【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。モチベになってます。
 誤字報告もありがとうございます。感謝の極み。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回はダンジョン回。
 よろしくお願いします。


幼怪大戦争

 炎・水・草とか、剣・斧・槍とか、騎・術・殺とか、エトセトラエトセトラ……。

 古今東西、バトル要素のあるゲームには攻守の属性が付き物である。

 俺が転移したこのゲームチック異世界にも、それは御多分に漏れず存在していた。

 

 物理だけでも、標準・斬撃・刺突・打撃の四種類。

 魔法属性においては、主に魔・火・水・雷・風・土・聖・闇の八種類だ。

 その他、陰陽虚実や対竜・対獣といったものを含めると、その数は実に膨大である。

 

 これら属性の得手不得手、数が多くて覚えられないような気もするが、実際それほど複雑じゃあない。

 要するに、メガとかテンとかペルのソナであるからして、オタク視点なんとなくイメージしやすいのだ。

 

 物理は言うに及ばず、四大元素の土風火水も何をかいわんや。木や氷に関しても、それぞれ土と水の派生と思えば何て事はない。

 しかし、だ。色々ある属性の中で、聖と闇とは何ぞやとならないものだろうか?

 

 聖と闇。白魔・黒魔? 光文明? 闇文明? イリハに曰く、陰陽のソレとは別物らしい。

 俺の知っているサブカルコンテンツにおいて、これら二属性の扱いは作品によりけりだった。

 光=エネルギーの象徴であったり、闇=時空間の権能であったり。それぞれ生死を司ってて、生を活性化させる聖の回復魔法が闇系アンデッドの弱点だったりとか……。

 

 結論から言うと、この世界における聖・闇の二つは、単なる攻守のいち属性に過ぎないものである。

 聖は闇の弱点であると同時に、闇は聖の弱点属性で、それ以上でも以下でもないのだ。

 

 単なる属性と言ったのは、別に聖属性=生の象徴とか神様的なアレコレじゃあないよという話。事実、通常治癒魔術は独立した魔術体系で、その中には聖属性の治癒があれば水や火属性の治癒だってあるのだ。

 ちなみに、エリーゼのチートヒールも聖属性である。これをスケさんに使ったところで治癒もダメージも発生しない。フレンドリーファイアはあるが、治癒は味方にしか機能しないのだ。

 

 また、他の属性魔法と同様に、先の二属性の魔法にはそれぞれ特徴がある。

 聖魔法は凍結や麻痺といった付帯効果こそ無いが、弾速と単純攻撃力に秀でるのだ。闇を持ちがちな不死・幽体系の魔物に特効で、同じ聖属性を持つ相手には吸収される。

 闇魔法は聖とは対照的に、威力は低めな代わりに色んなデバフが付きがちだ。聖属性を持つ相手に特効で、同じ闇属性には吸収される。

 

 先述の二属性は他属性ほど特効対象は多くないが、逆に言うと大抵の敵に等倍で入る。畢竟、聖と闇は適当ブッパに向いているのだ。

 それが、この世界における聖属性と闇属性の扱いである。

 

 特別でも何でもない、ただの属性。

 子犬を拾う闇魔術師もいれば、奴隷を虐待する聖魔術師もいる。この世界、人格と適性属性に相関性は無いのだ。

 

 さて、ロリの話をするとしよう。

 エリーゼは魔法が使えぬ無限魔力ドラゴンである。故に、俺は彼女の個性を活かすべく、“魔法装填”という補助効果に希望を見出した。

 魔法装填とは、予め武器に魔法の発動キーを籠めておき、スイッチオンで魔法を撃てるようにする補助効果だ。弾丸を込め、引き金を引くだけ。使用魔法に能力補正は乗らないが、消費魔力を度外視すれば超級魔法を撃つ事もできる。

 これにより、今やエリーゼは魔法を使えぬ欠陥竜ではなく、無限魔力でドンパチ賑やかなトリガーハッピードラゴンへと進化する事ができた訳だ。

 

 当然、一つの杖に装填できる魔法には限りがある。

 ならば、杖を増やせばいい話。

 

 今現在、エリーゼの杖は五本である。

 魔力属性に特化した、バランス重視の“月明かりの銀杖”。

 火属性オンリーで、文字通り火力重視の“烈火の宝杖”。

 凍結デバフに特化した、氷偏重の“雪月の魔杖”。

 街ブラ用のハリポタ護身杖。

 そして、新たに購入した聖属性特化の杖。

 

 これらだけで、稼ぎの多くが消えてゆく。だが、後悔はない。

 エリーゼは、杖の数だけ強くなる。であるなら、彼女への課金に躊躇いなどあろうものか。

 若さと愛の意味は、宇宙刑事が教えてくれるのだ。

 

 

 

 

 

 

 人魂(ひとだま)迷宮。

 高難度の屋外型上位迷宮で、スタートからゴールまで暗い森を進む事となるプリミティブダークファンタジーダンジョンだ。

 真っ赤な月に黒い森。風に揺れて不気味な音を出す木々は、如何にもホラーな印象を与えてくる。禍々しい迷宮の中でも、ここは一等コワイ系である。

 

 出現エネミーは人魂やゴーストといった幽体系を中心に、その他スケルトンとか呪い人形なんかが占めている。それらは漏れなく闇属性で、例によって聖属性がよく刺さる。

 ほんなら聖パで蹂躙じゃんとなるかもしれないが、そう簡単に突破させてくれないのが上位迷宮の怖いところ。

 道中はいいのだ、道中は。

 

「グガァアアアアア!」

 

 赤の月光が照らす中、不可思議に捻じれた木々を薙ぎ倒しながら、鎌倉武士風の彷徨う鎧が突撃してきた。

 一条。銀竜が放った聖なるビームがそいつの兜を貫通した。兜を失い一瞬よろけた鎧は、すぐに体勢を整えて襲ってくる。振りかぶられる野太刀に先んじ、俺は使い慣れた能動スキルを使用した。

 

「足行くぞ!」

 

 踏み込み深く、剣を構えて瞬間加速。背中に熱、炎の翼が羽ばたいた。イリハの憑依支援を受け、俺は地面を縫うように飛翔した。両手に握った無銘の剣で、巨体を支える具足を【切り抜け】る。

 グシャッと。鍛冶技術の粋を極めた剣が、魔物の足を断ち切れずとも拉げさせた。片足を挫いた鎧がつんのめる。俺は勢いを殺すべく翼を消して地面を滑った。

 

「淫魔に玉握らせりゃ最強なんスよねぇ!」

 

 そこに、翼を広げたルクスリリアが突貫する。バレルロールの最中、手のひらの上に魔力球を生成。次いでバスケのレイアップのように、彷徨う鎧の孔に通り過ぎざま魔力球を投入した。

 ルクスリリアが離れたと同時、彼女を攻撃しようとした鎧の内部で爆発が起きた。一瞬、頑丈なはずの鎧が膨らんで、兜のない首から爆風が吹き上がる。胴鎧に潜んでいた人魂が爆散し、彷徨う鎧は青白い粒子になって消滅した。

 

「イリハ! グーラにパス!」

「了解なのじゃ!」

 

 疾走する俺から赤のオーラが消える。機を見て襲ってきたゴーストの攻撃を避け、聖騎士スキルの【聖斬】を発動。横薙ぎ一閃、淡い光を纏った剣がゴーストの核を切り裂いた。

 視界の隅の奥を見る。おびただしい数の骸骨アニマルの群れの中心で、大剣を握ったグーラが派手に暴れていた。

 三百六十度、敵。一斉に襲ってきた骨獣群を垂直跳躍で避けたグーラは、空中で身体を捻って己の剣に種族特性を纏わせた。即ち、炎雷(ほのいかずち)である。

 

「はぁあああああッ!」

 

 ドッガァアアアンッ! 天から地へ、ぶちぬき丸がぶち込まれる。大剣掘削の衝撃で巨大クレーターが生まれ、群れていた骸骨アニマルは余波によって粉々になった。

 けれども逃れた奴がいる。俺は援護すべく駆け寄ろうとして、危機察知。身を投げるように回避すると、空から悪質人魂隕石が降って来た。認識と同時に斬っていた。一手ロスだが、問題ない。

 

「退きなさい! グーラ!」

「はい!」

 

 突如、グーラの体目掛けて闇・水属性の大波が襲ってきた。

 直撃の寸前、グーラの周囲に球形の障壁が張られた。光のシェルターに接触した闇の大波は、キラーされたカビのように消失していた。エリーゼによる、遠隔聖属性ガードである。

 障壁の中、爪を研ぐ。グーラは獣の勘で波の発生源を探知し、左手の鎖とぶちぬき丸を連結させた。剣身に炎雷が宿り、彼女の背にフィジカルアップの守護霊が憑依する。

 波が収まる。障壁の中、槍投げ姿勢で剣を構えるグーラ。障壁が消えたと同時、ピッチャー振りかぶって……投げた! ズガン! 影に紛れて闇を吐いていた巨大泥人形が爆死した。

 瞬間である。剣が突き刺さった泥人形が破裂して、大量の小泥人形が形成されていった。呼応するように、地面からも歪な泥人形が姿を現し、生き残りの骨獣が再集結してきた。

 

「き、キモいのじゃあ……!」

「囲まれると面倒ですね……!」

「集合、集合! 初手エリーゼ行けるか!」

「問題ないわ」

「雑魚狩りなら任せろッス!」

 

 パァン! 掲げられたエリーゼの杖から虹色の光が打ち上げられる。空に舞い上がったソレは弾けて分かれ三つになり、同じ現象が間髪入れず連続した。やがて小さな礫となった光は、犇めく泥人形に殺到した。追尾機能付きザコ狩り雨である。

 とうとう動き出した泥人形達だったが、その多くは光る矢を受けて倒れていった。生き残ったタフな泥人形目掛け、俺達は隊列を組んで突撃を敢行。激突、粉砕、轢き撥ね、斬り飛ばす。

 グーラが大きいのを斃し、俺が中くらいのザコを斬り、ルクスリリアが空中の敵を倒す。イリハは追随しながら陰陽式を編み、エリーゼは指揮スキルで前衛組にバフを付与していた。突撃連携を組んだ俺達は、まさに無差別轢殺暴走列車だった。

 

「ご主人! デカい骸骨が来たッスよ!」

「隠れろぉ!」

 

 泥人形軍を殲滅したところで、俺達に休憩が与えられる事はなかった。地響きを立て、木々を踏み越え、月下に影差す死の化身。這いずる巨人骸骨のご登場だ。

 妖しく光る目を逃れ、俺達は大きな木の後ろに隠れた。こいつは餓死髑髏(がしゃどくろ)という名の魔物で、一部の中位迷宮ではボスとして現れる。そんなのがザコエネミーで出現するのが上位迷宮なのだ。

 

 中位ボス相当の餓死髑髏くん、奴の視界に入るとあっと言う間に状態異常をかけられ、強制的に飢餓状態になってしまう。こうなるとロクに動く事ができなくなり、体力・魔力ともに減少し続けるのだ。過去、一度だけグーラが飢餓に罹った事があって、あの時は収納魔法内の保存食が全部無くなったものである。

 対処法は分かっている。視界に映らず立ち回り、不意打ちで目を潰すか。もしくは飢餓への完全耐性を用意しておくか。残念ながら、飢餓の完全耐性は現状では実現不可能らしい。一度飢餓になると、エリーゼの治癒も効かなくなる鬼デバフだ。

 王道は前者だが、俺達には第三の選択肢がある。要するに、ハイブリッドしちゃえばいいのだ。

 

「イリハ、黄色を俺に」

「分かったのじゃ……!」

「リリィとグーラで後ろ。狙いは右」

「うッス」

「了解です」

 

 大樹の後ろで討伐会議。無論、この時相手も待ってはくれない。四つん這いのガイコツが月に向かって遠吠えすると、その口から漆黒のガスが噴出した。

 これはフィールド生成系の闇魔法で、周囲の環境を暗闇状態にする効果がある。で、例によってスケ亜種たる奴さんは暗視持ちとな。なんて性格の悪いシナジーコンボなのかしら。

 

「エリーゼ、灯りよろしく」

「分かっているわ。光を(・・)……!」

 

 勿論、対処できる。杖を掲げたエリーゼは、装填された魔法を行使した。

 瞬きの後、なおも広がる闇より高い上空に、大きな魔法陣が生成される。やがて周囲に光の雨が降り注ぎ、穢れと闇を洗い流した。

 これは聖・水属性の複合魔法で、降ってる光の雨粒は【清潔】や【治癒】といった様々な効果を持っている。範囲型のバフ兼ヒールといえば分かり易いか。

 

「オラァ! こっちを見ろぉおおおおお!」

 

 環境が仕上がったところで、黄色のオーラを纏った俺は髑髏の前に躍り出た。目と目が合う。ガッツリ視界に入っているが、大丈夫だ問題ない。イリハの太刀の権能が、状態異常を無効化してくれるのだ。

 

「グォオオオオオオッ……!」

「おっと! 前より動きいいなコイツ!」

 

 迫る骸骨猫パンチを無銘で捌き、返す刀で反撃を当てる。ヘイトを溜めている最中、味方反応が奴の後ろに回り込んだ。ここで、聖騎士スキルの【陽動】を使い、奴の視線を釘付けにする。

 

「そのままよろしくッス! うぉりゃああああ!」

 

 髑髏の背後、勢いよく飛び上がったルクスリリアが赤黒い鎌鼬魔法を放つ。ケツに迫る魔法を追うように、グーラが空を駆けていた。

 

「行けると思います! やぁああああッ!」

 

 ケツに直撃した魔法を追い越し、グーラは巨大脊髄上を疾走し跳躍。両手に握ったぶちぬき丸に炎が宿る。

 ズッガァン! 髑髏の頭部にぶちぬき丸がめり込んだ。そのまま果実のようにバックリと、頭頂部から右側頭部にかけ両断。痛みがあるのか、髑髏は嘆くようにして叫んでいた。残る脅威は左眼のみ。

 

「出番ね……!」

「やる気満々じゃのぅ!」

 

 俺は左眼方向に、グーラは右眼方向に移動。木から飛び出た後衛二人が魔法を放つ。光礫と苦無が巨大な二の腕に直撃し、餓死髑髏の上腕に亀裂が走る。

 

「狙い撃つッス!」

 

 俺に構わず皆を見ようとした骸骨。が、こういう時に良い仕事をするのがルクスリリアだ。鎌から射出されたビームが上腕のヒビを貫通し、バキッと音立て骨折させた。

 片腕を失ったドクロは支えを失い前のめりに倒れた。振動に遅れ、冗談のような土煙が舞い上がる。ここでビビるのが一般人で、ここで猛るのが冒険者だ。

 

「フォーメーション・シータ! エリーゼ、拘束と必殺!」

「了解!」

 

 即ち抹殺ショータイム。疾走を停止し、固定砲台モードになったエリーゼが杖を突く。装填された魔法が発動すると、彼女の背後に光で形作られた六本の剣が浮かび上がった。

 やがて髑髏目掛けて飛翔した光剣は、オールレンジ攻撃めいて身体各所に突き刺さる。瞬間、餓死髑髏の巨体を覆う魔法陣が生成され、起き上がろうとするその動きを封じてのけた。

 

「前衛! 足だ!」

「了解ッス!」

「はい!」

 

 デカブツボスが止まったところに、DPSコンボを叩き込む。俺は残る左の眼窩を殴りまくり、二人の前衛には骨折側の足を破壊してもらう。

 一本、二本、役目を終えた封印剣が弾けて消える。徐々に髑髏が動き始め、僅かに開けた口の中に闇のブレスが溜まっていく。

 

「五行相生、【水行・破魔清流】!」

 

 そこに、狙いすました高圧水流が炸裂。蓄積していた闇ブレスは、対闇属性魔力特化の陰陽術によって洗浄された。

 

「行くわよ。消し飛べ(・・・・)……!」

 

 全光剣が消失し、右足が壊れたタイミングで、エリーゼが髑髏へ杖を向ける。次いで先端から飛び出た虹色の粒子がキラキラ光ってゆっくり迫る。それはやがて、餓死髑髏の胸骨にヒットし、散った。

 

「退避ィ!」

 

 ヒット確認の後、俺達は全力でその場を逃れた。

 次の瞬間、着弾地点を中心に、聖なる光が生成された。球形の光はみるみるうちに膨張を続け、範囲内の敵性存在を消滅させる。膨張後、徐々に光は縮小を始め、死んだ空間を埋めるように凄まじい勢いで空気が流入していった。

 光方向に吸い込まれそうになる中、俺達は各々対処していた。こういう場合もゲーム的仕様が適応されてるので、しゃがんで地面に剣を刺せば何とかなる。

 

「凄まじい威力ですね……。戦況を仕切り直すのに使えそうです」

「お、おっかない魔法なのじゃ……」

「いい景色ね……」

「竜族ってそういうとこあるッスよね……」

「いっぱいドヤる君が好きっと。本体出てきたぞ、グーラ」

「はい」

 

 全てが無に帰した。半球形に抉れた大地の中心で、青白い火の玉が浮いている。逃げようとするそいつに、グーラの鎖が突き刺さった。物理無効の幽体でも、次元連結は通るのだ。

 

「ふん!」

 

 ギャリギャリと鎖を巻き取ったグーラは、火の玉をキャッチして力任せに握りつぶした。

 今度こそ、餓死髑髏は死んだ。経験値が入る感覚が気持ちいい。

 

「よし、皆お疲れー」

 

 レーダーよし。魔力よし。ケモロリの鼻にも敵影なし。最低限の警戒を維持しながら、俺達は緊張の糸を緩めた。

 この迷宮、中ボスの出現自体は確定しているのだが、今回はハズレ枠を引いたっぽい。餓死髑髏くんは強いザコなのだ。

 

「これ、本当に使い勝手が良いわね……」

 

 破壊の高揚からか、エリーゼはうっとりと真新しい杖を撫でていた。

 気に入って頂けて何よりだ。

 

 

 

◆黎明の聖杖◆

 

・補助効果1:自動修復

・補助効果2:魔法装填(光の礫)

・補助効果3:魔法装填(逃れ得ぬ裁きの矢)

・補助効果4:魔法装填(貫く光の槍)

・補助効果5:魔法装填(闇を祓う聖砦)

・補助効果6:魔法装填(清浄光雨)

・補助効果7:魔法装填(聖光の極大治癒)

・補助効果8:魔法装填(聖なる封印剣)

・補助効果9:魔法装填(掃滅極光)

 

 

 

 純魔に火炎に凍結特化。新たな杖は聖なる杖だ。

 新しい杖は、やや支援に寄った性能をしている。マストの修復と回復に加え、拘束と環境と対闇バリア。攻撃魔法は四種類で、大規模破壊は一つだけ。アンデッド特効はついでだが、ついで程度で十分使える。

 例のアレ……ドワルフおすすめの広範囲殲滅魔法には度肝を抜かれた。実際問題使いにくいが、エリーゼが楽しそうだからオッケーです。

 

「と、そろそろザコが群れてきたな。このままボスのいる方へ向かおう」

 

 そんな感じで、俺達はボスエリア目指してずんずん進撃していった。

 

「此処がダンジョンボスのハウスね!」

「家ではないようだけれど……?」

 

 そんなこんな。

 

 それなりに長い時間ホラーフォレストを歩き、ボスのいるエリアに到着。

 屋外迷宮のお約束通り、霧やドアで区切られていないボスエリアは、湖に囲まれた祭壇らしき場所だった。

 ここのボスは経験済みだ。ゲートを潜ると襲ってくる。各々準備を整えて、俺達は足を踏み入れた。

 

 縄張りに侵入すると、祭壇の上に青白い靄が凝集し始めた。

 靄はやがて形を成し、石製のテナガザル型ゴーレムの姿を取った。

 

「今回は石像のようね」

「前は鎧だったッスけど、今回はなんで石なんスかね?」

「分かりませんが、耐性は以前と同じかと」

「けど決めつけはよくないのじゃ」

 

 このボスの名は、変化人魂(へんげひとだま)

 西区にある迷宮の中で、最も嫌われているボスの一体である。

 それというのも、こいつは一党に合わせて都度姿と性能を変えてくるのだ。剣パなら斬撃耐性。純魔パなら魔法耐性といった具合に。

 

 仮説だが、こいつは迷宮内の魔物が受けたダメージを参照して姿を変えているのだと思われる。実際、弓上位職で挑んだ時は飛び道具耐性持ってたし。

 要するに、このダンジョンは一党にメタを張ったボスをオーダーメイドしてくれるのだ。嫌われるのは残念でもないし当然といったところ。

 

「作戦通り、一旦は見に回る。確定次第やるぞ」

 

 さて、先述の通り、このボスは嫌われている。

 それは偏に、ボス側がメタってきて聖無効とか打撃無効とかやってくるからだ。特化一党の場合、こいつはもうどうしようもない。

 なら、俺達のやる事は決まっている。

 

「水行が効くのじゃ!」

「オッケー! エリーゼ、へいパス!」

凍てつけ(・・・・)……!」

 

 ハクスラの王道。弱点突いて殺すだけである。

 

「ショオヘイヘェイ! ピッチャービビッてる!」

「はぁあああああッ!」

「こいつぁ楽な仕事ッス!」

「エリーゼ、合わせるのじゃ!」

「了解。凍えろ(・・・)……!」

 

 俺がタンクで、グーラは純粋火力で押し通る。ルクスリリアはデバフをかけまくり、イリハが濡らしてエリーゼが凍らせる。

 他一党は知らないが、うちの一党は汎用性が売りなのだ。一つや二つ耐性あっても余裕で突けるし対応できる。

 哀れ、水属性やられを食らった人魂ゴーレムはエリーゼの吹雪を食らって凍り始めた。

 

「パワーをグーラに!」

「「「いいですとも!」」」

 

 やがてカチコチに凍ったボスを、無慈悲に必殺の型へとハメ込んだ。

 竜の指令に守護霊憑依。炎雷を宿したグーラはぶちぬき丸を逆手に構えた。俺は前でタンクを続け、ルクスリリアはボスに防御デバフをかけていた。

 バチンと、グーラの炎の色が変わる。高出力状態、黄金の獣形態だ。

 

「オォオオオオオッ!」

 

 雷の尾を引き、駆け出すグーラ。炎を纏った巨大な剣が、脆くなった石像を叩き斬る。抵抗は、無い。勢いそのままゴーレムは一刀両断された。

 擦過、残心、爆発。大剣を肩に担ぎ直したグーラからは、何とも言えない主人公オーラが漂っていた。

 

「はい、お疲れー」

 

 粒子に還ったボスが消え、転移水晶が現れる。ダンジョンクリアだ。経験値を吸う感覚がずるずるして気持ちがいい。

 ボス戦の戦闘時間は餓死髑髏くんより短かった。ぶっちゃけアイツのが厄介だったよな。

 なんて考えつつ、相変わらずよく分からないドロップアイテムを拾い、俺は手癖でステータス画面を開いていた。

 

「よし」

 

 慣れた感覚で確信していたが、やはり俺はレベルアップしていた。

 上がったのは上位職の“ソードエスカトス”のレベルだ。さすが上位職だけあり、下位や中位のジョブよりステータスがピンピン伸びている。

 若干技量に寄っているものの、剣士系は前衛に必要な全ての能力値がバランス良く伸びるので、ステ重視ならこれでいいだろう。

 

「んぅ~! なんか、純淫魔になってから魔力の扱いが上手くなった気がするッス!」

 

 ルクスリリアも“淫魔姫騎士”のレベルが二十一になった。

 うん、やっぱラザニアに経験値吸われてるよな。いくらDPSが低いとはいえ、明らかに俺の方がレベルアップ速度が高い。いや、俺がというか人間族のレベル上昇率が高いのか?

 

「最近、どんどん強くなっているのが分かるわ。やっぱり、迷宮に行くと調子が良くなるわね」

 

 エリーゼはとうとうルクスリリアを超え、指揮系上位職の“ドラゴンロード”がレベル二十三になった。

 ちなみに、ドラゴンロードが二十になった時に生えてきたジョブは、“竜王”と“竜姫”というものだった。どちらも指揮系ジョブなのだが、今より大軍を指揮する方向に行くっぽかったのでジョブチェンジはナシになった。

 

「やはり、重くなったぶちぬき丸の方が扱いやすいですね。ありがとうございます、ご主人様」

 

 MVPキラーのグーラもレベルアップした。

 剣士系上位職の“特大剣士”に変えてから、もう既に十の大台が見えている。例によって膂力がグングン伸びていた。

 レベルアップの過程で、大剣専用の能動スキルなんかも獲得した。なお、使い勝手が悪く封印安定な模様。能動スキルは死にスキルが多くて困る。

 

「おっ、イリハ上位職になれるぞ」

「よく分からんが、やったのじゃ!」

 

 そして、イリハは“退魔士”のレベルがカンストした。

 新しく生えてきたのは、恐らく現状の上位互換だろう“退魔武士”と、パッと見だと使用武器種が増えただけっぽく見える“退魔導師”の二つ。

 役割の都合上、他のメンバーに経験値を食われがちだった彼女も最近は敵を倒せるようになったからな。ステを伸ばすならこれからである。

 

「とりま、色々検証してから決めようか」

「わかったのじゃ」

 

 イリハの次ジョブは一旦保留。帰還水晶に触れ、俺達は神殿へ転移した。

 

 

 

 

 

 

 転移神殿に帰還すると、同業者達からの視線が突き刺さる。以前ほどあからさまな凝視こそないが、毎度毎度チラチラ見られるのにはもう慣れた。別に敵意とかは感じないから安心だ。

 なんて思いつつ、いつもの受付に到着。アイテムボックスからドロップアイテムの詰まった袋を取り出し、机の上に置いた。

 

「換金よろしくお願いします」

「ああ。じゃあ、緑の一番な」

 

 異世界転移から何度目になるだろうか。馴染みの受付おじさんは、卓上のドロップアイテムを換金用天秤魔道具に移した。

 

「あー、最近また何かやってるみてぇだが、調子はどうだ?」

「周回です。順調ですよ」

「そうか」

 

 何となく宝秤(たからはかり)の動きを眺めていると、珍しくおじさんの方から話しかけてきた。

 おじさんの言う通り、最近俺達は迷宮探索のやり方を変えていた。

 

 これまでは週二の迷宮で週二の鍛錬。それから週休三日制だったところ、週三迷宮に変えたのだ。で、潜る迷宮は全て上位ランクにしている。

 加えて言うと、ここ最近は人魂迷宮を周回していた。今週三回目の変化人魂である。あのボス、儲けは渋いが経験値が美味しいのだ。

 

「すみません。予約表を見せて頂けますか?」

「ほらよ」

 

 で、以前まで週二回やっていた鍛錬を一日にし、そこに模擬戦を集中させていた。

 冒険者との模擬戦依頼。ニーナさんの教えで以前までは質を重視して回数を絞っていたが、今は強化合宿中という事で一つ。落ち着いたら戻す予定である。

 

 分かり易くまとめると、こうだ。

 月水金が迷宮で、火木土が完全休み。そんで日曜が鍛錬デーというスケジュール。

 基礎練は毎日やってるし、今はスキル習熟よりステ重視かなと。そんな感じである。

 

「おっ、銀細工の方が予約されてますね。ラッキー」

「それ喜ぶのお前くらいだぞ……」

「強くなれますから」

 

 それから、査定完了したドロップアイテムを売り、お金を貰ってギルドを出た。

 リンジュに行く前までは頻繁に買い食いをしていたところ、イリハが来てから俺達は商店街に寄るようになっていた。

 

「えーと、豚肉と卵と玉葱と……」

「今日は何を作るのじゃ?」

「カツ丼を試してみようかと」

「カツ? とは、豚肉のフライだったわよね?」

「丼って何スか?」

「あれ? お主等、丼モノ食べた事ないんかの?」

「よく分かりませんが、楽しみです!」

 

 淫魔王国で思いついてから、最近は俺も料理なんかを始めちゃっている。

 現代料理チートで皆をアッと言わせてやるぜ……などと、その気になっていた俺の姿はお笑いだったぜ。

 

「どう作るんかの?」

「前作ったカツを卵で閉じてご飯の上に乗せるんだ。醤油とかを使って味付けしてだな……」

「ふむふむ……」

 

 悲しい哉、俺の料理の腕が悪いせいか、レシピ通りに作っても美味しくならなかったのだ。

 やってみせ、言ってきかせて何とやら。結局、作り方を教えてイリハにやってもらうのが一番美味しくなったとさ。

 こんな事ならもっと自炊しときゃ良かった。

 

「カレーなら自信あるんだけどなぁ……」

「かれー?」

 

 自炊慣れはしていないが、俺はカレーだけは絶品を作れる自信があった。カレーの為だけに圧力鍋買ったし、カレーの時だけ良い食材を使っていた。作り置きカレーは正義だってハッキリわかんだね。

 本格めのスパイスカレーを作った経験もある。が、この世界のスパイスは数が多すぎてどれがターメリックでどれがカルダモンなのか分からない。どだい同じモノとは限らない訳で、再現するには相当な覚悟が要るだろう。

 そのうち、スパイス屋でも見に行こうかな。長く続く異世界生活、カレーの再現を趣味にするのも良いだろう。

 

「カツも美味しかったですね……」

「わしは味噌カツが好きじゃったのぅ」

「大根おろしが一番よ」

「カツカレー食べたい……」

「だからカレーって何なんスか」

 

 ちな、イリハを経由した現代料理チートは基本的に好評である。

 なんにせよ、食生活が豊かになるのは良いことだ。

 

 ふと、王都の夕焼け空を見上げた。

 

 誰の言葉か忘れたが、平和は次の戦いの猶予期間らしい。

 何だか虚しくなる言葉だ。それでも、平和な時が長いに越したことはないだろう。

 

 異世界生活は、戦いだけが全てじゃない。

 何気ない日常をこそ、大事にしていこうと思う。




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・ソードエスカトス=剣士系上位職。刀剣類全般にボーナスが付き、前衛に必要な全ての能力値をまんべんなく育成できる。

・淫魔姫騎士=淫魔固有上位職。単体デバフに秀でた魔法戦士。体力・頑強を除いた各種ステータスがまんべんなく伸びる。

・ドラゴンロード=竜族固有指揮系上位職。一党単位のバフ。ダンジョン単位のデバフに秀で、一定の前衛能力を持つ。魔防を含めた前衛ステータスがまんべんなく上がる。

・特大剣士=剣士系上位職。大剣にアジャストしたジョブで、膂力を中心に前衛ステータスが伸びやすい。

・退魔士=魔法剣士系中位職。陰陽術と刀に絞ったジョブ。成長方針は魔法剣士の例に漏れずバランス型。若干技量と知力に偏っている。
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