【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 おや? 後書きの様子が……?


ロリージア

 今朝は揃って早起きできず、起きた頃には昼前だった。

 二次三次越えの飲み会の翌日である。銀細工ボディの恩恵で二日酔いなどは無かったが、それでも何となく身体が怠い気がした。

 寝起きはサウナでスッキリし、鍛錬した後に未だ眠りこけてるシャロを叩き起こす。その頃になると既に正午を過ぎていたので、皆で昼食を食べた。

 

「ああ。アタイの意思に変わりはねぇ……」

 

 食後、昨夜決断したシャロの復讐について、彼女の意思を再確認させてもらった。

 一度お腹いっぱいになったら、負の感情が消える事もあるだろう。しかし、一晩経ってもシャロの中にある復讐心に変化は無いようだった。

 どれだけ元気そうに見えても、彼女の心は怨嗟の念に囚われているのである。

 

「わかった。昨日も言ったけど、全力でサポートさせてもらう」

 

 然るに、対象が何であれ報復は完璧に成し遂げる必要があると思う。

 激情に身を任せる事なかれ。復讐は段取りよく行うべし。然るべき手続きを踏んで、人事を尽くし、天命を待って仇を討つ。計画性のない復讐は失敗すると相場が決まっているのだ。

 どだい相手は害獣で、人相手のソレとは異なり後に尾を引く因縁も無いはずだ。負うべきリスクは生命で、俺等はこれをフォローする。少なくとも、ラリスの国是的には推奨される行いだ。

 

「すまねぇ。よろしく頼む」

 

 確認を終えたら、シャロに俺のチートの説明をした。

 あらゆる武器のモーションアシストに、ステータスの参照やジョブの任意変更等々。これに関しては、シャロは「なるほど異能か」とすぐ納得していた。

 で、午後はその実演の為に鍛錬場にやってきた。

 

「はえ~、これが転移の感覚か。意外とあっさりしたもんなんだな!」

 

 銀細工一人奴隷六人で七人分の使用料を払って、コロッセオ型鍛錬場に入場する。人生初転移らしいシャロは、一瞬で切り替わった景色に興味津々といったご様子。

 迷宮と違い、鍛錬場は六人以上で入る事ができる。ただ、転移石碑の使用者には人数制限があり、満員だと入れない仕様である。

 何だろう、入店人数に制限は無いけど席数に限りがあるみたいな感じだろうか。だから、無月流の体験稽古には使わなかったんですね。

 

「グーラ」

「はい」

 

 鍛錬場の地面を見分しているシャロを横目に、俺はコンソールを弄ってグーラを一党から外した。

 これにより、グーラは俺が持っているチートを共有できなくなった。モーションアシストも使えなくなったし、危機察知や軌道予測も発動しなくなった。俺視点、とても無防備な状態である。

 もし一党から一人外すとしたらグーラにしようというのは、兼ねてから決めていた事だった。一応、俺を含め皆もチート無しで戦えるのだが、外すと弱体化するのは紛れもない事実である。そんな中、ノーチートで一番強いのがグーラなのだ。

 

「何か変な感じある?」

「大丈夫です。さほど変わりは無いかと」

「やはり天才ッスか」

「鍛錬の成果じゃな」

「おっ、それがコンソールってやつか? やっぱ全然見えねぇな」

「ああ。んじゃ、シャロを一党に加えるぞ」

 

 虚空をスワスワする俺を見て、シャロが興味深げな声を上げる。そんな彼女に応えるように、我が一党に新しく赤毛の森人を加えた。

 これで、彼女にも各種チート能力が共有されたはずだ。

 

「ひとまず、ステータスを見せてもらおうかな」

「よく分かんねぇけど、よろしく頼む」

 

 仲間の中から彼女の名前をタップして、ステータスを表示させる。

 すると……。

 

 

 

◆シャーロット◆

 

 ■■:■ベル■■

 ル■■マ■■ー:レ■ル■■

 

 能動スキル:■■■■■

 補助スキル:■■■■■

 

 生命:■■

 魔力:■■

 膂力:■■

 技量:■■

 敏捷:■■

 頑強:■■

 知力:■■

 魔攻:■■

 魔防:■■

 

 

 

「あれ? このステ……何か変……?」

 

 何故だか知らんが、シャロのステータスが塗りつぶされている。

 それだけじゃない。ジョブをタップしても反応が無いし、状態異常かどうかの判別もできない。

 こんなのは初めてだ。

 

「どした?」

「なんか、見えないというか……」

 

 閉じたり開いたりを何度か繰り返しても、バグッた画面に変わりはない。

 どうしたものかと唸っていると、隣にいたエリーゼが「ふむ」と呟いた。

 

「恐らくだけれど、シャーロットのルーンが封印されているから見られないんじゃないかしら……?」

「封印?」

「ほら、シャーロットが魔物から逃げる時に、側近にルーンを封印されたと言っていたでしょう? 初めて会った時から気になっていたのよ。変な魔力をしているし、魔力量の割に妙に洗練されているし……」

「それは……あるかもしれねぇな。実際、アタイのルーンは魔力より奥にあるから魔力自体も縛られてンだ」

「もしかして、イリハがシャロの氣が弱ってるって言ってたのも封印のせいなんスかね?」

「それは歳のせいじゃな」

「ぐはっ!? だ、だから。アタイの祖父は上森人だから普通の森人とは違くて……」

「身体の割に耳も大きいですものね」

「ん、魔力も森人っぽくない」

「俺からするとノーマルエルフとハイエルフって何が違うのか分かんないんだよね」

「おいおいおい。それ、上森人の前じゃあ言わねぇ方がいいぜ」

「わかった。気を付けるよ」

 

 なんて話をしつつ、であるならとアイテムボックスからエリーゼ用の王笏を取り出した。

 

「エリーゼ、今度は祝福付きで頼む。全力で」

「分かったわ。癒されよ(・・・・)

 

 エリーゼのチートヒール ~竜族権能を添えて~

 祝福によって強化された淡い碧光がシャロの全身を覆う。間髪入れずに禁断の治癒魔法二度撃ち。通常治癒と状態異常回復の連続発動だべ。

 

「おぉ~! なんだこれ、すっげぇな! 昨日してもらったのより染み込んでくるぜぇ~!」

 

 治癒の光を浴びて気分良さそうにしてるシャロを見ながら、ステータスを確認する。予想はしてたが、何も変化は無かった。

 表示の遅延も考えて一度コンソールを閉じてからもう一度見てみるが、やっぱりまだバグッている。

 

「治ってないな」

「そのようね。奥の奥までは届いてない感じがあるもの……」

「ん~、まぁ何となくアタイもそんな感じするな。なんつーの? こう、魂まではズドンと来ねぇというか……」

「別の方法を試すべきじゃな」

 

 この世界、状態異常の数は膨大である。エリーゼのチートヒールは殆どの状態異常を治せるが、マイナーなものは治せないのだ。どうやら、ルーン封印状態には対応していなかったようである。

 が、ゲームじゃボス前でポーションを買い占める系勇者の俺。チートヒールが効かなかった時用に、各種対策アイテムは常備している。

 

「えーっと、待ってな……」

 

 俺はアイテムボックスに手を突っ込み、役立ちそうな道具を劇場版の猫型ロボットのように取り出していった。

 各種魔法薬(ポーション)に、呪い解除用の呪具。目薬錠剤粉薬、その他色々……。その中から、とりあえず最も効果のありそうな魔法薬を手に取った。

 

「はい、とりあえず飲んでみて」

「あん? なんだこれ?」

「封印系全般を治す魔法薬」

「よくそんなの持ってたな、おい……。まぁ今さら遠慮しても仕方ねぇ。有難く使わせてもらうぜ」

 

 手渡された魔法薬を訝しげに見分したシャロは、やがて一息に飲み干した。

 ちなみに、今のポーションは一回分で三百万ルァレである。

 

「おっ、おぉ……!」

 

 結果、薬の効果は劇的だった。

 灰色の瞳から、臙脂色の瞳へ。どことなく淀んでいた魔力が鮮明になるにつれ、シャロは文字通りに目の色を変えていったのである。どうやら、彼女本来の目は赤色だったらしい。

 真紅の髪に深紅の双眸……炎髪灼眼のシャロか、良い響きだ。メロンパン食べたくなってきたな。

 

「この感じ……やったぜ! ルーンが使えるぞ! 戻った戻った! やったー!」

「あら、結構いい魔力してるのね。ちょっと流れが遅いけれど」

「氣の流れも治ったのじゃ。肝の氣弱っとるけど」

「魔力が鮮明になってるッスね。処女丸出しッス」

 

 封印状態が解除されたらしいシャロは、元の魔力とルーンを取り戻せたようだ。身体能力も戻ったようで、やったやったと元気に跳ね回る姿は機敏である。

 確認の為、俺は改めて彼女のステータスを見てみる事にした。

 

 

 

◆シャーロット◆

 

 森人:レベル9

 ルーンマスター:レベル20

 

 能動スキル:ルーン刻印

 補助スキル:ルーン適性

 

 生命:14

 魔力:62

 膂力:15

 技量:59

 敏捷:35

 頑強:24

 知力:60

 魔攻:28

 魔防:27

 

 

 

 そうして開示されたシャロのステータスは、俺の想定以上に高かった。

 パッと見た感じ、魔力と知力と技量の高さが特徴的だ。魔攻が低いあたりはジョブの特性なのかもしれない。

 案の定耐久系のステはショボいが、全体を見るに下位から中位の銀細工くらいの強さがあるか。

 

「おぉ、結構強いな……」

「そうなのか? 戦った事ねぇから分かんねぇけど」

 

 それともう一つ、シャロが就いている“ルーンマスター”ってジョブは初めて見るものだった。

 ジョブランクは中位で、パッと見は特殊な魔術師系って印象。成長傾向的に、魔力と技量と知力が伸びやすいのかな。

 ジョブの欄をタップしてみると、シャロは他にも様々な派生ジョブを取得していた。その殆どがルーン関連のジョブである。

 ていうか、昨日から気になってたんだけど……。

 

「ところで、そもそもルーンって何?」

 

 ここで、ルーンについて訊いてみた。

 血に根差した異能である事と、それを活かしたルーン彫刻なる技術があるのは知っているが、それ以外はサッパリなのである。

 

 ルーンっていうと、何かこう占い的な文字的なモノを想像してしまう。

 確か某型月のキャスニキが使ってたような? もしくは、砕かれた大ルーン的な? あるいはカブ農家的な?

 とはいえ、リンジュの陰陽術と同じようにこの世界にはこの世界のルーンがあるのだろう。頭目としてもオタクとしても気になる設定である。

 

「んぉ~、そういやぁ説明してなかったなっと」

 

 俺の問いに、ヨガみたいな動きで魔力を調律していたシャーロットが応える。ちょっぴりドヤ顔など浮かべつつ。

 活き活きしているその表情は、大好きな武器トークをしてる時のドワルフに似ていた。

 

「そだな~。スッゲェ雑に言うと、ルーンは世界の(ことわり)を捻じ曲げる御業の事だ」

「世界の理……?」

 

 世界の理……なんだか背中がむずむずするワードである。

 皆も首を傾げていた。

 

「陰陽術とは違うんかのぅ?」

「あー、リンジュのアレな。陰陽術は氣ってのを利用するんだったか。特定の式を編んで発動するんだっけ?」

「そうじゃの。己の氣と自然の氣、その二つを上手い事操るのじゃ」

「なら結構違うな。ルーンは世界の理に干渉して一時的にその場の物魔(ぶつま)法則を書き換えたり書き加えたりするんだ。要するに、ズルッこするのさ」

 

 言って、シャロはおもむろに虚空に向かって文字を書いてみせた。

 すると、彼女の指の軌道に合わせて青く光る線が引かれていき、やがて“H”に似た文字を形成した。これには魔力の視えるエリーゼもビックリで、氣が視えるイリハなど尻尾を膨らませて慄いていた。

 空中に文字を描く……。猫型ロボットの秘密道具にそんなん無かったっけ。

 

「で、これをこう」

 

 次いで書き終えた文字をタップすると、それは瞬時に氷の粒に変化し、その場に浮遊し留まった。

 

「おぉ、魔法っぽい」

「魔法じゃねぇよ。どっちかっつーと異能扱いだな。アタイ等ルーン使いはルーン文字を刻む事で世界に干渉できるんだ。おまけに支払った魔力はルーン文字を書いた分だけで、この氷を出すのに支払った魔力はゼロなんだぜ」

「なるほど……」

 

 と返しつつも、実際まだよく分かっていない。

 イメージ的には、水の無いところで凄いレベルの水を生み出すとかそんなんだろうか。けど、それって方法が違うだけで普通の魔法や陰陽術でも出来ちまえるんだよな。

 

「既存のラリス式魔術と違って、念も詠唱も要らねぇんだ。こんな風に別のルーン同士を合わせれば、思い通りの事象を引き起こす事だってできる」

 

 指を動かし二つのルーンを重ねて書くと、今度は大玉転がしサイズの氷塊が出現した。

 が、数秒経つとその氷塊は何の予兆もなく消失した。まるでデリートボタンでも押されたかのように。

 

「あら、魔力残滓が無いのね……?」

「ああ。ズルしてる分、常に世界側から修正されてるから全然持続しない訳だ。魔力流し続けたら火を出しまくれるとか、そういうのは出来ねぇんだ」

「へえ、面白いじゃない……」

「さっきから近くの氣が震えておる。眼に悪い光景じゃ……」

「あと、今の氷は殆どハリボテだったッス」

「はい。当たっても痛くなさそうでした」

「ん、不思議な感じ」

「もう少し見せてくれる?」

「あぁいいぜ。ケナズ伝統のルーン技術、存分に御覧じろってな!」

 

 それから、いくつかルーンを使った技を見せてもらった。

 どうやら、同じルーンでも書く時の色が変われば効果が違うようだった。地面に黒色の“H”を描くと、何の脈略もなくその場所にクレーターが出来たりもした。このクレーターは氷と違って暫く待ってもそのままだった。

 中々奥が深そうである。

 

「別のルーンと組み合わせたり、繋げたり、重ねたり……。向きとか色とか書き順とかでそれぞれ効果が違ぇんだ。まぁ理屈は知らねぇけどな!」

「知らないんだ」

「ああ。始祖もなんかソレっぽくしたら出来たって書き残しててな。こうしたらこうなったってのが残ってるだけなんだ。で、その法則をルーン技術って言うんだぜ」

「なるほど、ルーンは覚えゲーなんだな……」

 

 どうやら、ルーン技術は座学多めな割に使ってる本人も原理はよく分かっていないらしい。俺が気合で使ってる魔法とは別の雑さを感じる。緻密なのはそうなんだろうが、暗記のゴリ押しというか。

 けど、何だろう。凄くロマンを感じます。烈火さんとか、義手の錬金術師とか、ああいう類いの良さみがある。

 

「凄いな……」

「へへっ、まぁな! が、使い手少ねぇし威力出ねぇしそもそも発動するまでが遅いしで、どんどん廃れっちまったよ。始祖以外に新しいルーンを生み出す事が出来なかったんだよなぁ」

 

 言いつつ、書き途中だった大き目サイズのルーン文字を消し、シャロはフンッと鼻息を吹いた。

 どこの業界も、ユーザーが少ないと発展しないのは同じなのだろう。最初の天才の後に続くだけの技術も同様に先細りしていくのが運命か。

 

「だから、ルーンは物作りに方向転換したんだな。ルーン彫刻がソレだ」

「でもそれも廃れてんスよね?」

「こっちはまだ廃れてねぇよ!? 焼き物にルーン彫り込んで売ってんの! ケナズの皿とくりゃあラリス貴族だって使ってるくらいだぜ?」

 

 そういえば、ドワルフが今の里は鍛冶は止めて皿とか作ってるって言ってたな。

 使い手の少ない伝統技術。確かに、物が良ければある程度のブランド価値が生まれそうだ。

 

「焼き物の前、武器の方はどうなの?」

「あー、それな。そりゃもうスゲェぜ。なんせ理論上十個くらい補助効果付けられるからな!」

「おぉすごい」

「けど、失敗すると壊れンだ」

「えっ、それは……」

 

 スッと、シャロは俺の腰にある無銘を指差した。

 

「アタイもルーン彫刻士の端くれだ。武器の目利きくらい出来る。そんなアタイから見て、ソレぁマジのガチで良い剣だろ」

「まぁ」

「それをルーンで再現しようとするとな」

「はい」

「完成させるまでに、アタイでも百本は壊す」

「えぇ……」

「てか、完成したら奇跡だぜ……」

 

 曰く、武器に限らず物にルーンを彫刻すると、一文字刻むごとに壊れるかもしれないらしい。また、彫刻数が増すにつれてその確率は高くなっていくという。

 しかも、上手く行っても思い通りの性能になるかどうか分からないというのだ。成否がランダムなら、効果量もランダムであると。

 

「せっかく鍛冶師が良い剣打っても、ルーン彫刻士の失敗であっさり壊れるかもしれねぇんだ。そりゃあ剣士も鍛冶師も嫌だろうよ。金と時間返せってなるだろ」

「俄然、殺したくなりますねぇ……」

「実際それで殺された彫刻士もいるよ……」

 

 何となく分かった。要するに、ルーン彫刻はオンラインゲームの武器強化ガチャなのだ。

 ハイエンドを作るには、何度もチャレンジして完成まで壊れないようお祈りするしかないのだ。んで最後の最後にオシャカになったら絶望を超えた絶望である。

 強化する度に破壊ガチャを引かされるシステムはマジで悪い文明。そりゃ、ゲームならともかくリアルだったら流行らんわ。廃れて当然だと思う。

 

「まぁ、魔王戦争ん時は重宝されたよ。数打ちの武器でも一回ルーン刻んでやればそれなりのモンになるからな。けど、強ぇ剣は博打になるんだ。さっき言ったように使い手は一族だけだし、新しいルーンも作れねぇしな。そんなこんな、普通の鍛冶技術が成長してって武器に施すルーン彫刻は時代に取り残されちまったって話」

「なるほど」

「おまけに、ルーンは世界の均衡を崩すとか云々で森人からもドワーフからも迫害されちまって……最終的にゃどっちの領地からも追放されたんだ」

「なるほど」

「で、ケナズ以外のルーンの里の殆どぁ今じゃ伝統のルーンなんか捨てて普通に生活してる」

「なるほど」

「ラリスもラリスで、ルーン技術にゃそれほど価値を感じちゃあねぇらしい。一応、天然モノのルーン使いの為に知識は残してくれてるみてぇだが……」

「なるほど」

「そもそも世代を経るごとにルーン使いの数も減ってっちまって……」

「な、なるほど……」

「ていうか里自体無くなっちまったから、今もうケナズのルーン使いはアタイしか居ねぇのか……」

「あぁ……」

 

 シャーロットの話は、とても世知辛かった。ルーンとは無関係な筈の俺も、実家の近所の衰退を見せつけられた気分である。昔通ってた駄菓子屋、もう無いんだろうなぁ。

 これには皆も思うところがあるようで、鍛錬場は暗い雰囲気に包まれていた。

 

「……っと、悪ぃ! 話がズレちまったな!」

 

 どんよりしてしまった雰囲気を切り替えるように、シャロは一度柏手を打った。

 そうだ、今は伝統技術の話じゃない。効率よく確実に復讐する為に情報を欲してるんだ。いやこっちも大概だな。

 

「で、アタイにもその“ジョブ”っつーのがある訳か。朝話してたやつ」

「あ、あぁ……。そうだな、今就いてるのが“ルーンマスター”っていう中位職で、他にも色々派生職があるな。一応、森人固有っぽい射手系ジョブもあるけど、何となくこういうのが良いって希望はある?」

「ああ。アタイはルーンで戦いてぇ」

 

 大まかな方針をどうするか訊いてみたら、シャロは迷いなくルーン系ジョブを推してきた。

 熟れた林檎のような双眸には、怨念に満ちたドス黒い決意が滲んでいる。

 

「あいつを殺るのは、ルーンじゃねぇといけねぇんだ。ルーンが戦い向きじゃねぇのは重々承知だが、どうかその方針で鍛えちゃくれねぇか?」

 

 復讐において、彼女には彼女なりの流儀があるのだろう。

 元より、ケジメをつける為に応報をさせようというのだ。実戦向きか否かより、彼女の心に沿って然るべきと思う次第。復讐は手段を選んで行うものだ。そうじゃないとスッキリしないだろうしな。

 

「わかった。けど、ルーンっつっても色々あるよ」

 

 今一度ジョブの欄をタップして、派生職の一覧を表示させる。

 既にある程度育ってる“ルーンマスター”に、二刀流っぽい“ルーンローグ”。槍を使う“ルーンランサー”がいると思えば、弓を使う“ルーンアーチャー”なんかもあった。

 いずれにせよ、選択肢が多いのは良い事だ。

 

「何がどうとかアタイからは何も分かんねぇからなぁ」

「では、使いたい武器を希望すればいいと思います」

「いや、けどシャーロットは戦場童貞ッスよ。それに、使いたい武器と合ってる武器は違うもんッス」

「言い方……まぁ、確かに自分に何が向いてるとかは分からないものよね」

「一応、ルーンマスターは杖と短剣を使うっぽいな」

「そうだな。実際、父ちゃんはそんな感じだったぜ。けど兄貴は槍使ってたな。あっ、そいえば妹は弓だったか」

「自警団は何を使ってたのじゃ?」

「ん~、ルーン使える奴自体が少なかったからなぁ。適性あっても戦いだとルーンなんか使わず普通に武器振り回してたし……」

「ん、昨日シャーロットは杖と短剣を使えるって言ってた」

「まぁな。ていうか、普通戦いでルーン使う時って大抵専用の刃物でやるんだよ。アタイは血が濃いから指で出来ちまうんだけど」

「とりま、ひと通り試してみようか。ほい、試しにこれ振ってみて」

 

 ルーンもそうだがモーションアシストの確認もしたいので、シャロにルーンマスターの使用武器である短剣を手渡す。

 練習用の短剣を受け取ったシャロは、職人の性かその造りを矯めつ眇めつしていた。

 

「つっても、短剣術なんて百年以上サボッてたからなぁ……」

「適当でいいよ。モーションアシストの確認がしたいだけだから」

「ん? ああ。確か、こんな感じだったか……?」

 

 ひゅっと、シャロの短剣が虚空を切り裂いた。

 ん? と、シャロは首を傾げた。

 そのままヒュンヒュンと短剣を振り回し、そのうち剣舞をし始め、やがて超絶カッコいいポーズで静止した。まるで種運命OPの生インパルス君みたいだった。

 

「アタイ、天才だったか……!」

 

 言って、シャロは右手に持った短剣を天高く掲げてみせた。

 その顔は過去最高のドヤ顔で、そんな彼女を一党の皆は微笑ましげに見ていた。

 

「まさか、あの経験を経て覚醒を……!? こ、これならやれる! こうしちゃいられねぇ! 今すぐ彼奴をひと狩り行こうぜ!」

「それがモーションアシストの効果だよ」

「え? あ、そっか。そうだったな……」

 

 言われ、一瞬しょぼんとなったシャロだったが、すぐに気を取り直した。

 

「まっ! どのみち鍛錬は必要だもんな!」

 

 それから、俺達が見守る中、シャロはルーンと名の付く全てのジョブを試すのであった。

 触媒による攻撃ルーンの威力の検証に、彼女が持てる限界の重量武器。その他諸々、武器選びに必要な情報も調べる。

 最終的に、羊皮紙数枚分の資料が出来上がった。

 

「いいねぇ……」

「なぁ、亭主殿ぁ何であんな楽しそうなんだ……?」

「そういう人なのよ」

 

 バトルで勝つより、レアアイテム入手するより、強敵と死闘を繰り広げるより、俺は編成やキャラビルドを構築するのが好きなのだ。

 検証は楽しい。それがロリなら尚の事。

 

 

 

 

 

 

「んぉおおおおおお♡ そこそこそこ♡ あぁッ♡ 良い♡ 良いッ♡ きッ、グぅぅぅぅぅッ♡」

 

 真冬の夜、暖かなリビングに少女らしからぬ野太い嬌声が響き渡る。

 組み伏せられ、身体に快楽を教え込まれ、赤毛の森人は力と技で以てその身体を好き放題弄ばれていた。

 

「やっぱり肝の氣に元気が無いのぅ。まず腰らへんの氣を整えてやるべきじゃなっと……!」

「んぉおおおおお♡ 効く効く~♡ ひぃいいいッ♡ そこっ♡ あっ♡ あぅ……♡」

「あ、ここじゃな」

「ぎぇええええええっ♡」

 

 無論、健康促進の為の按摩指圧である。

 ソファーにうつ伏せになったシャロは、イリハの施術を受けると終始アヘ顔一歩手前の表情になっていた。

 午後はずっと鍛錬場にいたので、体力も魔力もすっからかんなのだ。そこに氣を併用したリンジュ式按摩とくれば、ロリババアは狐の手技の虜である。

 

「ひっ♡ ひぁ♡ しゅごしゅぎッスぅ……♡」

「ん、氣の凄さわかった……♡」

 

 暖炉の前、リビングチェアでは同じく按摩にやられたルクスリリアとレノがぐったりしていた。

 なお、施術前の二人は「流石に肩だけで気持ちよくなる訳ないじゃないッスか」とか「ん、非現実的に過ぎる」などと言っていた模様。

 

「と、こんな感じでいいかな?」

「ええ。出来ていると思うわ」

 

 そんな中、俺はエリーゼとグーラに添削してもらいつつ、偉い人宛てのお手紙を書いていた。

 アリエル様と第三王子への手紙である。書いた文章は短いのだが、一文字書くごとに神経が磨り減ってく感覚があった。俺もタイプライターが欲しい。

 

「アナタも上手になったわね……」

「とても武人らしい字だと思います」

「ありがとう」

 

 この世界、言語も文字も分かり易さが重視されているようで、簡単な読み書きの習得はそれほど難しくはなかった。

 のだが、未だに文章を書くのは苦手である。というのも、異世界文字は簡単なのに文章表現が無駄に豊富なせいで適切なご挨拶を考えて書く事に時間と頭を使う羽目になるからだ。

 それ故、アリエル様みたいな相手の場合は色々と迂遠で流麗な表現が必要なのである。これに関しては王子相手の方が幾分も楽チンで、彼へのお手紙は時系列に沿って端的に事実を記述すればいいだけなのである。

 

「っと、これでいいはずだけど……」

 

 アリエル様宛ての手紙は帰り道で買った良いめの封筒に入れ、王子宛ての手紙は彼の密偵から支給された特殊な封筒に入れる。

 明日、これを然るべき相手に届ければいい。残念ながら、王都にポストは無いのである。

 

「シャーロットの件、奴隷商人には言わなくていいんでしょうか?」

「あー、今言うとクレームみたいになるじゃん。まだ証明もできないし」

 

 封筒をアイテムボックスに入れたところで、グーラから質問が来た。シャーロットの素性についてだ。

 確かに、本来ストゥア商会はもっとしっかりと彼女の素性を調べるべきだった。産地偽装というか、商品が偽装してた訳で、これについては向こうに責任があるだろう。

 だが、ここで言うとそれこそ返品補償的な対応をされる可能性を否定できない。善意の第三者というか、復讐の代行者というか、ともかく今はまだ言わなくていいかなと思っている。

 さて、頭の痛くなる書き物は終わったので、そろそろ本題に入ろうか。

 

「シャロ、ちょっといい? 皆も来てくれ」

「おぉぉぉぉぉぉぉ♡ ぢょっどばっでぇええええ♡」

 

 そう応えたシャロの声はブルブル振動していた。見ると、彼女は腰に詠春拳の連続パンチみたいなのを受けていた。ラストスパートである。

 で、最後に何度か背中を撫でてもらって、

 

「ほい、おしまいじゃ」

「ふゃぁ~……♡」

 

 終了である。

 案の定、施術を受けたシャロはふにゃふにゃになっていた。

 そして全員でダイニングに集まると、家族会議の始まりである。

 

「という訳で、明日アダムスさんとこに注文出すから、今この場でジョブ決めよう」

「お、おう……!」

 

 復讐に繋がる話と聞いて、シャロの表情はキリッとなった。

 この復讐はスピード勝負である。最悪は俺の予備武器を貸せばいいと思うが、さっさと武器を作らないと間に合わないかもしれないのだ。

 

「とりあえず、向いてなさそうなジョブは排除して、この中のどれかって事にしようか」

「ああ。情けねぇ事に、アタイは生まれてこの方一度も魔物と戦った事がねぇんだ。皆、知恵を貸してくれ」

 

 シャロのお願いに、一党は是と応えた。準備万端である。

 俺は鍛錬場での検証内容を纏めた紙を取り出し、皆に見えるようテーブルの上に置いた。

 

 現状で決定している点を言うと、まずもってルーン系のジョブは確定である。それから、“ルーンナイト”や“ルーンウォーリア”といった盾や重武器を扱うジョブは選択肢から省く事になった。

 ジョブ選びで優先すべきは、何よりも自衛力である。連携を前提にしたジョブより、ある程度一人でも戦闘可能ないしは耐久・撤退戦がしやすいジョブの方が望ましい。

 で、検証してみた結果、どれも一長一短だった。

 

「ルーンマスター。まぁ一番丸いのはコレだよな」

「だな。父ちゃんと同じっぽいし」

「森人の武術が使えるのは有利じゃな」

 

 最初に試したのは、最もレベルが育っている“ルーンマスター”だ。

 これは右手に杖を左手に短剣を持つ事を想定したジョブで、杖を触媒に短剣でルーンを刻むそうだ。触った感じ、本人には合ってるっぽい。

 彼女のジョブの中では最もレベルが高いのですぐに上位職に成れるものの、魔術師系という都合上タイマンの自衛力には難があるか。

 

「で、こっちは二つあるぶん早く書けるが、ちと火力の問題がデケェか」

「しかし、近接戦はそれなりかと」

「火力は低いわよね。触媒が無い訳だから」

 

 次に候補に挙がったのは、“ルーンローグ”だ。

 これは短剣の扱いに特化したジョブで、二刀流にも対応している。ルーン文字の刻印には刃物を使う都合上、二刀流なら素早くルーンを刻む事ができる。また、純魔術師ジョブよりも近接の自衛力が向上する見込みだ。

 その代わり、触媒が無い分ルーンによる火力は期待できない。あと、ローグという名の割に斥候系ジョブでもないので、追跡や隠形などには対応していない。イメージ的には魔法双短剣士といったところ。

 

「森人らしいっちゃらしいけど、使うのは難しそうだな」

「ん、遠くからなら安全って考えもある」

「隠れて狙撃なら狙われにくいッスからね」

 

 他、弓を扱う“ルーンアーチャー”も候補の一つである。

 これは矢にルーンを刻んで射撃するというジョブで、ルーン系に不足しがちな火力を補ってくれる。幸い、シャロは森人の例に漏れず弓での射撃は得意だった。

 ルーンには隠形系のものもあるようなので、隠れて狙撃っていう戦い方ができるだろう。

 

「槍もアタイのタッパ考えりゃアリだとは思うんだが、ちと重てぇな。始祖は槍使ってたらしいが」

「武器の重さに関しては、後々どうとでもなりますよ」

「リーチなら普通に剣を使うのもバランス良いと思うのじゃ。やはり短剣は心細いのじゃ」

「ルーンを極めるという意味で杖のみも良いと思うわ」

 

 他にも、槍を使う“ルーンランサー”や、剣を使う“ルーンセイバー”。ルーン特化の“ルーンビショップ”なんてジョブもあった。

 先述のようにどれも一長一短で、当人的にもルーン以外に拘りがないあたり手持ち武器はどれでもいいのだろう。

 

「成長性とか将来性も考えるべきだろうな。復讐が終わった後も生きていく訳だし」

「そもそも実戦でルーン書くとか出来るんスかね?」

「立ち止まっちゃうからのぅ。陰陽術以上に難しそうじゃ」

「ん、お絵描きしてる間に倒される」

「その為の短剣ではないでしょうか?」

「なら、最初から近付けなくするべきだと思うけれど」

「アタイのルーンじゃお前さんみてぇな火力は出ねぇよ。あーいや、出せるには出せるがマジのガチで遅ぇンだ」

 

 そうして、俺達は相談に相談を重ねていき、彼女に合うジョブを絞り込んでいった。

 決定した後はドワルフに発注する武器の仕様書と、防具のデザイン案――エリーゼとシャーロットにお任せした――を用意した。

 

 シャーロット育成計画、始動である。




 と、言う訳で……。

「ロリコンと奴隷少女の楽しい異世界ハクスラ生活」

 書籍化します!!!!!
 書籍化! しますッッッ……!!
 KADOKAWA様からッ……!

 発表許可が下りたのはここまでで、続報はそのうちお知らせします。
 これも、本作をお読み頂いている皆様のお陰でございます。
 本当にありがとうございます。
 今後とも、よろしくお願いします。

 あ、それはそれとしてアンケあります。
 お気軽にどうぞ。
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