【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。執筆の励みになっております。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は一人称、イシグロ視点です。
 よろしくお願いします。


ロリコン・ダンテス

 戦いの末、俺達は上森神樹(アルヴヘイム)の防衛に成功し、無事シャロに仇を取らせる事ができた。

 これにて、ケナズの里を巡る全ての戦いが終わったと言えよう。

 

 朝からこっち働き通し、戦いに次ぐ戦いで、その後の引き継ぎを終えると同時に我が一党はデイリークエストそっちのけで眠りに落ちた。

 そして よが あけた。

 だが、本当の戦いはここからだった。

 

 睡眠時間は如何ほどだったろうか。

 起床してすぐ、俺は朝から晩まで色んな国の色んな人とお話した。その用件とはズバリ事情聴取である。この森には大使館が多いのだ。

 間違いや矛盾があってはいけないというので、「またそれっすか」って言いたくなるくらい違う人から同じ質問をされたりした。

 ちなみに、この事情聴取にはシャロも参加していたので、彼女も彼女で目を回していた。体力はともかく精神がね。

 これまたちなみに、俺とシャロを除く面々は待機部屋でゆっくりしてて、奴隷身分とは思えぬ国賓めいた扱いをされたとか何とか。

 どこもかしこも混乱してる中、偉い人達はよく収束させたものだと思う。

 

 対魔王軍残党の視点で見た場合、今回の戦果は多大と言える。

 未知の魔物である炎爪を討伐し、その中に改造された人類が入っていたという情報を得る事ができた。天使が入った魔物に関しては、既に第三王子にお話済みだったが、今回その完成品の実戦投入が確認された感じである。ルーンやスキルを使用してきた事といい、情報を精査して対策する必要があるだろう。

 三本尻尾の猫又については、それぞれ特性の異なる三体の捕縛に成功した。リンジュに出没していた個体に似た猫又一体に、未確認個体二体。指揮官と暗殺者だ。

 特に、裸足の猫又を捕縛できたのは大きい。どう考えても対策のしようがない相手だったからな、アレ。放置してたら炎爪以上の被害が出ていただろう。

 

 プラスな面は確かにあるが、全体で見るとマイナスが勝つ。森人視点に限らず、ラリス視点でも被害は甚大と言えた。

 最も大きかった痛手は、上森人王が暗殺された事である。この世界において、王とは即ち災厄戦の最前線に立つ者だ。彼は現ラリス王と一党を組んで災厄の主に立ち向かう予定だったという。ここにきての欠員は、来たる災厄戦でかなりの損失になるだろう。

 加えて、アリエルさんの実兄まで殺されてしまったのだ。ただでさえ子供が生まれにくい森人で、しかも王族を二人も失ったのである。血と力が半ば直結している異世界、これは俺の考える数倍はヤバい状況なんだと思う。

 

 猫又一味に殺されたのは王族だけではなかった。聖域を守る守護者や、王族に仕える近衛にも被害が出たのである。曰く、彼等一人一人は銀細工中位の強さがあったそうで、守護者の補充には森人基準でも長い年月を要するだろうとの見込みである。

 不幸中の幸いで、王族や近衛以外に死者は無かったそうだ。重傷者は多数いたようだが、上森神樹と一体化したアリエルさんが森全体に治癒魔術を行使して、傷ついた全ての民を救ったらしい。

 

 また、今回の戦いでは、防衛側にも被害が出た。

 死者数は一人。マスクド・テンコと名乗っていたシラヌイさんである。斥候メイドさんから、彼が被っていた仮面の欠片を見せられた。事前の情報通り、裸足の猫又にやられたらしい。

 別に、彼とは友達などでは無かったし、何ならイリハ関係で良い印象を持ってはいなかった。それでも彼の死を悲しいと思ったのは、我ながら驚きだった。

 

 人的被害は甚大だが、防衛対象の神樹の被害は想定よりずっと少なかった。せいぜい根っこの一部が燃やされたくらいで、人間で言うと髪の毛を数本抜かれた程度らしい。

 で、焼かれた根っこは切除する事となった。あまりに巨大なので、根深い奴はユグドライザーが引っこ抜いていた。戦闘兵器の平和利用ってロマンあるよねって。

 

 ともかくとして、一夜にしてこれほどの被害が出たのだ。

 もしもアリエルさんの到着が遅かったらと考えると、ぞっとしない話である。

 

 一応、夜には眠れた俺達と違って、アリエルさん含む上森人達は昼も夜もなく働いていた。突然王が崩御した事で、大パニックが起きてたのである。

 すわ王位継承戦争かと身構えていた俺だが、次代は事前に決まってたらしく前倒しの即位と相成ったそうだ。新しく王になったのは、アリエルさんの従兄弟である前王の息子さんである。

 

 即位してすぐ、若き王から俺個人を英雄として遇したいとの打診があった。

 これについてはメンツとか色々あるにしてもぶっちゃけマジで嫌だったので、「あっしはアリエル様の指示で動いてただけで、功績はアリエル様のもんでさぁ」の一点張りで流し切った。幸いな事に、ラリスより謙虚謙遜文化が強めな森人には好印象を与える事ができたようだ。

 ただ、だからと言って何もないのは拙いというので、俺にはアルヴの森の交通証を授与された。これまたこの程度じゃチャラにならんらしいので、今後落ち着いたらアリエルさん経由でご褒美がもらえるそうな。

 

 あと、驚くべき事に、件の新王からシャロへ向けて、ルーン使いへの迫害についての正式な謝罪があった。

 元々、ルーン使いへの迫害は先々代の意向によるもので、ドワルフの言ってた通りそんな価値観はもう古いのだ。それから、ルーン使いへの対応がなぁなぁになっていたと。

 上森人王からの謝罪を前に、シャロは盛大にあたふたしていた。

 

「ただ、忘れないで頂きたい。私からはそれだけです」

 

 あたふたしつつも、シャロは何とか返答した。

 確かにそういう歴史はあるが、シャロ自身は当事者ではないから恨みも無ければ隔意も無い。ただその歴史を忘れないでほしいと、シャロは最後にそう言った。

 その言葉を受け取った新王は、ルーン使いを阻む結界を解除し、然るべき時にルーニアの里へ謝罪行脚をすると誓っていた。

 若い森人はフットワークが軽いのだ。

 

「よっと、これ何処まで運べばいいですか?」

「オーライ! オーライ! あいよっと! もういいぞ~!」

「やっぱ飛べるのって便利ッスよね~」

「ん、種族特性の有効活用」

 

 そんなこんなで偉い人から解放された俺達は、アルヴの森の復興作業を手伝っていた。

 いくら魔法があるからといっても、壊された物が魔法のように戻る訳ではない。どこもかしこも人手が足りず、俺達フィジカル・モンスターは大いに活躍した。

 好き放題戦って、後は知らないなんてのは無責任だと思うしな。リンジュの時は、まぁ手伝える事なかったし。

 

「アレもうしまっちゃうんですか? いっそ出しっぱなしにしたら観光資源になりそうですが」

「ああ。ユグドライザーは見世物ではないし、そう無暗に晒す事は許されないんだ」

「そうですか……」

「ふふっ……イシグロ殿はああいうのが好きなのだな」

 

 とても惜しい事に、粗方の重機工事を終えたユグドライザーは、湖の底にあるらしい格納庫に戻っていった。

 しばらく観光モニュメントみたいになってたんだよな、あの巨大ロボ。勿論、俺も見に行って色んな角度からレノにスケッチしてもらった。魔導人機のデザインも良かったが、ユグドライザーも中々にイケロボなのだ。何というか、ユグドライザーは昭和ロボって感じで。

 なんか知らんが、夕陽の湖へ一人でに沈んでいくユグドライザーを眺める俺を、アリエルさんが微笑ましそうに見ていた。ついでに彼女の付き人であるネフリティスさんからは冷たい視線が飛んできた。いくつになっても巨大ロボを好きと言える、そんなオタクに私はなりたい。

 

 事情聴取受けたり、復興作業手伝ったり、森人の子供達の相手をしたり。

 そうして森で過ごしていると……。

 

「やぁ、僕が来たよ」

 

 第三王子が現れた。

 例によって、上森人王との会議の為である。曰く、圏外遠征の帰りらしい。

 

「なるほど、またとんでもない事に巻き込ませてしまったようだね……」

 

 会議が始まる前に、俺は猫又関連の諸々をジノヴィオス王子にお話した。

 猫又の語った目的について。解放軍の存在について。真なる魔王とやらについて。

 これらの情報は、まだアリエルさんには伝えていない。誰より先に王子に言うべきだと考えた為だ。

 

「ありがとう。よく生き延びて、僕に伝えてくれた。流石イシグロさんだ」

 

 嘘発見スキルと王子の直感のダブルチェックにより、俺が事実を言っている事は分かってもらえた。だが、それはそれとして件の猫又が嘘を言ってた可能性も否定できない。

 けれども、それを前提に動く事はできる。俺の話を聞いた第三王子は、これからディング魔族国やその他魔族の国に探りを入れると言っていた。

 

「それじゃ、予定通りに頼むよ」

「承知しました」

 

 すり合わせの密談を終えたら、お次は王族同士の会議である。

 出席者はそれぞれラリスの第三王子と上森人の新王。それから両国の外交官と書記官。あと、ラリス金細工にして上森人王族のアリエルさん。あと俺である。

 俺いる意味なくね? とも思ったが、時折挟まれる事実確認の度に「間違いありません」と返事するボットとしての役目があったのだ。王族に挟まれる俺、如何に肉体が強くなっても心は未だ小市民。会議室にいる間、俺のメンタルポイントはガリガリ削れていった。

 

 確認が終われば議題は移り、封印中の猫又の処遇について話し合う事となった。

 これに関して、討伐対象の全ての権利は俺に有った。正面切って倒した猫又はともかく、指揮官個体はトドメを刺しただけなのだが、異世界にはそういう慣例があるのだ。討ち取った首は討ち取った兵のモノなんだな。

 が、事前の契約により、これらの権利は王子にお譲り済みだ。対外的には王子が権利を買い取った体である。アリエルさんの指示に従った俺だが、アリエルさんは王子に従ってた訳で。

 

 当然、上森人の王様はこれに異を唱えた。

 裸足の猫又は先代の仇であり、その討滅は王命だった。それこそ、指揮官個体以外の身柄を王子から買い取りたいと。

 民の前で処刑したいって意見は、王様として真っ当だと俺は思う。メンツの問題もあるだろうし、被害者遺族の心情も斟酌しなくてはならない。

 

 ラリスとしては、全ての猫又を確保して、彼女等の裏にいるだろう組織を滅ぼす為に解析をしたい。

 それは分かるが、森人サイドは国の威信にかけて民の前で処刑したい。

 金細工であり上森人のアリエルさんは、この事については何方の味方もせず、ただ沈黙していた。

 

 喧々諤々のお話の結果、折衷案として猫又の解析には森人からの代表が加わる事になった。

 で、用済みになった後に出来る限り苦しめてから殺すそうだ。

 

 で、だ。

 

 諸々を終えて民の前に出た新王は、臣民に向かって事の顛末を説明して、件の刺客は封印状態のまま民衆の前に晒し上げた後、新王の名において死以上の苦しみを与えると宣言した。

 また、裸足の猫又を倒したのは俺ではなく、アリエルさんの兄とマスクド・テンコ氏が協力して相打ちで倒したんだよという事にしていた。王族と金細工の相打ちで殺せた刺客。これで先代王弱くないんだよアピールができるだろう。

 神樹を守って散ったテンコ氏の名は、アルヴの森の慰霊碑に刻まれる予定である。これが戦死者に対する最上の礼の尽くし方らしい。テンコ氏は森人にとっての英雄になったのだ。

 

 ちなみに、このカバー・ストーリーについては俺からしたら大歓迎で即了承だった訳だが、若き新王は結構渋っていた。英雄を貶めるとか何とかで。そんでちょっと驚きだったのが、アリエルさんまで反対してきたところだった。

 いや本当にいいですって言い張って、何とかそういう形に収まったのだ。

 

 王族を殺された上、神樹を傷つけられた恨みは計り知れない。

 今のところ大々的に発表はしていないが、これにて森人勢はアンチ解放軍の立場を取る事になった。

 

「お待たせ、待った? キルスティン、お茶の用意を頼むよ。それじゃあ早速話そうか」

 

 王の務めが終了すると、俺の前に何故だか女装姿の王子が再来した。しかも今度はリンジュ風。王ではなく、雇用主としての来訪という事か。

 用件は勿論、論功行賞。ご褒美タイム。いわばリザルトである。

 

 ミッションは神樹防衛戦。メイン・ターゲットの炎爪の討伐に加え、サブ討伐対象の猫又三匹の捕縛にも成功した。

 間違いなく、ミッション評価はSランクである。

 

 事前の約束通り、俺には猫又捕縛のボーナスが確約された。

 この報酬はお金ではない。お金で買えないモノを貰うつもりなのだ。

 

 あと、報酬とは別に、このミッション内で俺は二つの深域武装を入手する事ができた。

 裸足のトゥイが装備していた首飾りと、指揮官のティエが持っていたサーベルである。

 彼女等の身柄は自動で王子に渡る仕組みだが、戦利品の権利は冒険者規則に則って俺が有しているのである。

 

 これらの性能は、隙間時間に検証済みである。

 例の首飾りは使ってみた通りの性能だった。簡単に言うと、素手限定のタイマン強制領域の展開である。

 それだけでも強力なのだが、白黒空間にいる間は良くも悪くも外界に干渉できないので、潜入ミッションには極めて有用である。実際、この特性のせいで上森人王の居城に侵入&暗殺&逃走がされた訳で。

 こんなのヴィランが持ってていい武器じゃない。どうぞ暗殺なり何なりして下さいと言わんばかりのインチキ装備である。

 

 次、指揮官個体が持っていたサーベル。

 これは、生物限定のアイテムボックスと言えば分かりやすいか。通常、アイテムボックスは生物を持ち運べない。死んだ魚は入れられるが、生きた魚は無理なのだ。持ち運びの難しい使い魔をいっぱい収納できる事を考えると、そういうジョブの人からすれば超優秀な武器と言えよう。

 ただ、俺には無用の長物である。何故なら、俺のアイテムボックスはこれを収納できなかったからだ。恐らく剣の中に生物が入ってるせいだと思う。それこそ持ち運びが面倒だ。

 

 話し合いの末、両方とも王子にお譲りする事になった。

 元よりサーベルの方は譲るつもりだったのだが、個人的には首飾りは持っておきたかった。けれども王子的には首飾りこそ欲しかったらしいので、俺とその仲間に使わないという契約をしてもらってからお譲りした。無論の事、彼の命令による使用も縛った。俺は死にたくないのである。

 深域武装分の報酬は、猫又の報酬とは別に同格の深域武装を貰う予定だ。両方上級判定の深域武装らしいので、返礼品には期待させてもらおう。

 

「それにしても、情報が多いね。真なる魔王なんて初耳だよ、まぁ残党の考えそうな事といえば、そうなんだけどね」

 

 ひと通り話し終えると、優雅な座り姿勢を崩した女装王子は温くなったリンジュ・ティーを啜った。

 確かに、嘘か真か情報量が多くて困る。新たなる魔王に、魔族国の拡大。上森人王の暗殺理由については、未だによく分かっていない。

 しかも、なんか勧誘されたし。俺を二重スパイにでもしたかったのかね。

 

 猫又の言ってた理想国家は、俺視点では実現可能性が極めて低い誇大妄想のように思える。

 災厄後、仮に魔王国が建国できたとして、奴が語った国是の国が発展するとは思えないのだ。適者生存とは聞こえはいいが、弱者を救わない国はノー・フューチャーに思える。強者優遇のラリスですら、無辜の民は保護しているのだ。まぁ弱者は保護しても愚者に容赦しないのがラリス流なのだが。

 魔王が統べる弱肉強食下剋上国家。そんなマッポー・カントリーがラリス王国に張り合えるかというと、全然そんな事ないと思う。いや逆に言うと、上手くいく見込みがあるからあの態度って線もあるか。

 何にしても、俺からすりゃあ迷惑千万である。怖いわ~テロリストよ~。

 

「安心して。その辺の対処は僕達に任せてよ。イシグロさんは普通に過ごしていて欲しいね」

 

 どのみち、俺が考えても仕方ない事か。せいぜい巻き込まれないよう立ち回って、いざという時の為に鍛えるしかないのだ。

 幸い、ラリスは災厄後の世界情勢についても考えているらしいので、パンピーの俺に出番はないだろう。

 

「前にも言ったけれど、僕はイシグロさんを英雄にする気はないよ。まぁ今回は予想外の大事になっちゃったけど、イシグロさんにはもっと違うお仕事をしてもらうつもりさ。直近もね」

「はい」

 

 仕事と聞いて、自然と身が引き締まる。後ろ盾を得る為の雇用関係だ。精一杯やらねば。

 緊張する俺を前に、女装王子はフッと微笑んで、

 

「荷物の運搬。フライシュ領から支援物資を持ってきてほしい、貴方ほど優れた運び屋は、この世界には存在しないんだ」

 

 そう云った。

 確かに、俺のアイテムボックスは未だに底が見えないし、空戦車による高速移動ができる上に一党の自衛力も高い。悪党退治より向いてるのは事実だろう。

 

「承りました」

 

 やっぱ、俺はこういう仕事のが良いわ。

 世界を救うのは英雄に任せて、俺は裏方やってたい。

 復興の助けになるなら、尚の事モチベも上がるもんで。

 

 やりがいあるしな、荷運びは。

 

 

 

 

 

 

「ぬわ~んやっと帰ってこれたッスも~ん!」

 

 そう言って、ルクスリリアはべちゃっと自宅のソファーに寝転がった。

 彼女に続き、皆も各々身体を休めていった。あのグーラでさえお疲れモード入ってる中、何故かピンピンしてるイリハはテキパキお茶の準備を始めている。

 

「こうも長く迷宮に潜っていないと、腕が鈍ってる気がして嫌ね……」

「言うて普段から潜りまくっとるから大丈夫じゃろ。ほい、お茶」

「ん、ありがと」

「ご主人様ご主人様、お昼ご飯はまだですか?」

「そうだね。もう少ししたら出かけようか」

「そういえば今日でしたね。ちゃんとご飯食べてるでしょうか……?」

「グーラも心配性ね」

 

 アルヴの森の戦いが終わり、季節はすっかり春である。

 事情聴取に会議に復興。俺達が森にいたのは最初だけで、後はラリス国内を飛び回って運搬役兼メッセンジャーをやっていた。

 その間に王都に戻った日もあったのだが、翌日にはまた外に出たので帰った感じがしなかったのだ。

 もうお仕事は終了してるので、しばらくはゆっくりしようと思う。

 

「皆は何食べたい? ついでに買ってこうと思うんだけど」

「みんなで囲めるものがいいと思います」

「もちろん、お酒もね」

 

 という訳で、軽いティータイムを終えた俺達は、防具を脱いで家を出た。

 ルクスリリアと、エリーゼとグーラとイリハ、そしてレノと俺の六人で。

 そこに、シャロの姿はなかった。

 

 彼女はもう、俺の奴隷ではないのだ。

 

 

 

 支援物資の運搬中、一度王都に戻った俺達は、奴隷商館に行ってシャーロットの奴隷契約を解除した。

 シャロの事情はアリエルさん経由で伝えられていたので、久しく対面した奴隷商人クリシュトーさんは柄にもなく緊張していた。まさか、シャロがそんな身分の人だったとはって感じで。

 確認を怠った過失こそあれ、職務を全うしただけの彼を責めるつもりはない。返金の要求もしなかった。代わりに、裏からの圧力を併用して彼女が奴隷だったという証拠を抹消してもらった。

 

「どう? 何か変わった?」

「あぁ……なんか、万能感が無くなった感じだ。これで、アタイの短剣捌きも戻っちまった訳だ」

「鍛錬ですよ、鍛錬」

「そうだな。これからは、自分の身は自分で守らねぇと」

 

 奴隷契約を解除し、彼女を一党から外す。

 こうして、誰でもなかったシャロは、シャーロット・ケナズ・ルーニアに戻ったのだ。

 

「本当に世話になった。亭主殿、この恩は一生忘れねぇ」

 

 シャーロットの解放。これについては、予め話し合って決めた事である。

 奴隷身分は、人ではなく物である。その身と心は主人のもので、極めて非人道的な制度と言える。

 だが、見方を変えると物である奴隷は主人の庇護下に置かれる訳で、誰であれ他人の所有物の権利を侵害する事は許されない。仮に奴隷を誘拐されたとしたら、主人にはラリスの法により報復が認められるのだ。

 自由の価値が現代地球と異なる世界において、強者の奴隷になる事は生きる上では決して悪くない選択肢である。何故なら、自由と引き換えに奴隷身分の者は安全に暮らす事ができるからだ。実際、嫁の貰い手がない女性が高名な冒険者の奴隷になる事を希望するといったケースもあるらしい。

 まぁそれも主人の胸先三寸なところがあるから、奴隷身分で幸せを得るのはレアケースなのだが、少なくとも俺はレアケース側と自認している。当人が望まなければ、迷宮探索には同行させはしないのだ。

 

「ありがてぇ話だが、心配し過ぎだよ亭主殿。アタイはケナズ一族の生き残りだ。何があっても亭主殿が気にする事じゃあねぇさ」

 

 けれども、それを自覚した上で、彼女はその選択肢を選ばなかった。

 彼女はロリであり、ババアである。しっかりと意思決定力を持った、自立したロリババアなのだ。

 素晴らしいと思う。俺は彼女の意思を尊重する。その為にこそ、戦ってきたのだ。

 

 

 

 そして、現在。

 俺達はシャロに会いに行っていた。

 

「えーっと、このへんだけど……」

「あそこにあるわ」

 

 雪が溶けて久しい西区を歩き、目的地に到着する。

 転移神殿の近くの治安の良い区画。ちょうどドワルフの店の御近所さん。

 そこに、真新しい建物があった。

 

「あ、亭主殿! 皆も久しぶりだな!」

 

 魔導チャイムを押すと、中からシャロが出迎えてくれた。

 建築魔法で造られた、近代ラリス式の二階建て住宅。“ケナズのルーン工房”予定地。

 此処が、新しいシャロの家である。

 

 俺は猫又捕縛のご褒美で、第三王子に彼女の身の安全をお願いしていたのだ。

 超特急の魔法建設。居住地は治安の良い一等地で、防犯魔道具も最新式を手配してもらった。曰く、シュロメさんですら侵入不可能な要塞になってるらしい。

 シャロの身は王子の権威に守られてる上、アリエルさんにもお願いしてこの工房を止まり木協会の傘下に入れてもらった。王子の守りに止まり木同盟の二重の守りで、仮に誰かがちょっかいかけてきても両組織が報復するシステムを構築したのだ。

 奴隷解放後も俺の家に住むのはどうかと思ったのだが、それでは彼女の夢から遠ざかってしまう。だから、こうしたのだ。再三言うが、俺は彼女を縛りつけたい訳ではないのである。

 

「まぁ上がってくれよ。ていうか亭主殿に貰った家なんだけどな!」

「お邪魔しまーす」

 

 この家は二階建てで、一階が店舗で二階が住居スペースになっている。荷解きの済んでいないリビングには、彼女の実家にあった安楽椅子が鎮座していた。

 王都の住宅事情だと結構広めなお家なのだが、あの借家に慣れると狭く感じる。俺も贅沢に慣れたものだ。

 

「はいこれ、引っ越し祝い」

「すげぇ! ドワッケランの五〇年じゃあねぇか! おいおいヤベーな! 本当にいいのかよ!?」

 

 ちなみに、王子からはシャロの使うチート・ルーンは極力秘匿するようにとのお達しがあった。それこそ猫又みたいな悪人に狙われてしまうかもしれないからだ。

 それはそれとして、密かにルーンの研究を再開するらしい。新しく研究の余地が生まれた上に、森に侵入された件で対策手段も確立しないといけなくなったからだ。ルーン技術に対する防衛術を研究する必要に駆られたんだな。

 

「腕の方に心配はないけど、勉強の方はどう?」

「ん、覚える事多い?」

「ああ。もうちょっとしたら、止まり木のガッコに行く予定だ」

「へえ、学校ですか」

「まさかこの歳になって子供と混ざってお勉強とはって感じだがよ」

「場所が場所ッス。仕方ないッスよ」

「いいじゃない。学問の道に歳は関係ないわ」

「だな。ちぃと恥ずかしいが、頑張らねぇと……」

 

 元々、止まり木協会は孤児に仕事を教え、自立を促す組織である。職人デビューするシャロに、止まり木協会が色々と教えてくれる予定なのだ。

 まぁ、暫くの間は止まり木かドワルフ経由で仕事をするらしいが。そのへんのセキュリティも万全だ。

 

「どうあっても、ルーン技術は時代と一緒に廃れてく。実際、アタイくらい濃い血のルーン使いはもう生まれてこねぇだろう。だからこそ、今いるルーン使いを蔑ろにしちゃいけねぇんだ……」

 

 視線を下げたシャロは、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 その手が、ギュッと拳を作った。

 

「アタイがルーン使いと森人を繋げる。で。ルーン使いと世界を繋げる。いつか消えてく技だとしても、こんな技術があったんだって、後の奴等に覚えてもらう。その為に、まずはアタイが世界最初の“ルーン工匠”になるんだ。工房は、その一歩目だ」

 

 決意を籠めて語るシャロの瞳には、確かな未来が映っていた。

 復讐の過程で、彼女は新しい夢を見つける事が出来たのだ。

 そういう人をこそ、俺は応援したいと思える。その為なら、これくらいの援助は安いものだ。

 そうだ、俺はシャーロットを推しているのだ。推し活に上限無し。推しは推せる時に推せるだけ推さないと、死ぬ前に後悔するだろう。

 

「歴史に残る、ですか」

「まぁな。あー、まだ亭主殿におんぶにだっこな訳だが……」

「それでいいのよ」

「困った事があったら言うんじゃぞ。主様じゃなくても、わしも手伝うからのぅ」

 

 行きで買ってきた食べ物を並べ、皆で囲んで食べる。

 なんか友達の家にお邪魔してる感じである。同じ身分ではなくなったが、皆との関係性に変化はなかった。

 会おうと思えばいつでも会えるしな。これでお別れじゃないのである。

 

「ほんの少しだけどよ。近いうち、亭主殿にお返しができると思う。その時は手紙出すよ」

 

 土産に渡した酒を呑みながら、そんな事をシャロは少し赤面して云った。

 お返しなんてしなくていいってのは、未だシャロがブリッ子演技やってた頃から伝えていた事である。

 けれど、彼女は俺にお返しがしたいそうだ。

 

「ああ」

 

 俺としては、本当に結構ではあるのだ。彼女の黄金の精神は、恩や借金の返済に囚われて欲しくないと思っている。

 けれど、それで彼女の心が安んじるなら、それはそれで肯定する。

 

 復讐を成し遂げた彼女は、戦いから離れる選択をした。

 これから、彼女の本当のセカンドライフが始まる。

 その一助になれたのなら、俺としてはこれ以上望むべくもない。

 

 本当の本当に、彼女の復讐は終わりを迎えた。

 シャロの復讐劇の幕引きに、ビターもバッドも必要ない。

 その為にこそ、この異世界に俺というロリコンがいるのだ。

 

 ロリに悲劇は似合わないのである。

 

 

 

 

 

 

 一党を離れたシャロと再会してから、大体二週間後。

 シャロの言ってた通り、俺の借家に手紙が届いた。

 渡したいものがあるから一人で来てくれ、と。

 

「えぇ~っ! ご主人その恰好で行くとか正気ッスか!?」

「せめて防具は外すのじゃ!」

「あと剣も止めておきましょう。護身用の短剣にすべきです」

「もっとオシャレしなさいな」

「ん、コーディネートする」

 

 一人で行くならと全身フル武装で出かけようとしたところ、一党の皆から大顰蹙を食らった。

 そして流れるように服を選ばれ、攻撃力も防御力も低いコーデにされてしまった。

 まるで、今からデートに行くみたいな……まぁ、うん。

 

「おう、悪いな亭主殿。そっちから来てもらってよ」

 

 そうしてシャロの家に行くと、私服の彼女とご対面だ。

 未だ生活感のないリビングに案内され、お茶を出してもらった。

 ブリッ子やってた頃は家事全般が苦手な彼女だったが、イリハの指導である程度は改善されたらしい。そのおかげで、今は何とかやっていけているそうな。

 

「ていうか、なんだよその恰好。あ、ルクスリリアの差し金か」

「ああ。最初は防具着けてたよ」

「ったく、気ぃ遣わなくていいんだよな。ただでさえ……まぁいい」

 

 ドワルフと違って、さっそくお返しなる物の受け渡し……とはいかない。茶菓子を撮みながら、軽く雑談をする。

 そうして、彼女のカップに二杯目のお茶が注がれた頃、彼女は一度唇を舐めてから小さく息を吸った。

 

「あのさ……」

 

 ひと呼吸。深紅の瞳と目が合って、俺はカップを皿に戻した。

 

「ずっと悩んでたんだよ。お返しの方法……」

 

 ぽつぽつと、呟く。漏れ出る言葉に勢いはないが、その目には決意があった。

 

「妙に高ぇ奴隷だったアタイを買ってくれて、武器を揃えて迷宮にも連れてってもらえた。それだけじゃねぇ……身体ぁ張って仇を取らせてもらった。そんな義理もねぇのによ。今はこうして家まで貰って、偉いさんとのコネまで作ってもらっちまった。どう考えても、返し切れねぇ恩だ。これじゃあ先に亭主殿が居なくなっちまうよ」

「それは……」

「気にしなくていい……って言うのは、分かってる。亭主殿が本気でそう言ってるのもさ」

 

 歯切れの悪い言葉。彼女は熱いお茶をグビッと飲み干し、勢いよく受け皿に叩きつけようとして……ゆっくり置いた。

 俺達が使っている茶器には、ケナズのルーン彫刻が施されていた。

 

「……亭主殿が、恩返しを望んでねぇのは承知してる。恩や義理でアタイを縛りつけたくねぇって理由も、ちと心苦しいが理解した。だからこれは、ケジメでもなけりゃアタイの気休めの為でもねぇんだ」

 

 言って、すっくと立上がった彼女は別の部屋に入ってすぐ戻ってきた。

 その手には、袋に包まれた棒状の物が握られていた。

 

「アタイが返してぇから、返すンだ。どうか受け取ってくれ」

 

 座ったままではいけない気がして、俺も相対するように立ち上がる。渡されたものを受け取って、促されてから中身を検める。

 それは、一本の木刀だった。

 

 長さは約一メートル。色は濃い茶色で、見た目以上に重かった。

 素振り用の木刀というより、鈍器としての木刀って印象を受ける。そんな代物だった。

 

「リンジュ式森人製法で作った木刀に、ルーン彫刻を施したモンだ。素材は上森神樹の根っこでな、前にアタイの杖作ってもらう時の余りモンを譲ってもらったんだ。流石は神樹様ってもんで、何度も失敗する覚悟だったが一発で出来ちまったよ。まぁその……自慢になるが、秀作だぜ。同じの作れって言われても、多分無理だと思う」

 

 コンソールを開いて、性能を調べてみる。

 武器種は“刀”だが、通常の刀と違って攻撃属性が“打撃”になっている。お土産めいた見てくれの割に、基礎性能がバリ高い。

 最も特徴的なのが、ルーンによって【不殺】の効果が刻まれているところだ。使い手が殺されないって意味ではなく、相手を殺せないという縛りだった。

 

「それは不殺の木刀だ。冒険者の武器としちゃお話にならねぇが、亭主殿なら使いでがあるんじゃねぇかと思ってよ。これ、実はルーンにしか出来ねぇ事なんだぜ」

 

 確かに、殺せない武器には使いでがある。レベリングの為のミリ残しに使えるし、これなら犯罪者を捕縛するのに手加減しなくて済むだろう。

 何より、これなら刀と同じ感覚で打撃攻撃ができる。打撃用にメイスは持っているが、やはりこういう得物の方が手に馴染むのだ。

 サムライ・エックス的な活人剣。シャロらしい。優しくて良い武器だと思う。

 

「ありがとう。すげぇ嬉しい。めちゃくちゃ使わせてもらうよ」

「お、おう……、まぁ、これくれぇはよ……」

 

 そうして、俺達は暫く世間話をした。

 木刀の作成秘話とか、俺が作ったモノポリーの話とか。やはりというか何というか、シャロは物づくり全般が好きなようだった。

 そういえば、こうして二人っきりになったのは何気に初めてかもしれない。

 

 そうこうしていると、窓ガラスから外が暗くなり始めたのが見えた。

 いい時間である。そろそろご飯時だ。

 

「ご飯行こうか。事前に良い店調べてたんだ」

「あっ、あ~、それな……」

 

 そのようにお誘いすると、彼女はさっきまでのハイテンションを落として、もごもごと口ごもった。

 ややあって、シャロはちょこんと俺の袖を撮んで、

 

「め、飯は用意してんだ。その……泊まってけよ」

 

 そう、お誘いしてきた。

 変に高くなった声。上目遣いに潤んだ瞳と同じくらい、その顔は真っ赤になっていた。

 一人で来てほしいとのお願い。ルクスリリア達のフルコーディネート。そんで、この言葉。

 その意味を、理解できない訳はなかった。

 

「実は、ルクスリリアが来た時に、コソッと頼んでみたんだ。そしたら、皆すげぇ勧めてきてよ。それでいいのかって思ったもんだが……」

 

 全く期待していなかったと言えば、嘘になる。

 皆の様子からして、予想はしていた。

 

 熱っぽい目が向けられる。

 その顔の赤さは、羞恥によるものだけではないように見えた。

 

「野暮な事、言わせねぇでくれよ……?」

 

 シャーロットさん、推定二〇〇〇歳。

 その仕草は、あまりにもあざとかった。




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 こうなりました。
 イシグロの性格上、シャロを束縛しようとは思わないですからね。どれだけ心配でも、ロリの意思を最優先します。
 あと、地味に第58話「日本からきたあいつ!ちょっとヘン!!(下)」で開示された設定を持ってきました。
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