【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告も感謝です。ありがと茄子!
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
今回は三人称です。
よろしくお願いします。
冒険者の男はモテる。
何故ならば、この世界は強い男がモテるからだ。
近所の森に魔物が生息し、いつ何処で迷宮の主が出現するか分からないカジュアルファンタジー風バイオレンス異世界である。そんな世界の男のモテ要素とは、何よりも実際に強い事と強そうに見える外見こそが要だった。
無論、例外はある。戦闘力や見てくれは度外視で、性格の相性やパートナーの経済力を重視する人は確かに存在する。しかし、強さに対する漠然とした憧れは、大なり小なり殆ど全ての異世界人に持ち合わせのある感情だった。
結論、この世界ではイケメンの御曹司やスレンダーな優男より、筋肉ムキムキマッチョマンや抜き身の刃のような大剣豪がモテるのだ。
また、強い男がモテるのと同様に、強い女もモテるのがこの世界である。
それは男性のモテ要素がそっくりそのまま女性に当てはまるのに加え、強靭な肉体が母体として魅力的であるという種の本能に根差した理由が為であった。
だからこそ、男性はマッチョなタフガイが人気なように、女性は豊乳の安産型体型が人気なのである。
これまた当然として、女は乳より髪だろ派や尻より脚だろ派といった例外も存在する。それでもロリコンという概念自体が認知も理解もされない程度には、この世界の男は敬虔なるデカパイ・デカケツ教の信徒であった。
故に、男女共に冒険者はモテるという話である。
ここで、モテモテ女冒険者の中から、今王都で人気な女冒険者を紹介しよう。
一人目。グウィネス部族連合出身、鬣犬族の銀細工持ち冒険者。“破砕”のエフィーエナ。
元々、彼女は寄ってきた男に鬼教官めいた厳しい態度を取っていたので、モテるモテない以前に怖がられていた。が、どういう訳か去年の冬からそういった態度は鳴りを潜めるようになり、身だしなみにも気を遣うようになった今は人気が急上昇しているのだ。
なお、当人の性格は全く変化していないので、「あたしと番いになりてぇなら力ずくで屈服させてみな!」というスタンスは継続している。今現在、彼女を射止めた男はいない。
二人目。リンジュ共和国出身、牛鬼族の銀細工持ち冒険者。“黒鉄”のイスラ。
褐色巨乳サムライガールというエキゾチックな魅力は、王都男子の好みにド直球のド真ん中ストライク。止まり木同盟に所属しているというのも、その人格の善良さを保証していた。
あまつさえ、彼女は根っから武人な性分をしていると同時に、その所作からは高い教養を感じさせるのである。武人と麗人、そのギャップが王都男子を魅了して止まない。
そして、モテモテ冒険者の話をするならば、この剣士は外せない。
誰あろう、淫魔剣聖シルヴィアナの娘にして、異世界では極めて珍しいメガネっ娘属性を持つ淫魔。
王都アレクシスト出身、淫魔族の銀細工持ち冒険者。“風舞”のニーナである。
先の二人も人気だが、ニーナのモテっぷりは頭一つ抜けている。
どれくらいモテるかというと、仮に王都における「初めて恋をした相手」でアンケートを取った場合、確実に一位を取っちゃうくらいのモテっぷり。
けれども、現在に至るまで彼女が誰かと恋仲になったという噂は一度として立つ事はなかった。淫魔という種族柄、特定の男と長く続くのは考え難いので、むべなるかなであった。
畢竟、ものすごいモテるけど、良くも悪くも恋人がいないのがニーナという冒険者だった。ある意味、高嶺の花なのである。
「なあ、聞いたかよ……」
そんな中、ニーナに関するこのような噂が広がっていた。
「イシグロとニーナ、付き合ってるらしいぜ」
季節は夏の真っ盛り。事実無根のこの噂は、あっと言う間に界隈全体へと伝播していった。
噂の出所は不明。当然、例の二人組やあの場にいた新人冒険者が言いふらした訳ではない。偏に、何処か誰かの何気ない会話が噂好きの誰かの耳に入った結果だった。
そして、センセーショナルな噂に尾ひれが付きまくるのは、日本も異世界も同じである。
やれ、異種族交流会で二人は愛を誓い合ったとか。
やれ、夢魔討伐はニーナを傷つけられてキレたイシグロがやったとか。
やれ、淫魔女王と謁見して、イシグロとニーナは特別な契約を結んだとか。
淫魔が男と真剣交際なんてのは、イシグロがあの奴隷達と純愛イチャラブ婚約確定ハーレム関係を築いている……などという意味不明なゴシップと同等の与太話である。
しかし、東区随一の仲良し夫婦でお馴染み淫魔剣聖シルヴィアナの娘であるニーナなら、全くあり得なくはないのではと思われていた。
「くそぅ、くそぅ! イシグロめ! 羨ましいぜコンチキショー!」
「いやでもよぉ、イシグロなら……なぁ?」
「同意ですね。逆に、彼女にはイシグロさんこそ、イシグロさんには彼女こそ相応しいでしょう」
しかも、お相手はあのイシグロである。
去年、唐突に現れて数々の伝説を残した迷宮狂い。おまけにリンジュでも淫魔王国でも戦功を上げた当代最優の英雄候補。
タッパの無い如何にも弱そうな地味男だが、それでも奴の強さを疑う同業者はいない。誠実な人柄や、敵対者を
箍の外れたやべーやつなどという評価は、今は昔。つまり、現在、イシグロという男は、見た目は悪いが強くて優しい超優良物件と見られていた。何気に、イシグロは一部の王都女子から密かな人気を獲得していたりする。
そこに、例の噂である。
イシグロもニーナも異性から人気がありつつ、同性からも評判が良かった。
まぁあの二人なら……と、けっこう祝福されていたのである。
「おい、ニュースだニュース!」
「なんだよ、今それどころじゃねぇって……」
「そのイシグロの話だぜ!」
そんな状況で、新たな爆弾が投下された。
「イシグロの奴、浮気してやがった!」
なんと、洒落た格好をしたイシグロと
これには例の噂を信じている者の全てが驚愕する事となった。英雄色を好む説は異世界でも同様に有力だが、それでも浮気はどうなのよという考えもまた存在する。
やがて、転移神殿はイシグロ擁護派とニーナ可哀想派に分かれて激しい議論が交わされる事となった。
事実確認はそっちのけで、いつの間にか全部の噂が真実扱いされていた。
「なんだって……?」
騒然とする神殿の中、ゆらりと席を立った冒険者が一人。
ぐらり、ぐらりと、その冒険者は、幽鬼のような覚束ない足取りで神殿を出ていった。
「確かめなきゃ……。そんなの、あんまりじゃないか……」
灼熱の太陽が、漆黒の影を見下ろしていた。
〇
「つけられてる……?」
「はい……その、気のせいかもしれませんが……」
時は例の噂が広まりきって、イシグロと第三王子が喫茶店で再会した後のこと。
今、西区で最も熱い淫魔は、同じく最も熱い男に相談を持ち掛けていた。
「つける……とはどういう事でしょう?」
「あー、えっと、何て言えばいいんスかね」
「
「そーゆーの、遊女にはつきものでのぅ。向こうにいた時に何回か捕物現場を見た事があるのじゃ」
それは、ストーカーについての相談だった。
王子と会議をした翌日に、相談したい事があるとイシグロの借家に訪問してきたのである。
「そのこと、ギルドには相談されましたか?」
「いえ、まだです。ただの勘ですので……」
ストーカー被害と言えば。イシグロにとっても苦い思い出である。
以前、同じく西区でルクスリリア達を狙った銀細工
当時、イシグロは知り合いの冒険者のツテを頼り、ギルドに協力してもらってラリス公認の集団リンチを決行して暴力的に解決していた。
「なるほど、だから言うの渋ってたんスね」
「はい。自分で探ってみたのですが、何も見つからず。そもそも、ただの自意識過剰かもしれませんから……」
「いえ、ご相談頂いて幸いでした。もしホントに気のせいだったら、その時はそれで良かったと思いましょう」
「申し訳ありません。えーと、ありがとうございます……」
イシグロにとって、ニーナは色々とお世話になってる恩人である。恩に縛られている訳ではないが、義理人情を大事にすると決めた手前、彼女を放っておくつもりはなかった。
そも、もし件のストーカーが実在するのであれば、銀細工のニーナに発見されないあたり相当な手練れなのは確定である。いざとなったら、イシグロは自身の持つ武力を遠慮なく行使する所存だった。
「犯人を捕まえるには専門家の力を借りるべきだと思います。さっそく、ギルドに行って依頼を出しましょう。西区の斥候冒険者を総動員すればすぐに解決できるかと」
「そ、それは……」
そうしてアイデアを出したイシグロだったが、当のニーナは眉尻を下げて困ったような顔をしていた。
気付くと、イシグロは一党の皆からじっとりとした白い目を向けられていた。
「ご主人、ニーナ先輩はこの事あんま知られたくないんスよ。そのへん理解しとくべきッス」
「あ、そうか」
「すみません。すみません……」
であれば、と次の作戦を考える。
不特定多数に知られたくないなら、それこそニーナにとって知られてもいいと思える間柄の人に協力してもらえば……。
思考の末、イシグロは口を開いた。
「同性の友人に、斥候を得意とする冒険者はいらっしゃいませんか? その方なら、ニーナさんも大丈夫ですよね?」
「同性ですか? そうですね……」
ニーナは銀細工持ち冒険者であり、迷宮踏破数はともかく期間の方はイシグロよりもベテランである。
加えて、彼女は特定の一党に入らない単独を貫いている。人を呼ばれて野良一党に加わる都合上、知り合いは多いはずだ。
その事を踏まえて問うてみると、ニーナは顎に手を添えて考えこんでいた。
「いるにはいるのですが、王都の冒険者ではありませんね。それに、まだ迷宮探索をやってるかも分からなくて……」
「なるほど、わかりました」
ギルドもダメ。冒険者もダメ。知り合いもダメ。
ならば、取れる手段は一つである。効率を気にしていただけで、元より躊躇っている訳ではなかったのだ。
「では、俺達で探しましょうか」
そういう事になった。
後日、黒剣一党は王都を歩くニーナを後ろから尾行していた。
作戦は単純、釣り餌である。ニーナをつけながら、ニーナをつけている人を見つけるのだ。これにはルクスリリアのスケベセンサーやグーラ&イリハの獣の嗅覚が有用であると思われた。
「どう? 変な事考えてる人いる?」
「ニーナ先輩見た瞬間、どいつもこいつもッスね」
「当てにならないじゃない……」
「隠れやすそうなところにはいませんね」
「言うて天狐って他ほど鼻が利く訳ではないからのぅ」
そうして午前中ずっと尾行してみたが、怪しい人は一人も見つからなかった。
それどころか、当のイシグロが一番怪しかった。しかし、イシグロが怪しいのはいつもの事なので、王都っ子からするとコイツの奇行には慣れていた。
「やはり、私の思い込みだったのでしょうか……」
「いえ、プランBでいきましょう」
「プラン、ビー?」
「煽って尻尾を出させるんです。今度は俺が釣り餌になりましょう。ニーナさんがお嫌でなければですが」
という訳で、午後はイシグロとニーナで並んで歩き回る事となった。
できるだけ恋人っぽく見えるよう、お互いちょっぴり距離を近くして。手を繋ぐとか腕を組んだりこそしていないが、親しげにお喋りする二人は誰がどう見てもカップルに見えた事だろう。
どことなく、二人に集まる視線が妙に多かったような気がするイシグロだった。
「どうですか?」
「敵意らしい敵意はありませんね」
しかし、これも上手くはいかなかった。
イシグロの予想では、ストーカーはニーナと一緒にいる男に嫉妬全開で敵意を丸出ししてくるとばかり思っていた。が、実際そう思い通りにはならなかった。
並行して皆にも後方から追跡してもらっているのだが、怪しい奴は見つかっていないようである。
「おっ、あれ? イシグロじゃん!」
さて次はどこ行こうかと思っていると、突然声をかけられた。
犬人斥候のウィードである。彼には例のストーカー事件でも手助けしてもらった。即解決したいなら、イシグロじゃなく彼にこそ相談すべきではある。しかし、ニーナ当人はあまりこの事を他者に知られたくはないと言っていた。
なので、イシグロはニーナを庇うように前に出た。次いで口の前で人差し指を立て、日本でも異世界でも共通の「内緒」のジェスチャーをしてみせた。
「あ、ニーナさん……? あー、えっと?」
そんなイシグロとニーナを見て、ウィードは訝しげな表情になっていた。
それから、何故だかウィードは苦み走ったナイスガイ・スマイルを浮かべてみせた。
「へっ、まぁ良かったんじゃあねぇの」
「はあ」
言って、犬人斥候はクールに去った。
笑顔の意味が分からず、二人は顔を見合わせて首を傾げていた。
「本日はありがとうございました。皆さんのご協力のお陰で、なんだか元気になれました」
「いえ、今後も何かあれば言ってください」
時は過ぎ、空はすっかり夜である。
イシグロの作戦がガバかった為か、もしくは今日はストーキングされていなかった為か。結局、その日のうちに例のストーカーが見つかる事はなかった。
事態は解決していないが、他者の援助を受けたニーナは元気を取り戻して去って行った。
「ふむ、ちと心配じゃな。こういうの、ほっとくとロクな事にならんのじゃ」
「そうかしら? 見つけ次第、殺せばいいだけでしょう?」
「ニーナ先輩に限ってそうひでぇ事にゃあならねぇとは思うんスけど……」
「お家に入られてるとかだったら、ゾッとしますね……」
イシグロ達も帰路を歩く。今日は一日中歩きっぱなしだったが、流石異世界ナイズドされた身体は全く疲労していなかった。
帰路、商店街を見て回る。威勢の良い店主の声に導かれるように、イシグロ達は色んな店を見て回った。
「ご主人様……」
「ああ」
その途中である。イシグロのレーダーと、グーラの獣の勘に反応があった。
気づかれぬよう手振りで合図し、いつも通り買い物を続け、そのまま家に向かうべく近道の路地裏に入った。
王都の路地裏は複雑である。入り組んだ脇道を歩き、何度か曲がって自身を含めた一党の皆に隠形魔法セットを付与した。音を消し、匂いを消し、最後に透明化を付与。それから、エリーゼに王笏を装備させた。
準備が完了し、動き出す。追跡者を捕まえるのだ。
敵の位置は分かっている。路地の出口からイシグロ達が姿を現すのを先回りして待っているのだ。ならば、大きく迂回して回り込めばいい。
そして、発見した。気配を消し、影に紛れる漆黒の外套。山高帽を深く被り、目元から下を同色の布で隠している。
イシグロ視点、ソイツはどことなくブラッドボーンの狩人様に見えた。
「先ほどから見ているようですが、自分に何か御用ですか?」
背後に立ち、魔法を解いて声をかける。まだ剣を抜いてはいない。
瞬間、黒外套は振り向き様に攻撃をしかけてきた。躊躇がない、ナイフによる反射斬撃。当然、イシグロはこれをスウェイで回避し、剣を抜いて反撃した。
一閃、防がれる。間違いなく、銀細工級の使い手だ。だが、この間合いで負けるイシグロではなかった。返す刀でナイフを跳ね上げ、一歩踏み込んで相手の腹に肘鉄をぶち込んだ。
「正当防衛だ! 言い訳あるなら聞くが!?」
後退する黒外套に四つの拘束攻撃が飛来する。ルクスリリアの投網。エリーゼの魔法。グーラの鎖に、イリハの結界術。正面からは、イシグロが蜻蛉の構えで突貫。どれか一つでも受けたら、確定でお縄である。
刹那の逡巡、黒外套の双眸が赤く光った。
「【
次の瞬間、さっきまで立っていた黒外套の姿が消失し、全ての拘束攻撃が空を裂いた。
しかし、銀細工級のイシグロ達が逃げる敵を見失う事はなかった。闇に慣れた瞳には、影から影に飛び渡るコウモリの姿が見えていた。
「逃がすな!」
「はい!」
「任せろッス!」
すばしっこく逃げるコウモリを追い、路地裏を駆ける。
そんな中、逃走するコウモリに最も接近していたのはルクスリリアだった。小さな身体を活かし、自由自在な魔力飛行で闇夜のコウモリをぴったりマークし続けている。
「合わせろッス!」
「はい!」
リリィが投げた細剣を、コウモリはすんでのところで避け切った。回避方向に電光が迸る。着弾。グーラの偏差雷撃を受け、翼を焼かれたコウモリは元の人型に戻ってゴロゴロと地面を転がった。
そこに再度拘束攻撃が殺到。再度、黒外套の目が赤く染まる。迫る拘束攻撃を横っ跳びに回避した彼奴は、小さなネズミに変身して家の隙間に潜り込んでいった。
敵の反応は地下に向かって遠ざかっていた。流石に、これ以上は追跡できない。
「あー、逃がしちまったッスね」
「申し訳ありません。加減をすべきではありませんでした」
「いや、こればっかりは仕方ない」
「それにしても、よく分からん変化術の使い手じゃったのぅ」
「あれは変化術じゃないわ。変身能力、吸血鬼族の権能よ」
「吸血鬼……」
なかなかの隠匿性能。銀細工相当の戦闘能力に、種族固有の特殊能力。得体の知れない、静かな激情。
証拠はないが、イシグロはあいつがニーナのストーカーであると直感していた。昼に見つからなかったのは、ニーナの前だったからか、いなかったからか。
「とにかく、この事はニーナさんに伝えよう。被害が出たんだ。彼女の許可を貰えたらギルドにも報告したいけど、何か証拠になるモンとか落ちてないかな。あいつのナイフは?」
「地面に落ちた時に消えていたと思います」
「吸血鬼の権能ね。奴等、血で武器を作れるのよ」
「いや強ぇな吸血鬼」
さっそくニーナに報告しようと、イシグロ達は転移神殿へ向かうべく王都の通りに出た。
転移神殿に通じる大通りは、先ほど路地裏で戦闘があったとは思えないくらい常と同じ猥雑な雰囲気をしていた。屋台で吞んでいる同派閥の衛兵長に、通り過ぎざま
「あっ! イシグロさん! よかった!」
すると、群衆の中からイシグロの名を呼ぶ声が聞こえた。
目の覚めるような赤毛に、前髪の一部が銀色の半竜人。流石のイシグロとて、姉弟子の名前くらいは憶えていた。
「アンゼルマさん? お久しぶりです。どうかされましたか?」
銀竜道場、唯心無月流・創始者の娘。アンゼルマ・ヴォアール嬢である。
走り寄ってきたアンゼルマの表情は、焦燥感に満ちていた。
「いきなりごめんね! ミアカちゃん見かけなかった!?」
「ミアカさん?」
「昨日から宿に帰ってこないの! その、ショック受けちゃったみたいで……!」
なんか、最近知り合いと再会する事が多い気がする。
混沌とする状況を俯瞰しつつ、イシグロはそんな事を考えていた。
王都の夜は、まだまだ続く。
〇
同時刻、西区歓楽街にて。
一人の白虎美女が、生気の無い目で街を徘徊していた。
その足取りはゾンビのように緩慢で、さながら生きる希望の全てを失ったかのようである。
「へへへっ、お姉さん何処行くの? 王都初めて? 案内するよ?」
「へへへっ、今暇? どこ住み? てか今暇?」
「へへへっ、どしたん? 話聞こか?」
そこに、何時かの犬人猿人鳥人の異世界チャラ男ブラザーズが声をかけた。
対し、白虎美女は無反応に通り過ぎようとして、その肩を性欲の強い猿人男にぶつけていた。
「おっと? へへっ……」
これはチャンスである。
性欲の強い三人組は、これでインネン付けて超ひどい閉じ込め回し屈辱トランスしつけ合意なし行為ができるじゃあないかと、内心ほくそ笑んでいた。
肩をぶつけられた猿人は、意気揚々と白虎美女の肩を掴もうとした。
次の瞬間である。
「私の友人に何か御用ですか?」
横合いから声。鼻が利く犬人が気付く、女だ。
振り向くと、そこには眼鏡をかけた銀細工淫魔の姿があった。
「楽しく遊ぶのなら、私
彼女の名を、王都民はよく知っている。誰あろう、“風舞”のニーナである。
目が合う。その双眸に、位階相応の狂気が渦巻いている。それは深い奈落の底に似て、迷宮童貞の彼等は闇に潜む怪物に睨まれたかのような錯覚を覚えた。
「「「ひえーっ!」」」
いくら美女でも、キレた銀細工は勘弁である。三人組はスタコラサッサと逃げていった。
一瞬不満そうな顔をした後、ニーナは空虚な目で事を眺めていた白虎美女に視線を合わせた。
「大丈夫ですか? その、あのままだと貴女の望まぬ事態に陥りそうだったので……」
伽藍洞になったミアカの目は、色もなくニーナの瞳を反射していた。
「あっ、すみません。申し遅れました。私の名はニーナです。見ての通り淫魔族ですが、王都生まれの新しい淫魔なので安心して下さいね」
ニーナが名乗りを聞くと、ミアカの瞳に徐々に生気が戻り始めた。
猫系獣人特有の目が見開かれ、ニーナと名乗った淫魔を見据えた。
「にぃ、な……?」
こうして、二人は邂逅したのである。
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作者のやる気に繋がります。
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