【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告も感謝です。ありがてぇっす。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は三人称、チンイラ・ゴンザレス視点です。
 よろしくお願いします。


ロリごっこコラージュ(上)

 一部の例外こそあれ、総じて魔族はちゃらんぽらんである。

 何故ならば、魔族は心が老いると死んでしまうからだ。

 

 心が老いれば、魔力を生み出せない。

 魔力が無ければ、身体が朽ちる。

 故に、魔族は気の向くままに生きるのだ。

 

 

 

 イシグロが転移したこの異世界は、ところどころゲームチックな要素によって構成されている。

 物品の耐久性。各種権能。ステータスによる地球物理法則の超越。中でも、スキルの存在は相当にゲームめいている。

 

 MPやHP等を消費し、特定の技を繰り出す能動スキル。常時発動型の補助スキル。それら二種は、主に戦闘の場面で用いられる特殊技能である。

 そして、イシグロ視点マスクデータ扱いになっているが、この世界にはもう一種のスキルが存在する。

 即ち、生活スキルである。

 

 生活スキルとは、文字通り生きる活動に用いるスキルの総称である。ゲーム風にいうと、戦闘に関わらない生産系のスキルといったところか。鍛冶、裁縫、錬金術等がソレに当たる。

 分かり易いところでいうと、食材を用いて食用アイテムを生産する料理スキルだ。過去、イシグロが軽く考察していたように、この世界の料理は料理人の腕前によって出来上がった料理の味が大きく変動するのだ。

 同じ材料、同じ機材、同じ工程で作ったとしてもそうなるのだ。だから、スキルの低いイシグロの淹れたお茶より、スキルの高いイリハの淹れたお茶の方が美味しかったのである。

 

 また、これら生活スキルは、ステータスやジョブレベルとは異なり親から子へ初期値が遺伝しない。

 どれだけ技を極めた職人の子であっても、生まれてすぐはレベルゼロなのである。ただ、上限値と成長率は遺伝によって継承しやすい。要するに、イシグロのいた世界の才能と同じような感覚である。

 

 そして、こんな異世界であっても、天才は生まれてくる。

 継承によらず高い上限値を有し、凄まじき成長率を持つバグじみた存在。異世界にて、これを天才と呼ぶ。

 後にチンイラ・ゴンザレスと名乗る事となる淫魔は、そのような才を持って生まれてきた。

 

「もう読めるようになったの? パイモちゃんは凄いねぇ」

「えぇ、まぁ。そんなに難しい言葉はなかったので……」

 

 中淫魔・パイモは、自他ともに認める天才である。

 生まれてすぐ、何をやらせても他の子より早く習熟できるのだ。

 読み書き計算は言うに及ばず、良識や法律に至るまで。通常の三分の一程度の期間で淫魔学校の教育課程を修了した程に。

 

「パイモ、シルヴィアナ流剣術をお前に教える」

「よろしくお願いします、母上……」

 

 彼女の母は淫魔騎士だった。当然として、天才たる娘の将来には大いに期待していた。

 剣術、馬術、飛行術。母は天才児の娘に、あらゆる騎士教育を施し、娘はそれらを苦も無く習得していった。

 けれども、イマイチ情熱のない子供だった。

 

「パーイーモちゃん! あーそーぼっ!」

「あ、待って、今行くよ……」

 

 当時、パイモは周囲から才能ある不思議ちゃん扱いをされていた。

 それというのも、彼女は淫魔だというのに吸精に対して興味を示さなかったのである。

 否、エッチなこと自体は大好きだったのだが、ヤるより見るのが好きな見抜き勢だったのだ。

 

「お腹空いてるの? なら、ぼくの分も吸ってきなよ」

「いいの!?」

「うん、ぼくはいいからさ」

 

 自分がするのは興味ないけど、他人が吸精をしてるのを見るのは大好き。

 その理由を、当時の彼女は上手く説明できないでいた。

 

「んほぉ~♡ ど、どう? 可愛く描けてる?」

「うんうん、いい感じいい感じ……」

 

 ある日、パイモは情事の様子を記録しようと乱交パーティをスケッチしてみた。特に理由らしい理由もない、ただの気まぐれである。

 そうしていざ筆を走らせてみると、どうだ。煽情的に踊る淫魔に、生命を吸われて目のハイライトを失くしていく男達。暗い一室に籠った熱気と淫気。これは夢なのか、現実なのか……。

 暑い真夏の夜、加熱したパイモの欲望は、ついに危険な領域へと突入する……!

 

「で、でけた……!」

 

 パイモは、傑作を描きあげた。

 御年、三歳。天才画家が産声を上げた。

 乾いた砂漠に、雨が降った瞬間である。

 

「あー、パイモ、そろそろ槍術の方を……」

「知るかバカ! そんな事より芸術だ!」

「うーん、この……。母的に娘が元気になったのは嬉しいんだけど……」

「だぁあああああ! こんな駄作を描いたのは何処の誰だ! ぼくだ! 死ね! くたばれ! ここから居なくなれ! あばばばばばっ!?」

「大丈夫か? この娘……」

 

 その日以降、パイモは創作活動に没頭する事となった。

 絵画に執筆。音楽に彫刻。生きる情熱に欠けていると言われていた彼女は、まるで魂を燃やしているかのように色んな芸術にドハマリした。

 魔族は意識して幼い心を保つ。それは、“好き”の感情に素直になるという事でもある。創作活動を通じて、パイモの心は生まれて初めて潤っていた。

 

 パイモにとって、創作活動は性欲の発散といった表現がしっくりくるものであった。

 してない間は徐々に溜まっていき、溜め込み過ぎると苦しくて仕方ない。そして、上手くいくとスッキリする。

 パイモはこの世のあらゆる芸術を高尚だとは思っていない。何かを生み出す事は、パイモにとって生存に必要不可欠なものであり、それ以上でも以下でもないのだ。

 

「貴女がパイモちゃんね。貴女の作品は見させてもらったわ。その才、我が国の為に使ってくれると嬉しいわね」

「うッス、がんばるッス」

「パイモォ……!」

「いいのいいの、誰も見てないしね~」

 

 あらゆる方面に凄まじい才能を持つパイモだ。いつしか彼女は淫魔女王にスカウトされ、国をパトロンとした芸術家へと成り上がっていた。

 いくら天才とはいえ、修行時代は存在する。当時、パイモは国の援助を受けて様々な技術を習得していった。それはさながら飢えた獣に大量のエサを与えるかのようであった。

 ラリス王国も淫魔王国も、強者や天才の扱いは熟知している。極論、暇を与えれば成果を上げるのだ。淫魔女王はパイモに自由を与えて好きにさせていた。なお、パイモ母は娘の奇人ぶりに頭を抱えていた。

 

「これで十個目だぞ。頭こんがらがらないか?」

「いいんだよ。こういうのを描く時はチンイラ。エロ小説の時はアナルキッソス。で、建築家としてのぼくはエロッセウムなんだ」

 

 パイモは生み出す作品の全てに自身の魂を籠めている。であるなら、絵画を描く自分と小説を執筆する自分は別人で然るべき。そんな意識があった為、彼女のペンネームは作品ジャンルごとに異なっている。

 天才エロ画家として有名なチンイラ・ゴンザレスは、性風俗を描く時のみに使う雅号の一つに過ぎなかった。

 

「あー、次はなに作ろうかなー」

 

 そう、チンイラ・ゴンザレスは性風俗専門画家だが、生来パイモは絵画専門の芸術家ではなかったのである。

 そうして、何でもかんでも学べる環境に置かれたパイモの欲望は、日に日に膨れ上がっていった。デカいケツ持ちのいる芸術家生活は快適だったが、徐々に不満を抱くようになっていたのである。

 

 つまり、外への好奇心が湧いてきたのだ。

 ラリス建築。リンジュ文化。ドワーフ陶芸に、森人木工。この世界には、まだまだパイモを熱中させてくれる物があるに違いない。

 

「そうだ、ラリス行こう」

 

 そうなった。それを、女王は許した。

 パイモ母は愕然とした。え? お前、一人で生きていけるのか?

 

 幸い、パイモには他の淫魔にあるような性欲は極めて薄かった為、国外に出る為の旅券自体は容易に習得できた。

 試験を受け、合格し、アトリエを片して旅に出る。これまで七日間の出来事だった。

 

「おぉ、これが最古にして最高の都市か。やはり尋常な代物じゃあないね。王の覇気が隅々まで染み渡っているのを感じるよ……そそるね、これは」

 

 最初に訪れたのは、ラリス王国は王都アレクシストだった。

 王都での生活は刺激的だった。見渡す限り人人人……。酒にギャンブルに場末の喧嘩。どこへ行っても何をしてても毎日が楽しくって仕方なかった。

 が、王都の物価はバカ高い。女王からそれなりのお金を渡されていたパイモだったが、あっと言う間に路銀を失ってしまった。パイモの金銭感覚はお祭りではしゃぐ幼児並みなのである。

 

「ふぅん……? 分かっちゃいたけど、ぼくはこっちも天才だったんだね」

 

 なので、迷宮に潜って日銭を稼ぐ事にした。

 この時、もしパイモがクズ芸術家だったなら淫魔王国に泣きついただろうが、彼女は真面目な母に育てられた影響で変なトコでしっかりしていた。

 なお、淫魔王国的には危ない事はしてほしくなかった模様。金なら出すから大人しくしててくれってのが本音だった。

 

「いいねぇ、迷宮ってのは儲かるねぇ。よし、今日は獣人娼館に行って噂の発情期ックスを見せてもらおうかな」

 

 本人が認める通り、パイモは戦闘面でも天才だった。

 元々、淫魔騎士の母から高い素質を受け継いでいたのである。木札から鉄札へ昇格し、鋼鉄札を得るまではあっと言う間だった。

 ちなみに、稼いだ金の殆どは娼館での見抜き代に消えていた。娼館的に、見る専のパイモは最高の上客だった。

 

「よし、取り掛かるぞ。でもどれから始めるか迷うなぁ。まぁまずは絵かな。高いイーゼル買っちゃったし、使ってあげないとねー」

 

 生活環境が整うと、パイモはようやく創作活動を再開した。

 迷宮の狂気と休養期間で増幅していた創作意欲は、彼女の天才性に強い刺激を与えていた。

 これまた、何か作って世に出すなり、ラリスにおける彼女の名声はあっと言う間に広まっていった。

 

 芸術大好き貴族さんから「パトロンになってあげるよ」というお誘いを受けた事もあったが、「未だ修行中の身ゆえ……」とそれっぽく断ったりもした。

 その態度が気に入られ、貴族からは金だけをもらう事ができた。パイモはホクホク顔で全額ギャンブルに使った。彼女は大金を持つと身体が重くなる感じがして嫌なのである。

 

「ここの景色にも飽きたし、そろそろ場所変えようかな。どこか風光明媚なトコがいいなぁ」

 

 そんな中、パイモは事あるごとに住居を変えていた。

 風の吹くまま、気の向くまま。パイモは行きたい方に歩いて行った。

 

 旅の中、パイモは様々な経験をした。

 リンジュに行っては浮世絵というものを学び、ここでも素晴らしい傑作を残した。

 グウィネス部族連合の領土に入り、鬣犬族の夫婦の営みで見抜きをした。

 その他、こっそり人類生存圏外まで行き、凍土や砂漠といった不毛の大地を見て回った。圏外の奥に行くと、彼女は何度も死にかけた。

 

「はははっ! どんどん意欲が湧いてくるぞ! こんなところじゃ、死ねないなぁ! あはははは!」

 

 パイモは、旅に夢中になっていた。

 美しい風景。荒々しい大自然。敵意に満ちた外の世界。

 善悪美醜に拘わらず、その全てがパイモの心を潤していた。

 

 道中、パイモは色んな人と交流する機会があった。

 目立ちたがりに、頭でっかち。理解できない論理を振りかざす暴れん坊や、気高い人に野卑な悪人。

 色んな人がいて、皆色んな悩みを持っていた。

 

「あー、これか。少し見せてみたまえ」

「お、おい下手に弄るんじゃねぇよ。長老でも分からなかったんだぜ」

「ほら直った。簡単だろう?」

「マジか……!?」

 

 そんな中、パイモは水車が止まったせいで困っている人を助けた事があった。

 実物を弄るのは初めてだったが、パイモからすると水車の原理は簡単だった。ひと目見て、どこが故障してたか丸わかりだったのだ。

 なんて事はない。ただの気まぐれである。

 

「いやぁ助かったぜ! あんたは村の英雄だ! 礼をさせてくれよ!」

「ん? ぼくは淫魔だけれど、いいのかい?」

「種族なんか関係ねぇよ! ちょうど猪捌いてるところだ! パーッとやろうぜ!」

 

 それにしてもと、思う。

 自分なら、もっと良い水車が作れると思うんだよな、と。

 水車だけじゃない。今より高い火力を出せる炉に、効率的に魔力を流せる魔道具。純度の高い錬金用水。もっと美味い酒、もっと鋭い刀、もっともっと便利な農具……。

 

「ふぅん、実に面白い……」

 

 思い立ったが吉日。以降、パイモは発明にドハマリした。

 これが存外面白いもので、発明というものは頭で考えていた通りにならない事が多かったのだ。手強くて、やりがいがある。

 毎日毎日、試行錯誤の繰り返し。完成した物もあれば、未だ放置している物もある。作りたいもの、今の技術じゃ不可能なものが多すぎるのだ。

 発明家としてのパイモもまた、天才だった。

 

「ありがとうございます! 賢者パイモ様! これで我が家も畑仕事を続けられます!」

「やめてくれよ。ぼくは賢者なんかじゃあないさ」

 

 人に感謝されるという経験は、パイモからしてなかなかに気分の良いものだった。

 発明家としての名声が高まると、各方面からアレ作ってコレ作ってと頼まれ、パイモはその全てに完璧に応えてみせた。

 自分の成果で皆が豊かになるのは、悪くない気分だったのだ。

 

「えー、次は新型農具? 随分とざっくりした依頼じゃあないか。何をしたいかくらい書いてほしいもんだがねぇ? ま、できるんだけども」

 

 そのうち、色んな国の色んな偉い人からも依頼が来るようになった。

 貴族が喜ぶ絵を描き、庶民が楽しむ小説を執筆する。時に便利な日用品を開発し、錬金術組合に論文を提出する。

 兎にも角にも、時間が無かった。休養も旅も、もう何年もしていない。

 

「はぁ……。さて、今日も始めるか」

 

 いつの間にか、パイモは何か作業を始める前に覚悟を必要とするようになっていた。

 決して、絵を描くのが嫌になった訳じゃない。けど、筆を握ってもワクワクしないし、描き終えた後も満足感より先に疲労感が来てしまう。

 けど、皆が喜ぶ事を想えば、今の仕事を投げる訳にはいかなかった。

 

「前はこんな感じじゃなかった気がするなぁ……」

 

 かつて、パイモにとって創作活動は、欲望の発散法であると同時に生きがいそのものだった。

 心の潤いこそ、魔族にとっての栄養なのだ。

 パイモは――七十二に分裂した彼女は、生きる事が辛くなっていた。

 

「ラリスの剣豪? なんだい、冒険者の二つ名かな?」

「へい、イシグロっちゅーもんで。何やらうちの酒を気に入ってくれたとか伺いました。いやぁ、ラリスの剣豪が呑む酒とくれば、悪い気しませんなぁ」

 

 そんな中、パイモは気になる噂を聞いた。

 新進気鋭のラリスの冒険者で、常軌を逸した戦績を残した男。橋から落ちた童女を助けたとか、桜闘会で優勝したとか……。

 その辺はどうでもいい。パイモが気になったのは、彼が所有しているらしい奴隷についてだった。

 

 曰く、淫魔のくせに全くエロくない深域武装持ちのメスガキ。

 曰く、嵐の如き魔力を放つ銀髪の幼竜。

 曰く、矮躯にして大力を有する黒獣の少女。

 曰く、イシグロに救われた桜色の仔狐。

 どいつもこいつも、男が所有するには不自然な存在。とても性奴隷とは思えない幼子めいた奇妙な奴隷たち。

 

 何故、彼はそのような奴隷を購入したのだろうか。

 銀細工が聖人君子などあり得るものか。もっと強く、生々しい欲望があったに違いない。

 もしかして、だけど……。

 

「彼は、小さい女の子が好きなんじゃないか……?」

 

 バカな、あり得ない。どだい小さい女じゃあチンチン勃たないだろう。

 でも、それがもし本当だったなら、それはパイモの知らない未知の世界なんじゃあないか?

 エッチな絵を描きたい。そんな欲望が、久しくパイモの胸に去来した。

 

「そうだ、淫魔王国行こう」

 

 思い立ったが吉日。今ある全ての依頼を爆速で終わらせ、アトリエにある全ての発明を持って旅に出た。

 そして、彼女は故郷に帰り、彼と出会って……。

 

「そんな訳で、スケベしてるとこ見せてくれないか?」

「嫌です……」

 

 断られたのである。




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 パイモ
 チンイラ・ゴンザレスの本名。中淫魔。鋼鉄札。シルヴィアナ流短剣術を使う剣士兼斥候。
 絵画や建築など、さまざまな分野で名をはせる芸術家。最近は発明に傾倒中。生活スキルの上限値・成長率がバグった天才。
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