【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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地獄非炉利発見

 結局、アレから俺達は躯塚迷宮を何度も周回する事となった。

 稼ぎは渋めだが、経験値が美味い。そして何よりまぁまぁ楽しい。ロールプレイングゲームもいいが、リアルタイムストラテジーも良いものだ。何にしたってあーだこーだ考えて構築した戦術がハマると快感なのである。

 

 ダンジョン周回の甲斐あって俺のレベルはガンガン上がり、火力アップ目的で鍛えていた侍系上位職の“剣豪”のレベルを一〇まで上げる事ができた。

 条件付きパッシブスキル【先の先】を筆頭に、侍系ジョブは有用なスキルを覚えやすい。何故か単発威力の高い【居合】に、対装甲切断特化能動スキル【兜割り】など。一度に三発の刺突攻撃が可能な【三段突き】……なんかは技後硬直がデカいのと固定モーションが分かりやす過ぎるから封印技扱いしてるけど、侍は武闘家ジョブ並みに良いスキルが揃っているのだ。

 剣豪に上がっていくつかスキルを覚える事ができた訳だが、最も有用に思えたのが【刹那の見切り】というスキルだった。

 

 刹那の見切り……どこかで聞いたようなスキル名だが、切ないアレとか有名なミニゲームとは全く関係ない。コレは【後の先】同様発動条件のあるパッシブスキルで、その効果はジャスト回避やジャストガード後の攻撃にダメージボーナスが付くというものだった。

 また、検証してみたところ【刹那の見切り】の効果は【受け流し】後の攻撃にも適用されるようで、斥候ジョブ育成で追加されたクリ威力強化も加えると、俺の受け流し戦法の火力が高まっちまった訳である。

 まぁ強くなれたのはいいんだが、今の俺が求めているルートとは違うので何とも言えない。遠でも近でも単発の通常火力が欲しいのだ、今は。

 

 とはいえだ。剣豪は上位職だけあり、技量を中心に火力関係のステータスが伸びやすい。使っていれば、そのうち火力も高くなるだろう。

 レノの時と違って、今は急いでないのである。焦らずゆっくり着実に、堅実に鍛えるべきだろう。

 気楽に行こう、気楽に。

 

「ふぅ~、この熱気感じると帰ってこれた~って思うワケ」

「じめじめ冷や~って感じッスもんね、あそこ」

「迷宮全体が臭うんじゃよな~」

「そうでしょうか? ボクは平気ですが」

「や、多分イリハが言ってるのは氣のこと」

「あら、情緒が育ってきてるじゃない」

「ん、それほどでもない」

 

 迷宮内で汚れても、転移したらば綺麗さっぱり元通り。汗も埃も臭いも落ちるのだ。

 躯塚迷宮から帰還すると、麗らかなりし春だというのに転移神殿は人の熱気で初夏みたいになっていた。

 広い空間が狭く感じるのはいつもの事。相変わらずの人混みを掻き分け掻き分け時折顔見知りの同業社と挨拶を交わしつつ、俺達は馴染みの受付おじさんの前に到着した。

 

「換金よろしくお願いします」

「ん? おう、緑の一番……って、これ一番安い聖遺物(レリック)じゃねぇか? 前と同じの出てきたのかよ」

「ええ、まぁ運が悪かったみたいで」

「前も言ったが、普通に売るより高値がついた時まで持っといた方がいいぞ」

「そうですねぇ……じゃあそうします。とりあえず、他の聖遺物(ドロップアイテム)だけお願いします」

「あいよ」

 

 経験値目当ての躯塚周回だが、運が悪いのか稼ぎが渋い。通常ならもっと高いのドロップするはずが、何故か安いアイテムばかりが手に入る。

 とりまザコエネミーが落としたアイテムだけ売却し、ボスドロップは保管する事に。ギルド……厳密に言うと王家に売る場合の売価は基本定額なのだが、需要があればギルド以上の買い取り価格を出してくれるパンピーもいるのだ。即金にはならなくても、おじさんの言う通り然るべき時まで待とうと思う。

 で、ドロップ品の買取情報は転移神殿にある掲示板に書かれるもんなんだが……。

 

「ん、人混み?」

「みたいだな。全く見えん」

「ご主人がゴーすれば皆退いてくれるッスよ」

「いや~、そういうのは抵抗あるんだよ」

 

 その日に限って、掲示板の前には人だかりが出来ていた。ガヤガヤガヤと話し声も喧しい。加えて言うと、異世界人は皆さんタッパがデカくていらっしゃるので、俺程度が背伸びしたところで掲示板は見えない状況だった。

 

「グーラ、合体だ」

「はい」

 

 なので、グーラを肩車する。

 俺はグーラのほっそりとした太ももを肩に乗せ、リフトアップしてから背伸びした。これで何とか見えるだろう。

 ちなみに、ルクスリリアやレノに飛んでもらう作戦はルールで禁止である。

 

「見えるか?」

「はい、何とか。え~っと、買取の情報は……何もないですね」

「ふぅん。ところで、この者達は何を見て騒然としているのかしら?」

「皆さんは上森人王崩御の記事を読んでいらっしゃるようです」

「あ~、それは仕方ないのじゃ」

 

 どうやら、転移神殿の掲示板には先の上森人王崩御のニュースが掲載されているようだ。

 噂というか、情報自体は既に届いていたのだが、ちょっと疑わしい感じだったからな。で、今回上森王家が公式に認めたと。見れば森人冒険者の中には呆然自失してる人もいた。それくらいショッキングな出来事なのだ。

 

「国葬の日程についても書かれていますね。同じく新王の即位式も行われるようです」

「前のは略式だったものね」

 

 アルヴの森の出来事は色々と伏せたり捻じ曲げたりしたものを公表する予定であると、俺達は事前にそう聞かされていた。

 首謀者は神樹パワー全開のアリエルさんが斃した事になってるし、実行犯は王族と近衛騎士とテンコさんが相打ちで殺った事になってるし、俺の戦功は殆どカットされてるし。

 高度かどうかは知らないが、政治的なアレコレが関わっているのだろう。若き上森新王とアリエルさんは不服そうだったが、俺的にはこっちのが好都合だ。名も無き英雄、マスクド・テンコよ永遠なれ。

 

「え?」

 

 なんて考えてたら、俺の頭を挟んでいるグーラの太ももが震えた。

 

「どうした?」

「あ、いえ、“武器工匠のアダムス”が休業するとの張り紙がありまして」

 

 そうか、休業するのか。なら、暫く新しい武器の注文はできないのか。

 エリーゼの新杖とか、新型の光力銃とか、俺の火力アップ武器とかについて相談したかったんだが。

 

「他には何かあるッスか?」

「そうですね……。あと、斥候の募集があります。ラリス王国軍からの依頼のようですね」

「またッスか。前もやってたッスよね」

 

 そういえば、転移一年目にそんな依頼があった気がする。確かグーラを助けに行った時あたりだったかな。

 あの後、西区の転移神殿で一時的に迷宮の斥候不足が問題になってたんだよな。斥候需要が高まったお陰で、居残り組はそれなりに美味しい思いをしたそうだが。

 相当儲けたらしいウィードさんなんか、最新式のクロスボウを自慢してきたくらいだ。どこそこ製の部品がアレでコレでと興味深いお話を聞かせてもらえてクロスボウ同好会にも勧誘されたりした訳だが、残念ながら俺が弩道を往く事は無いだろう。だって、不便だし。

 

「あ、イシグロさん、こんにちは~」

「なんだ、今日も迷宮に潜っていたのか。変態め」

 

 肩に乗ってた小っちゃい娘を下ろしたところで、横から声をかけられた。ニーナさんとクリシャナさんだ。

 最近、彼女達とは神樹刀の実戦投入前に模擬戦をさせてもらった。魔族には打撃がよく通るので、木刀だといつもより楽に勝てたんだよな。

 ただやはりというべきか、心の強ぇニーナさんは何度も神樹刀で殴り倒しても何度もリトライしてきた。すげぇよニーナさんは。やっぱ、闘争で一番重要なのは心なんやなって。心じゃよ。

 

「そういえば、クリシャナさん王家の依頼は受けないんですか?」

「ああ、アレか」

 

 ふと思いついてラリス公式の斥候募集依頼について訊いてみると、クリシャナさんは興味無さげに鼻息を吹いた。

 彼女は銀細工持ちの斥候職であり、鮮血を操るヴァンパイア・アサシンだ。実力主義のラリスなら、きっと素晴らしい待遇を約束してくれるはずである。

 

「確かに儲けは良いし迷宮探索よりは安全なのだろうが、ああいうのは拘束時間が長いんだ」

「あー、確かに」

「そ、それに……」

 

 クリシャナさんの返答に納得していると、彼女はぽそぽそと言葉を継いだ。

 

「ぼ、ぼくはニーナさんと離れたくない……」

「あらあら、可愛い事を言ってくれますね」

「うぅ……」

 

 自分で言った台詞で顔を赤くするクリシャナさんに、ニーナさんはあらあらうふふムーブをかまして揶揄っていた。

 曰く、二人は恋人関係ではないらしいが、これはこれで味わい深い。イチャつきながら立ち去る女子コンビを、俺はアルカイック・スマイルで見送った。

 

「本日はありがとうございました! 凄く助かりました! その、よろしければこれからも……」

「いえ、私は単独のままで。また機会がありましたら、その時によろしくお願いします」

 

 人混みを離れて換金を待っていると、覚えのある声が聞こえてきた。羊人少女一党と、シラヌイもといシラノイさんだ。

 どうやら、彼女達とシラノイさんは一緒に迷宮に潜っていたようで、あの様子からして探索には成功したみたいだった。

 分け前だけ貰ってクールに去るシラノイさんの胸には、真新しい鉄札が下げられている。あの人、一応元金細工だからね。そりゃ強ぇでしょ。

 

「あ、イシグロさん、ちーっす!」

 

 彼女達が受付に向かう中、深域武装の大剣を背負う少年剣士ディエゴくんに話しかけられた。

 元気で気持ちのいい若者である。無下にしようとは思えない。ていうか、なんか前会った時よりタッパがデカく……ていうかもう一九〇弱ありそうだな。肩や上腕も相当パンプしてるし、見た目も逞しくなっている。ホント成長が早いね、男の子は。

 

「どうも。今日はシラノイさんと迷宮に?」

「あ、お知り合いだったんですね」

「ええ、まぁ」

「そうなんですか!? 流石です! シラノイさん、すっごい強くて頼りになるんです! それはもう……」

 

 ディエゴくんの僧帽筋を眺めていると、羊人少女ことカリッセさんが割り込んできた。何故かその瞳はキラキラしている。

 興奮して話す彼女によると、迷宮でのシラノイさんは一党の連携に合わせて皆をサポートしてくれたらしい。強いというか、上手かったそうな。

 

「でも、お誘いしても入ってはくれなくって……」

「そりゃ実力が違い過ぎるよ」

「私としても、ぜひ加わって頂きたいのですけれど」

 

 少年魔術師くんの言葉に、新入りの白金髪の少女が続く。彼女の双眸は、何故だか同じ一党の少年二人を映していた。

 なんだろう、すごく綺麗な瞳をしているのに、妙にネットリした情念を感じるぞ。

 

「っと、それでは自分はこれで」

 

 ふと受付おじさんの方を見てみると査定完了との事なので、若き冒険者達に一言伝えてお別れした。

 受付で換金して夕陽の見える出入り口へ向け歩いていく。

 

 皆、色々進んでるんだなとか考えつつ。

 

 

 

 春の黄昏時である。

 転移神殿を出てすぐの大階段を下りると、出店や何やらが沢山ある噴水広場に辿り着く。最上段から眺めると、同業者に限らず種々様々な人が川を成してるみたいだった。

 屋台に囲まれた広場の中心、大きな噴水の縁に小さな待ち人の姿があった。夕陽に照らされた真紅の長髪。護身用の杖を小脇に抱え、分厚い本を読んでいる。

 待つつもりだったが、待たせちゃったらしい。

 

「シャーロット、おひさ」

「ん? おう! 三日ぶりだな、亭主殿!」

 

 近くに行って声をかける。本から上げられた瞳は深紅で、その耳は笹の葉のようにとがっていた。誰あろう、待ち人はシャーロット・ケナズ・ルーニア女史である。

 バタンと本を閉じ、ピョンっと噴水の縁から下りた彼女は止まり木協会所属を意味するマントを羽織っていた。王都における学生服の一種である。

 

「御久しぶりです、シャーロット。お待たせしてしまったでしょうか」

「へへっ、アタイが勝手に待ってただけだよ。楽しみ過ぎてな、昼あんま食ってないぜ!」

 

 そう言って、ニコニコ笑顔のシャロは皆と挨拶を交わしていた。

 シャーロットは、ルーン使いの里であるケナズ家の末裔である。俺と彼女は元主人と元奴隷の関係だ。それがこうも仲良くしてるのは、少々奇妙な間柄と言えよう。

 変なのはそうだが、他所は他所うちはうちである。契約解除後の今もこうして普通に会ってる俺達は、今から呑みに行くのである。

 

「この店こそ久しぶりだぜ。あぁ~、この雰囲気たまらねぇな」

 

 少し歩いて即到着。場所は俺達が以前新人冒険者達と飲み会をした居酒屋で、年齢バレしたシャロが悪酔いしてた店でもある。

 ここは冒険者には馴染みの飲み屋であり、毎日のように宴会が開かれている。実際、今現在もどんちゃん騒ぎが開催されていた。

 事前に予約を入れていたので、黒剣一党&ロリババアは人数分の椅子がある大きなテーブルに案内された。

 重量級冒険者が座れるように頑丈に作られた椅子に、多少乱暴に扱っても壊れなさそうなテーブル。おまけにコップは樽ジョッキときた。ファンタジー異世界に来た気分だぜ、テンション上がるな~。

 

「ご主人様、お腹が空きました」

「本当、ラリス人は呑みながら食べるのが好きよね」

「うちの故郷もそんな感じだからなっと……とりま最初は適当でいい?」

「うッス! よろしくッス!」

 

 世界中の食材が集まる王都には、数多くの料理が存在する。渡されたメニュー表を手に取り、最初は皆でつまめるモノを注文した。

 そう時を待たず、次々と山盛り料理が運ばれてくる。芋に豆にマンガ肉など、あっと言う間に大集合だ。ふと、中華料理屋のくるくるテーブルとか発明したら売れるかなとか考えちゃった。

 

「じゃあ、プロージット!」

 

 なんて適当な乾杯もそこそこに、ラリス式の飲み会が始まる。

 まぁ酒呑んで飯食うだけなので、日本の居酒屋っぽい飲み会でもあるのだが。

 

「んくんくんくっ……ぷはぁ! んまぁ~いい! この為に生きてるなぁ!」

「やっぱ生が一番ッスよね! 生が最高ッス! 生以外考えらんねぇッス!」

「ん~っ! ところで、このお肉は何ですか? すごく美味しいです!」

「えーっと、昼寝蜥蜴ってやつの肉らしいな。見た目完全にマンガ肉だけど、トカゲってこんな太い骨あったっけ?」

「そいつ殆ど龍じゃよ。ラリスにも牧場があるはずじゃ」

「龍じゃないわ、蜥蜴よ」

「ん、脂肪が少なくて食べやすい」

 

 しゅわしゅわビールを樽ジョッキで飲みつつ、日本にもあった料理や異世界らしい巨大肉に舌鼓を打つ。この店の味付けは全体的に濃いめで、それを酒で流すスタイルのようだ。

 お迎え当初は小食だったレノも、ここ最近はかなり食べるようになっていた。小さいマンガ肉を食む姿は最高にカワイイである。

 

「で、亭主殿達は今日も迷宮かい?」

「ああ。躯塚迷宮ってとこ潜ってたよ」

「神樹刀が大活躍でした」

「死なないの良い事に何度も殴ってたッスね」

「お、おう。まぁ使ってくれるのは有難ぇ話だがよ」

 

 シャロがビールとウイスキーをチャンポンしながら話題を振って来る。

 シャロ曰く、今日は久しぶりの飲酒らしい。学校の前日は予習で酒を呑めず、学校あった日は復習で酒を呑めずって生活なんだとか。

 

「それよりも、鍛錬の方はサボッていないでしょうね?」

「一応、止まり木協会で訓練受けてるよ」

 

 エリーゼの問いに、シャロは立てかけられた杖を叩いてみせた。

 学校とは別に、シャロは止まり木協会で行われてる訓練を受けているそうだ。

 

「つっても軽い模擬戦程度ッスよね? どんどん鈍ってきそうッス」

「ん、実戦も必要。今度わたし達と迷宮に行くべき」

「ガイコツ祭が待っとるのじゃ~」

「いやぁそれは……」

 

 躯塚迷宮での話を聞いたシャロは、引き笑いで遠慮していた。

 俺としてはルーン罠による一網打尽作戦とかやってみたいところだが、まぁ当人が嫌ならやめておこう。

 

「そ、そういやぁこの前アリエルさんと会ったぜ!」

「へぇ」

「イシグロはどうしてるって訊いてきたからよ。元気にしてるって言っといたぜ。飲み会の事もな」

 

 あからさまな話題変更に乗っかる。どうやら、シャロはアリエルさんに目をかけてもらえているようだ。

 色々ときな臭い異世界だが、彼女が近くにいるなら安全だろう。優しい人である。

 

「止まり木の学校はどうですか?」

「勉強の方は……まぁ何とかなってるよ」

「ん、勉強の方?」

「あ~、それがよぉ、なんか同じ教室の奴等から子供扱いされてんだよなぁ」

「小さいと仕方ないのじゃ。諦めぃ」

「これでも何もない日はガキの面倒とか見てやってんだぜ」

 

 ルーン工匠を目指している彼女は、止まり木協会が運営している学校に通っている。

 元からシャロは読み書き計算ができるので、ワンランク上の勉強をしているそうだ。その教育課程を終えたら、経営学とかその辺の勉強にシフトするらしい。

 

「かと思えば、今度は倫叡塔と魔導院に呼ばれちまって。そういう礼儀作法もお勉強中だ」

「へぇ! 倫叡塔! 凄く光栄な事ですよそれは!」

「何だっけそれ」

「世界中の賢者様が集う叡智の塔です! 噂によると、地下には古書が沢山所蔵されているとか……!」

「へぇ、それは素晴らしいわね」

「でも偉いさんばっかいるトコなんスよね? なんでシャロが呼ばれたんスか?」

「ルーンの話かのぅ? 大丈夫か? 色々隠すよう言われとるじゃろ」

「ああ。同じ派閥の人と共同研究するとか何とかで。まぁアタイはルーン発動係になるんじゃねぇかな」

「つっても気を付けてくれよ。心配だ」

「まぁその辺は大丈夫だ。用心して止まり木の護衛も付けてくれるらしいし。イスラって言う牛鬼人なんだがよ」

「イスラさんか。なら安心だな」

「知り合いかよ。いやぁ一度戦ってもらったが、ありゃ勝てねぇな。ルーン描いてる間に正面からバッサリだったぜ」

 

 学友が出来たり、孤児の世話を焼いたり、彫刻の腕を磨いたり。

 忙しそうだが、復讐を終えた彼女の生活は何だかんだ充実しているようだ。

 

「あーそうそう。この前、アダムスの(ぼん)に言われたんだけどよ。しばらく店ぇ休むらしいんだわ。そのこと亭主殿に伝えといてくれって」

「うん、掲示板で見たよ。武器の注文したかったんだけど」

「そりゃあ残念だったな。もう出てちまったよ」

「早いッスね」

「あいつは王都一の工匠様だからな。先代上森人王の国葬に呼ばれてんだ」

 

 どうやら、ドワルフは上森人王の国葬に参列するらしい。

 国葬が行われる日までそう近い訳ではないのに、随分と早い出発だ。道中の旅路を楽しむつもりなのかな。

 

「ん、国葬はシャロも出るの?」

「まぁな」

 

 念力トングでフルーツサラダを取るレノの問いに、シャロはレンコンチップスをつまみながら返した。

 

「ルーン代表みたいな感じでさ。アタイが出る事に、なんかそういう……政治的? な意味があるらしい」

 

 これまで、ルーン使いはアルヴの森には入れなかった。しかし、その結界は新王によって解除済みだ。

 滅んだ里とはいえルーニアを代表して出る事で、他のルーン使いに新王の意向を示す意図があるのだろう。

 

「国葬にゃあ偉い奴いっぱい来るぜ~? ラリス王だろ。夜森人王だろ。リンジュの総代に、今の獣王も来るんだか来ないんだか。他にもいっぱい……なんだっけ、“黒薔薇”のジェイミー?」

「え!? あのジェイミー様が? ジェイミー様とお会いできるなんて羨ましいです!」

「冗談じゃねぇやい。王様のいる式にアタイが混じるんだぞ。考えるだけで腹が痛ぇや」

「そこに招待されたドワルフか……」

「実は凄い奴だったのじゃ」

 

 なんてお話していると、本日メインのお料理が運ばれてきた。

 じゅーじゅーと鉄板の上で焼けているのは、以前も食べたラリスオオヌマエビである。しかも金冠個体なので、そのサイズ感はマグロ一匹分である。こいつぁ食いでがありまくりだ。

 

「うひゃーっ! こんなん王都じゃねぇと食えねぇぜ!」

「お腹が空いてきました!」

「エビには……やっぱり白ね」

「俺は清酒~」

「まだまだ来るッスよ! リンジュオオガマガニ!」

「締めはフライシュウナギの肝吸いじゃ。楽しみじゃの~」

「ん、どれも初めて。美味しそう」

 

 近況報告もそこそこに、メイン料理をかっ食らう。

 濃い味のエビで酒が進む。巨大蟹のミソも美味い。見た事も聞いた事もない異世界メシも最高である。

 俺達の飲み会は、ここからだ!

 

 色々あったけど、シャロはちゃんと笑えている。俺個人の強化もボチボチ進んでいると言えよう。マイホーム貯金も順調だし、その他結婚資金もそれなりに。

 何より、今こうして皆と一緒にいられるのだ。

 

 異世界生活、最高である。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、いつものように転移神殿に到着すると、ギルド全体が常ならぬざわめきに満ちているのを感知した。

 昨日のように冒険者達が掲示板に殺到している訳ではない。冒険者は静かにざわざわと、ギルド職員は忙しそうにバタバタ動き回っている。

 何となく既視感ある光景だが、すぐには思い出せなかった。

 

「あっ! お前等、イシグロ来たぞ!」

 

 犬人斥候のウィードさんが声を発すると、ギルド職員を含む神殿内の視線が一斉に向けられた。

 害意も敵意もなかったが、思わず腰の神樹刀に手が伸びそうになった。

 

「イシグロか! いいトコに来たな! ちょっとこっち来い!」

「な、何ですか?」

 

 肩をバシバシされ、半ば引っ張られる形で連れて行かれる。

 いつもの受付机には、馴染みの受付おじさんがいた。朝から疲労しているのか、その目元には隈があった。

 

「あー、イシグロか。今朝、お前の通ってた迷宮が枯れてな。新しいトコが生えてきたんだよ」

「新しい迷宮……」

 

 その時、思い出した。今の雰囲気は、以前カムイバラにいた時に迷宮の枯渇と再生が起こっていた時と似ているのだ。

 この世界の迷宮は、中身が枯れると転移先が新しい迷宮に切り替わる仕様である。これを迷宮の枯渇と再生と言う。

 枯渇と言いつつ原因は定かではなく、一〇〇回潜っても健在な迷宮があれば数回潜っただけで枯渇と再生が起こったという例もあるのが不思議ポイントだ。

 で、俺が昨日潜ったトコというと、最近ヘビロテしてた躯塚迷宮か。そうか、あそこ無くなったのか。通ってたラーメン屋が潰れたくらいショックである。

 

「それで、新しい迷宮には誰もまだ入ってなくてよ。一番乗り誰にするかって話になってな」

「そうですか」

「一番槍はイシグロだろうってよ」

「ナンデ?」

 

 カムイバラでは我先にと情報集めしていた冒険者達だったが、西区の皆さんは俺が一番乗りするのを待ってたらしい。

 いや、俺は別に先陣切りたいとか思ってないよ。安牌志向の俺としては、情報揃ってから潜りたいところだ。

 

 ふと周囲を見渡してみると、新人っぽい冒険者が俺に期待するような目を向けていた。それだけじゃない。顔見知りの鋼鉄札や、ニーナさんやラフィさんまで俺に注目している。

 無言の圧力か? 流されんぞ。

 

「どうだ? 行ってみねぇか?」

「うぅん」

 

 突き刺さる視線を強いて無視して、腕を組みながら沈思黙考。

 一党の安全面を考えるなら、俺が先行する理由は無い。情報が集まるのを待って、実入りがあると判断した後に潜ればいい。

 新迷宮の踏破は情報料込みで儲かるが、今は稼ぎ期間じゃない。カムイバラの時は金が入用だったから潜ったに過ぎないのであって、無駄なリスクは取りたくないところだ。

 

 とは言いつつ、別に行ってもいいかなって気持ちもあった。

 事前情報のある迷宮や、踏破慣れした迷宮は稼ぎもレベリングも高効率だが、本来の意味での戦闘経験の質は低くなってしまう。

 俺達が強くなろうと思ってる理由は、言ってしまえば自衛の為である。であれば、全く初見の魔物やアクシデントやハプニングにも慣れておくべきだと思える。

 

「皆はどう思う?」

 

 報告、連絡、相談。何にしても俺の一存で決めるのは違うだろう。振り返って皆に問うと、各々顔を見合わせてから、

 

「アタシは良いと思うッス」

「同じく。良い経験になると思います」

「ん、効率も大事だけど、蓄積も大切」

「無理そうな時は逃げりゃいいだけじゃしのぅ」

「腕が鳴るわね……」

 

 そう返された。

 どうやら、皆はやる気らしい。エリーゼなど、よほど楽しみなのか唇をにまにま歪ませている。

 

「そっか。じゃあ行こうか」

 

 ホウレンソウが終わったところで迷宮探索を決定すると、周囲の迷宮関係者達がざわめいた。

 

「それはいいんだが、お前昨日も迷宮行っただろ。とりあえず明日って事にしとくか? それまでは誰も入れねぇようにしとくからよ」

「どうする?」

「今からでいいんじゃないッスか? 準備とか特に無いッスよ」

「そう。じゃあ今から行きます」

「お、おう……。そんじゃ、一応ギルドからの冒険者依頼って事になるから、ひと通りの説明をさせてもらうぜ」

 

 これまた今日行く事を伝えると、疲れた顔に疲労感を重ねた受付おじさんは説明を始めた。

 つっても特筆すべき事はない。要約すると、自由に潜って帰ったら情報くれくらいのものだった。出来れば生きて帰ってきてほしいってのは言うまでも無い事である。

 

「それじゃ行ってきます」

 

 受付を離れ、モーセの伝説みたいに割れた人波を歩いて昨日まで躯塚迷宮に行けてた転移石碑の前に立つ。

 アイコンタクトしてから、俺達六人は新しい迷宮の石板に触れた。

 

「皆、油断せずに行こう」

「あいッス!」

 

 転移が始まる。

 これから、事前情報のない迷宮へ向かうのだ。

 

 異世界で強くなるには、ステータスを上げるのが手っ取り早い。

 けれども、真の意味で強くなるには、あえて厳しい環境に身を置く事も重要だ。

 蹂躙だけでは強敵との戦闘経験が積めない。死闘だけでは長い戦いに適応できない。同じ魔物との戦いに傾倒しては、変な癖がついて弱くなる。

 だから、あえて向かうのだ。

 

 冒険者らしく、冒険をしよう。




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