【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。助かってます。感想返信でも誤字ってるのホントどうかと思いますね。
アンケートのご協力、ありがとうございました。
結果、エリーゼはイシグロを「アナタ」と呼ぶ事になりました。
今回、頂いた感想に触発され、エリーゼに新たな設定(?)を生やしました。
悪いのは作者ではありません。
あと、もし運営様から「ダメ!」と言われたら、このエピソードはR18版として短編で投稿します。
一応、キスシーンは大丈夫なはず。青少年のなんかには配慮しており、極めて健全で社会的に害のないエピソードとなっております。
性癖とは、何か。
辞書に書いてある方の意味は置いておいて、それは自分自身の事だと俺は思う。
自分の事を、ちゃんと知ってる人は案外少ないものである。
俺はロリコンだ。
目覚めたのは小学校高学年の頃で、以降この性癖に変化はない。自身の性癖を自覚するにしては、少し早めの歳ではあったと思う。
実際、俺の友達も大体中学の三年間で何かしらの性癖に目覚めていた。
前世、俺も人並み程度には友人たちと猥談などをして楽しんでいた。
すると、出るわ出るわ性癖の嵐。皆、ホントに色んな
性癖語りは蜜の味。恥ずかしがるような奴もいたが、俺の周りは割とオープンな奴が多かった。
男の娘こそ至高! 見よ、麗しき鰤のおみ足! 男の娘大好き侍・後藤くん。
百合しか勝たん! 男なんていらんのや! ゆりんゆりんの伝道師・佐藤くん。
足の太いは七難隠す! ジャイアニズム錬金術を食らえ! グリッドマンから特撮オタに変身した男・江藤くん。
とか、まぁ色々……。
女子三人集まれば姦しいというが、男子三人集まれば即猥談である。
青春だね。
で、そんなこんなさんざん猥談を重ねてきた友人たちと話すうち、なんとなく見えてきたものがある。“メイン性癖”と“サブ性癖”の存在だ。
おねショタ好きの斎藤くんは、メインがそれで、サブに姉性癖があり、そのまたサブにショタ性癖があったりしたのである。勿論、メインのみの奴もいたが、複数のメインを持ってた奴はいなかったような気がする。
俺で言うと、メインにロリ性癖があり、サブにメスガキやバブみや色々が付随する感じだ。あくまで中心はロリであり、他はロリを引き立たせる為の、もしくはメインから派生した性癖なのである。
中には、いくつもの性癖を持っている剛の者もいたにはいたが、よくよく話すと彼も核となるメイン性癖があったように思われた。
彼の語る性を深掘りすると、全てひとつの根に由来している癖のように推察できたのである。
結局のところ全部おっぱいでは? と言った具合に。
生まれ持った性癖。後からきた性癖。
到底、コントロールできるものではない。
まして、知らぬのならば、尚の事。
で、何でか知らんが俺は異世界に転移して……。
なんやかんや、無事童貞を卒業できた訳だ。すると、新たな性癖が生えてきたのである。
いや、生えた……というより、隠れていたものを見出したといった方が正しいか。
まぁそれはいい。
当然として、性癖というのは地球人男子だけにあるものではなく、異世界人女子にも存在するものである。
例えばルクスリリアの場合、彼女はS寄りのMである。
普段はサディストっぽく振る舞ったり、攻める事でテンションを上げるのだが、堕ち往く際にはマゾヒストと化すのである。これがメイン性癖で、サブ性癖に童貞吸精とかおねショタシチュとかがあったようだ。
曰く、処女時代のルクスリリアは、自身をM寄りのSだと思っていたらしい。が、実際にはその逆だったと。「淫魔は度胸、なんでもやってみるもんッスね」とは当人の談。
メイン性癖と、サブ性癖
自覚ある性の根源と、隠れた癖の発見。
己の性癖を知るという事は、己自身の本質を知るという事。
隠れた性癖を見出す事は、己の知らぬ己を見出す事。
まぁ……何が言いたいのかというと。
どれだけ猥談しようと、どれだけ深層心理を探ろうと。
世に自覚のない性癖の何と多いことか、という話である。
とある宿屋のとある部屋。
ソファの上、小さな身体を抱きしめながら、俺はエリーゼの昔語りに耳を傾けていた。
彼女の過去は、可哀想なのは抜けない派の俺にとって、普通に抜けない類の話だった。
訥々と、淡々と、エリーゼは自身が生まれてから10年間の話を語った。主観でありながら、そこに感情を交えず、客観的に起きた事だけを話す様は、当人の過去であるはずなのにどこか他人事のような風だった。
途中、夕飯を持ってきたリリィが参加してきたあたりから、話は四方八方に広がっていった。その段になって、彼女の語りにようやく色が付きはじめた。
好きだった本の内容とか、宝物庫にあった宝の話とか、竜族の生態とか。いつしか、彼女の重い話は、他愛のない思い出話に変わっていた。
ルクスリリアはこうなる事を見越してか、テイクアウトしてきた夕飯はカラオケのパーティメニューを思わせるおつまみセットだった。
「他の人と一緒の食事なんて、100年ぶりだわ……」
曰く、竜族にとって食事とは娯楽の一つであり、食べ物は嗜好品であるらしい。
美食を食べながら親しい人と話し、腹でなく心を満たす。竜族は飲まず食わずでも生存できるが、一切食事をしない竜族はいないとか。
100年間ひとりだったエリーゼは、100年ぶりに食事をした。人間と淫魔と竜族で、優雅さの欠片もないおつまみセットを食べたのだ。
「……美味しいわね」
場末の宿屋のおつまみセット。決して、美食という訳ではないご飯だった。
けれど、心は満たされた様だった。
その後、俺たちは三人で宿屋のお風呂に入った。
この世界、お風呂は割と普及しており、宿屋の店主にお金を払えば魔道具で湯を沸かしてくれるのだ。この宿屋に居を構えている一番の理由はコレである。
「これは、どうすればいいのかしら……」
「ちょっと貸して。湯を浴びる前に、櫛で髪の汚れを落とすんだ」
「ご主人、なんでそんな事知ってんスか?」
「おにまいで知った」
これまたエリーゼは初めてのお風呂体験だったようで、五右衛門風呂めいた宿屋のお風呂には物珍し気な目を向けていた。
エリーゼの話では、竜族は蒸気の籠った部屋で身体を暖め、専門の侍従に全身に“清潔”の魔法をかけてもらうらしい。サウナ+あかすりみたいな感じだろうか。なんか優雅である。
「ご主人も得意ッスよね、“清潔”」
「そう……。なら、何故お風呂に入るのかしら?」
「風呂に入らないと一日が終わった気がしないんだよね」
「そう……人間って不思議ね」
三人で湯舟に浸かり、しばらく。
俺たちはほかほかの状態で部屋に戻った。
そして、色々諸々の準備を終えて……。
宝を愛でる時がきた。
〇
世の中には、色んな性癖がある。
当然として、それは男子にも女子にも存在し、自覚的だったり無自覚的だったりするものだ。薄い少ないという人はいるが、全くない人はそう居ないだろう。
異世界人もそうだ。リリィはサドマゾだし、顔見知りの冒険者には大の巨乳好きって人もいる。
それは、異世界にて最強種である竜族のエリーゼも同じだった。後に聞いたところによると、無自覚に。
結論から言うと、エリーゼは、
所謂、“キス魔”の性癖持ちだったのだ。
「ん……♡」
一度目のキス。それは俺からエリーゼへの、唇と唇を触れ合わせるだけのものだった。
軽いリップ音もない、単に唇同士を重ねただけの行い。スケベといえばスケベだが、見ようによっては健全だろう。実際、俺は理性100パーの状態を維持してキスをした。それこそ、ボクシングでいうところのジャブですらない。拳と拳を合わせる試合開始の合図に近い。
「ん、ふぅ……これが、接吻というものなのね」
唇を離すと、エリーゼは陶然とした面持ちで呟いた。エリーゼは表情の変化こそ乏しいが、全くの無表情という訳でもない。なんとなく、彼女の表情が分かってきた。
小さな唇、細く白い指。エリーゼはファーストキスの感触を思い出すように、人差し指で自身の唇をなぞっていた。俺はその時、“妖艶”という言葉の意味を知った気がした。
「エリーゼ」
「ええ……」
二度目、三度目のキス。
最初は一度目と同様に子供の遊びのようなキスだった。回数を重ねる度、音を立てたり角度を変えたりして緩急をつけていく。
エリーゼは最初からキスに積極的で、物怖じする事なくグイグイと唇を押し付けてきた。慣れてくると単に唇を合わせるだけでなく、エリーゼは俺の唇を食んだり啄んだりしてきたのだ。
吸精が好きだからキスが好きなリリィと違い、エリーゼはキス自体が好きな雰囲気があった。
「ちゅ……ちゅぷ♡ んっ、んちゅっ、んぅ♡ ちゅぅ……♡」
この時点で、エリーゼは唇の感覚に夢中になっている様だった。
ちゅ、ちゅ、と控えめな音に混じり、エリーゼの喉奥からは籠った声が漏れていた。
「ふぁ……はむぅ、ちゅっ♡ ちゅ、ちゅ、ちゅっ……んんっ♡」
当たり前だが、俺とエリーゼでは唇の大きさが違う。普通にキスをすると、俺がエリーゼの唇を食べるみたいになってしまうのだ。
そのお返しとでもいうように、エリーゼは右・真ん中・左と三回に分けて俺の唇を湿らせ、同じ事をするよう視線で催促してきた。
「んんっ♡ ちゅぷ……んふっ、ちゅぅ……♡ んむ、ちゅ……ん、ちゅっ♡」
そうやっていると、最初は理性100パーでキスをしていた俺の首輪付き獣も徐々に本能側に偏っていく訳で……。
良い頃合いになったところで、俺は彼女の口に舌をねじこんだ。
「んんぅ!? んちゅうっ♡ んぷ、ちゅぅ……んぐっ♡ んんっ♡」
そのまま、俺はエリーゼに舌の扱いを教え込んでいった。すると生来の特質か、エリーゼはあっという間にベロの使い方を覚え、応用してきた。
竜族の舌は長く、そして冷たい。彼女はその特性を活かし、
一旦唇を離そうとすると、俺の舌を絡め取っては外に引きずり出してきた。俺の舌に、細く冷たい舌が巻き付いている。上気したエリーゼの美貌は、とても美しかった。
よほど気持ち良かったのか、その後もエリーゼはなかなかキスを止めてくれなかった。
仕返しに俺の方がエリーゼの舌を吸ってやると、一度痙攣した後に大人しくなってくれた。
キス魔ドラゴン、恐ろしい子……!
その後は、ずっと俺のターンだった。バーサーカーソウルである。
リリィ購入後、毎日のように経験を積んできたのだ。初めての相手といえど、戸惑う事はなかった。
竜族の肌は冷たかったが、触っていると次第に温かくなっていった。
夏になると重宝しそうな肌である。熱くないかと訊いてみると、むしろ心地よいのだと教えてくれた。
まぁ色々あって……。
合体からのバトルゴー。インスタンス・ドミネーションで、ダイナゼノンフルバースト。
こうして、俺のユニバースの平和は守られた。
そして、怪獣プロレスの後……。
エリーゼは激しく息を乱す事なく、ぼうと宙を眺めて放心していた。
激しく動く事はなかったが、とても情熱的で白熱した戦いだったのだ。
「はー、ちょっと前まで童貞だったご主人も慣れたもんッスねー♡」
などと茶化してくるメスガキは速攻でわからせた。
今回、リリィは一歩引いて見守ってくれていたのだ。なので誠心誠意、丁寧丁寧丁寧にわからせたのである。リリィは可愛いですね。
気分的にはエリーゼに連コしたいところだったが、流石に自重した。彼女は竜族であり、淫魔ではないのだ。身が持たないだろう。
「きひひ……ご主人♡ いい事教えてあげるッス♡」
で、二回ほどルクスリリアと気炎万丈したところで、抱き着いてきたルクスリリアは俺の耳元で囁いた。
いい事とは何ぞやと思って耳を傾けると、どうやらエリーゼに関わる事らしかった。
「ご主人って、手を当てて回復する魔法使えるじゃないッスかぁ♡」
「“手当て”の事?」
「そうッス♡ それをエリーゼに使ってあげてほしいんス♡」
ルクスリリアの言う魔法とは、モンクの能動スキルである“手当て”の事だろう。これはスキルなので魔法ではないのだが、まぁ魔力を消費するのは確かだ。
このスキルは直接対象に触れて発動する類のスキルで、手を当てた対象にHPリジェネ回復効果と精神系状態異常の回復効果をもたらす事ができる。
が、このスキルは正直ちょいと微妙だ。同じ回復魔法の“治癒”シリーズと違い回復には時間がかかり、その間ずっと相手に触れ続ける必要があるのだ。なら治癒でいいじゃんという。精神回復にしても専用の魔法があるので、使うならそれでいい。
強いて優れた点をあげるなら、治癒よりも魔力の燃費がいいところか。時間はかかるが、小休止中に使うんならこっちのがお得ではある。
「それを、なんで?」
「きひひっ♡ いいッスか? 竜族ってぇ、とっても魔力に敏感な種族なんス♡ だから、誠心誠意やさし~く回復魔法を使ってあげると、とっても喜ぶ性質なんス♡ ほら、“清潔”使ってあげた時も嬉しそうだったッスよね?」
「あぁ……確かに」
エリーゼを見る。彼女は尚もぼーっと放心していて、俺とルクスリリアの様子を眺めていた。
無表情だが、無感情といった雰囲気はない。とにかく、色々あって疲れてる印象だ。風呂上りのボーッとタイムに近い感じだろうか。
「で、中でも角は魔力の通りが良いんで♡ そこに使ってあげるといいッスよ♡」
「そうかな」
「同時にキスしてあげると、エリーゼすっごく気持ちよくなってくれると思うッス♡ 淫魔のアタシには分かるッス♡ エリーゼ、すっごいキス好き竜族ッス♡」
「それは、まぁ……そんな感じするな。けど、今じゃなくてもよくない? もっと疲れた時のがさ」
「きひひ♡ 逆に、今だからいいんスよ♡ 今、いっきかせーに攻めずにいつ攻めるんスか♡ 大丈夫、淫魔はスケベな事には真摯ッス♡」
「そこまで言うなら……」
まあ、喜んでくれるんなら、やろうと思う。
コンソールを操作し、ジョブをモンクに変更する。そして、手のひらに意識を集中して、“手当て”を発動。俺の手のひらに緑色の淡い光が灯る。ちゃんと使える事を確認し、停止。
これを、エリーゼの角に使えばいいのか?
「いいッスかご主人? 使う時には、エリーゼに“好き”って気持ちを籠めるんスよ♡ そうじゃないと失礼ッスからね♡」
「おう」
それから、仰向けになっているエリーゼのとこまでにじり寄り、驚かさないようにその頬を撫でた。
ぼうとした視線が重なる。彼女は何を言われる前に瞼を閉じ、キス待ちの体勢になった。
「ちゅ……」
キスをすると、エリーゼはシームレスに舌を伸ばしてきた。稀代のキス魔である。
脱力したまま、彼女はゆったりと舌を絡めてきた。
「れろれろ……ちゅぱ♡ れろぉ……♡」
蠢く舌に応じながら、手探りでエリーゼの角に触れた。右手に左角。左手に右角。仰向けのエリーゼに覆いかぶさってキスをしている構図だ。
その状態で、俺は回復スキルの“手当て”を発動した。
後に聞いた話だが……。
実際に、竜族は魔力に敏感な種族であり、角は魔力を感知する感覚器官であるらしい。
中でも一等魔力に敏感な個体は、魔力に混じった“感情”をも感知するとか。
つまり、初対面時点で俺からエリーゼへの感情も「スケスケだぜ!」状態だった訳だ。
さて、ここで問題である。
そんな竜族女子に。
ロリコンの俺が。
角にゼロ距離回復魔法をかけたら……。
一体どうなる事だろうか。
答えはこうだった。
「んんんんんんーーーッッッ!?」
めちゃくちゃになった。
某対魔ニンジャ活劇ゲーム風に言うなれば、それはさながら感度3000倍のアレでもキメてしまったかの様。無論、ノー・ドラッグだ。ダメ、絶対。
しかし効果は同等かそれ以上で、淫れていたとはいえ何だかんだお嬢様ムーブを維持していたエリーゼは、もうぐちゃぐちゃのめっちゃくちゃ。サキュバスと見紛う程の御乱心。
「じゅるるるるぅ! レロレロぉっ♡ んぢゅるるるるーっ!」
ぴくぴく痙攣しながらも、ベロチューを継続するエリーゼ。
「んむぅぅぅぅぅっ!?」
竜族の長い舌で窒息しかける俺。
「ぎゃははははは! きひひっ! きぃひっひっひっ! あーオモロ! 魚みたいッスゥ! ぎゃはは! 上位種族のくせに! 竜族のくせに! きひひひひっ!」
後ろでお腹を抱えて爆笑するルクスリリア。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
いや俺視点では天国なのだが、寝ているところに弱点部位に大タル爆弾竜撃砲を食らったエリーゼからしたら、冗談ではなかった事だろう。
「フゥーッ!! フゥーッ! フゥーッ!」
エリーゼの狂竜化状態は、“手当て”スキルを停止してもしばらく続く事となった。
キスが終了した後も、エリーゼは理性をなくしたように全身の肌を擦り付けてきた。それは愛撫というよりは、犬猫が飼い主に自身の匂いを擦り付けている様に似ていた。
ちょっと休憩し、俺はエリーゼと二回戦した。それはさながら、暴走する神を宥めるように。
静まれ! 静まり給え! さぞかし名のある竜の娘と見受けたが、何故そのように荒ぶるのか!? 無論、俺と淫魔のせいである。
戦いの後、エリーゼは疲れて眠ってしまった。ベッドの上はウルトラマンとゴジラとキングコングが乱闘した後みたいになっていた。
「あー、面白かったッス! じゃ、アタシはもう寝るんで、おやすみー」
「リリィ」
「しぐー!?」
その後、ルクスリリアには無限列車編を敢行して全身全霊でわからせた。
俺にも罪はあるが、リリィにも罪はあるのだ。
いや、ていうか俺は得しかしてないな。まぁ主人特権という事にしておこう。
〇
朝、俺は両手にロリで目が覚めた。
右にはミイラみたいになってるルクスリリア。吸精が追い付いてないようだ。
左にはセミみたいに俺の身体に張り付いてるエリーゼ。今は安らかに瞼を閉じている。
下には顔を入れ替えた後のあんぱんヒーローみたいな息子。今日もこの子は元気だ。
「はぁ……」
充足感と共に、倦怠感のある朝だった。
それと、罪悪感も。
昨夜は、エリーゼには悪い事をしたと思う。
そそのかされてやった事とはいえ、特に考えず実行したのは俺である。彼女はリリィと違って淫魔じゃあないのだ。トラウマになってないといいけど……。
「ん……」
見ると、セミと化していたエリーゼは目を覚ました。
そして、俺と目が合うと数度瞬きして、キッと鋭い眼差しを頂いた。
「お、おはよう、エリーゼ」
「ええ、おはよう……」
しばしの静寂。
やがて、ふぅと一息吐いたエリーゼは、優雅に上体を起こした。
「昨日はごめん。ちょっと調子に乗り過ぎた」
「いえ……自制できなかった私が悪いわ……」
お互い謝って、収束。
実に理性的である。
「それに、私はアナタの財宝よ。アナタの好きにすればいいわ……」
目を合わせる事なく、彼女は窓の方を向いたまま云った。
その物言いは、昨夜聞いた彼女の過去を鑑みてあまり良いものではないと思えた。ソファで聞いた“財宝”と、さっき聞いた“財宝”には違うニュアンスを感じたのだ。
ソファの時は、誇り。今のは、諦め。俺が言うのも変な話だが、俺は彼女に誇りを持って自身を“財宝”と称してほしかった。
「えー? 昨夜あんだけ悦んでたくせにー?」
するとそこへ、吸精から復帰したルクスリリアがエントリー。エリーゼの背に抱き着いて、彼女を無理やり俺の方へと向かせた。
陽光に照らされたエリーゼの頬は、ほんのり赤くなっていた。多分、羞恥で。
「あれは、恥よ……」
「けど良かったッスよね?」
「そんな訳ないでしょう。とても苦しんでいたわ……」
「ふぅん? へぇ?」
言うと、挑発的な表情になったルクスリリアは、再度目を逸らしたエリーゼの耳に唇を寄せ……。
「ざぁこ♡」
と、俺にも聞こえる音量で囁いた。
「な……?」
「ざぁこ♡ ざぁこ♡ よわよわ竜族♡ 人間種のご主人に好き放題される上位種族♡ ちょっと“好き”を感知したくらいで気を遣っちゃう激チョロ竜♡ 誇りはどうなってんスか、誇りは♡」
「くっ……」
まさに、メスガキだった。この世界にメスガキ概念があるかは知らないが、その煽りは前世で散々愛用した煽りそのものだった。
俺からすると喜び半分ネタ半分の台詞だが、それを聞いたエリーゼは感情の昂りと共に全身に魔力を回し始めた。
「……貴女だって、淫魔でしょう? 人間種の好きにされておいて、よく言えるわね」
「きひひ♡ アタシはもう屈服済みなんで♡ 失うプライドなんて無いんスー♡」
「か、かとうしゅぞく……!」
その時、エリーゼは初めて怒りの感情を明確に表に出した。
ブワリと莫大な魔力が染み出して、彼女の髪が重力を無視して舞い上がった。それはさながら、突如として宿屋に高難度ダンジョンボスが現れたかの様。
元気になってた俺の息子さんも、緊急事態を察して引っ込んでしまった。
「え、エリーゼ、ちょっと落ち着いて……」
「……ええ、わかったわ」
一拍置いて、彼女は荒れ狂う魔力を静めた。さすがの自制心だ。
とはいえ、話によると彼女は魔法を使えないらしいので、魔力はあっても攻撃はできなかったのだが。
あ、だからルクスリリアはエリーゼをおちょくったのか。
「へいへーい♪ 竜族の旦那ぁ♡ もう認めちゃいましょうッスー♡ 私はファーストキスで感じちゃった真正の淫竜ですって♡」
「うるさいわね……」
なおも纏わりついてくるメスガキに、お嬢様の対応も雑になってきた。
ある意味、ようやっと素を見せてくれた感じなのだろうか。
淫魔の感覚的には、同じ釜の飯を食った仲なのかもしれない。かなり親しげな距離感である。
それは置いておいて、実際昨夜のアレはかなり拙い行為だったと思う。
あれだけ気品を保っていたエリーゼが、盛りのついた雌犬みたいになってしまったのである。普通に危ないだろう。
反省するし、以後封印する事を宣言すべきだ。アストルフォきゅんじゃあるまいに、触れれば転倒ならぬ触れれば絶頂。怖すぎである。そんな異能バトル見たくない。
「さっきも言ったけど、昨夜は本当にごめん。アレはやり過ぎだったと思うから、次からはしないよ」
「え……」
言うと、エリーゼは勢いよく振り向いた。その口はお間抜けな半開きになっており、何気に一番わかりやすい表情になっていた。その顔はまるで、あげようとしていたおやつを取り上げられた犬の様。そのままじゃねぇか。
ていうか、うん、そうなのか……。凄い分かりやすい反応だ。
「ふぅ……わかったわ」
数秒後、緩んだ表情筋を戒めるように嘆息したエリーゼは、今度はしっかり俺の方を見てから云った。
「確かに、アレは心身に危ないと思うけれど……」
エリーゼの顔は、以前と同じように作り物めいて白い。
さっきまでの顔の赤さは鳴りを潜め、今はしっかりと精神を制御している様だった。
「もう少し加減してくれるのなら、毎日してほしいわ……」
かと思えば、言い切ると同時に再度顔の赤みが復活した。
恥ずかしかったらしい。俺まで顔が赤くなりそう。
エリーゼの後ろでは、ルクスリリアがニチャア……っとした笑みを浮かべている。
「あ、うん、わかった……」
「それと……」
頷くと、エリーゼは重ねるようにして続けた。
そうして口をもごもごさせた後、僅か視線を逸らして云った。
「その、キスも……」
その声は小さく、一瞬聞き逃してしまいそうだった。
けど幸いな事に、俺に鈍感主人公の気はなかったようで、ちゃんと言葉もその意味も認識する事ができた。
「……できれば、毎日してほしいわ」
素っ裸は恥ずかしくないらしいが、欲望を表に出す事は、恥ずかしいらしい。
まあ、分かる。同性相手ならともかく、異性に性癖語るのは蜜の味しないもんな。
「う、うん」
頑張って言ってくれたのだ。内心驚きこそすれ、聞き返すような事はしないようにした。
「宝を愛でるのは、主人の務めなのよ……?」
今度の“宝”には、少しばかりの羞恥と、誇りがあるように思われた。
気高さの中に、少女性が混じったのだ。
うん、やっぱり……。
俺に、可哀想なので抜く性癖はなかった様である。いや全くダメではないあたり、度し難いと思うが……。
少なくとも、俺の近くで可哀想なのはNGである。
感想投げてくれると喜びます。
当初、エリーゼにキス魔設定はありませんでした。
元々はキャラクター倉庫にしまってあるうちの一人がキス魔設定だったんですが、そこから引っ張り出してきた感じですね。
こういう事平気でやります。