【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。感想のお陰で続いてるみたいなとこあります。
 誤字報告もありがとうございます。感謝の極みです。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。


一点炉破(上)

 突然だが、俺はゲームのボス戦においては、アイテムもレベルも必要以上に備えて挑むタイプのゲーマーだった。

 少ないリソースをやり繰りするより、ちまちま集めてバッと使う事を好む。とはいえ蹂躙が目的なのではなくて、各種稼ぎを楽しむ系の人だったのだ。

 レベル上げに、装備の収集。アイテム集めに仲間集め。その過程こそが目的で、ボス戦はいわばウイニング・ランの感覚に近い。

 こういう人、割と多いと思う。

 

 そんな性質も手伝ってか、光力銃の研究開発費で貯蓄――俺個人のポケットマネーと一党共有資産――の多くを失った事に、俺は存外ショックを感じてはいなかった。

 むしろ、また貯蓄する楽しみが出来たと前向きな気持ちになっていた。というのも、リアルと違って異世界には一攫千金のチャンスがご近所さんにあるからだ。その気になればガンガン稼げる。

 そう、迷宮ならね。

 

「楽な仕事ね。沈みなさい(・・・・・)……」

 

 そんなこんな、今日も今日とて迷宮探索。本日お邪魔しているのは、異世界一年目からお世話になってる巨像迷宮である。

 ちょうど今戦っているのは十メートルサイズのゴリラ型巨像君。真正面から相対するエリーゼがその手の杖に魔力を流すと、ゴリラの足首から先が漆黒の粘液沼に沈んでいった。

 当然、地面に四つ足をつけて歩くゴリラゴーレムの動きは制限される。頑張って沼を抜けようとする巨像だが、上手く踏ん張れないようでイヤイヤと身動ぎくらいしかできていない。

 

おまけよ(・・・・)……」

 

 追撃の魔法が解放される。何とか沼を抜けた前足に、影を押し固めたような巨大茨が絡みつく。沼と同じ闇属性の拘束魔法だ。

 藻掻き苦しんでいるようなゴリラ巨像を前に、エリーゼは邪竜らしい愉悦に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

 

◆宵闇の黒杖◆

 

・補助効果1=自動修復

・補助効果2=魔法装填(混沌の泥沼)

・補助効果3=魔法装填(影の茨)

・補助効果4=魔法装填(塗り潰す夜霧)

・補助効果5=魔法装填(纏わりつく飛沫)

・補助効果6=魔法装填(応報の壁)

・補助効果7=魔法装填(燻る黒炎)

・補助効果8=魔法装填(蝕む黒雷)

・補助効果9=魔法装填(聖光の極大治癒)

 

 

 

 この杖は闇属性特化の性能をしていて、氷杖同様に与ダメージよりも様々な妨害効果を重視して設計されたエリーゼの新武装である。

 例の沼には相手の動きを制限しスピードを下げる効果があり、茨には束縛中に捕まってる相手の魔力を削減する効果が付いている。その他の装填魔法も似たような感じで、どれもイタズラを超えたイタズラ魔法のオンパレードだ。

 そして、あまつさえこれら妨害魔法はエリーゼの持つ竜族権能と相性が良かった。デバフ・キングの“呪詛”を付与すると、ただでさえやべー付帯効果に更にやべーデバフが蓄積するようになるのだ。相手からすると真っ先に狩りたくなるお邪魔キャラである。

 

「ほっ、よっと。割と攻撃してるけど、俺は基本無視なのな」

 

 ゴリラ巨像が沼と茨で拘束されてる最中、俺はそいつの身体の上に乗りつつチクチク攻撃をしまくっていた。俺の右手には現代地球でも見覚えがあるだろう見た目のナイフが握られている。

 身動ぎ一つで盛大に揺れるゴリラの肩だが、巨像に乗ってる俺の足取りは熟練サーカス団員のように安定していた。それは、今俺が就いている斥候系中位ジョブ“スカウトマスター”の恩恵であった。

 

 

 

◆アサシンナイフ・鈍亀◆

 

・物理攻撃力=450

・属性攻撃力=50(雷)

 

・補助効果1=自動修復

・補助効果2=敏捷低下付与(大)

・補助効果3=麻痺付与(大)

・補助効果4=呪術(鈍化)

・補助効果5=魔法装填(針雷)

・補助効果6=魔法装填(武器の呼び出し)

 

 

 

 斥候ジョブ用の武器である。今持っているのは、麻痺・行動阻害特化のナイフだった。

 その他、用途別のナイフを鞘に納めて装備中である。対魔術師用の“蟋蟀(コオロギ)”。装甲破壊特化の“虎鮫(トラザメ)”。投擲特化の“熊鷹(クマタカ)”。それから麻痺特化の“鈍亀(ドンガメ)”。これらのフル装備が現状における俺の斥候スタイルだ。

 この“アサシンナイフ”シリーズはまだ増やす予定だ。それこそ、本命のナイフは未完成である。光力銃とは別口で、ハイエンド中のハイエンドにしてもらう予定だ。

 

 何故、今になって斥候ジョブを鍛えようと思ったのかと言うと、これまでの迷宮外での戦いで追跡や闇討ちの有用ぶりを思い知ったが為であった。

 一年前、グーラを探してもらった時のウィードさんや、天津島でのシュロメさんは凄く頼りになった。それだけでなく、パレエスと戦った際の闇討ち成功時にも「この戦法使えるな」と思ったのである。

 

 そんで実際に試してみた結果、斥候系ジョブは闇討ち以外にも普通に恩恵のあるジョブな事が分かった。

 最初に習得した補助スキルで手先が器用になったし、不安定な足場でも姿勢崩さなくなったし、常時クリ威力アップとか普通に強スキルじゃんね。もっと早く鍛えときゃ良かった。

 

「レノ! そろそろ大技チャンスだぞ!」

「ん……」

 

 なんて思いつつ、沼と茨を抜けたゴーレムに鈍亀の全デバフ・全状態異常が蓄積し切った。ただでさえ遅いゴーレムの動きがスローになり、麻痺と鈍化で殆ど石化状態だ。

 ゴーレムの頭上でホバリングしていたレノは、三点バーストを止めて両手の銃に光力を溜め始めた。右と左、チャージからの圧縮光弾。いくらスローになってるとはいえ、一発も外さずゴーレムの弱点部位にワンホールショットし続けるのは何かおかしいと思った。

 そして、最後の一撃が貫通すると、ゴリラゴーレムは撃破演出でもかかったかのようにゆっくり倒れていった。

 

 凄まじい轟音、舞い上がる砂煙。俺は崩れる巨像を蹴って大ジャンプし、空中で控えてる戦車に着地した。

 着地の際に音を立てないのもスカウトマスターの恩恵である。クソスキルの多い異世界、斥候系で入手できるスキルは捨てるところが無いな。マグロみたいなジョブツリーである。

 

「お疲れ~ッス。拾うのはあたし等でやるッスよ」

「大丈夫、あいつはドロップ無しだった。次行こう」

「火力があると彼奴等は木偶じゃの」

「油断禁物ですけどね。イリハだったら、今でも一発で死んでしまうでしょう」

「こ、怖いのじゃ……。だから、わしはここで修行せんかったんじゃな」

 

 先のゴーレム戦は、三人によるバトルだったので、残る皆には空戦車で待機してもらっていた。

 巨像迷宮は稼ぎは渋いが経験値だけは美味いので、ダブルの妨害支援でレノをメイン火力に倒してもらっている。彼女にもさっさと上位ジョブになってもらいたいしな。

 

「ん、強くなった感じある」

「だな、俺もレベルアップしてる」

「私は全然そんな感じ無いわね」

「上がらないッスよね~、あたし等」

 

 空戦車で移動中、コンソールを眺めながら俺は手慰みにアサシンナイフを弄んだ。

 魔物相手の場合、如何にも頼りない刃渡りである。実際、このナイフは対魔物ではなく対人戦を想定して作らせた代物だった。

 斥候ジョブの育成も、様々な状況での対人戦を見越した上での方針だった。レノ救出以前はステ上げメインだったが、これからはまたジョブ埋め期間である。自衛力、対応力、そして敵を逃がさない追跡力も欲しいところ。

 やっぱり、何かのジョブ一個より複数鍛えた方が最終的に強くなる気がするんだよな。事実、剣士+射手で投剣狙撃が、武闘家+侍で高速薩摩斬りが出来る訳で。何より、コンボやシナジーが決まると気持ちがいい。

 

「金色の巨像、見当たりませんね」

「あれユニークだしな。じゃ、そろそろボス行こうか」

 

 そんな感じで、俺達は無事に巨像迷宮を踏破するのであった。

 ちなみに、ボスは六人でフルボッコした。ルクスリリアと二人で苦戦してた頃が懐かしいな。

 

 

 

 

 

 

 転移神殿に戻ると、暑くも寒くもなかった巨像迷宮との気温のギャップで頭がバグりそうになった。

 ラリスの王都は冬の真っ只中であり、街のあちこちには雪が積もっている。転移神殿内は暖房と人口密度の関係で暖かいのだが、冬でも開けっ放しの大扉からは時折クッソ寒い風が入ってくるのだから堪らない。

 迷宮内外と神殿内外の寒暖差を感じつつ、いつもの受付の前に立ってドンドンドンとドロップアイテムを提出する。やがて住宅街のゴミ捨て場のようになった換金スペースを見て、おじさんは虚無の目をして口を開いた。

 

「……石の換金は時間かかるから、しばらく待っててくれ。緑の一番な」

「わかりました」

 

 巨像迷宮のドロップは鉱石類である。今回は金剛鉄(アダマンタイト)などの希少鉱石は含まれていないが、数が数だ。迷宮固有ドロップじゃないので、換金用天秤魔道具も使えない。

 そんな訳で、俺達は神殿内にあるバーで暇を潰す事にした。

 

「あ、イシグロさん、お久しぶりです」

「イシグロか。なんだ、新しいのがいるじゃないか」

 

 馴染みのバーに行くと、お世話になってる同業者に声をかけられた。淫魔のニーナさんと、彼女をストーキングしていた吸血鬼のクリシャナさんの百合一党だ。

 そういえば、二人とはフライシュ領に行ってから一度も会ってなかったな。レノは初対面なので、促して挨拶させる。

 お互い挨拶を交わした後、冒険者の性か二人はレノのホルスターに収められた光力銃が気になるようだった。

 

「なかなか洗練されたデザインだな。ぼく的には、もっと流線型な方が美しく思えるが……」

「へえ、光力を圧縮すると……どれほどの威力が出るのでしょうか?」

「威力は圧縮率に比例するそうです。限界まで溜めると中々ですよ」

「まぁ♡」

 

 バトルジャンキーの気があるニーナさんは、光力銃とその使い手たるレノの戦闘力に期待しているようだった。

 今現在、レノは黒剣一党お馴染みの模擬戦をやっていない。中位職になった事だし、そろそろ解禁してもいいか。俺も対人戦の勘を鈍らせたくないしな。

 

「光力銃……役立ちそうですね。似たような物なら、私でも扱えるでしょうか」

「それこそ魔力で代行できないのか?」

「難しいみたいです。純粋魔力を圧縮しても弾丸にはならないので」

「ふむ、血なら……」

「血ですか?」

「あ、いや、吸血鬼ってこういう事できるんだが……」

 

 ふと漏れたクリシャナさんの言葉に、皆の注目が集まる。視線に気づいたクリシャナさんは、ピッと指を立ててみせた。

 すると、立てた人差し指の上に赤黒い針が生成された。吸血鬼の権能の一つ、“鮮血支配(ブラッド・コントロール)”だ。吸血鬼族は魔力を使って血液を操る事ができるのである。

 クリシャナさんの場合、血を魔力で固めてナイフを作ったり操作したりできるそうだ。凄い人になると毒付き魔力属性の血塊でビット攻撃してくるとか。

 

「例えば、コレを光力銃みたいな入れ物の中に圧縮して、それを撃ち出す事ができればと思ったんだが……」

「わぁ、クリシャナさん頭良いですね!」

「オゥフ……!? に、ニーナさん! 恐縮です! デュフフフフ……!」

「なるほど、血液……」

 

 確かに、操作可能なエネルギーを圧縮可能な技術があるなら、光力以外でも銃を造れるかもしれない。

 血液だと、水鉄砲みたいになるだろうか。いやそれ意味あるか? もっとこう、血液を貯め込める不思議アイテムとかないだろうか。

 う~ん、それら以外となると、何があるかな。いずれにせよ使える種族は少なそうな。

 

「血銃ですか、いいですね。一度、アダムスさんのところにお邪魔してみるのもいいかもしれません。幸い以前成功した探索のお陰で蓄えはあるのですし」

「いやいや、ニーナさん、すごい高いらしいですよアレ……」

 

 そうこうしていると、換金終了のお知らせが届いた。俺達は仲良し二人とお別れし、受付に行ってお金を受け取った。

 やっぱ、普通の迷宮に行った方が儲かるよな。経験値は美味かったけど。

 

「光力銃、血銃……上手くいけば、天使以外も銃を使える時代が来るかもしれないな」

「難しいんじゃないかしら? 最終的に、魔法や弓でいいという結論になると思うわ」

「少なくとも、弩に代わる武器にはなりそうにないですね」

「ん、光力銃は良い武器」

「それはそうッスけど、レノだから使えてるみたいなトコ結構あるッスよ」

「難儀なもんじゃのぅ」

 

 出口に向かって歩きながら、光力銃に思いを馳せる。

 現在、レノはハンドガン型の光力銃を持っている。これは彼女の基本装備で、火力と立ち回りを重視した結果の形状なのだ。

 ライト合金の大きさが圧縮光弾の威力に直結してる訳だから、今後火力が欲しい状況になった時用に対物ライフルめいた大型光力銃があってもいいかもしれない。

 いや、対物ライフルより大きい銃……もう割り切って砲とかどうだろうか。レノは片手撃ちが得意らしいから、それぞれ手に持って連装砲みたいな感じで……あれ? なんかそんな銃があったような?

 

「ん?」

 

 と、階段を下りる途中で俺の思考は強制終了された。異世界二周年を目前に俺の勘が発達したのか、そう騒ぎにはなっていない程度のもめ事を感知したのである。

 勘に従って広場の奥を見やると、何やらリンジュ風の着物を着た女性と鋼鉄札の冒険者達が睨み合っている光景があった。着物の女性の後ろには、華奢な少女が立っている。

 何となく既視感があった。見るでもなく眺めて一秒後、俺は着物の女性の正体に思い至った。レノ以外もそうだったようで、俺達はアイコンタクトで「どうする?」と相談した。レノは首を傾げていた。

 

「止めておけ。お前達の腕では荷が勝つ相手だ。引き際を弁えるのも良い戦士というものだぞ」

「急にしゃしゃり出てきて、何だテメェ!?」

 

 着物の女性の言葉に、対する鋼鉄札一党は怒りゲージを上昇させた。いきり立つ男達を前に、女性は泰然自若と佇んでいた。

 凛とした声音。女騎士のような物言い。後ろから見える真っ赤な髪。そして、種族を示す二本の角。

 冒険者相手に天然挑発をかましている女性は、我等が師匠ゲルトラウデ・ヴォアールさんその人だった。

 

「俺達はただその娘を勧誘してただけだぜ。こいつによると、中々の魔力してるらしいからな。冒険者志望だろ」

「うちの同盟にはこんくらいの女ぁいっぱいいるしな。安心だろ?」

「おう。それに、見た感じ王都は初めてだろ? 田舎モンは知らねぇかもだが、ンならどっかの同盟に入ってた方が身の為なんだぜ」

「相手とやり方が拙いと言っているのだ。それに、あのままでは貴様は腰の物を抜いていただろう。ん? 腰の物、抜く……? ぶふっ……」

「な、何がおかしい?」

「あぁいや、すまない。ふざけて言った訳じゃないんだ。ただ、君達の目的が明け透け過ぎて、可笑しくてな、ふふふ……」

「あぁん?」

(かしら)、こいつ下ネタ言ってますぜ」

「しも!? バカにしてんのかテメェ!」

 

 激昂しかける冒険者達を前に、師匠はいつもの師匠だった。彼女の後ろでは、庇われてるらしい華奢な少女が師匠の頼もしい背中を見つめていた。

 白金色の髪をした華奢な少女。彼女は楽器ケースのような鞄を背負っていた。チェロでも入ってそうなサイズである。豪奢な入れ物の割に、少女の身なりは防寒対策をした旅人風に見える。

 

「ともかく、勧誘の様子は見ていた。だから割って入った訳だが……」

 

 水を向けられた少女は一つ頷いてみせ、存外堂々と男達の前に出た。

 肝が据わっているのか、少女に怯えは感じ取れない。いや、よくよく見ると華奢な身体の割に体幹がしっかりしている。

 

「はい。一度、お断りしたのですが……」

 

 感覚的に、聖歌が似合いそうな美声だった。そして、白金の少女は美しい声音のままフンと胸を張った。

 

「頼んでおりません。私、清潔感の無い方は嫌いです」

「せいけ……!? 俺等ん同盟は“ラリス銭湯部”だぞ! 舐めてんのかテメェ!」

「毎日キレイキレイしとるわテメェ!」

「リンシャン塗れにすっぞテメェ!」

 

 どういうキレポイントなのか、男達は腰の剣に手を添えた。

 刃傷沙汰である。師匠がいれば大丈夫だとは思うが、万一の事がないように俺達も加勢すべく前に出た。

 

「待て、衛兵が見ているぞ」

 

 が、その前に、瞬時に頭目に接近した師匠が剣の柄を押さえていた。アレは俺も習った事のある無月流の無手制圧術だ。

 師匠が言ったように、広場の隅っこにいた衛兵が彼等の動向を見ていた。もしマジで抜いていたら、即捕縛ルートだっただろう。

 

「チッ、離せ。ったく、可愛くねぇ女だぜ。おう、お前等ひとっ風呂いくぞ」

「ケッ、後悔しても知らねぇぞ」

「ヘッ、おもしれー女……ぞ」

 

 謎の捨て台詞を吐き、銭湯部と名乗った男達はずかずかと去って行った。

 よくよく見ると、彼等のお肌はスベスベだった。それでも少女の言った通り清潔感は無かったのが不思議なもんである。

 

「この度はお助け頂いてありがとうございました。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「名乗る程の者ではない。ただ、ああいう輩には丁寧な対応をしても無駄な事は覚えておくといい」

「肝に銘じておきます」

 

 お嬢様然と腰を折った少女は、一通りお礼を言った後に転移神殿の方へ向かって行った。

 少女の背中を目で追う師匠は、やがて俺達の姿を認めて表情を明るくした。

 

「むっ、おぉ……!」

「お久しぶりです、師匠」

 

 皆を連れて歩み寄ると、ゲルトラウデ師匠は嬉しそうに微笑んだ。

 相変わらず、師匠がエリーゼを見る目は優しげだ。

 

「久しいな、イシグロ。エリーゼ様もお久しぶりです」

「ええ」

「皆も一段と強くなったようだな。迷宮もそうだが、鍛錬も続けているようで感心だな。して、其方の娘は?」

 

 言って、師匠はレノを見た。師匠は角を除いても俺より身長が高いので、普通に見下ろす形になる。

 

「新入りのレノです。この人は俺達の師匠。挨拶して」

「ん、はじめまして。レノです」

「うむ、略式で失礼。ゲルトラウデ・ヴォーアルだ。それにしても、その腰にあるブツは何だ? 見慣れぬ武器だが、ラリスで流行ってたりするのか?」

「それより、暖かい所に行きませんか? 我が家に案内しますよ」

「む、あぁ……申し出は有難いが、これから仕事の打ち合わせがあってな、時間はあるから、此処で座って話そう」

 

 それから、俺達は寒い広場の屋台エリアでこれまでの話をした。

 道場の経営はまぁまぁ上手くいってる事。ミアカさんが蹴術の稽古を頑張ってる事。夏の前に有望な新入り――名前を訊いてみると、案の定トリクシィさんとその伴侶淫魔だった――が入ってきた事、等々……。

 

「アンゼルマから聞いていないか? ラリスで無月流の支部を作らないかと打診があったのだ。それで、昨日ギルドで手続きを終えて、今に至るという訳だ」

 

 で、何故ラリスにと訊いてみたら、確かに前にそんな話を聞いた気がする。時系列的には、ヴィーカさんと会う前か。

 ヴィーカさんと会った話は、今度もう少し落ち着いた場所でしよう。今言うと、この人お仕事前に興奮しちゃいそうだし。

 

「無月流の稽古は、ギルド主導で志願者を募って行う予定だ。よければイシグロも見に来ないか?」

「ええ、よろこんで」

 

 という話をしたところで、師匠は別れの挨拶を――エリーゼだけは丁寧に――してから歩き去った。

 

「ボクもかなりの数の迷宮を潜ってきましたけど、師匠にはまだ勝てそうにありませんね」

「俺も思った。勘だけど」

「ん、マスターより強いの?」

「どうでしょう。けれど、魔導人機に乗った貴女よりは弱いんじゃないかしら?」

「相性ッスよ」

「主様のチートがおかしいだけじゃ」

 

 そうして、師匠と別れた俺達はリンジュ専門店で買い物してから帰るのであった。

 師匠と会って、久々に和食的なのを食べたくなったのである。

 イリハのちゃんこ鍋は最高だ。




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・アサシンナイフシリーズ=用途別のナイフ。
・鈍亀=足止め特化。
・蟋蟀=魔術師絶対殺すナイフ。
・虎鮫=装甲破壊特化。
・熊鷹=投擲特化。

・宵闇の黒杖=闇属性特化杖。各種妨害系魔法がセットされている。
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