【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。たいへん励みになっております。
 誤字報告も感謝です。ありがと茄子!
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。ご応募の際はレギュレーションの方を先に読んでくれると嬉しいでござる。レギュにある通り、転移者・転生者等は絶対に出ないのだぜ。あとヴィーカ以上の最強キャラとかも厳しいぜ。

 アンケートのご協力、ありがとうございます。
 他の人の視点ってのは大事ですからね。こういうのは定期的にやります。
 今回もあります。お気軽にどうぞ。

 今回は一人称、イシグロ視点です。
 よろしくお願いします。


百錬成炉

 パレエスとの戦いから、約一ヵ月の時が過ぎた。

 

 聖輪郷、聖地サベイピア内に割り当てられたラリス大使館の一室にて。

 如何にもラリスらしい部屋の中心で、俺は第三王子ことジノヴィオス殿下と向かい合ってお話していた。

 部屋の中には、俺と王子の他にレノを含めた我が一党と王子付きのメイドさん。それからファリナさんの姿があった。

 そこで、俺達は諸々の顛末と今後の方針についての報告と説明を受けていた。

 

 まず、つい先日楽園から助け出した人工天使達について。

 彼女達はラリス王国の監督の下、聖輪郷で今後に必要な治療と教育を受けさせる事になった。その後は彼女達の意思に任せる方針である。

 また、楽園に勤めていた指導官については一部を除き無罪放免となった。殆どの指導官が病んでいたので、むしろメンタルケアをしてあげる必要があった。悪い指導官には相応の報いが科せられる予定だ。

 

 熾後宮に勤めていた女官達は、ファリナさんに続いて第三王子に保護を求めていた。

 後宮の主と違い、そこに囚われていた妃には人望があったようで、引き続きファリナさんのお世話がしたいとの要望。今後はラリス式宮廷メイド教育を受ける予定である。

 

 逃がしてしまった猫又については、先日捕獲したとの報告があった。

 曰く、あえて泳がせて巣を特定したというのだ。猫又を追ってたシュロメさんからは「イシグロ殿によろしくでござる」との伝言だ。彼女は急いでフライシュ領に帰ったらしい。

 

「はい、これで完了だね」

 

 最後に、第三王子がファリナさんと女官達の身を預かるという契約を交わし、終了である。

 奴隷契約とは異なる契約書には、長々とした文章で「彼女等が害された場合、現ラリス王及び第三王子の権限で以て誰であろうと報復を行う」という旨の文言があった。報復対象に制限が無いあたり、色んな意味で物騒である。

 

「よ、よろしくお願いします」

「うん、よろしく、ファリナさん。今のは誰が言ったのかな?」

「え? な、ナッテです」

 

 ファリナさんが頭を下げると、第三王子はにこやかな笑顔のまま鷹揚に返していた。

 俺相手の時も思ったが、随分とフランクな王子様である。立場的にそれでいいのかと思わなくもないが、後ろにいるメイドが何も言ってないあたり大丈夫なのだろう。

 まぁ俺としては肩肘張らずにお話ができるので、クローズドな場ではこっちの方が楽である。

 

「それでは、私達は準備をして参ります」

 

 そう言って一礼したファリナさんは、外で控えていたメイドさんに案内されて部屋を辞した。女官達も連れていくので、その準備である。

 ファリナさんがいなくなると、俺と王子はテーブル越しに対座する事となった。互いのソファの後ろにはそれぞれの仲間が立っている。片や王族&メイド片やロリコン&奴隷という構図は、今更ながら凄く不思議な組み合わせだ。

 いざ近くで対面してみると、目の前の弱冠十一歳の王子が如何にイケショタであるかがよく分かる。女装をしていない殿下は、まるで貴種流離譚の主人公のようだった。

 

「さて、イシグロさんからは、これまでの事で何か聞いておきたい事はあるかい?」

「聞いておきたい事、ですか……」

 

 言われ、今一度振り返ってみる。

 俺と第三王子は、純淫魔契約直後から続く契約関係だ。

 俺は王子の庇護を受けつつ、当時十三番と呼ばれていたレノを助けるべく計らってもらった。

 また、俺と殿下は公然の秘密として専属の雇用契約を結び、第三者を介して彼からの依頼を受ける事になっている。

 

 現在、聖輪郷を巻き込んだ魔導人機の一件は粗方収まったと言えるだろう。

 その中で、俺はただ突っ込んで戦っただけで、戦後多くの責任を王子をはじめとした他者に負ってもらっている状況だ。

 聞いておきたい事は思いつかないが、不安に思う事はあった。

 

「恐縮ですが、殿下の庇護に見合う働きができているか少し不安に思っています」

「ん? それはどういう事だい?」

 

 思ったままを答えると、殿下は僅かに目を丸くしていた。次いで背後のメイドを振り返ると、王子に見上げられた緑髪のメイドは異様な程デカい乳を揺らして肩をすくめていた。

 

「僕はそうは思わないけれど、イシグロさんはそう思ってるんだね」

「はい。最近ですと、ただ運搬依頼を受けているだけですし」

「十分だと思うけどなぁ」

 

 実際、俺達が戦ったのは例の一日と楽園カチコミだけで、以降は運び屋兼メッセンジャーとして空と地上を行き来していただけだ。

 ただでさえ、王子とは俺にとって都合の良過ぎる契約を結んでいるのだ。それがこの程度の働きをしただけで、王族の庇護に相応だろうか。甚だ疑問である。

 

「……そうだね、少し話をしようか」

 

 短い逡巡の後、白皙の美王子は優雅に足を組んでから口を開いた。

 

「イシグロさんは、冒険者の金回りが良過ぎると思った事はないかい?」

 

 かと思えば、いきなり予想外な話題が飛んで来た。

 何故にそんな話を始めたのか分からないが、俺は素直に頷く事にした。

 実際にそう思ってはいるのだし。

 

「はい。いくら命懸けの生業といえど、田畑を荒した訳でもない魔物を討伐しただけでアレほどの金銭が手に入る事には今でも疑問に思っています。ただそういうものなのだろうと、深く考えてはいませんでしたが」

 

 迷宮探索における収入の相場についてだが、最も難易度の低いソロ専迷宮で大体三十~五十万ルァレほど手に入る。

 迷宮にもよるが、中位迷宮のボスドロップで二千万ルァレほど。ザコドロップを含めると、運が良ければそこに五百万ルァレほど加算される事もある。上位迷宮ともなると、二千万よりずっと多い。

 確かに、迷宮探索業は死亡率の高い業種だが、それにしたって貰い過ぎな気がする。受付おじさんによると換金の際に税が発生してるらしいが、これまたそれにしたってである。

 仮に六名フルメンの一党で割ったとしても、中位迷宮一回で一人あたり約三百万の儲けだ。経費がかかるにしても中々ボロい。実際、知り合いの冒険者は月に一回潜るかどうかって頻度らしい。それでも回る高給取りの職業なのだ。

 

「そうだね。けど、王家からすると、迷宮が吐き出す聖遺物(レリック)にはそれだけの価値があるんだよ」

 

 そう言う王子だが、にわかには信じ難かった。

 迷宮のドロップ品といえば、手のひらサイズの謎髑髏とか目玉サイズの謎蹄鉄とか、これ何に使うんだってアイテムばかりである。

 革や牙は武具の素材として、石や水晶は建材として使うと聞いた事がある。けれども売価は件の謎ドロップのが高価な傾向にあるのだ。何故、そんなもんに多額の価値が付けられているのだろうか。

 

「詳しくは言えない。ただ、王家には使い道があるのさ。それを考慮すると、一つにつき二千万くらいポンと渡してしまえるんだ。逆に、出さないといけない。昔のラリス王の中には聖遺物の換金に重い税をかけた人もいたけれど、その代はロクに聖遺物が集まらなかったんだよね。なら、ここはもう気前よくお金をバラ撒いてしまおうってなってるのさ、今は」

 

 ともかく、ドロップアイテムには一般人には知らない使い道があるらしい。だからこそ大枚叩いて買い上げる価値があると。

 このカジュアル風バイオレンス異世界はゲームチックなファンタジー世界である。何があってもおかしくない。まぁ色々とあるんだろう。

 それはいいとして、冒険者業の金回りと今の俺に何の関係があるんだ。

 

「つまり、迷宮に潜ってくれるイシグロさんは王家からするとすっごく優秀な働き者って事になるよね。優遇しない理由がない」

「な、なるほど……」

 

 言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 けれども果たして、本当にそれだけなんだろうか。

 王家がガチでドロップアイテムを欲しているなら、騎士や私兵を使ってもっと掘らせればいいだけなんじゃないか? しかし、王家はそうしていない。いや、俺が知らないだけでこっそりやらせてる可能性はある。

 もしくは兵士にはやらせたくないのか。一年前に読んだ本によると、迷宮に潜ると人格が歪むらしいが、潜りまくりの俺はそこまでおかしくなってないのだ。そこまで警戒すべきもんだろうか。

 

「それに、僕からするとイシグロさんをただの戦士として扱うのは勿体なく思えるんだよね。大容量の収納魔法に加え、空戦車による機動力と一党単位の戦闘力。なにより、その実直さ。死なず、素早く、裏切らない運び屋の何と有難い事か」

 

 訝しむ俺に対し、王子は俺の有用性と市場価値を指折り数えていった。そう言われると照れるからやめれとなる。

 

「要するに、イシグロさんは英雄(・・)にしておくには惜しい存在って話さ」

 

 足を解き、微笑む。何故だか、王子は嬉しそうにそう言った。

 声色からして、彼の口にした「英雄」と俺の思い描く「英雄」には大きな隔たりがあるように思えた。

 まぁ成りたい訳でもないが。器じゃないのは自覚がある。俺には大黒柱が手一杯だ。

 

 まとめると、俺はこのままの生活を続けた方が王家的には美味しいって事なんだろうか。

 個人的には、そっちのが有難いが、ホンマにええんやろかって気持ちが残ってしまう。

 自由気ままな異世界ライフが誰かの役に立つもんかね。

 

「まぁイシグロさんが思っている以上にイシグロさんは僕等の役に立ってるよ。それに、そのつもりはないだろうけれど謙虚も謙遜も過ぎれば嫌味になる。せめて皆の前では胸を張るべきじゃあないかな?」

 

 そう話をまとめた王子は、優雅な所作でお茶を飲んだ。

 合わせるように、俺もティーカップを傾ける。

 

 生温い液体が舌の上を滑り、緊張が解れた事で味覚が元の鋭敏さを取り戻している事に気付けた。

 麦茶だこれ。

 

 

 

 

 

 

 第三王子との対談は、つつがなく終了した。

 王子に保護されるファリナさんと女官達は、今日中に地上に降りる予定である。

 レノと家族との別れは、存外呆気ないものだった。これまでずっと話しまくってたので、離れても寂しくはないらしい。

 

 そして、現在。

 俺達は空戦車に乗って聖輪郷内の空を飛んでいた。

 

「綺麗なところじゃの~、ほんに」

 

 雲海の上、眼下には美しい草原が広がっている。

 トロス天原である。風に揺れる草花は、上から見ると緑色の海のようだった。聖地サベイピアはどことなく近未来チックな雰囲気があったが、聖輪郷の外郭を成すそこはどこぞのアルプス的少女を思い出す景色が広がっている。実際、羊飼いとか羊とか歩いてるし。

 

 帰り際、俺達はそのトロス天原の最南端に向かっていた。

 何故かというと、ヴィーカさんに呼び出されたからだ。

 大事な話があるらしい。否応にも緊張してしまう。誰かに噂とかされると恥ずかしい。

 

「あそこよ、お祖父様がいるわ」

 

 エリーゼの言う通り、草原の端っこ――それこそペーター氏が山羊を連れてく場所みたいな――にヴィーカさんの姿があった。

 彼は一心不乱に剣を素振りしていた。邪魔しないように少し遠くに停車して、道なき坂を登って行く。

 

「ヴィーカ様はなんで武器を振ってるの?」

「型をなぞる事で心身を整え、技を鍛えているんです」

「見た感じ、暇潰しって気ぃするがのぅ」

「長命種はそういう事しがちッスよね。何となく料理極めてみたり、特に意味もなく旅に出てみたり」

「案外、好きだからやってるだけなのかもしれないわね」

 

 そんな話をしつつ近づいていくと、ヴィーカさんは素振りを止めて此方を見た。

 

「……来たか」

 

 呟くような声はしかし、不思議と耳の奥によく響いた。古木が擦れるような低音は、単に聞くだけだと不機嫌なのかと疑ってしまう。

 けれどもそこに此方を害する意思が無いのは分かっているので、俺は未だに緊張してしまう精神を努めて抑え込んだ。

 

「この度は、ご助力いただき誠にありがとうございます」

 

 今回の事について改めてお礼を言うと、彼は言葉の続きを遮るようにゆっくりと頭を振った。

 

「元より、そのつもりであった。それに、貴様がいなければ、我はパレエスに殺されていただろう」

 

 話によると、あの時のヴィーカさんは例の【追憶送還(リフレキネシス)】を食らって一時行動不能になっていたそうだ。もし万全のパレエスが相手なら、あのまま殺されていたと。

 俺とてロリがいなければ即死だっただろう。それをヴィーカさんはロリ無しで抜けたのだ。並みの精神力ではない。

 

「鍛錬のやり直しだ……」

 

 ごくごく小さな呟き。常と変わらない声音だが、そこには僅かに喜色が含まれているような気がした。

 

 その時、雲上の島に強い風が吹いた。次いで、天原の草が舞い上がる。

 沈黙するヴィーカさんは、俺の目を見ながら難しい顔をしていた。

 無言の威圧などではない。ただ、言葉を選んでる風に見えた。

 

「……イシグロ・リキタカ」

「はい」

「貴様は、この世界の人間ではないな」

 

 言われ、俺は一瞬呆気に取られた。

 純粋に驚いた為である。

 

 別に、俺は俺が日本から来た転移者であるとは隠してはいない。冒険者登録の際にもそう書いたし、普通に聞かれたら普通に答える。

 ただ、転移者であるとは言っていない。この事を、ヴィーカさんが知っている筈がないのだ。

 

「我は、貴様に謝罪せねばならぬ……」

「しゃ、謝罪ですか……?」

「ああ」

 

 驚愕のままにあんぐり開口していると、ヴィーカさんは構わず言葉を継いだ。

 異世界転移者の俺に、何故ヴィーカさんが謝罪をするのか。その意味が全く繋がらない気がした。

 

「……貴様を呼び出したのは、我の仲間だ」

「……え?」

 

 二度目の衝撃もまた、俺の脳に盛大な困惑と驚愕をもたらした。

 呼び出したって事は、俺は異世界に召喚されたロリコンだったって事?

 俺の記憶では、普通に寝て起きたら異世界でしたって感じだった。普通、召喚系なら転移直後に勇者認定されたり同時召喚された勇者に追放されたりするもんじゃないか? いや異世界転移に普通もクソもないが。

 いや待て待て、ヴィーカさんの仲間のうち誰が俺なんぞを呼んだんだ。完全に人選ミスである。

 

「ゼノンを知っているか?」

「あ、はい」

 

 ゼノンといえば、現在にも名を残す勇者パーティの魔法使いである。二つ名を“魔道賢者”。グーラが言うには女性説と男性説でごっちゃになってるお人でもある。

 そこで、俺の脳裏に変な糸が繋がった。ゼノンさんは鍛錬場とか熾後宮の元になった人工異境を作った人である。彼もしくは彼女が空間系魔術の使い手というのであれば、何となく異世界に介入する術とかがあってもおかしくない気がする。

 

「ゼノンは、アレクの死後に異界からその魂を呼び寄せようと魔術儀式を行った。その儀式は失敗し、貴様の肉体と魂魄がこの世界に召喚されたのだ」

「なるほど……?」

 

 つまり、俺は勇者召喚が失敗した結果この異世界に転移してきたという事か。

 背後を窺ってみると、レノ以外の全員が目を丸くしていた。かわいい。

 

「ひと目で異端児と分かったが、ジュスティーヌが断言した。であれば、代わりに我が謝罪するのが道理だ」

「えっと、はい」

「銀竜の名の下、三日月のヴィーカが友に代わって陳謝する」

「えっ、ちょ……!?」

 

 混乱する俺を置いて、その場に跪いたヴィーカさんは瞑目しながら首を垂れた。

 完全に首を差しだすポーズである。普通にやめてほしい。エリーゼは目をまん丸にしてるし、グーラも理解が追い付いていないポカン顔。ルクスリリアとイリハなんかは美少女にあるまじき顔芸を披露していた。レノはハテナ顔で首を傾げている。

 

「貴様には、我が友ゼノンに怒る権利がある。だが当のゼノンは死に、協力者であるジュスティーヌも消え去った。残るはリアルイーザと我のみ。ただ思うままに罰を与えよ」

「えぇ……?」

 

 ぶっちゃけ、かなり困ったぞ。

 俺の感覚がおかしいのか、今のところキレるポイントが見つからない。

 確かに、家族や友人と離れ離れになったのは間違いないが、それはもう受け入れている。どだい異世界転移した直後などハクスラが楽しくてヒャッハーしてた訳で、その後もルクスリリアやエリーゼ達と出会って最高にエンジョイしてたのだ。そんな俺が「よくも俺を異世界転移させてくれやがったな!」などと怒れる訳もなし。

 

「と、とりあえず頭をお上げください。それに、感謝こそすれ怒る理由がございません」

「……しかしだ、罪には罰がなければならぬ」

「いえ本当に大丈夫です。お陰で皆と出会えましたし、帰りたいなんて思ってませんから」

「むぅ……」

 

 あたふた慌てて困っていると、ふいに背後から袖を引かれた。

 

「アナタ、お祖父様は竜族の誇りを以て首を垂れたのよ。罰が無ければ収まらないわ」

「ああ。我に償える事はないか。可能な事であれば、何でもする所存だ」

「ん?」

 

 何でもするって……と言おうと思ったが、流石にここでそんな発言はできない。実際何かしてほしい訳でもないし。

 とはいえ、竜族さんは頑固な性質をしていらっしゃる。誇りを持ちだされたら頑として譲らなくなるのだ。何か彼が納得する案を考えなければ……。

 

「えーっと、じゃあ質問よろしいでしょうか?」

「うむ」

 

 では、質問権を行使させてもらおう。

 ついさっき、ちょっと気になる事ができたのだ。

 

「もしや、私はアレクシオス様の持つ何かを受け継いでいるのでしょうか?」

「違う。全く無関係の別人だ」

 

 どうやら、俺の中身が勇者とか魂を受け継ぎし者って訳でもなさそうだ。

 手の甲や首の後ろに紋章とか痣もないしな。

 

「アレクシオスさんも異世界の方なのでしょうか?」

「奴は人間族の集落の生まれのはずだ」

「富士山、自由の女神、エッフェル塔、ロンドン橋、万里の長城……とか、そのあたりを口に出してはいませんでしたか?」

「聞いた事はないな」

「食事前に手を合わせたり、祈りを捧げたりしてませんでしたか? 他にも、こうやって十字を切ったり手を合わせたりとか……」

「どれもしていなかったな」

 

 アレクシオス転生者説も違うのか。

 なら、そうだなぁ。これも一応訊いとくか。

 

「では、エリーゼの呪いについて何か治す手がかりなどご存じありませんか?」

「……呪いは門外漢だ」

「そ、そうですか……」

 

 さんざん質問してみたが、彼の免罪ゲージはこの程度では収まらないらしく不服そうな顔をしていらっしゃる。

 困った、マジで思いつかんぞ。銀竜剣豪相手に「身体で払ってもらう」なんて選択肢が出る訳もなく、出ても困るが……。

 

「……では、我が財宝を」

「大丈夫です大丈夫です!」

 

 悩んでいると、なんか凄そうな剣を出そうとしてたので慌てて押し留める。

 ヴィーカさんの財宝を持ってるの知られたら、それこそ面倒事が湧いてくる未来が見える見える。

 俺は面倒が嫌いなんだ。

 

「あ……」

 

 と、ここで思いついた。あるじゃん、欲しいもの。

 

「では、いざという時の後ろ盾になって頂けませんか?」

「むぅ……」

 

 ピンとこなかったのか、ヴィーカさんは口を「へ」の字にして唸った。

 

「貴様には必要ないと思うが……?」

「私は英雄にしておくには惜しい存在であると、ジノヴィオス殿下に言われましたので」

「……で、あろうな」

 

 呻くように呟いて、立ち上がって懐を探ったヴィーカさんは一本の剣を取り出した。

 それは刃渡り二十センチ程度の小振りな短剣で、革の鞘には金糸による見事な刺繍が施されていた。戦闘用というより、飾りとか儀礼用といった印象。

 そして、ソレは何とも言えない静謐な魔力を湛えていた。

 

「これは?」

「古代銀竜一族の剣だ。これを持てば、我の盟友である事が分かるだろう」

「ありがとうございます」

 

 俺はエリーゼに倣った通りの動作で剣を受け取った。

 俺が求めるものは皆と安心して暮らせる環境である。後ろ盾はナンボあってもええと思う。王子だけに依存するのも不健全だからな。

 背後からグーラの押し殺した歓喜の悲鳴が聞こえてきた。きっと耳と尻尾をパタパタやってるのだろう。これまた小さく「グーラ、尻尾痛い」とのレノの声。

 

「やはり、アレクとは似ても似つかぬ……」

 

 そう言って、古代の英雄は静かに微笑んだ。

 ゲーム的に表現すると、一連のイベント報酬になるのだろうか、これは。

 だったら、“たいせつなもの”として保管しておこうかな。

 

 イシグロは、“銀竜の盟友剣”を手に入れた!

 

 

 

 銀竜と別れた俺達は、再びヘラジカ・チャリオットに乗って空の旅をしていた。

 御者席にルクスリリア、前部座席に俺とレノ。後部座席にはエリーゼとグーラとイリハが乗っている。

 目指すは最寄りの街だ。本日はそこでお泊りする予定である。

 

「……これは、本物ね。間違いなく第二大災厄以前に作られた短剣よ」

「す、凄いです……! ボクのご主人様がヴィーカ様に盟友として認めて頂けたなんて! 夢みたいです!」

「まさに銀竜の遺宝じゃのぅ。まぁこれより上の宝出されたらアレじゃったろうが」

 

 後ろでは歴女ロリと英雄血統のロリ二人がキャッキャと楽しそうに騒いでいた。

 エリーゼによると、俺が貰った短剣は銀竜が他種族に贈る盟友の証みたいなもんらしい。

 これを身に着ければ、俺は銀竜……というよりヴィーカさんのお友達扱いになるのだ。滅多にないだろうが、前リンジュでやらされたパーティとかの時に使わせてもらおう。

 

「しばらく仕事は無いらしいッスけど、ご主人これからどうするんスか?」

「そうだなぁ」

 

 ルクスリリアの問いに、俺は手を後ろにやってのんびり答えた。

 やりたい事も、やらなきゃいけない事もいっぱいだ。

 

 まず、レノの身体についてもう少し調べたいところだ。エッチな意味ではなく、機械化されてるところとか。ラリスの人曰く、健康に問題はないとの診断だが。

 それから、自衛の為に武器や防具を揃えなくてはならない。これまで彼女はずっと魔導人機に乗って戦っていたので、適性武器や適性ジョブも分かってないだろうし、オーダーメイドの事もあるから早めに決めときたいな。

 レノは将来の事を考えて俺の一党に入ったのだ。それは、強くなってファリナさんをお守りする為でもある。なら、俺はその選択に責任を持たねばならぬのだ。

 

 勿論、修羅に堕ちるつもりはない。ちゃんと楽しく生きなければ、彼女を助けた意味がない。

 シュロメさんによると、そろそろフライシュ領で料理大会あるらしいし、軽く見てみたいかな。美食の街には美味しいお菓子も沢山あるはずだ。レノにはもっと食の楽しみを見つけてもらおう。

 戦いの傷を癒やす為、リンジュに湯治に行くのもいいだろう。そうでなくともレノも無月流を習うべきだ。いやそれはジョブを決めてからの方がいいか?

 あと、冒険がしたいとも言ってたから、色んなところに行って色んな体験をしよう。純淫魔契約で俺も不老長寿になったのだ、ヴィーカさんの言った通り、旅なんかいいかもしれない。

 

「レノは何かあるか?」

「……わかんない。けど」

「けど?」

 

 ぼそぼそと答えたレノは、今や遠くにある聖輪郷を眺めていた。

 その背中には、郷愁や悲哀の情は見受けられなかった。

 

「……美味しいものが食べたい」

 

 とても素朴な願いだった。

 それには、誰も彼もが同意するはずだ。

 

「いいですね。地上にはまだまだ美味しいものが沢山ありますよ」

「淫魔チーズ食ってみな。飛ぶッスよ」

「のじゃ。菓子一つとっても、リンゴ以外にもあるからのぅ」

「リンゴのお酒もあるわ」

「お菓子もお酒も程々にな」

 

 そんな会話をしながら、空飛ぶ戦車が進んでいく。

 群れて飛ぶ鳥を追い越し、配達の翼人を追い越し、眼下に豊な大自然を眺めながら。

 

 どうやら、俺は勇者復活儀式の失敗事故によって異世界に転移してきたらしい。

 被害者といえば被害者だが、俺はこの世界に来て良かったと思ってる。ホントに心底思ってるのだ。

 

 ルクスリリアがいて、エリーゼがいて、グーラがいて、イリハがいて、レノがいる。

 これに勝る幸せは存在し得ないでしょう。

 

 日常の間、戦いの後、俺は何度も感じ入る。

 異世界生活、最高である。




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