【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰でモチベが維持できています。
 誤字報告も感謝です。ありがと茄子!
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回はイシグロの一人称。最後らへん三人称です。
 よろしくお願いします。


ロリごっこコラージュ(下)

 淫魔王国郊外、パイモさんのアトリエにて。

 

 革のソファーに座ったルクスリリアは、床に届かない足をプラプラさせて来るべき言葉を待っていた。

 そんな彼女の前に、スケッチ画板を構えるベレー帽淫魔の姿があった。彼女の瞳には研究者然とした未知への欲求が渦巻いている。

 

「じゃあまず年齢を教えてくれるかな?」

「二十一歳ッス!」

 

 ベレー帽の淫魔――パイモさんの問いに、ルクスリリアは明るく元気に返答した。

 ちなみに、淫魔族の成人年齢は一歳である。今更言うまでもないが、我が一党の皆は全員合法ロリだ。

 

「二十一歳? もう働いてるの? じゃあ?」

「奴隷ッス!」

「奴隷? あっ、ふ~ん……」

 

 何かを察したように此方へ流し目を向けて来るパイモさん。

 撮影現場のADのような立ち位置で、俺を含め一党の皆は何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「えー、身長体重はどれくらいあるの?」

「身長は百四十弱で、体重はよくわかんないッス」

 

 これまたちなむと、この世界の平均身長は男性百八十で女性百七十くらいである。勿論例外はあるが、全体的にデカいのが異世界人の特徴だ。

 それでいうと、俺含め黒剣一党はチビの集まりという事になる。ロリに厳しい世界であり、ロリコンに優しくない世界なのだ。生まれだけでなく、タッパでも異端の一党であったとさ。

 

「今なんかやってるの、武術? 凄い魔力量だけど」

「武術はリンジュの方で少々。トレーニングは、やってるッス。いつの日か、世界を救うと信じて」

 

 それからいくつかの問いを重ねた後、パイモさんはここからが本番なんだよとばかりに野獣めいた眼をギラつかせた。

 

「じゃあ、吸精とかっていうのは……?」

「やるッスねぇ!」

「やるんだ」

「やるッスやるッス!」

「ふぅん……」

 

 再度、興味深げなパイモさんの流し目が突き刺さる。

 ロリコンの概念がない世界で、奴隷が合法の世界だ。糾弾されてる訳もないのに、俺はどうにも気まずくなっていた。

 

「週、何回くらいとか、そういうのはある?」

「シュー……う~ん、何回って感じじゃないッス。でも頻繁に、やってるッスね」

「じゃあ、最近いつ吸精したの?」

「今朝ッスね!」

「今朝ぁ!?」

 

 言って、俺とルクスリリアへ交互に驚愕フェイスを向けてくるパイモさん。

 何故かドヤ顔になってるルクスリリアが可愛かった。

 

「えーじゃあ、今からご主人との吸精の光景を……」

「申し訳ないがこれ以上はNG」

 

 流れで俺を巻き込もうとしたところで、マネージャー・イシグロは撮影もといスケッチを中止させた。対するパイモさんはというと、「ちぇ~」みたいな不満顔をしていた。

 残念でもないし当然な事に、俺には人にお見せする趣味はない。なんか流れでこうなって、リリィがノリ良く乗っただけである。

 

 撮影許可が無いのにも拘わらず、俺達がこんな所にいるのには理由があった。

 それは、二日前の夜まで遡る。

 

 

 

 ルクスリリアの実家へ挨拶に行った帰り道、宿泊していたホテルの入り口で、俺と彼女は邂逅したのだ。

 曰く、彼女はチンイラ・ゴンザレスという名でエロイラストを描いており、リリィは彼女の大ファンだという。また、エロ絵以外にも色んな創作活動をしているらしい。

 で、そんな貴女が何故ここへ? と伺ったところ、推理によってロリコン疑惑のかかった俺とその一党に興味を持ったとか何とか。こいつぁ新境地だぜと、今抱えている心のモヤモヤを晴らすべく尋ねてきたという訳だが……。

 

「そんな訳で、スケベしてるとこ見せてくれないか?」

 

 なんて言われてしまった。

 当然、断った。

 

 凄い人なのは分かったが、ヤバい人なのもよく分かった。リリィ以外戦慄した俺達は、逃げるようにホテルへ入っていった。

 流石に文無しで入れるほどホテル・乳鮑は甘くない。パイモさんが追ってくる事はなかった。

 のだが、諸々を終えてさて今夜も宴の始まりだとなった時、敵味方反応レーダーに感あり。赤青をパカパカさせる暴淫魔の反応である。

 嫌な予感がして部屋のカーテンを開けると……。

 

「あ、お構いなく」

 

 窓に張り付くパイモさんと目が合った。

 俺は無言でカーテンを閉め、従業員に通報した。

 

「また来るよ、マスター」

「やめてくれよ……」

 

 普通ならこれでおしまいなんだろうが、自称天才芸術家の執念は並みじゃなかった。

 ホテルのプールで優雅に泳いでる時に感あり。外出中に感あり。公衆トイレで放出中に感あり。

 何度も何度もパイモさんは懲りずにストーキングしてきたのである。彼女を追跡してた淫魔兵も疲れた顔をしていた。

 

「でも、君はこんな事で怒らないだろう? そういう眼をしている。銀細工らしくはないけれど、ぼくとしては好ましいな」

 

 もうマジで勘弁と言ったところ、こんな返事をされてしまった。

 確かに、俺から彼女に対し怒りの感情こそ無いが、迷惑なのはその通り。

 

「是非ぼくのアトリエに招待させてくれ。まだ荷解きは終わっていないけれど、ファンなら嬉しくなれるモノが沢山あるよ。見応えの程は保証する」

「やった! ご主人ご主人! 行ってみたいッス!」

 

 結局、半ば執念に折れるようにして、彼女のお誘いに乗る事となったのだ。

 そして、アトリエに行き、彼女の半生を聞かされ、いつの間にかルクスリリアはそういうビデオのインタビューみたいなのを受けていたのである。

 

「いいじゃないか一回くらい。減るものじゃないだろう? 大丈夫だ、絶対参加したりしないよ」

「無理なもんは無理なんじゃい」

 

 執着の理由というのが、この世界においての未知なるエリアの探索……要するに、ロリ性癖の見学だというのだから何とも言えない。

 この世界、ロリコンは概念自体が存在しない。男はムキムキの屈強マッチョがモテて、女はムチムチの安産ヒップがモテるのだ。そんな中、ロリコンの俺は超レア性癖どころかツチノコ的幻の存在と言っても過言ではない……のかもしれない。

 畢竟、パイモさんは自身のスランプを打破する為に、人のドスケベ見て笑うつもりなのだ。これで「よろしい、ならば吸精だ!」となる奴はそうそう居ないだろう。少なくとも俺は違うし、ルクスリリア以外の皆もそうだった。

 すまないが、ロリ以外は帰ってくれないかというのが本音である。

 

「まー、アタシは良いんスけどね。ご主人が嫌なら止めとくッス」

「ん~! んごごご! 先っちょだけでいいからして見せてくれないかい!? とにかくぼくは新しい刺激が欲しいんだ! 未知! 君達はそう未知なる存在なんだ! 人助けと思って!」

「そう言われても……」

 

 第一、俺とルクスリリアがスケベしてるシーンを見たところで、この人の欲求や興味は本当に満たされるのだろうかってお話。新しい刺激ねぇ……?

 生みの苦しみというやつなんだろうか。クリエイティビティの欠片もない俺としては、彼女の言う懊悩なんざさっぱり分からん。やる気やネタなんて机に向かってりゃ湧いてくるのがクリエイターなんじゃねぇの? とか思っちゃう。理解も共感もできない悩みの為に、文字通り一肌脱ぐのは勘弁だ。

 が、相手は魔族である。心の状態が生死に関わるというのであれば、人助け精神が全く湧かない訳ではない。見捨てて去るのも目覚めが悪いし、一応こんなでもこの人はルクスリリアの敬愛する作家先生な訳だし。

 ていうか、ここで逃げても付きまとってきそうな……。

 

「芸術家さんってああいう人が普通なんでしょうか?」

「知らないわ。私、作者と作品は切り離しているもの、どうでもいい事ね」

「いやいや、作品に籠められた心をこそ汲み取るのが受け手側の楽しみ方じゃろう。ひいては作者への礼儀と言える」

「それこそ受け取り手の勝手でしょう? あと、私が言っているのは為人という意味で……」

「む、難しい話ですね……」

「抜けりゃいいんスよ」

 

 ふと、思う。未知の開拓というのであれば、ロリとロリコンに拘わる必要なんかないのでは?

 要は鬱屈してるパイモさんの頭に新しい刺激を与えればいいのであって、その方法は何でもオッケーなんじゃなかろうか。何もこの人はロリ趣味があるから皆の情事を覗きたい訳じゃないのだ。

 この人の知らない事か、何だろう。未知、刺激、新しい発想……現代日本知識? いやいや、そんな安直な……。

 

「どうしてもダメかい……?」

「まあ……」

 

 今一度、パイモさんのアトリエを見渡してみる。

 広い敷地に対して、倉庫めいたアトリエ内は狭い感じがする。それは偏に荷解きの済んでいない荷物が散乱している為であった。大きな木箱から小さな木箱まで。その数はそのまま彼女が創作にかけている情熱の程を示していた。

 荷物の中には木箱から出されている物もあり、それらは棚や机といった場所に無造作に置かれていた。おっ、如何にも魔女がかき混ぜてそうな鍋あるじゃん。これでカレー作ったら何食分になるかな。

 

「あー、ぼくは創作活動の補助として錬金術も修めているんだよ。淫魔女王に乞われて哺乳瓶の飲み口部分を作ったりもしたね、アレは手強かったなぁ」

「へぇ」

 

 見ていると、パイモさんは自慢げに解説してくれた。

 それから、皆に自慢の逸品や仕事道具を見せてアレコレ話し始めた。これには元より彼女のファンであったルクスリリアや芸術大好き勢のエリーゼも喜んでいた。

 好きな事になると饒舌になるのか、パイモさんは随分と楽しそうだった。まるで、暫く誰とも話してなかった人のようだった。

 

「これは……?」

 

 描きかけの絵などがある中、俺は妙にメカっぽい物体に視線を吸い寄せられた。

 それは四角い箱の形をしていた。側面にはいくつかのボタンがあって、上部にアンテナらしき棒が屹立している。

 

「こいつは未完成品でね。一応、魔線装置と名付けてはいる。特定の魔力源だけに反応する魔力波を届ける装置さ。女王陛下の【淫魔経路(サキュバス・チャネル)】を再現してみたくてね」

「ま、マジですか。凄いですね……」

「さっきも言ったが未完成なんだ。まぁちょっとそこに触れて魔力を流してごらん?」

「ここですか?」

 

 言われた通り、側面にある孔に魔力を流してみる。説明によるとコレをする事で俺だけに届く魔力波を出せるようになるらしいが……。

 次いでパイモさんが魔線装置のボタンを押すと同時、俺の頭の中に凄まじい耳鳴りが木霊した。魔物の咆哮もかくやという魔力波だ。

 

「ぎゃああああ! 頭が割れるッスゥウウウウ!」

「い、今すぐ止めて頂戴……!」

「きゅぅ~」

「イリハが倒れました!」

「この人でなし!」

「はははっ! これぼくもキツいんだよね! 吐きそうだ!」

 

 例えるなら、生で聴くジャイアンの歌といった感じ。どうやら剛田氏リサイタルを聞いたのは俺だけではなかったようで、パイモさん含め魔力感覚を持つ全員が頭を抱えて苦しんでいた。

 

「この通り、コレ使うと気持ち悪くなるんだよね。指定した対象だけじゃなく、その周りの人も体調を悪くしちゃうんだ。多分、受けた人の身体を通して変質した魔力がめちゃくちゃに放散してしまうせいだと思う。上手くいけば魔力波でお話ができると思って作ってみたんだけど、以降どうすればいいか分からなくって……」

「なら受信機作ればいいじゃないですか……」

「ん? 受信機? なんだい、それは?」

 

 耳鳴りの残滓に悶えながら呻くと、パイモさんはめざとく反応してきた。

 要するに、パイモさんは無線装置を作りたかったのだろう。けど個人の波長に合わせて魔力波を飛ばすと、混雑しておかしくなった魔力が通話者とその周辺に届いてしまう。なら、最初から発信機と受信機の間だけで魔力波とやらを送受信すればいいじゃないかと思ったのだ。

 というのを適当に説明すると、パイモさんは呆然と口を開いていた。

 

「そうか、その手があったか……。なら、個人の魔力なんて曖昧なものに反応させる必要ないもんな! 専用の装置を作れば魔力変質も最小限で済む! 解決したかコレ!? あー、なんでこんな簡単な事に気づかなかったんだ、ぼくは!」

 

 すると、彼女は頭をガシガシやり出した。適当こいただけの事に激しい反応されて、こっちこそ驚いてしまう。

 やがてパイモさんは近くにあった木箱の中から謎の物体を取り出し、ドンと机の上に置いた。

 

「これ! これどう思う!?」

 

 それはテンキーの無い簡易なキーボードの上に画板をくっつけたような物体だった。

 皆が首を傾げる中、それを見た俺には、一つ思い当たるモノがあった。

 

「チンイラ先生、これは何なんスか?」

「印字機と名付けたものでね! ここに紙をセットして、このボタンを押すと中のハンコが動いて字が捺印されるんだ! 紙は……ほら、こんな感じだ!」

「す、すごい! 手で書くより速いです……!」

 

 ガタガタガタガタ……パイモさんがキーボードを叩くと、それに応じて小さなハンコが突き出して、そのままペタンと紙に文字が刻まれていく。これ、アレだ。タイプライターだ。何のだったか忘れたが、仮面ライダーで見たぞ。

 ていうかパイモさん、活版印刷が無い筈の異世界でタイプライターなんか作っちゃったのか。今更だが、この人マジで天才なんじゃ……?

 

「が、一文字打つごとに魔力を消費してしまうんだ。一枚書くと並みの淫魔じゃカスカスになる。イシグロさん、何かいい方法はないか?」

「いや、インクリボン使うんじゃダメなんですか?」

「インクリボン!」

 

 タイプライターの衝撃と、パイモさんの天才性に慄いた影響で、何も考えず返答してしまった。

 書くのではなく、印字するという新概念。この世界の本は人の手で写本されて量産される。異世界仕様で地球ブックより頑丈な異世界ブックだが、それでもこれを基に活版印刷が生まれたならば、こっちの印刷スピードは劇的に速くなるんじゃないか?

 が、ここで思考が逸れる。印刷機、写本家、失業者……。俺の脳裏に知識チートの弊害が浮かんでは消えていく。技術の進歩には犠牲がつきものとはいえ、そこに余所者の俺が介入していいものだろうか。

 

「い、今のは聞かなかった事に……」

「インクリボンって! なに!?」

「いや、あの……」

「教えて……!」

「えぇ……?」

「教えてくれないと今ここでオナニーぶっこくぞッ!」

「はいぃ!?」

 

 パイモさんの圧に負け、俺はインクリボンについて説明した。

 タイプライターの仕組みなど知る由もないが、大体分かる。要はインクを沁み込ませた帯越しにペッタンコすればいいんじゃんという話で……。

 

「た、確かに、わざわざ複雑な魔術式刻んで魔力混じりの字ぃ押し込む必要なんかないからねぇ! 普通にインクでいいんだ……! イシグロさん!」

「あ、はい」

 

 次いで、ビャッと移動したパイモさんは、倉庫の奥から新たなブツを持ってきた。

 今度のは机に乗らないくらい大きくて、床に直接置いていた。さっきのと違い、これには実物の見覚えがあった。使った事もある。

 

「これ、こいつを見てくれ!」

 

 それは三つの車輪で構成され、その中心に小さな椅子が付いている代物だった。前に一輪、後ろに二輪。前輪の中央には、足で漕ぐ為のペダルがあった。

 これ、三輪車だ。フレームは木製でサイズも大人用だが、紛れもなく三輪車である。

 

「新型荷車の骨組みでしょうか? 馬に引っ張ってもらう用……?」

「それなら普通に馬に乗った方がいいんじゃないかしら?」

「ここに足引っかけるんスかね? アタシ等じゃ足りなそうッスけど」

「使われてるのはリンジュの木じゃの。特に上質な木材という訳ではないのじゃ」

 

 どうやら、皆には自分の足で車輪を動かすという発想がないようだった。

 いやぁにしても凄いな。詳しい自転車の歴史は知らないが、地球でも割と新しい発明だった気がする。それを汽車や自動車のない異世界で作ってしまうなんて、めちゃんこ凄くないか?

 パイモ、やはり天才か。

 

「自転車と名付けたものでね。馬より安価で徒歩より速い乗り物を作りたかったんだ。ラリス街道は綺麗だから走れるんだけど、悪路になると途端にキツくなってね。まだまだ改良の余地があると思うんだよ。どうかな?」「う~ん?」

 

 よくよく観察してみる。やはり、構造は幼児用三輪車と同じだった。ペダルを漕ぐと前輪が回転して、後輪が追従する仕様だ。俺の乗ってた自転車は後輪とチェーンが繋がってたんだが。

 悪路走破性が悪いのは、木製車輪が剥き出しだからだろう。この世界の馬車と同じで、エア入りのゴムタイヤではないのだ。加えてサスペンションもついていないっぽい。これじゃ砂利道のデコボコが全部おケツに伝わってしまう。

 

「ふふふ……やはり、驚いてはいないね? イシグロさん。コレジャナイという顔をしているよ?」

「え、あぁ……はい」

 

 先ほどより強い眼差しを送ってくるパイモさん。俺が何かしらコメントできる事を確信している表情だ。

 異世界チャリンコ。でもこれ、作ったところで意味なんかあるのだろうか。そもそも、この世界の馬は凄まじい性能をしているのだ。淫魔競馬の競走馬など、直線で時速二百キロは出ていたのだ。ミラクムさんの馬を見るに、あまつさえスタミナも凄い。作ったところで、馬でよくない? ってオチになりそうな。

 それに、今更ながらあやふやな知識を披露したくないって気持ちが無いではない。そのせいで事故なんかあったら気ぃ悪いじゃないか。言ったら再現してくれそうな技術はあるが、ちゃんと説明できないのもなぁ。

 

「これどう使うんスか?」

「ああ、この椅子に座って、ここに足を引っかける。それから足を動かすと……」

「おぉ、車輪が動くんじゃな!」

「存外優雅じゃない」

「あまり動くと危ないのでは……」

 

 広くて狭いアトリエで三輪車を漕ぐ淫魔。皆は初めて見る三輪車に感嘆していた。

 ふと、思い浮かぶ光景があった。大人の帝国、父の回想、あの名曲が蘇る。青空の下、田舎道、家族で自転車の旅……。

 皆と、自転車デート……。

 

「まず、車輪に鎖を繋げては如何でしょうか」

「ほう!」

「で、鎖を引っかける部分には……」

「ほうほう!」

 

 決めた。知識チートの弊害とかどうでもええわ。俺は皆と自転車デートしたいんじゃ。

 細かい構造は知らないが、俺は知ってる範囲の自転車の構造をパイモさんに教授した。チェーンにギアにサスペンション。その他、エアタイヤやブレーキについて。

 

「なるほど! 二輪! 二輪か! それはいい! クール! クールだよ、それは! いいねぇ、乗ってみたいねぇ! ははっ、ワクワクするじゃあないか!」

 

 現代地球自転車の話を聞いたパイモさんの目は、それはもうキラキラしていた。

 それから、もう一つ。別の事だが……。

 

「知り合いにケインさんという戦車工匠がいまして、自転車関連はその方と相談しながら開発すればよいかと存じます」

「ん? 相談? 何故だい?」

 

 さっきから話を聞いてて思ったのだが、この人万能過ぎて他の人と協力して何かを作った経験とか無いんじゃないだろうか。

 思い出したのは、空戦車を造ってくれた職人チームの事だ。各々のスペシャリストが集い、情熱のまま楽しそうに意見を交わしていた光景。パイモさんほど賢い人でも、一人の頭じゃ限界がある。受信機やインクリボンなんて、ふとした拍子に思いつきそうなもんである。

 この人は、ずっと一人で創作してきたのだ。合う合わないはあるにせよ、クリエイター同士でお話するのは刺激になると思う。

 これで魔族の心が潤えばいいが。てか、それで勘弁してほしい。じゃないと付きまとってきそうだし。俺の手に負えないよ。

 

「ほうほう! 確かに! いやぁ、全く以てその通りだね! お話、お話か! そういえばした事なかったね! ぼく、天才だから!」

 

 それから、俺はパイモさんに戦車工匠の連絡先を教え、ついでに空戦車の実物を見せてあげた。

 パイモさんは初めて乗る空戦車に興奮しきりだった。

 

「それと、発明品は最初に淫魔女王にお見せした方がよろしいかと」

「まぁそのつもりだったが、何故?」

 

 そりゃ、新しい技術を段階的に広める為である。ドバッと無作為に広めちゃダメな発明品ってのもあるはずだ。

 あの人なら、市井を混乱させずに上手く捌いてくれると思うのだ。新技術の犠牲はつきものでも、発明の被害者は少ない方がいいだろう。

 

 こうして、俺は異世界一年過ぎにして、ちょっとした知識チートをするのであった。

 

 

 

 

 

 

「うぉ~、ケツが痛ぇッス」

 

 帰路、俺はプレゼントされた異世界三輪車の荷台にルクスリリアを乗せ、ケフィアム目指しギコギコとペダルを漕いでいた。

 土剥きだしの道は安定感を欠き、さほどスピードも出せない。これなら歩く方がお尻が楽である。リリィ以外の皆は優雅にラザニア牽引車に乗っていた。

 何にせよ、久しぶりに自分で動かす乗り物は楽しいもんで。ラザニアもいいが、バイクや車での移動が懐かしいぜ。俺は乗り物の運転が好きなのだ。

 

「ご主人様って博識だったんですね。あ、今のは皮肉ではなく……!」

「博識じゃないよ。知ってる事だけ」

「日本は魔法がないと聞くから、こういうカラクリ技術が発達しているのね」

「その車、リンジュじゃと流行りそうじゃな」

 

 なんて話をしつつ、思う。

 俺、あんま知識チート合わんわ。

 

 あやふや知識で技術の進歩を促すのは、なんだか無責任な気がしてしまうのだ。それも、天才相手に軽くご意見言って後は丸投げしちゃうあたり何とも申し訳ない気持ちになる。

 第一、田舎はともかく王都は魔道具が発展してて、異世界の日常生活に不便はないのだ。俺は困ってないし、今のままでいいじゃんとか思ってしまう。

 俺はやっぱ、ダンジョン潜って飯食って寝る生活のが向いている。

 

「ん~♡ ご主人の匂いがするッスよ~♡」

 

 まぁでも……。

 後ろに女子を乗せて走るのは、思ってたより気分が良かった。

 いつか、自転車デートに行きたいね。

 

 

 

 

 

 

 一方、イシグロから様々な刺激を受け、久々に創作意欲を爆発させたパイモは……。

 

「ふふふ、ふふふ……!」

 

 不気味な笑みを零しながら、魔女の大鍋(ヘクセンケッセル)めいた錬金釜をかき混ぜていた。

 釜の中は黒くドロドロした液体で満たされており、端から見ても強い粘りがあるのが分かる。

 

「……でけた」

 

 テーレッテレー! 黒く粘つく何かをネルネルしまくった末、ついに目的のブツが完成した。

 パイモがかき混ぜていたもの、それはゴムだった。否、ゴムではない。ゴムによく似た異世界ゴムモドキだ。

 ちなみにこれは新発明という訳ではなく、淫魔王国で生産されている哺乳瓶に使われた軟質素材のアップグレード品である。

 

「あとはこれを車輪にはめ込んで空気を入れれば……。ん、いや待てよ? 自転車じゃなくても、馬車の車輪をこれにするだけで乗り心地よくなるんじゃないか? まぁとにかく、一回試してみないとねぇ!」

 

 ナーロッパ世界にエアタイヤが生まれた瞬間である。

 まさに、異世界の技術ツリーを数段飛ばしにした革命的発明だった。

 

「ひと通り終わったら王都のケイン氏に会いに行こう! ふふっ、楽しみだなぁ! まさか、人の意見を聞くのがこんなに面白いなんて! 専門家とのお話は良い刺激になるよね! きっと! ふふっ、ふははははッ!」

 

 後日、パイモの新発明を提出された淫魔女王は、驚愕のあまり引き笑いを起こす事となる。

 空気入りゴム車輪。魔力を使わない印字機。足で漕ぐ自転車。魔力波の発信機&受信機。

 どう考えても、技術革命。下手にバラ撒くと普通に拙い。品も技術も開発者も、取り扱いには細心の注意が必須である。

 

 これらを完成たらしめた知識の出どころを、パイモは女王に話さなかった。誰にも言わんでくれとイシグロからお願いされた為だ。

 だが、国内におけるイシグロの動向を知っている女王からすると、ピンとくるものがあった。恐らく、パイモはイシグロから何かしらの影響を受けたのではないだろうか。

 

 イシグロ・リキタカ。純淫魔契約を果たした、史上二人目の男性。

 冒険者になるまでの経歴は一切不明で、彼がどこから来たのか誰も知らない。

 妙な嗜好と倫理観。謎の価値観・思考回路。基礎となる発想の異様さからして、尋常の者ではない事は分かっていたが……。

 

「はぁ……」

 

 いずれにせよ、今後も彼の動向は注視しておくべきだろう。

 考える事が多い。淫魔女王の頭は、タイヤより先にパンクしそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

 一方、時は巻き戻ってイシグロがパイモと邂逅した翌日の事。

 

 ケフィアムにあるラリス王国の大使館の前に、一台の豪奢な馬車が停まっていた。

 その馬車は、ラリス王国の外交官を意味する拵えをしていた。

 

 客室の扉が開く、すると、車の中から美しい少女が姿を現した。

 風になびく髪は金糸の如き黄金で、大きな瞳は夏の青空のように澄んでいる。

 薄い化粧を施された顔には、理知と純真さが矛盾なく同居していた。その身長は、凡そ百五十強といったところ。

 

「さて、さっそくイシグロさんに一筆書こうかな」

 

 桜色の唇から漏れた声は、鈴のように美しい音色であった。

 イシグロ目当ての客人が、また一人。そっとしておいてくれというのが当人の本音だろうが、一年ちょいでこうも目立っては仕方ない。

 

 ちな、ネタバレだが……。

 

「お久しぶりにございます、ジノヴィオス殿下」

「おっと、今のワタシはヴィヴィだよ。間違えないでほしいな」

「は、はい……! 以後気を付けます……!」

「いいんだよ。外交官相手にそんなに畏まらなくって」

 

 この美少女、男である。




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 結局、今回のエピソードって何だったの?


 DLCで新しいショップ「パイモのアトリエ」が追加されましたって感じのお話です。
 アイデアポイントを消費し、且つパイモのやる気をマックスにすると何かしらアイテムを作ってくれるショップです。
 特定の条件を満たさないと解放されないショップでもあります。攻略ウィキで「パイモのアトリエの解放条件」ってページが作られる感じ。
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