【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。こうして続けられているのも皆様のお陰でございます。
 誤字報告も感謝です。ありがたき幸せ。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。


無冠のロリ王(上)

 太陽の季節がやって来た。

 

 迷宮強化月間の日々を駆け抜け、日本で言う七月に突入した時の頃。

 雲一つない青空の下、俺達はクソデカヘラジカの引く空戦車に乗って飛んでいた。

 

「ふぅ~、気持ち良い~」

 

 車検帰りの空戦車は相も変わらず超快速。配達人と思しき魔族や翼人を追い抜き追い抜き、時に天馬族とデッドヒートを繰り広げてはその全てに勝利した。

 流石、ルクスリリアの経験値を吸ってる疑惑の守護獣である。交流会前よりも速くなってるのは、多分気のせいじゃないと思う。

 

「てか、なんでマキア城なんスかね? 普通に王都で良かったと思うんスけど」

「さぁ?」

 

 何故空を飛んでいるのかというと、請け負ったお仕事の為である。

 その目的地は、街でも村でもない古の廃城だった。

 

「マキア城、ボクとっても楽しみです! ご主人様達は行った事があるんですよね?」

「歴史ある城だけれど、特に見るものはなかったわよ」

 

 マキア城とは、古の時代に建造された城塞である。

 過去にはラリス王族の継承争いで用いられたり、竜族同士の決闘が行われたりもした由緒正しき決闘場だ。

 お仕事とはいえ、歴女のグーラ的には聖地巡礼の気分らしい。

 

「決闘場のぅ。なんも無けりゃいいんじゃが」

「俺もそう思う」

 

 イリハの言う通り、観光ではなくお仕事だからこそ、否が応にもマキア城という場には警戒心を煽られてしまう。

 期待に胸を膨らませるグーラを眺めながら、俺は前日届いた指名依頼の事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 枝の一件が落着し、その後は特に何もなく、レベリングも順調そのもの。

 上位迷宮ヘビロテの甲斐あって、金も経験値もザックザク。そろそろエリーゼが最上級職に一番乗りするという頃だった。

 

「イシグロ、お前に指名依頼きてるぞ」

 

 名指しの依頼が来た。

 指名依頼とは、その名の通り冒険者個人を指名して特定のお仕事を依頼する制度の事である。

 依頼内容は多岐にわたり、要人警護であったり圏内に出た魔物駆除であったりと様々だ。

 アレクシストやカムイバラといった都市の場合はそうでもないが、地方冒険者は迷宮外の仕事が主になるらしい。

 どっちかというと、そういう仕事の方が異世界ファンタジーの冒険者って感じがする。

 

「ふむ」

 

 依頼書を受け取り、思い当たる節があって家に帰ってから開封する。

 封筒に入った手紙には、特定の荷物を特定の場所に配達してくれとの表向き(・・・)の依頼が書かれていた。

 

「エリーゼ、頼む」

「分かったわ」

 

 重要なのは、その奥である。手紙にエリーゼのチート魔力を流してもらうと、先程の文章が消えて本当の内容が浮かび上がってきた。

 案の定、差出人は第三王子のジノヴィオス殿下だった。

 

 依頼内容はこうだ。

 マキア城に向かい、同派閥の協力者と会ってほしい。

 また、協力者の情報については、契約によって一切の開示ができない。

 その後の事は件の協力者から聞いてくれ、と。

 

「協力者? 契約? な~んかきな臭ぇッスね」

「用心深い御仁なのかもしれんのぅ」

「世捨て人って可能性もあるわね」

「今更、王子が俺に“騙して悪いが”をするとは思えないけど……」

「悪いが……?」

 

 よく分からんが、とにかく了解した。

 この手紙は、読み終わり次第自動的に処分される仕様だ。その後は別の同意書にサインしてギルドに提出するとして、とりまさっそく準備開始だ。

 と、その前に……。

 

「ん~?」

「どうしました?」

 

 なんか、この手紙に違和感あるんだよな……。

 違和感というより既視感。こう、喉奥に小骨が刺さってる感じ。できれば処分される前に解決しておきたい。

 この手紙を見ていると、何故か前世の記憶が滲み出てくる気がするんだよな……。

 

「にしても綺麗な字ッスね」

「遊びのない筆裁きじゃのぅ。飾り文字が見当たらないのじゃ」

「確かに綺麗過ぎる。あっ、もしかして……?」

 

 よくよく観察して、やっとこさ気がついた。

 

「これタイプライターの字だ……!」

 

 冒頭に書いてある文字と、次にある同じ字が寸分違わず同じ形をしているのだ。あまつさえ、手紙の文字はどことなくゴシック体に見えなくもない。遊びがないとはこういう事か。

 すげぇ、代筆って書いてないし、これを王子本人が打ったのか。俺の脳裏にタイプライターを人差し指操作する女装王子の光景が浮かんだ。

 

「へえ、こんな感じになるのね。優雅ではないけれど、実用的ではあるわ」

「なんか前見せてもらった時より綺麗な気がするッス」

「便利そうですね。写本が捗りそうです」

「この調子じゃあ、そのうち主様が言うとった印刷機っちゅうもんも出来そうじゃの」

 

 そんな訳で、今度こそ準備開始である。

 依頼内容はマキア城に向かって協力者と会う事。その後の事は協力者が教えてくれると。

 最低限の情報しかないのは契約によるものとあるが、まぁニード・トゥ・何とかってやつで今の俺は知るべきじゃあないのだろうと思っておこう。

 やんごとなき方の考えは分からんし、分からん方がええのである。

 

 何がどうなのかサッパリ分からないが、人に会うなら手土産が要るだろうと考え、とりあえず菓子折り的なモノを購入。その他、各種高級酒や簡易茶会セットなんかも買っておいた。

 備えあれば嬉しいな。会えば分かるとの事だったので、何が起きてもいいように準備したのである。

 

「呪具も持ってくんですか?」

「ああ」

 

 ガチで何があってもいいように、戦備えも怠らない。

 いざとなったら、王子からも協力者からも逃げられるようにしないとな。

 この渡世、信頼できるのは己とロリだけなのだから。

 

 そうして時は過ぎていき、当日を迎えた訳である。

 ホント、何も起きなきゃいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 そうこうしていると、目的地のマキア城が見えてきた。

 上空から見たマキア城は、城塞というより古代ローマの闘技場のようだった。

 

「このまま降りちゃっていいッスか?」

「いや、先方がいる。旗を振らないと」

 

 戦車の上から観察すると、決闘場内の端っこに黒いフードを被った人を発見した。恐らく、第三王子の言っていた協力者だろう。

 彼方も此方に気づいたようで、フードの奥から視線を感じる。このまま決闘場内に入るのはマナー違反だ。なので、敵意はないよという意味の旗を振って旋回する。

 

「応答がないわね……」

「もう降りちゃっていいんじゃないスか?」

「だな。見えてるだろうし、降りようか」

 

 しばらくマキア城の周りを周回し、徐々に速度を落としていって決闘場に着陸する。

 その間も、推定協力者さんは身動ぎ一つせずじっと此方を見ていた。

 

 素性不明の協力者さんは、すっぽりと全身を覆う外套を纏っていた。魔術師というより、放浪者とか旅人って印象である。

 装備に隠蔽効果でもあるのか、その顔は影になっていて中を見る事ができなかった。頭が少し膨らんでいるのを見るに、角のある種族なのかもしれない。

 

「あの者、魔力が見えないわ……」

「何の匂いもしませんね」

「氣も隠されておるのぅ」

「男なのは確かッスね」

 

 挨拶距離の外から、密かに皆と情報共有する。

 やはり、彼は徹底的に身分を隠しているようだった。王子曰く、契約によって情報を渡せないとあったが……。

 とにかく、此方が先に名乗らねば。相手の身分が分からない現在、第三王子派閥を意味するジェスチャーを交えて挨拶するのが丸いだろう。

 

「お初にお目にかかります。私は王都西区を拠点とする冒険者で、名をイシグロ・リキタカと申します」

 

 左手を腰に、右手を胸に。軽く頭を下げながら、俺は右手の指を鉄砲にして挨拶した。三本指、これで伝わるはずだ。

 対し、協力者さんは何のリアクションもせずに突っ立っていた。無視している訳ではないようで、上から下まで観察されているような感覚がした。

 

「……ああ」

 

 低く短く、くぐもった返答。その声は、まるでボイスチェンジャーでも通しているかのようだった。

 やがて、彼は俺の背後にいる皆を順繰りに凝視していった。ルクスリリアから、イリハまで。悪意や害意は感じられないが、どうにも緊張する視線だ。

 最後に再びエリーゼを見つめた後、おもむろに踵を返して歩き出した。

 

「……来い」

 

 一拍遅れ、慌ててついていく。どうやら決闘場の真ん中らへんに向かうようだ。

 できれば名前を聞きたいところだったが、機を逸してしまったようである。

 

「……お前だけだ」

 

 と思ったら、同じく追従しようとした皆はダメらしい。

 手振りで従うように指示し、皆にはラザニアと一緒にステージ端に待機してもらった。

 なんなんだ、一体。協力者のはずだが、どうにも噛み合わない。

 

「その位置だ」

 

 そんな事を考えつつ大人しくついていくと、ある程度歩いたところでストップがかけられた。

 それから数歩遠ざかった彼は、振り返ったと同時に外套の内側から一本のロングソードを取り出してみせた。

 

 一瞬、身構える。反射的に腰の無銘に手を添えた。

 が、対する彼が斬りかかって来る事はなかった。

 暫し、妙な沈黙が場を支配する。

 

「……剣を抜け」

「は、はい」

 

 言われるがまま無銘を抜くと、彼は俺に見えるように懐からコインを出してみせた。

 妙にボロいコインだった。少なくとも、普段俺が使っている王国貨幣じゃない。

 

 と、まぁそれは置いといて、ここまでくれば流石に分かる。

 ステージは決闘場、いい感じの間隔、おまけにコインときた。

 組み手か試合か腕試しか、とにかくそういう類のイベントが始まるのだろう。仮に俺を殺す気なら、こんな事はしないだろうし……。

 

 その時だ。親指で弾かれたコインが、天高く舞い上がった。

 アレが落ちたら仕合開始である。俺は適当に下げていた無銘を構え、無月流の戦闘思考を活性化させていった。

 

「本気を出せ」

「はい。対戦よろしくお願いします」

「……ああ」

 

 やがて、古いコインが地に着いた。

 

 瞬間、俺の頭目掛けて小石が飛んで来た。

 危機察知に従い剣で受けようとした時には、既に相手の剣が迫っていた。

 片手突き、狙いは腹。小石を捌くべく剣を上げたら、空いた腹に刺突が刺さる二段構え。ニンジャスレイヤーめいた殺意満点攻撃だ。

 

「おぉッ……!」

 

 俺はこれを、モンハン太刀の横移動斬りの要領で凌ぎ切った。

 頬に僅かな熱。俺の防御力を貫通し、小石がダメージを与えてきたのだ。お互い、返す刀を振りかぶる。一閃、二閃、火花が散る。

 三閃、音が軽い。僅かに退いた外套男は前傾姿勢になり、剣を水平にして突進してきた。剣士系能動スキル【切り抜け】である。

 

 横一文字の刃を、俺は完璧なタイミングで【受け流し】た。反撃すべく剣を振るが、拳一つ分届かない。間合い管理が完璧過ぎる。

 ならば攻める。踏み込み強く、武闘家スキルの【軽功】で追撃。彼我の距離が消し飛んだ。

 無銘を振りかぶろうとした瞬間、危機察知。相手は外套の内側から取り出した短剣を投擲してきた。

 迫る短剣。狙いは心臓。直線移動中、回避はできない。あからさまなガード誘発だが、乗るしかない。

 

「ぐっ……!」

 

 俺は無銘の腹を盾に防御した。鈍い衝撃。【軽功】の勢いが減じ、機先を制された。

 その隙に、相手は両手で剣を握り直し、呼吸を整えては大上段に構えていた。

 

「ふんッ!」

「ぐぁッ!?」

 

 ガギィッ! 力任せの斬撃が、剣越しに俺の身体を押し込んでいく。

 まるで隕石でも受け止めているかの様。ジャスガはおろか、【受け流し】さえ不可能な剣圧。地面を踏みしめる両足が決闘場の地面にめり込んだ。

 鍔迫り合い。それもギリギリで耐えている状態だ。気を抜いた瞬間、正面からバッサリいかれるだろう。

 

 真正面、眼前の外套男の表情は窺えない。

 だが、その視線の意味は感じ取れた。

 ここからどうする、と。

 

 そういえば、以前にも似たような状況になった事があった。思い出したくもない、桜闘会におけるシリアナ天狗だ。

 あの時は柄を持つ手を掴まれて、身動きができない状態にされたのだ。スキルも魔法も通用せず、デイビット氏の援護が無ければ俺のケツ処女は奴に奪われていた事だろう。

 一度した失態だ。二度と同じ轍は踏まない。当然、対策済みである。

 

「失礼します……!」

 

 瞬間、彼の頭上に空間の歪みが生じた。収納魔法の出口である。

 鍔迫り合いの状態のまま、俺はアイテムボックスを最大展開したのだ。そのまま、手も足も使わず収納していたアイテムを投棄(・・)した。

 

「むっ……」

 

 ドバーッ! アイテムボックスから、大量のゴミクズが放流された。さながらそれは、決壊したダムの如く。

 折れた剣に鉄のクズ。これらはエリーゼの権能練習に際して生まれた失敗作達である。当たってもダメージはないが、量が量である。一度ハマれば身動きできない。

 

「……善し」

 

 予想通り、彼は鍔迫り合いを止め、大きくバックステップして迫り来る土石流モドキを回避した。みるみるうちに、彼我の間に大量のゴミが山積する。

 俺はゴミ山の後ろに隠れ、自分にバフをかけた。各種能力を引き上げなければ、まともに打ち合うのも難しい。レベリング前なら、まるで太刀打ちできなかっただろう。

 一つ目の防御力アップをかけた瞬間、脳裏に警鐘が鳴り響く。反射的に剣を構え、飛んできたソレをガード。あまりの勢いに、俺は身体ごと後方にぶっ飛ばされた。

 

「マジか……!」

 

 映画のセットのようにゴミ山に穴が開き、剣が飛んできたのである。

 穴の向こうで、彼は外套の内側から新たな武器を取り出していた。

 それは、俺の身の丈程もある刃渡りの大太刀だった。その構えは、ゴルフスイングめいた切り上げ攻撃。

 

 猫のように姿勢を戻す。再度、危機察知。目と勘で分かる。遠隔攻撃だ。

 最大級の警鐘。チートに曰く、確定一発でガード不可。回避か受け流し必須の通常攻撃である。

 刹那、飛ぶ斬撃が来た。軌道上のゴミ山が両断され、半透明の刃が迫る。右に転がって回避。間髪入れぬ二撃目は、姿勢を整えると同時に【受け流し】た。当然、俺にも無銘にも傷一つとして付いていない。

 

 不利な状況。相手はまだ続ける気だ。このままだと、そのうちゴリ押しで削り殺されてしまうだろう。

 さて、どうする。動いて避けるか、飛び道具で対応するか。決断する。無銘を信じて、前に出るのだ。

 

「うぉおおおおッ!」

 

 前進制圧。連続する衝突音。飛ぶ斬撃を物ともせず、俺は無銘を振るって突貫した。固定砲台と化した協力者は、まるで小枝を弄ぶように大太刀を振り回していた。

 全て凌ぎ切る。踏み込み、接近! 無銘の刀身に黄金の光が凝集する。ソドマススキル【剛剣一閃】。光り輝く剣撃を、協力者へと叩き込む!

 

 ガギィィィィン!

 

 刃が宙を舞う。外套男の太刀が折れたのだ。

 しかし、駆け引きに負けたのは、俺の方だった。

 決死の一撃を、俺は見事に【受け流し】されたのである。

 

「ぐぁ……!?」

 

 鋭い手刀が横腹を裂く。次いで潜り込むように接近され、重い掌底が腹を打った。せり上がった血が口から漏れる。防御バフの意味ねーじゃん!

 だが、ダメージ自体は低い。俺は咄嗟に剣を手放し、肘鉄で以て格闘追撃を阻止した。

 

「ふむ……」

 

 格闘戦を不利と見たか、外套男は舞うように退避した。

 彼我の距離が離れる。俺はアイテムボックスから対人棍・雷式を取り出し、構えた。魔力を通し、雷属性を付与させる。

 応じるように、彼も外套の内側から二本の剣を取り出した。どこぞのチート大総統を彷彿とさせるサーベル二刀流だ。

 

「すぅ……」

 

 無月流の呼吸法。気持ちを落ち着け、強いて戦況を俯瞰する。

 二刀流になった外套男は、構えるでもなくサーベルを提げている。超然と、もしくは泰然自若と次の俺の動きを待っているのだ。

 

 何となく察していたが、今に至って確信する。この人、俺を試しているのだ。

 趣味か試験か確認か。その意図するところは分からないが、ともかく……!

 

「しゃあオラァアアアアアッ!」

 

 今は、全力でぶつかるべきだろう。

 二種の移動スキルを併用し、雷の尾を引いて突進する。対する外套男は、剣の柄を握り直していた。

 

 激突! 全速力、全体重を乗せた棍の一撃は、サーベル一本で受け止められた。

 当然これでは終わらない。瞬間引いて追撃。リーチの差を活かし、連続打突で押し込んでいく。

 我ながら完璧と思える連続攻撃を、外套男は二本のサーベルを使って難なく防いでいた。余裕を見せつけているというより、(けん)に回って俺の動きを観察しているかのようだった。

 

「……よかろう」

 

 圧が増す。壁のような棍の打突を、刃の嵐が押し返していく。

 棍と剣で絶え間のない火花が咲き乱れる。一手間違えると、一瞬で押し負けるだろう超高速ラッシュの応酬。気付くと、俺は僅かに後退していた。

 一ミリ単位の浮遊感。棍が打ち上げられる。咄嗟に引いて防御を固める。衝撃、姿勢が崩れた。

 

「ウォァアアアアッ!」

 

 棍を引き、剣の濁流を凌ぐ。防戦一方。先の鍔迫り合いと違い、今はアイテムボックスを開く精神的余裕さえなかった。

 剣速が上がり、加速度的に手数が増す。一手一手が致命傷に繋がる中、詰将棋のように退路を潰されていく。これでさえ、手加減をされている。

 

「ふん……!」

「しまッ……!?」

 

 やがて棍が跳ね上げられ、致命的な隙が生まれた。単純な技で、押し切られたのだ。

 無防備な腹に、サーベルが突き刺さる。不思議な事に、刺された瞬間は痛みが無かった。あまりにも鮮やかで、美しい剣の軌道を通ったが為。

 次いで、灼熱。だが耐える。迷宮で鍛え抜いた我慢強さとステータス。それから純淫魔契約による恩恵が、俺に戦闘続行の余地を与えていた。

 しかし、卓越した剣士がこの隙を逃すはずがない。外套男は腹に刺さったサーベルを手放し、流れるように空いたサーベルを振りかぶった。

 狙いは、首。いやこれ普通にヤバくないか?

 

「む……」

 

 と思った瞬間、彼は横合いから飛んで来た何かを斬り裂いていた。

 次いで、互いの間に結界が展開され、俺を庇うような位置に皆が集まって来た。

 

「失礼、そこまでッスよ!」

 

 割り込みにより、一対一の戦いが中断された。グーラとイリハの尻尾が逆立っている。

 軽く後退した相手は、サーベルを提げたままなおも俺を観察していた。

 

「回復するわ」

「いや、いい」

 

 助かったし、嬉しいのは確かだが、この状況はよろしくない。

 俺は腹に刺さったサーベルを引き抜き、自身に回復魔法をかけた。契約によって得た魔族特性も相まって、腹の傷はあっと言う間に塞がった。

 それから、俺はアイテムボックスから刀を取り出し、正眼に構えてみせた。まだやれるぞという意思を見せるのだ。

 皆も武器を構える。いやそれは待って欲しいと言う前に、外套男は剣を握る手を緩めた。

 

「善し……」

 

 言って、さっきまで戦っていた協力者は、何事もなかったかのように外套の内側にサーベルを納めた。

 風が吹く。気まずい静寂。その場に何とも言えない沈黙が降りる。外套男は黙して語らず、俺も俺ですぐには緊張を緩められなかった。

 

「……貴方、誰よ。名を名乗りなさい」

 

 毅然としたエリーゼの問いに、協力者はピタリと身体を固まらせた。

 これはまずったかもしれない。竜族とはいえ、奴隷からのこの態度。異世界常識的に、相手は気を悪くすること請け合いだ。

 相手が何か答える前に、俺は刀をしまってから口を開いた。

 

「し、失礼しました。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 今、エリーゼに注目されるのは拙い。

 感情の矛先を誘導するように、俺は一歩前に出た。

 

「むぅ……」

 

 僅かに呻き、彼は被っていたフードに手をかけ……。

 

「……え?」

 

 そうして現れたのは、美しく輝く銀の髪だった。

 天に聳える双角。夏の空を思わせる青の瞳。彫像のような白い肌……。

 俺の背に、冷や汗が滲むのが分かった。

 

 この世界において、彼の名はあまりにも有名だ。

 けれども、その姿を見た者は極めて少なく、生きているのは分かっていても半ば御伽噺的存在とされていたのだ。

 なんなら、同族にさえ伝説扱いを受けていて、その強さや能力は伝承として語られるのみ。

 

「我が名はヴィーカ。銀牙と錬鉄の子。三日月と共に生まれた竜……。名乗り遅れた、許せ」

「えっ、あ、はい」

 

 恐らく、世界最強の男。

 勇者と共に、世界を救った剣士。

 二つ名を、銀竜剣豪。

 

「お、お祖父様……? 何故ここに……?」

「……聞いてないのか?」

 

 誰あろう、エリーゼの祖父である。




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