【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。感想を頂けるからこそ続けられるってもんで。ありがてぇっす。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です!
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は一人称、イシグロ視点。
 例によって怒られたら避難所行きです。チキンレースがしたい訳でも、運営様に迷惑をかけたい訳でもありません。
 まぁこれくらいなら大丈夫だと思いますけどね、普通に。少女マンガのが過激だってそれ一番言われてるから。


天使のココロに花が咲く(下)

 天使の秘境は純白だった。

 誰にも踏み荒らされた事のない丘で、控えめな蕾が花咲く時を待っている。

 例えるなら、クリームたっぷりのホールケーキ。ロリコン特効の香りを放って、さぁ召し上がれと誘っているのだ。

 

 眼前に広がる不毛の大地に、俺は吸い寄せられるように顔を近づけていった。

 無理矢理しようってんじゃない。当人にお願いされたのだ。抑圧されてた彼女の希望は、極力叶えると決めている。

 そして、魅惑の猥字路に差し掛かった瞬間……俺は、己の魂に急ブレーキをかけた。

 

 ロリコン・セーフティである。イリハの一件もあり、俺は俺の理性と股間に一切の信用を置いていない。もしもの為の精神防壁として、俺は自己暗示をかけているのだ。

 嘘である。単に賢者入ってたから止まれただけだ。もしもフルチャージされていたら、間違いなくモード反転してザ・ビーストになってただろう。

 

 とにかく、目をつぶれ。ランサー・メドゥーサだ。ひと目見たらば上も下も硬直する。バベルタワーが完成すると、神が怒って世界がめちゃくちゃになってしまうのだ。

 俺はギミックボスの吸い込み攻撃を耐えるような姿勢で身を引き、十分に離れた位置で呼吸を再開した。

 

「マスター?」

 

 上から声が降ってくる。そこには一切の羞恥も媚びも感じ取れなかった。

 無邪気、故に妖艶。そういうトコやぞと言いたいが、誰が彼女の純真さを咎められようか。

 

「い、一回、手を離してくれない?」

「ん、わかった」

 

 ぱさり……瞼の向こうで、ネグリジェの裾が落ちる音が聞こえた。

 スタングレネードを食らった後のように、ゆっくりと目を開ける。すぐ眼前には聖輪郷性のウール生地。生足だったら即死だった。

 

「ふぅ……」

 

 一息吐いたところで、努めて冷静に思考を回す。

 そもそも、何がどうしてこうなった?

 

 直近のレノを思い返す。

 ホテルで飯食ってた時は、いつもと変わらない様子だった気がする。強いて言うなら、本場の淫魔ソーセージのサイズに驚いてたくらいか。

 その前、王城では、検診の後に淫魔女王から診断結果の説明を受けていた。幸い、適合手術によって一部機械化された事による健康被害は考え難いと言っていた。特殊なメンテナンスも要らないようで、普通に生活して大丈夫との事。

 呪いについては普通に解呪できたようだが、それと同時に驚くべき情報がもたらされた。何と、レノにかけられていた呪いと、エリーゼの呪いが同体系である可能性が高いというのである。まだ確定ではないが、曰く共通項が多いとかで。

 その時も、レノは普段通りだったように見えた。他は、何故か淫魔女王と仲良くなってたくらいだろうか。色々とお話をしたらしい。

 

「レノのお願いは、わかった」

「じゃあ舐めて……」

「その前に、その経緯を話してくれないか?」

 

 分からないなら、話し合う必要があるだろう。

 けれども、強い言葉で問い詰めたり、上からモノを言うのは絶対にダメだ。

 何でも否定から入ると、あんま良い事ないからな。

 

「お話? わかった」

 

 これまた、レノは素直に応じた。

 現状の体勢だと話しづらいので、部屋にあった椅子に座って向かい合う。

 

「ん……ちょっと待って。今、整理してる」

「ゆっくりでいいよ」

 

 しばらくして、レノは時系列順に話しはじめた。

 診察中、淫魔女王にお悩み相談をしたこと。

 洗浄中、淫魔女王に促されてエリーゼとお話したこと。

 

「だから、一回舐めてもらおうと思った」

「……ん~?」

 

 ちょっと結論飛んでないすか?

 なんだろう、新手のスタンド使いか? 俺、いつの間にかキンクリ食らってた?

 

 一旦、情報をまとめよう。

 まず、レノは家族の言う“恋”に憧れがあって、それを俺としてみたいと。それは聖輪郷を出る前に聞かせてもらっている。そこまではいい。

 で、相談の結果、女王からは“恋愛には成長が必要“という学びを授かり、“成長には他者との対話が必須である”とアドバイスされたらしい。

 次いで、エリーゼとお話した結果、“行動による心の変化”を観察しようとなった訳だ。

 からの、「舐めて」であると。何故そっちに行くのか、何故それを知っているのか、コレガワカラナイ。

 

 いや、まぁ過程は理解できるんですよ。

 世の中、やってみなきゃ分からん事ばっかりだし、見聞きするだけじゃなく体験するのはとても大事だ。

 でも、物事には順序ってものがあって……。

 

「ん、わたし、見てたから」

「あぁ……なにを?」

 

 思考の途中、レノはおもむろに口を開いた。

 つまり、何かを見た事があって、それを真似しようと思った訳か。

 つっても、ケフィアム内でそういうのは見せてないはずなんだが……。

 

「マスター達が交尾してるところ」

「……えっ」

 

 またも、硬直してしまった。てか、交尾て……。

 当たり前だが、俺達はこっそりやっていた。まるで幼子に隠れて営む夫婦のように。それこそ、レノに見せないように、である。

 

 ふと、レノの右眼が妖しい光を放っているのが見えた。

 紫色の彼女の右眼は、猫又に移植された魔眼である。その能力は透視で、石壁だろうが皮膚だろうがその気になればスケスケにできる。

 戦闘においては、相手の動きの予測であったり、脆弱部位の目視であったりが可能である。近接にしたって遠隔にしたって、有用極まる能力だ。

 そこで、ピンときた。この娘、別の部屋から透視してたのかもしれない。

 

「壁越しにって事……?」

「ん、聖輪郷出てから、ほぼ毎日」

 

 こくりと、頷かれる。

 全然気付かなかった。ていうか、思ってもみなかった。

 

 言い訳をさせてもらうと、レノはそういうのに全く興味がないと思っていたのである。実際、エリーゼの魔力センサーにも引っかかってないし、ルクスリリアの淫魔センサーも無反応だったのだ。

 話は変わるが、ナイトパレード中の男は著しく知能指数が下がるってのを聞いた事がある。それと同じで、盛り上がっちゃうと注意力が散漫になってしまうのだ。そもそも、最中は相手に全集中してる訳で。

 あ、昨日ルクスリリアが感知したスケベオーラって、もしかしてレノだったり?

 

「マスター、皆の身体舐めてた」

「お、おぅ……」

「マスター、皆に踏まれてた」

「まぁ……」

「マスターも、皆も……嬉しそうだった」

「はい……」

 

 訥々と、レノは俺の性事情を語る。

 その表情に、これといって変化はない。いつも通りのアンドロイドフェイスだ。

 例によって、恥ずかしがってる様子もない。両親のプロレスを見た後のような気まずさ等もまた同様に。

 

「皆……いつも幸せそうだった。だから、エリーゼに言われた通り、試したくなった。それで、分かると思ったから……わたし、間違えた?」

 

 半開きのジト目が伏せられる。まるで、叱られる寸前の子供みたいだった。

 自分なりに考えて、勇気を出して行動した結果、それを間違いだと言われれば、何はともあれショックだろう。

 少なくとも、俺は彼女を叱ったりとか説教しようとは思わない。覗き見が悪い事ってのは後で教えてあげればいいし、今はそっちが主題じゃない。

 

「間違えてた訳じゃないよ。順序を知らなかっただけだ」

 

 彼女の手を取り、できるだけ優しく言い聞かせる。

 そう。この子は知らないのだ。それを、知ってもらう必要があるだけだ。

 

「順序……?」

「ああ。足し算ができないと、掛け算できないだろ? それと同じで心の成長には近道がなくて、一つ一つ学んでくしかないんだ」

「ん、そうだったんだ……」

 

 納得して、学習してくれた。

 日常の一つとして、俺は皆に算数を教える事がある。現状、ぶっちぎってるのは新入りのレノだった。勉強でも何でも、彼女は一を聞いて十を知るタイプではないが、十聞いたら十知って百聞いたら百覚えるのである。

 この娘は話せばわかるのだ。

 

「じゃあ、交尾の前は何をするの?」

「え? いやぁ、必ずしも繋がる訳じゃ……」

 

 と思ったら、またこっちに戻ってきた。

 そうか。順序の存在を知ったとて、ならチャレンジするにはどれくらいの経験値がいるのってなるのか。

 難しいな、教育って。

 

「ごほん……ああいうのは、ホントに好きな人とするんだよ」

「ん……? 好きかどうか判断する為に、試す方が効率的じゃない?」

「それは……」

 

 言われ、確かに合理的ではあるのかもしれないと思った。

 前世、どこの国だか忘れたが、付き合う前に一発ヤるって文化があったらしい。それで言うと、俺の思う“順序”自体が現代日本以外じゃあナンセンスなのかもしれない。

 そもそも、ルクスリリアとの事がある時点で、恋愛とか性事情で俺にアレコレ言う資格はないのだが。

 

 それ以前に、貞操観念ってどう覚えるもんなんだ?

 やっぱ、環境だよな。小学生の頃に受けた性教育と、各種創作物。色んなものに影響を受けた結果、現代日本倫理にプラスして貞操観念が身につく訳で。後者に関しては前者以上に個人差が激しいが。

 

 価値観なんてのは時代と場所でマチマチだ。当然、日本と異世界じゃ貞操観念も大きく異なる。

 俺は王都の図書館で読んだ書籍の内容を思い出した。愛について、性の捉え方について、国や種族ごとに異なるのは当然として、それらは身分によっても変わるのだ。

 

 例えば、ラリスにおいては貴族と庶民で大きく異なる。

 貴族は強い血を継承する為に一夫多妻が基本である。しかし、妻は夫に操を立てるべしと一定の貞淑さを求められるようで、男尊女卑的な風潮があるらしい。バイオレンスなラリスも、そこらへんは結構ナーロッパめいているのだ。

 対し、一般人は産めよ増やせよの文化で、割とそのへん大らかだ。浮気や不倫は良くない文明と言われるが、それだって世間様全体を敵に回すって程でもない。既婚者の皆さん、けっこう娼館に行ってらっしゃる。

 

 驚いたのは、この世界には性病が存在しない事である。

 何でどうしてと思ったものだが、古代の歴史曰く極光天使ジュスティーヌが全人類の性病を殺したという記述があった。とんでもねぇ。

 

 閑話休題。

 

 レノは合法ロリである。どれだけ若く見積もっても御年二十は超えているのだ。

 ラリス王国の価値観でも全然オッケー。聖輪郷の価値観的には堕天使だが、彼女の身分を鑑みれば誰も文句を言えはしない。

 極論、彼女がヨシならヨシなのである。全て、自己責任であるからして。

 

「マスター、わたしも交尾したい」

 

 再三彼女が言うように、その動機は“俺が好きだから”ではない。

 俺の事が好きかどうか、分からないから試してみようってなってるのだ。自分の心を知る為に、幸せになる為にだ。

 

 翻って、俺の願望はどうだ。

 一切の虚飾を抜きに言うと、そりゃ抱きたい。ああ、しこたまスケベしまくりてぇさ。

 見てみぃこのつぶらな瞳。無機質なメカ耳はどうだ。オンリーワンの光輪と、生えたてホヤホヤの天使の翼。あまつさえコンセントケーブルめいた尻尾まで完備。すばら。

 何よりも、彼女の心根。既に、俺はレノの過去を追体験しているのだ。その魅力を知り、その善性を知って、彼女を好きにならない訳がない。

 

 俺は、レノに惹かれている。

 ルクスリリア達がいる身にも拘わらず、俺はすっかり惚れてしまっているのだ。

 

 彼女は希望している。

 法も問題ない。

 けど、俺の覚悟が足りていない。

 

 例え彼女自身がオッケーだとしても、一時の衝動に身を任せてはならないのだ。

 それこそが、俺が負っている責任なのである。

 

 彼女の将来を思うなら、彼女の言う通りにすべきではない。

 かといって、ここで彼女の意思を否定しては、彼女の成長を阻害してしまう恐れがある。

 なら、その間を取るのはどうだろうか。

 

「わかった……」

「ホント?」

「ちょっとずつ、試してこう」

 

 つまり、一つ一つやってみて、いつでも中断できるようにする。

 それなら、致命的な事は起こらないはずだ。俺の理性が持ちさえすれば。

 

 それに、流石に初手バター犬はハード過ぎると思うし。

 

 

 

 

 

 

 是は試練である。聖戦である。一世一代の大勝負である。

 汝、真なるロリコンであるならば、寡黙系メカ耳オッドアイロリ天使に触れながら、バベルタワーを建てるべからず。

 

 レノは自分の心が分からない。その状態を知る為に、色々試してみたいと言う。

 だが、彼女の傷になってはいけない。後悔をさせてはならないのだ。

 故に、折衷案。俺はレノの要望を半分叶える事にした。

 

「ん、全然違う……」

 

 現在、俺は窓際の椅子に座りながら、レノを後ろ抱きにしていた。

 ふわふわの翼が肋骨を撫でる。二人羽織をするような体勢で、レノは前に回された俺の手をむにむにと弄っていた。

 

「硬い、ね。わたしのよりも分厚い……」

 

 防具越しではない肌の接触。小さくて冷たいお手々が、剣を握り慣れた男の手をスリスリ触る。

 生命線をなぞられ、親指の付け根を撫で、厚く硬化した掌を押す。レノは、そんな事をかれこれ二十分は続けていた。

 

「どう? 今の感じは」

「ん、良好……。忌避感はない。それに、なんだか安心する……」

 

 無垢な天使は、すっかり俺に体重を預けていた。リラックスしているのだ。

 それが好意故か性欲由来なのかは、まだ当人にも分かっていない。分かろうとしてるから、今こうしているのだ。

 

「マスター、次の段階に行きたい」

「わかった」

 

 二人羽織状態を解除し、レノに姿勢を変えさせて正面から向かい合って抱きしめ合う。

 翼の付け根に手を回し、ゆっくり身体を抱き寄せる。ちょこんと膝に乗ったレノは、やがて俺の首筋に顔を埋めた。

 風船が抜けるような鼻息が俺の首筋を撫でる。全くその気はないのだろうが、レノは俺の大胸筋に手を這わせていた。

 

「んぅ……♡」

 

 僅かに湿り気を帯びた声が漏れた。

 バサリと、純白の翼が第二の両腕になって俺の身体を覆う。内と外、二人だけの世界を作るように、天使と人間はこれ以上なく密着していた。

 

 小さな手のひらが俺の心窩部に当てられる。レノは目の前の他者の心音を感じていた。少し早くなってるかもしれない。

 対して、レノの心音は規則正しいリズムを刻んでいた。曰く、彼女の心臓には魔道具が埋め込まれているらしく、その血流量は常に一定になるよう調律されているのだ。

 けれど、徐々に早まっている。感情が揺れて、心が乱れて身体が火照っているのだ。普通の人より控えめだが、レノは確かにドキドキしていた。

 

「マスター、ドキドキしてる……」

「ああ」

「多分、恐らく……今、わたしは嬉しいんだと思う」

 

 ゆっくりと、身体の距離を離す。

 ここまで至近距離で見つめ合うのは、何気に始めての事だった。こうして見ると、レノが如何に美少女かよく分かる。

 月明かりだけが照らす夜。レノはいつもの無表情のまま、熱っぽい目を潤ませていた。

 

「ん……♡ マスター……♡」

 

 うっすら赤らんだ頬。トロンとした瞳。いつもより少し光量を増した輪っか。

 俺も童貞じゃない。今の彼女がどういった状態かくらい分かっている。押せばいけるのだ。

 けれども、絶対押してはいけない。見守る事こそ、責任者の本懐である。

 

「え、エリーゼは……毎日、マスターと唇くっつけてた」

「うん」

「わたしもアレ……してみたい」

 

 陶酔したような上ずった声が、俺の耳朶を震わせる。

 僅かに開いた唇を、彼女はぬらりと舌なめずりした。天使の唾液に濡れた唇が、淡い月光を反射する。

 このまましてしまうのは、両者の願望には沿っている。しかしてこれはファーストキスだ。勢いのまま、という訳にはいかないだろう。

 

「その前に……」

 

 俺は徐々に近づいてくるレノの額に唇を落とした。これは異世界でも親愛を示す行為とされている。

 額にキスを受けたレノは、くすぐったそうに身を震わせた。

 

「もっとして……♡」

 

 ちゅっちゅっと、わざとらしい音を立てて天使の身体に唇を落とす。白く透き通った肌は、ただ触れるだけで心地よい。

 頬、耳、手の甲……感触自体は僅かなものだが、その度にレノはビクビクと感じていた。

 この娘、割と敏感である。

 

「わ、わたしもする……♡ ん、ちゅ~♡」

 

 程々のところで、レノの希望で選手交代。初手、レノは俺の頬に吸い付き、強く吸引してきた。

 赤ちゃんが哺乳瓶のミルクを飲むように、顔と言わず身体各部が吸われていく。学習能力の高さは何処へ行ったのか、レノは思うままに動いていた。

 無意識なのか、思考より先に心が身体を動かしている。誓って言うが、俺は彼女に房中術を使っていない。それこそ段階的にこうなっていったのだ。

 

「ちゅっ♡ ちゅぷ、ぢゅ~♡」

 

 心頭滅却心頭滅却……。強いて心を平静に保つ俺だが、ロリコン反射でロリのチューには反応してしまう。

 幸福のあまり自然に持ち上がる頬を見て、レノの瞳に更なる熱が灯っていく。

 

「はぁ♡ マスター♡」

 

 もぞもぞと、腹に局部を押し付けられる。

 そのすぐ下には、ガチガチになったテントがあった。防具だったらバレなかったかもしれないが、バスローブ装備の現在だとバレバレである。

 

「んはっ……♡ 色々、分かったよ……。大人しい心臓が、元気に動いてる……。身体が熱いのは、多分チューしてるのがマスターだから……。わたし、マスターのこと、好きなんだと思う……」

 

 至近距離。レノの両腕が俺の首に巻き付いてくる。見上げる位置に、彼女の顔があった。

 純白の翼が展開する。さながら、蛹を卒業した蝶々のように。長い眠りから、目覚めたかのように。

 

「したいって思う♡ 興味じゃなくて、感情で♡ もっともっとくっつきたい♡ マスター♡」

 

 これ以上は、唇同士の接触では収まらない。その事は彼女も分かっているのだろう。

 その上で、レノは自ら顔を近づけてきた。

 

 退くなら、今だと思う。

 逆に、このままだったら行くところまで行ってしまう。

 なら、俺が取るべき行動は……。

 

「好きだよ、レノ。愛してる」

「んっ……♡」

 

 小さな腰に手を回す。一瞬の硬直の後、レノの手に力が籠った。

 

「んんっ、ちゅぅうううう……♡」

 

 ファーストキスは、天使の方から降ってきた。

 それは、初めてのキスとは思えないほど強引で、長いものだった。息継ぎもなく、鼻息を荒くして、ちゅ~とチープな音を立てられ口を吸われる。

 顔を引こうとすると、覆いかぶさるように上を向かされた。あむあむと、レノの小さな唇が俺の上唇を食んでくる。次いで、にゅるりとしたものが唇の間を這い始めた。

 この娘、ファーストでディープなキスをする気なのだ。薄く目を開くと、彼女は妖艶に目を細めていた。

 

「ぷはぁ♡ ん、ドキドキする……♡ わたし、もっと深くしたいのかな♡ マスター♡ いつもみたいに、わたしにもして……♡」

「ああ。でも、キスにも順序があって……」

「エリーゼはこうしてた♡ あむ、ちゅるる♡」

 

 再びのキス。返事をしようと開いた口に、天使の舌が侵入する。唇の裏、歯茎を舐め上げ、作法など知らぬと好き放題に動いていた。

 いつもより押しが強くなってる。こうなったら、俺も覚悟を決めて受け入れざるを得ない。そも、したくない訳じゃないのだ。

 

「れろれろ……♡ ん、ちゅう♡ はぁ、むっ♡ んんっ、ちゅぷ……♡」

 

 レノの舌は小さく、さほど長くはなかった。一生懸命に口を開け、俺の舌をねぶろうとしている様は、生まれたての子犬のようだった。

 ぐいぐいと身体を密着されつつ、熱を逃がすように口が離れた。たらりと架かった唾液の橋が俺の口内に収まると、レノは最高潮といった風に微笑んだ。

 天使の口の端から、たらりと透明な雫が垂れている。

 

「ん……♡ 本で読んだ♡ これで一緒になるんだよね♡」

 

 バスローブ越しに、二者の大事な部分が接触する。ぐりぐり、ぐりぐりと、レノは無邪気に俺を誘っていた。気が付けば、俺は完全敗北していた。

 如何にも拙い腰の動きは、明らかにこれから先の情熱を欲していた。

 

「……ねぇ、マスター♡」

 

 ふわりと、レノは垂直に浮き上がった。

 ヒラリと、ネグリジェの裾が持ち上がる。念力によるたくし上げである。

 ついに開かれたそこは、もう準備万端だった。

 

「舐めて♡」

 

 ここにきて、俺の方が焦らされる事となった。

 言われるがまま、俺は犬に成り下がった。

 犬になった俺を見て、レノは恍惚とした笑みを浮かべていた。

 

 確信した。レノはソフトめのサディストだ。

 

 

 

 それから、俺とレノはベッドの上で主従を逆転し、言うがまま言われるがままお互いを高めあった。

 何をするにしても、レノは上になると悦びを覚えるようだった。相手を痛めつけようってタイプのサドじゃない。奉仕している俺を見て、ペットを愛でるように微笑んでいたのである。

 俺は限界に近かったが、それを知ってなおレノは焦らしに焦らしてきた。

 

「はぁ、はぁ……♡ マスター、可愛い……♡ あんなに強いのに♡ 英雄みたいなのに♡ わたしに甘えちゃってるみたい……♡」

 

 胸を奉仕してる最中、彼女は俺の頭を撫でていた。

 ロリ巨乳というより、永遠の膨らみかけ。お尻はイリハのが大きいのだが、胸はレノのが僅かに大きい。

 

「なんだろう♡ 好意が湧いてくる♡ 今のマスター、すごく素敵だと思う♡ すっごく情けない顔♡ はぁ、んっ♡ 可愛い……♡」

 

 体液塗れの俺を見下ろし、夜の天使が三日月を浮かべる。ついに、その時がやってきた。

 一瞬、冷静になった。天使用の避妊薬を、俺は一つも持っていない。ていうかそんなの存在するのか?

 

「女王がね、言ってたよ……♡」

 

 慣れない腰使い。なかなか狙いが定まらないレノが、トライ&エラーを繰り返しながら口を開く。

 

「わたし、子宮が取られてたんだって……♡けど、戻ってた♡ 古傷を直したみたいに、未成熟のが♡ ジュスティーヌ様が治してくれたんじゃないかって……♡」

 

 ぴたりと、一切の隔たりもなく触れ合う。

 エネルギー弁閉鎖、充填開始。セイフティーロック解除。ターゲットスコープ、オープン。対ショック、 対快楽防御。最終セイフティー、解除……。

 そして、一番いい角度が定まった。 

 

「だから、もうちょっとしたら♡ わたしも、マスターの子を孕めるよ……♡」

 

 言葉の衝撃と、快楽の衝撃は同時だった。

 天使族は生命力が高い。痛みは一瞬で、すぐに消失するらしい。つまり、ワンターンごとに順応するのだ。

 

 結論、レノはスケベだった。

 

 

 

 

 

 

 麗らかな朝が来た。

 爽やかな朝が来た。

 極めて晴れやかな朝が来た。

 

 そんな中、俺は皆に対して土下座を敢行した後、「私は約束を破りました」という羊皮紙を持って正座していた。

 説教されてるんじゃない。責められてるんでもない。ただ、俺が自主的にやっていた。

 先手の陳謝である。

 

 お迎え当初、「皆でレノを見守ろう」とか言っておきながら、一年待たず言い出しっぺが手を出すという暴挙。

 そもそも、愛し合った夜にベッドを抜けて他の女の部屋に行くなんて紳士道に反しまくってる。

 誰あろう、大罪人は俺である。

 

「まぁ、遠からずこうなるとは思ってたッス。期待してなかったとは言わせねぇッスよ」

「同意の上ならいいんじゃないでしょうか? 確か、イライジャ様も行きずりの獅子人を孕ませたという記述がありましたし」

「じゃな。むしろよぅ我慢してたんじゃないかのぅ。主様、とんでもない助平じゃし」

 

 とは、エリーゼを除く皆のご意見。

 前述の通り、俺は誰にも責められなかった。

 

「それより、身体の方は大丈夫かの? 氣の流れが変わっておるのじゃ。こう、お腹の中がモワモワと……」

「ん、大丈夫。天使族の治癒力は随一」

 

 朝チュン後、レノは後悔をしてはいないようだった。

 例によって、再生能力持ちの天使族は今朝から元気いっぱいで、その動きに常と変わるところはなかった。

 それどころか、朝からもう一戦お願いされたまである。勿論やんわり断ったところ、朝一番のチョモランマにヤマタノオロチが絡まってきた。レノは学習能力が高く、あっと言う間に習得した。めっちゃ気持ち良かった。

 言ってはいないが、多分レノの性欲はルクスリリアの次に強いと思う。

 

「ごめんなさい。私のせいだわ……」

 

 そんな中、エリーゼが白状した。

 これもまた責められる事はなかったのだが、彼女は今の俺に近い心境のようだった。

 曰く、こうなるとは思ってなかったとの事で……。

 

「ううん、結果的にはこれが最適解だったと思う。女王とエリーゼが言ってた事、理解できたから」

「淫魔女王ッスか?」

「ん……」

 

 一つ頷いて、レノはにへら~と不器用に微笑んだ。

 練習中のオリジナルスマイルだ。

 

「わたし、マスターのこと、好きみたい……♡」

 

 昨夜のソレとは質が異なる、僅かに赤面しての告白。

 陽光に照らされるレノは、まさに天使そのものだった。

 

「ちゃんと好きになれたから。だから、その……」

 

 俺も、改めて好きになった。

 何人目だよって感じだが、間違いなく。

 

「皆、今後もよろしくしてくれると、嬉しい……」

 

 よりいっそう、重い責任を負う事になったが。

 全く以て、悪い気はしなかった。




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