【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰でやる気アップイベントが発生しやすくなってます。
 誤字報告も助かっています。

 主人公が少しジョブについてお話しします。


炉利魂の鐘は二度鳴る

 轟! という爆音。

 腹の底まで届く振動は、巨像迷宮の主より打ち上げられた巨大魔弾の発射音だった。

 

 七色に光る魔弾はひゅるひゅると舞い上がり、やがてパァンと花火のように弾けた。花火だったら綺麗だったろうが、落っこちて来る小魔弾ひとつひとつが敵対者を殺すべく追尾してくるのだから堪らない。

 最初、バラけて落ちてきた小魔弾は、途中泳ぐウミヘビのような軌道で俺とリリィとラザニアに殺到してきた。それはさながら、指向性を持った雨が人を襲うような光景であった。

 

「カバー!」

「はいッス!」

 

 あらかじめ決めておいた合図。

 俺は即座にコンソールを弄り、武闘家から“聖騎士”にジョブチェンジし、空いた手でアイテムボックスから大盾を取り出した。

 迫りくる弾雨。リリィは俺の背後にパサリと降り立ち、鎌を掲げてラザニアを戻した。

 

 魔力を籠める。盾の表面に黄金の光が灯る。聖騎士スキル“抗魔壁”だ。

 腰を落とし、まるでゾンビ集団からバリケードを守るように盾を構えた。気持ち的には回避一択だが、パーティにはタンクが必要なのだ。

 

「おぉぉぉぉぉッ!」

 

 そして、俺は飛来する魔弾をガードした。

 豪雨の時に差した傘の感覚を超ド級にしたような音と衝撃。絶え間なく押し込まれる圧に、ザリザリと両足が地面を削る。が、倒れない。何故なら後ろにロリがいるからだ。ロリを守護るロリコンは最強なのだ。

 

「よし防いだ! リリィ! ゴーゴーゴーッ!」

「しゃあ! タマ取ったらァア!」

 

 やがて致死の大瀑布が終わると、俺は盾をしまって走り出した。鎌を担ぎ、ラザニアにまたがったリリィも続く。大技後の今がチャンスなのだ。

 走りながらコンソールを弄る。聖騎士から武闘家へ。ボスが迫る。硬直している。脚に力を入れる。1、2、3で大ジャンプ。

 

「イィィィヤァアアアーッ!」

 

 天高く跳んだ俺は、ファッキン害悪ゴミカスはずれボス獅子型ゴーレムの頭に、渾身の空中回転踵落としをブチかました。

 これが真のカラテである。

 

 ダンジョンボス殺すべし、慈悲はない。

 

 

 

 ボスを倒し、ドロップアイテムを袋詰めし、転移神殿に戻ると、俺はさっさと受付おじさんのところまで歩いて行った。

 今回はちゃんと服を着ているし、リリィの鎌もしまっている。変な注目など浴びようはずもない。

 はずもないのだが、道中俺を発見したギルド職員さんはビクリと肩を震わせ引きつり笑いをしていた。俺は何も悪い事してない。

 

「換金お願いします」

「お、おう……」

 

 ドサリドサリドサリ……相変わらず空いてるおじさんの机の前に、鉱石入りサンタ袋を置いていく。

 やがて机上が住宅街のゴミ捨て場みたいになったところで、俺はアイテムボックスから手を離した。

 

「こりゃまた多いな……」

「ええ、入れ食いでした」

 

 剣の注文から、大体二週間。

 俺とルクスリリアは、二日おきのペースで例の巨像迷宮に潜っていた。

 ラザニアのお陰で、以前までとは周回効率がダンチだ。広い巨像迷宮も一日で終わるし、ゴーレム討伐数も多くなる。やっぱオープンワールドには移動手段が必須だな。

 

「あー、イシグロ。今日は希少金属はねぇのか?」

「はい、見つかりませんでした」

「そうか……」

「代わりに半透明の変な奴がいたので討伐しました。ドロップアイテムはこの黒い袋にまとめときました」

「……そうか。ああ……少し、いや結構待っててくれ。緑の1番な」

「はい」

 

 番号札を受け取る。すると、背後で待機していたギルド職員は配膳ロボットのようにサンタ袋を回収し、工場ロボットのように石を仕分けし始めた。最近見慣れた光景である。

 おじさんも首をゴキゴキやった後、鑑定台を引き寄せてレアドロップ品の鑑定作業に入った。袋の中身はただの魔力なし宝石だ。

 

「すみません。フルーツ牛乳と淫魔菓子セットふたつお願いします」

「かしこまりました」

 

 鑑定が終わるまで、神殿のバーで暇を潰す。神殿内のバーはいくつかあるので、俺はその中の誰も座ってないところに腰を下ろした。

 差し出されたフルーツ牛乳――淫魔王国産の牛乳と夜森人(ダークエルフ)経営の果樹園で栽培された果実のハイブリッドである――を飲みつつ、これまた淫魔王国産のチーズケーキを食べる。とても美味しい。

 隣に座ったリリィも同じようにしている。やっぱり、お菓子を食べるロリの笑顔は最高である。

 この子に淫魔王国のご飯情報を教えてもらわなかったら、俺は今でも堅いパンもどきと謎スープだけで生きてたかもしれない。食事のグレード上げてよかったと心の底から思う。

 

「夕飯はなに食べるッスか?」

「そうだなー。昨日はお魚だったし、今日はお肉が食べたいな」

 

 などと話しつつ、コンソールを弄る。

 見ると、そこには武闘家ジョブレベル30の文字。カンストである。

 ずっと放置していた武闘家系。最近鍛えてレベル30になって生えて来たジョブは、“ストライカー”という中位職だった。

 

 感覚的に、この世界のジョブは派生すれば派生するほど武器や戦法が特化してく印象である。

 武闘家レベル10では、“モンク”と“魔拳使い”の二つが生えてきた。少し触ってみたが、それぞれ「回復+格闘」と「攻撃魔法+格闘」といった感じ。

 武闘家レベル20で生えて来たのは、“剛拳士”と“柔拳士”の二つ。これまた、単発特化と連撃特化といった印象の格闘ジョブだった。

 で、他ジョブでもそうだったが、レベル30で生えてくるのは大体元になったジョブの単純上位互換である。剣士からソードマスター。ウィザードからハイウィザードといったように。それでいくと、この“ストライカー”も武闘家の強化版なんだろう。試し切りならぬ、試し殴りが楽しみだ。

 

 こうやって、ジョブを埋めていく作業は実に楽しい。

 俺視点、娯楽の少ない異世界生活において、俺はダンジョンアタックとレベルアップ及びジョブチェンジを第一の遊びと捉えていた。

 

「ご主人ご主人」

「なに?」

「お酒頼んでもいいッスか?」

「いいよ」

「やったッス! マスター、淫魔酒マティーニをステアせずにシェイクで。ご主人は飲まないんスか?」

「んー、じゃあ……エールで。あと森人豆(エルフまめ)の燻製もお願いします」

 

 儲けはないがやりやすい巨像迷宮のお陰で、俺の武闘家レベルはカンストできた。

 しかし、ルクスリリアのレベリングはまだ微妙であった。

 

 現在、ルクスリリアは、“淫魔騎士”という中位職である。基本職である淫魔兵レベル30で習得した、物理も魔法も強いジョブだ。

 で、ジョブチェンジしてしばらく、今日の淫魔騎士のレベルは6。全然上がってない。これはゴーレムの経験値がショボいというより、戦闘貢献度の問題と、中位職である淫魔騎士の問題だろう。

 この世界、ジョブのランクは上がれば上がるほどレベルアップ時の恩恵はデカくなるが、その分必要経験値が増えるのだ。実際、6まで上がったルクスリリアは淫魔兵12レベル分くらいステータスが伸びている。やっぱ、ただ強くなりたいだけなら一つのジョブを極めた方が効率いいな。

 

 それと、最近気づいた事なのだが、ルクスリリアは他のジョブにも普通にチェンジできるみたいだった。剣士とか武闘家とかに。

 てっきり俺は、淫魔は淫魔兵あたりにしかなれないと思っていて、戦士や剣士は人間族専用だと思っていた。が、それは違ってたようだ。

 その気になれば、ルクスリリアを俺と同じソードマスターにする事もできる訳だ。選択肢が広がる。けど、せっかく淫魔専用ジョブがあるのだから、そっちを優先したい気持ちもある。

 実に悩ましいし、実に楽しみだ。

 

 ソードマスターといえば、注文した俺専用剣はまだ未完成である。

 曰く、まぁまぁ時間かかるらしい。そりゃ話を聞くだけでも大変そうだもの。一人じゃなくチームで作る武器作成。作るもんも作るもんで質相応に時間がかかるのだ。

 

 俺が注文したのは汎用性重視の直剣であり、特定のダンジョン攻略用の特化武器ではない。

 これまたドワルフが言うには、冒険者は潜るダンジョンに合わせて武器を決めるらしいのだが、俺はこれまでそんなのをしてこなかった。せいぜい、打撃が効く骸骨系にメイス使ったり、刺突が効く鳥系に槍使ったりする程度だった。

 

 この世界のエネミーは、けっこう色んな属性を持っている。ポケモンでいうと、エスパーとほのおとでんきとフェアリーの複合タイプモンスターがうじゃうじゃいるといった感じだろうか。いや、FGOのエネミーって言った方が分かりやすいかもしれない。

 偏に獣系といっても、鉄っぽい獣やゴーストっぽい獣や毒滴る獣がいたりする。思うに、あれらは対獣属性の特効対象であると同時に、他属性の特効対象でもあるのだと思う。

 例えば、アンデッド獣がいたとして、そいつに対獣属性攻撃が効いて与ダメアップ。アンデッドに効く聖属性プラスで更に与ダメアップ。全部合わせて浪漫火力だ! ってな感じで、複数属性持ちのエネミーには特化武器で凄いダメージが期待できる。試しちゃいないが、話を聞くに多分そう。その為の、特化武器だ。

 うーん、いいねえ……。ゲーマーの血が騒ぐ。

 

「あ……」

 

 ふと、思いついた事があった。

 そういえば、俺は武闘家以外にも埋めてないジョブツリーがあったのだ。

 そのうち埋めてこうとしてたのじゃなく、仕方なく埋められなかった奴。

 

 剣士レベル20で解放された、“侍”という中位職。

 俺には分かる、強ジョブだ。間違いなく強い。侍が弱いゲームなんてそうそうないのである。

 が、俺はこの侍をレベリングする事はできなかった。理由は簡単で、武器がなかったからだ。

 

 侍は“刀”系武器に特化したジョブであり、使用武器がかなり制限されている。侍で剣や斧は使えないし、何故か弓や槍も使えない。侍なのにも関わらずだ。となると、刀を使うしかないのだが……。

 悲しい哉、これまで買い物した事ある武器屋に、刀は置いてなかったのである。神殿内はもちろん、防具屋紳士に教えてもらった高級武器屋さんにもなかった。

 刀もなしにどうやって戦えばいいんだ! という話だ。そういう訳で、俺はこれまでこのジョブに就く事はできなかったのである。

 

 しかし、今ならできるのでは? と思う。

 ないなら作ればいいじゃない。ドワルフさんに頼んで、オーダーメイドカタナを作ってもらおうじゃあないか。作れるかどうかわからないし、他注文中に可能かどうかも分からないが、やってみようと思う。

 上手くいけば、俺も鬼殺隊めいてバッサバッサと魔物を斬る事ができるかもだ。今の俺の身体能力なら、色んな漫画の色んな技再現できそうだし、すごく楽しみだ。

 なんなら小太刀二刀流とか、セフィロスの刀みたいなのでもいいだろう。想像するだけで胸がぽかぽかするな。

 

 そうだ。どうせなら、何かのダンジョンで使える特化武器にしてもらおう。

 汎用武器はあるのだ。なら、刀は斬撃・刺突に弱いエネミー専用で、且つ特定エネミーの命を刈り取る補助効果をつけよう。

 炎属性を付与してシャナめいた刀にするのもいいし、魔力属性を付与してエルデンリングの月隠みたいにしてもいい。夢が広がる。

 

「ふふ……」

 

 っと、思わず笑ってしまった。

 幸いルクスリリアとのお話中だったので、笑うタイミングとしては不自然ではなかった。

 いや、ロリとの会話中にコンソールを弄り思考に耽るなど、ロリコンとしてNGだな。次からは止めておこう。

 

「あの……イシグロ様、換金の準備が整いました」

 

 と、ちょうどいいところでおやつタイム終了。

 

 バーテンからお声がけいただいたので、料金を払って受付へ。

 大量の鉱石と交換されたお金は、命賭けのビズにしては渋い金額だった、まあ、冒険者の感覚だからそう思うのであって、一般人感覚では十分な大金なのだろうが。

 それでもロリ奴隷も専用武器も、これじゃ全く足りない。武器消費なしでも、やっぱ巨像迷宮は金策に不向きだ。チリツモである。

 

「ご主人、今日はどうするッスか?」

「そうだなー。一回宿屋に帰ってから、ご飯食べに行こうか」

「きひひ♡ はいッス♡」

 

 ルクスリリアと話しながら帰路を歩く。

 美しいファンタジー世界の街並みに、活気ある広場。大量の金に、隣で歩くロリ奴隷。

 実に、良い。

 

「あ、あそこ喧嘩はじまったッス」

「危ないから近づかないようにしようか」

「えー、ご主人ならあいつらワンパンっしょ? いっそ殴り込んで全員やっちゃうってのはどうッスか?」

「俺は非暴力主義なの」

「日常的に迷宮潜ってる人が非暴力ッスか。ウケるッス」

「それはそれ」

 

 ルクスリリアと二人、夜の街を歩く。

 

 何だっけ、昔読んだ時代小説で書いてあった事……。

 住む所、着る物、それと食事と運動と性交。これらが揃ってると人はとても健全に健康に楽しく毎日を生きられる……みたいなの。

 今の俺は、まさにそれ。

 

 割と充実していると思う。

 俺とリリィは、奴隷と主人という前世日本じゃ許されない関係だが、それでもだ。

 俺は、とても健やかに毎日を過ごせていると思うのだ。

 

 こう充実した日々を過ごしていると、俺の中のハーレム欲がどんどん薄れていく感覚がする。

 もうルクスリリア一人でいいんじゃないかなという気持ちだ。

 

 聞いた話によると、リアルでハーレム作るには相当な度量と甲斐性が必要とか何とかで……。

 少し前まで童貞だったのだ。そんな俺に、上手に俺中心の共同体を築ける自信はなかった。

 もう、このままでいいんじゃないか?

 

「あ、イシグロさん」

「はい?」

 

 宿屋に入ると、店主が話しかけて来た。

 いつもはおかえり的な軽い挨拶しかしないのに、何故か今日は名前呼びである。

 

「あのー、昼頃にどこそこの使いを名乗る方がいらして、イシグロさん充てのお手紙を預かってるんですけど……」

 

 店主から手渡されたソレは、手紙というには簡素なメモ帳サイズの紙だった。

 そこには、綺麗な異世界文字で「例の件についてお話がございます。お時間のよろしい日にいらしてください」と書いてあった。

 なるほど、簡素な紙にこの内容なら、仮に盗まれても何のこっちゃだろう。プライバシーへの配慮を感じる。

 

「ありがとうございます」

 

 そして、差出人の名は、こうであった。

 

「誰からッスか?」

「足の長い紳士から」

「んー?」

 

 店の名前も、主人の名前も明かさない。事前に決めて置いた仮の名前。

 え? そんなん必要ある? と訊くと、「万が一の事がございます」と言われて決めた、俺と彼にしか伝わらない差出人。

 

 足の長い紳士。

 またの名を、奴隷商人・クリシュトー。

 

「……来たか」

 

 まあ、うん……。

 やっぱ、そうそう夢は諦められないって事で。

 ハーレムは男の夢って話で。

 

 二人目のロリが来た。

 

 またぐらがいきり立つ!




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