【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。本当に助かっています。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
ラリス王国・王都アレクシスト発、リンジュ共和国・首都カムイバラ行き。
鈍行、天気によりプライベートジェット。
慰安旅行の往路は、自転車と空戦車を乗り継いだ。
異世界産自転車の旅は爽快で、思う存分サイクリングを楽しめた。都市間を繋ぐラリス街道はロリのおっぱいくらい平坦なので、未だ試作段階の異世界チャリンコでも快適に移動する事ができたのだ。
前世、たまにやってたツーリング同様、景色を眺めながら道を往くのは心身ともにリフレッシュできちゃうもんで、皆と一緒だったから尚のこと素晴らしい経験だったと思う。
急ぐ理由も無かったので目的地のリンジュへは一直線に向かわずに、これまでスルーしていた町をいくつか経由する事となった。
道中は色んな事があった。カトリア伯爵が治めるヴィント市では、以前泊った高級宿で一泊したり。通りがかった村では、急に絡んできた冒険者を神樹刀で半殺しにしたり。ふらりと寄った宿場町では、病に苦しむ村娘――御年九歳の美少女だった――に万能治癒薬を使って治してあげたり……。
これまで空から通り過ぎていた市町村には確かに人の営みがあって、異世界で生きる事の意味を思い知った心地だった。やはり、王都を基準として異世界を語るべきではないのだろう。
美食貴族でお馴染みフライシュ侯爵の治めるリント市では、予定外の長居をする事となった。
とうとう店で並ぶようになった異世界カレーを食べたり、俺が提供したレシピの料理を食べたり。趣味でやってた再現レシピが実際に形になっていて、しかも流行っている光景を見ると嬉しいやら面映いやら。
興味深かったのが、カツのレシピを公開してそう時間は経っていないのに、シュニッツェル――語弊を恐れずに言うとドイツ発祥の薄いカツ――みたいな料理が開発されていたところだ。俺の予想以上にカレーが高級料理扱いされてたりとか、豚や牛や鶏以外の肉を使った揚げ物が流行っていたりとかも興味深かったな。どて串熊肉カツは意外と美味かった。
異世界グルメの発展を見るとワクワクするね。
せっかくリント市に来た訳で、同じ第三王子派閥のよしみで侯爵子息のミラクムさんと再会し、コロッケやマヨネーズといった新メニュー・新調味料のレシピ等をお渡しした。中でもタルタルソースを気に入ってくれたみたい。
ちなみに、初めてカニクリームコロッケを食べたフライシュ家のマッチョ執事さんは、感動のあまり全身の筋肉を膨張させて燕尾服を弾けさせていた。お気に召したようで何より。
VIP待遇で過ごしたリント市を発ち、以降は曇り空が続いたので空戦車に乗り込んでファストトラベルした。
相変わらず、空戦車移動は素晴らしい速度が出ていた。前から思っていたが、ルクスリリアの成長と共に守護獣ラザニアのトップスピードはアップしているようだった。ついでに筋肉もデカくなっている。
ラザニア移動の途中、ふと見上げた空に一際大きな天津島を見かけた。天使族単一国家、空に浮かぶ島“聖輪郷”である。
以前までの聖輪郷は分厚い雲に隠れていたのだが、紆余曲折あって復活した大英雄ジュスティーヌさんが全部晴らしていって、今じゃすっぽんぽんの露出島である。
ラリス新聞によると、現在の聖輪郷上層部はこれを機に他国との交流を密にすっべ派と今まで通り可能な限り下界とは交流したくないべ派で二分しているそうだ。
ついでに、前トップだった熾天使パレエスのやらかしについて、聖輪郷は人類平和条約加盟国から滅茶苦茶に責められているらしい。ちょっと可哀想だが、曰くこれまでのツケを支払っているそうな。ツケって何だと思ったが、恐らく知らない方がいい事なんだろう。
そうこうしていると季節はすっかり夏になり、ジメッとした空気は消えてカラッとしたお空にジョブチェンジ。
そんでリンジュの関所に到着し、これまたライドウさんから貰った交通証を提示。効果は抜群だったようで、すんなり通過する事ができた。
野を越え山越え東方へ。しばらく空を飛んだ後、懐かしのカムイバラが見えてきた。
「ん、アレがリンジュ?」
「いいえ、もうここはリンジュなのよ。リンジュ共和国の首都カムイバラね」
「リンジュは広いですから、カムイバラ以外にも沢山の街があるんですよ」
「こう見ると狭くて小さいんじゃのぅ」
「まぁ上からだとそう見えるよな。ルクスリリア、東門の方に回ってくれ」
「了ッス!」
遠くに見えるエセ富士山。どことなく陰陽術的な意味を持ってそうな都市設計。空に聳える尖った塔は、何重もある瓦屋根。都を覆う壁の規模感は同じでも、アレクシストは石造でカムイバラは木造である。クソデカ城壁の周りにはクソデカ運河が流れており、そこにクソデカ橋が架けられていた。
此処こそ、リンジュ共和国は首都カムイバラである。
「イシグロ・リキタカ様ですね。どうぞお通りください」
西方から参って東の門へぐるり。例によって滑走路に着陸し、関所で見せたのと同じファストパスを使って入都を許可された。
街に入るべく大きな橋を渡っていると、橋の端を歩いていたレノは河を通る船を興味深そうに眺めていた。
「すごい、橋の下に船がいっぱい……」
「割と面白い光景だよな」
「あの船には何が載せられているのでしょう?」
「色々じゃな。米とか麦とかもそうじゃし、木とか鉄とかも運んどるんじゃったか」
そうして入都したカムイバラは、前来た時と変わらずあからさまな和の都といった様相だった。
そう、あからさまな程の和である。初夏でも咲いてる謎桜に、これみよがしな石灯籠。京都の祇園とおかげ横丁をコンクリートミキサーにかけてぶちまけて、そこにRPG的ジパングとファンタジー的東の国要素をふりかけたような、そんな街。
道行く人の様子も王都とは大分異なっている。狸人や鹿人、虎人や天狗などのラリスでは見かけない種族が普通にいて、皆さん和服っぽい衣服を身に纏っている。屋根の上を黒ずくめのニンジャが跳び渡り、同心らしき猫人が文字通りの鼠小僧を追っかけて、団子屋の長椅子では雪女族の美女が煙管片手にナンパ男をあしらっていた。
また、カムイバラ民の多くは腰に刀を下げている。そうでなくとも懐にドスを忍ばせてたり、背中に野太刀を装備してたりと、とにかく刀の普及率が高いのだ。見た目JKっぽい女の子グループなど、派手にデコられた鞘を見せ合ってキャッキャしてるまである。すごい光景だ。
如何にもハイファンタジーでございな王都とは違うが、これはこれで異世界情緒である。
「ここがイリハが住んでたとこ……」
「じゃな。あの館、まだ残っとるんかのぅ」
「行ってみたいのかしら?」
「わざわざ見に行くもんではなかろう」
「ご主人様、お腹が空きました」
「それもいいけど、先にギルド行こうか」
「几帳面っつーか、何つーかッスね」
転移神殿に向かうべく通りに沿って歩いていけば、さながら見えない壁でも潜るようにカムイバラはその表情を変えていく。
リンジュの迷宮ギルドに近づくにつれて、冒険者の姿を見かけるようになっていった。鎌倉武士っぽい鎧武者や、陰陽師っぽい烏帽子男。カラフルな忍者が忍ばず堂々と闊歩して、鉞担いだ金髪鬼娘が召喚獣熊に乗っている。こっちもこっちでどいつもこいつもキャラが濃い。
騒いでいる人だかりの方を見てみると、浪人同士が大小二本を使わずに殴り合いの喧嘩をしていた。例によってストリートファイトを囲むカムイバラ民は大盛り上がりだ。
「平和ですね~」
「平和に感じるの可笑しいんじゃよな」
「ん、わたし達目立ってる」
「ぼくラリスもん」
「舐められた時ぁ立場の違い教えてやりゃいいんスよ」
「その通りよ。それはそれとして、またアナタとリンジュの服を着て歩きたいところね」
茶屋で休憩したり、カムイバラ名菓を食べ歩いたり。
そうして辿り着いたのは、伏見稲荷大社と東大寺がフュージョンしたような木造建築物だった。カムイバラの東区転移神殿である。
ラリス建築とは別種の威容だ。遠巻きに見て来る冒険者を気にせずに、俺達は件の建物へ入っていった。そんでそのまま空いてる受付の前に立つ。
「はい。あ、イシグロ・リキタカさんですね!」
どうやら、リンジュの迷宮ギルドは俺が来た時の記録を残していてくれていたらしく、各種手続きはスムーズに完了した。
「おん? お前、イシグロじゃねぇか!」
特に用は無いのでさっさと去ろうとしたら、背後で俺の名を呼ぶ声がした。
声の方を見ると、そこには以前カムイバラにいた時にお世話になった冒険者達の姿が。
「おうおうおうテメェ生きてたか! まぁお前程の男がそう簡単に死ぬなんざ思ってなかったがよ!」
そう言って馴れ馴れしく肩を組んできたのは、ハンサム醤油顔のヨタロウさんだった。
彼とは前回のリンジュ旅行初日にストリートファイトをした仲で、以降はそれなりに親しくさせてもらっている。
彼にはイリハの捜索や猫又討伐戦にも参加してもらった恩がある。そういえば、その時に一緒に迷宮探索する約束をしていたが、まぁそういう感じはないだろう。慰安旅行に来てるので、誘われても行く気はない。
「本当にイシグロでござる!」
「久しぶりなのだ!」
「リベンジするじゃん!」
もう一人、いやもう一組は忍者とニンジャとNINJAの三人一党である。
彼等にもヨタロウさんと同じく猫又討伐戦を手伝ってもらった恩がある。ちょくちょくベイゴマで遊んだりもしたっけ。
「お前、こっちには旅行か? ていうか一人増えてんじゃねぇか。温泉連れてきてやったって感じ?」
「そうですね。最近は迷宮ばかりだったので」
それから暫くリンジュ冒険者界隈の話などをして、俺達は転移神殿を出た。
ともかく、お互いすぐ知り合いが居なくなる冒険者の身の上だ。生きててよかったと素直に思える。
「ここから温泉街ってどう行けばいいんだっけ?」
「こっちじゃよ」
「流石は元地元民ッス」
「ふふん、迷子にならんようにの~」
行き先は東区にある温泉宿、上玉館である。
リンジュには慰安目的で来たのだ。飯も掃除も風呂の用意も、全部他の人にやってもらおうってな感じで。
「ていうか、さっきからちょこちょこ店が変わっとるのじゃ。前働いてたトコが無くなっておる」
「そうなの?」
温泉街へ向かう最中、ジモミン・イリハは街の変化を嗅ぎ取っていた。
曰く、前まであった菓子屋が服屋に変わってたり、貸本屋が貸本サービスを止めたりしてるらしい。
二回目とはいえ、見慣れない光景で興味深い風景である。懐かしそうにしているイリハも、リンジュ文化に興味津々なレノも、皆さん気持ちが浮き立っているようだった。
「ん、何やってるの? あの店」
「寄ってみるか?」
気になった店には積極的に寄ってく所存。何たって旅行だからね。
前回と同じ古着屋でレノ用のリンジュ服を購入して、刀屋で女子用の刀を見て回り、何となく瓦版を買って読んだりした。
そんな感じで過ごしていると、そろそろ宿に入らないといけない時間になっていた。
「先生さよ~なら~」
「ええ。皆さん、気を付けて下さいね」
ふと目を向けた先、子供の引率をしているらしい天使族の男性を見かけた。
カムイバラで初めて天使族を見た気がする。件の彼は天使としては珍しく老体で、その顔に古木のような皺があった。
先生と呼ばれていたあたり、教師か何かをやっているのかもしれない。死ぬ寸前のパレエスとは異なり、彼は老いてなお活き活きしているようだった。
「あらあら、ようこそおいで下さいました。イシグロ様」
住宅街を抜け、温泉街へ。そして、俺はカムイバラ有数の高級宿である上玉館にチェックインした。
部屋は勿論、最上級の最高級。最上階を丸々使ったペントハウスだ。
「この感じ懐かしいの~」
「ん? イリハの家?」
「ここで働いてたんじゃよ」
鹿人女将に案内されて、例の部屋へ。中に入ると真っ先に靴箱があるので、各々靴を脱いで上がっていった。
そういえば、ここで俺はイリハの髪を発見したんだよなぁ。何もかも懐かしい。
「ぐへ~、なんか疲れたッス~」
「落ち着くのぉ~」
「草の匂いがしますね」
「ん、気持ちい」
「まだ慣れないけれど、此方の文化に合わせましょう」
ひと通りの説明を終えた女将が去り、我が一党は藺草の香る畳でゴロゴロし始めた。こういう時、普段テキパキと働くイリハも今ばかりは半溶けフォックスになっている。
誰も動ける状態ではなさそうなので、俺は給湯スペースで全員分のお茶を淹れた。リンジュの夏は暑いので可能なら冷茶がいいのだが、ここにはホテルにあるような冷蔵庫なんてないのである。代わりに製氷魔道具にあった氷をインだ。
「あざ~っす」
「リンジュ酒は無いのかしら?」
「お酒は後」
それからは、何もせずにダラダラタイムを味わった。
さっきまであった人の喧噪は遠く、穏やかな時間が流れている。温くなった緑茶がやけに渋い。
「と、もうこんな時間か」
ついウトウトしてしまった。気がつけば、畳は夕焼けの赤に染まっていた。
この世界の夕食は早いので、ご飯が届く前に旅の汚れを落としておくべきだろう。なに、食後もう一度入ればいいのだ。それが許されるのが温泉旅館の良い所である。
「んぅ~! この匂い! 色! 熱気! これこそ温泉じゃの~!」
「ん、変な匂い……」
「魔力が回復しますね~」
と言う訳で、皆で同じ階にある浴場に入る。
この階の中庭には屋根付きの露天風呂があるのだ。さらさらと流れる泉水に、むわりと上る湯気。白濁の湯が夕陽の茜色に染まっている。
「ん、いつもより光力が早く回復してる……」
「めっちゃ輪っか光ってるッス!」
「不思議ね。魔力の流れとは別なのかしら」
天然温泉は初めてのレノである。本来光力は日光を浴びて充填するのだが、温泉に浸かる事で回復量にバフをかけられるようだった。
皆も気持ちよさそうにしている。魔力や氣の回復も早まるらしいので、この世界の温泉には地球温泉以上の効能があるのかもしれない。
沈みゆく夕陽を眺めながら温泉に浸かっていると、俺の中にあった毒がお湯に溶けていく感じがした。
「温泉旅館と言ったら浴衣だよな」
「楽しそうで何よりです」
「ん、羽根が引っかかる……」
暫く後、長湯をしたがるレノを引っ張り上げ、脱衣所で浴衣にお着替えする。これまた初浴衣のレノは独特の着心地に困惑していた。
この世界には人間族以外の人類が沢山いるので、こういう浴衣一つとっても獣人用や翼人用があるのだ。
「お待たせ致しました。こちら、滝鮪の刺身盛りでございます」
「「「おぉ~」」」
風呂上り、お互いの身体についた温泉の匂いを嗅ぎ合ったりしてイチャついていると、ついに注文していた夕飯がウーバーされた。
そうしてデデンとお出しされたるは、特大舟盛り器に乗せられたお刺身セットである。大トロ・中トロ・カマ・赤身。これは前に桜闘会後のパーティで食べた滝鮪くんである。
他にも、同じく滝鮪を使ったアラ汁や、たこわさや厚揚げといった各種逸品モノ。丸くて広いお盆には、色とりどりの寿司が敷き詰められていた。いなりが入ってるやん!
「開けるぞグーラ」
「ほわぁ~! すごく良い匂いがします……!」
デッカいお櫃の蓋を取ると、中には香り豊かな炊き込みご飯が入っていた。鯛飯かな? それっぽい匂いするけど、見た目はちらし寿司っぽい。まぁ美味いのは濃厚確定バレバレである。
その他、塩茹でされた山菜や漬物なんかもあった。そして、当然のように酒も用意されている。しかもこれらはあくまで第一陣だというので、ガチで喰らわねば不作法というもの。
「卵に関してはリンジュが頭一つ抜けてるッスね! 出汁巻きマジで美味ぇッス!」
「あぁ~、久しぶりのお揚げじゃ~……」
「これどうやって食べるの?」
「そのまま好きなソースをつけていきなさい。醤油がおすすめよ」
「ん~、どれも最高です! あっ、これも美味しいですよご主人様!」
おいなりさんを食べて満足そうにするイリハ。何食べてもいいリアクションをするグーラ。レノはおっかなびっくり食べた刺身に頬を緩ませ、エリーゼは大トロをアテにおちょこを傾けていた。見ると、ルクスリリアはお椀によそった炊き込みご飯にイクラの醤油漬けをぶっかけている。なんと贅沢な。
「なんだか、毎日が宴をしているようね」
「戦ってばっかじゃったしのぅ」
「ごめんて」
「だから嫌とは言ってねぇんスよ」
「でも、こんなに沢山食べてしまうのは申し訳ないですね」
「グーラ落ち込んでる?」
「いやいや、何ならもっと食べていいんだぞ」
食べてばっかは確かにそうだが、これでいいと思う次第。
ゴロゴロする為に来たのだ。ゴロゴロする事に罪悪感を抱くのはナンセンスである。
なんて話をしつつ食べていたら、あれだけあった寿司や刺身やお漬物はいつの間にか姿を消していた。ゴルゴムの仕業に違いない。
「お待たせ致しました。こちら大変熱くなっておりますので、お使いの際はご注意ください」
第二陣では、炭火の網焼きセットがエントリーしてきた。そこにフリーで食材を焼いて食べてねって感じである。
運ばれてきた食材の種類と数は極めて膨大で、全体的に魚介多めだった。カニもエビも美味しそう。イカ焼き食べたいでゲソ。
「随分と可愛らしい貝ね」
「生きてるくないッスか? こいつ」
「こ、これレイザンホタテじゃぞ!? とんでもない高級貝じゃ!」
「ん、美味しいの?」
「この貝は食べた事ないですね」
「んじゃあまずソイツからいってみようか」
せっかくなので、第二陣の先鋒として例の二枚貝を焼いていく。すると貝殻がパカッと開き、それを見た皆さんは興味津々のご様子。
それから熱々の貝に醤油を落としてやると、熱された醤油がじゅわっと弾けて芳醇な香りが広がった。貝と醤油がシャルウィダンスだ。
「これ絶対美味しいやつなのじゃ!」
「だな。次はバターとか入れちゃうぜ」
「それも絶対美味いやつじゃないッスか!」
そんな訳でさっそく賞味してみる。やはり、異世界二枚貝くんはべらぼうに美味かった。
だが、ちょっと予想外の味ではあった。磯の風味は全くなく、強い塩気と醤油味だけがしたのである。まぁ美味いからいいけどね。この貝には甘めの冷酒がよく合う。
貝を全滅させた後、茄子やエビも焼いていった。焦げ目のついた焼き茄子に味噌を塗ってやれば、これまた酒が合うのは自明の理であった。にごり酒うめ~。
「グーラ! 今何腹ぁ?」
「え? え~っと、まだまだです!」
第二陣の網焼きセットを残したまま、第三陣のお鍋が到着する。煮るなり焼くなり好きにしてくださいって感じ。なので好き放題に食べまくった。
そうして、今宵の宴はグーラが満足するまで続くのであったとさ。
「明日はどうすんスか?」
「とりま師匠に挨拶かな。その後はフリーで」
締めのうどんを啜りながら、明日以降の予定を決めていく。
とりあえず銀竜道場には明日挨拶しに行くとして、その後は名所巡りとか色々だな。前行ってない南区とかを街ブラするのもいいだろう。
「ふぅ~、食った食った」
「何一人で満腹になってんスか♡ まだ淫魔の腹は空っぽなんスよ♡」
「ほら、もう一度お風呂に行くわよ♡」
「お背中流させてください♡」
それより先に、今夜は皆の帯を解く遊びをしなければならない。
露天風呂ではBに抑えねば。野球拳もしたいな。室内風呂もあるので、久しぶりに泡姫プレイも悪くない。あるいは俺が男娼になるのもいいな。
そう、夜はこれからなのである。
〇
不夜の都、カムイバラ。
今宵も色彩豊かな灯りが焚かれ、猥雑な街を過剰な程に照らし出す。
栄華と安寧。秩序の街。
しかして煌びやかな光には、夜より深い影が在るものだ。
そして、影には悪の花が咲くのである。
草木も眠る丑三つ時。
人気もない木立の奥で、二つの白刃が縦横無尽に駆け巡る。
一合、二合。火花が散り、刃音が響く。
鎬を削る戦いはやがて、一方の刃が宙を舞う事で幕を閉じた。
「うぐっ……!」
半ばで折れた刀を持った男が尻もちをつく。その足元に、断ち切られた切っ先が突き刺さる。
男の視界で、月光に照らされた影が浮かび上がる。その顔は頭巾で隠され、唯一露になっている双眸は異様な輝きを発していた。
そろりと、倒れ込む男の首に酷く刃こぼれした刀が添えられる。身を竦める男の前に、影は懐から出した紙を突き出してみせた。
「こいつの居場所を知っているか?」
それは、一枚の全身人相書だった。
悠然と立つ剣士である。背格好は高く、隆々たる筋骨は歴戦の強者そのもの。質実剛健な鎧を纏い、漆黒の剣を提げている。鷹のように鋭い双眸の奥には、どこか優しい光を湛えていた。
間違いなく、リンジュ女子に大ウケの美丈夫そのものだった。その容貌は、どことなく現在尻もちをついている男に似ていた。
「何なんだよお前! さっきまではあんな……」
「答えろ」
「ひっ!?」
男の首に、真っ赤な血が一筋伝う。薄皮一枚のみを斬った技前は確かな術理を修めたものに違いなく、しかしてそれは無法な戦と尋問に使われていた。
「し、知らない……! ただ、俺はちょっとした遊びのつもりで……! 悪気はなかったんだ、許してくれ……!」
「……そうか」
呟き、影は刀を納めた。
安堵する男の眼前、ほんの一瞬、影がブレた。そんな気がして、肝が潰れた。
一閃、居合だ。殺される、斬られたという確信。目をつぶる男は、やがて瞼を開けて周囲を見渡し……。
「ひやぁあああああっ!?」
そして、闇夜の底に男の悲鳴が響き渡った。
血しぶきが舞う中、影は姿を消していた。
事を終えると、影は刀に付着した血を拭い、丁重な手つきで鞘に納めた。
それから、懐から例の人相書を取り出し、その目の光を憎悪の色に変化させた。
「殺してやる、殺してやるぞ……!」
地の底から響くような、怨嗟の声が漏れる。
美丈夫の描かれた紙には、忌むべき怨敵の名が記されていた。
「イシグロ・リキタカ……!」
次の瞬間、手に持った人相書が木っ端微塵に切り刻まれた。抜刀からの連撃、必殺魔剣に相違なし。
憎しみに染まりきった心は、だからこそ純粋で、教えの通りの威力を発揮したのである。
故も知らぬ因縁が、異邦の剣士を狙っていた。
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前に出てきたギードの鎖鋸剣ですが、恐らく読者の皆さんの想像よりは弱い武器だと思われます。強いのはそうだけど、万能ではない感じです。
本作世界のダメージ計算式では、基礎攻撃力がそのまま与ダメになる訳ではなく、ダメージに変換される前に様々な補正が加わって与ダメ計算が行われるからです。武器種補正、武器適性補正、モーション値補正、連続ヒット補正等々。
なので、作中イシグロが言った通り、ギードの鎖鋸剣を使っての最終的な与ダメはほぼゼロ(小数点以下)になってしまう訳ですね。一回転につき1ダメの連続ヒットではなく、連続ヒットさせた上での与ダメが1以下です。良くも悪くも部位破壊に特化し過ぎた武器なんですね。
また、武威破壊はできてもダメージがクソ低い都合上、迷宮の魔物や再生能力持ち人類とは相性が悪く、首を切って死ぬ生物でもすっぱり全部切る必要がある(=首の皮一枚残さず)ので実戦で使いこなすのは結構厳しいです。夢魔や天使は首切っても死にません。
魔力消費の関係で連発できない上、外した時のリスクが高いのでガンガン使えるもんでもないので。対人戦では切り札か見せ札としての運用が安定です。
エリーゼの呪詛と組み合わせると不死殺しできるじゃん……とはなりません。ノコ回転の魔力で呪詛効果が消失してしまうからです。要するにエンチャ不可武器なんですね、これ。
いずれにせよ、治癒力の弱い低レベル帯やガン盾マンや核持ちの魔物にはかなり強力な武器ではあります。心臓壊されると死ぬ竜族にも地味に特効です。強さを使用武器に依拠してる奴にも刺さりますね。
結論、ギードの鎖鋸剣は強力な武器ではあっても万能の武器ではありません。
人も兵器も、弱みがないと可愛くないじゃないか。