惑わず段差を下って水路を歩いて行く。
水路の深さは俺の腰程あったので、泳ぎ状態になったルクスリリアは半ば俺に牽引されていた。
「契約儀式って何なんだろうな。しかも術師もなしで」
「入れば分かるって言ってたッスけど、まだ分かんねぇッスね。てか、この匂いは……」
「何か分かるの?」
「んー、まぁ多分……いやでも、う~ん?」
ジャブジャブと水路を歩き続ける。
幸いこの水は温水プールくらいの温度があった為、冷たくて凍える事はなかった。
「あそこか」
しばらく歩き、水路を抜けた先に如何にもな扉を発見した。
段差を上り、収納魔法から取り出したタオルで水気を拭う。ルクスリリアを拭ってる最中、ふいに勃起した。危ない危ない、今はそんな場合じゃないだろう。鎮まれぃ! 鎮まった。
「開けるぞ。リリィ、警戒を」
「迷宮じゃないんスから」
十中八九、この先で儀式を行うのだろう。
二人だけの儀式。謎の水路。ニーナママが三度も失敗した試練。いったい、俺達は何に挑むというのだろうか。
息を吸い、吐く。覚悟を決めた俺は、ゆっくりと扉を開けていった。
「ん?」
そうして見えた扉の向こうは、何ともシンプルな部屋になっていた。
部屋の真ん中には大きなベッドがあり、ムーディな間接照明が実にオシャレである。おまけに、怪しいお香なんかが焚かれていた。
端にある机の上には謎のポーション類があり、他にも干し果実などの保存食が置かれていた。散策してみると、別室には風呂やトイレなんかもあった。
いや、ていうかこれ……。
「ご主人ご主人! こっち来てほしいッス!」
「どした?」
散策中、入口周辺を見ていたルクスリリアに呼ばれる。
声の方に向かうと、ルクスリリアは扉の上を指差していた。そこには電光掲示板のような板があった。
そして、その板にはこのように書かれていた。
「百回吸精しないと出られない部屋……」
つまり、アレか。
淫魔剣聖のご夫婦が何度かトライしたっていうチャレンジってのは……。
例のアレ。皆が大好きな空間。謎設定ながらも王道のシチュエーション。
あー、うん。そうか、そうか。
ここ淫魔王国だったわ。
感想投げてくれると喜びます。
現在、本作に登場するキャラクターを募集しています。
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作者のやる気に繋がります。
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更新通知とか、更新の予告とかします。
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ちゃんと出られる仕様です。
◆純淫魔契約による変化まとめ◆
・二人
寿命の共有。
死の連鎖。
・淫魔
味覚回復。
催眠への抵抗力。
淫魔以外を妊娠可能。
種族とジョブのレベル上限解放。
ステータスアップ。
契約者以外から吸精すると死。
理性アップ。
契約者以外への興味消失。
・契約者
不老化。
肉体再生能力を獲得。
性欲と精力が強くなる。