【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。申し訳ない。
すごい今更ですけど、本作はバーッと書いてドバーッと投稿してるので、色々と詰めが甘いです。ご容赦頂きたく。
屋外型ダンジョンは広い。
歩きで移動すると、それはもう時間がかかる。一日じゃ絶対クリアできない。
目についたゴーレムを片っ端から倒すなどをしていては、何をかいわんや。
「はぁ~、アタシ何気に焚火とかするの初めてッス~」
「俺も久しぶりだな。前友達と行ったキャンプ以来だから、二年くらい前か」
多分、夜。
ダンジョン内はずっと同じ空模様なので時間の感覚が狂ってしまうが、多分夜だ。
朝に転移して、何回も戦って、途中休憩挟んでからまた戦って……。
それから、なんとなくお腹が空きはじめたので、今日はもうおしまいとしてダンジョンでキャンプしようとなったのだ。
ダンジョン内で寝泊まりとか考えただけで怖いが、幸いここはゴーレムが近くにいない限り安全なので、ある程度安心して休憩できる。
「この銀細工が時計だったらいいのになぁ」
今が夜なのか、まだ夕方なのか、わからない。
時間感覚が狂うダンジョン内、何かしら時計みたいなのがあると便利だと思う。
しかしこの世界、そんなものはなかった。
一応、時間を示すモノはあるのだ。教会っぽい建物の鐘である。日光か何か、そういう原始的な方法で時間を計っているらしく、俺が親しんできたような時計はまだない。技術を見るに歯車自体はあるようだが、それを使って時間を計る機械を作るという考えには至っていないようである。
だからか、この世界の住人は時間にルーズな感じがある。なんとなくだが、そんな感じがするのだ。
何か、代用できたりするものとかないかな。
「とけいって、そんな良いもんスかね?」
「便利ではある。俺のいたところでは皆持ってたよ」
「やーっ! アタシは嫌ッスね。皆が皆時間気にして生きてたら、そんなの時間に見張られてるようなもんッスよ。考えただけで気が狂いそうッス」
「そうかな、そうかも……」
割と胸に刺さる発言だった。
時間通りに生きるのが普通だった身としては、今のルクスリリアの言葉はボディブロウのように心に突き刺さる。
「……いや、止めよう」
うん、止め止め。深く物事考えないのが俺の数少ない美点である。俺はそう思っている。
せっかくの焚火、夢にまでみたロリ美少女とのゆるキャンである。全力で楽しみたい。
「さて、人生初挑戦……!」
良い感じの火に、大きいフォークみたいな串に刺したチーズを近づける。
これは以前リリィと買い物中に買った淫魔王国産のチーズで、とても美味しいらしい。これを使って、夢の“アレ”を作るのだ。
「ぐーるぐーる」
「おっ、じゃあアタシも。ぐーるぐーる♪」
奴隷と主人、二人して串チーズをぐるぐるする。
そうして溶け始めたチーズを、ちょうどいいところで引いて用意してきたパンの上にシュート。するとどうだ、アニオタが人生で一度は食べたいアレの出来上がりである。
ハイジのアレだ。
「おぉ……!」
模倣とはいえいざ実物を見ると、何かこう込み上げてくるものがあった。
如何にも堅そうなパンの上に、ギリギリ形を保っている溶けかけチーズ。焼けたチーズの匂いが鼻孔を直撃する。
一度唾を飲んで、いざ実食。すると、案の定めっちゃ熱かった。
めちゃ熱いが、異世界ナイズドされた俺の舌はチーズの熱に打ち勝った。濃厚なミルクの味と塩気、淡泊なパンとの組み合わせでちょうどいい具合の塩梅になっている。
ていうかコレ、ぶっちゃけ異世界飯で一番美味かった。これまで質素な飯しか食ってなかったのもあるだろうが、それにしたってこのチーズはバチクソに美味い。ホントに美味しいお米はそのままでも美味しいが、まさにソレ。淫魔王国産のチーズはただ焼いただけで物凄い美味しかった。チーズ単品なら前世込みでも一番美味いな。
「はぁ~! うんま~!」
「きひひっ、でしょ~? そう言われるとなんか悪い気しないッスね!」
ルクスリリアも、美味しそうにハイジのアレを食べている。
まぁハイジのアレといいつつ、このチーズは牛乳で作られてるので山羊チーズで出来たハイジのアレとは違うハイジのアレなのだが、ソレはソレ。ハイジのアレは牛でもハイジのアレなのである。
そうしてハイジのアレに舌鼓を打った後、アイテムボックスからこれまた淫魔王国産のクソデカソーセージを取り出した。畜産国家淫魔王国は肉類も美味いらしいのだ。
取り出したソーセージをズブリとデカ串の先に刺して、淫魔ソーセージを焼き始めた。
「このソーセージは肉用の牛を専門にしてる牧場で作られた奴なんで、他牧場のとは全然違う味なんス。まぁ食べた事ないッスけど」
「へえ、じゃあリリィも初めてなんだ」
「はいッス! ご主人のお陰でこういう美味しいもの食べれて嬉しいッス!」
いい感じまで焼き上げ、熱々のソーセージをそのまま頂く。
ガブリと一口。口の中に肉汁が溢れ、次いでハーブ系の爽やかな香りが鼻を通った。これまた即脱衣級に美味いソーセージである。
そして、傍らに置いてあった水を一気飲み。ぷは~とおっさんじみた息を吐いた。
「はーッ! オイオイちょっと待てよ淫魔王国最高じゃん! 淫魔のソーセージ美味すぎだろ! 教えはどうなってんだ教えは!」
「ん~! 確かにこれは美味しいッス! うん! 貴族共は毎日こんな美味ぇモン食ってたんスか! たまんねぇッス!」
その後も、危険極まるダンジョン内でつかの間のキャンプを楽しんだ。
焚火と飯とロリ。世界の全てである。
「さて、と……」
パチパチと薪が爆ぜる音を聞きながら、俺はコンソールを開いた。
見るべきは俺のステじゃなく、ルクスリリアのステだ。「仲間→ルクスリリア」とタップし、情報を表示する。
すると、さっき確認した通り、彼女はもう淫魔兵レベル30に到達していた。実質カンストである。さすがの高難度ダンジョンであり、さすがのゴーレムであると言える。
まあ、基本職だから上がりやすいってのが一番なんだが……。
「ん? ご主人、コンソールっての見てるッスか?」
「ああ。ルクスリリアの見てる」
「へー、なんて書いてあるんス?」
一部チートを共有していても、こういうチートは共有できない。俺はコンソールを弄りつつ、仲間のデータを眺めていた。
「淫魔兵のレベルが上がって、次のジョブになれるみたい」
「ジョブ? なんスかそれ」
「戦士とか剣士とか。ルクスリリアがなれるのは、“淫魔戦士”と“淫魔術師”と“淫魔将官”。あと“淫魔騎士”ってのがあるね」
「いんまきし!?」
言うと、さっきまで空中で休日おっさん寝してたルクスリリアは、俺の手元を覗き込むように寄ってきた。
いやあんたコンソール見えないでしょうに。
「淫魔騎士ッスか!? それ、アタシが成れるんスか!?」
「まあ、ジョブチェンジの条件は満たしてるね」
「それ! アタシそれに成りたいッス!」
「はあ、じゃあこれにするね」
ポチッとな。
何が何やら分からないが、ルクスリリアはボタン一つで件の“淫魔騎士”にジョブチェンジした。
見てみると、どうやら淫魔騎士とは淫魔兵から一部要素を削ぎ落したジョブであるようで、物理も魔法もまんべんなく成長していくジョブであるらしい。
しかも中位職。基本職から下位職飛ばして中位とは、結構な出世である。
「なったみたいだけど」
「あっさり! 実感ないッスけど、でも嬉しいッス! 淫魔騎士といえばエリートの中のエリート! 王城勤めが許される超絶出世街道ッスよ!」
「へぇ」
ルクスリリアの話をまとめると、こうだ。
淫魔騎士とは、淫魔王国における王城務めの精鋭の戦士であり、軍人というよりは女王の近衛にあたるらしい。
また、淫魔騎士には才能ある選ばれた者しかなれず、これまで小淫魔スタートで淫魔騎士にまで成り上がったのは歴史上数人しかいなかったとか。
女王の近衛たる淫魔騎士は三つの部隊に分かれる。それぞれ、攻と守と奏。
攻はその名の通り敵を殺しにかかる騎士で、守とは淫魔女王の近くでその身を守り、奏とは女王が思い切り力を発揮できるよう魔力支援を行う騎士であるようだ。
「ルクスリリアはどれに当たるの?」
「わかんねッス。けど、淫魔騎士に選ばれた淫魔は、厳しい試練の後に適性見られて配属されるらしいッス。アタシが裁かれる時なんかは、謁見の間に何人もいたッスね~、あと団長等も」
「そうなんだ……」
で、彼女等は皆、武器術にも魔術にも長けた戦闘エリートであり、かつて戦争で投入された時などは他種族の中隊を小隊で殲滅したらしい。マルス算かよ。
「確か、現騎士団長三人はそれぞれ鎌と鞭と楽器を武器にしてたッスね。いやー、皆さん目が怖かったッス! あと、皆さんお尻が弱そうな顔してたッス!」
「如何にも女騎士って感じだったんだ」
そんな憧れのエリートに、ルクスリリアはなった訳だけど。
まぁ引き続きレベルアップあるのみだよね。ジョブチェンジしてもステに変化はないし、物理も魔法も伸びる淫魔騎士のレベルを上げていけば、そう遠くないうちにラザファムの大鎌も使いこなせるようになると思う。
「じゃあ、そろそろ寝よっか」
「はいッス!」
という訳で、先日買った簡易テントに入る。
前世アウトドア用品ほど洗練されてないこれは、ホントに雨風を防ぐ為だけのザコテントだ。その中に布を敷いて、枕置いて寝るのである。これでも異世界基準でまぁまぁ贅沢、アイテムボックス持ちの特権だ。
ついでにお互いの色んなところに“清潔”をかけていく。
「明日はボス倒しに行くから、そこでも安全重視でよろしく」
「はいッス! 危なく成ったら全部お任せするッス!」
「うん、まぁそっちのが良いかな……」
明日は決戦である。
魔力も補充せねばならない。
何気に、ダンジョン内で一日過ごすのは初めてだった。
〇
ダンジョン内で夜(?)を明かすという経験の後、俺たちはHP・MP・精神的疲労を考慮しながら、本日もこのだだっ広い荒野を歩いていた。
ローグライク的仕様の異世界ダンジョン。こういう屋外型ダンジョンは出入りしても基本は大体同じだが、ボスの居場所がランダムである。その点、今回はハズレくじを引いてしまったようでボスまでの距離は結構遠い。俺はアクセシビリティの恩恵でボスの居場所が分かっちゃうが、他の冒険者からするとホントに此処はマジクソだと思う。
などと考えつつ歩いていると、ふと思いつく事があった。此処に入った直後の思考である。足が欲しいな、だ。
「ところで、その鎌の“守護獣”もう呼び出せるんじゃない?」
「あ、かもッスね。一回試してみるッスか」
ラザファムの大鎌、機能の一つ、その名を“異層権能”。何がどう権能なのかは知らないが、武器固有の特殊能力みたいなもんだろう。で、鎌自体の権能は守護獣の召喚というものだった。
守護獣とは何ぞや? 召喚とはどんな仕様なんや? と、一度鍛錬場で試してはみたのだが、どうにも魔力か知力かともかく何かが足りなかったようで何も召喚できなかったのである。
だが、今のリリィは以前までのリリィではない。淫魔兵を卒業し、戦闘エリートたる淫魔騎士にジョブチェンジしたのだ。やってみる価値ありますぜ。
「じゃあ、行くッスよ! むむむ……!」
そう言うと、ルクスリリアは鎌を掲げて唸り声を上げた。何か念じているようだ。
何が「むむむ」かと思っていると、突如ルクスリリアの前方に青白い魔法陣? 錬成陣? みたいなのが出てきて、そこからヌルッと守護獣さんが召喚された。
「「おぉ……!?」」
まず見えたのは、左右にねじれ上がった大きな角だった。それはリリィのようなカワイイ系の角と違い、威厳と風格を備えた一対の鹿角であった。
次いで、角の付け根である頭が這い出てきた。それは、前世ディ〇カバリーチャンネルで見たヘラジカに似ていた。デカい角といい、丸い瞳といいまさに鹿の王といった感じ。
そのまま一歩ずつ全身を晒していくと、やがて守護ヘラジカは太い四本足で立ち上がった。その大きさは地球産ヘラジカよりも大きく、つま先から背中まで大体2メートルくらい。厳つい角にゴツい肉体で数字以上にデカく見える。
何より目についたのは、左右の首の付け根から生えている鳥の翼であった。パッと見、それは単なる羽毛風の飾りなのだと思ったが、よく見るとそれは時折バサリと動いていて、多分異世界航空力学的に飛ぶ事ができる翼なのだろう。ついでに尻尾も鳥の尻尾っぽかった。
「で、でっけぇッス……!」
立派な角は金色で、つぶらな瞳は黒々としている。体毛は濃いめの茶色で、翼と尻尾もまた黄金。蹄の先には青白い魔力の光が揺らめいている。
なんというか、如何にも強そうな動物……いや、守護獣だった。
ふむ、鹿の体に鳥の羽?
何か、前世の記憶に引っかかるものがあった気がした。
「おおっと……?」
と思っていると、当の鹿さんは身体ごと俺の方を向くと、匂いを嗅ぐようにして俺に鼻を擦り付けてきた。ゴツい角が眼前にあってちょっと怖い。
一応、敵味方識別レーダーには味方とあるが、それでも角アタックは痛そうである。
「リリィ、こう……何か念的なものでお話できないの?」
「ん~? できるような、できないような? なんスかね、今はご主人に夢中? みたいな?」
「はあ」
仕方ないので鹿さんの頭を撫でると、満足したのか「ふんす」と一息吹いて再度召喚時の威厳ある守護獣のポーズに戻った。
「あ~、はいはいッス。なるほどね……」
「なに?」
リリィもリリィで角に手を当てて頷いている。スマホで通話しているかのような光景だ。
「なんか、群れ? のリーダーに挨拶した……みたいな感じらしいッス。で、自分より強い奴に従うって言ってるッス。ていうか、召喚したのアタシなんスがね……?」
どうやら召喚者と守護獣には精神パシー的な繋がりがあるようで、ルクスリリアはうんうん唸って続けて念通話をしていた。
対する鹿さんはどこ吹く風で、時折ぶわりと翼を動かしていた。
「ふむ……」
にしても、だ。
鹿さんの足を見る。長く、そして太い足だ。サラブレッドの様なしなやかさはないが、ジョナサン・ジョースターを思わせる丸太のような脚をしている。
こいつならヘラジカめいて自動車をひっくり返すなんて訳ないだろうし、異世界ヘラジカならコンボイ司令官もひっくり返せそうである。
何がどうって言うと、良い“足”になりそうって思ったのだ。乗り心地は……よくなさそうだけど。
「鹿さん」
呼ぶと、鹿さんはこっちを向いた。角は怖いが、目は可愛い。
ルクスリリアは無視するようだが、俺の言葉には反応してくれるようだ。
それは多分、さっきリリィが言ってたように俺がこの群れのリーダーだからだろう。強そうな鹿さんだが、倒せる感じはあるのだ。例え反逆してきても難なく処理できると思う。
「背中乗せてくれない?」
言葉が通じると信じて命令すると、なんと鹿さんは俺が乗りやすいように四本足を畳んでくれたではないか。軽く感動である。
感動しつつ、えっちらおっちら背にまたがると、彼はそのまま力強く立ち上がってくれた。目線が高い。乗馬体験で乗った引退馬よりずっと大きいぞ。
「オイオイオイ! ちょっと待てッスぅ! お前の主人はアタシ! 乗せるならまずアタシ乗せるんが仁義ってモンでしょうがぁ!」
眼下でルクスリリアが騒いでいた。ロリのキンキン声に反応する事なく、鹿さんは次の命令を待つようにじっとしていた。
「リリィも乗せていい?」
なんとなく、不承不承という感じに頷かれる。賢いなやっぱ。
俺は飛んできたリリィをキャッチすると、御伽噺のお姫様みたいに俺の前に座らせた。
「ひょえー! 高いッスねー!」
「リリィ、この鹿さんの名前は何ていうの?」
「え? 名前? んーっと、ちょっと待って下さいッス……」
一秒、二秒、三秒……。
鹿さんが欠伸をし終えると同時、ルクスリリアは角から手を離した。スマホかな?
「ないらしいッス。強いて言うなら、“ラザファムの大鎌の守護獣”らしいッス」
「ないんだ」
ないなら名付ければいいじゃん、と思わないでもないが、どうなんだろう。
正直、鹿さん……守護獣の仕様が分かってないので、安易に名前をつけていいものかという話である。
仮にこの鹿さんがお亡くなりになったとして、もっかい召喚できる保証もなければ、再召喚できたとてこの鹿さんとは違うのが来るかもしれないのだ。
そう思うと、鹿さんに名前をつけるのには抵抗があった。愛着湧きそうだし。
「ん? えーっとぉ……なんか、死にかけるか魔力がなくなると鎌に戻るらしいッス。で、呼び出されたらまたこいつが来るって、言ってる? ッス……?」
俺がうんうん悩んでるのに気づいてか、鹿さんはリリィに念を送ったようだ。
なんというか、賢いし人の心をこうも察するなんて凄いわねである。前世の犬猫よりずっと賢いじゃないか。
ふむ、となるとやっぱ名前はあった方が便利よな。
鹿さんって言うのもアレだし。
「ヤックル……いやこれはダメだ」
うん、ヤックルはダメだ。ヤックルはダメだ。大事な事だ。
じゃあ、せんと……いやコレもダメだ。ううむ、ネーミングは苦手である。RPGでも何でも、名前はいつも本当に適当につけていた。ドラクエ11の勇者に「やきそば」と名付けた俺である。責任ある名付けは怖い。
「リリィは名前何がいいと思う?」
「え? そうッスね、じゃあ……んがぉ!?」
リリィは片頭痛でも起こしたように頭を抱えた。
「あ、アタシに名付けされるのは絶対嫌って思念が……! こ、このクソジカがよぉ……!」
「えぇ……?」
どうやら、この鹿さんはマジで自分より強い奴にしか従順じゃあないようだ。
となると俺が付けないとだが……困った。
こいつ、“ラザファムの大鎌”の守護獣だし、ファム太郎とか?
ファム? ラザ? 鎌? 鹿?
ラザ……ラザ……ら、ざ?
「ラザニア」
「らざにあ?」
ペットに食べ物の名前をつけるのは、割とメジャーである。ツナとかチョコとかココアとか。
じゃあ、ラザニアでもいいじゃんであった。
「ラザファムの大鎌……贅沢な名だね。今からお前の名前はラザニアだ。いいかい?」
という訳で、今日から鹿さんの名前はラザニアだ。
ラザニアはふんすと鼻息を漏らすと、ブワッと翼を動かした。
「了解って言ってるッス」
認知してくれたらしい。
多分、昨夜に久しぶりに美味しいご飯食べた影響である。
明日から食事のランク上げよう。
〇
新たにラザニアを加えた二人と一頭のダンジョンアタックは、実に快適であった。
というのも、ラザニアは足が速かったのだ。俺が原付だとしたら、こいつはハーレーだった。ドコドコした股下の感触が心地よく、上裸で感じる風がスースーして気持ちがいい。歩きと鹿じゃあ速度がダンチだ。
当初不安視していた野生動物乗り心地問題もクリアできており、守護獣の仕様か異世界物理法則がそうさせるのか、鹿の背中に乗った俺とリリィをしっかり保持してくれたのだ。
横幅的にまたがると股間クリティカルするかとも思ったが、ラザニアの背中は存外ふわふわで柔らかく、普通に胡坐をかいてもバランスを崩す事はなかったのである。毛掴んでりゃ落ちる事もないしね。
「死ねよやぁあああああ!」
「いただきッスゥゥゥゥ!」
で、ラザニアと一緒にシームレスにゴーレム戦。
予想通り、ラザニアはその身の翼で空を飛ぶ事ができ、リリィと共にゴーレムの周りをちょろちょろして気を引いてくれた。
しかもその角からは何かしらの魔法を放つ事ができるようだった。確認したのは、カマイタチ的な奴と突風的な奴と、あと全身に風を纏っての角アタック。見てくれ相応に強靭で、見てくれ不相応に器用であった。
「あぁ~! 強化の音ォ~!」
どうやら、ラザニアの戦闘貢献は全てルクスリリアにいくらしく、ラザニア加入後はルクスリリアにじゃんじゃん経験値が貯まっていった。
ラザニアはルクスリリアを睨みつけていた。
多分朝からしばらくして、お昼時。
ゴーレム数体倒してお昼休憩となって、そいえばラザニア何食うのと思ったら、何も食えないらしいのだ。
じゃあどうやって実体化してんの? エネルギーいらず? って訊いたら。
「ん~? この鎌で吸った命を糧に生きてるっぽいッス。道理でアタシの魔力減ってねぇ訳ッスね」
なるほど、ついでにわかったが、何故鍛錬場で来なかったのかも分かった。あの時、ラザファムの大鎌は新品の童貞武器だったので鎌に命のストックがなかったんだな。
で、ゴーレムを倒した事で現界できるようになったと。オタクには理解の容易な設定である。
そんなこんな昼休憩が終わり。
ラザニア特急に乗った俺たちは西へ東へゴーレム狩りの旅に出て、ボスを手前にあっちこっち寄り道をしていた。
そこで、ちょっと変なモノを見つけた。
「うわ、なにあれ?」
「えぇ? なんか変ッスね。あれ、あいつが迷宮の主なんスか?」
「いやぁその反応はないなぁ……」
荒野の果て、大きな岩山の裏で見つけたのは、何とキンキラ金色に輝く成金ゴーレムであった。
黄金の鉄の塊でできたそいつは高さ5メートル程とこのダンジョンにしては小柄で、普通に人間のシルエットをしていた。身体のバランスは他ゴーレムよりずっとヒトに近く、むしろスタイルの良いモデル体型である。他がアーマードトルーパーだとしたら、こいつはアーマード・コアって感じだ。
百式かフェネクスかアカツキかゴールドスモーかアルヴァアロンか、ともかくそんくらいキラキラしてるそのゴーレムは、他ゴーレムと同様に休眠状態で岩山に腰かけていた。真っ白に燃え尽きた矢吹丈のように。
「気になる……」
怪しい、すごく怪しい。
あからさま過ぎて、ぜひ怪しんでくださいって感じである。
多分だけどアイツ、めっちゃ強いんだと思う。
ああいう広いフィールドにぽつんといるイロモノモンスターは、異常に強いか異常に逃げ足が速いかの二択である。
君子危うきにウンタラかんたらとは言うが、俺はあの金色ゴーレムが気になって仕方なかった。
リリィを見る。まだ不慣れだろう。やるなら俺一人で行くべきだ。
でも、俺が死ぬと奴隷契約でリリィも死ぬんだよな。俺一人ならともかく、リリィまで道連れにするのはどうかと思うし。可哀想なのは抜けない。
あぁ……うん、やっぱ普通に死にたくないなぁ……。でも気になるなぁ……。
ラザニアを見る。こいつは翼を使って高速移動ができる。戦ってる時しか観てないが、こいつの飛行能力はリリィより上であり、地上より空中のが速度も出ていた。
虎穴に入らずんば虎児を得ず……。
よし、決めた。
「とりま一回殴ってみるよ。ヤバくなったら全力で逃げるから、その時はラザニアに乗って逃げてね」
「は、はいッス……!」
と、いう訳で。
俺は久しぶりに装備を着込み、一番強い剣を装備した。
あいつに武器破壊効果があるのかは知らないが、予備武器の用意もしておこう。
やっぱ、ガチな時はソドマスだ。
「じゃ、行ってくる」
結論を言うと、金ゴーレムは結構強かった。
けど、難しい敵ではなかった。
定石に則って最初は様子見に徹していたが、どうやら魔法とか飛び道具の類はやってこないようだった。
スピードは他ゴーレムより圧倒的に速く、動きもアグレッシブでスタイリッシュだった。スライディングキックからのフライングボディプレス。起き上がり際の足払い攻撃。どれも此処のゴーレムがやってこない類の攻撃で、人間ならできそうな動きであり……見切るのは容易だった。
なので、さっさと弱点を殴りまくり、カウンターを入れ、最後にギリシャ彫刻のような頭部にキツい一撃を入れて試合終了。お疲れ様でスターである。
「おぉ~」
したら経験値がドバドバ入ってきてビックリ。だいたいゴーレム3体分くらい美味しかった。
勝利後、はしゃいで飛んできたルクスリリアを抱きとめ、ひとしきり喜び合うと地面に散らばったアイテム群に目がいった。
「なんスかね、これ」
「ただの鉄とかじゃないよね。異世界不思議ストーンなのかな?」
ゴールドゴーレムがドロップしたのは、大量のキラキラ石であった。青光りする石とか、なんか赤く光ってる石とか、黒くて艶のない石とか、色々。でかいきんのたまもある。
その中のひとつ、ピカピカの銀の玉を手に取ってみると、それは見た目以上にずしりと重かった。表面はツルツルとしてて触り心地が良く、まるでビー玉でも触ってる感じである。
コンソールを開いて確認すると、このクソデカパチンコ玉は「
「リリィ、輝銀魔石って知ってる?」
「んー? 知らないッスね~。淫魔あんま石好きくないッスから、そこらへん全然詳しくないんスよ~」
「そうなんだ。でも高く売れそうだよね」
まあ、何に使うかは分からんが、まさか無価値で何の使いでもないアイテムって事もないだろう。
俺はこれまで、こういう屋外型ダンジョンは敵倒して満足してたから知らなかったが、中にはこういうレアモンスターがいるのを知れて、ちょっと嬉しい。
ジョブ以外にも図鑑埋めができそうな要素発見である。
「さて、じゃあ続き行こっか」
俺は壊れた剣をしまい、再度武闘家にジョブチェンジした。
装備を外すのも忘れない。なんか癖になりそうである。
スネークの言う通り、裸は気持ちがいい。
〇
数時間後、俺たちはダンジョンボスを倒した。
いやー、迷宮の主は強敵でしたね。
「初踏破、おめでとー!」
「あざーっす! あざーっす!」
と、ひとしきり祝ったところで、ラザニアとお別れである。
粒子となって大鎌に吸い込まれるラザニア。なんか寂しい。
また会おう。
そうして、俺たちはボスを倒した事で出現した巨大水晶に触れ、転移神殿へと戻って行った。
神殿に戻ると同時、何故か周囲の人たちから一斉に視線を浴びてしまった。
いつもはここまで注目される事ないのに、なんか嫌な感じである。俺は目立ちたがり屋ではないのだ。
突き刺さる視線を努めて無視して受付おじさんのところまで行くと、珍しくおじさんの前で並んでた冒険者たちが逃げるように道を空けてきた。
これまた不思議である。「お先にどうぞ」と言ったら無言で首をブンブンされた。なんじゃそれ。
釈然としないままおじさんの前に立つと、おじさんも俺を見ながら目を丸くしていた。
「何ですか?」
「生きて……。いやお前、何って……」
おじさんは、一拍空けて言った。
「服くらい着ろよ」
あー、なるほど。
道理で目立っていた訳である。
今の俺、パンイチ武闘家スタイルだもんね。本職の人も神殿だと普通に服着てるもんね。
恥ずかしいね、全く。
「あと……お嬢ちゃん?」
「ん? なんスか?」
「その、なんだ。深域武装か? それ?」
「そうッスよ」
「……神殿の中で、担ぐもんじゃねぇぜ」
「あ、こいつぁ失礼したッス!」
あー、なるほど。
道理で目立っていた訳である。
今のリリィ、大鎌担いだ死神スタイルだもんね。大型武器持ってる人も、神殿だと邪魔にならないよう背中とか腰とかにつけてるもんね。リリィだとキツそうだけど。
申し訳ないね、ほんと。
「リリィ」
「はいッス」
大鎌を受け取り、アイテムボックスに入れる。
そして……。
「ちょっと失礼しますね。先に他の方をお願いします」
「お、おう」
俺は慌ててトイレに駆け込んだ。
俺に露出性癖はなかったようである。
感想投げてくれると喜びます。
長くなったのでボス戦はカットしました。