【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
今回、最後三人称です。
よろしくお願いします。
ゲームチックなこの世界には、ジョブごとの装備制限という仕様が存在する。
剣士は槍を使えないし、武闘家は剣を使えない。いや、手に持って振り回す事はできるのだが、攻撃ヒット時にマイナス補正がかかってロクに威力が出なくなるのだ。
俺の場合、そこにモーションアシストの有無も関わってくるので、ジョブに合った武器の選択はとても重要と言えるだろう。
武器種と同じく、武器の二つ持ち――二刀流にもジョブによる制限がある。
例を挙げると、大剣士や槍使いといったジョブはそれぞれのメイン武器の二刀流に対応しておらず、片手攻撃でも一本持ち時と二刀流時でモーションアシストはそのままにダメージ計算にマイナス補正がかかるのだ。
恐らくだが、大剣や槍のような武器で二刀流をしたいなら、ソレ専用のジョブに就く必要があるのだろう。グーラが特大剣士二十になった時に生えてきた“特大双剣士”なるジョブがそれに当たると思われる。要するに、現状では短剣&大剣という組み合わせは可能だが、大剣&大剣はダメという話だ。
また、二刀流の仕様は近接武器に限らず、杖や魔導書といった魔法触媒にも制限がかけられていた。
原則、魔法触媒は一つ持ちが基本である。二つ持ちたいなら、赤魔とか青魔的な専用の特殊ジョブに就く必要がある。そうじゃないと、使用した魔法が低威力になったり暴走したり、場合によっては発動しなくなるのだ。
それは武器に装填された魔法も同様で、二刀流状態では魔法装填の補助効果は起動さえしなかった。
さて、ロリの話をするとしよう。
現在、エリーゼが就いている種族固有指揮官系上位ジョブ“ドラゴンロード”は、意外にも様々な武器を使用できる。
剣に槍に杖に扇。あと軍配なんてのもあった。要するに、なんか指揮官が持ってそうなモノなら大抵オッケーなのである。
しかし、二刀流には対応していなかった。両手に杖を持つと、魔法装填が起動しなくなるし、槍&剣という某自害系グリリバランサー(本気モード)も再現できない。
仮に、であるが。
もし、両手に杖を持てたら、エリーゼはもっと強かったんだろうなぁと、俺は常々妄想していた。
例えば、右手に攻撃杖持って左手に防御杖持つとか。炎と氷の組み合わせとか。弾幕特化二挺持ちとか。
現状でもエリーゼは我が一党の過労死枠なので、能力に不満がある訳ではない。けど、できたら面白いだろうなーとか、何となく妄想していたのだ。
で、その妄想は半分叶った。
叶っちゃったのである。
王都の神殿を転移すると雪国であった。
否、さっきまでは雪国ではなかったが、いつの間にか迷宮内の気温は極寒の札幌雪祭り状態になっていたのである。
見渡す限り、雪と氷と凍った木々と氷像と化したザコエネミー。
俺達はそれを、一つ一つ潰していた。
「マイクラの整地作業を思い出すな……」
「楽でいいッスけどね。ゆけ、ラザニア!」
「エリーゼの援護は……いらなそうじゃの」
地上でチマチマ作業する俺達の上空では、両手に杖を持って某筋力D氏のかっこいいポーズを取る銀竜の姿があった。
彼女こそ、迷宮を凍土に変えた張本人である。
「悪くない気分ね……」
彼女は、とてもいい笑顔をしていた。
戒森迷宮。
タイプは屋外型で、位階は上位。ステージ自体がボスであるという一風変わった仕様で、前に炎杖を持ったエリーゼが無残に焼き払った迷宮である。
で、そんな迷宮で今エリーゼが何をしているのかというと……。
「
四方八方に氷魔法を乱射して、ボスそのものである森全体を永久凍土に模様替えしていた。
二重吹雪が川を凍らせ、射出された二本の氷柱が地を這う獣を貫通し、氷属性の新世紀ロリバスが殺到する飛行エネミー群を氷像に変えて地に落としていく。
その手には、氷属性特化の杖が二つ。時に同時に、時に交互に、二丁拳銃ならぬ二挺魔杖で固定砲台をするエリーゼは、それはもう楽しそうに暴れていた。
「
その美貌には愉悦に満ちた笑みが浮かんでおり、表情だけ見ると悪の組織の女幹部って感じである。
けどあの娘、味方なんすよ。ていうか婚約者なんすよ。
何故、二刀流適性のないドラゴンロードのエリーゼが杖を二本持ちしていて、本来起動しないはずの魔法装填が正常に発動している上に、あまつさえ威力や効果も据え置きなのか。
その理由は、彼女の腰に下げられた深域武装にあった。
◆リギゥの偽宝剣◆
・物理攻撃力:1
・異層権能=極製模造
・補助効果1=自動修復
・補助効果2=自動最適化
それはヴィーカさんから褒美として与えられた小剣で、鞘と剣がセットになっている深域武装だった。
攻撃力、圧巻の一桁。一見、とんだハズレ深域武装に見えるが、特筆すべきはその権能である。
異層権能“極製模造”。その能力は、装備者が持つ他の武器をそっくりそのまま模倣し、複製してしまうというものだった。
しかも、複製された武器はあくまで権能判定らしく、武器を二つ持っても二刀流扱いはされないというのだ。
つまり、エリーゼの力が倍になったってワケ。
「
上空から、王都最高の魔工師が一日に一回しか撃てない大技を二発同時に発射。結果、相手は凍る。
マイナス補正も何もない純粋な足し算。威力も倍。デバフ蓄積値も倍。当然魔力消費も二倍だが、彼女は全く苦にしていなかった。
その影響か、持病のトリガーハッピーが進行していらっしゃる。
「あら、ここまでなのね……」
さんざん暴れた後、模造された杖は粒子に還り、剣の形を取って自動で鞘に納められた。
トンデモ性能の代償で、この権能には時間制限があるのだ。ある意味、これはエリーゼの時限強化技と言えるのかもしれない。もしくは無双奥義が覚醒か。
それでも、クールタイムはそんなに長くないのがズルいところ。ゲージが溜るまでノーマルエリーゼだ。ノーマルと言えど、いつも強い訳だし無問題である。
見渡す限り、一面の銀世界。
覚醒エリーゼが暴れに暴れた結果、出現した中ボスまで凍ってしまっている。すぐに動き出す訳だが、十分すぎる隙である。
「行きますよ! はぁあああああッ!」
凍った獣の群れの前、どこぞの騎士王のようにグーラが炎雷の大剣を振りかぶっていた。
狙いは凍結中の中ボスとその取り巻き。だが、その距離はあまりに遠間。以前までなら鎖付きぶちぬき丸を投擲していた距離である。しかし、今は違う。
薪割りの軌道で、ぶちぬき丸が勢いよく振り下ろされる。巨大な剣が地面を穿ったその瞬間、剣先の方へ炎雷の波が迸った。
例えるなら、炎と雷の氾濫。破壊の波に飲まれた木々やザコや中ボスは、その悉くが粒子へと還っていった。残心するグーラの眼前には、雪が溶けて焼け焦げた大地だけが残った。
まさに、全体攻撃。ゲームなら間違いなく必殺技扱いされるだろう、超強力な一撃だった。
グーラは、疑似的に飛ぶ斬撃を使えるようになった。
なんで?(困惑)
しかも、頑張れば刃状の単体攻撃やビーム状の貫通攻撃にする事もできるらしい。
なんで?(疑問)
曰く、ヴィーカさんの飛ぶ斬撃を見て覚えたと。
なんで?(畏怖)
「やるわね、グーラ」
「エリーゼのお陰で纏めて倒せました!」
氷を撒き散らすエリーゼ。
炎を撒き散らすグーラ。
文字通り、大森林が悲鳴を上げていた。
「もう全部あの二人でいいんじゃないかな……」
「わし、ホントに強くなれとるんかのぅ……」
「あの二人がおかしいだけッス。気にすんなッス」
言いつつ、裏方三人は氷漬けになっている草木やザコエネミーを潰し続けていた。
動かない敵を砕き、凍った木を伐採する。これでも経験値が入るんだから不思議なモンである。
「あ、ご主人、デカい木が動いたッスよ」
「だな。エリーゼ! 気を付けろよー!」
「分かっているわ」
当然、このような暴虐を迷宮の主が許すはずがない。環境破壊を阻止すべく、大きな木のボス本体が特撮怪獣のように現れた。邪悪な竜を斃す為、森の守護者が立ち上がったのである。
しかし、そう上手くはいかないようで、吹雪によって攻撃を封殺されたボス大樹くんはみるみるうちに雪の積もったクリスマスツリーみたいになってしまった。時折エリーゼの造った氷壁に躓いているのが哀愁を誘う。
「いくわよ……!」
クールタイム終了。再度、二挺杖モードになったエリーゼがいつもの二倍になった氷魔法をブッパする。
ボスの攻撃は届かず、邪魔すべく迫って来たエネミーも片っ端から凍っていく。ダメージは微少だが、凍結デバフがよく通っていた。
「俺達もいくぞ」
「「おぉ!」」
ザコを粗方始末したところで、砕氷班もボス戦に加わる。
巨大クリスマスツリーと化した大樹の根本に行き、霜の降りた根っこを切除していく。凍結デバフと呪詛の影響で再生速度が遅れていた。
「止まったぞ! エリーゼ、足場!」
「了解……!」
しばらく根っこを斬っていると、蓄積していた凍結デバフがカンストしてボスが動きを止めた。その正面に、覚醒が解けて一刀流に戻ったエリーゼが大きな氷壁を生成する。
階段を駆け上がるように空を走るグーラ。彼女は氷壁の頂上に着地し、足場を砕く程の踏み込みで跳躍した。
「やぁあああああッ!」
狙いは、大樹の幹にある顔らしき部位。振りかぶった大剣の刀身に炎が宿る。やがて炎の色は黄金に変じ、全体重を乗せるように思い切り叩き込まれた。
ドッガァアアアアン! 激突、次いで爆発。グーラは爆風に乗って後退し、大樹怪獣はゆっくり仰向けに倒れて云った。
「まだ死んでないぞ! フォーメーション・シータ!」
倒れたところに、弱点部位へと攻撃を入れまくる。
戒森迷宮はあくまでザコが強い系ダンジョンなので、ボス自体はさほど強くないのだ。俺達の連携攻撃を前に、ボスのHPはどんどん削れていった。
「核が見えました! 攻撃しますッ!」
「おう!」
グシャッと。グーラの掘削攻撃を最後に、ボスのHPはゼロになった。やがてその巨体は粒子に還り、俺達の身体に流れ込んできた。
溶けゆくボスの身体から離れ、集合。エリーゼもゆっくりと空から降下してきた。その顔は遊園地のアトラクションに乗った後のように満足げだった。
「それなりに楽しい迷宮だったわ……」
現在、彼女のレベルは二十九である。
あと一つレベルアップすれば最上位職になれるという状況だが、最近は皆のレベリングの為にデバッファーに専念してもらっていた。
それでもバトル貢献度はハンパないので、アタッカーじゃなくとも相当な経験値が入っている。
「ちょっと疲れました。皆は大丈夫ですか?」
ぶちぬき丸を肩に担いだグーラは、現在レベル二十五だ。
この娘はラストアタックを取る頻度が高く、DPSがクッソ高いのでレベルの上がり方が尋常ではない。
あと、最近気づいたのだが、どうやら派生ジョブは同じ位階の派生前ジョブよりもレベルが上がり易いようだった。ソドエス時代より、そこから派生した“特大剣士”の方がピンピンレベルアップしてるんだよな。
「アタシは平気ッスけど、ご主人とイリハがヤバそうッス。ラザニアも命令する前に戻っちゃったッス」
ルクスリリアのレベルは、今さっき二十七になったところだ。
一年前からそうなのだが、彼女のレベリングは現在進行形で苦戦中だ。リリィはDPSが低い上、守護獣に経験値吸われてる疑惑がある。
俺視点、バトル貢献度は高く見えるのだが、経験値システムはあんま貢献してないよ判定しているらしい。彼女の立ち回りはマジで役に立ってるのだが……。
「疲労は大丈夫だけど、気温がね、今さっき防寒ポーションの効果が切れた」
「うぅ~、動くの止めると寒いのじゃ~」
俺は件のソドエスが二十三になり、イリハは“退魔武士”が四になった。
結局、イリハの上位ジョブは“退魔士”の純粋上位互換を選択した。もう一方は指揮スキルと絡め手が増える感じだったので、下手に色々できるより今のまま強くなった方が良いかなと。
「帰ろう。こんなとこに居たら風邪引くよ」
「うッス! 飲み会楽しみッス!」
俺とイリハの防具には防寒スキルがあるのだが、それでも寒いと感じるくらいの極寒である。ドロップアイテムを拾って、さっさと帰還水晶に向かった。
ここ、ザコエネミーのドロップ壊しちゃうから上位迷宮の割にあんま稼ぎよくないんだよなとか考えながら、俺達は神殿へと転移するのだった。
〇
極寒の森から神殿に戻ってきた俺達は、いつものように受付に寄って換金をお願いした。
今回の戦利品はボスドロップのみという事情もあり、換金作業はすぐに完了した。
渡された袋にはずっしりとした金貨の重み。命懸けの生業とはいえ、いち冒険者にこんな量の金銭を渡していいんだろうかと思わなくもない。まぁそれだけ王家がドロップアイテムを欲しがってるって事なんだろう。知らんけど。
「あっ、いたいた! イシグロさん、こっちです!」
「今日も迷宮だったんですか……?」
「凄ェ! 迷宮帰りなのにいつもと全然変わりがねぇ!」
そんな事を考えつつ、転移神殿の入り口近くで同業者の団体を発見。
俺は軽く手を挙げ、彼等のもとへ歩いて行った。
「お待たせしました。自分が最後ですか?」
「はい。皆は揃ってますんで」
「じゃあ行きましょうか」
「「「うっす! ゴチんなります!」」」
今夜は冒険者達と飲み会に行く約束をしていたのである。
メンバーは羊人少女の一党に加え、割と善良寄りの若者達で固まっている。そのほとんどは鉄札級で、銀細工は俺とニーナさんだけだった。
場所はエリーゼのデートでも使った冒険者御用達の酒場。その二階を貸し切っての宴会である。
「うぉ~! マジで貸し切られてる!」
「上座下座の文化がないと気が楽だな……」
「かみざ?」
「あっ、知ってます。それリンジュのテーブルマナーですよね。位の高い人が入口から遠くの席に座るっていう」
「うわ何それ、くっだらねー!」
「まぁ適当に座りましょうか」
この酒場に全員で使える大きなテーブルはないので、数人グループで飲み会開始。俺は一旦皆と別れ、男連中オンリーの席に着いた。
予め店には宴会予約を入れていたので、出来立ての料理が次々と運ばれてくる。ラリスに酒と飯を一緒に頂く文化があってよかった。迷宮帰りには味の濃いご飯がよく染みる。ラリスビールも沁み込んできやがる。
「今日はどの迷宮に行ってたんですか?」
「戒森迷宮ですね。迷宮自体が魔物という、ちょっと変わったところです」
「上位迷宮じゃないっすか! マジパネェっす!」
「いや、確かそこめちゃくちゃ死亡率の高い迷宮だったような……」
飲み会を通じてのコミュニケーション。ぶっちゃけ、俺はこういう場が苦手な上に嫌いだった。友達となら楽しいが、それはそれである。
しかし、最近の俺は以前より積極的に他人と関わるよう心掛けていた。
俺はルクスリリアと純淫魔契約を交わした事で、魔族と同等の寿命を得たのである。長い人生、どんな事があってもいいように、いざとなったら助けてもらえるようコミュを頑張ろうと思ったのだ。
オダメ刀に比べれば、飲み代なんて大した額ではない。この程度で親密度を上げられるなら、いくらでも奢るつもりであった。
とはいえ、他人に深入りしないスタンスは崩さない。煩わしくならないよう注意を払いつつ、流されない程度には義理人情を大事にしてこうと思う。
「イシグロさんはどこで武術を学ばれたのですか?」
「以前は我流で適当にやっていたのですが、今は唯心無月流という流派の技を修行中です。リンジュのカムイバラにある銀竜道場というところで」
「なるほど、リンジュの」
「やっぱ、オレもなんか勉強した方がいいのかなー」
「ラリスに道場はないんですか?」
「一応、運動場で専門の教官が教えてるそうですよ。リンジュほどキッチリしてない感じですね」
「人気の教官はいっぱいで入れてもらえなかったりね」
「木札ん時は金なかったからなぁ。結局、オレなんも習ってないっすわ」
まあ、今回の飲み会には善良寄りの同業者しかいないので、気は楽である。
奴隷身分のルクスリリア達も受け入れられてるっぽいし、警戒レベルは最低でいいだろう。
ニーナさんを除き、いざとなったら十秒以内に皆殺しにできるメンバーしかいないっていうのも心の安定に繋がるね。エリーゼに教えてもらった竜族思考だ。
「美味ぇ!? なんだこれ、プリップリじゃねぇか!」
「えーっと、確か名前はラリスオオヌマエビだった気がする」
「んだ。けんど、こりゃあ相当な上モンだべ。オラん故郷のヤツぁもっと小っちゃかった」
「沼住みなんですね、こいつ」
「食えるようにするんに、すんげぇ手間ぁかかるんです。このデカさだと、めちゃくちゃ大変だろうなぁ」
「いやマジで美味ぇよこれ! ビールに合う合う!」
大食い冒険者の例に漏れず、運ばれてきた料理はあっと言う間に食いつくされていった。
並行して、それに見合う量の酒も消費されていた。最初に届いた酒樽はもう空だ。
飲み会は苦手でござるとか内心言ってた俺だが、場に酔ったのか気づけば彼等と同じくらい吞んでいた。流石の銀細工ボディで泥酔こそしていないが、それでもほろ酔い気分で良い気持ちである。
「イシグロさんって、恋人とかいるんですか……?」
そんな中、赤ら顔の大剣使いくんが恐る恐るといった風に質問してきた。
彼は羊人少女の幼馴染らしく、王都の暮らしに夢を見て上京してきたそうだ。どことなく高校球児っぽい雰囲気で、根っから善の陽キャって印象だ。この飲み会に俺を誘ってきたのも彼だ。
曰く、銀竜剣豪ヴィーカに憧れてるとか何とか。俺から銀竜の話を聞きたいなら、親密度をB以上にしてもらおうか。
「おい……」
「でもよぉ、やっぱ気になるじゃん? ハッキリさせときてぇし?」
「まあ、気になるのは確かだけど……」
半ば酔っぱらっている剣士くんを、同じ一党に所属する魔術師くんがたしなめていた。
申し訳なさそうに、同じテーブルの男子全員から如何にも興味津々とった視線が突き刺さる。
「ええ、まあ」
対し、そう言って俺はルクスリリア達のいるテーブルへと視線をやった。
愛しの彼女達は、ニーナさんや羊人少女達といった女冒険者達と女子会めいてお話をしていた。
なんだろう、同じ冒険者なのにあっちは凄い華があるぞ。てか、俺のいるテーブル、華無さ過ぎじゃね?
「や、やっぱり、そうだったんですね……」
俺の視線の方を見た彼等は、一様に息を飲んで愕然とした面持ちになっていた。
ロリコンの概念のない異世界、何より先に驚きがくるのだろう。俺に集まる視線には、そう悪い感情は含まれてはいないように感じた。
「ほ、他の冒険者には黙っときますね……!」
「そうですね。あまり変な噂をされたくありませんから」
隠してないが、知られて得のある事じゃない。俺は薄い笑みを張り付けつつ、この場の冒険者に念押しした。言外に、ワシの女ぁ傷つけたら黙っとらんぞという意思を籠めて。
彼等は黙ってコクコクと首を縦に振っていた。脅しじゃない、お願いだ。
「に、にしても、イシグロさんって凄いモテますよね! オレ、羨ましいっす!」
「モテ?」
かと思ったら、剣士くんにいきなり変な事を言われた。
なんじゃそれ、完全にワザップイシグロである。この俺がいつモテ……いや、ルクスリリア曰くミアカさんは俺に好意を持っていたそうだが。実際、一晩お誘いされたし。断ったけど。
まぁ興味のない人に好かれても迷惑なだけである。正直、ロリ以外の女性からどう思われようがどうでもいい。
「なんか、駆け出しの時に牛人女のお誘い断ったとか聞いたっす! あれホントなんすか?」
「お、オラもモテモテになりてぇだ。どしたら女の子と仲良くなれるんだべ?」
「バカお前、イシグロさんくらい強ぇと何しなくても引く手あまただよ」
「あー、やっぱそーなんすね!」
異世界のモテ要素は、かなりの割合を強さというパラメータが占めているらしい。もしくは、そのように見える外見だ。
確かに、俺は冒険者の中では銀細工という上澄みの証を持っている。それでいうと、一応モテ要素の一つを有してはいるのだろう。
けれどもだ。先日ヴィーカさんと戦った後に、俺ツエーとイキる気にはなれなかった。いや、最初からそのつもりはないのだが。
「なんかこう強くなる秘訣ってありますか?」
「秘訣ですか?」
今度はギラギラした視線が集まってきた。皆、強くなる方法には貪欲なようだった。
他の荒くれ冒険者とはこういうトコが違うんだよな。向上心のある若者は応援したくなる気持ちになる。
「秘訣かぁ……」
少し考えてみる。
仮にも、俺は一年以上迷宮に潜り続けた冒険者である。一年冒険者やる人が少ないこの界隈では、期間はともかく質で言えばベテラン相当なはずである。
当初は店売り装備のまま単独で潜りまくってて、銀細工になってからも暫くは店売り武器でハクスラしていた。今になって思うと、かなり危なっかしい。
所詮、どこまで言っても俺はチート持ちのイキり転移者である。そう偉そうに教授できる事なんか無い。
その上で、強いて言うなら……。
「経験?」
「経験……」
見ると、真面目な魔術師くんが俺の発言をメモしていた。
チート持ちの俺でも、これは間違いないと思う。ドクストおじさんもそう言ってた気がするし。
スポーツでも何でも、慣れは前提だと思うのだ。その為の経験って話で。
「あと、練習?」
「ふむふむ、練習……」
間違いなく、これも重要だと考える。
これに関してはどこぞの死神スナイパーも言ってるから間違いないはず。
あえて付け加えるなら、何をどう練習するかって話だが、その辺は検索各々で。
「えっと、なんか……」
「その……普通?」
「失礼だぞお前ら」
「まあ、それくらいしか言えませんね、自分からは」
それからは、また他愛もない男子トークに花を咲かせた。
いやホントに気のいい子達だな。素直に飲み会楽しんでる姿は何とも微笑ましい。
昭和のおじさん達が飲み会文化を貴ぶ気持ちが分かる気がする。まぁ俺は好きじゃないですけど。
「美味かった~! もう腹いっぱいだぜぇ……!」
「貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。今後の参考にさせていただきます」
「「「ゴチんなりましたー!」」」
宴もたけなわ。そうこうしていると、夜は深まってお帰りの時間である。
呑み足りない人は二次会に行くようだが、俺は行かない。そろそろロリ成分を摂取しないと死ぬぜ。
「イシグロさん、昨日に続いて、本日もありがとうございました。またよろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそ」
去り際、ニーナさんにお礼を言われた。彼女が言っているのは、さっきの飲み会代と昨日の模擬戦の事だろう。
ヴィーカさんとの邂逅以降、俺は前までのように週二回の迷宮に戻し、同じく空いた時間を鍛錬と模擬戦に振っていた。で、昨日は久々にニーナさんとタップリ殴り合ったのである。
それというのも、ヴィーカさんとの戦いにより、トレーニング熱が再燃した為だ。以前は皆を守る為に鍛錬していたのだが、最近はトレーニングを重ねてお強い武人に近づく事に何とも言えない楽しさを覚えるようになっていたのである。
あと、前にトリクシィさんに見せてもらった飛ぶ斬撃、仮称【流星刃・一式】はめちゃくちゃカッコよかったので、大真面目にそれの練習なんかもしている。なんか知らんがグーラまでできるようになったのだ。俺も雷十太先生みたいな技を使いたい。
「それでは、私もこれで……」
言って、彼女は会釈して立ち去ろうとした。その時、ふと彼女の顔に違和感を覚えた。
何となくだが、表情に陰りがある気がしたのだ。思い返すと、昨日の模擬戦もいつもより動きにキレがなかったような……。
「ニーナさん、どうかしましたか?」
「え? あ、いえ、何でもありませんよ……?」
たおやかに微笑むニーナさんだが、どうにもお堅い表情である。
ニーナさんといえば、俺にとっては大恩人である。困っているのであれば、受けた恩の分くらいは返したいところ。
「そうですか。困った事があればいつでもご相談ください。力になりますよ」
「ありがとうございます……」
そうして、ニーナさんは今度こそ歩き去って行った。
恩返ししたいのはその通りだが、かといって深入りすべきではないだろう。いざとなった時に力になりさえすればいい。
「今日のニーナ先輩、なんか変だったッス。呑んでる時もたまに周りを気にしてたっつーか……」
「注意力が散漫でしたね。どことなく外への警戒心が強かったように思います」
席を同じくしていた皆も、彼女の異変には気づいているようだった。
まぁニーナさんは他淫魔より大人な人格をしている。ヤバい事になる前に相談してくれるだろう。
「おぉ、イシグロ殿ではないか!」
と、またいきなり声をかけられた。
声の方を見ると、向かいの店から褐色肌の鬼人女性が歩み寄ってきた。いや、角の形が鬼人っぽくない。牛鬼人か。
リンジュ製の銀細工に、腰にあるのは長めの太刀。記憶を掘り起こして、思い出した。この人、前に模擬戦をした牛鬼人のイスラさんだ。パンフに曰く、確か剣鬼流の使い手だった気がする。
「こちらこそ、お久しぶりです。イスラさん」
「桜闘会での活躍は現地で見させてもらったぞ。応援団もいたりして、すごい人気だったじゃあないか」
「パーティ会場ではお見かけしましたが、闘技場にもいらっしゃったんですね」
「うむ。つい先日までアリエル様についてリンジュにいたのだ。それで、最近帰ってきてな。しばらく暇を与えられた故、飲み屋を回っている最中だ」
「へえ、アリエルさんと……」
「それより聞いたぞ! イシグロ殿、淫魔王国でも武功を上げたそうではないか!」
すると、彼女は満面の笑みのまま肩を組んできた。馴れ馴れしい、というか酒臭いぞ。だいぶ酔ってるなこの人。
「ええ。それなりには……」
「謙遜するな。カムイバラに続き大手柄ではないか。奴も鼻が高いだろうよ」
「やつ?」
問うてみると、イスラさんはにやりと口の端を歪めてみせた。
「ところで、ミアカとは最近どうなのだ?」
「ミアカさんですか?」
質問を質問で返され、俺は僅かに首を傾げた。何故、ここでミアカさんの名前が出て来るのか分からない。
「幼馴染でな。あいつ、桜闘会の後に銀竜道場に入門したのだ。知らなかったのか?」
「そうだったんですね」
「ん~? てっきり文通くらいしてるものかと……」
なるほど、ミアカさんは俺の妹弟子になったのか。無月流には格闘術もあるし、武闘家っぽいミアカさんも習って損のない流派だろう。
肩に置かれた腕を外しつつリンジュの出来事を思い返していると、ふと過るものがあった。醤油である。異世界醤油といえば、最近見ないあの人だ。
「ところで、最近王都でシュロメさんをお見かけしないのですが、彼女が今どこにいらっしゃるかご存じありませんか?」
「ん? ああ。今、奴はフライシュ領にいるよ。フライシュ家は美食貴族で有名だからな。味噌と醤油の布教に行ったのだ」
「へえ」
フライシュ家と言えば、交流会で一緒した貴族子息のミラクムさんの実家じゃないか。
何にせよ、醤油の輪が広がるのは嬉しいものだ。このまま異世界に醤油を使った料理が増える事を祈るばかりである。
「ではな。機会があればまた模擬戦をしよう。私も強くなったからな。次は負けんぞ」
「はい。お達者で」
と、軽くお話をして、イスラさんと別れた。
後輩とのコミュも大事だが、強者との縁も大事にしないとな。
「あ、そういえば牛乳切れてたな。帰りに乳屋寄ろうか。他なんか欲しいモンある?」
「で、では。フルーツ牛乳を頂いてもよろしいでしょうか?」
「サウナ上がりのフルーツ牛乳は最高なのじゃ」
「どうせ買うなら淫魔王国産ッスよ」
「エリーゼは?」
「私もフルーツ牛乳ね」
「じゃあ大瓶で買う方が安上がりじゃの」
ついでに買い物などしつつ、真夏の夜の帰路を歩く。
しばらく歩いて借家に到着すると、玄関前に配達人の恰好をした女性の姿があった。
「おや、ちょうどよかった。イシグロさんですね。お手紙を預かっておりますので、ここにお名前を書いて頂けますか?」
「はい」
手紙を受け取り、サインする。確認を終えた配達人は、一礼してから歩き去って行った。
何の手紙だろうと思っていると、グーラが俺の服の裾を引っ張ってきた。
「ご主人様、あの人ジノヴィオス殿下の部屋に案内してくださった侍女さんですよ」
「えっ、マジか」
「そうかの? 全然違う匂いがしたんじゃが……」
「歩き方に独特の癖がありました。気付かれませんでしたか? ご主人様から離れる時、二歩分足音を消していましたよ」
「普通気づかねぇッス」
「末恐ろしい子ね……」
つまり、この手紙は第三王子案件って事なのか。そう思えば、否応にも緊張してしまう。
誰にも見られないよう、俺は借家に入ってから手紙を開いた。
三つ折りになった手紙を開け、そこにエリーゼのチート魔力を注いでもらう。すると、当たり障りのない内容の文字列が消えて、新しい文字が浮かび上がってきた。
「なんて書いてあるんスか?」
「なんか、会って話そうぜって書いてあるな。てか、これもタイプライターの字だ」
「あら、意外と早いわね」
「何の用でしょうか?」
「色々と指定あるみたいじゃぞ」
うん、まぁそれはいいんだが……。
「なんで喫茶店で待ち合わせなんだろう?」
しかも、オープンしたての店……。
しかも、服装はラフな格好で……。
しかも、何故か俺だけ……。
「怪しくない?」
「怪しいというか、意味が分からないわね……」
まぁ、流石に切り捨てられるとは思っていない。
とりあえず、失礼にならない塩梅のカジュアルな服を用意して、それから店の下見もしておこう。あと、新しい靴も買わないと。
いや、ていうか……。
「デートみたいじゃん……」
いやいや、気のせいだろう。
なんて思いつつ、俺は来るべき王子との邂逅に向けて準備を進めるのであった。
〇
夜の王都、西区。
大衆向けの酒場が軒を連ねる通りを、二人の冒険者が歩いていた。
羊人少女一党の男子組。大剣使いの少年と、真面目な魔術師少年の幼馴染コンビである。
「いやぁ、まさかイシグロさんがニーナさんと恋仲だったなんてな……」
「驚きではあるけど、お似合いではあるね。鍛錬場から出たニーナさんはいつも満足そうだったから」
「何度も、だもんなぁ。お前知ってるか? 交流会に行った人から聞いたんだけどな。淫魔とヤると死にかけるらしいぜ……?」
「知識としてはね。イシグロさんはそれを経験した上で、ニーナさんとお付き合いを……」
「噂じゃあ、交流会を通じてニーナさんと恋人になったらしいな」
「魔術師の知り合いが交流会で淫魔の恋人を作ったって、すごいドヤ顔してたよ……」
「オレも行きたかったなぁ。交流会……。あぁ羨ましい! 俺もニーナさんみたいな彼女欲しいぜ~!」
「まぁ、うん……僕も軽く寝取られた気分だよ。はぁ……」
「……なぁ、今日娼館行かねぇか?」
「いや、カリッセが何て言うか……」
「一党の金には手ぇつけねぇよ。いいじゃねぇか、昇格したんだぜ? 俺達」
「そ、そうだね……行こうか」
「とりま、羊人のいない店探そう」
「賛成。こういう事もあろうかと、良さげな店は事前に調べてあってね」
「流石だぜ、相棒!」
なんて会話をしつつ、少年達は大人の階段を上りに向かうのであった。
「うぅ、ニーナさん……!」
その会話を、影から盗み聞きする者
「うぅ、イシグロさん……!」
二つの影は、交わらず。
けれどもよく似た想いを抱いていた。
「ぼくが先に好きだったのに……!」
「ウチが先に好きやったのに……!」
人知れず、ソレ等は貯め込んでいた。
当人の知らぬ間に、少しずつ。
とても、ドロドロした激情を。
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◆二刀流について◆
・適性のあるジョブでのみ威力を発揮し、適性の無いジョブでは攻撃力にマイナス補正がかかる。
・イシグロが桜闘会でやった槌&剣は戦士系上位ジョブでの荒業。マイナス補正がかからない代わりに、プラス補正もない状態。
・魔法使い系も同様で、両手に杖を持っても意味がない。それどころか、上手く魔法が発動しなかったりする。
・魔法装填も同様。使うなら専用のジョブでやらないといけない。指揮官ジョブに二刀流適性のあるジョブは存在しない。
・装備に関しては別で、腰や背中に複数の武器を身に着けていても二刀流判定はされない。二つの武器を手に持つ事で二刀流判定になる。