【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

136 / 322
 感想・評価など、ありがとうございます。モチベに繋がっております。
 誤字報告もありがとうございます。いつも助かっています。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は三人称です。
 よろしくお願いします。


心のかたち ロリのかたち

 広く、暗く、静寂の落ちた空間に、淡く発光する円筒状の物体があった。

 硝子製と思しき筒は治癒効果のある液体で満たされており、その中に胎児のようにうずくまったヒトガタのシルエットが見える。

 下から上へ、不規則なタイミングで気泡が浮上した。浮き上がる泡が柔らかい頬を通り過ぎる。冷たい人工羊水の中、十三番は瞼を震わせ、やがて何事もなかったように微睡みへと戻って行った。

 

 十三番にとって、眠りとは一時の安らぎであった。

 起きている間に、苦しくない記憶などなかったからだ。

 

「あー、派手にやっちまったニャー」

 

 そんな中、筒の光に照らされた白衣の猫又女が諦観混じりの声を漏らした。

 十三番が保管された筒の横には、中破相当の損傷を受けた鎧が鎮座していた。白銀の魔導人機・極天である。

 

 極天は災厄戦の露払いを目的として開発された古代兵器である。運用思想上、防御性能こそ他魔導人機より低いものの、並みの魔法を通さない程度には堅牢な装甲をしている。

 にも拘らず、この機体は魔法の一撃で中破してしまった。それというのも、護衛対象である夢魔を庇うべく盾になったが為である。

 それで夢魔を回収できれば良かったのだが、そうはならなかった。今頃、件の夢魔はあらゆる手段で以て情報を抜かれている事だろう。

 はぁ~、と。白衣の猫又はがっつり嘆息した。仕事が増えて、ちょっと憂鬱である。

 

「ん?」

 

 その時、猫又の耳が揺れた。この部屋に近づいてくる者がいるのだ。

 やがて、猫又の予感通りに暗闇の空間に光が差した。眩い外の光に、人ならざる長い影が伸びている。

 

「おかえり姉さん」

「ただいま」

 

 影は人語を介する黒猫であった。しなやかな四足で歩く姿には、どこか貴族令嬢然とした流麗さが感じられる。

 その毛色は影に潜むような漆黒で、背後には尋常の猫にはない三本の尻尾が揺れていた。

 

「あら、随分と派手にやられたわね。まさか極天を壊す人がいるだなんて」

「庇ったんだニャ、あの青二才を。せっかくこのあたしが丁寧に調整してやったのに、ロクに使えもしなかったのニャ。言っとくけど、極天の性能は完璧だったニャ」

「捕らわれたというのは本当だったのね」

 

 白銀の巨影を見上げ、黒猫は事実を嚥下するように言った。

 ヒトガタと四足獣。共に三つの尾を持つ両者の間には、家族間にあるような気安い雰囲気があった。

 

「少し、面倒な事になったわ……」

 

 嘆息するようにごちる黒猫。白衣の三本尻尾は心底忌々しげな表情を浮かべ、吐き捨てるように言った。

 

「そうだよ。だからあたしは最初から反対してたのニャ。調整しただけで投入するのは早計だってね。真に最高の駒を作るなら、長い目で見るとしっかりとした教育が必須なんだニャ。それを、どいつもこいつも即戦力即戦力と……!」

「母様は放任主義だからね」

「もはや育児放棄ニャ! いくら忌み子だからって、産んでハイサヨナラは阿呆の所業ニャ! そもそも、アレ一匹作るのにどれくらいのリソースが必要か理解してないのニャ!」

「まぁまぁ、お陰で十三番が手に入ったんじゃない」

「結果がコレじゃ割に合わないニャ! 骨董品もこのザマじゃあ……!」

「そうねぇ。妹は仕上げをしくじって死んじゃったし、夢魔の坊やは功を焦って捕まっちゃったわ。少し慢心が過ぎるわよねぇ」

「バカに限って自分の間違いを認めないのニャ……!」

 

 意識せぬよう強いてきた感情を噴出させ、怒りに毛を逆立てる猫又。黒猫はそれを宥めるように話題を逸らした。

 そうして別の話題を挙げてみると、二つの失敗の中心に一人の男の名が浮かび上がってきた。

 

「イシグロ・リキタカ? だったかしら。ラリスの冒険者で、どこ出身かよく分からない子」

「そっ。二回も割り込んできて、二回も邪魔してきたのニャ」

「偶然なはずなのだけれどね」

 

 迷宮狂いと綽名されるラリスの冒険者。思えば、彼女達の末妹を殺害したのも奴の仕業だった。そして、何故か夢魔の捕縛にも貢献したという。

 現状、主要な計画にこそ関わっていないものの、先の二つのせいで大小の諸問題が発生しているのだ。後々の事を考慮し、願わくば排除したいところである。しかし、極天の有様を見れば、そう軽々しく手を出すべきではない気もする。

 第一、そのうち迷宮に喰われるだろう。冒険者なんてのは、その程度の存在でしかないのである。

 

「幸い、奴が私達を狙ってくる訳はないわ。あの子の動向には注意を払うべきね。直接手を出さないように」

 

 末妹は奴直々に引導を渡されたのだ。まさか、夢魔や魔導人機が此方と繋がっているとは夢にも思うまい。

 そうだとしても、まさかあの件(・・・)で我々に恨みを抱いているとは考え難いだろう。つくづく、あの娘のやる事は度し難い……。

 

「それ、バカ姉共にも言っといてニャ」

「はいはい、わかったわ」

 

 言って、黒猫は円筒の中で眠る十三番を見上げた。

 そういえば、イシグロの奴隷達も皆こんな(・・・)身体だった気がする。

 いや、まさかね……と。黒猫は十三番から視線を外した。

 

「いずれにせよ、夢魔の子が捕まった今、ここを探られるのは時間の問題ね。調整が済み次第、場所を移すわよ」

「うぃ~」

 

 そうして、一人と一匹は部屋を出た。

 再度、広い空間に静寂が戻った。

 

 淡い光に包まれた十三番は、僅かに瞼を開いた。

 微睡みの狭間で、思い起こす。あの日、生まれて初めて十三番の救難信号が伝わった気がする。

 そして、得体のしれない感情が、冷えた心を撫でたのだ。

 

「いし、ぐろ……」

 

 こぽりと、小さな唇から泡が漏れる。

 

 祝福あれ、祝福あれ、祝福あれ……。

 優しい声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 太陽が真上で輝く頃、ラリス王国は王都アレクシスト中央区にそびえるラリス王城。古から今に至って不朽不滅の長廊下に、歩み進む二つの人影があった。

 一人は少年だった。藍色の髪に、幼さが残る精悍な顔立ち。誰あろう、淫魔王国より帰還したミラクム・リント・フライシュである。二人目は、第三王子専属メイドのキルスティンだ。

 先導する魔牛族の後ろ姿は、最近童貞を卒業したばかりの思春期少年にはあまりに刺激的過ぎた。清楚なロングスカート越しだというのに、彼女のお尻からは「ムチィ♡ ムチィ♡」という擬音が聞こえる気がしてならない。つまるところ、それ程までに豊満なのだ。

 誉れ高い貴族であるミラクムは、膨れ上がりそうになる欲望を努めて制御した。相手は元金細工の侍女であり、尊敬できる戦士なのだ。強者への尊崇こそ、彼女に抱くべき健全な感情であった。

 

「こちらに。殿下がお待ちでございます」

 

 目的地に到着すると、緑髪爆乳デカ尻むちむち未亡人メイドは通路の隅に控えた。ここからはミラクムが先を歩くのだ。

 そこは王城にある庭園であった。夜森人庭師によって管理された花園は、基本的に食える草しか植えていないフライシュ城の庭と違って“美”を前面に出した造りをしていた。

 そして、美しい花々の中心にあるラリス建築の東屋に、白百合のような髪の美少年が供も連れずに座していた。彼の名を、貴族子息たるミラクムが知らない訳がない。

 ジノヴィオス・アレクシスト・ラリステトラ。現ラリス王の実子にして、当代最強の王族と目されている存在。齢十一になった第三王子その人であった。

 

 ミラクムは息を呑み、今度こそ貴族としての矜持を胸に庭園へ足を踏み入れた。

 やがて王子の近くまで歩み寄ると、礼服が汚れる事も構わずその場で跪いた。この時、市井の者のように目を合わせ続けてはならない。これは強者と弱者を分ける礼儀であり、明確な上下関係を示す習わしであった。

 

「お初にお目にかかります。私、フライシュ領を預からせて頂いておりますヴィンセントの子。名をミラクムと申します」

 

 左手を胸に、右手を腰に、それからミラクムは名も力も格上である王族へと首を垂れた。

 これはラリス文化における一般的な礼儀作法である。対し、純白の王子は頷いてみせた。あえてこの場でラリス式最敬礼をしなかったのは、彼がジノヴィオスの意図を理解している証左だった。

 

「よろしい。キルスティン、彼にもお茶を」

「かしこまりました」

 

 そうして、ミラクムは王子に促されて対面の席に座した。

 メイドがお茶を淹れ終わるまで、二人は口を開かなかった。作法に則って座すミラクムとは対照的に、第三王子は足を組んで対面の貴族を眺めていた。まるで、彼の心根を見分するように。

 やがてミラクムの前に湯気を立てるティーカップが置かれると、彼はその匂いに虚を突かれた。嗅ぎ慣れた香り、見慣れた色。これは、フライシュ領で栽培している茶葉である。

 

「淫魔王国では色々あったようだね」

 

 困惑しつつ、ミラクムが茶を飲もうとした瞬間、目の前の王子は口を開いた。

 普通、こういう時は本題の前に少々の雑談を挟むものである。しかし、王子は自身の戦闘力を背景にそういった柵を一顧だにしなかった。ある意味、絶対的な強者として尊敬される振る舞いであった。

 実際には王子当人の性格からくる無遠慮さが為であったが、それを知っているのは件の聖王子の背後に控えたメイドだけであった。誰にも見えない角度で、キルスティンは「やれやれです」みたいなお澄まし顔をしていた。

 

「え、ええ。恥ずかしながら、貴族の本懐を果たす事はできませんでしたが……」

「ああ、その事を責めたい訳ではないんだ。報告書は読ませてもらったから、ミラクムさんからのお話を聞かせてほしいと思ったんだよね」

 

 召喚状には書かれていなかったが、ミラクムは淫魔王国での出来事を直接報告する為に登城したのである。

 何の変哲もない茶の誘い、これに応じた事で、私人としてのミラクムは第三王子派に属した事になった。元より、フライシュ家はジノヴィオス推しだったので何の問題もないが。

 

「それでは、まず事の起こりから……」

 

 どのみち、ラリス王家は件の騒動について一から十まで知る事になる。ただ遅いか早いか、最初に知る者が変わるだけだ。その中で、第三王子は速度をこそ重要視しているのだ。

 息を呑んで覚悟を決め、ミラクムは当時の事を時系列順に話していった。交流会の始まりから、その最終日。後に聞き知った戦いに、その痕跡と証拠を含め、自身が調べられた範囲の全てを。問われた場合のみ所感を述べつつ、努めて第三者の視点を意識して。

 真面目な貴族子息の話を、第三王子は変化のない笑みのまま聞いていた。

 

「で、イシグロさんは王城でその儀式を行ったんだね」

「そのようです。詳しくは把握しておりませんが」

「いや、それについては此方で把握しているよ」

 

 夢魔の存在。謎の白銀鎧。純淫魔儀式……。

 事の顛末を聞き終え、王子は顎に手を置いて目を瞑った。ミラクムは乾いた喉を潤すべく、温くなった茶を飲んだ。やはり、このお茶は冷ました方が美味い。王子付きのメイドは茶の知識一つとっても金細工級であった。

 

「ふぅん……」

 

 第三王子は沈思黙考した。

 情報を掛け合わせ、状況を整理する。恐らく、ミラクムは女王からの無自覚なメッセンジャーだ。交流会を急いだ理由は、念の為にとこれを想定しての事か。あの女王はそういう人である。

 であるならば、王子の取るべき行動は決まっている。生まれてこの方、この少年は悩んだり迷ったりした事がなかった。

 

「僕が一番乗りか……」

 

 という王子の呟きを、ミラクムは貴族子息らしい思考のもと聞かなかったフリをした。

 この段になって、ミラクムは第三王子の人格の一端を理解しつつあった。

 

 聖王子。その本質は、良くも悪くも王の器である。

 望んでこそ、いないようだが。

 

 

 

 少々の雑談の後、ミラクムは王城の庭園を辞した。

 これにて、やるべきことリストの二つが完了したのだ。

 

「本当に向かわれるんですか?」

「もちろん」

 

 それから、主従二人は王城の廊下を歩いていた。

 所作こそ上品ではあるものの、この王子は歩く速度が異様に速い。慣れたように追従するメイドだが、もしこの状況を第二王子あたりにでも見られでもしたら面倒な事になるので、侍従的にはもうちょっと落ち着いて欲しいところだった。

 

「最近は戦い通しだったろう、僕もそろそろ英気を養うべきだと思わないかい?」

「それはそうですが。であれば、お部屋でゆっくりされては如何です?」

「残念、僕はじっとしてたら石像になっちゃう病なのさ。一党の皆も帰省しちゃって、ちょうどいいじゃあないか」

「早計では?」

「遅すぎるくらいだよ」

 

 目的地の前に着くと、自らドアを開けようとした王子に先んじてメイドがドアを開けた。

 その中には、第三王子付きの侍女達が控えていた。全員、銀細工級の斥候である。

 即ち、王子手ずからスカウトした諜報部隊であった。

 

「翌朝に出る。準備をしようか」

 

 言って、王子は先程までの超然的な笑みを消し、年相応の笑顔を浮かべてみせた。

 眩い程の笑みを見たメイドは、ちょっぴり母性を刺激されつつ「仕方ないにゃあ」みたいな顔になった。

 

 何にせよ、戦士の心が休まるならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、当のイシグロ・リキタカは……。

 

「んくぅうううう♡ あっ♡ あっ♡ はぁ~♡ あ、温かいですぅ……♡」

 

 ホテル・乳鮑のスイートルームにて、酒池肉林の限りを尽くしていた。

 特大ベッドの上には快楽によって気を失った一党員が死屍累々の様相で転がっていて、最後の相手であるグーラも先の一撃で以て撃沈された。

 

「クゥーン♡ ご主人様ぁ♡ 抱っこしてください♡」

 

 対戦終了後、イシグロは甘えん坊モードになったグーラを抱きしめて横になった。

 束の間の休息である。本日の戦いはまだまだ続くのだ。

 

「よく頑張ったな、グーラ」

「えへへ♡ 大好きです、ご主人様♡」

 

 純淫魔契約から、数日の時が経った。

 イシグロは契約者となってからこっち退廃的な性生活を送っていた。

 というのも、契約者となったイシグロの色香に中てられたケモロリ二人が発情期に入ってしまった為だ。そうなれば、此方も抜かねば不作法というものである。

 

 また、黒剣一行が淫魔王国に泊まっているのには他にも理由があった。

 しばらく後、女王にエリーゼの呪いを調べてもらう予定があるのだ。それまで乳鮑のスイートを提供してもらっているのである。

 曰く、解呪には力云々より知識がモノを言うとの事。イシグロからすると、女王の申し出は嬉しい限りであった。

 

 グーラとイリハの発情期と、エリーゼの診察。それが終わったら、ルクスリリアママに会いに行く予定である。

 騒動も交流会も終わったが、イシグロ達はもう少し淫魔王国に滞在する事になりそうだった。

 

「あぁ~、幸せだなぁ~」

 

 皆を抱く度、イシグロは心底実感するのだ。

 異世界生活、最高である。




 淫魔王国編、完。
 もう少し居ますけどね。



 はい、数日前に連載一周年になりました。
 第一話から約百三十話まで、だいたい百二十万文字。ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
 こうも長く続けられたのは、偏に読者様の応援あっての事と存じます。感想・評価だけでなく、アンケとかその辺もです。

 アンケせずに進んでいたら、ルクスリリアは楽器を演奏していたでしょうし、エリーゼは魔法剣士になっていたと思います。
 実は初期プロット段階で存在してたのはルクスリリアとエリーゼだけだったんですよね。グーラの種族は直前まで迷ってました。

 本作、どう進んでもいいように最初にヒロイン倉庫的なのを用意していたんですよね。その仕様上、ボツになったヒロインが沢山いたりします。
 イリハポジのキャラは当初酒飲みの鬼でした。黒髪ロング呑兵衛鬼ロリでした。ぼざろのきくりさんみたいな性格の。

 ちな、本作を書くにあたって、事前にプロトタイプ的な作品を書いてたりもしました。
 その中で、初期ヒロインはルクスリリアではなく鍛冶系ドワーフ少女でした。第二ヒロインが今のルクスリリアポジのメスガキサキュバスです。
 実は今もその名残があって、115話でドワルフが口にした「ルーン彫刻」と「魔石錬金」がプロトタイプ版における大きな要素の一つでした。
 プロト版では、ルーン彫刻という廃れた技術を持つロリドワーフに主人公が出資して盛り立ててくって話でしたね。ハクスラしまくる主人公の武器をロリドワーフがエンチャントしまくるような。
 で、まぁ色々考えてこの方針は止めようってなり、今の形になりましたとさ。

 閑話休題。

 先述の通り、本作はまぁまぁの長編小説になりました。
 お話の都合で、まだまだ投げっぱなしジャーマンになってる設定とかあの伏線どうなってんだとか、それなりに残っています。ごあんしんください。忘れてません。多分、恐らく、メイビー。

 それでは、次のエピソードで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。