【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告もありがとうございます。いつもお世話になっています。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 ダンジョン回です。
 よろしくお願いします。


炉利特化と迷宮攻略。(上)

 異世界生活三年目、春。

 

 迷宮稼業を始めてそれなりに経った俺ではあるが、未だ完全ノーデータの迷宮に潜るという経験はなかった。

 これまでの探索は事前に情報集めてたし、以前カムイバラで潜った新迷宮にしてもある程度はどんな迷宮か分かっていたのである。

 何が起こるか分からない異世界迷宮完全初見プレイ。当たり前だが、俺の警戒度はカンストしていた。

 いい機会なので、この異世界の迷宮について一度おさらいしようと思う。

 

 世界観によって色んな設定が施されるハイファンタジー・ダンジョン。王墓とか古代遺跡とか、あるいは現地人の日常生活にガッツリ関わるケースだってある。

 そんな中、この世界の迷宮は一言で言うとローグライク仕様である。

 

 ローグライクとは、ライクを抜いた同名の作品と似た特徴を持つゲームの総称である。

 ある程度の法則性こそあれ、同じ迷宮でも潜る度にマップの構造を変える。道順は毎回異なるし、出てくる魔物も一定条件下でランダムだ。恐竜系迷宮なら、主にティラノとトリケラとステゴの中から選ばれるといった風に。

 あと、この世界の迷宮は宝箱が無いのも特徴か。ミミック君はいるんだが、それは置いといて。

 

 で、どの迷宮も共通して、ボスを倒せば聖遺物(レリック)と呼ばれる謎アイテムをドロップする。

 これがまた信じられないくらいの価格で売れるので、上手くいけばあっと言う間に億万長者になれたりする。まさに迷宮ドリーム。俺とか完全に成金冒険者のソレであり、一ヵ月で平然と億単位を稼いでいる。いつ如何なる時でも一攫千金を狙えちゃうのがこの世界の迷宮だ。

 まぁ稼ぎの殆どは武器代に消えてるんですけどね。

 

 閑話休題。

 

 クッソ儲かる迷宮稼業の元締めは、迷宮ギルドひいてはその背後にいるラリス王家である

 迷宮ギルドとは、迷宮探索を生業とする冒険者を統括する組織の事だ。

 その仕事は多岐に渡り、迷宮に関わる各種記録や冒険者依頼の斡旋。時に冒険者間でのトラブルシューティングを行う事もあるそうだ。

 迷宮の情報を集積し、開示するのも仕事のうちである。

 

 俺の言う事前の情報収集とは、これまでギルドが残してきた迷宮や魔物のデータを予習する事だ。

 これのお陰で、俺は迷宮稼業で成り上がれたのである。先人達に感謝感謝。

 

 で、だ。

 

 この世界、迷宮に入るには専用の装置を使って転移をする必要がある。

 人類生存圏のどこを探しても、巨像のいる荒野や恐竜の蔓延る草原など存在しない。その迷宮に繋がっている転移石碑を使い、石碑前の石板に手を置いて連れて行ってもらうのだ。

 

 巨像迷宮、猛龍迷宮、躯塚迷宮……色んなマップが沢山揃ってる迷宮には、ギルドが定めた四つの位階が存在する。

 新人冒険者が最初に潜る下位。エリーゼとのデートで潜った迷宮がソレだ。

 最も数が多い中位。鉱石狙いで潜ってた巨像迷宮だな。

 油断すると普通に死ねる上位。もう枯れちゃった例の躯塚迷宮が該当する。

 あー、それと最上位迷宮ってのもあるが、これは色々と例外的な仕様らしいので割愛する。

 

 迷宮の位階は、そこに潜った冒険者の生存率や踏破率などの情報を基に、迷宮ギルドを中心とした関係者の協議によって決定される。

 ギルドはこの位階を基準に、ざっくりしたルールを制定している。木札は中位潜っちゃダメとか、鉄札は上位潜っちゃダメとか、そういうの。

 基本的に難易度の高い迷宮の方が稼げる傾向にあるが、経験値のうま味は位階や難易度と正比例しない。例え上位迷宮でも、儲けは良いけど経験値渋いとこあるし、その逆も然りって感じで。

 

 また、迷宮には位階だけではなく、三つのカテゴリーが存在する。

 即ち、屋内型と屋外型と複合型だ。

 

 屋内型迷宮は、まさにザ・ダンジョンって感じである。迷路を進んでボス部屋に向かい、そこのボス斃せばクリアみたいな。最も数が多い型である。

 屋外型迷宮は、ダンジョンというより半オープンワールドゲームの仕様に近い。広いフィールドにエネミーが跋扈してて、迷路やボス部屋はなくボスがその辺を徘徊しているのだ。

 複合型迷宮は、前述の二つを合わせたものだ。半オープンワールドのスタート地点から始まり、洞窟なり城なりにハックしてスラッシュするのである。

 

 迷宮の位階やカテゴリー分けはそんな感じだが、そのバリエーションは非常に幅広い。

 氷で出来た城とか、うだるような暑さのジャングルとか。奈落や毒沼で足場が制限されてるとこもあれば、真っ平らな決戦場だってある。

 それらの共通点としては、どこもダークファンタジーっぽい雰囲気があるトコだな。カジュアルファンタジー味のあるラリス王国とは対照的である。

 迷宮外と迷宮内は、世界観自体が異なっている。個人的にはそんな印象を受けるのがこの異世界の迷宮だ。

 

 もう一つ。一番重要な特徴を忘れていた。

 この世界の迷宮は、冒険者の死亡率がめちゃくちゃ高いのだ。

 統計によると、新人冒険者の半分は一ヵ月以内に命を落とすらしい。そこから一年生き残れるのがひと握り。生き残れても、位階を上げて銀細工になれるのはひと握り。そんで金細工へ昇格できるのは銀細工の中のひと握り、と。

 基本的に銀細工持ち冒険者の迷宮死亡率は低いそうだが、それでも下位迷宮であっさり死ぬのが迷宮稼業の怖いところだ。

 あと、最近は気にしていなかったが、迷宮に潜り過ぎると――魔物を殺し過ぎると説が有力――人類はヒトとしての箍が外れるらしい。今のところ俺や皆は平気だが、シャロは結構危なかった気がする。

 

 迷宮のおさらいは、ここまで。

 とかく迷宮は危険でいっぱいで、事前の情報収集と準備が重要という話だ。

 

 位階、死亡率と踏破率はどれほどか。屋内型か、屋外型か。どんな魔物が出てきて、何属性が弱点のボスが出現するのか。

 事前情報一切無し。何も分かっていない完全初見迷宮は、俺がどれだけ強くなっても警戒して然るべきである。

 油断せずに、されど緊張せずに。慎重過ぎるくらい、じっくり行こうと思う。

 

 まぁ何だかんだ言いつつ、迷宮探索が楽しいって気持ちは確かにある。

 マップを埋める充実感。魔物を斬り裂く爽快感。迷宮踏破の達成感。

 中毒って程でもないが、病みつきになってるのは否定しない。

 

 とはいえ、初志貫徹だ。

 俺が迷宮に潜っているのは、ルクスリリア達と安泰な暮らしをする為だ。

 ロリハーレムの為に、ハクスラやってんのである。

 

 金、暴、性。

 その為の迷宮。あと、その為の剣?

 

 冒険の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 転移完了の感覚は、エレベーターが止まった時の浮遊感に似ている。

 地に足が付く。硬い地面。耳朶に突き刺さる遠い轟音。顔に謎の感触があった。水、いや雨か。

 世界が切り替わる。瞬きをして見えたのは、ほの暗い空と暗雲だった。

 

「警戒!」

 

 初手から何が起こるか分からない。合図と同時に背中合わせに身構える。

 敵味方識別レーダーに反応はない。迷宮潜り的第六感でも、近くに魔物の気配は無かった。ひとまず、潜ってすぐ戦闘って事はなさそうだ。

 皆に警戒レベルを下げるよう命じてから、スタート地点からこの迷宮を見渡した。

 

 真っ先に出た感想は、“台風の日の夜”というものだった。

 暗い空には青紫色の不気味な暗雲が立ち込めていて、吹き荒ぶ強風のせいで横殴りの豪雨が降っている。時折雲の隙間がピカッと光り、遠くでゴロゴロと雷が鳴っていた。

 足を付けているのは石畳……いや、石橋か。道の端にそれっぽい防護柵がある。視線の奥、長い階段を上った先に巨大な城があった。雷の逆光で浮かび上がるシルエットは、さながら悪の魔王城といったところ。

 遠いから分かり難いが、石橋も階段も城も非常に大きい気がする。階段など、一段一段が俺の腰までありそうだ。

 城から視線を外し、振り返る。転移水晶の背後は、最初から何も無かったかのように途切れていた。石橋の切れ目まで移動して下をのぞき込むと、その先は真っ黒な深淵が広がっていた。

 試しに目印用魔石を落としてみたが、それは落ち切る前に深淵に飲まれていった。どうやら、落下判定は随分シビアらしい。

 

「魔力探知だと何もいないっぽいッスけど、おキツネ探知はどうッスか?」

「なんじゃそれ。ん~、わしの分かる範囲に生き物はおらんようじゃが」

「匂いがありませんね。雨の匂いさえ全く……」

「そもそも、漂っている魔力が薄いわ。森人が入ったら窒息するんじゃないかしら」

「ん、風が騒がしい」

「風が泣いてますっと……にしてもデカい城だな」

 

 石橋も、階段も、城も、明らかに人類用の規格じゃない。恐らく、出現エネミーも相応の大きさと見ていいだろう。

 ふと、昔読んだ名作旅行記を思い出した。まるで巨人の住処に来たみたいだ。

 

「どう見てもあの城に行けって感じッスよね~」

 

 とりあえず、この迷宮が複合型って事は分かった。

 屋外スタートで、あからさまに城に向かえって導線が引かれているのだ。これは複合型迷宮の特徴と一致する。

 

「皆、念の為に周囲を警戒しといてくれ。俺とレノは真上に飛んで目視で偵察する」

「分かったのじゃ」

「風が強いです。鎖を繋げておきましょう」

「ん、いざとなったら引っ張って」

 

 俺は木刀と銃杖の魔法剣士スタイルになり、レノと一緒にその場で飛んで高度を上げた。

 転ばぬ先の杖ってやつで、強風対策・飛行禁止対策の為に命綱も付けておく。

 

「マスター、羽が重い……」

「ああ。羽じゃないけど俺もなんか重い感じある」

 

 飛行禁止エリアって感覚じゃないが、この迷宮には飛行ペナルティがあるようだ。いつもより【魔力飛行】の消費魔力が多く、上に行くにつれ重力が強くなってる感じがあった。

 

「二人分の足場作るから、立ってから見ようか」

「わかった」

 

 いい感じの高度に到達したら、【魔力の盾】で足場を作って着地。続いてレノにも着地してもらった。

 飛ぶのを止めると重力負荷が無くなったので、やっぱりあの重さは飛行ペナルティだったのだろう。

 で、足場に立って射手系スキル【遠視】をはじめとした視力強化スキルを使って索敵する。チート曰く、ボスは城の下にいるっぽいので、構成としては城に入って地下目指す形なのかなと。

 

「どうッスか~? なんか見えるッスか~?」

「俺の見える範囲には、特には……」

「ん、何か透明な壁があって、中を()くのは難しそう。けど、城の周りに小さいのが飛んでるのは視える」

「え? どこどこ?」

「右の尖塔らへん、窓の近くにいる。他にもちょこちょこ」

「おぉホントだ」

 

 言われたところを見てみると、確かにそこに何かが飛んでいた。いや、飛ぶというよりホバリングしていた。

 遠目に見ると、それは太った鳥か羽虫に見えた。けどズームしてみたら全然違う事が分かる。胴体らしき部位は工業製品めいた鉄球で、球の中心に目玉のような光点があった。光点の左右に青白い膜があり、それは蜂の翅のように振動している。また、球体の下部には細長い逆間接の脚が生えていた。

 首のないメタリックデブコマドリか、あるいは機械で作ったクソデカ羽虫か。体感的にはサイバーパンク世界の監視用ドローンといった表現がしっくり来るデザインだ。アレ、見つかったら絶対ヤバい奴じゃん。

 

「見張り? 巡回してる? 上に登って欲しくないのかな? ボスは最上階にいる?」

「いや主は地下にいるっぽいが……ん?」

 

 そうやってボール・ドローンを観察していると、危機察知チートより先に第六感がざわついた。ついで脳裏に警鐘が鳴って、その脅威度がはっきり分かった。

 今感じたのは、敵意とか害意じゃあない。ここに居続けると拙いゾという虫の知らせ。俺は焦る事なく右手の木刀を握り直した。

 

「よっと」

 

 次の瞬間、俺は神樹刀を振って落ちてきた雷を【受け流し】た。ズバンと遅れて轟音が迸り、多頭竜めいた稲妻が水平方向に流れていった。

 今の落雷は魔法攻撃というより、ステージギミックって印象だ。威力は然程でもない感じだが、当たれば確定麻痺とかそんなところだろう。

 

「お邪魔ギミックかな? これも要検証だな。レノは大丈夫か?」

「ん、平気。マスターが守ってくれるって分かってたから」

 

 そのまま城をウォッチしてみたが、それらしいのは謎ドローンしか見えなかったので、偵察はこれくらいにしておこう。

 強風に煽られないよう慎重に高度を下げ、元の位置に着地する。

 止まない雨のせいで髪も鎧もべちゃべちゃだ。皆も水も滴る良い女になっている中、グーラはフードを被って雨よけ補助効果を起動していた。ケモミミフード良いよね、良い。

 

「それで、どうするのかしら? このまま押入っても良いのだけれど」

「いや、その前に検証したい事がある」

 

 それから、俺達は帰還水晶の近くでこの迷宮特有の現象について検証を始めた。

 落雷の発生条件や優先対象の有無と威力の検証。雨による各種属性攻撃・付帯効果への影響に、飛行ペナルティの検証等々……。

 

「よし、この辺で一旦帰るか。帰って時間余ってたら再突入だ」

「あら、戦わないの?」

「腹減ってきたしな。今ここで食う気になれない」

「ボクもそう思います。温かいのを食べましょう」

「それもそうね」

 

 これまでの検証内容を紙にまとめときたいってのもあるしな。

 そういう事になったので、俺達は転移水晶に触れ、帰還した。

 

 

 

 さっきまで全身びしょ濡れだったところ、転移神殿に戻ってみたら身体に付着していた雨水は綺麗さっぱり拭われた。

 見慣れた風景。帰ってきた感。安堵の息と共に歩き出すと、俺に気付いた関係者の視線が一斉に集まってきた。

 

「早いなイシグロ! 下位迷宮だったのか?」

「あ、いえ、まだ踏破してないですね」

「あれ?」

 

 言いつつ、転移神殿の出口に向かう。

 影の具合からして、まだ昼飯前って感じだ。向こうにいた体感時間はそれなりに長かったんだけども。

 

「レノ、迷宮にはどれくらいいた?」

「ん、五時間と九分」

「そうか、ありがとう」

 

 どうやら、あの迷宮はこっちよりも時間が遅く流れているらしい。

 早かったり遅かったりとマチマチだが、迷宮と現実では時間の流れが異なるのだ。一時間潜って一年とか、一年潜って一時間って程の差はないが。

 

「あの~、すみませ~ん」

「はい?」

 

 出口の近くに行くと、若い男性ギルド職員に呼び止められた。

 

「その、迷宮の情報を……」

「あっ、そうでしたね」

 

 思い出した。ギルドに迷宮の情報を提供しないといけないんだった。

 だが、ちょっと待ってほしい。俺はともかく、グーラがね。

 

「その前にお昼食べさせて頂けませんか?」

「は、はあ」

 

 と言う訳で、ギルドへの報告前に飯屋に行った。

 そもそも、事前の説明に報告前に神殿から出ちゃいけませんなんてルール無かったしな。なら何時でもいいだろう。

 

「ん、こんな感じ」

「おぉ」

 

 レストランで飯を食った後、俺は手持ちのノートに検証結果をまとめていた。

 そんな中、レノが描いてみせたボール・ドローンのスケッチは恐ろしく精巧で、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

 

「相変わらず上手ね、レノ」

「なんか虫っぽくないッスか?」

「ゴーレムとか絡繰の類いでしょうか?」

「大きさはどんくらいかのぅ?」

「ん、目測だとこれくらい。まぁまぁ大きいはず」

 

 レノは別の紙に同じ魔物の三面図を描き、縦横奥行の寸法を書いていった。なんかアニメかゲームの設定資料集みたいである。

 ちなみに、後にこれを見たギルド職員は……。

 

「う、うちの専属絵師より上手い……」

 

 と言っていた。

 うちのレノちゃんはお絵描きが上手なのだ。

 

 

 

 

 

 

 さて、ギルドのインタビューもそこそこに、午後から例の迷宮へ再アタックである。

 転移成功。そしてすぐに全身ずぶ濡れ。足場は石橋で、空は豪雨と風と雷。大まかには今朝見た風景と同じだが、メインダンジョンらしき城のシルエットが少し変わっていた。ここもローグライクの仕様を継承しているようだ。

 

「レノ、例のボール君はいる?」

「ん、前と同じ。城の外でふよふよ浮いてる」

「了解。とりあえず進もう」

「やっと戦えるのね」

 

 各々武器を提げつつ、導線に従って歩き出す。道中エネミーは出現せず、雷ギミック以外の妨害はなく無事に城に続く階段に辿り着いた。

 目測通り、石の段差が俺の腰くらいまであった。雨で足を滑らせないよう慎重に上っていく。途中、俺達目掛けて落ちてきた雷はグーラが片手キャッチして握り潰した。

 

「やっぱ正面から行くしかないか」

 

 階段を上ってる最中、何処かに横道はないか探ってみたが、特にそれらしいものは発見できなかった。

 飛んで回ってみてもいいのだが、そうすると偵察ドローンに見つかりそうだし、飛行ペナルティもきつそうだ。最悪、奈落に一直線なので今取るべきリスクではないかな。

 

「っと、ここからッスね」

「何が出て来るかはお楽しみ。ふふっ……」

「此処まで来ても気配がありませんね」

「じゃな。あの玉っころにも氣は視えんかったし、そういう迷宮なんじゃろ」

「ん、今のところ隠れてるのは居なそうだけど……」

「入る前に水気を落とそう。滑ると危ない」

 

 大階段を上りきり、大きな正面入り口に到着する。

 横開きの大扉は全開で、広い城内にまで雨が入っている。そのくせ中は荒れておらず、傷も埃も土汚れ一つ見当たらなかった。

 見ると、城に入ってすぐの広間には二股に分かれた階段があり、一階二階にそれぞれ別方向の通路に繋がっていた。あからさまな迷路構造である。宝箱なんて無いのは分かっちゃいるが、マップ埋め欲がムクムク湧いてきたぞ。

 

「なんかこの床ツルツルしてるッス」

「大理石に似ているようだけれど、違うようね」

「マスター、城内での飛行に支障はなさそうだよ」

「よしよし俺のデータが喜んでいるぞ」

 

 いざ侵入してみると、喧しかった雨音が小さくなった。床や柱は大理石に似て硬質な光沢があり、俺達が立てる足音をやけに反響していた。

 今のところ、俺のレーダーに敵の反応はない。グーラの鼻もレノの魔眼も感知できていないようだ。通路の先に何かある感じだろうか。

 

「来た! 真上!」

 

 その時、魔眼起動中のレノが声を上げた。同時に俺のレーダーに敵性反応が現れる。

 やって来たというより、ステルス解除かテレポート風の奇襲エントリー。空間にノイズが走り、ソレは巨影を成して急降下してきた。

 どっしいいいいいん! 各々散開して退いたところに、巨大な球体が着地する。黒剣一党で取り囲む中、そいつは球の中心で光る点を明滅させ、重い軋みを上げて屹立した。

 

「かっけぇ……!」

「ヘンテコね……」

「「え?」」

 

 感想の相違である。

 それはそれとして、俺達の眼前に現れた第一村人は外周を偵察していたドローンと似たデザインをしていた。

 胴体と思しき部位は一軒家サイズの球体で、正面には剣呑な赤い光点がある。偵察ドローンの翅にあたる部位からはフレーム剥き出しの四つのアームが生えており、その先端はハニカム構造の鏡のような板を保持していた。また、脚部は偵察ドローンのモノより一回り太い逆関節で、如何にも跳躍力が高そうである。

 まん丸な胴、鉄の四つ腕、獣のような脚。おもちゃの騎士のようで、合理性を突き詰めたロボのようで、異世界的に言うとゴーレムの一種になるだろうか。細い四つ腕で盾を構える姿は、魔物の例に漏れず人類への敵意に満ちていた。

 

 警戒しつつ、ササッとコンソールから相手の弱点部位を表示するチートを起動……してみたが、それが全くのノーデータ。巨像迷宮のゴーレムは弱点部位スケスケなのに、どういう事だろう? こうなったのは初めてだった。

 いやまぁ理由は思いつく。実際に弱点が無いか、完全新種の魔物だからデータが無いかのどっちかだろう。

 勘だが。

 

「おっと、アイサツは無しか」

 

 そうやって観察していると、突然球体ロボの眼から赤いビームを発射してきた。手に持った神樹刀で【受け流し】てみたら、そのビームは広間にある柱を貫通していた。

 威力はそれなりで、予備動作が少なく技の出も早く弾速も銃弾級の遠隔貫通技。なかなか厄介な攻撃である。そもそも何属性の攻撃だ? 要検証だな。

 まぁそのへんは後でじっくり確かめるとして……。

 

(けん)に回る! とりまひと通り殴ってみるぞ!」

「あいッス!」

 

 言いながら。俺は空いている手をアイテムボックスに突っ込んだ。右手に神樹刀、左手に防御用脇差の“湊”を取って二刀流だ。これで、斬撃・刺突・打撃の攻撃属性を揃える事ができるのだ。

 守勢重視の二刀流になったところで、皆の壁になるべく即座に前に出た。迎撃ビームを湊で薙ぎ払い、あえて相手の間合いに潜り込む。

 球体の左右、アームが動く。盾の縁で殴ってくるが、脇差を合わせつつ身体を捻じって凌ぐ。エリーゼからの脚部狙いの魔法を奴は逆関節の跳躍力を活かして回避した。

 盾攻撃の威力は低い。火力はそこそこ。巨体の割に機動力は高めである。どんどんデータが集まってきて、案の定ロリコン・ウィキが潤い始めた。このまま全攻撃パターンとその対策を追記してやるぜ。

 

「そこッス!」

 

 と、重逆ボールが退避した先にルクスリリアの魔力弾。直撃の寸前、球体ロボはアームを動かして鏡のような盾を掲げてみせた。

 盾で魔法が防がれる。すると、甲高い音と共に彼女の魔力弾が反射(・・)された。

 

「ぎゃッス!? 危ねぇ当たるとこだったッス!」

「ヒット確定の反射じゃなくて、単純な方向反射か。皆、魔法撃ったら軸をズラすように!」

「ん、わかった」

「強い魔法は使わない方がよさそうね。支援に回るわ」

「側面狙います!」

「金行と水行、いくのじゃ!」

 

 間髪入れずに放たれたイリハの陰陽術も、さっきと同じように反射される。あの盾は魔法属性に関係なく魔法を反射すると見た方がいいか。これも要検証だ。

 続いて、ぴょんぴょん動いてビームを引き撃ちしてくるロボに色んな属性攻撃を当ててみる。結果、グーラの炎もレノの光力も反射してくる事が分かった。

 

「じゃ、次はこっちだな!」

 

 神樹刀を振りかぶり、魔法反射盾に向かって打撃攻撃をぶちかます。すると不思議な事に、防御に成功したはずの巨体ロボは盛大にノックバックしていた。

 対し、俺にノックバックは無かったが物理ダメージが返ってきた。軽めに振った分さほど痛みは無いのだが、危うく木刀を取り落とすところだった。

 次いで追撃の湊を振るうと、突きも斬撃もダメージ反射された。刀の攻撃にノックバックが無かったのを鑑みるに、物理ダメージが反射可能で付帯効果は受けるって仕様か。

 

「剣も魔法も跳ね返すのは、それはもう竜族権能だと思うのだけれど……」

「その盾使わせて欲しいッスよね~」

「グーラ! 盾には絶対に当てるな!」

「分かりました。なら……!」

「硬くするのじゃ!」

「ん、援護する」

 

 再度、俺が前に出てビームを弾く。その隙に耐久バフを受けて後ろに回り込んだグーラが、盾の隙間にぶちぬき丸を差し込んだ。その結果、盾を保持していたアームはえげつない破砕音と共に腕が弾け飛んだ。

 

「この腕、脆いです!」

「スイッチ!」

 

 よろける球体ロボ。三盾状態になったところで、俺は空いてる胴体へ攻撃をぶち当てた。上手く入ったはずだが、その手応えは想定よりも重かった。

 無効化されてる感じはない。耐性か、防御力か。ともかくコイツのメタリック・ボディは伊達じゃないらしい。

 

「胴体は通るぞ! 残りの盾取っ払って検証!」

「マスター!」

 

 言うが早いか、レノが悲鳴じみた声を発した。次の瞬間、俺のレーダーと危機察知に反応があった。背後、俺の背中にバクスタ攻撃が迫っている。

 しかしだ。これくらいは慣れっこなので、普通に身を捻じって回避し、次いで下手人を木刀で殴り飛ばしてやった。

 また、重い感触。高耐久で防がれた。木刀で吹き飛んだソレは壁に強かに衝突し、迸ったノイズの後に姿を現した

 

「小型タイプもいるのか」

 

 四つ盾の球体ロボが一軒家サイズだとしたら、バクスタ仕掛けてきたそいつはバスケットボールサイズだった。

 バスケロボの脚部も逆関節で、胴体の中心に光点がある。カメラアイっぽい光の左右、二本のサブアームは片刃のブレードを保持し、俺と同じく二刀流を構えていた。

 

「うわっと強めの光線!? 遠隔特化が隠れてるッスよ!」

「なんか気色悪いわね……」

「鉄の臭いも無いのはかなりの違和感です」

「ん、どれも球体。奥の方にスライムみたいな核がある」

「レノお主ほんに優秀じゃの!」

「それほどでもない」

 

 バスケサイズロボの他にも、広いホールに透明化を解いた球体ロボが出現した。サイズこそ違えど胴が丸いのは共通で、盾二つ持ち型とか一槍一剣型とか筒腕型とか色んなバリエーションが散見された。

 その中で最もデカいのが最初の四つ盾型である。見れば、斬り落とした腕が再生してハニカム構造の鏡盾は元の枚数に戻っていた。

 

「どうするッスか? もう撤退ッスか?」

「反対よ。まだまだこれからじゃない」

「ボクは余裕です」

「ん、右に同じく」

「粋がってる訳じゃないんじゃよなぁ、この娘等」

 

 囲まれている現状、次の瞬間には乱戦が始まるだろう。ここで一度、逃げるか戦うか考える。

 今の段階で揃った情報は、盾型が持ってるハニカム鏡は物理も魔法も反射してくる事。武装を保持してる腕は非常に脆く、そこを壊せば武器を取り落とす事。胴体は物理防御力が高く、ただ殴るだけじゃ時間がかかりそうな事の三つ。あと未検証だが、ボールの中には核があるらしいってあたりか。

 そんで奴さん等は大中小と多種多様で、最初の大型四つ盾個体を守ろうと陣形を整えている。そう、魔物らしからぬ事に秩序だった行動をしているのだ。好き勝手襲ってきそうな雰囲気が無いのである。

 俺を含め、一党のリソースはまだまだ潤沢である。アイテムも何も消耗は皆無と言えよう。仮にここで出直しても、現状取れる以上の対策は無いように思える。なら、士気の高い今やっちゃっていい気がする。

 ていうか、普通にやれると思うんだよな、これまた勘だけど。

 

「まだ試したい事がある! いつでも逃げられるよう意識しながら続行! レノは【念力】で情報共有! エリーゼは支援しつつ治癒待機! 他、命大事に! ご安全に!」

 

 続行宣言。一党の皆から一斉に是の返事。

 そうして、俺達は検証を兼ねた戦闘を開始した。




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