【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。執筆の励みになっております。
 誤字報告もありがとうございます。いつもお世話になっています。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回も三人称です。
 よろしくお願いします。



一点炉破(下)

 陽が昇るより早く、ディエゴは真っ暗な宿部屋で目を覚ました。

 日の出より先に起きる異世界人でも、流石にギリギリ夜判定の今は殆どの王都民が眠っている。実際、同室のラモンは毛布の住人だった。

 稽古に備えて休むべきなのは分かっているが、妙に意識が冴えてしまっていた。今日、ディエゴは件の竜族剣客に非礼を詫びるつもりなのである。

 村にいた頃、あれこれ喚くばかりで「ごめんなさい」を言えない大人を見てきたディエゴは、そういう男にだけはなりたくなかった。

 

「……ったく、ダセェな。マジで」

 

 例によって、このままじっとしているとベッドの上で無駄に懊悩してしまう事だろう。ディエゴは相棒を起こさぬよう静かに宿を出た。

 目的地は運動場だ。いっその事、何食わぬ顔で先着しておいた方が余計な恥をかかずに済むか。

 

 夜と朝の境目にも、眠らぬ王都には人が行き交っている。

 ただ、忙しない日中や騒がしい夜とは異なり、現在は沈黙による静寂が満ちているようだった。

 

「ん? あれ……?」

 

 ディエゴが運動場に到着すると、集合時間には程遠いというのに、そこには先客の姿があった。

 一般王都民かと思って見てみると、先客の頭には天を衝く角があった。誰あろう、唯心無月流創始者のゲルトラウデが独り剣の鍛錬をしていたのである。

 

 振りかぶり、振り下ろす。ただただ、その繰り返し。不思議な事に、彼女の素振りから風切り音の類いは聞こえなかった。空気を裂いているのではなく、背景の一部として溶け込んでいるような。

 ブンブンと剣を振り回すだけの自分の剣捌きとは、何もかもが違う気がした。

 

「む、貴様は……」

 

 暫く後、無音の素振りを終えたゲルトラウデはディエゴの存在に気が付いたようだった。

 彼女が何かを言う前に、ディエゴは先制して頭を下げた。

 

「あの、昨日はすみませんでした……!」

 

 主語の欠けた謝罪は、当初ディエゴが用意していた言葉とは程遠かった。心底、早起きしてラッキーだったと思えてしまう。

 対して、ゲルトラウデはやんわり頭を上げるよう促してきた。それどころか、彼女は申し訳なさそうな顔を浮かべている。

 

「いや、謝るべきは私の方だ。あの後、弟子に……イシグロに言われてな。言い方が拙い、と……」

「え?」

 

 ――意気は良いが、邪念で剣が鈍っている。ちゃんと集中しろ。その腕で、よく生き延びてきたものだ。

 

 曰く、「コンディションが整ってないのに、今も冒険者として生き残ってるなんてすごいね。天稟あるよ」と、そう言って褒めてたつもりだったらしい。

 また、午前の稽古でディエゴをイシグロ達のいる特別枠に入れたのは、下手に汎用剣術を教えるより強者同士の戦いを見て刺激を受けた方が良いと考えたからだそうで、午後にやった剣の稽古は本来体験稽古で教える予定のなかった少し進んだ剣技であったという。

 

「カリッセから聞いた。貴様は、一党の前衛として己を律しているそうだな。本来、貴様の剣はもっと伸びやかで勢いのあるものだろう。だからこそ、貴様達は死なずにいられたのだからな。私のやるべき事は、それを思い出させてやる事だった」

「思い出す、ですか?」

「うむ。味方を護るとか、敵の攻撃を上手に捌くとか、出費を抑えて立ち回るとか。戦闘に思考は必須だが、貴様にとってのソレは思考でなくて邪念だった。だというのに、私は貴様の心を追い込んでしまったようだ。すまなかった」

「い、いえ! 初対面なのに、何もそこまで……」

 

 謝ろうと思ったら、謝り返された。こんな経験はディエゴにとって初めてで、どう返せばいいか分からず困惑してしまった。

 そして、気付けば最近ずっと胸中に渦巻いていた負の感情が行き場を失っていて、何故だか自然と前向きな気持ちになっているのを自覚した。

 

 褒められて、認められて、導かれる。

 そんな単純な事で、ディエゴは元の性格を取り戻すに至っていた。

 我ながら、あまりにチョロいと思えるが、それでいい。

 

 そっちの方が、如何にも自分らしいだろう。

 

 

 

 それから、ディエゴ達は地味で退屈な無月流の鍛錬を続ける事となった。

 参加者は日に日に数を減らしていき、二日目は半分になり、三日目以降には三分の一へ。参加者が少なくなるにつれ、ゲルトラウデの指導は個々人に合わせたものへとシフトしていった。

 カリッセはトンファーを持ちながら格闘術の型をこなし、ラモンは槍・魔術師組と混ざって杖術を習っている。白金髪の少女は、意外にも棍棒を振り回していた。

 

「すぅ……ふぅん! はぁ……! ふぅん!」

 

 そんな中、ディエゴは初日に用意されていなかった特大サイズの木剣に持ち換えて、ただ只管に剣を振った。

 体力の限界が来ると、ディエゴは木剣を置いてイシグロ達強者勢の動きを観察し、自分なら如何に倒すかを考えた。体と頭を交互に動かすこの鍛錬法は、ゲルトラウデの指導によるものであった。

 意味があるのか無いのか、元より思い悩む事自体が苦手なディエゴは、単純極まるこの鍛錬法にのめり込んでいた。無月流の体験稽古は一週間。一時も無駄にしないよう、ディエゴは愚直な程に師の教えを全うしていたのである。

 

「はぁ、はぁ……! あぁ~、疲れた~」

 

 時は進んで四日目の昼休憩。朝教わった型をなぞっていたディエゴは、燃料切れと同時に特大木剣を下ろした。冬だというのに、身体全体が熱くて仕方がない。

 

「お疲れ。はい、水」

「うぃ……」

 

 幼馴染のラモンが隣に座る。持ってきてくれた冷たい水筒から水を飲みつつ、ディエゴは何となしに運動場を見渡した。

 四日目にもなると参加者の中にいくつかグループが出来上がるもので、陰とか陽で集まっていた。

 イシグロ達は外食に出かけるようで。主従一党で運動場を去っていた。ニーナとクリシャナはシートを広げて弁当を食べている。魔法瓶から注がれるスープは湯気を立てていた。やはり、銀細工は雑貨一つとっても格が違う。素直に羨ましい。

 他方、白金髪の少女は男女問わず多くの同業者に囲まれている。優れた容姿か洗練された物腰故か、彼女には自然と人を引き付ける華があった。

 

「やっぱ気になっちゃう感じ? 可愛いもんね」

「ん、まぁ……」

 

 名前も知らない超絶美少女。初めて見た時から、気になっていたのは確かである。

 けれども、初恋を経験したディエゴをして、これが彼女への恋慕からくる感情なのかどうか分からないでいた。

 ただ、好意で以て囲まれているであろう彼女の笑顔は、どこかぎこちないもののように思えた。それが、どうにも気がかりだった。

 

「ていうか、全部飲むんじゃないよ」

「あ、悪い」

 

 なんて考えていると、口を付けていた水筒を取られてしまった。そのまま、ラモンは水筒の残りを飲み干した。

 その時、ディエゴの視線に気づいたか、白金美少女と目が合った。遠く視線を交わした彼女は、誰でもないディエゴに対して微笑み返してきた。

 ドキッとした。あまりにも可愛い。可憐に過ぎる。童貞のままなら即死だった。

 

「ふぅん、そっちの意味で気になってるんだ」

「ちがっ……! いや、まぁ……それが、分かんねぇんだよな」

「そう? 珍しいね。臆病になってるあたり、本気なのかも?」

「茶化すなって。悩んでる訳じゃねぇよ」

「悩んでる時間あるのかな。ほら、身体は華奢だけど、よく見るとお尻の方はかなり大きい。さっきから男の視線が後ろに集まってるね」

「尻派の気持ちは分かんねぇなぁ。やっぱ胸だろ、胸」

「そこは流石に分からないかな。そこまでって印象だけど」

「気になるからって、そうエロい目で見るの失礼でしょ」

「「うわ!?」」

 

 背後から声。どすんと、二人の間に頭目のカリッセが座り込んだ。

 次いで地面にバスケットを置いたカリッセは、その中からラモン特製の肉入りラリスサンドを取ってガツガツ食べ始めた。

 相変わらずの幼馴染を見て、猥談を止めた二人もバスケットの中身に手を伸ばした。冷えて硬くなった昼食も、運動後なら悪くない。

 

「そんなに気になるなら、あたしが連れてきてあげよっか? まだフリーっぽいし、一党に入ってくれるかも。勿論、公私は分けてよね」

「おう……いや、でも如何にも合わなさそうじゃねぇか? 大丈夫かよ」

「カリッセじゃないけど、誘うなら早い方がいいよ。そっちも狙ってる人多いし」

「そうなのか?」

「見て分かるでしょ。すっごい可愛いし、アレで相当強いんだよ」

「ディエゴは初日の午後に飛んじゃったから」

「反省してんだよ」

「とりま、あたしは賛成かな。はい、賛成な人は手ぇ挙げて~」

「は~い」

 

 いつもの多数決だ。カリッセとラモンが挙手すると、ディエゴが決めるより先に彼女の勧誘は決定された。

 

「じゃ、行ってきま~」

「あ、おい……」

「カリッセらしい」

 

 バッと駆けては人の輪にいる彼女に話しかけ、カリッセは例の少女の手を引いて戻ってきた。

 何だか普通に申し訳なくなる光景だった。少女を取られたグループもポカンとしている。

 

「と言う訳で、入ってくれる事になりました!」

「イングリッドと申します。今後ともよろしくお願いします」

「「嘘ぉん!?」」

 

 かと思ったら、既に一党加入の了承を取り付けていた。

 あまりにも急な展開に、カリッセほど傍若無人になれない男子組は盛大に狼狽した。

 

「い、イングリッドさん? 僕達初対面だよね? なのに、そんなあっさり決めちゃっていいの?」

「ええ。わたくし、一党を組むなら仲良し(・・・)さんの所が良かったんです。それから、以後は呼び捨てで結構ですよ」

「お、おう……」

「まかせてグリッド! うちは幼馴染しかいないからめちゃくちゃ仲良いよ! ほら、二人とも仲良しアピールして!」

「んぁ~、つってもなぁ?」

「普通だよね」

「ふふっ。えぇ……はい、よく分かりました。とっても仲良しさんなのですね」

 

 イングリッドと名乗った少女は、男子二人を見ては聖女のように微笑んでいた。

 何となく、陽キャに囲まれていた時より柔らかい笑顔に見えた。

 

「じゃあ、シンボクを深める為に鍛錬終わったら飲みに行っちゃおうよ!」

「まあ。わたくし、そういうのに憧れていました」

 

 訓練後、四人は馴染みの酒場で杯を呷った。

 冒険者同士、過去を詮索しないのが不文律であるが、仲間となる者に互いの能力を明かすのは界隈の常識である。

 済し崩し的に集まった四人は、戦いの話を通してあっと言う間に仲良くなっていた。

 

「へえ、回復役が来てくれたのは凄く有難いね」

「お任せください。実家では、何度も治癒の練習をしてきましたから」

 

 話によると、イングリッドは治癒魔術に加えて魔法に頼らない医療の技を身につけているようだった。一党に回復役がいるのは純粋にアドである。

 イングリッドという少女は、戦友としてあまりにも優秀だった。

 

「いいのか? うち、言っちゃアレだがそんなに儲けてないぞ」

「いいえ。わたくしこそ、この場を通して確信しました。皆さんと同じ一党にいれば、とても捗ると思います」

「捗る? まぁそうね! あたし達、このまま銀細工になってやるんだから!」

 

 武闘家カリッセ。魔法のラモン。前衛のディエゴに、治癒のイングリッド。

 なかなか、らしくなってきたのではないだろうか。

 

 こうして、長らく三人だった一党に、新たなメンバーが加わったのである。

 彼女とは、仲良くやっていけそうだった。

 

 

 

 

 

 

 短くも濃密な無月流体験稽古。最終日になると、ゲルトラウデは参加者一人一人の成長を確認して回った。

 師の言う通り、無月流の本懐は鍛錬の継続である。たかだか一週間で何かの技が身につく訳はない。けれど、中には見違える程に成長した者もいた。

 稽古初日、最初にゲルトラウデにボコられたカント少年など、別人レベルの急成長ぶりである。

 

「これまで貴様等に教えたのは、唯心無月流の基礎の基礎で土台のうちの一つだ。故にこそ、継続が意味を持つ。今後も励むように」

 

 師匠からの締めの挨拶が終わると、この一週間を乗り切った冒険者達は三々五々に去って行った。

 同じ稽古を乗り切った者同士、意気投合する冒険者。師匠との別れを惜しむ者なんかもいて、さながら卒業式の様相だった。

 そうして参加者の多くが去った頃、新入りを加えたディエゴ達一党は意を決してゲルトラウデの下へ向かって行った。現在、彼女はイシグロと話していた。前と違って、ちゃんと待つ。

 

「失礼します。お時間よろしいでしょうか?」

「む? 何か用か?」

「はい。オレ達と手合わせしてほしくて。その、できたらでいいんですけど……」

「こら、もっとハキハキ言う!」

「悪い……」

 

 カリッセ一党とゲルトラウデ個人の戦い。これは、ディエゴが提案して皆が賛成したものだった。

 武術の腕前だけでなく、純粋な力さえも上の相手だ。種族特性を加味するならば、腕試しにさえならないだろう。

 それでも、ディエゴはケジメを付けたかった。結果はどうあれ、何もせずにいては後悔が残る。仲間も、その事を分かっていた。

 

「うむ、構わんぞ。そうだな……どうせなら貴様等の本気を見たいから、ラリスの鍛錬場を使わせてはもらえないだろうか?」

「それなら、皆さんの分の料金も俺が出しますよ」

「え? それは悪くないですか?」

「いえ、元々これから師匠と鍛錬場に行く予定だったので」

 

 そんな訳で、カリッセ率いる一党と、ゲルトラウデは戦う事になったのだ。

 鍛錬場の使用料をイシグロに払ってもらう事になって、ちょっと格好はつかなかったが、無い袖は振れないので仕方ない。

 

「よろしくお願いします。ゲルトラウデ師匠」

「うむ。本気でやるとはいえ、何でもありでは理不尽だろう。そうだな……制限時間以内に私をこの円から出す事ができれば、貴様等の勝ちという事にしようか」

「えっ、それだと魔法撃ち放題じゃ……?」

「構わんぞ。そうでなくば、意味がない」

 

 四対一。場所は闘技場型鍛錬場。武器は各々の愛用品で、ゲルトラウデはいつもの木刀。広い鍛錬場の真ん中に、半径一歩分の円で竜族が無形の構えをしてみせる。

 ディエゴは大枚叩いて購入した剣を担いだ。隣に幼馴染の羊人少女が立ち、後ろでは魔法と治癒の後衛が控えている。

 

「えーっと、じゃあ……はじめ!」

 

 イシグロの号令と共に、弟子と師匠の戦いが始まった。

 瞬間、ディエゴの脚甲が沈み込み、爆発的な推進力を生んだ。頼れる前衛に続き、一党員は魔物を討伐すべく弧を描くように動き出す。

 

「うぉおおおおお!」

 

 視線の先、怜悧な竜族は一党単位の動きを見て状況判断していた。

 突貫の最中、ディエゴは無月流の教えを思い出していた。

 

 この一党において、ディエゴの役割はあくまで相手に一撃をくれてやる事に尽きる。それを、幼馴染達はこれといった合図や練習もなくフォローしていて、且つ可能だったから今の今まで上手くいっていたのだ。ディエゴの突破力こそが、一党の土台で最適解だったのである。

 ディエゴに上手な立ち回りなど必要ない。熟練の戦士になど、成り得ようか。愚直に突っ込み、皆に背中を預け、皆を引っ張る前衛こそが彼なのだ。

 

「うぉらぁあああッ!」

「むっ……」

 

 鉄剣と木刀が衝突する寸前、何かを察知したらしい竜族は迫る剣の腹を打ち払った。ドガッと、地面に剣が突き刺さる。

 大剣使いに隙がある。竜の追撃より先に、カリッセの気功波が放たれる。脅威を感知した竜族は、ディエゴを蹴り飛ばしつつ氣の籠った波動を裏拳で払った。

 

「痛ぇッ!」

「嘘!?」

「想定内でしょ!」

 

 蹴り飛ばされたディエゴの復帰を援護するように、ラモンの炎魔法が殺到する。イングリッドの支援魔法によって強化された炎弾はしかし、木刀のひと薙ぎによって跳ね返されてしまった。

 生み出された暴風の中、剣を担いだディエゴが再度突貫。腕も背中も腰も意識せず、身体全体を使って放たれた一撃を、先んじて動いた竜の刺突が迎撃した。

 

「がはっ!」

「いい動きだ、が……!」

 

 ディエゴの胸当てに強か突きが直撃する。衝撃によって少年の体躯が浮き上がり、重力に従って落下したディエゴはすぐさま受け身を取って後退した。間違いなく、真剣だったら胴に穴が開いていただろう。

 間を埋めるべく、またもカリッセとラモンの遠隔攻撃が竜族を襲う。一見して一方的な攻勢のようだが、その実目くらまし以上の効果は見受けられない。

 

「【小治癒】! ディエゴ様、大丈夫ですか?」

「怪我は無ぇ!」

 

 やはり、回復役がいると見える世界が変わってくる。イングリッドの治癒を受けたディエゴは、すぐさま砂塵の舞う最前線に躍り出た。

 

「ふむ。あくまでディエゴの一撃に賭けるのだな。確かに、貴様等が一斉にかかっても各個撃破されて終いだろう。この場合においては正解と言えような」

 

 むっとするカリッセを制するように、ディエゴは仲間の援護を受けて突貫した。

 だが、例によって吹き飛ばされる。何とか頭は守ったが、庇った腕の骨が折れた。退避し、治癒を受ける。そして、また突貫。以降、これの繰り返しだった。

 あまりにも泥臭いヒット・アンド・アウェイ。ディエゴ一人に負担を強いる状況に、頭目は歯を食いしばって耐えていた。一度でも成功すれば、そこから畳みかけられるはずだ。

 

「やはり、素晴らしいな。貴様は……」

 

 ゲルトラウデの美貌に竜族らしい笑みが浮かぶ。打ち据えられ、吹き飛ばされ、何度も突撃するにつれ、少年の剣はどんどん冴えていった。

 

「はあああああッ……!」

 

 戦闘思考が暴走し、頭より先に身体が動く。言う事を聞かなくなった剣は、自然と師()の教えを再現していった。

 呼吸を止めるな。動き続けろ。鈍間な剣士に価値はない。例え命が尽きたとしても、剣だけは握ったままでいろ。

 雑音が消え、痛みも消え、それでも視界はクリアだった。

 

 一瞬、過去が見えた。

 

 村にいた頃から、ディエゴは勉強が苦手だった。

 座りっぱなしはケツが辛い。教わったはずの文字も覚えられなかった。物覚えが悪く、算術も難解に過ぎ、何より偉そうな大人が嫌いだった。ただ屈強な身体だけが自慢で、そんな自分が大嫌いだった。

 

 七日間。無月流を習ってみたが、何かを掴めた訳ではない。

 素振りをしても、型をなぞっても、一朝一夕に強くなれる筈もない。

 ただ、一つ分かった事があった。

 

 ニーナ、クリシャナ。ラフィ。そして、イシグロとその一党。今まで会った事のある強者達は、誰も彼もが例外なく強くなるべく努力をしていた。

 恐らく、あの日詩人に謡われていた銀竜剣豪もそうなのだろう。あまりにも当たり前な事に、今更になって気付かされたのだ。

 

「がぁああああああッ!」

「くっ……ぬぉっ!」

 

 ガッと、鉄と木の武器が鍔迫り合う。

 この段になって、ようやっとディエゴの得意に落とし込めた。このまま彼女を釘付けにし、カリッセ達がトドメを刺す。それで勝てると思った瞬間、ディエゴの剣が宙を舞った。

 どういう技か分からないが、剣を巻き上げられたらしい。剣を失った剣士は、これ以上どうしようもない。

 剣士を捌いたゲルトラウデは、回り込んできたカリッセに注目している。文字通り、戦力外になったディエゴを足蹴にするつもりだ。

 

「ははっ……!」

 

 破顔一笑。何故か笑っちゃったディエゴは、気付けば師匠に突進していた。押し倒し、殴り倒すのだ。子供の頃、大人をボコした戦法だ。

 しかし、そうはならなかった。突進の途中、顎に膝を当てられた。今度こそ、ディエゴは戦闘不能になった。続いて、ゲルトラウデは迫るカリッセを投げ飛ばし、ラモンの魔法を打ち返し、イングリッドの投げた手斧を掴み取っては投げ返した。

 

「無暗に突っ込まず、一度退いて剣を拾えばよかったものを。どうしたのだ、いきなり」

 

 パッパッと、着物の埃を祓うゲルトラウデ。さっきの動きは、今まで見てきた綺麗な剣術などではなかった。

 まるで場末の喧嘩のような戦闘スタイル。これこそ、極まった唯心無月流である。

 

「えーっと、制限時間ですけど」

「む、そうか」

 

 時間切れ。そういえば、そういう勝負だった。ディエゴはイングリッドの治癒を受けながら、力を抜いて大の字になった。

 カリッセは口に入ったらしい砂を吐いている。ラモンは打ち返された魔法のせいで火傷を負っていた。イングリッドも、投げ返された手斧で肩を怪我していた。

 皆、ここが迷宮だったら死んでいた事だろう。

 

「負けた……」

「……ああ。だが、戦いに負けたのは私の方だな」

 

 見ると、ゲルトラウデが持っていた木刀にはヒビが入っており、それはやがて異世界物理法則に従い砕け散った。

 最後の一撃。愚直に鍛えたディエゴの力が、竜族の爪を折ったのである。

 

「途中の突進はダメダメだったが、あの一撃は良かった。他も上手く連携できていたぞ。この戦いの感覚を忘れず、今後も鍛錬を続けるように」

「は、はい……。ありがとうございました」

 

 花を持たせられた感が凄まじい。しかし、一矢報いる事はできたようだ。

 少なくとも、無様に転がされる事はなかった。全身全霊を出し切って、前のめりに倒れる事ができたのである。

 

「まあ、オレ等にしちゃ、よくやった方だよな」

「かもね。あ~、我ながら火力高いなホント……」

「すぐ治しますので、ちょっとお待ちを」

「げほっ! げほっ! ごめん、誰か水持ってない……!?」

 

 スポーティな敗北の後、上体を起こしたディエゴの手を取って、ラモンが相棒を立たせてやった。よろめく巨体をハーフドワーフの小さな身体が支える。

 そんな二人を、カリッセは呆れたような眼で、イングリッドは聖女のように微笑んで見ていた。

 

「じゃあ、次は俺の番ですね」

「良かろう。まずは好きに来るがいい。短剣はその後だ」

 

 それから、ディエゴ達はゲルトラウデ対イシグロの戦いを見学した。

 模擬戦無敗のイシグロが負けるところを、ディエゴ達は初めて見た。

 上には上がいて、最上の師に認められた。それが、どうにも誇らしい。

 

「遠いな……」

 

 心の靄は、晴れていた。

 

 

 

 

 

 

 冒険者は迷宮を踏破するのが仕事である。

 無月流の体験稽古が終わった後、四人となった一党はすぐには迷宮に潜らず準備に準備を重ねていた。

 

 まず、四人で連携訓練をした。回復役のイングリッドを加えた事で、色々と調整する必要があった為だ。

 幸い、イングリッドは鋼鉄札持ちの三人に追随できる能力を持っていたので、連携の再構築に支障はなかった。

 

 続いて、一党の戦闘訓練。これにはイシグロに付き合ってもらった。

 ディエゴ達はいつも通りフルボッコにされ。儚げな美少女のイングリッドもまた、容赦なく半死半生の傷を負う事となった。

 ナイフを使いこなすイシグロもそうだが、模擬戦デビューだという天使奴隷にも盛大にボコされた。飛びながら狙い撃たれるとどうしようもない。

 

「ていうか、まだまだって言ってましたよね? その、レノさんは……」

「はい。まだ育成中ですね」

「えぇ……?」

 

 普通にドン引きである。

 何もそこまでしなくても、と思わなくもないディエゴ達だった。

 

 準備は戦いだけではなく、迷宮の予習復習も必須である。

 目標は因縁の中位迷宮だが、イングリッドは迷宮未踏破の初心者だ。彼女が最初に潜るのは下位がいいだろうと、最大限準備して下位迷宮にも潜った。

 収支は赤字だが、いい経験になった。訓練した連携も上手く行った。

 

「それじゃ皆、行くよ」

「ああ。任せとけ」

「忘れ物ない?」

「大丈夫です。では、参りましょうか」

 

 それから、二週間後。

 四人はみっちりと準備を整え、件の迷宮に潜るべく転移石板に触れた。

 

 いくら人事を尽くそうと、迷宮は何の容赦もなく人を喰らう。

 事実、同期の冒険者の殆どは死んだし、生き残った奴の多くは冒険者証を返却済みだ。

 それでも、四人は迷宮に潜る。

 

 カリッセは、祖母のような冒険者になって、理想のイケメンと結婚する為に。

 治癒術師の夢を諦めたラモンは、得意の炎魔法を極めて魔力を高める為に。

 イングリッドは、自由な冒険者になる為に。

 ディエゴは、憧れの銀竜剣豪のように、この世の理不尽を正面からぶった斬れる男になる為に。

 

 夢に貴賎などあるものか。

 それぞれの夢を叶える為、本命の迷宮へ足を踏み入れた。

 そして……。

 

「という訳で! 皆、迷宮踏破おっめでとぉう!」

 

 傷だらけの羊人少女――カリッセの元気な声が、転移神殿内の酒場に響き渡った。

 傷だらけなのはカリッセだけではない。後衛魔法職のラモンにも回復担当のイングリッドにも大小様々な傷が付いていて、前衛のディエゴなど先ほど神殿の治癒室で治療されたばかりの跡が生々しい。

 虎の子の魔道具も使っちゃったし、カリッセも毒を食らって死にかけた。ラモンとイングリッドの魔力が尽きて「もうダメだ」となった時、キレたディエゴが投げた愛剣がヒットして迷宮の主を討伐したのである。その際、彼の愛剣はぶっ壊れてしまった。

 それでも尚、四人は勝利の美酒を呑んでいた。この業界、生きて帰った奴が偉いのだ。

 

「お二人とも、素晴らしい連携でした。まさに阿吽の呼吸ですね」

「そうでもないよ。付き合いが長いだけさ」

「どぉうふ♡ 付き合いが長い……素敵ですね」

「そうかぁ? 昔から遊んでたってだけだぞ」

「二人ともモテない組だったもんね~」

「うるせぇよ」

「むほほ……♡」

 

 グリッドとも気安い仲になった。どうやら、イングリッドは仲の良い冒険者一党に憧れがあったそうで、ビジネスライクな関係とは程遠いカリッセ一党を気に入っているようだった

 心の底からの笑顔を浮かべているイングリッドが、ディエゴには最も美しく見える。

 

「過去を語るという程ではありませんが、一つよろしいでしょうか」

 

 皆が程々に酒気を帯びた頃、イングリッドがおずおずと口を開いた。

 白金髪の少女に視線が集まると、小さな唇が僅か震えた。

 

「今まで隠していたのですが、実は……わたしには苗字があるのです」

 

 若干緊張した三人は、そんな事かと食事を再開した。

 

「んー、まぁ良いとこの娘なのは分かってたわ。グリッド、如何にもお嬢様だし」

「そうなのですか?」

「その気品で一般人は無理でしょって話だよね」

「だな。ふつー村娘っつったらこんな感じだし」

「ちょっと! それどういう意味!?」

 

 この世界、基本的に一般ラリス人は苗字を持たない。その文化は、家や血筋よりも個人の能力が重視される価値観からくるものであった。

 その点、苗字付きは賤しからぬ身分の証明になる。イングリッド視点、それこそフルネームを名乗れば皆に気を遣わせてしまうと思って黙っていたらしい。

 

「でも、教えてくれてありがとう。できれば、友達としてグリッドのフルネームを聞いておきたいかな。もちろん言いたくないならいいけどね」

「はい……。わたくしの名は、イングリッド・アイゼン・ゲパルト。ゲパルト男爵家の三女です」

 

 ブーッと、カリッセは飲みかけの酒を噴いた。見事に酒飛沫を浴びたラモンは「うわっ!」と叫んで椅子から転げ落ちた。ディエゴは驚きのあまりフォークを咥えたまま硬直した。

 苗字持ちと知って想定していた身分より、それは遥かに高かった。如何に中世ヨーロッパより貴族の権威が低いラリス王国とはいえ、それでもラリス貴族は強いから偉いのだ。そして、異世界人は本能的に強者をリスペクトするのである。

 

「き、貴族様……!?」

「はい。元ですけれど……」

「えっ、それって……」

「いえ、実家が没落した訳ではございません。わたくし個人が家を抜けたのです」

「それは、家出って事か?」

「それも違います。圏外の戦いで勤めを果たし、その功で以て正式に家を出たのです。迷宮に潜った事がないのは本当で、砦では治癒術師として働いておりました」

「貴族様……だから最初からあんな強かったのか」

 

 ラリス貴族の子供は、生まれながらの強者である。迷宮未踏破の身で、仮にも鋼鉄札持ちであるディエゴ達と共闘できた理由が明らかになった瞬間だった。

 

「その……よろしければ、以前のように接してくださると幸いでございます」

「もちろん! グリッドはグリッドだもんね!」

 

 イングリッドは“自由(・・)な冒険者”に憧れているらしい。

 貴族の事はよく分からないが、ディエゴは彼女の気持ちを何となく理解できた。

 

「ていうかさ……」

 

 なので、この話はここまで。ディエゴはわざと話題をぶった切り、机に立てかけられたブツを指差してみせた。

 

「これ、ホントに貰っちまっていいのか?」

「どうぞどうぞ。あたしには使えないしね~」

「まぁ鑑定士に見せてから決めればいいんじゃない? 中にはハズレもあるっぽいしさ」

「とてもお似合いだと思います。それに、運命的なものを感じませんか?」

「それは、まぁ」

 

 急拵えの布でグルグル巻きにされたそれは、先の迷宮踏破で入手した深域武装だった。

 満身創痍で勝利した結果、迷宮の主はダメになったディエゴの剣の代わりとばかりに聖遺物を落とさずこっちを吐き出したのである。

 だから赤字になったのだ。売りに出せば黒字に変える事もできるが、女子勢的に「それはダメ」らしい。分からなくもないが、ちょっとばかり気負っちゃうディエゴだった。

 

「う~ん……」

 

 布を解き、深域武装の剣身を確かめる。

 一見して、人の手になる物とは思えぬ大剣であった。刃渡りはディエゴの身の丈程で、ずっしりした重さがやけに手に馴染む。まだ試してはいないが、付いてる異層権能次第では連携を考え直す必要があるだろう。

 

「使いこなせるかぁ……?」

 

 何となく、強そうなのは分かる。

 だからこそ今の自分に合わない気がしてならなかった。

 

「あ、どうも。皆さんも迷宮帰りですか?」

「あ、イシグロさん、お疲れ様です!」

 

 ディエゴが深域武装を眺めていると、迷宮用装備を身に着けたイシグロが声をかけてきた。

 彼の右手には緑色の札があった。今日もまた、傷一つなく迷宮を踏破してきたらしい。

 それこそ、この剣はイシグロにこそ相応しいのではないかと思った。

 

「ん? その剣、もしかして……?」

「深域武装です。さっき踏破したのがコレで、そのせいで赤字になっちゃいました」

「おぉ……! で、できれば少し持たせてもらえませんか?」

「はい。ディエゴ」

「ああ。ど、どうぞ」

「失礼します……!」

 

 少し躊躇ったが、いくつも深域武装を持っているイシグロがコレを盗み去るとは思えない。ディエゴは片手に持った剣を差し出した。

 イシグロは差し出された剣を両手で受け取り、覗き込むようにしてその剣身を見た。

 次の瞬間、普段変化に乏しいイシグロの瞳が見開かれた。

 

「なん! これは、凄い……!」

「あれ? イシグロさんは鑑定技能を習得されているのですか?」

「え? あぁ、そんな感じです。にしても凄いですよコレは……ホントに凄い、マジで凄い……。もうチートや、チートやろこんなん……」

 

 ぶつぶつ唸るイシグロの背後で、小さな奴隷達はやれやれといった表情を浮かべている。

 あのイシグロにこんな一面があったとは。ディエゴ達はポカンとなった。

 

「まだ鑑定出してないんです。とりあえず、ハズレだったら売ろうかと……」

「これを売るなんてとんでもない!」

「え?」

「あっ、失礼しました。お返しします」

 

 そう言って、イシグロはディエゴに剣を返した。

 それでも尚、人類最新の英雄候補はディエゴの持つ剣を羨ましそうに見ていた。

 

「貴重なものをお見せして頂き、ありがとうございました。あ、深域武装は武器工匠に言えば有料で追跡魔法をかけてくれるそうなので、盗難防止の為に付けておいた方がいいですよ」

 

 そうして、イシグロ達は去って行った。

 子供のような、小さな奴隷達を引き連れて。

 

「黒剣のリキタカ様は、とても可愛らしい方なのですね。あんな一面があったなんて……」

「ね~。でも、あたし的にあーゆー子供っぽいのはちょっとな~って感じ」

「男の冒険者は大体そんなもんだって。それより、凄いってさ、その剣」

「あぁ……らしいな」

 

 それからも、ディエゴ達の飲み会は続いた。

 イングリッドが元貴族令嬢と知って尚、ディエゴから彼女への感情に変化はなかった。

 ただ、何て事もない会話で彼女が笑顔になってくれるなら、それだけでいいと思った。

 この気持ちが恋なのかどうか、まだ分からない。少なくとも、代え難い仲間だとは思っている。

 

 ――守りたい人がいるから。

 

 イシグロは、自身が強くなった理由を訊かれ、こう答えていた。

 もしかしたらと、思ってしまっていいのだろうか。

 ディエゴは強い酒を呑み、強いて喉を焼いてみた。

 自分はまだまだ、これからだ。

 

「じゃ、オレ等また飲んでくるから」

「行ってらっしゃいませ」

 

 そろそろ深夜が迫る頃、転移神殿を出た一党は解散する運びとなった。

 宿に帰る女子勢とは別に、男子二人は馴染みのバーで飲み直すつもりだ。こういう時に飲む酒が一番美味い。

 酔って肩を組む二人を見て、イングリッドは聖女のような笑みを浮かべていた。

 

「おっと、そこ右だよ。近道しよう」

「うぃ~」

 

 ふわふわした気分のまま、鬱陶しい人混みを避けて裏道を進む。

 例え酔っていたとしても、大半の輩は返り討ちにできるはずだ。

 酒で強気になった二人は不用意に夜の闇へと入っていった。

 

「ん?」

 

 すると、後ろの方で何か物音が聞こえた気がした。

 人が数人、倒れたみたいな……。

 

「気のせいか……?」

「どしたの、ディエゴ」

「いや、何でもねぇ」

 

 特に敵意も感じなかったので、ディエゴ達はその場を去った。

 そして、二人は夜の歓楽街に消えていくのであった。

 

 

 

 仲の良い二人の背中を、ねっとりとした影の瞳が見つめている。

 影の足元には死屍累々に倒れ伏した男達。以前、ラリス銭湯部を名乗ってインネンつけてきた奴等だ。

 

「うへー、なに今の? 一瞬だったじゃん……」

「お二人に手を出そうとしていたので、叩きのめさせて頂きました。ゲパルト流の夜間制圧術です」

「そ、そうなんだ……」

 

 影の数は二つ。羊人と白金髪の少女――カリッセとイングリッドである。

 うっとりと、イングリッドは熱い瞳で歓楽街の方向を見ていた。彼女の真の動機を聞かされているカリッセは、何とも言えない表情を浮かべた。

 

「何もそこまでしなくていいんじゃない?」

「わたくし、男同士の間に挟まる輩は嫌いなんです」

「へ、へえ……」

 

 何も、無理にくっつけようなんて考えていない。

 ノンケじゃなくなって欲しいとも思っていない。

 ただ壁目線で見守りたい。畢竟、イングリッドは妄想がしたいのだ。

 

「やっぱり、男の子は男の子同士で、女の子は女の子同士で恋愛するのが一番だと思いますから♡」

 

 そう、イングリッドは自由(・・)な冒険者に憧れているのだ。

 仲間に嘘は吐いていない。

 

「にしても、二人はこれから何処に向かう予定なのでしょうか。できれば照明の暗い個室酒場だったらとても捗るのですが……むほほ♡」

「バーの後は娼館とかじゃない? 知らないけど」

「だ、男娼を……!? ラモン様という方が居ながら、いけませんいけませんよディエゴ様……!」

「違うと思うな~。知らないけど」

 

 幼馴染、男二人、何も起きないはずがなく。

 イングリッドは、聖女のような笑みを浮かべていた。




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