【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。継続の燃料でございます。
 誤字報告も感謝です。いつもお世話になっております。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。


ガンメタル・キャリコローリ

 前世、俺は小学校の社会科見学や校外学習が好きだった。

 工場見学に、農業体験。それから職場体験等々。色んな所に行って様々な経験をした訳だが、ぶっちゃけ当時の俺は遠足と同義の感覚で楽しんでいた。

 まぁ大体の子供はそんなもんだろう。けれど、二十歳を超えた今にして振り返ると、教科書を置いて外に出たあの経験こそが、情操教育に繋がってたんだなと思う。

 

 淫魔王国での用事は済んだが、そのまま帰るのは勿体ない。

 という訳で、俺達は遊んでから帰る事にした。

 

「な、なかなか難しいわね……」

「どうどう……っと、意外じゃな。エリーゼは馬乗れるもんかと思っとったのじゃ」

「普通の竜族には自前の翼があるもの。騎乗技術なんて要らないわ……」

「あれれ~? みんな遅くないッスかぁ~? 馬も困ってるじゃないッスかぁ~」

「は、走った方が早いから……」

「さっきからボクの馬だけ妙に大人しくないですか……?」

「ん、怖がってる」

 

 馬牧場に行き、一党の皆で乗馬体験。

 乗馬にチートは反映されないので、俺は誘導されながら背に揺られるので手一杯だった。馬操って弓射るとか考えられないゾ。

 我が一党では、ルクスリリアだけが馬を乗りこなしていた。曰く、これも学校で習ったらしい。

 

「わぁ、男の裸ばっかりだぁ……なんだこれは、たまげたなぁ」

「み、見て下さいご主人様……! アレクシオス様と淫魔女王が、その……!」

「ん、交尾してる」

「描いたのは……あら、パイモじゃない」

「チンイラ・ゴンザレス先生ッス! 二度と間違えるなッス!」

「何でも出来るんじゃのぅ、ほんに」

 

 ケフィアムの美術館も見に行った。

 淫魔王国は芸術関係にも力を入れている。絵画に彫刻になんかシュールな作品群。七十二の名を持つ芸術家ことパイモさんの作品も沢山飾ってあった。

 絵に興味があるレノ。勇者アレクシオスと初代女王のエロイラストに顔を赤くするグーラ。ガイドの淫魔さんはそんな二人を見て満足そうにしていた。

 

「ん、なんか変な着心地……」

「いいねぇ……! すごい似合ってるよ!」

「はい、よくお似合いだと思います!」

「これで全員揃ったな……!」

「いやいや、ご主人が残ってるッスよ」

「え? いやそれは、夏に強風吹かせそうな見た目になりそうな……」

「文献によると、夢魔も淫魔同様の革装備を身に纏っていたそうですね」

「精力は夢魔並みじゃし、合っとるんじゃないかのぅ?」

「ん、夢魔とは一回練習で戦った事ある」

「あら、そうなのね。どっちが勝ったのかしら?」

「相手の体力が切れるまで弾幕張ってたら勝った」

「なのにあんなにイキッてたのか……」

「いや、普通タイマンじゃ勝てねぇッスよあんなの」

 

 その他、適当に街をブラブラしたりした。

 服屋でレノ用の淫魔衣装も買ったり、レザー系の小物店を見て回ったり。淫魔さんは地味にこういうのセンスあるんだよな。

 

「あんまり強くしちゃダメよ? そうそう、優しくね。根本から先端まで、はぁい、ぴゅーっ♡ ぴゅーっ♡」

「いっぱい出た」

「牛乳がね」

「なんスかなんスか、情けないッスね~。どいつもこいつも乳搾りした事ないんスか」

「ボクのいた村に乳牛はいなかったので……」

「私もこんなに近くで見るのは初めてね」

「これがチーズとかバターになるんじゃな~。なんか感動じゃ」

 

 あと、ルクスリリアの実家に行って、酪農体験をさせてもらったりもした。

 俺は小学生以来の乳搾りだが、ルクスリリア以外は初めての体験だったらしい。

 で、搾りたての牛乳を飲んだ。前世で飲んだモノよりも濃い気がした。

 

「よし、忘れ物はないな」

「また来てね~。できたら次は若い男の子連れてきて~。短小包茎の童貞くんだと嬉しいわ~」

「うるせぇッスよ! ほら、ゆけいラザニア!」

 

 何日間か滞在し、しっかり冬と呼べる季節になった頃、俺達はラリス王国に帰る事に。

 フライシュ領では謎の騒動にほんの少しだけ巻き込まれたが、二度目の淫魔王国では何も起きなかった。行くところ行くところで戦ってたら呪われてるとしか思えんしな、こういうのでいいんだよ。

 戦いはともかく、レノについての進展はあったので、俺的にはハッピーな旅行になった。

 

「あら、雪が降ってるじゃない。早いわね」

「淫魔王国はもうちょい暖かかったのにな」

「この雪は積もらないんだ……」

「粉雪と言ってな。すぐ溶けちゃうんじゃよ」

「ほんじゃ、とりあえず転移神殿行って、明日あちこち見に行こうか」

「あいッス!」

 

 日本で言うと十二月上旬、帰ってきた王都は雪が降っていた。

 ギルドに帰還報告した翌日、各店を見て回る事に。愛車のメンテもしてもらわないといけないしな。

 

 てなわけで、最初は戦車工匠・ケイン氏の店を訪ねる事にした。前は食うに困っていたようだが、そろそろガリガリダークエルフを卒業してくれてるといいが。

 気持ちスッキリした店舗に着き、ノックして入ってみる。すると、事務所内には大量の自転車が並んでいるではないか。

 異世界自転車計画、上手くいったのか。

 

「いやぁ、この歳になってまだ新しいもんに熱中できるってのはいいもんだ。素材と技術の関係でまだ高級志向だが、そのうち安くなると思うぜ。将来はこれでガッポガッポよ!」

 

 とは、相変わらずガリガリダークエルフだったケイン氏の談。

 曰く、天才発明家パイモさんとの共同作業で、チェーンを使った自転車がほぼ完成したというのだ。

 以前のは三輪だったが、今では二輪のマウンテンバイク風。しかもエア入りゴムタイヤまで完備してるあたり、ガチのマジなチャリンコである。

 

「納得いくまで熟練したら、旦那専用の一番いいチャリ造りますんで、その時まで待っててくれよな!」

 

 という約束を交わして、空戦車のメンテをお願いする。

 で、件のパイモさんは何処へと訊いてみる。彼女にはいくつか発明品のアドバイス的な事をしたのだ。進捗如何ほどか気になるところ。

 

「ああ。奴さん、最近はアダムスんとこでよく分かんねぇ武器造ってるよ。今、あそこが一番アツいんだ。オレは武器の事はさっぱりだが、なんかすげぇらしいぜ」

「なるほど……」

 

 多分、それ光力銃だ。そっちもがっつり俺案件である。

 ガリダフの話によると、なんかドワルフが色んな職人に声かけまくってるらしく、選抜された職人による極秘プロジェクトが進んでいるそうな。

 で、パイモさんは有り余る才能でプロジェクトの一員に収まったと。

 

「なんだか凄い事になっていますね……」

「そりゃ出資額が出資額ッスからね~」

「工匠が大勢いて、アレで足りるものかしら……」

「いやいや、いくら出したと思ってるんだ」

「怪しいもんじゃと思うがのぅ」

「ん……わたしは、マスターの銃杖みたいなのでも全然いい」

 

 空戦車を預けたところで、ドワルフの店に向かってみる。

 進捗どうですかと覗いてみたら、なんか雰囲気がヤバかった。

 

「へっへっへっ……どうもどうも、イシグロの旦那じゃあねぇですかい……あ~、今何時でぇ? へっ、もう太陽が出て……?」

「……寝てます? 食べてます?」

 

 ドワルフまでガリガリになってた。

 目といい身体といい、かなりヤバい。映画の中盤で死にそうな商人キャラみたいだったドワルフが、ゾンビに噛まれた事に気付いてない系モブに変身していた。

 一応、光力銃計画はどんな感じか教えてもらったが、あっちこっちで不具合が起きまくってどうすりゃいいんだ状態になってるようだ。

 

「も、もう少し、もう少しで出来るんでさぁ……! どうか、追加の資金を! 見捨てねぇでくだせぇ……!」

「お。お金なら出しますんで、どうかお大事に……!」

「あ、有難うごぜぇやす……! へっへっへっ……それが寝ようと思ってベッド入っても光力銃ん事が頭から離れなくってよぉ……ワクワクが止められねぇんだ」

「そ、そうですか……」

 

 光力銃の完成にはまだ時間がかかりそうだ。

 そもそも、この世界の職人は開発スピードが早すぎる。新武器種なのだから、もっと時間かかって然るべきだと思うし、もっと身体を労わってほしいと思う。

 光力銃はそんな感じだが、他は既に完成してるっぽい。以前に注文したレノ用の短弓とその他の武器を受け取り、俺達はドワルフの店を出た。

 

「次は……防具屋寄って、買い物してから帰ろっか」

「ん、防具……」

「こっちは出来てるわよね。きっと」

「当座の装備が整いますね!」

「嬉しそうじゃの~」

「戦力の拡充は急務ッス!」

 

 と思って馴染みの防具屋に行ってみたら、レノの防具一式は装飾品含めて完成済みでひと安心。

 既にお金は払ってあるので早速受け取りからの現地装着。羽の関係でレノはまだ上手にお着替えできないので、イリハに手伝ってもらって試着である。

 

「おぉ……!」

「なんか新しい天使の形って感じッス」

「不思議な出で立ちね。けれど、悪くないわ」

「機動力重視でしょうか。光力が巡りやすいようにしてるんですね」

 

 試着室から出てきたレノは、まさにトータルコーディネートの化身であった。

 ぴっちりと身体のラインに沿ったインナーに、各部を覆う部分装甲。鎧というよりアーマーで、家事アンドロイドというより戦闘用アンドロイドって印象だ。

 もっとざっくり言っちゃうと、フレームアームズ・ガールと武装神姫がフュージョンしたみたいな防具だ。こんなん予約開始後即ポチ不可避ですわ。

 

「いいねぇ~」

「ん……♡」

 

 防具は完成した。短弓もある。

 なら、そろそろ次の段階に移っていいだろう。

 レノの方針は、射手系育成からの魔導士育成だ。これによって、光力銃による射撃精度を上げようというのである。つまり、最初に射手ジョブを育成する必要があるのだ。

 

「よぉし! 鍛錬場行って、迷宮行って、レベリングだ! 鍛え次第やるぞ!」

「おおーッ!」

 

 それから一週間、俺達はみっちりと訓練した。

 流石は歴戦のパイロットだけあり、レノはあっと言う間に空中射手スタイルに順応した。

 ブランクがあるとは思えん。

 

「ん、あんまり役に立てなかった。援護射撃って難しいね……」

「大丈夫だ。今日は慣れてもらうのが目的だったからな」

「はい。それに、上手に立ち回れていましたよ」

「これまでレノは一人でやってたのじゃ。わしの初陣よりずっとかマシじゃぞ」

 

 いい感じまで訓練した後、さらっと初陣を済ませる。

 二度ほど潜ったら、三人限定の中級ダンジョンに挑む事に。これは一党での獲得経験値を分散させない為の措置である。

 クッソ久しい三人一党。俺とレノはマストで潜るとして、残りの一人はローテした。

 

「凍らせたのじゃ! レノ!」

「んっ……!」

 

 基本的には普通にやって、余裕があればレノにトドメを刺してもらう。

 やはり、チートヒール持ちのエリーゼがいるかどうかで一党の立ち回りが大きく変わるな。メンバーが変わる度、俺はジョブを変えていた。こういう時の為のバランス成長ですよ。

 

「どんどん上がるな! いいゾ~これ!」

「マスターはなんで喜んでるの?」

 

 三人編成というだけあり、儲けは渋いが経験値はとっても美味い。結果、レノは無事に弓系中位職に就く事ができた。

 初期・下位ジョブは秒で卒業。異世界のレベリングは中位からが本番だ。

 

「ん、狙い易くなった。消費魔力も低いし、いい感じ」

 

 お目当てだったスキルの【照準】は獲得した。その他のスキルもどんどん覚えるが、この世界のスキルの殆どはゴミばっかだ。その中から使える奴だけ使っている。

 とりま、【照準】は覚えたから最低限の目標は達成したと言えよう。できれば狙撃運用ができるように【遠視】とかもほしいところ。【矢生成】とか【矢作成】とかは、銃計画が破綻した時だな。

 

 レノのパワーレベリングは順調だ。武器が揃えば、本格的に潜れるだろう。

 楽しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 冬至、ラリスの王都を雪が覆った。

 

 迷宮行って、鍛錬場行って、時たま同業者と交流なんかをしていると、いつしか一年の終わりがやってきた。

 この異世界にも、日本で言う正月と同義の日が存在する。それが冬至だ。その年で最も寒く、夜の深い日を家族と一緒に温かい飯で祝うのである。

 ついでに、過ぎたばかりの俺の誕生日も祝ってもらう運びに。

 

「ほいっと。まだまだあるからの~」

 

 ドンと、テーブルの上にぐつぐつ煮える粘性の高い黄ばんだ白濁の液体が入った鍋が置かれる。

 鍋を囲うように、一口サイズに切った食材が並んでいた。

 要するに、チーズフォンデュである。

 

「ヒャッハーッ! 盛大に頂くッスよ~!」

「がっつかないの。まだあるって言ってたじゃない」

「すごい蒸気、チーズ? 飲むの?」

「チーズフォンデュです。こう、好きな食材を串に刺して……」

 

 外は極寒、内はぬくぬく。暖房の利いたダイニングで、俺達はチーズフォンデュを囲んでいた。

 今回使用したのは、フライシュ領で購入したチーズと牛乳である。流石は美食貴族のお膝元だけあり、畜産最強国家たる淫魔王国産にも劣らぬクオリティだった。

 勿論、チーズ以外も一番いいのを揃えた。近所のパン屋で焼いてもらったバケットに、夜森人の農家が作ってくれた野菜。淫魔王国産の短小ソーセージ。鉱山で襲ってくるらしい巨大牡蠣や、しっかり仕上げたラリスオオヌマエビ等々沢山。

 

「以前は淫魔チーズでしたけど、フライシュ・チーズも美味しいですね! 甲乙つけがたいです!」

「前者は濃厚で、後者は引き立て役。それこそ、チーズフォンデュ向けかしら」

「淫魔チーズっつっても色々と種類があるんスけどね。ほら、前食べたチーズケーキに使われてたのは少数生産のレアなやつッスよ」

「チーズケーキ、美味しかった」

「リンジュの田舎には無かったからのぅ。わしからするとどっちも新鮮じゃ」

 

 バゲットに串を刺し、チーズ鍋に潜らせて頬張る。とても美味しい。

 談笑しながら、和気藹々とした雰囲気で食事を摂る。レノは初めてのチーズフォンデュに苦戦しつつ、手間のかかる作業を楽しんでいた。

 やっぱり、皆で食べるチーズフォンデュは最高だぜ。

 

「くぅ~っ! ああっ、いくらレベルアップしてもキツいもんはキツいな!」

「到底、人間族が呑めるものではないのよ」

 

 その他の逸品ものを食べつつ、度数の高い酒を呑む。濃いめの味を洗い流せば、次の一口を新鮮な感覚で味わえる。

 これ、ドワーフが造ったらしい蒸留酒なのだが、原材料が何かは分かっていない。味からして多分ウォッカ。あれ? ウォッカって何で出来てるんだ?

 量か味かアルコール度数か、ちびりちびりと呑んでいると銀細工ボディでも酔ってきた。酩酊のデバフは付いてないのでその気になればレジストできるが、あえてそのままにしておいた。 

 

「ふぅ……食った食った」

「ご主人様はもうよろしいのですか?」

「ちょっと休憩~」

 

 食卓を囲みながら、今年一年を振り返る。

 去年同様、今年も色んな事があったのだ。

 

 年の初めには、銀竜道場に入門して唯心無月流を習った。

 道場で鍛錬して、イリハが侍ジョブを手に入れた。俺達も近接戦闘の基礎を習得できたと思う。常時アドリブ戦闘からは脱却したが、あくまで基礎も基礎を習っただけなので以降の応用は別途習得する必要がある。

 その後、色々あって桜闘会っていうバトル・オリンピックに出た。最初は勝てっこねぇと思ってたウラナキさん相手も、何とか勝利できた。無月流あっての優勝だと思う。

 

 春になってラリスに帰ってから程なく、ルクスリリアが味覚障害を発症した。それ治す為にグレモリアさん主導の異種族交流会のお手伝いをした。

 で、交流会の終わり際に夢魔に邪魔されて、打算で夢魔と戦った。戦闘後、夢魔の援軍に現れたレノに出会って、彼女の心からの「助けて」を受け取った訳である。

 それからルクスリリアと純淫魔契約を交わし、彼女の味覚障害を治療した。そして、俺と彼女は死が二人を分かつまで一緒になる事を誓ったのだ。

 

 淫魔王国では、どういう訳か第三王子と雇用契約を交わした。

 何気に、俺的には異世界転移後で最も大きな選択の一つだった。あんまり偉い人と関わりたくなかったのだが、イリハを助ける時に暴れた結果もう目立っちゃってるので、もっと振り切るべきだと思った次第。

 幸いな事に、王子は俺を粗略には扱っていない。要は裏切らなければいいだけなので、今後も大丈夫なはずだ。

 

 交流会後、しばらくは只管に迷宮に潜ってレベリングをしていた。レノを、当時の十三番を助ける為である。

 何やかんやヴィーカさんとも戦ったんだよな。いや、あれは稽古をつけてもらってた感じか。全く勝てる気せんかったし。

 ともかく、エリーゼの心が晴れてよかった。

 

 仲秋頃、俺達は天津島捜索作戦に参加し、紆余曲折あって聖輪郷に乗り込んで猫又と熾天使パレエスを撃破した。

 パレエスは殺せたが、猫又については未だ謎が残っている。調査した感じ、まだまだ他にもいそうだった。これ以上は関わりたくないのだが、レノとエリーゼの呪いに関連があるあたりこのまま無関係ではいられない気がする。

 ともかく、レノを仲間にしたのだ。例の夜以降、レノは色んな意味で積極的になった。彼女は学習能力が高いのだ。

 

 そして、現在は……。

 

「オラッ! ご主人の酒場貰うッスよ!」

「また取られた……」

「ルクスリリア、すごいお金持ちですね……」

「わたしのターン……」

「まぁ今回はアタシの勝利ッスかね~」

「ん、賃貸料請求する。倍額で」

「ぎゃあああ! アタシの金がぁあああっ!」

「拒否するわ」

「守りも大切なんじゃな~」

 

 夕食後、皆して仲良くモノポリーで遊んでいた。

 これは俺がせっせと手作りした異世界ナイズド・モノポリーである。カードの出来はちょっぴり不格好だが、遊ぶ分には使える。

 俺が転移したこのバイオレンス異世界は、チェスや将棋は沢山あるがこういうパーティゲームは少ないんだよな。サイコロも賭博用って印象だし。

 

「戦い以外のゲームも悪くないわね」

「こういうの売るのもアリじゃないッスか?」

「確かにそういうのもあるのか」

 

 冒険者を引退したら、何かモノを作って売るのも選択肢の一つか。

 いつになるかは分からんが……。

 

 つっても俺、遊んで暮らせるくらいのお金はもうあるし、しようと思えばすぐにでも引退できちゃうんだよなぁ。

 王都は色々と刺激的過ぎるし、住むならもう少し静かなところがいいかな。田舎過ぎると面倒だから、地方都市くらいか。フライシュ領の端っことか、悪くないかもしれない。

 

 隠居、引退、スローライフ……。

 そうなると、もう迷宮に潜らなくなるのか。

 戦いを求めている訳じゃないが、戦いのない生活を想像できない。少なくとも、武術の鍛錬は続けるだろう。無駄に戦わない為に、年甲斐もなく最強なんか目指しちゃってる訳で。

 何にせよ、将来の選択肢が多いのは良い事だ。

 

「ん?」

 

 と、縁起の悪い事に俺が破産してしまった瞬間、借家に魔導チャイムが鳴り響いた。

 外はすっかり暗く、しんしんと雪まで降っている。こんな時間に誰だと言うんだ。怪しい、爆弾プレゼントとかじゃあるまいな。

 

「ん、わたしが出る」

「いや俺が出るよ」

「や、雑事は奴隷身分が行うもの……」

「普通はそうかもしれんのぅ」

 

 卓を離れて玄関に通じる廊下に出ると、信じられないくらい寒かった。俺は気持ち速足になって扉の前に立った。

 

「えーっと、どちら様ですか?」

「あー、失礼。あっしです。武器工匠のアダムスです。夜分遅くにすいやせん。寒くて死にそうなんで開けちゃあくれませんかい?」

「あぁはい、どうぞ」

 

 無駄に警戒してしまったが、相手は馴染みのドワルフだった。

 何の用だか分からんが、クソ寒い外で放置する訳にはいかないと扉を開ける。頭に雪を乗せたイケメンエルフは、それでもやっぱりイケメンだった。

 

「へへっ、失礼しやす」

 

 とにかく温まってもらうべく、暖房のついてるリビング・ダイニングに案内する。

 扉を潜り、もわっとした熱気を享受したドワルフは、ついさっき生き返ったかのような安らかな顔になっていた。

 

「イリハ、お茶淹れてくれない?」

「わかったのじゃ」

「あぁ、お構いなく。用終わったらすぐ帰りますんで……」

 

 言って、ドワルフは手に提げていた鞄を卓上に置こうとして……モノポリーがあったからソファー前のリビングテーブルに置いた。

 鞄の直径はバイオリンケース程だろうか。形状は引きのばしたアタッシュケースのようで、大きめの長方形鞄といったところ。

 

「へへへっ、今日は旦那方にお見せしたいものがありましてね。居てもたってもおられず、参じた次第でさぁ……!」

「お見せ……ああっ」

 

 酒で思考が鈍っていたのか、ようやっと俺はドワルフの言う用事に思い至った。

 見ると、彼の顔には深い隈があり、目もパッキパキにキマッていた。間違いなく、彼は不眠ポーションを服用していた。徹夜明けの深夜テンションで来たらしい。

 皆の視線も集まっている。カチャリと、僅かな魔力感覚と共に、例のブツが入った鞄が開かれた。

 

「おぉ……!」

「不思議な形ね。アナタの銃杖より弩に近いように見えるけれど……」

「てか、これでも杖なんスかね」

 

 鞄の中には、二挺のハンドガン――否、仮称・光力銃が入っていた。

 メインカラーは艶のない白銀色。大雑把な見た目としては、オーソドックスなオートマチック式の拳銃に見える。しかし、その銃身は極めて長大で、銃口から根本まで目測で四十センチ前後もあった。

 ハンドガンとは言うものの、全くの実銃再現といった印象は受けない。また、グリップの上にある撃鉄も見当たらないし、何なら引き金も無かった。

 イメージで言うと、実銃をモデルにしたレーザーガンって感じだ。

 

「どうぞ、手に取ってみてくだせぇ。世界初の光力銃だ。最初に握るべきは旦那でさぁ」

「はい」

 

 促されて手に持ってみると、仮称・光力銃は見た目よりも重かった。いや、モデルガンなら撃った事はあるが、実銃なんて一度も握った事はないので比較のしようがないのだが。

 いざ握ってみて分かったのだが、グリップはレノに合わせてあるのか意外と小さかった。握りやすいグリップに対し、その上はゴツくて長くてすっごく大きい。さながら小型拳銃と大型拳銃のキメラだった。

 

「仮称・光力銃……名前はまだありません。見ての通り、異形の杖と相成りやした。メインの素材には聖銅(オリハルコン)を主とした合金を用い、銃口内部は純正の金剛鉄(アダマンタイト)を使用しています。柄の部分には光力の充填機構がありやして……柄の横、そこのボタンを押してくだせぇ」

 

 指示された通りに側面のボタンを押すと、グリップ下部から中身が出てきた。分かっていたので慌てず騒がずキャッチする。弾倉だ。

 マガジンの中には弾丸の代わりに薄い延べ棒状に成形されたライト合金が入っていた。手に取ったマガジンは、それこそ見た目よりずっと重かった。

 

「普通に作ったライト合金だと光力の圧縮率も耐熱性も不十分だったんで、鉱深鍛冶を使って限界まで詰め込んでやりました。重くなっちまいましたが、まぁいいでしょう? 放熱には旦那にお教え頂いた排莢機構を参考にした仕様がありまさぁ。ここ。この部分です。一定以上の熱が溜まると、遊底が後退して熱を逃がすんでさぁ。ですがあくまで壊れねぇ為の緊急措置ですんで、限界まで熱くなったら別のに交換して冷めるの待ってくだせぇ。予備の弾倉はコチラです」

 

 マガジンを入れ直してグリップ上のスライドを引くと、シャキンと根本と側面だけが後退した。

 なんだっけ、こういう銃あった気がする。普通にド忘れした。アニメとかゲームでよく見たから覚えてたはずなんだけど……あっ、デザートイーグルか。

 

「銃口の下、ここからここまでが光力と魔法の触媒になります。普通に光力使いてぇ時とか、魔法触媒として使いてぇ時はこの部位に意識を集中させてくだせぇ。あ、聖印とかいうやつぁあんまりにも古臭かったんで、頭からケツまで新しい魔術式を組みました。なんでぇ、あのパイモとかいう怪物ぁ……」

「パイモさんが?」

「んあ~、ありゃとんでもねぇや。七日で覚えて一晩で組み上げやがったよ。魔工師の奴なんか、嫉妬通り越して怖がってたぜ。っと、どうぞ試してみてくだせぇ」

 

 言われた通り、トリガーガードに沿って魔力を流し、最も弱い【魔力の礫】を発動。光力銃の先端、銃口の下に青白い弾が生成される。

 そして、キャンセル。魔力が霧散し、礫が消える。銃杖ほどじゃないが、確かに魔法触媒を使った感触がした。

 

「で、設計図通りに造ってみて、成功したのはこの二挺だけですわ。一応、“自動修復”はついてますがね。なんたって部品が多いんで脆いの何のって……あーいや、並みの杖とか弩よりゃあ丈夫ですぜ? 整備に関しちゃ、上澄みの専門家じゃねぇと無理でさ。その代わり、旦那のご要望以上のモンが出来上がりやした……!」

 

 空いた左手で二挺目のハンドガンも持ってみる。二挺拳銃というより、ダブル・コンテンダーといったサイズ感。銃はデカいが、銀細工持ちなら普通に振り回せる程度の重さだ。

 まるで、どこぞの吸血鬼の旦那みたいなスタイルだ。あっちは白黒だったが、こっちは二つとも同じ色の銃である。

 満足した。なら、こう言うべきだろう。

 

「パーフェクトだ、アダムス……」

「へへっ、工匠冥利に尽きまさぁ」

 

 俺はこっちを見ているレノに光力銃を渡した。最初は一挺である。

 ロリのレノがジャッカルサイズの光力銃を持つと、大男が持つのとは印象が違う。レノは長大なハンドガンを矯めつ眇めつし、例のマフィア撃ちの構えを取った。

 撃ってみたいのかもしれない。本来なら安全面を考慮して鍛錬場でやるべきだが……。

 

「イリハ。飛び散らないように頼む」

「わかったのじゃ。ほいっとな」

 

 ダイニングの端っこに、イリハが小さなサッカーゴール状の結界を張ってくれる。

 距離にして三メートルくらい。プロ軍人なら当てるだろうが、素人ならまず当たらない距離だ。

 

「弱めでよろしく」

「ん……ありがと」

 

 グリップを通して、少しずつマガジンに光力が溜まっていく。

 狙いは籠のような結界。細い呼気をして、一瞬。引き金もなく、圧縮された光弾が思念によって発射された。

 光条が閃く。バリンと、イリハの結界が割れ、同時に光弾も消滅した。

 

「はっはぁ! 最低出力でこれですかい! たまんねぇなぁオイ!」

 

 反動はない。圧縮は控えめに、あえて威力を低くした。弾速は通常光弾より遥かに速かった。

 その上で、イリハの強めの結界を破ってみせたのだ。

 

「むむむ……まぁ? 触媒があればもっと強いの張れるがの?」

「威力というより、そういう性質を持っていたのね、あの光弾は」

「下手にガードするより、素直に避けるべきでしょうか。視界に入っていれば大丈夫でしょうが、死角から狙われたら勘に頼るしかなさそうです」

「す~ぐ戦う想定するんスから」

「ん、誤射はない」

 

 皆から凄い凄いと褒められて、レノは満足そうにドヤ顔をした。

 にしても、あの防具を装備したレノが、あの銃を二挺構えて撃ちまくるのか。しかも翼で空を飛びながらかぁ……。

 トゥンクである。

 

「いいねぇ~」

「また言ってるッス!」

 

 なんか、無性に迷宮行きたくなってきたゾ。

 引退後のアレコレとか色々考えてたけど、やっぱり男子はいくつになっても武器を振り回していたいものなのだ。

 スローライフもいいが、ハクスライフだっていいものだ。

 

「ん、マスターのおかげ……」

 

 射手スキルは覚えた。

 防具も揃った。装飾品もある。

 そろそろ、ハクスラの時間だ……!

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

「えーっと、旦那。ちょっといいですかい?」

「はい、何でしょう?」

「あー、えー、その……前に、研究費用の増額を承って頂けたじゃあ、ねぇですかい……」

「ええ、そうですね」

「こちら、完成までにかかった追加費用の請求書になりやす……」

「……んんっ!?」

 

 ……ハクスラの時間だ。

 切実な。




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 リボルバーかオートマチックで悩みましたが、キャラクター的にレノならオートマチックでしょうって感じで。
 もしリボルバーだったらマテバ2006Mをモデルにしてましたね。リロード(ライト合金の交換)の描写をねっとり書きたかった気持ちが無くはないです。俺はマテバが好きなの。
 まぁどっちみち撃つ弾は圧縮光力弾(ビーム)なんですが。
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