【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
なので、このエピソードは避難所にある「リンジュにロリで行けるから」の続きとなっております。気になる方は先に其方をどうぞ。
別に読まなくても大丈夫な内容だったりするので、後書きの方に三行でまとめときます。
一応、ネタバレ注意です。お気をつけください。
言わずもがな、冒険者は箍が外れている。
一言で箍が外れていると言っても、そのイカれっぷりは個人差が激しく、一見普通そうでも実はやべーやつだったなんてのはままある事だ。
例を挙げると、理由もなく自身を人民の姉と定義したり、己の中の正義感に盲目的になったり、特定の物品や人物への執着が強くなったり。
常人には理解し難い基準で動く迷宮潜り達ではあるが、それらの多くは人類が持つ普遍的欲求に基づいている。
地球人同様、異世界人にも三大欲求というものが存在する。
睡眠欲、食欲、性欲。この三つの欲望の肥大は、大なり小なり殆どの冒険者に当てはまるものである。
事実、いくつか迷宮を踏破した冒険者は、以前より多量の食事を欲するようになるのだ。迷宮探索の後は性欲が増すし、寝ようと思えば何処でも眠れる。
中でも、食欲の肥大は最もメジャーで穏当なイカれと言えた。
食いしん坊冒険者は、美食タイプと悪食タイプの二種類に分かれる。前者はより美味しい食べ物を追い求めるようになり、後者は質より量の大食漢になるのだ。両者ともに食事への執着は同等だが、似て非なる欲望を抱いている。
一般的には、前者の美食タイプの方が温厚な気質を持つ傾向にあり、ラリス王国的にも有益冒険者とされている。極まった悪食タイプの場合、最終的に家畜を襲ったり食人に走ったりする可能性があるので、お上的には要注意なのだ。
「すぅ~、はぁ~! うんうん、この空気! やっぱリントは良い匂いがするなぁ!」
ラリス王国はフライシュ領、迷宮都市リントの広場に、うんと伸びをして深呼吸する美女の姿があった。
この者もまた、食道楽冒険者の一人である。
「まさに第二の故郷! 魂の還る場所ね!」
鮮やかな橙色の髪に、ピンと立った猫耳。腰に二本の山刀を下げ、尻の上から猫の尾が伸びている。その双眸は猫系獣人特有のもので、キラキラとした輝きは常と変わらぬリント市の風景を反射していた。そして、惜しげもなく晒された豊満な胸には、ラリス様式の銀細工が下げられている。
彼女の名はモニカ。二つ名を“巡り舌”。人呼んで、巡り舌のモニカである。獣人が治めるグゥイネス部族連合出身、大猫族の銀細工持ち冒険者だ。
巡り舌という二つ名は、彼女が世界各地の美食を食べて回っている事から付けられたものである。その名の通り、モニカは典型的な美食タイプの食道楽冒険者だ。
旅費が少なくなってきたらその土地の冒険者と共に迷宮に潜り、稼ぎ次第離脱してまた美食巡りの旅に出る、銀細工を授かって以降、彼女はこのスタンスを曲げずに生きていた。
「さて、そろそろお祭の品が流れてるはずだけど、その前に……」
時刻はそろそろ正午を回る。つまりお昼ご飯の時間だ。リント市の中心で、モニカは周囲を見渡しながら舌なめずりした。
財布には余裕がある。隣町から歩いてきたので、彼女のお腹はペコちゃんだ。しかし、このまま腹を満たすのは巡り舌の流儀ではなかった。
「一泊風呂付き。今から入るから、沸かしてくれる?」
食前、一番辛い時である。空腹のモニカは風呂付きの宿を取り、熱い湯を使って旅の汚れを落とした。その間に宿の魔術師に旅装束兼迷宮用装備へ【清潔】をかけてもらう。湯に浸かってさっぱりしてから、諸々の身だしなみを整えたモニカは今一度街に繰り出した。
屋台でも、高級レストランでも、料理人には敬意を払う。その一環として、彼女は食事の前に身を清めるようにしているのだ。
「なぁに食べよっかな~。とりあえず、最初のご飯は心のままに~っと」
そうして飯の支度を整えたモニカは、くんくんと鼻を利かせてリント市の匂いを嗅いだ。
ただ空腹を満たすだけなら、その辺の屋台でいいだろう。それはそれでリント市の醍醐味である。どうしようかと腹に問いかけてみたところ、彼女の腹は「何か新しい料理が食べたい」と言うので、可能なら食べた事のない料理がいい。
美食より珍味。不味かった時は笑って流そう。そう腹を決めたモニカは、脳内で適当な店をリストアップしつつ、まだ見ぬ料理に思いを馳せた。
真新しい味と言えば、リンジュ共和国発祥の醤油と味噌が思い浮かぶ。
曰く、それらは然る御家の森人が開発したものらしく、誕生して以降は爆発的にリンジュ共和国全体へ広まっていった。この一年、彼女がリンジュを歩き回っていた理由である。
醤油の存在は、モニカにとって味の大革命だった。
調味料として刺身や豆腐に付けるのもいいし、出汁と共に蕎麦を啜るのも素晴らしい。かと思えば、甘くして団子に塗るのも、煮物の味付けに使うのも最高である。
同じく、味噌もまた良いものだった。
発祥国以外でもすぐに受け入れられた醤油と異なり、此方は見た目で敬遠する人がいるようだが、モニカは醤油と同等のポテンシャルを感じている。最近は白っぽい味噌も生まれたと聞いているので、時間と共に受け入れられていくだろう。
鍋や汁物に使うのもいいが、モニカ的に味噌は焼きモノとの相性が良いと思える。炭火で焼いたおにぎりに味噌ダレを塗れば、それはもう凄まじい美味だった。
「とりあえず、今はいいかな」
しかし、それらはリンジュ巡りの最中に食べ尽くした感がある。わざわざリント市に来て食べるものではないだろう。
久しくラリス料理やグウィネス料理を食べていない現状、可能ならリンジュ料理以外を賞味したいところだ。
「なら、やっぱりあそこかな」
屋台の誘惑に耐え続けたモニカは、馴染みの店へと向かって行った。
そうして辿り着いたのは、古びた看板を掲げる料理屋だった。
此処では、世界中の料理を味わえる。けれども食べさせる料理はその日の店主の気分次第で、場合によっては一年くらい閉まっている事もある。
その分、味の良さとメニューの真新しさは食道楽冒険者をして一級品と言わしめる程だった。美食最前線のリント市で看板を掲げ続けているのには、相応の理由があるのだ。
ちりんちりん、と。
扉を潜ると、控えめな鐘が鳴った。入った瞬間に、少し強めの香辛料の匂いがした。
古びた外装の割に、店の内側は小奇麗だった。決して広くはない店内に年季の入った木の机や椅子が並んでいる。そんな中、暖色の魔導照明だけは最新式で、そのちぐはぐさが店主の人柄を現しているようだった。
相変わらず、客の数は少なかった。カウンター席に黒髪の男と五人の少女が座っていて、他の席は空いている。子供連れかと思ったが、全員種族が異なっていた。刺激しないようチラリと見たところ、男は銀細工持ちの冒険者で少女達は奴隷身分だった。全員、やけに質の高い衣服を身に纏っている。
「どうも」
件の冒険者から最も離れたテーブル席に着くと、不愛想な魔族の店主はモニカの前にメニュー表を置いていった。
通常、庶民が訪れる料理屋には壁にメニュー表が掛けてあるものだし、店の看板からして何を食わせる店かは明白で然るべきである。しかし、この店は毎度客に簡素なメニュー表を渡すのだ。何故なら、この店のメニューの全てが常時店主の気まぐれ料理だからである。
「ん? 何だろう、これ」
そうそうこれこれと懐かしみつつ木板に書かれたメニューを見てみれば、そこには見慣れない料理名ばかりが載っていて、モニカの目は丸くなった。
カレーライス? ロースカツ? エビフライ? どれもこれも初めて見る料理だ。しかもどのメニューにも説明書きがないので、どれがどういうものか見当もつかなかった。
「どうぞ。カレーライス、辛口です」
「わぁ~、すっごく良い匂いです……!」
「ん、初手辛口とは豪気」
「そういやぁ魔族って辛いの好きな人多いんスよね」
その時、カウンター席に件のカレーライスが運ばれていくのが見えた。
そろ~っとメニュー表の端から覗き見ると、それは一つの皿に真っ白な米と茶色いスープがよそわれた料理のようだった。
カレーライスと呼ばれていた料理からは、入店時に嗅いだ香辛料と同じ匂いがした。複雑で、刺激的な香り。美食家で鳴らした獣人の鼻をして、如何なる香辛料が使われているか分からない。当然、味の想像もつかなかった。
ぐぅ~と、モニカの腹が鳴った。そうなれば、決まりである。
「店主、カレーライス一つお願い」
「辛さは?」
「辛さ?」
店主曰く、この店のカレーライスは甘口と辛口の二種類があるらしい。
さて、どうしよう。気分的にはガツンと香辛料の利いたカレーとやらを食べたいところだが、一番最初に辛いのを食べてしまうと舌が鈍るかもしれない。
であれば、迷う事はあっても悩む事はなかった。
「じゃあ、甘口でお願い」
「承りました」
言って、店主は厨房の奥に姿を消した。
店主が戻るまでの間、モニカは改めてメニュー表を見るでもなく眺めた。カレー以外にも、見慣れない料理名が並んでいたからだ。
どれもこれも、知らないものばかりである。名前しか分からないが、だからこそ楽しみである。どうやら今日は大当たりの日だったようだ。
「どうぞ。カレーライス、甘口です」
そうこうしていると、モニカの席にもカレーライスが届いた。
光沢ある器の中には湯気を立てる茶色のスープがあり、その隣に純白のライスが盛られている。なるほど、カレーとライスで一つの料理か。
強い香りを放っているカレーの中には、大きく切られた具材がゴロゴロしている。人参と芋と、鳥肉である。僅かだが玉葱も入っているようだ。
綺麗に磨かれたライスは、リンジュ共和国の米を使っているようだ。米の端っこには同じくリンジュの漬物が添えられている。
「ふむ……」
カレーライス、初めて食べる料理である。カレーと米が一緒に盛られているという事は、この二つを同時に食べる料理なのだろう。
とりあえず、ひと掬い分の匙にカレー半分ライス半分で食べてみる事にした
「ん~っ!?」
瞬間、モニカの口中に香辛料の嵐が吹き荒れた。
思ったより辛くない、思ったより甘くない。そこには美味と直結する要素だけがあり、一瞬にしてモニカの舌に香辛料の複雑な風味が押し寄せて来た。戸惑う程の香辛料の中には、カレーに溶けだした素材の味が確かに在った。
決して香辛料任せの味付けではなかった。カレーを構成する香辛料は、紛れもなく繊細で綿密な計算によって配合されている。同時、カレーと共に食べるライスがリンジュ米である事を、モニカは深く深く感得した。このモチモチとした米が、トロみのあるカレーとよく絡むのである。
「これは美味しい……!」
二口目。野菜の方はどうだと思ったら、軽く歯で押しただけでホロリと解れていった。ここはリント市にある隠れた名店である。しっかりと火が通っているのは当然として、強い香辛料に野菜の甘味が負けていない。
肉も同様だった。どうやら此方には香辛料が練り込まれているようで、ライスか野菜を食べたくなる味をしていた。
ふと思う。器の端、ライスの隅っこに赤い漬物は、何の為にあるのか。
未知のカレーと違い、この漬物は既知である。何気なく口にすると、案の定ツンとした酸味。そのまま白米を食べたくなるのを抑えるが、せっかくならライスはカレーと共に食べたいところ。
ライスをかき込みたい欲望を抑え、冷えた水を飲む。一息吐けば、漬物と水のお陰か舌の感覚がさっぱりしていた。
これなら、また新鮮な気持ちでカレーライスを楽しめそうだ。
「よし!」
改めて、食道楽のモニカはカレーライスと向き合った。
カレーでライスを食べるのではない。肉と野菜を食べるのではない。カレーと米と具材を、香辛料で調和させている。だからこそ、この料理はカレーライスという名前なのだ。
「ふぅ、美味しかった……」
匙を置く。食事に没頭していると、気が付く頃には食べ終えていた。
香辛料の効果か、身体がポカポカしてきた。何て事もない水が妙に美味い。これには我儘な腹も満足する事だろう。
だが、銀細工の身体はこれ以上の食事を望んでいた。腹八分目には程遠い。
「どうぞ、ロースカツです」
続いて注文したのは、ロースカツであった。
ロースカツは肉の揚げ物だった。平たい器の上に、分厚い衣を纏った肉が鎮座している。カツの横には千切りにされた葉野菜があって、小さなトマトが彩を添えていた。
肉の揚げ物といえばそれまでだが、特筆すべきはロースカツが纏う衣の厚みである。
通常、肉に限らず揚げ物における衣と言えば、食材の表面に薄い膜が張る程度のものである。アレクシストで食べられている揚げ芋や、カムイバラで供される揚げ魚などがソレだ。
そんな中、ロースカツの表面にはザラザラとした粒が付着しており、衣の厚みだけで肉を一回り大きくしている。
「ソースは、こちらに。好きにお使いください」
などと考えていると、不愛想な店主はモニカのテーブルにいくつかの小鉢を置いていった。
どうやら、ロースカツはこれらをかけて食べるらしい。しかしロースカツの大きさの割に、卓上に置かれた小鉢の数は異様な程に多かった。
種々様々、色々な調味料が並んでいる。ラリス・ビネガーに胡麻にトマトソース。ブドウ酢、出汁醤油、チーズ入りハーブソース。中には味噌なんかもあった。
これまた珍しい。客に調味料を使わせる店自体は無くはないが、ここの店主が大事な味付けを客に任せるなど、モニカからすると驚愕モノである。
つまり、だ。このロースカツはそれくらい真新しい料理という事か。あるいは、まだまだ美味くなる余地があるのではないか。ともかく、たまには一から最適な調味料を探すのも悪くない。
「それじゃあ、まずは普通の状態で……っと」
ソースを試す前に、まずは素のロースカツを頂く。
王侯貴族のようにナイフ&フォークを器用に使い、ロースカツを切り分ける。ザクッと切ったそばから、透明な肉汁が溢れてきた。断面を見てみると、見立て通りその衣は厚かった。
それから、ロースカツの切れ端を一口。瞬間、モニカは目を見開いた。
口の中で、肉の衣が弾け飛んだ。
小気味よく噛み切った肉から、上質な肉汁が溢れてくる。この風味、淫魔王国産の牛か。それも特定の草を食べさせた品種。肉の脂に衣の油で、一見くどそうな気もしたが、全然そんな事はない。シンプルな肉の美味さと、分厚い衣の歯ごたえが素晴らしい。
ほのかにチーズの香りがする。そうか、このザラザラした衣の中には少量の粉チーズが混じっているのだ。それはそれとして、この衣の正体は何だ。衣の大部分を形成する粗い粒からは麦の味がするのは分かるが、ただ小麦粉を塗すだけではこうはなるまい。
ともかく、カレーライスに続いて新感覚の美味である。この時点で、モニカの満足度は一〇〇点満点中二〇〇点だった。
「さぁて、どれから試そうかな~」
残るは、七切れのロースカツ。
ソースの種類は七種以上。一切れにつき一つ試せば、全てのソースを使う事はできない状況だ。
ここに来て、モニカは大いに悩む事となった。先ほどの味を思い出し、何がマッチするか真剣に考える。酸味の強い酢か、清涼感のあるハーブソースはどうだろう。味噌だって合いそうだ。
「エリーゼは前と同じか」
「大根おろしは万能なのよ」
「意外とリンジュ舌じゃよな、エリーゼは」
ふと見ると、カウンター席の冒険者達もロースカツを食べていた。
そのうちの一人――銀髪の竜族少女は、小鉢にあった大根おろしをロースカツに載せて、そこに出汁醤油をかけていた。なるほど、そういうのもあったか。
「うん、いい感じね……!」
先の少女を真似して、おろし醤油で頂いてみる。すると、どうだ。雪のような大根に絡んだ醤油が、ロースカツの油気を中和……いや昇華しているではないか。
「カツ食べるんなら、俺はやっぱコレだな」
大根おろしの偉大さに感心しているモニカをよそに、例の黒髪冒険者はカツを食べてからビールを呑んでいた。顔は見えないが、すごく満足そうである。
ロースカツに、ラリスビール。どう考えても美味いじゃん。ごくりと、モニカの喉が鳴った。酒の気分ではなかったのに、ああも美味そうに呑まれると自分も呑みたくなってくる。
しかし、だ。今ここで酒を呑んでしまえば、ロースカツに合うソース選びと真剣に向き合えていない事になるのではないか。
この時、モニカの前に二つの道が示された。
このまま、様々なソースを味わって楽しむか。
ソース選びなど気にせず、ビールと共に楽しむか。
「あぁ~、たまらねぇぜ……!」
「ご主人ご主人、アタシもひと切れもらっていいッスか?」
「おぅいいぞ。何かける?」
真剣に悩むモニカとは対照的に、件の冒険者達は心底楽しそうに料理を食べていた。その光景を見たモニカは、ふぅと肩の力を抜いた。
それがいい、それでいいと思う。何も、この一回に全てを賭ける必要はないはずなのだ。やりたいように、食べたいように食べればいい。気楽にいこう、気楽に。
美食とは、何ていうかこう自由で救われてないといけないのだ。
「店主、ビール一つ」
そんな訳で、モニカもビールを呑む事にした。
欲望に負けた訳ではない。自由意思で以て決断したのである。
「んぐっんぐっんぐっ……ぷはぁーっ! ん~、美味しい!」
案の定、ロースカツとビールは最高の相性だった。
特に考えず適当にかけたソースはどれも美味で、付け合わせの野菜もいい感じである。
「うぅん、次は……」
ロースカツを完食したところで、モニカの腹はまだ半分も満たされていなかった。
何となく、今一度カレーライスを食べたい気持ちがあった。前は甘口だったから、今度は辛口で。
「ハッ……!?」
その時、モニカに電流走る。
カツにカレーかけたら美味いんじゃね? と。
「店主、カレーライスの辛口と、もう一つカツお願い」
「……カツカレーではなく?」
「えっ、なに? カツカレー?」
どうやら、モニカの革命的発想は既に存在しているものだったらしい。
美食家として、どこかの誰かに一歩先を行かれた感じがある。
「どうぞ。カツカレー、辛口です」
ロースカツの載った辛口カレーライスは、甘口のものとは異なり肉も野菜も入っていないドロドロカレーだった。しかしいざ食べてみると、そのドロドロは具材が溶けた結果である事が分かった。
カレーの味を確かめたところで、ロースカツを絡めて米と一緒に頂く。すると、モニカは本日何度目かの衝撃を受けた。
一瞬、美味すぎて馬になるところだった。三位一体、カレーによってふやけた衣と、カレーの付いていない残ったザクザク部分。そこにモチモチとしたリンジュ米が合わさり、まさに最強である。
内心でモニカはバンバンと膝を叩いた。これだ、これを求めていた。フライシュ領に求めていたモノは、まさにこれだった。
「店主、メニューのここからここまで。あとビールもよろしく!」
それからは、カレーとロースカツ以外の料理も食べていった。
エビフライに、ハムカツ。チーズ入りのチキンカツなんてのもあった。図らずして揚げ物ばかりになってしまったが、頑丈極まる銀細工の腹は胃もたれとは無縁だった。
デザートである果物のリンゴ酢漬けを食べる頃には、店にはモニカだけが残っていた。
「へえ! 衣の正体はパンを粉にしたものだったのね!」
食後の紅茶を飲みながら、モニカは店主の話を聞いていた。
曰く、カレーライスはフライシュ祭の最後に侯爵家から出されたもので、祭の優勝者が作ったものではないらしい。また、カツもカレーもレシピ元はフライシュ侯爵ではなく、その料理人の名前は公表されていないそうだ。
で、フライシュ侯爵はカレーやカツ等のレシピを公開し、こうして広まったのだという。
「謎の料理人かぁ! 何で名乗り出ないのかは知らないけど、一度会ってみたいものね!」
まだまだ、この世界には自分の知らない美食が沢山ある。それは、とても素敵な事だと思う。
紅茶を飲みながら、モニカは件の料理人に思いを馳せた。
この日以降、モニカはリント市中のカレーを食べて回るのであった。
一方その頃、とある料理店を出た一党は……。
「次は何のレシピをお渡しするのですか?」
「えーっと、コロッケとハンバーグとメンチカツと……。あとお好み焼きと。マヨネーズとかタルタルソースとかその辺も……」
「ポンポン出て来るのぅ、ほんに」
「ん、あの黒いソースは?」
「アレは未完成だからなぁ……」
なんて事を話していた。
例によって目立つのは嫌なので、レシピは匿名で売る所存である。
それから、約一ヵ月後……。
フライシュ侯爵から、またしても新たな料理のレシピが公開された。
それによって、モニカのリント滞在が延び、途中金欠になって迷宮に潜ったりして、紆余曲折あって裏美食四天王と殴り合いになったりするのだが。
それはまた、別のお話である。
・モニカ
大猫人。橙髪ポニテ。巨乳。二刀流アタッカー兼斥候。巡り舌。
善の陽キャ。食道楽冒険者で、世界中の美食を食べ歩く旅人。感情豊かで人当たりが良く、臨時一党でも器用に立ち回れる。
全ての料理人に敬意を払っており、食事の前には可能な限り身綺麗にする。当の本人は料理が苦手。
以下前エピソードのネタバレあり。
「リンジュにロリで行けるから」の内容をまとめると、
・王都の知り合いに挨拶
・シャロ含めた7P
・自転車に乗って出発
こんな感じです。