【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は前半三人称、後半一人称です。
 よろしくお願いします。


炉利特化と迷宮攻略。(中)

 春が来ると、迷宮狂いは元気になるらしい。

 

 今にして振り返ると、イシグロが新人冒険者だった頃はまだ大人しかった時期と言えるだろう。

 何故か単独を貫いてたりとか、牛人族女からのお誘いを断ったりとか、異常な程の迷宮踏破率を叩き出してこそいたが、当時のイシグロはあくまで新進気鋭の英雄候補としか見られていなかった。

 だが、奴隷を購入した後、奴は弾けた。

 

 一年目の春、イシグロの巨像迷宮に端を発する鉱石ラッシュはギルド職員の記憶に新しい。他区のギルド長や石商連の代表を交え、突然降って湧いた希少鉱石の処遇について毎日のように喧々諤々の会議が行われたものである。

 二年目の奴は奴隷を増やして再度巨像迷宮を潜りまくり、その後に喧嘩を売ってきた元銀細工商人と大立ち回りを演じる事となった。刃傷沙汰が日常の王都でも、あの時は西区中の迷宮関係者が震撼したものだ。内心イシグロを舐めてた連中も、例の戦いを見た後には陰口一つ言わなくなった。模擬戦ではみられないイシグロの憤怒を見せられた結果、良くも悪くも奴の銀細工性が証明されたのである。

 三年目も巨像迷宮に行くのかなと思っていたら、今度は一つの迷宮を枯渇させた後に新しく生まれた迷宮の攻略を始めたのである。しかも、枯らした翌日から。

 そして、その成果は誰の目にも明らかな形を成していた。

 

「へっ、そういう事かよ……」

 

 王都西区の転移神殿。昼休み中の受付おじさんは、疲労感と喜色が半々の低声を発した。

 ベテラン職員である受付おじさんの手には、紐を通して纏められた紙束があった。イシグロが言うところの“攻略本”である。

 この書類には、西区で生まれた新迷宮の情報が収められている。奴が調べ上げた内容は、ギルドが纏めた迷宮録よりも詳細だった。それこそ、そのうち本の厚みになるだろう程に。

 

 イシグロが残した攻略本には、件の迷宮に関わる種々様々な情報が記載されていた。

 迷宮内部の構造。特異事象による探索への影響。仕掛けられた罠の対処法や、主へ至る道筋の法則性など。

 中でも最も重点的に書かれていたのは、迷宮に出現する魔物の情報だった。

 

 攻略本にある魔物の項には、彼の所有奴隷――小さい天使族――が描いた魔物の絵が描かれている。

 その絵は西区ギルドに所属する魔物専門の絵師よりも精巧で、さながら被写体を見ながら描いたかのようだった。あまつさえ横から見たパターンや後ろ姿まで描かれていたのである。

 無論、おじさんが持ってる紙束は原本ではない写しなのだが、それでも異様な程の完成度と言えた。

 

「にしても妙ちくりんな魔物だな……」

 

 過去の文献を照合してみたところ 忠実に描かれた例の魔物は完全に新種の魔物と思われた。未だ正式な名前は無いので、暫定的に“機球兵”と呼ばれている。恐らくこのまま通るだろう。

 機球兵の見てくれは異様であった。球形の胴に、鳥や獣を思わせる鉄の脚。胴側面から伸びる細腕は、個体によって様々な武器を提げているという。

 

 少女天使が描いた絵には、注釈として機球兵の寸法が書かれていた。曰く、機球兵には大中小の三つのサイズと、戦い方が異なる四つのタイプが存在するらしい。

 大型機球兵は小さな屋敷ほどのサイズで、四つの腕を持ち攻守共に最強。

 中型機球兵は軍馬くらいの大きさで、腕は二つ。機動力は大型を上回る。

 小型機球兵は球技用のボールくらいのサイズ感で、腕の数は二本。静音性に優れ、透明状態のまま奇襲してくるタイプもいるという。

 

 戦闘タイプの区分は、近接型と遠隔型と指令型。それから迷宮を飛び回っている偵察型である。

 近接型は、胴に繋がった腕に盾や剣を装備したタイプだ。大型は四つ腕に四つの武装を持ち、中型以下は二本腕に二つの武器という構成をしている。

 遠隔型は、腕の部分に弩のような筒が付いているタイプだ。左右二つの弩から貫通力の高い魔法を撃ってくるそうで、この魔法は全種共通の光線よりも強力らしい。

 それらを統率するのが指令型だ。このタイプは必ず盾オンリーの武器構成をしているそうで、逃げ回って嫌がらせ行動をしてくるそうだ。指令型の項については、最も多彩で詳細な対処法が書かれてあった。

 偵察型はその名の通り、豪雨と強風と落雷が乱れ舞う城外を見回っている。

 

 見た目と種別の記載にプラスして、機球兵の攻略法が書かれていた。

 機球兵にはサイズやタイプに関係なく丸い胴体の奥に核が存在するそうで、正面の光点に槍による刺突や貫通魔法をヒットさせると、核に当たって簡単に倒す事ができるらしい。

 また、機球兵の腕は非常に脆く、弱い攻撃一発で破壊可能であるとも。機球兵の持っている盾は物理も魔法も反射してくるが、一部状態異常や付帯効果は盾越しにも通るらしい。当然として、機球兵に何が効いて何が効かないかという記載なんかもあった。

 その他、偵察型に見つからない方法や見つかった場合の対処法。大型機球兵が出現する場所の共通点といった雑記まで載せられている。

 

 それら新迷宮に関わるあらゆる情報が、ただ一党の働きによって紙束になって提出され、日に日に枚数を増やしまだ増える予定であるというのだ。

 受付おじさん視点、一体どこの魔物学者だよといったところだった。

 

「すごいっすよね~。一人でこんなに暴いちゃうなんて」

「まぁな」

 

 攻略本を読んでいると、受付おじさんは新人職員に話しかけられた。

 そんな新人に返答するおじさんは、何故だか心底気持ちよさそうなしたり顔を浮かべていた。

 

 この受付おじさん、イシグロが冒険者になった日から半ば専属職員的な役割をやっているのだ。職歴の浅い新人からは、割とリスペクトされていて、当人的にも満更でもない境遇だった。

 イシグロが活躍すると、おじさんの株も上がる仕組みなのである。尚、そう思っているのは受付おじさんだけな模様。気負わず奴と話せるのは凄いけど、それとこれは別だった。

 

 黒剣のリキタカは、過去を持たない冒険者である。

 気性は穏やかで人当たりがよく、いつも何処を見ているか分からない謎の男。誰とも組まず、ひたすら苦難に挑み続け、ただ戦績だけを積み上げる。その姿を見て、奴は“迷宮狂い”と綽名された。

 以前の受付おじさんは、イシグロは伝説を再現しようとしているのだと思っていた。しかし、今になってそうではない事を悟った。

 

 模擬戦を通して手ずから冒険者を鍛え、武術を修めるべくリンジュ共和国に向かい、先の催しでは王都に彼の師が呼ばれ西区冒険者に略式の鍛錬法術を教導したという。

 そして、今はこうして未知の迷宮を舗装している。

 

 伝説は過去に在って想うもの。

 自ら英雄たらんとしているのではない。己だけが強くても、世界を守る事はできない。

 イシグロ・リキタカは、英雄を創る者なのだ。

 

 事実として、奴の影響を受けた冒険者は大成の兆しを見せている。

 天才剣士トリクシィ。羊人少女カリッセの一党。無月流により覚醒した若き冒険者カント。

 新人だけじゃない。生来の荒くれ者や我の強すぎる冒険者達が、こと西区においては奇妙な協調性を発揮するようになっている。

 

 陰の功労者。栄誉なき日陰者。

 イシグロは、あえてそうなろうというのである。

 偏に、世界の安寧の為に。

 

「何たって、あいつは黒剣のリキタカなんだからな」

 

 例の攻略本を持つおじさんは、本当に気持ちよさそうな顔で言った。

 対し、若い新入り職員は、

 

「へー、イシグロさんって苗字あったんすね~」

 

 気の抜けた返事をした。

 新人職員には、いまいちピンと来なかったらしい。

 

 ちなみに、新人くん視点だと「あの人、そこまで考えてないと思いますよ」って感じだった。

 勘である。

 正解である。

 

 

 

 一方、イシグロから齎された攻略情報は、西区にいる冒険者達にも伝わっていた。

 

「むぅ~、盾を持ってる腕壊せって言われても、それどうすればいいのって感じなんだけど~」

「これは今の俺達には荷が勝つよなぁ」

「だね。けどいつかは行けるはずさ。僕達ならね」

「おう任せとけ!」

「おぅふ♡ 今は、いつかはですね♡ むほほ♡」

 

 神殿内にある特大テーブルの上、バラバラに散らばった攻略本の写しを前にそう言ったのは、羊人少女カリッセ率いる鋼鉄札一党であった。

 現状で上がっている情報だけでも、件の迷宮位階が上位である事は半ば確定しているようなものだった。加えて言うと主についての情報はまだ揃っていないので、例え迷宮の主が弱かったとしても最低でも銀細工……それも、ひと握りの上位銀細工しか踏破不可能であるように思われた。

 現在、件の新迷宮はイシグロ一党以外立ち入り禁止になっている。ある意味儲けを独占されている状況だが、ベテラン冒険者達ほど目先の金より情報を優先する傾向にあるので、攻略情報が日に日に更新されていく現状を良しとしていた。

 

「オイオイオイ……」

「死なねぇんだろうな、あいつ」

「おやおや、彼はまた面白い事をなさっているようですね」

「ゲゲゲッ! オデ、ココ、イキタクナイ!」

「迷路構造っつったら専門の斥候が必要だろ。イシグロはどうやってんだ?」

「あー、あいついつの間にか斥候技能修めてたんだよ。どこで習ったか知らねぇけど」

「マジかよ。もう美味ぇ依頼とか来ねぇ感じか」

 

 他方、ウィードやリカルトといった男性冒険者達は、例の迷宮の悪辣さに辟易していた。

 暫定上位の複合型新迷宮。屋外では常に嵐に晒されて、時折雷が落ちてくる。雨風を防げる城内は複雑な迷路構造になっており、主のいる部屋に進むには途中城外に出ないといけない場合もあるらしい。

 それだけならともかく、外を見回っている偵察機球兵に発見されると問答無用で大型機球兵を召喚されるというのである。

 控えめに言ってクソである。どれだけ実入りが良かろうと、今潜るのは絶対嫌だ。強者の男達はハナからイシグロ待ちの姿勢だった。

 

「城内では乱戦が多くなるようです。流石に、ぼく達二人で挑むのは難しそうですね」

「はい。ですが、私としては俄然興味がありますね。特にこの、機球兵が撃ってくるという貫通魔法……ええ、実に興味深いです♡」

 

 イシグロ待ちしているのは男共だけではなく、二人一党のニーナとクリシャナの美女コンビも同様だった。

 マップ構造の面倒臭さを嫌厭する男連中と異なり、彼女達は機球兵の強さにこそ注目していた。

 

 反射盾や隠匿性能の厄介さは言わずもがなだが、事前に分かっていれば然程の障害には成り得ない。けれども、イシグロが唱える機球兵への対処法がどうにもアテにならないというか、何か雑なのが気がかりだった。

 攻略本に曰く、機球兵は胴体の正面にある光点を攻撃すればいいとの事である。しかし、そもそもその光点から並みの弓矢を超える弾速の貫通魔法が飛んでくるのだ。その方法では一瞬彼我の射線が重なってしまい、飛び道具ならともかく近接攻撃では相打ちになってしまうではないか。

 俺には出来たから、お前等もそうしろ。丁寧で詳細な攻略情報なのは確かだが、こと魔物の対処法からはそういったイシグロの無関心さが滲み出ているように思われた。やってやれなくはないだろうが、そう容易でもない気がするのだ。

 しかし、である。イシグロに出来た事が自分に出来ないというのは、クリシャナ的にはちょっとモニョる。それに何より、ニーナが機球兵に興味津々のご様子なのだ。彼女が行くというのなら、どこまでもお供する所存であった。

 だからこそ、クリシャナはより詳細な攻略情報を待ち望んでいるのである。その間に、強くならねばとも決意していた。

 

 そして、夜が明けて……。

 

「あー、多分今日クリアできると思います。お待たせしてしまい、申し訳ありません」

 

 などと、迷宮狂いは宣った。

 意気込んでる訳でも、根っから自信に満ち満ちている訳でもない。

 宴に呼ばれて、「行けると思う」と応えるくらいの気軽さで、迷宮踏破を宣言していた。

 

「は、はあ。ご武運を……」

 

 あまり親しくない同業者からすると、イシグロ・リキタカは謙虚が過ぎて傲慢に見える事がある。

 戦功相応の英雄にしては、あまりに威厳が無さ過ぎるのだ。もっと偉ぶっていたり、もっと分かり易い性癖をしていたら、無駄に畏怖される事もないだろうに。

 しかし、西区の同業者は、奴の人柄を知っていた。春の奇行に関しても慣れていたのだ。当初の見立て通り、ちょっかいかけない限り奴は人畜無害な気質なのである。

 突飛な言動など今更で、ただ事実を言っただけ。あいつが言うならそうなんだろう、あいつの中では。例えそれが、過去を置き去りにする偉業でも。

 

 それでこそ、“迷宮狂い”である。

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンアタック超楽しい!

 

 新迷宮が見つかった日から、俺達は毎日件の迷宮を探索し、じっくりねっとり調査を進めていた。

 毎日のようにではなく、毎日である。なんか俺が迷宮の利益を独占しちゃってるみたいで申し訳ないので、その分しっかりと検証を行った。

 以下がその日程である。

 

 一日目、ステージギミックの検証と第一村人との戦闘。

 二日目、仮名・魔王城内部の探索。

 三日目、引き続き探索。偵察ドローンの検証を行った。

 四日目、ボスがいると思しき地下への道を発見できなかったので、放置していた最上階の謁見の間っぽいとこで門番的な機球兵を討伐。したらボス部屋へ繋がる道を発見し、部屋を確認して帰還。

 ボス部屋の確認はできたので、五日目以降は最上階へ向かう為の正解ルートと不正解ルートの調査・検証を行った。その結果、迷路の攻略に成功した。

 

 例に漏れず此処もローグライク仕様なので、転移する度マップの構成が異なる。

 しかし、この城には最上階へ続くルートに法則性があり、ちょうど何番出口みたいに正解ルートには魔物やオブジェクトの配置に共通点があったのである。

 この間違い探し的な検証にもレノは大活躍だった。当然、これも攻略本に挿絵付きで記載している。

 

 そんなこんな。

 

 本日は連続探索九日目、俺達はボス部屋に向かうべく最上階は謁見の間にやってきた。

 門番というか何というか、いわゆる中ボスである。そいつは既存の大型機球兵と同じ規格のようだったが、頭に角のある特殊個体だった。如何にも指揮官機って風体の角付き機球兵は、取り巻きの大中小機球兵と共に襲ってきた。

 で、今に至る。乱戦、乱戦ですよプロデューサーさん。

 

 機球兵は、個性豊かな魔物の中でも一等特殊な存在だった。

 ハニカム盾は物魔反射で、機球兵のブレードには武器破壊効果が付いている。両腕キャノン型は光点ビームと併せて宇宙戦争めいた弾幕を張ってきて、小さい奴は気づけばステルス・バクスタを狙ってくる。情報だけを見ると、なかなか強そうな魔物だ。

 が、割と余裕である。

 

「そぉい!」

 

 肝要なのは役割と順番。俺は左右の手に持った短剣を【投剣】し、後列にいた二体の遠隔型機球兵の光点を貫き存在の核を破壊した。

 投げたのは投擲特化のドワルフ製短剣ではなく、武器屋で売ってた数打ち品である。弱点さえつけばこの程度で済ませられるのだ。

 

「グーラそっち行けそう!?」

「大丈夫です! お任せください!」」

 

 角付きの中ボス機球兵は、グーラに相手をしてもらっていた。ぶちぬき丸未装備のグーラは、鎖を使ってアクロバティックに動いている。

 対する中ボス君はちょこまか動き回るグーラを捉える事ができず、かといって無視もできないようで、それはもう見事に翻弄されていた。時折雷キックを入れられている始末でちょっと哀れである。

 

「ん、動きが単調だから当てやすい」

 

 純白の翼を広げてホバリングしているレノは、盾を持っていない機球兵をワンショットキルしていた。全ての射撃がビューティフォーだ。

 圧縮光弾が迸る度、中ボスの取り巻きが消えていく。さながら凄腕ガンマンか、あるいは某乱れ撃つぜさんといったところ。機球兵のビームを最低限の動きで回避してるあたり、まさしく天上人の戦いである。

 

「しゃあ腕斬ったッス!」

「ナイスゥ!」

「役目ッスからね!」

 

 で、中ボス戦に限らず機球兵との戦いで活躍しまくってたのが、誰あろうルクスリリアだった。

 彼女の武器は蛇腹性能付きの大鎌であり、空中機動を組み合わせて立ち回れば例の厄介盾を掻い潜ってアームを攻撃する事ができたのだ。

 空間狭しと飛び回り、変態機動で大鎌を振るう姿は、淫魔というより死神だった。

 

「盾無くなったのじゃ!」

凍てつけ(・・・・)……!」

 

 盾を失くした機球兵には、エリーゼとイリハによる遠隔攻撃が突き刺さる。一撃で倒せなくても、追撃の圧縮光弾やルクスリリアの大鎌攻撃でトドメが刺せるのだ。

 この迷宮を探索するにあたって、エリーゼには氷杖を使ってもらっている。理由としては、毒やら睡眠やらを無効化する機球兵が凍結デバフを食らってくれるからだ。しかも割と低耐性なので、普通の魔物より簡単に凍ってくれる。同じ理由で、イリハには雷の陰陽術で麻痺をバラ撒いてもらっていた。

 そんで凍ったり麻痺ったりしてる機球兵は俺とレノが核を貫いてぶっ殺すと。作戦が嵌ると気分が良い。

 

「グーラ! 攻めていいぞ!」

「了解! はぁあああッ!」

 

 取り巻きが居なくなったところで、角付きの相手をしてもらっていたグーラに指示を出す。一転、攻勢に出る所存。

 俺は装甲破壊特化短剣の虎鮫を投げ、此方から見て右側の逆関節脚を破壊。投擲と同時、グーラは角付き機球兵へ向け跳躍し、そいつが保持していた盾のアームを空中回転電撃踵落としで蹴り壊した。

 

「魔法なんざ使うまでも無ぇッス! ヒャッハー!」

 

 ルクスリリアの大鎌が伸び、残る盾アームを切断する。迎撃ビームを避けるグーラの背後、遠隔組の魔法が残った脚に直撃し、よろけたところにレノの圧縮光弾がヒットして、角付き機球兵の核を穿った。

 弱点を貫かれ、核を破壊された角付き機球兵は数度痙攣し、やがて光点を消して倒れ伏した。他の魔物同様、その身体が青白い粒子に還っていく。

 戦闘終了。残心しながら周囲を見渡すと、広々とした空間に機球兵共の通常ドロップが散乱していた。

 

「はい、お疲れ~」

「んひょー! こんな楽して大金集まるなんて最高ッスね~!」

「ん、強いけど楽勝。不思議」

「油断禁物ですよ。ご主人様、集めてきました」

「ほい、こっちにも転がっておったのじゃ」

「ありがとう」

「綺麗よね、それ」

 

 皆が集めてきてくれた機球兵のドロップアイテムは、ぼんやり光る赤い正多面体水晶だった。

 面白いのがこれらドロップにも法則性があるようで、小型が落とすのが正四面体。中型が落とすのが正六面体。大型が落とすのが正八面体。そんで角付き機球兵が落とすのが正一二面体である。多分、ボスドロップは正二〇面体だろう。

 エリーゼの言う通り、結構綺麗なザコドロップだ。転移神殿にある売価査定魔道具の宝秤君はそれほど高値を出してはくれないが、研究用に使うからとギルドが高価買取してくれるのだ。実際ザコドロップだけでガッポガッポである。

 

 実際、俺達からすると、機球兵との戦いはそう難しいものではなかった。

 部位によって耐久力が大きく異なる機球兵だが、真ん中の弱点にヒットさせれば大抵一発で倒せるのである。それを意識して立ち回れば、ビームも乱戦も怖くはない。唯一警戒すべきなのは例の反射盾で、それはルクスリリアが文字通りに刈り取ってくれるから無問題。ここまでルクスリリアが活躍する迷宮が他にあっただろうか。

 迷路や奇襲こそ厄介だが、戦闘はむしろ難易度が低い。この迷宮は、感覚的に上位だけど難易度はそんなに高くないかなと。

 それもこれも、ボス次第ではあるんだけども。

 

「消耗は?」

「大丈夫です」

 

 という訳で、今日この日はついにボスへの挑戦である。

 俺は角付き機球兵が座っていた玉座っぽいオブジェクトをヤクザキックで押し出した。するとそれはゆっくりスライドしていき、地下へ続く通路を現した。ボス部屋へ繋がる隠し通路である。このギミック見抜けなかったら一生迷ってたと思う。

 そのまま列になって先を往く。通路は狭い螺旋階段になっており、道中は機球兵が襲ってくる事はなかった。しばらく歩いて広めの空間に着くと、ちょうど真ん中に大型トラック一台分くらいのブロック床があった。

 アレである。ファンタジー作品お馴染みの謎エレベーターである。全員集まってエレベーターに乗ると、それは徐々にリフトダウンしていった。今のところ、下ってる最中に妨害してくる魔物はいなかった。

 

「さて……」

 

 エレベーターが下へ参り切ったところで、俺達はボス部屋の前に辿り着いた。

 ボス部屋の扉は、さながら大型倉庫のシャッターのようだった。チートが言うには、この先に迷宮の主がいるらしい。

 以前はボス部屋を確認しただけで撤退したのだが、俺達は今から迷宮の主に挑むつもりである。

 

 迷宮の仕様に則るのであれば、この先では機球兵に似たボスが出現するはずだ。

 だが、それこそ固定観念である。かもしれない運転で行こう。何があってもいいように、俺は万能直剣の無銘を提げ、ホルスターに銃杖をセットし、ナイフホルダーに短剣を装備した。一人第三次大戦の用意だ。

 

「行くぞ」

 

 言って。皆を見る。気合十分だ。エリーゼなど、クールなお澄まし顔の奥にあるワクワク感を隠せていない。

 ゆっくりと、ボス部屋の扉に触れる。すると、見上げる程に大きなシャッターは耳障りな音と共に自動で開いていった。

 

 少しずつ、ボス部屋の全容が露わになる。

 そこは、巨人が造った教会のようだった。

 教会と言っても、そこに荘厳なステンドグラスや長椅子や告解室といったものは無い。だだっ広い空間の左右には円柱が等間隔に列を成し、床も壁もこの迷宮を構成する素材と同じに見えた。木製の箇所など一つもない。要するに、無機質な冷たさがあったのだ。

 

 ちょうど協会の講壇がある位置で、一つの球体が鎮座していた。

 明らかに、大きい。これまで最大だった一軒家サイズを更新し、ちょうど一階分デカくなっている。

 真っ赤な一つ目に光が灯る。次の瞬間、奴の周囲の床からロボットアームが伸びてきて、ボス機球兵に武装を取りつけていった。四つ腕、いや六部位装備だ。

 

 右腕武器、武器破壊効果のある物理ブレード。

 左腕武器、ハニカム構造の反射シールド。

 左右の肩には貫通属性のビームキャノン。背中に偵察ドローンが装備していた飛行ユニットが取付けられ、それは蜂の翅に似たエフェクトを展開。重たい起動音を唸らせ、真っ赤な光点の輝きが増す。そして、そいつは立ち上がった。

 丸い体を支えるような、放射状に生えた四脚で。

 

「……そこは逆脚を貫けよ」

 

 ともかくとして……。

 楽しいボス戦の始まりだ!




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