【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝しかないです。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
アンケートのご協力、ありがとうございました。
結果、レノは二丁拳銃使いになりました。
詳細は後々。
実りの秋から時が過ぎ、通る風から冬を感じ始める頃の事。
王都アレクシストと異なり、この街は木組みの家がメインだった。
何度も補修を重ねた石畳と等間隔に植えられた街路樹。人の営みと豊かな自然が共存していて、この地はラリス王国内とは思えない安穏とした活気に満ちていた。
道往く人々の顔は楽しげで、駆け回る子供達はそわそわと浮ついている。さもありなん、今日は祭の日なのである。
「綺麗、可愛い街。ここなら楽しく暮らせそ~」
本日も晴天也。お出かけ日和の空の下、俺達はラリス王国フライシュ領にある迷宮都市リントにやってきた。
フライシュ領は異種族交流会で一緒したミラクムさんの実家が治める領地で、リント市はウェルン島捜索作戦の前に宿泊していた街である。
何故ここに来たかというと、以前シュロメさんに教えてもらったお料理大会とそのお祭りを見る為だ。
「寒くないか? レノ」
「ん、だいじょぶ」
「あたし等ほんとサイズ困るッスよね~」
「既製品だと特注ですもんね。それか子供用」
「わしが繕ってやってもいいんじゃが、リンジュ風になってしまうでのぅ」
「それはリンジュに行った時の楽しみにしておきましょう?」
お祭りムードの街の中、今現在の俺達は王都風の私服を着ていた。
冒険者流の防具でも良かったのだが、まぁせっかくのお祭である。レノの装備はまだ揃っていないので、一人だけ私服ってのも寂しいだろう。
勿論、各々街ブラ用の武器は身に着けている。だが、例によってレノは武器を携帯していない。
仮称・光力銃の研究は始まったばかりだ。
今は適正素材と開発メンバーの選定。それから光力触媒の現物を確保すべく動いている。サンプルに関してはドワルフにツテがあるらしい。勿論、費用は俺持ちである。その他、注文した短弓と防具もまだ先だ。
なので、それまでは休暇となったのである。
淫魔女王から届いたエリーゼの検診については、銀竜令嬢に添削してもらいつつお返しの手紙を認めた。
女王陛下の予定もあるので、お料理大会が終わり次第淫魔王国に向かう所存である。
「黄金林檎のパイ、数量限定ッスよ! 無くなる前に食べるッス!」
「りんごタルト……」
「美味しそうですね……!」
「せっかくだし、フライシュ・
「もう呑んだんじゃな……」
曰く、フライシュ侯爵は美食貴族で有名らしい。ご子息であるミラクムさんもお料理には一家言あるんだとか。
そんな侯爵のお膝元なだけあって、お祭り中の今は前来た時よりも食べ物系の出店が多かった。お祭りブーストにしたって、食への偏り具合がハンパない。
「会場は……あっちか」
シュロメさんからはお料理大会があるとだけしか聞いていないので、お祭りの詳細は知らないままだ。俺達は人の流れに乗って広場のある方へ向かって行った。
それなりに歩いて街の中心に到着すると、大きな広場にそれらしい人だかりを発見した。ここかと思い、失礼失礼と前に出る。
「ご主人様、あそこ」
「間に合ったか」
なんとか最前列に辿り着く。見ると、広場には如何にもお料理バトルで使いそうなセットが設けられていた。
真ん中にある審査員席を挟んで、森人と獣人が向かい合っている。その森人には俺の一党の全員に見覚えがあった。
「拙者の名はシュロメでござる。正々堂々、お頼み申す」
「オレ様の名は“麺帝”のドルーヌ! おめぇの話は聞いてるぜ? 何やらリンジュで新しい調味料を作ったそうだが、代々受け継いできた我が一族の麺に敵うものかね?」
「お手柔らかに」
眼帯森人のシュロメさんだ。彼女はこの異世界における味噌と醤油の開発者で、両調味料を用いた料理のパイオニアである。
そんな彼女に相対するは、笹を咥えた
堂々たる両者の挨拶を見守るのは、審査官と思しきナイスシルバーの執事と二人の若いメイドさんだった。恐らくフライシュ家の侍従だろう。
「両者位置に着きまして! 準備はよろしいですね? それでは、皆さんお待ちかね! フライシュ祭! 一回戦ッ! レディィィ……!」
「「「ゴォオオオッ!」」」
ジャァアアアン! 審査官の老執事が勝負開始の宣言をすると、けたたましい銅鑼の音と同時に観客達も声を上げた。
あまりの轟音に、グーラとイリハが耳を伏せる。穏やかだったリント民はどこへやら、凄まじい熱気が弾けて混ざっていた。なるほど領主の色に染まってるんだな。
「すごい歓声ね……」
「これがシュロメさんの言ってたお料理大会……」
「いいや、ただ料理するだけの場ではないぞ。己が技前をぶつける真剣勝負……それがフライシュ祭だ」
突然声をかけられる。振り向くと、これまた見覚えのある女性と再会した。
「久しいな、イシグロ殿。しばらく見ないと思っていたら、まさかここで再会するとは」
そこにいたのは、牛鬼侍のイスラさんだった。
そういえば、彼女はシュロメさんとは友人関係だったか。
「どうも、お久しぶりです。イスラさんは応援に?」
「まぁな。他にも王都の冒険者が来ているぞ。ほら、あそこ」
彼女が指差す方には、西区銀細工のリカルトさんとラフィさんがいた。二人と話しているのは、お狐商人のソルトさんか。
「フライシュ祭は新しい料理を見出し、民間に普及させる事を目的にした美食競争だ。実際、ここ発祥の料理は数多い。ラリスサンドとかは王都でも有名だろう」
「なるほど」
観客が見守る中、参加者の二人は調理用魔道具を使って料理をしていた。
シュロメさんは土鍋で米を炊き、パンダ男は麺を茹でながら野菜を切っている。その気迫たるやイスラさんの言う通り真剣も真剣のマジ勝負だった。
「おや? 魔道具使わないんじゃな」
しばらくすると、シュロメさんは捌いたウナギを串に刺し、炭を入れたメタリック賽銭箱に乗せて焼き始めた。
そして、焼いたウナギ串を壺に入れ、取り出してから再度焼き始めた。ぷつぷつと油の弾ける音と共に、甘い醤油の焦げる匂いが香ってきた。タレの入った壺にくぐらせたのか。
「あら、前にイリハが作ってくれたやつじゃない」
「主様に教わったんじゃよ」
「お腹が空いてきました」
「アレなに?」
「
皆がシュロメさんの料理風景に注目している最中、俺は俺で割かしマジに驚いていた。
彼女がやっているのは、ウナギの蒲焼きである。醤油が生まれて間もない異世界、蒲焼きの概念は俺がイリハに伝授したのが最初だと思っていた。
何かの本で読んだが、日本で蒲焼きが生まれたのは意外と遅かったらしい。しかし、シュロメさんは今こうして完璧な形で披露している。それも、最強の組み合わせたるウナギの蒲焼きを。
「ほいっと、完成でござる!」
炊き立ての白米の上に、焼き立てのウナギをドッキング。
そうしてお出しされたのは、某おにぎりヘッド小学生がよく「食いてぇ」と言ってる気がする料理の親戚だった。
「う、うな丼だ……!」
それは紛れもなく、うな丼だった。
炊いた米に焼いたウナギを乗せただけという、シンプル極まる料理だが、異世界人的には物珍しいようで三人の審査員は興味深そうにしていた。
「ふんっ、何が出るかと思えば! リンジュの丼など斬新でも何でもねぇな!」
「それはどうでござるかな?」
参加者の料理が出来上がり、審査員席の前にお出しされる。シュロメさんの料理はうな丼で、対戦相手が出したのは具材たっぷりのラーメンに見えた。
先に出したのは対戦相手の方だったので、審査員はまずラーメンの方に箸をつけた。
「ほぉ、これは絶品ですな。新鮮な野菜に背脂が絡んで……スープは豚の骨を使っているのですかな?」
「ええ、その通りですぜ。加えて言うなら、オレ様の
老執事一人と若いメイドの二人。計三人の審査員はパンダおじさんの作った麺料理を美味しそうに食べていた。
ていうか、何郎系ラーメンだよねアレ。モリモリと盛るペコされた麺の上には、背脂に塗れた具材が山ほどに。どう見ても積載過多である。あったんだ、異世界ラーメン。
ごくりと、リント市民の誰かが喉を鳴らした。審査員達の様子に、パンダおじさんは腕組みしながら勝ち誇った表情を浮かべている。
「これは良い香りですな。当家でも醤油と味噌を使った料理を模索している最中でして……」
大量のラーメンを食べた後だというのに、審査員は余裕そうだった。続いて、シュロメさん作のうな丼を実食。
そして、審査員達が白米と共にウナギの蒲焼きを口に入れた。
次の瞬間……!
「むっ……!?」
美味の驚愕に悶える巨乳メイドの横で、老執事の筋肉が過剰膨張し着ていた服が勢いよく弾け飛んだ。
その肉体は完璧な黄金比で、まさしくプロポーションお化けそのものであった。弾けんばかりの大胸筋が、祭りの熱気に中てられてテカテカツヤツヤと光を放っている。
「なっ、なんという味の調和でしょう! 泥臭いはずのウナギがこうも食べやすく、柔らかいなど! 僅かに散らされた山椒がウナギの脂っぽさをやわらげ、白米と併せる事で最高のバランスに昇華されております! 何よりもこのタレ! ただ醤油を甘くしただけではない! 一度火を通されているのか! とろりとしたタレがパリパリとしたウナギの表面によく絡んでいる! それに、熱々の白米に染み込んで……んんっ、素晴らしい!」
丁寧に解説をしつつ、マッチョ執事は勢いよくうな丼をかっ込んでいる。その横で、メイドさんも目を輝かせて人生初の蒲焼きを食べていた。
その姿を見れば、勝負の行方は明らかである。
「勝者! シュロメ選手ぅ!」
わぁああああ! 観客の歓声が響き渡り、勝者のシュロメさんに割れんばかりの拍手が贈られた。
隣で解説してくれるイスラさんによると、祭の後にはフライシュ家がレシピを買いとり、民に無償で公開する予定であるらしい。そうか、ラリス料理はこうやって広まっていくんだな。
「ば、バカな……!? 拉麺一筋の、このオレ様の麺が……」
「研鑽は確かに。しかし、お主個人の拘りがお主自身の腕を鈍らせてござった」
「う、うるせぇ! 黙れ! そんな腐った豆の搾り汁の何が! そんな……!」
「そう来ると思ってな。ひと切れ、食べてみるでござるよ」
勝者のシュロメさんが敗者のパンダおじさんにウナギの蒲焼きを差し出す。
男は「クソ!」と悪態をつき、忌々し気に頬張った。すると、彼は審査員同様にクワッと目を見開いた。
「むぐっ!? こ、これは何だ!? 身体にエネルギーが戻ってきやがる! お、オレ様の情熱! 俺の、僕の元気が! 溢れる! うわぁああああ!?」
嚥下と同時、パンダおじさんは某暗殺拳を食らったモブのように膨張し、筋骨隆々の上半身を晒して倒れ伏した。その顔はとっても安らかだった。
実に料理バトルらしい負けっぷりである。
「フッ、さすがシュロメだ。腕を上げたな」
「腕の問題なんですかね」
「あの方々はなんで服を脱いでるのでしょうか」
「分からないわ……」
「脱いでるっつーかなんつーか」
「ウナギ、怖い……」
こうして、フライシュ祭の一回戦は終了した。
このままトーナメントで勝ち上がると、決勝でフライシュ侯爵が食べる仕組みのようだ。
個人的に、醤油や味噌を使った料理はどんどん普及してほしいので、彼女には頑張って欲しいところ。
「なんか凄かったのじゃ……」
「ああ、うん」
フライシュ祭を見ていると、レノ合流前に燃えていた俺のクリエイティブ因子が再燃する気がした。
異世界の食材を使って日本の料理を再現する。カツや蒲焼きなどをイリハに伝授し、ちょくちょく一党の皆で楽しんでいたのである。
せっかくだし、また何か作ってみようかな。
それこそ、蒸すタイプの蒲焼きなど再現したい所存である。
〇
草木も眠る丑三つ時。
そこは、怪しいお香の焚かれた怪しい一室だった。
怪しい部屋の四隅には四つの怪しい蝋燭が灯っていて、三つの怪しい影が伸びている。
沈黙の中、妖艶な影が怪しい静寂を破った。
「ドルーヌがやられたようね……」
「フフフ……彼は四天王の中でも最弱」
「冒険者如きに負けるとは、四天王の恥さらしだねェ」
三つの影がせせら笑う。ドルーヌとは、フライシュ祭一回戦でシュロメと戦い、敗れた料理人の名だった。
蝋燭の火が三人の面貌を照らす。
「次の相手はわたくしね。旨味の激流で押し流してあげるわ」
派手な化粧の翼人。
セクシー担当、“旨姫”のプスー。
「今日の戦いで、彼女のグルメ
几帳面そうな七三分けのドワーフ。
頭脳担当、“情強”のデター。
「そもそも、彼女の料理には美しさが足りないねェ。あれでは、いくら味が良くても頂点には立てないさ」
鬱陶しい長髪の森人。
お耽美担当、“七草”のギュムレー。
彼等こそ、ラリス美食界の支配を目論む闇の料理人達である。
名を、ラリス美食四天王。
フライシュ祭は終わらない。
シュロメの戦いは、これからだ。
まぁ、どこぞのロリコンには関係のない話である。
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