【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰でやる気に繋がっております。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は一人称。最後だけ三人称です。
 よろしくお願いします。


炉利ニ響ケ

 例の噂から始まった騒動は、一応の決着を見た。

 転移神殿での大乱闘の後、俺とニーナさんは改めて交際してない事を宣言し、何とかかんとか収めたのである。

 

 色んな事情でスピード婚が盛んな異世界である。恋愛マスター・ミアカ氏曰く、ラリスでもリンジュでも知り合いから交際までの距離は遠く、交際から結婚までの距離は近い。つまり、他の人からすると俺とニーナさんは結婚間近に見えていたというのだ。

 いや、だからって噂一つでそんな盛り上がるんじゃあないよと。そもそも他人の恋路とか別に面白くないだろと。

 

「ほ、ホントのホントに何も無かったんですか……?」

「はい。ただの友人同士です」

「えぇ……?」

 

 で、男と淫魔が二人揃えば、何も起きないはずがないと……。

 仲が良いのは確かだが、俺と彼女の間に恋愛的感情による交合は決してない。それだけはハッキリと真実を伝えたかった。

 

「この度は迷宮ギルドの皆様に多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」

「まぁアレくらい普通だろ。逆にお前は大人し過ぎるんだよ」

 

 それはそれとして、被害者枠の俺も乱闘した分のペナルティは甘んじて受ける事となった。

 罰金五十万ルァレ。それが俺に課せられたペナルティだった。ちなみに、俺以外の乱闘参加者はもっと多くの額を払っていた。発端のウィードさん達とか、派手に暴れたクリシャナさんとか。あと楽しそうだからと途中参加してきたイスラさんも中々に。

 

「イシグロさん、本日もよろしくお願いします」

「言っておくが、ニーナさんの血を飲んだぼくは以前とは訳が違うぞ」

 

 日常が戻ると、俺達はいつもの模擬戦依頼を再開した。記念すべき最初のお相手は、正式に一党を組んだニーナ&クリシャナのコンビだった。

 いざ戦ってみたところ、これがなかなか強かった。二対二では辛勝できたものの、二対一は順当に敗北した。宣言通り、満腹状態のクリシャナさんは気を抜くと負けてしまいそうなくらい強かったのだ。

 元々、ニーナさんは単独専門の技魔剣士であり、野良で一党に加わる連携の達人だったのだ。そこに純粋に強い吸血鬼がいれば、彼女の能力は数値以上に引き上げられる。

 参考にすべき素晴らしい連携力である。俺達も精進あるのみだ。

 

「よう、イシグロ! 前より雄らしくなったじゃねぇか!」

「して、次の模擬戦はいつなのだ? 申し込むぞ私は」

「そのような催しをやっていたのだな。なら金払わなくて良かったじゃねぇか……」

 

 鬣犬族のエフィーエナさんと、牛鬼族のイスラさん。それから以前ケイン氏関係で決闘をしたジンエモンさんとも剣を交わした。

 勿論、三対一で全員倒した。一斉に来られたら負けただろうが、逃げ回れるステージなら何とでもなる。個人が同じくらい強くても、連携の上手いニーナさん達のが強かった。

 余談だが、刀に興味を持ったらしいエフィーエナさんに一度試しに使わせてみたのだが、案の定ダメダメだった。筋肉で丸太を斬るんじゃないよ。

 

「やぁやぁ、久しぶりだねイシグロさん! ははっ、マジで迷宮に潜りまくってるんだねぇ」

「交流会ではお世話になりましたわ。無事、二回目もできそうですの」

 

 他にも、天才発明家・パイモさんと、リリィの幼馴染であるグレモリアさんとも再会した。

 現在、西区に宿を借りたパイモさんは戦車工匠のケイン氏と共に自転車開発に着手して、グレモリアさんは淫魔族関係で忙しくしている。

 曰く、そう遠くないうちに交流会にいた乳食系淫魔の一部が王都入りするそうだ。西区に淫魔がやって来る。狙いは勿論、男だ。元童貞魔術師くんは嬉しそうに手紙を眺めていた。

 

「お久しぶりです、イシグロさん。昨年はお世話になりました。どうです? 何かご入用な物とかありませんか? 金さえ貰えりゃ大抵のモン仕入れますよ」

「え? あ、えーっと……?」

「ソルトです。あれ? マジで忘れられちゃってます? あたし、結構キャラの濃い狐人と思ってたんですが」

「あっ、これはとんだ失礼を……」

 

 それから、以前ストーカー事件で協力してくれた狐人のソルトさんとも再会した。

 銀細工持ちのソルトさんだが、そろそろ冒険者証を返却して商いに集中するつもりらしい。で、今は王都でコネ作り中との事。

 曰く、元商人の借金奴隷を買ってコキ使うつもりとか何とか。ちな、その奴隷は狸人で、「ゴロキチ」と言う名前らしい。うん、知らない子ですね。

 

「王都に道場が出来たら遊び来てね~。できたら弟子料金で教導とかしてほしいな~、なんて」

「ほな、ばいなら~」

 

 アンゼルマさんとミアカさんの二人は、諸々の仕事を終えて帰って行った。

 遠くないうちに、ゲルトラウデ師匠もこっちを見に来るつもりであると。その時はまた手合わせ願いたいところ。

 騒動解決の立役者であるミアカさんとは、しっかりとお別れした。俺なんか早々に忘れて、新しい恋を見つけた方が建設的だと思う。

 

「準備完了だな。じゃ、行こうか」

「うッス!」

 

 勿論、俺達も頑張っている。

 鍛練と模擬戦も大事だが、この世界はハック&スラッシュによる基礎ステータスの引き上げこそが肝要なのだ。

 強くなって、生きねば。

 

 

 

 

 

 

 嵐鮫迷宮。

 

 スタート地点からボスエリアまで空飛ぶ岩が足場という此処は、死因の九割が落下死であろう屋外型上位迷宮である。

 見上げる空は時折稲妻の過る灰色で、まるで嵐の中心にいるようだった。例えるなら重力のあるデブリ帯。もしくは某配管工の空中ステージ。構造自体は他の空島系ダンジョンと似ているが、その質には雲泥の差があった。

 

 まずもって、この迷宮には常に台風のような強風が吹き荒んでいる為、空中飛行の難易度が高いのだ。そのせいで空を飛ぶには相応の出力を要する。

 また、空系ステージでは珍しく、出てくる魔物は宙を泳ぐ魚型エネミーで固定である。そう、魚が空を飛ぶのだ。おかげで攻撃を当てづらいったらない。

 最後に、この強風ギミックはボスの意思によって操作されているのが一番の厄介ポイントだった。北風に慣れて動こうとしたら、突然南風に変えられたりする。

 あまつさえボスとステージの都合上、この迷宮はドロップアイテムを取り落とす確率が高いのだ。

 結論、素直にクソダンジョンです。

 

「眷属呼んできたぞ! エリーゼ!」

 

 そんなこんなで修羅の道。現在、俺達はクソオブクソ迷宮の主と戦っていた。

 自由自在に空を泳ぐクソデカシャークを追って、アーチャーにジョブチェンジした俺は仮称デブリを足場にピョンピョン跳んで移動していた。

 ボスの体力は残り僅か。最終形態とばかりに、ソイツはどこぞの嵐纏い古龍のような風バリアを纏っていた。これにより、生半可な飛び道具は無効化されてしまった訳だ。

 おまけに、何処からともなく取り巻きエネミーが襲来してきている。それはさながら、竜巻を泳ぐ鮫の群れ。

 

「わかったわ。墜ちよ(・・・)……!」

 

 大きな岩の上に立ったエリーゼが、二挺の杖を構えて前後左右のザコを撃ち落とす。

 目線も向けず後ろに一発。適当に構えて左に一発。今にもフレクサトーンの音が聞こえてきそうな杖捌きである。

 

「やっぱり、あの結界はボクではどうしようもありませんね」

「グーラは距離を維持して待機だ。解けたら頼むぞ!」

「はい!」

 

 デブリからデブリへ、某蜘蛛男のように鎖移動するグーラは、泳ぎ回るボスと一定の距離を保って圧力をかけていた。

 あのサメくん、一回ぶちぬき丸投擲を食らってからグーラにビビリまくってるのだ。あからさまに避けられている。

 

「イリハ! 今どんくらい?」

「もうちょっとじゃ! そろそろ出来るでのぅ!」

 

 イリハは結界術で足場を作り、片手であやとりをするようにして陰陽術を編んでいた。

 彼女の陰陽術があれば奴の風バリアは一発で破れる。上位職になった影響か、以前より術の完成が早くなっていた。

 

「しゃあ! ケツ見せろオラァーッ!」

 

 こういう時、最も頼りになるのがルクスリリアである。彼女は守護獣ラザニアに乗ってボスシャークを追いかけ回していた。天駆けるヘラジカは吹きすさぶ強風を物ともしない。

 それはさながら、戦闘機同士のドッグファイト。飛べる系赤豚のバトルシーンを思い出す動きである。サメも魔法で応戦しているが、思うように得意の噛みつき攻撃が出せない現状、死のカウントダウンが近いのは明白だった。

 

「出来たのじゃ! いつでもいけるぞ!」

「リリィ! 誘導できるか!?」

「任せろッス!」

 

 で、そこからは流れ作業である。

 イリハの陰陽術が風バリアを剥がし、グーラの飛ぶ斬撃で尾ひれを焼き、ミリ生き残ったところに俺の狙撃でトドメを刺す。

 槍のような矢が直撃した巨大サメは、墜落しながら粒子に還っていった。落っこちていくドロップアイテムはグーラが鎖で回収してくれた。

 

「うぉおおおお! これこれ! この辺に力が集まっているのが分かるッス!」

 

 嵐が収まり、空が晴れる。大きな足場の上に帰還水晶が生成された。

 水晶の近くに集合し、コンソールを開いてステータスを確認する。予想通り、ルクスリリアはレベルアップしていた。

 

「来た来た来た~! ご主人、アタシそろそろじゃないッスか!?」

「ああ……!」

 

 現在、ルクスリリアは“淫魔姫騎士”という種族固有の魔法戦士ジョブに就いている。

 そして、今さっき淫魔姫騎士が三十になって生えてきたのが、“淫魔妖妃”という最上位職だった。

 

「えーっと?」

 

 件のジョブをタップして、仕様を確認してみる。

 どうやら、この淫魔妖妃というジョブは以前までの淫魔姫騎士同様にデバフを撒ける魔法戦士という性能をしているようだった。

 それに加え、一部バフスキルも使えるっぽい。見た感じ男性固定と、あとは……条件的には俺限定のバフになるのか。まぁそのへんは後々確認していこう。

 

「まだまだ、私達はもっと強くなるわよ」

 

 ルクスリリアが最上位職になるより先に、エリーゼとグーラの二人は最上位職に到達していた。

 エリーゼが就いていた“ドラゴンロード”の次は、“ドラゴンルーラー”という種族固有指揮職だった。

 ドラゴンルーラーはドラゴンロードと同じく一党単位の指揮系スキルが使える上、視覚を含めた各種知覚能力が向上している。今さっきやってたニュータイプ撃ちがまさにそれである。また、使用武器は杖に絞られていた。

 その他、特定条件下におけるデバフ技なんかも使えるらしい。迷宮探索だと全く使い道はないが、その効果見た時ちょっと引いちゃったよね。

 

「はい、ボクもエリーゼと同意見です!」

 

 そう言うグーラは、“特大剣士”から“魔獣勇士”にランクアップ。彼女の場合、他にも選択肢があったのだが、最もアジャストしていたのがコレだった。

 今まで一貫して汎用職を上げていたグーラだが、これは種族固有の特殊ジョブなんだと思う。魔獣勇士という名称のせいで分かりづらいが、魔獣勇士には剣全般のボーナスに加え、僅かながら素手格闘にもボーナスが付いている。

 また、魔獣勇士になった事でグーラは獣人固有と思しき能動スキルも使えるようになった。まぁ例によってその殆どが産廃技なんだが、中には使えるやつもある。

 おまけに、種族レベルが上がった影響か炎雷の出力が増したようで、彼女のパワーとスピードは更に向上する事となった。消費エネルギーはそのままに、火球が大火球に、電気ショックが雷に進化したのである。

 

「変えてみたけど、どう? 何か変わった?」

「よく分かんないッスけど、なんかご主人との繋がりが強くなった感じするッス!」

 

 先の二人の時点で何となく察していたが、ルクスリリアの最上位職を見た事で確信した。

 どうやら、最上位職はこれまで積み重ねてきたジョブにプラスして、個々人にアジャストされた総決算的なジョブが生えてくるようだった。

 剣士・武闘家・大剣使いと寄り道をしてきた獣系魔族であるグーラの場合、その全てが使える魔獣勇士が生えてきたのだ。竜族系指揮官のエリーゼは種族+武器+ジョブでドラゴンルーラー。で、恐らく純淫魔+淫魔姫騎士の結果としての淫魔妖妃なのだろう。

 あくまで、これは仮説である。だが、もしその通りなら、俺が最上位職を手に入れた時とかどんなジョブが生えてくるんだろうか。専用ジョブ……胸が熱くなるな。

 

「わし置いてかれとるのぅ」

「仕方ないし、大丈夫さ」

 

 先述の通り、俺とイリハはまだ最上位職には達していない。

 何にせよ、仲間のパワーアップは嬉しいし、自身のパワーアップは楽しみなもんで。

 そうして強くなった俺達は、帰還水晶に触れるのであった。

 

 

 

 転移神殿に戻ると、ムワッとした熱気が全身を撫でた。

 季節は夏の真っ盛り。肌感覚で気温は三十度前後といったところか。神殿内には冷房魔道具があるとはいえ、完全に焼け石に水である。

 

「換金よろしくお願いします」

「おう、緑の一番な。あと、お前宛に手紙来てるぞ」

「ありがとうございます」

 

 いつもの受付に行くと、おじさんから換金ついでに手紙を渡された。

 予想通り、差出人はドワーフみたいなエルフこと武器工匠のアダムスだった。内容も端的で、注文してた武器が出来たとの事。

 ドロップアイテムを売り、換金を終え、転移神殿を出た俺は、真っ赤な夕陽に目を細めつつドワルフの店に足を向けた。

 

「おっ、今日あたり来ると思ってやしたぜぇ。イシグロの旦那」

 

 そうしてやって来たドワルフの店は、相変わらず古い木と本の匂いでいっぱいだった。

 狭い店舗の受付机で、待ってましたとばかりに店主の森人が座していた。その手には分厚い本があり、どうやら読書中にお邪魔してしまったようである。

 

「へっへっへっ、さっそくですが……。どうぞ、ご注文の品でさぁ」

 

 言いつつ、分厚い本を閉じたドワルフは後ろの棚にあった楽器ケースのような箱を受付机に置いてみせた。

 俺はパカリと蓋を開け、中身を検めた。うん、注文した通りのブツだ。軽く触れてみて、性能を確認する。全てが最高。ひとつ頷いてから、蓋を閉じた。

 パーフェクトだ、ウォルター。

 

「注文通り、良い武器です」

「当然。へへっ、旦那ぁ良い眼するようになりやしたねぇ」

「そうでしょうか」

「ああ。あっしの目に狂いは無ぇよ。戦いに行くんですね? 近いうちに」

「迷宮には行ってますよ」

「へっへっへっ。詮索ぁ致しやせん。くれぐれもお気をつけくだせぇ」

 

 ドワルフの言う通り、最近の俺は以前より神経が鋭敏になってる自覚があった。

 張り詰め過ぎてる訳でもないが、平和ボケしてる訳でもない。鍛錬と実戦の繰り返しによって、今の俺には常在戦場の意識が自然に根付いていた。

 降りかかる火の粉を払うんじゃあない。俺の意思で以て、戦いに行くと決めたのだ。なれば自然と覚悟も決まろうという話で。

 それから、俺達はドワルフの店を出た。長居しない。また来ればいいのだ。

 

「変な形ッスよね、それ」

「鞘も専用のを作らせたのよね。不思議な拵えだわ」

「練習が必要だと思います。可能なら、何度か実戦で試すべきかと」

「不思議と似合っとるのじゃ」

「そう? ありがとよ」

 

 信頼する仲間と共に、異世界の都を歩く。

 俺の腰には、さっき購入した武器が装備されていた。

 来るべき戦いに備え、慣れておこうと思ったのだ。

 

 第三王子に伝えられた、とある組織との戦い。その中で、俺は独立した戦闘要員として投入される運びとなった。

 即ち、魔導人機の撃破。もとい適合者の保護。その足がかりの為の偵察任務である。

 

「あの森人(エルフ)ではないけれど、いい顔をしているわね。アナタ……」

「惚れ直した?」

「ふふっ……これ以上ないくらいね」

「とても嬉しい」

 

 幸い、皆はやる気である。むしろ俺より自信ありげだった。存在するかどうかも分からぬ子を救いに行くのだ。普通、もっと訝しんで然るべきだろうに、俺の意思を尊重してくれている。

 彼女達を戦いに巻き込む事に負い目が無い訳ではなかった。しかしエリーゼに言わせると、それはもう今更水臭いのだと。

 なら、俺も皆を信じて戦うべきだ。戦闘力でなく、心の繋がりをだ。

 

「頑張りましょう。ヴィーカ様も見ていて下さいます」

「まぁ、まだ先の話なんだけども」

 

 既に備えてこそいるが、作戦の決行日はもうちょっと先である。

 第三王子と足並みを揃えなくちゃいけないし、他にも準備がいる。

 その為にも、近々王都を出なければならない。

 

 初めて王子と出会った日、当時の記憶を思い起こす。

 長も大儀も目的も不明な、反人類思想を持つ者達の存在。

 その一部が、魔導人機を有しているというのだ。

 

 ふと、王都の空を見上げる。

 暗くなり始めた中に、キラリと一番星が輝いていた。

 

 我知らず、拳を握りしめる。

 努めて、呼吸を整えた。

 

 次の戦いの舞台は、空だ。

 

 

 

 

 

 

 一分四十六秒。

 それが、修復が完了した十三番に許された自由だった。

 

 狭い鎧の中、十三番は黙して目を瞑っていた。

 水底に身を沈めるように、強いて意識を埋没させていく。

 クリアに過ぎる世界は、彼女にとっては眩し過ぎた。

 

 魔導人機に繋がった適合者は、自他の境界が曖昧になっていく。

 自身が鎧を操っているのか、鎧が自身を操っているのか。

 曖昧なまま、やがて心を置き忘れる。

 

 十三番にとって、魔導人機・極天の中は忌まわしい記憶に満ちていた。

 それと同じくらい、鉄の揺り籠はどうしようもなく心が安らぐ。

 此処にいる間は、優しい声がより近くに聞こえるから。

 

「あー、あー、聞こえてるかニャ?」

 

 ブツンと、十三番の脳裏に繋がった線の向こうで、軽薄そうな女の声が響く。

 微睡みから意識を戻した十三番は、ゆっくりと暗く淀んだ瞳を開けた。

 

「新しい極天の調子はどうかニャ?」

 

 言葉もなく、十三番は「是」と返答した。

 繋がった声の向こうで、女が満足そうに頷く気配があった。

 

「出力が上がってるから、振り回されないように慣らしときなさいニャ。ほら、あたしは教育を大事にしてるからニャ~」

 

 白々しい声音は、両者にとっても空虚な響きがあった。

 

「まっ、買ってやった分の恩はちゃ~んと返すこと」

 

 どこか遠くで、黒猫が嗤う。

 十三番の首には、枷がはめられてあるのだ。

 性根の歪んだ者からすると、それは紛れもなく嘲笑の対象であった。

 

「親に尽くすのが子供ってもんニャ♡」

 

 悪戯っぽく含みを持たせた口ぶりに、我知らず十三番の目に光が灯った。

 決して、正の感情によるものではない。

 

「わかってる……」

 

 ここで、十三番は久しく口を開いた。

 その声は幼く、不釣り合いな程の疲弊と諦観に満ちていた。

 漏れ出る呼吸に、決意の念が籠っていく。枯れた涙の線から、過剰な光の粒が溢れた。

 

「あの男は、必ず殺す……」

 

 優しい声が聞こえる。

 家族の声が聞こえる。

 それでもと、十三番は頭を振った。

 

「助けなんか、いらない……」

 

 抹殺対象は、イシグロ・リキタカ。

 迎え撃つは、継ぎ接ぎの魔導人機。

 

 古の破壊兵器――極天が唸る。

 妖しく光る二つ目(ツインアイ)が、僅かに三度瞬いた。




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・イシグロ
 ステータスは前衛バランス型。魔法関係は低め。
 剣士系を中心に、アーチャーや武闘家などをまんべんなく育成。最もレベルが高いのは剣士系上位職のソードエスカトス。

・ルクスリリア
 ステータスは魔法戦士型。体力・頑強が低め。
 淫魔兵→淫魔騎士→→淫魔姫騎士→淫魔妖妃。

・エリーゼ
 最初から高い魔力を放置し、それ以外を伸ばしているのでステータスは生存重視のバランス型。
 竜族戦士→竜戦士長→ドラゴンロード→ドラゴンルーラー。

・グーラ
 ステータスは膂力・敏捷に偏っており、頑強・魔防は低め。
 獣戦士→汎用剣士系+汎用武闘家系→ソードエスカトス→特大剣士→魔獣勇士。

・イリハ
 ステータスは知力に秀でたバランス型。体力・頑強は若干低い。
 退魔士→退魔武士。
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