【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。謝謝茄子!
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。参考にさせて頂きます。
 あくまで参考なので、そのへんはあんまり気にしないで下さい。

 今回は一人称、イシグロ視点です。
 よろしくお願いします。


三年目・迷宮と黒剣編
地獄幼一番


 前世、俺はロールプレイングゲームが好きだった。

 神竜冒険的なやつとか、最終幻想的なアレとか、有名な国産RPGは大体履修済みである。

 好みとしては主人公=プレイヤー的な作品なのだが、そうじゃない作品も大好きだ。仲間にロリがいると最高である。

 

 ところで、RPGの面白さとは何だろうか。

 文字通り、ロールプレイング性のあるゲームとしての没入感。戦略性のある戦闘システム。あるいはストーリーやキャラクターの魅力といったものもあるだろう。

 他にも色々あるだろうが、中でも俺はパーティ編成やレベリングが好きな類いのゲーマーだった。

 

 パーティ編成の楽しさは、SLGの楽しさに通じるところがあると思う。

 メンバー同士のシナジーや技のコンボを試行錯誤し、自分なりの編成を考える。勇戦魔僧と言えば超王道の組み合わせであり、ある種の記号的な編成と言えよう。中には相性ガン無視でビジュアルだけで仲間を選ぶ人もいる。

 旅を共にするパーティメンバーがそれぞれの個性を活かして冒険するワクワク感。明確に弱いキャラをどう運用するかって楽しみ方だってある。そういう、正解も最適解も無い自由度こそRPGひいてはゲームの本懐だと俺は思っている。

 

 一方、レベリング好きの人というと、いなくもない程度には存在する印象だ。

 同じゲーマーでも、レベル上げを退屈な単調作業と捉えている人もいる。その気持ちは、まぁ分からなくはない。俺だって、つまらない戦闘を繰り返すのが好きって訳ではないのだ。

 レベリングの何が好きかって、数字の積み重ね自体が好きなのである。レベルが上がった時のステータス。次のレベルアップに必要な経験値が減っていく様子。序盤何回も殴っていた敵を一発で倒せた時の爽快感。

 自分好みに組んだパーティが強くなっていくのは、これはもうボス撃破以上の快楽と言えよう。

 

 で、だ。

 

 例によって例の如く、俺が転移したこのゲームチック異世界においても、俺は編成やレベリングに夢中になっていた。

 とはいえ、ゲームはゲームでリアルはリアル。それ以前にこの世界のバトルはターン制ではなく、狩りゲー系に近いアクションバトルである。であればパーティ編成の考え方もそっちに最適化すべきである。

 勇戦魔僧の王道一党でも、各々の役割を果たすのは前提として、魔も僧も自衛できなきゃいけない訳だ。戦士跳び越えてきちゃうからね、この世界のダンジョンボス。どだいタンクは絶滅危惧種らしいし。

 

 この世界のパーティ編成は、個人の総合力が重要である。

 銀細工勢を見て思うのが、これしかできない系の人は軒並みすぐ死んでしまう事だ。かといって、明確な強みのない銀細工は大した事がない。

 まぁこの辺は転移一年目で悟った事である。今更振り返るもんでもない。

 

 何が言いたいのかというと、未だ万能志望系器用貧乏な俺は、もっと強くならねばならぬという話だ。

 現在の俺のスタイルは、多数の武器を使いこなすバランス型だ。時に一党の盾となり、時に敵を屠る矛となる。ジョブやスキルをくるくる回し、状況に合わせて立ち回る。万能と言えばそうだが、まだあと一歩及んでいない。

 この方針が間違っている訳ではないと思う。実際、ゲルトラウデ師匠にも太鼓判を押された訳だしな。

 

 しかし、である。

 何か大きな戦いを経る度、俺は俺の至らなさを思い知るのだ。

 これまで、俺は負けてはならない戦いで負けた事はない。ヴィーカさんにはボロ負けしたが、猫又には快勝してきた。熾天使パレエスには一回負けたが、最終的に殺したからヨシとしておく。

 確かに、強くなっていると思う。だが、この程度では足りない。こんくらいじゃあ、皆の王様に相応しいとは言えないだろう。

 

 思い返すのは、アルヴの森の戦いだ。

 結果だけ見れば、それなりに上手くいっていたんだと思う。妖怪変化との戦いは数の暴力で撃破できた。素手タイマンも勝てたには勝てた。何にしても、メタられないよう備えておくのが肝要だと痛感したね。

 

 問題なのは、炎爪戦である。

 バクスタ失敗は要鍛錬として、一党との連携は悪くなかった。が、尋常な状態の炎爪に対してまともにダメージらしいダメージを与えられたのはグーラとシャロくらいだったのだ。

 エリーゼやイリハ、ルクスリリアの魔法は捌かれてたし、レノの圧縮光弾もすぐ回復されていた。シャロがいなかったら、撃破には更に時間がかかっていたと思う。

 そう、時間だ。もっと迅速に倒せていれば、アリエルさんを危険にさらさずに済んだかもしれない。あるいは、中に入っていた天使の子を助けられたかもしれない。

 

 結論、火力が足りない。

 一党単位で見ると、むしろ総火力は高い方である。グーラとエリーゼは言わずもがな、イリハもソリティア陰陽術はロマン火力が出るのだ。レノの光弾も上手く決まれば結構な火力が出せる。

 その中で、俺とルクスリリアだけが火力不足だ。

 

 そもそもルクスリリアは遊撃役で、最高の最低限をこなすのが役割だ。スラッガーやストライカーだけで強豪には勝てないように、ルクスリリアに火力増強が必要かというと必ずしもそうとは限らないと思う。実際、それ以外の弱点は無いのだし、総合力は一党随一の高水準だ。一応、ヘラジカ・アタックはそれなりに火力が出る訳で。

 翻って、俺はどうか。様々な武器を使いこなせているのは確かだが、ここぞという時の火力が……なんか微妙なのだ。【受け流し】からの反撃はまぁ強いが、何の補助効果も乗っていない素殴りは割かしショボいのである。こう決め手が無いというかね。必殺魔剣の【朱鷺流れ】は対人戦限定技だし。

 

 現状、受け流し戦法を除き俺が扱える中で最も火力が出る攻撃手段は、刀を使ったスキルマシマシアタックだ。

 我が愛刀“橘”は、クリ威力特化の超攻撃型である。そこに【震脚】や【剛剣一閃】などの能動スキルに、侍系補助スキルの【先の先】や補助効果の【会心特効】などを付ければ、それはもう相当な威力が出る。実績として、分裂ギミックとはいえ第二形態の巨大ヘビを一発ノックアウトできたのだ。

 しかし、当然としてソレを当てるには様々な条件が揃っている必要がある。まずもって【剛剣一閃】や【切り抜け】の予備動作を挟む必要があるし、【後の先】を発動させたいなら相手の動きを先読みしなければならない。そもそも会心の一撃が入らないと通常火力しか出ないのだ。今はコレを何とかしないといけない訳で。

 

 そんな俺と比べて、グーラとエリーゼはどうだろう。

 グーラが火力を出す場合、近づいて殴る……だけでいい。

 エリーゼが火力を出す場合、魔力を籠めてズドン……これでいい。

 イリハとレノにはチャージ時間が必要だが、デメリットに見合うメリットはあるだろう。

 

 今一度思う。俺は素の火力が足りないのだ。

 火力、やはり火力が全てを解決する。

 

 で、それをどうしようって話だが。

 膂力・技量ステータスを上げるのは前提だろう。現在進行形でそのようにしている。他ジョブを鍛えて何か有用なスキルを覚えるのも手だが、どれを育てればどんなスキルが生えてくるか分からない。これはもう手当たり次第に探るしかないだろう。いずれにせよ、時間が掛かるのは覚悟しておくべきか。

 手っ取り早いのは刀よりも火力を出せる新しい武器を用意する事なのだが、そういう武器は大概大型なので使うと立ち回りが弱くなっちゃうんだよなぁと。どうすっかな~俺もな~って感じである。

 

 とりま、レベルを上げて物理で殴るか。

 地道にいこう。

 

 

 

 

 

 

 躯塚迷宮。

 

 タイプは屋外型で、ランクは上位。見上げた先は夜の曇り空みたいに真っ暗で、スタート地点から見渡す限り骨塚の大地。また、この骨の足場は黒々とした毒の河に覆われている。

 何となくだが、三途の川にあるらしい賽の河原の石が全部骨に代わってるバージョンという印象を受ける迷宮だった。実際コワイ。

 

 そんなホラーチックダンジョンだが、倒せる敵がいれば怖くはない。骨の足場が示す通り、この迷宮の出現エネミーは全てスケルトン系で統一されている。

 武器だけ提げたノーマル骸骨兵。魔法使ってくる骸骨魔術師。骸骨犬にホネホネ・ザウルス。たまに餓死髑髏(がしゃどくろ)くんも出て来るし、スケルトンナイズされた他迷宮のボスとかも現れるのだ。

 まさにスケさん大集合。例によって骨系は打撃に弱く、不死者なので聖属性が効果抜群だ。それこそ、俺が持ってる炎+聖属性の“アンデッド絶対殺すメイス”なら殆ど一撃で倒せてしまえる。

 

 ランクは上位なのにも拘わらず、こうやって情報を羅列するとなんか楽ちん迷宮のように思えるだろう。

 スケさんとか楽勝じゃん! 弱点剥き出しの欠陥迷宮じゃんね! 上位迷宮とかホラじゃんよ! と、そう考えて特効武器担いで帰らなかった冒険者の何と多い事か。この迷宮が上位判定されてるのには、相応の理由があるのだ。

 何故か? 攻略法が普通の迷宮と異なり、難易度が高いからだ。加えて言うと、逃げて生き残れた冒険者の殆どが「二度と潜りたくない」と言うのである。

 

 基本的に、異世界迷宮はハック&スラッシュ様式である。

 屋内にしても屋外にしても、ボスを倒せば勝ちである。それは躯塚迷宮でも同じなのだが、ここは出現エネミーがスタート兼撤退地点である転移水晶を積極的に襲ってきて、何と魔物に触れられた水晶は一瞬で砕けてしまうのだ。

 そうなると、デッド・オア・アライブ。ボスを倒さねば帰れなくなるのだ。ならボス倒せばいいじゃんとなるが、一定条件を満たさないと此処のボスは姿を現さない。そして何より、大集合してくるスケさんは、とにかく数が多いのだ。

 畢竟、タワーディフェンスなのである。この躯塚迷宮は。

 

「はえ~、なんか壮観ッスね~」

「死神の列って感じだな」

「前に読んだ不死戦争の一文を思い出します」

「不死王が暴れていたという戦だったかしら? すぐにラリス王が片付けたと聞いたけれど」

「その話は後じゃ。レノ」

「ん、上で待機する」

 

 スタートしてすぐ、見渡す限りの毒川から骸骨軍団がやって来た。

 ザコ雑魚ざぁこのスケさん群に、たまに骨化された下位迷宮の主が混ざっている。さながら渡河してきた装甲トルーパーのように、転移水晶目指してゾロゾロ不気味に進軍してくるのだ。何とも得体の知れない恐怖を感じるね。まさに地獄の光景だ。足を止めたら骨群に飲まれる。

 なら、どうするか。

 

「対象指定、魔力過剰充填……【竜令鼓舞】」

「ほい、青いの憑けるのじゃ」

「【純恋接吻】! ん~、ちゅっ♡」

「うぉおおおっ我武神! 我武神! 我武神!」

 

 エリーゼの指揮系バフに。イリハのフィジカルアップ守護霊。そんでもってルクスリリアによるスキルバフ。三種の強化をもらい、俺の肉体は武神となった。

 そして、こうするのだ。

 

「やっちゃえご主人!」

「■■■■■ーーーッ!」

 

 刹那、狂化した俺は骸骨兵の群れへ単騎突撃を特攻(ぶっこ)んだ。

 猛進! 激突! 粉砕! 一点突破、鎧袖一触。突如嵐に直撃したように、ザコ骸骨がバラバラになって舞い上がる。

 否、俺が吹き飛ばした骸骨兵は、どれも斃しきれてはいなかった。パーツ単位でバラバラにされてこそいるが、修復すればまだ動ける。

 だが、当然として味方からの援護がある。俺が斃し損ねた骸骨に、魔法や光力や陰陽術が殺到した。迷宮の中心、転移水晶を守る位置からの援護だ。隙を生じぬ二段構え、ロリコンの穴をロリが埋めるのだ。

 

「うぉおおおお! ドリフトオオオオオ!?」

 

 騎兵突撃じみた特攻は、なおも暴威の嵐を維持していた。賽の骨塚を一周するように、スケを蹴散らし無理やりカーブする。

 常に【先の先】を取り、会心(クリティカル)で以て吹き飛ばす。ギャグ漫画みたいに吹き飛ぶ骸骨を、ルクスリリアの魔法狙撃が撃ち抜いた。

 

「ほぉら、堕ちよ(・・・)堕ちよ(・・・)墜ちよ(・・・)……!」

「楽しそうで何よりじゃが」

「大きいのが残ってますよ! やぁあああああッ!」

「こいつはいいッスね。どこに撃っても敵に当たるッス」

「や、ルクスリリアはマスター守って」

 

 水晶の周りに陣取っている皆も、景気よく遠隔攻撃をかましていた。

 エリーゼは破壊的な光魔法をブッパしまくり、イリハは大規模陰陽術の式を編んでいる。グーラは大物狙いの剣ビーム砲台で、空中にいるルクスリリアとレノは警戒しながら残った獲物にトドメを刺していた。

 

『十二時方向から鳥の群れが来た。空中班が対処する。次、四時と七時から主級が接近。マスターは四時の方を。イリハ、合図するから撃って』

 

 監視者レノからの無線通信。これにより、何処から何が来るかはリアルタイムで共有できる。

 やっぱ、タワーディフェンスは俯瞰視点じゃないとなって。一方通行でも大声出さなくても遠くの人に声届くの本当にアドだ。

 

「おぉっと……?」

 

 そうやって無双していると、突然危機察知チートに反応。安牌ジャンプで回避したらば、さっきまで俺がいたところにドデカい拳がめり込んでいた。

 俺は、その骨の拳に見覚えがあった。

 

「ナックルベアくん! 骨版ナックルベアくんじゃないか!」

 

 そこにいたのは、スケルトンナイズされた鉄拳大熊(ナックルベア)だった。何回もお世話になった迷宮の主。何度も出てきて恥ずかしくないんですかってところだが、骨版は何気にレア枠である。

 基になった魔物は熊的マッシブボディだったのだが、骨化した事でかなり貧相になっている。けれども攻撃力は据え置きなので、今の俺でも数発食らったら普通に死ねる。

 が、恐るるに足りない。

 

『マスター、援護いる?』

「問題ない! トドメよろしく!」

 

 着地と同時、周囲のザコに囲まれないよう再ダッシュ。狙いは勿論、骨化鉄拳大熊だ。

 骨の拳が迫り来る。それに合せるように、俺は手に在る木製の刀を振りかぶった。【受け流し】でも【切り抜け】でもなく、何の変哲もない上段斬り。

 拳と剣が、激突する。

 

「オラァッ!」

 

 ガゴッ! と、力で勝った俺の刀は、合わせた拳ごと対手の身体を吹き飛ばした。

 いくら銀細工の剣士とて、俺と熊ではパワーがダンチだ。そんな魔物の一撃に木刀を打ち付けてどうなる。しかし、現実はどうだ。小さな木刀は大きな骨拳を正面から打ち砕き、勢い余って数メートルは後退させたではないか。何なら吹き飛んだ骨熊の身体で吹き飛ばされたザコも多数いるくらいである。

 そう、この木刀は、並みの木刀などでは断じてないのだ。

 

「さすが神樹だ頑丈だ! まだまだ行くぞオラァアアアッ!」

 

 一発目は強引に、二発目以降は更にゴリ押し。熊と木刀の相性を確かめた俺は、周囲のザコ骸骨を巻き込みながら骨化された巨大熊に苛烈な攻勢をかけ続けた。

 突き、逆袈裟、ジャンピングアタック。その全てが鉄拳大熊に直撃し、ドガンドガンと冗談のように押し出していく。相手をノックバックさせ続けている状況は、まさしくずっと俺のターンの様相だった。

 死にかけの対戦相手――骨熊くんの体力はしかし、残り一から減っていなかった。

 

「これで終わり……!」

 

 腰の入ってないストレートをジャスト回避し、ゴルフボールを打つように構える。

 

「アデューッ!」

 

 スコーン! 高く高くへ死にかけ骨熊が舞い上がる。それでも尚、そいつはまだ死んでいなかった。

 しかし、その頭蓋を青白い光線が貫き、あっさりと生命力の全てを奪った。

 

「ナイスショットッ!」

「ご主人こそナイスショットッスわ!」

 

 威勢よく健闘を湛えながら、俺は背後から襲ってきたホネホネ・ザウルスの【後の先】を取って【剛剣一閃】をぶち当てた。

 結果、恐竜骸骨は盛大に吹っ飛んで、意図せずグーラの剣ビームに飲み込ませてしまった。まぁ狙ってやったと思っておこう。グーラからの尊敬の視線が気持ちいい。

 

『マスター、五時に強いの出た。足止めして』

「了ッ!」

 

 この木刀、並じゃない。

 異常な程の頑丈さ。不可思議な程のノックバック性能。決して殺せない制約。

 そう、俺の木刀は特別製なのだ。

 

 

 

◆神樹刀◆

 

 物理攻撃力:1050

 

 補助効果1:大ルーン【不殺】

 補助効果2:大ルーン【不刃】

 補助効果3:大ルーン【剛力】

 補助効果4:大ルーン【剛毅】

 補助効果5:大ルーン【剛強】

 補助効果6:大ルーン【堅牢】

 補助効果7:小ルーン【再生】

 補助効果8:小ルーン【勇気】

 

 

 

 武器種は“刀”で、中身は鈍器。能力補正は技量寄りのバランスタイプ。上森神樹の根を削って作られたこの刀は、見てくれこそ土産屋さんに置いてそうな木刀だが、なかなかガチの打撃武器である。

 その基礎攻撃力は俺の愛剣である“無銘”や同じく愛刀“橘”を超えており、各種ルーン彫刻の効果で打撃属性の物理攻撃力に特化していた。

 そして、最も特徴的なのが【不殺】のルーン効果である。効果は単純、この武器の攻撃で命を奪う事ができなくなるというものだ。

 

 ルーンによる補助効果の中には、デメリットを受け入れた分メリットを得られるものが存在する。中でも【不殺】はかなりのデメリット扱いで、確かに武器として見れば色々と致命的である。

 ただでさえ大きなデメリットがあるのに、ダメ押しに【不刃】のデメリット・ルーンまで刻まれている。これは対象武器の斬撃・刺突の両属性を取り除くというもので、簡単に言うと切れ味の悉くを失わせる刃引きのルーンだ。

 前述の縛りを加えた上での、攻撃力と打撃属性と吹き飛ばし力と耐久度の大幅な上昇。おまけに自動修復的なルーンと精神デバフ耐性的なルーンもプラスした。

 

 折れず曲がらずよく斬れるのが刀なら、この木刀は折れず曲がらず全く斬れない殺せない。

 それこそが、シャーロット謹製のルーン武器――“神樹刀”である。

 で、使ってみた感想だが……。

 

「なじむ! 実に! なじむぞ! 最高にハイってやつだぁッ!」

 

 めっちゃいい。最高。凄くて凄い。

 何より、手に馴染むのだ。どれくらい馴染むかというと、さっきから俺の頭の中でどこぞのテラ吸血鬼がテンションマックスになってるくらい馴染む。

 

 普段、俺は打撃属性の攻撃をしたい時はメイスか棍を使っていた。

 しかし前者は取り回しこそ良いが立ち回りが弱く、後者は立ち回りこそ強いが雷属性に寄ってる分純粋火力はメイスに劣るのだ。状況によって使うべきタイミングが違うのである。今はどうかというと、単騎駆け中なのでどっちも微妙に合わない。

 だが、今みたいな状況だと実にマッチ。何より、刀剣類だと【受け流し】や【切り抜け】といった有能スキルが使えるのが素晴らしい。

 まさに無双、といったところだろう。

 

「おっ、やべぇそろそろバフ切れそう! 撤退撤退!」

「援護するのじゃ!」

 

 とはいえ、それもこれも味方のバフありきではあった。俺は強化形態の終わり時を見計らって、皆のいる転移水晶へと撤退した。

 拠点に戻ったところで、バジリスクタイムというかヤンマーニタイムというか俺のバトルフェイズは終了してしまった。

 

『六時の方向、この迷宮の主が出てきた』

 

 暗黒の中にあって灯台の役割を果たすレノが示す先、毒の水平線に巨大な影が伸びあがる。

 水辺から現れる姿は、シルエットだけだと海坊主に見える。けれども妖怪図鑑の海坊主とは実際無関係。その身体は種々様々な骨を纏っていて、骨塚自体が動いているかのようだった。

 魔物図鑑で見た。あいつの名前は“屍墓粘身体”だ。その身体に大量の骨を蓄えている特大スライムである。

 

「なによ、一番弱いやつが来たじゃない」

「いいじゃないッスか。元々その気で来た訳じゃないんスし」

「ああ。皆、練習通り作戦通りに、ご安全に」

「はい、ご安全に!」

「アレほんとにやるんかのぅ」

「ん、創意工夫は大事」

 

 通常、迷宮の主は屋内型ならボス部屋にいて、屋外型迷宮ならそのへんを徘徊しているものだ。しかし、この迷宮の主は一定の条件を満たさないと出現しない。

 条件は単純、一定数のザコ撃破だ。要するに最終ウェーブって話で、そのへんもタワーディフェンスっぽい。

 

 骨塚の大地に上陸してきた屍墓粘身体は、ゆっくりゆっくりと迫って来た。

 この骨版海坊主めいたボスは、躯塚迷宮で出現するボスの中では最弱である。というのも、図体がデカいだけでロクな攻撃をしてこないからだ。

 その分、別の特性に能力が割り振られているのである。

 

「来た来た来た! モグラ叩き作戦、開始ィ!」

 

 こいつ、召喚特化のスライムなのだ。

 骨坊主の体が震えると、奴の前の骨塚から取り巻き君がニョキニョキ生えてきた。内訳は計四体の結構強めな骨系エネミー。召喚モンスの例に漏れずさほど硬くはないものの、攻撃力や機動力はかなり高い。

 あまつさえ、取り巻きに加えて前ウェーブと同じように四方の毒川からザコスケが襲ってくる仕様。そう、こいつは取り巻き対処してから本体狙ってね系のボスなのである。あるいは、取り巻き無視してもいいけど放置するとドンドン追加召喚しちゃうよボスか。

 まぁ今回は正攻法で戦う気は無いんだけども。

 

「そぉい!」

 

 再度三種バフを貰い、俺は召喚された強取り巻きの一体を殺した。

 で、一体殺したら次の一体が再召喚されるので、召喚開始と同時にその位置に移動し、【剛剣一閃】を構え、スイカ割のようにぶっ潰した。合間合間に他の取り巻きにちょっかいかけ、あっと言う間に全滅させた。

 召喚骨を殺したら次。それ殺したら次。これの繰り返し。道中のザコを蹴散らして、どこに召喚してきても即座に木刀で俺がたたっ斬る。たたっ斬った後は皆に任せて即次へ。

 

「しゃあっ、もっと来いオラァ!」

 

 俺の敵味方反応レーダーは、奴が召喚し切るより先にその位置を教えてくれる。召喚中に攻撃すれば、侍スキルの【先の先】が発動し、不意打ち判定で会心が出て、弱点属性のボーナスやら斥候系スキルの会心ボーナスやら色々加わって特大ダメージが出せるのだ。

 そう、これがやりたかったのである。

 

 ここのボスは延々とザコを召喚してくれるので、俺は延々と叩く事ができる。しかも躯塚の主が生み出す召喚骨はボス本体より経験値をくれるので、経験値がガッポガッポという寸法よ。

 それはさながら、仲間を呼ぶモンスターを利用してレベル上げをするような感覚。チートとかグリッチとかは好かない系ゲーマーの俺だが、こういうのは大好きだ。

 何というか、薪割りでもやってる気分である。生えて来る召喚骨をぶっ叩き、仲間にパスして殺してもらう。これもまた、王道のレベリングと言えようや。

 

「主様! 彼奴ちっちゃくなってるのじゃ!」

 

 見れば、イリハの言う通り屍墓粘体くんはその体積を減らしていた。

 ていうか再召喚の間隔も長くなってるし、なんか出て来る魔物の質も落ちてきたような。

 

「おう、もっと出せや」

 

 テンポの良いレベリングを邪魔されてムカついた俺は、不殺の木刀なのを良い事に召喚主を殴りつけた。

 ガンガン殴ってもスライムは死なない。そんで身を震わせて再召喚した骨エネミーに飛びついて、思い切りぶっ叩いた。

 するとまた召喚しなくなったので、木刀で殴って殴って無理やり吐き出させてやった。

 

「おい何やってんだテメェ。まだあんだろ、ジャンプしてみろよジャンプ」

 

 殴る殴る殴る。スライムのライフはほぼゼロだが、この木刀なら何回殴っても死なないので、遠慮なく殴りまくれる。

 破れかぶれに突進してきたスライムだが、殺してやらない。軽く【受け流し】て、また木刀で殴ってやる。

 召喚する度に身体を小さくしていく海坊主スライムは、いつの間にか人間坊主くらいのサイズになっていた。

 

「これは……鍛錬になりそうにはないですね」

「戦いというより、蹂躙よ。私としては嫌いじゃないけれど」

「アタシ的にも楽でいいッスけどね」

「ん、効率良い。効率が良いと気分が良い」

「レノも毒されてきとるの~」

 

 四方から迫るザコもいなくなり、もう何も出せなくなったのか何度殴っても骨坊主は召喚の予備動作すらしなくなってしまった。

 どうやら、ダンジョンの魔物自体が打ち止めらしい。これ以上粘るのは逆に効率が悪いか。

 

「どうして召喚しなくなっちゃうかな。俺、悲しいよ……」

 

 突進してきた屍墓粘体を【受け流し】、体勢を崩させる。

 

「もう殺すしかなくなっちゃったよ」

 

 次いで、隙を晒すボスに適当ヤクザキックを食らわせた。

 すると、死ぬ寸前だったスライムは弾けて消えた。テュンテュンと、やけにあっさり死んだのだ。

 この木刀では、人も魔物も殺せない。だが、俺が殺せなくなる訳ではないのである。

 

「お疲れ~ッス。割と平気そうッスね、ご主人」

「ああ、皆お疲れ。俺は全然大丈夫」

「ん、ノーダメージ凄い」

 

 スライムを撃破すると、そこに帰還水晶が出現した。

 スタート地点とボス死亡地点で、同じ骨塚エリアに転移水晶が二つ生えてきた訳だ。

 

「ちっ、シケてやがるな」

 

 なんて言いつつドロップ品を確認すると、スライムが落としたのは躯塚迷宮で手に入るアイテムの中で最も価値の低いものだった。

 上位迷宮のくせして、運が悪いと下位迷宮並みの儲けしか出ないあたり、この迷宮がクソ判定されてる理由の一つは間違いなくコレだろう。

 

「まぁでも、レベルは上がったな」

「ん、わたしも上がった感じある」

 

 この異世界は戦闘貢献度で経験値が配分される仕様だ。当然、今回かなり暴れた俺には多めに割り振られてるはずである。

 レベルアップの確信と共にコンソールを確認すると、俺の“侍”のジョブレベルが三〇になっていて、いくつか新しいジョブが生えているのが分かった。

 えーっと、侍の上位互換の“剣豪”に、指揮系っぽい“武将”。ユニークなところだと、抜刀術特化っぽい“居合士”なんてのもあった。他にも様々な上位職が解放されている。

 

「アタシらは全然ッスね、変わんねぇッス」

「前に上がったのは何時だったかしら」

「ケナズの里に行く前に一度ありましたね」

「どこまで伸びるのか楽しみじゃな」

 

 ガンガンレベルアップしていく俺やレノと異なり、最上位職の面々は今回もレベルが上がっていない。

 一度上がれば凄い勢いでステータスが上昇する最上位職だが、こればっかりは仕方ないだろう。

 

「その木刀は今回も大活躍でしたね」

「だな。けど、やっぱ迷宮探索だとあくまでレベリング用だな」

「威力が高いのはいいけれど、斃しきるのに二手も要るものね」

 

 改めて、この木刀の使い勝手は素晴らしいと思う。

 打撃属性オンリーだけど火力高いし、通常の刀よりずっと頑丈だし、ガード越しでも敵吹っ飛ばせるから使ってて楽しいし。

 とはいえ、エリーゼの言う通り敵を倒すのに確定で二手は必要なので、万能最強武器ではないのは確かだ。実戦用かというと、そうではないだろう。

 やっぱ、これの本領は対人戦だな。それも相手を殺したくない時用の活人剣だ。

 

「まぁ刀で打撃できるのは普通に強いと思う」

 

 お陰で侍系ジョブのレベリングが捗っている。

 現状、俺が就けるジョブで最も火力が出せるのは、クリ火力の高い侍系のジョブなのだ。今は火力を伸ばしたいので、コレを育成中である。

 あるかどうかは知らないが、先制強化の【先の先】と反撃強化の【後の先】みたいな、そういう火力アップスキルが欲しいところ。一応、膂力と技量は上がるから若干アタッカー成長もできる。侍先生の上位ジョブにご期待下さい。

 でもまぁ、根本的な解決にはなってないと思う訳で。さて、どうすっかなって感じである。何にしても、レベルが上がってステータスが伸びるのは気分が良いもんで。

 

「んじゃ、帰るか」

「あいッス! 今日はシチューが食べたいッス!」

「いいですね。ボクもシチュー食べたいです」

「ん、赤? 白?」

「どっちでもいいわね」

「先にどっちか決めて欲しいんじゃよなぁ」

 

 まぁそんなのは後で何とでもなるだろう。どうにもならなくても、そのうち何とかなるさである。

 そんなこんな、暗黒の骨系ダンジョンボスを撃破した俺達は、帰還水晶に触れるのであった。

 

 これもまた、ハクスラ生活である。




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 ちなみに、イシグロは自身の素火力を低いと思っていますが、銀細工全体で見るとむしろ高火力な方です。
 グーラ・エリーゼを筆頭に、イシグロ一党の火力が高すぎるから相対的に弱く見えちゃってるんですね。
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