【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。
 誤字報告もありがとうございます。本当にいつも感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は一人称、イシグロ視点です。
 よろしくお願いします。


ロリとチェンソー

 チェーンソー。それは熱き冒険者達の嗜み。

 チェーンソー。それは人生の縮図。漢のロマンである。

 

 そんなこんな。

 

 迷宮踏破の熱も冷めぬ中、俺達は西区ギルドの鍛錬場にやってきた。

 ボス機球兵がドロップした深域武装――チェーンソーめいた武器の検証の為である。

 

「ごめんね、付き合わせちゃって」

「いやアタシ等的にはいいんスよ」

 

 勢い余って来たものの迷宮帰りで時刻は夕方、当然として軽く済ませる予定である。

 早速、俺は収納魔法に入れておいた件のチェーンソーを取り出し、勇者が聖剣をそうするように片手で頭上に掲げてみせた。

 

「まさに悪党の武器って感じッスね」

「禍々しい形ね……」

「その形でまともに切れるのでしょうか?」

「これが回るんじゃもんなぁ。夢に出てきそうじゃ」

「ん、使い物になるの?」

 

 改めてチェーンソーを見た一同は、各々感想を述べていた。見た目が見た目だからか、あんまり女子ウケは良くない模様。

 チェーンソーチェーンソーと言ってはいるが、深域武装として現出したコレは俺の知っている動力工具とは大分見た目が違っている。

 まず前後のハンドルがなく、スターターグリップもなければ燃料タンクもない。ざっくり言うと、この深域武装は片手で扱う用のハンディ・チェーンソーを大型化したような見てくれをしていたのだ。

 ギリギリで剣カテゴリーに滑り込んでいるようなゲテモノ剣。要するに、チェーンソーではなくチェーン・ソードなのだ。間違っても剣道型はできそうにない形である。

 

「よっと、ほいっとな」

 

 そんなゲテモノ剣をチート任せに振り回してみる。

 同じ剣カテゴリーでも、重心の位置が異なる都合で無銘とは使い勝手が結構違う。しかしモーションアシストは機能していたので、慣れてなくても慣れた動きが出来ていた。

 振った感じとしては、グリップの形も相まって某最終幻想八作目の主人公の武器みたいである。いやアレを振った事はないんだけども。

 

「性能はどんなもんスか? ご主人には分かるんスよね?」

「ちょい待ち」

 

 振り心地を確かめたところで、次は性能チェックである。

 俺はコンソールを起動し、手に持ったチェーンソーモドキを調べてみた。

 

 

 

◆ギードの鎖鋸剣◆

 

 物理攻撃力:1

 

 異層権能:鎖鋸廻転

 

 補助効果1=自動修復

 補助効果2=装甲貫通(大)

 補助効果3=防御貫通(大)

 補助効果4=部位破壊(大)

 補助効果5=装甲破壊(大)

 補助効果6=物体破壊(大)

 補助効果7=会心無効(物理)

 補助効果8=能力補正無効(全)

 

 

 

「んんっ!?」

 

 ビックリした。ビックリし過ぎて変な声出た。

 それくらい尖った……というか、癖の強い性能をしていたからだ。

 

「やっぱギザギザしてる分やべー性能してんスか?」

「あーいやぁ、どうだろう」

 

 真っ先に目についたのは、その攻撃力だった。その数値、圧巻の一桁である。

 エリーゼの複製剣やグーラの立体機動鎖を見てたから「まぁそういうタイプか」って感想で済んでるが、数値だけ見ると市販ナイフより心許ないぞコレ。

 

 この“鎖鋸廻転”って権能は、迷宮内で使ってみたから把握している。それこそチェーンソーみたいに、魔力を流せば刃部分が回転するのである。

 で、魔力で回るのは分かってるが、それによって如何なる効果が発揮されるかは不明である。鑑定チートはこういう時不親切だ。

 

 ずらっと並んでいる補助効果は、字面的に多分これ部位破壊特化の構成なんだと思う。装甲を壊すだの防御を貫くだのと、それはまぁ剣呑な文字列が並んでいらっしゃる。

 そして、この鎖鋸剣にはイリハの持つ太刀と同様にデメリット補助効果が付いていた。一つ目は、この武器での物理攻撃には会心の一撃が発生しないというものだ。クリアタッカーワイ、無事死亡。

 そんでもう一方が、もう名前からしてヤバい。なんと武器に乗るはずの全ステータス補正が無効化されるというのだ。要するに、俺が振ってもグーラが振っても同じ威力になるという事。

 

「以前ご主人様が仰っていたカスレアというやつでしょうか?」

「それもどうだろう。なんか、とにかく権能ありきの防御無視系みたいな?」

 

 ちょっと誤用だが、百考は一行に如かずだ。とりま使ってみましょうと、俺は試斬用のリンジュ竹を取り出し、地面に突き刺してセットした。

 それから竹の前に立ち、ギードの鎖鋸剣を担ぐようにして構えた。

 

「そい! あれ?」

 

 そんで斜めに振り下ろしてみた結果、鎖鋸剣は竹を切れなかった。それどころか、ギザギザが突き刺さる事もなかった。ノコの部分が引っかかっただけで、ロクなダメージを与えられなかったのである。

 異世界物理学的に、これはあり得ない現象である。その気になればお箸で竹を切断できる俺にとって、如何に切断に不向きなチェーンソーでも切ろうと思えば切れるはずなのである。にも拘わらず、その気で振った鎖鋸剣では傷一つとして付けられなかったのだ。

 やはり、膂力と技量のステータス補正が無効化されている。それによってモーション値が発生せず、攻撃力として出力されなかったのだろう。

 

「どういう事かの?」

「能力補正が消えちゃってるんだ。グーラ、一回使ってみて」

「はい」

 

 確認の為、パワー系ロリのグーラにも使ってもらう。その結果、彼女の剛力で振るわれた鎖鋸剣は先と同じく竹に切り傷一つつけられなかった。それどころか、地面に突き立った竹をほんの僅かも揺らせなかったのである。

 

「う~ん? なんだか不思議な使い心地です。力が抜けてる感じはないのですが……」

「やっぱ権能がミソか」

 

 異層権能を発動するべく、鎖鋸剣に魔力を流し込む。すると細かい振動と共にギザギザブレードが回転し始めた。

 少から多へ、感触を確かめるように魔力の注入量を調節してみる。どうやら、刃の回転速度は魔力消費に比例していくようだった。いっぱい籠めると超回転、ちょっとだけなら自転車回転ってな具合に。

 ついでに魔力を籠めれば籠める程チェーン部分の熱が強くなり、一定を超えると赤くなるようだった。いいねぇ、こういうギミック好きだよ俺。

 

「音が酷いわね……」

「あ、ごめんごめん」

 

 カラオケに入ってすぐの音量調節を思い出していたら、エリーゼが眉を顰めていた。慌てて回転数を下げていくと、例の爆音も小さくなっていった。

 確かに、権能使うとめちゃくちゃ五月蠅い武器である。調子こいて回してたら別エリアからモンスターが寄ってきそうな音量だ。

 

「え~っと?」

 

 いざ回転させてみたものの、これどう使えばいいんだろう。

 チェーンソーの切り方って、確か切りたい物に対してゆっくり添わせて削り切るって聞いたような? あと下手に使うと刃が跳ねて危険とか何とか。いやでも、しっかり振らないと戦いじゃ使えないだろうしなぁ。

 あれこれ色々と心配なので、一回目の試し斬りは普通のチェーンソーに近い感じでやってみる事にした。

 

「「「おぉ~」」」

 

 恐る恐るといった風に竹に刃を押し当ててみたら、回転するギザギザはやけにあっさりと試斬用リンジュ竹を両断してのけた。

 回転を止め、断面を見てみる。思ったより綺麗に切れてるな。それはいいんだが、この振り方だと迷宮では使えなさそうな。それこそこれじゃただの工具じゃんと。

 

「え~っと、どれくらい力籠めていいのか……」

「なにビビッてんスか」

「いやこれ、思い切り振っちゃうと跳ね返ってきそうで……」

「そうなのですか?」

「ん~まぁ、よし。男は度胸、なんでもやってみるもんか。エリーゼ、怪我ったら回復して」

「それはいいけれど……」

 

 もう一度リンジュ竹をセットして、某(スコール)くんのように振りかぶる。次いで権能を起動し、ギザ刃を回転させつつ斜め上から振り下ろした。

 すると、どうだ、ファンタジー・チェーンソーは抵抗らしい抵抗もなく硬い竹を一刀両断したではないか。

 スパーンと舞い上がる竹。ぶっちゃけ刀で切った方が綺麗にいくが、チェーンソー・スラッシュには何とも言えない爽快感があった。

 

「すごい切れ味じゃの。いや切れ味なのかそれ?」

「や、切ったというより削ってた。回るギザギザが竹に食い込んで、そのまま押し込んでった感じ」

「それにしても、とんでもない魔力消費ね。一回振るうだけで相当吸われているわよ」

「まぁ魔力消費は調節できるんだけどさ。う~ん、けどスパッと切るなら大量の魔力が要りそうなんだよなぁ」

「うぇ~、戦ってる最中にそんなん考えらんねぇッス!」

「ですが、ご主人様なら使いこなせるかと」

 

 そんな感じで、魔力消費や威力を検証すべく色んな物を切りまくる。

 竹に丸太に鉄の杭。深域武装のチェーンソーは硬いモンだって構わず両断し、果ては鍛錬場の壁に深々と跡を刻んでのけた。

 流石ファンタジーのチェーンソー。マジで神様殺せそうな性能だ。

 

「いいねぇ~」

 

 予想通り、物体の切断スピードは回転数もとい魔力消費と比例するようだった。

 同じ竹でも、低回転時は明確に遅く、高回転時は刀と同じくらい。興味深いのが、竹でも鉄杭でも高回転斬りでは両方大した抵抗もなく切る事ができたところだ。

 恐らく、貫通系補助効果が関係しているものと思われるが。

 

「アナタ、魔力大丈夫?」

「あ……」

 

 と、頭チェーンソーになってて気付けなかったが、調子に乗って鎖鋸剣を振り回していた俺の魔力は八割近く減少していた。

 こいつ、気を付けないとスッカラカンになるまで使用者の魔力吸ってくるな。闇系の魔剣か何か? 一応耐久度を見てみたが、特に変化はないようで安心だ。

 

「エリーゼ、試しにこれ使ってみて」

 

 という訳で本日最後の検証だ。超魔力の持ち主であるエリーゼに使ってもらい、その限界を調べようというのだ。魔力を流した分だけ切れ味が増すなら、エリーゼにこそ相応しい武器かもしれないし。

 

「まぁいいけれど……」

 

 当の本人は気に入っていないようだが。

 それは置いといて、鎖鋸剣を受け取ったエリーゼは、純粋魔力を流して異層権能を発動させた。

 無事に起動したのはいいんだが、かなり加減しているようで刃は幼児の乗った三輪車程度しか回っていなかった。

 

「そのまま限界まで流してみて」

「ええ……これくらいかしら?」

 

 瞬間、鎖鋸剣を握るエリーゼの手から大魔王の如き莫大な魔力が溢れ出た。

 魔王の意に応えるように、ギードの鎖鋸剣が回転数を増していく。やがて赤熱していた刃は青白くなり、耳の限界を超えて無音になった。グーラとイリハが耳を垂れさせている。ちょっとヤバいか、そろそろストップさせよう。

 

「あら?」

 

 と思ったら、さっきまで元気に回転していた鎖鋸剣は急にその動きを止めてしまった。

 見ると、停止してなお赤熱しっぱなしの刃がモクモクと熱を吐いていた。あからさまにオーバーヒートである。どうやら、魔力の籠め過ぎも良くないらしい。

 

「ど、どうでしたか?」

「優雅じゃないわ。私には合わないわね……」

「けど割と似合っとったのじゃ」

「ん、同意する」

「知らないわ。それに、私にはお祖父様から頂いた剣があるもの」

「先に言っとくッスけど、アタシも結構ッスよ。ああも魔力吸う武器は流石に勘弁ッス」

 

 未だクールタイム中の鎖鋸剣を受け取り、改めてこの武器について考えてみる。

 攻撃力はほぼゼロで、けれども破壊力は超一級。攻撃時には必ず権能を使う必要があり、実用に堪えるムーブをするには多大な魔力を消費する。

 お世辞にも問答無用のチート武器とは言えないな。羊人少女一党のディエゴ君が持ってる大剣と比べれば何をかいわんや。けどロマンは勝ってる。

 

「常に使うのは厳しそうですね。継戦能力が低すぎます」

「ガチで使うなら必殺技運用かな」

 

 この武器を使うとしたら、ここぞという時の必殺技として運用するのが最適だと思う。

 あるいは、ガン盾ボスとかガチタンボスとか部位破壊前提ボスとか、そういう奴を殺すのに使えそう。

 そんな感じかな。

 

「ん?」

 

 部位破壊が効いて、装甲が硬くて、ガン盾してくる奴?

 ……おるやんけ。

 

 

 

「ヒャッハーッ! ぶち殺してやらぁーッ!」

 

 と言う訳で、数日間英気を養った俺達は、機球迷宮と名付けられた例の新迷宮にやってきた。ギードの鎖鋸剣の実戦検証の為である。

 最初は下位迷宮で慣らすべきかと思ったが、鎖鋸剣の仕様的には此処が一番しっくりくるかなと。

 んで、軽くザコ殴って帰ろうと思ってたんだが……。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

 めちゃくちゃ余裕だった。

 余裕だったので、ガンガン進んだ。

 

 ステルス機球兵のバクスタ攻撃をジャスト回避し、高速回転する鎖鋸を振るって装甲諸とも核を斬る。鮮血のように火花を散らした機球兵は、赤熱した断面を晒して青の粒子に還っていった。

 続いて四つ盾持ちの大型機球兵に接近し、真正面から鎖鋸剣を叩きつける。普通に盾に防がれるが、元より低火力の鎖鋸剣の威力なんざ反射されてもほぼノーダメなので無問題。魔力を流して回転を増すと、ハニカム反射盾は真っ二つになった。

 

「死ねぇえええええ!」

 

 都合四撃、四盾破壊。丸裸になって姿勢を崩す機球兵に一歩踏み込み、唸る鎖鋸をぶち当てる、

 逃げようとする逆脚を切り飛ばし、ビームを発射する寸前だった光点を削り潰し、拡げた切れ目に銃杖を突っ込む。そして、中心核へ魔法を放った。結果、核を破壊された大型機球兵は、やけにあっさり粒子に還った。

 

「まさに狂戦士ね。とても素敵だわ……」

「なんだか怖いです……」

「でも効率良い」

「それはそうじゃが」

「楽できていいじゃないッスか」

 

 まさに、鎧袖一触。罠も妨害も何のその。俺達は迷路めいたダンジョンを進みに進み、勢いそのままガン盾門番を殴殺し、魔力を回復してからボス部屋へ移動。シャッター開けてご対面だ。

 一度目と同じ、教会めいたステージ。神父のいる所で起動した機球兵――機球鉄将と名付けられた――に、どんどん武装が取り付けられていく。武装の数は前回と同じ六つで、武器構成が異なっていた。左右の手に剣を持ち、両肩と背部に見た事ないデカい弁当箱みたいなのがあった。

 次の瞬間。四つの弁当箱に穴が開き、中から大量のレーザーが飛んで来た。その軌道は既存のビームとは異なり、放射状に広がって此方を追尾してくるホーミングスタイルだった。

 

「パターンC!」

「結局ガン攻めじゃないッスか!」

 

 こういう攻撃は下手に避けると余計危ない。なので、俺達はボス目掛けて一直線に突っ込んだ。

 走りながら二つの短剣を【投剣】し、隙を作って急接近。間合いに入ると同時、居合のように収納魔法から鎖鋸剣を取り出し、横薙ぎの軌道中に満身の魔力を籠めていった。

 球形胴に回転刃が食らいつく。爆発めいた火花を散らし、けれど抵抗は無かった。一撃、退避する機球兵の胴体に横一文字の傷をつけた。ダメージに怯んだか、機球鉄将は近接武器を振ってバックステップした。

 

凍てつけ(・・・・)……」

 

 そこにエリーゼの吹雪魔法が直撃する。健常な状態なら、特にダメージらしいダメージは与えられなかっただろう。しかし、今回は事情が異なる。俺がつけた傷に竜の冷気が侵入し、あまりにも呆気なく核を凍結させ、やがて動きを止めたボスはゆっくりと粒子に還っていった。そして、帰還水晶が出現した。

 勝利である。ヴィクトリーである。ボスの身体が消えていく中、明滅する光点がじっと俺を見てた気がしたが、恐らくメイビー錯覚だろう。一分切ったかな? 多分これが一番早いと思います。

 

「うわマジで決めちゃったッスよ」

「えぇ? まだ式編んどる途中なんじゃけど……」

「ボク今日何かしましたっけ?」

「ん、走ってた」

「物足りないわね……」

 

 ギードの鎖鋸剣。

 火力があるような、無いような。普段使いはできないけれど、装甲に自信ニキのアイデンティティを叩いて壊す深域武装。この武器、俺によく馴染むぜ。

 ともかく、俺は強力な必殺技を得た訳だ。全ゲージ消費が朱鷺流れなら、鎖鋸剣乱舞は二ゲージ消費技かな。ガー不の突進掴みで、ヒット後は防御力低下とか。素直にクソゲーである。

 

「じゃあな!」

 

 こうして、二度目の機球迷宮は踏破された。

 機球迷宮くん、素敵な武器をありがとう。

 これだから迷宮探索は止められない。

 

 

 

 

 

 

 冷たい風が吹かなくなって、遠からず春が終わる頃。

 鍛錬も迷宮探索も無い、何て事もない休みの昼。自宅のソファーに座り、俺は愛しの仲間達とイチャついていた。

 

「ちゅ、ちゅ、ちゅっ♡ マスター、んむ♡ 温かい……ちゅ~♡」

 

 左を向き、レノと軽いキスを交わす。ちょんちょんと唇をくっつけたり離したりして、時折ほっぺを擦り合いつつ互いの愛情を共有する。

 右腕ではエリーゼを抱いていて、彼女は俺の身体に体重を預けていた。月光を束ねたような銀髪は、今日も俺の指を受け入れてくれた。

 そして、正面の足にはルクスリリアがしなだれかかっていた。彼女は俺の右膝に頭を乗せ、ワインのテイスティングでもするように股間の匂いを嗅いでいる。

 

「レノ、そろそろ交代ッスよ♡ はぁい、ちゅ~♡」

 

 レノとのキスを止めて正面を向いた瞬間、唇を覆われる。ルクスリリアの小さな口に、はむはむと俺の上唇が食まれている。淫魔の鼻から甘い声が漏れている中、左の頬からレノがちゅっちゅっとほっぺチューをしてきた。

 快楽と幸福感に身を任せていると、俺の口内にニュルリと舌が入ってきた。反射的に応じると、淫靡な舌は俺の口の中で挑発的に弧を描いていた。

 

「こら、それ以上はダメでしょ」

「んちゅぅ……はぁ♡ きひひ♡ つい気持ち良くなっちゃって♡」

 

 そのままディープキスに移行しようかという寸前、エリーゼに阻止された。お昼ご飯を前にした今、あまりエッチな雰囲気を作るべきではないだろう。

 とはいえ。まだまだキスをしたい。順番通りにエリーゼの方を向いたら、彼女の白い人差し指が俺の唇に当てられた。

 

「待ちなさい」

 

 優しい声音で、ストップをかけられた。圧はなくとも、彼女の言葉には思わず従いたくなる魅力がある。

 言われるがまま待っていると、彼女は俺の唇から離した人差し指を見せつけるようにぺろりと舐めて、再度俺の唇に当てがった。

 

「アナタが私達を愛してくれているのは分かっているわ。未来の為に力を求めているのもね。けれど、少し焦り過ぎよ……」

 

 お口チャックをするように、俺の唇を甘い指がなぞっていく。

 澄んだ青空のような瞳に、俺の間抜け面が映っていた。やがてその目は三日月になり、鈴の音のような笑声を漏らす。

 そして、指を戻したエリーゼは、再度見せつけるように自身の人差し指を舐めた。

 

「……毒の味がするわ」

 

 愛? 焦り? いきなりの「待て」に困惑する俺だったが、毒と聞いて思い当たるものがあった。

 迷宮毒。あるいは迷宮の狂気。魔物を殺し過ぎると心を病ませる遅効毒。

 ここにきて、俺はようやく彼女の言わんとする事が理解できた。つい最近、それに罹った女性を見たばかりである。

 要するに、彼女の言う「待て」の意味は、そう(・・)ではなかったというのである。

 

 確かに、ちょっと焦っていたかもしれない。

 準備した上で炎爪に苦戦し、前準備もなく武闘家猫又と予期せぬタイマンを張り、旧魔王軍とかいうやべー組織の存在を知ってしまった。

 そうなると、普段からやってるレベリングや鍛錬に必要以上の力が入ってしまう。歩み続けるのはいいが、焦って駆けていたのだろう。

 実際、当座の課題は鎖鋸剣で解消した訳で。

 

「あーっと、勘違いしないで欲しいんスけど、アタシ等が迷宮ついてくのがイヤって言うんじゃないんス。ご主人じゃないッスけど、強くなるのは楽しいもんッスから」

「ただ少し休養が必要だと思う。わたし達じゃなくて、マスターに」

 

 そうして思い返していると、左と正面から優しい声をかけられた。

 知らず知らずのうちに、心配させてしまっていたのかもしれない。ホウレンソウといっても、報告内容を自覚してないんじゃ仕方がないか。

 

「……そうだな」

 

 今。気付かせてもらえたのだ。なら、これから改善できるはず。

 百功は一幸に如かず。考えて行動して成果が出たのだ。そろそろ気を緩めてもいいだろう。

 

「分かった? なら、ん……♡」

 

 そっと瞼を閉じるエリーゼの唇に、俺は優しく口付けた。

 毎日しているキスは、いつでも俺の心を溶かしてくれる。本当、彼女達がいないと俺はまともに生きられない。

 

「な~んかエリーゼっていつも良いとこ持ってくんスよね~」

「エリーゼ、悪い女?」

「ちゅう……んふぅ♡ ふふっ、ええ。そうかもしれないわね」

 

 この手にある温もりこそ、俺の生きる意味そのものだ。

 シリアスに寄り過ぎると今を大事にできない。富も力も戦いも、幸せになる為にあるはずなのだ。

 

「お昼出来たのじゃ~……って、真昼間から何を盛っとるんじゃ」

「ズルいです! ボク達がご飯作ってる間に!」

 

 そうやって暫くイチャついていると、イリハとグーラが昼ご飯を運んで来た。

 イリハの持つ盆には沢山の小皿があり、グーラの両手にはこんもり盛られたチャーハンがあった。

 

「ごめんごめん。じゃあ、冷める前に食べよう」

 

 という訳で、一党の皆で食卓を囲む。

 相変わらず、イリハの作るご飯は美味しい。火力が重要なチャーハンも、グーラの炎のお陰で最高のパラパラ加減である。

 

「近いうち長期休暇に入ろうと思うんだけど、皆は何かしたい事ある?」

 

 食事中、何となしに話題を振ってみる。

 張り詰めてた精神を自覚し、心を休めると決めたはいいが、さてどうしようと思ったからだ。今こそホウレンソウである。

 

「って、言われてものぅ。あ、主様お茶取って欲しいのじゃ」

 

 グーラが行きたがっていた博物館には先日行ったばかりだし、花壇でいっぱいの植物園も一日かけて見て回った。カジノ然り闘技場然り、王都にはまだまだ観光スポットがあるのだが、全体的に熱気が凄くて落ち着かないんだよな。

 どっちかというと、今はゆっくりしたい気分である。そこで皆はどうよと訊いたところ、ややあって口を開いていった。

 

「ボクは美味しいご飯が食べたいです!」

「わたしは皆と一緒にいたい」

「アタシは……」

「それ以外ね」

「まだ言ってないッス!」

「そうか。俺も一緒だ」

 

 欲が無いというか、何というか。

 少なくとも、俺は皆と一緒なら幸せなんだよな。

 けれどもそれは俺がロリコンだからそうなのであって、より楽しく過ごすなら日常の中に非日常は歓迎して然るべきだと思うのだ。

 

「イリハは?」

「そうじゃのぉ」

 

 休むように言っても二四時間働き続ける勤労キツネに問うてみると、彼女はもやしの和え物を食べながら唸っていた。

 もぐもぐ、ごっくん。しっかり噛んで嚥下した後、彼女は明後日の方向を向いて口を開いた。

 

「温泉でゆっくりしたいかのぅ」

 

 働きたがるイリハだが、休みたくない訳ではない。こうして言ってくれたなら、そうすべきだと思う次第。

 なるほど……温泉、温泉か。いいね。俄然そういう気分になってきた。

 

「よし、リンジュ行くか」

 

 考えてみれば、いい機会かもしれない。

 今は王都にドワルフいないし、近いうちにシャロもアルヴの森に行くらしいし。

 また戦い関係になってしまうが、ゲルトラウデ師匠に鍛え直してもらうのもいいだろう。言ってた通りなら、今の銀竜道場にはトリクシィさんもいるはずである。それに、グーラじゃないがリンジュには美味しい食べ物がいっぱいあるのだ。

 

「温泉って何?」

「天然のお風呂よ。前にニカノル大浴場で入ったでしょう? あんな感じよ」

「そうか、レノは天然温泉はまだ入った事ないか」

「リンジュのご飯、楽しみですね。お寿司に、お刺身に、天ぷらに……」

「お揚げじゃな! やはり本場リンジュの厚揚げが食べたいのじゃ!」

「うおっコイツ急にテンション上げてきたッス!?」

「リンジュに行くのはいいけれど、途中でフライシュ領にも寄りましょう。蜂蜜酒(ミード)を補充したいわ」

「ご主人様の料理がお店に並んでいるかもしれませんね!」

「どうせなら新しいレシピ渡してやるッスよ。あのアレ、名前なんだっけ? 平たいやつと、ネトネトの酸っぱいソース」

「ん、お好み焼きとマヨネーズ?」

「一応レシピは用意してるけど、黒い方のソースが未完成でさ。あと今更ながら食中毒とか大丈夫かなって」

「貧弱なのね、地球の人類は」

「フライシュは果物が美味しいんじゃよな~」

「アップルパイ、レモネード……春ならフライシュ・パインも旬でしょうか」

 

 で、方針が決まれば出るわ出るわやりたい事。

 うんうん、なんかワクワクしてきたぞ。

 

「じゃあ、これ食べたら準備を始めようか」

「家の掃除と片付けと、あと何かありましたっけ?」

「ギルドで手続きじゃな。国跨ぐ訳じゃし、ちゃんと報告せんと」

「別に義務ではないはずだけれど?」

「義務じゃないけど、一応な」

「シャーロットにも言っとくべきッス」

「ん、いきなり発つのはダメ。挨拶は大事」

 

 こうして、俺達の慰安旅行は決定したのだった。

 行き先は前と同じリンジュだが、今は旅より旅行の気分である。

 ヴィーカさんのアドバイス通り、心を宝として生きていこう。




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 某狩りゲーで言うと、鎖鋸剣は一発で尻尾切れる感じの武器です。
 なので、首が切れると死んでしまう生物には特効の激ヤバ武器です。ちゃんと殺すにはちゃんと切る必要がありますが。
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