【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で続けられております。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は一人称、イシグロ視点です。
 よろしくお願いします。


炉利神になっちゃった日

 真夏である。太陽である。殺しにかかってきてるのである。

 カムイバラの夏は、それくらいに暑かった。

 

 幾度も繰り返してきた迷宮探索で寒暖差には強くなった我が身なれど、熱気で滲んだ景色や黒々とした影など見れば、この街が如何な状況であるかはガタイで分析・理解できる。身体は平気だが、心が暑がっているのだ。

 リンジュ旅行の序盤は結構外で遊んでいた我々だが、最近は専ら快適な旅館内でゴロゴロしていた。冷房の効いた部屋で食べる熱々お鍋の美味いこと美味いこと。内風呂の湯舟に水を張り、小プールにしてイチャイチャしたりもした。あと、何故か存在してた異世界卓球で遊んだりもしたっけ。

 カムイバラの観光スポットはまだまだあるが、猛暑の夏は引きこもってナンボである。涼しくした畳部屋で皆と寝転がる幸福感よ。まさに怠惰の極みである。

 

 そんなこんな。

 

 欲望のままに我儘に自堕落に過ごしていると、次第に「そろそろいいかな」という気持ちになってきた。

 そう思ったのは俺だけではなかったようで、トリガーハッピーのエリーゼや働き者のイリハも同様の意見のようだった。

 報連相の結果、王都に戻るかどうかはともかく、いい加減に戦士に戻ろうとなったのである。

 トレーニングは続けていたが、それも朝夕の軽い運動レベルだった。流石にこのままじゃ拙いだろうと、いっちょもっかい鍛え直そうとなったのだ。

 

 そんな訳で、ゲルトラウデ師匠にアポを取り、転移迷宮にある鍛錬場で稽古をつけてもらう事に。

 いっちょ、強くなった俺達をお見せしましょうってな思惑なんかもあったりして。

 いざ勝負と相成った。

 

「グワーッ!」

 

 結果、俺は負けた。

 全力稼働で第一形態は突破できたものの、鎧と翼を解禁した第二形態師匠にはフルボッコされてしまった。権能ありの第三形態には遠そうである。

 同じように、我が一党の面々も一騎打ちモードの師匠には全く敵わなかった。第一形態を突破できたのはルクスリリアとグーラだけで、他は初手から詰将棋を指されるようにして蹂躙されたのである。

 感覚的には師匠よりもフルアーマー・レノの方が強い印象なのだが、如何せん師匠は立ち回りが上手くて勝てないのである。対魔物はともかく、対人・対強者戦となればプレイヤースキルが重要なのだと再確認させられた。

 

 全員ノックアウト後も実戦稽古は継続する。

 続く俺とのタイマンでは、武器を縛ってぶつかった。俺の新必殺技、炉利式制圧術の初披露である。

 初披露であるのだが……。

 

「ふむ、着眼点は悪くはない。だが、まだまだ練りが甘いな」

 

 とは、炉利式制圧術を初見で完封したゲルトラウデ師匠の評である。

 炉利式制圧術とは、つまるところチートありきの後出しジャンケン技である。相手の攻撃属性に効果抜群な攻撃属性を当て、有利状況を維持し制圧するロリコン・オリジナルの打撃武術だ。

 

「その拳法の弱点は二つある」

 

 カムイバラの鍛錬場は、如何にも精神修行に最適そうな滝のほとりで固定である。そんなフィールドの深い滝つぼから這々の体で復帰した俺に、無傷の師匠はピースサインを作ってみせて、解説口調で言葉を継いだ。

 

「一つ、速さに勝る相手には通じないな。そもそも貴殿が反応できなければ後の先が出せないし、同じ事が出来る相手には裏をかかれてしまうだろう」

 

 イリハの陰陽術治療を受けつつ、師匠からの指摘について考える。

 炉利式制圧術の仕様上、俺の反応速度を超える攻撃にはジャンケンもクソもなく負けてしまうのは確かである。また、相手側が俺の後出しに反応できるくらい速かった場合、後出しに後出しされて俺が負けてしまう、と。

 どちらも相当な強者しかできない芸当だが、相当な強者なら出来る訳だ。実際、目の前の竜族師匠はやってきた。これを考慮しないのは技として未成熟の証左である。

 これの対応策として考えられるのは、俺の技量・敏捷ステータス及び格闘術の習熟度の向上ってところかな。今のところ、現行の炉利式制圧術では根本的な解決はできそうにないが。

 

「もう一つは、硬い鎧に対応できないところだ」

 

 言って、師匠は両の拳に暗緑色の装甲を纏わせてみせた。竜族の種族特性、鱗鎧である。師匠のソレは前衛竜族基準だと薄くて脆いそうだが、その防御性能は並みの金属鎧を超えている。

 この鱗鎧の厄介なところは、鱗を纏った拳による攻撃には有利属性の攻撃を当てても常のように相殺できなかった点である。ジャンケンで勝っても勝負に負けるのだ。なんというか、その鱗は炉利式制圧術を刈り取る形をしていた。

 恐らく、攻撃ヒット時に属性判定より先に向こうの防御力が働くせいだと思われる。こうなると完全にお手上げだった。今まで戦ってきた武闘家の拳装備と言えば、せいぜいグローブかブレーサーくらいだったので、なかなか気づけなかった弱点である。

 

「自前の鎧を纏える種族は竜族以外にも存在するぞ。蜥蜴人に古い蛇人に、麒麟族もそうだったな。恐らく、羆人や野牛人といった重い拳を使う種族にも通じない可能性が高い。聞くに、貴殿が戦ったという相手は拳も身も軽かったのだろう」

「そうですね。なるほど……」

 

 要するに、炉利式制圧術は極まったスピードタイプと極まったディフェンスタイプに弱い訳だ。変な話、俺より強い奴には勝てない技だったんだな。

 それこそ、炉利式制圧術は重量級武闘家であるグレイソンさんには効かない可能性があるのか。裸足の猫又に通じたのは、相手が軽量級の紙装甲だったからなのかもしれない。

 今後、これを使わざるを得ない時が来たら、相手をよく見ないといけないな。

 

「これは大いに改良の余地ありですね」

 

 一生懸命考えた技術がこうも通じなかったのは、ちょっぴり悲しい。

 が、それと同じくらい今の段階で弱点を知れてよかったと思える。

 

「うむ。しかし、さっきも言ったが着眼点は悪くないぞ。習った技を貴殿なりに応用し、一つの型に昇華している。よく頑張ったな」

 

 戦闘狂のつもりはないが、こうやって一つ一つ技を組み上げていく作業はカードゲームのデッキ構築みたいで存外楽しかった。

 俺が愛用しているデッキは何でもできる汎用性重視デッキだが、テーマが制限される環境ではそのテーマで戦うしかなくなる。そういうのに対応できるようにするのも、強くなるって事なんだろう。

 実際、先の上森人王暗殺事件では森人サイドはガンガンにメタを張られて凄まじい被害が出ちゃった訳で、カンスト賢者だったらしい上森人王が撲殺されたのを鑑みるにエリーゼやレノにも武器無し自衛デッキが必要だと考える次第。ジョブ育成はともかく、ステを運用する為の武術は習熟しておくべきだろう。

 レベルを上げて物理で殴ればいい。そういうふうに考えていた時期が俺にもありました。

 

「よし、次はルクスリリアだ。地上戦をするぞ」

「おッスお願いしまーッス!」

 

 俺の番が終わった後は、皆にも順繰りに指導してもらった。

 試合ではなく、指導である。各々が向き合うべき課題について、実戦形式で学ぶのだ。

 

「流石はイシグロさんです! 剣だけでなく、あれほどの無手術まで! しかも固有の必殺技を……!」

「ま、まぁ通じなかったんですけどね」

 

 ちなみに、この稽古にはトリクシィさんも同行していた。曰く、俺と久しぶりに戦いたいんだとか。

 彼の恋人であるお姉さん淫魔とは別行動である。別れ際、彼女は微笑ましそうな表情を浮かべていた。

 

「では、此方もやりましょうか」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 休憩を入れたところで、師匠の邪魔にならない場所でトリクシィさんと戦う。

 俺は銃杖木刀スタイルで、トリクシィさんは一刀流だ。ここは異空間の鍛錬場なので、彼も得意の飛ぶ斬撃を思う存分使えるのである。

 

「っと、完全に別ゲーじゃんね」

 

 試合開始とほぼ同時、さてどうなるかなと思ったら、彼は最速弱攻撃で飛ぶ斬撃を放ってきた。

 彼の放つ飛ぶ斬撃は、半透明だった以前と違って青白く輝いていた。秒間六閃、いや七閃の飛ぶ斬撃は、俺からすると一人称視点で弾幕ゲームをやってるようだった。その斬撃密度たるや、さながら剣士型の機関砲といったところ。

 

「もっと行きますよ! はぁあああっ!」

 

 しかも、その斬撃弾幕の発動にはトリクシィさんの消耗が無いように見受けられる。コマンド技というより、ボタン連打で撃たれている印象だ。あまつさえ、その威力は刀の攻撃と同等に見え、距離による威力減衰までないときた。

 並みの魔物や剣士なら、彼の視界に入った瞬間八つ裂きになってる事だろう。俺の炉利式制圧術とは違い、完成度の高い戦法だと思える。

 

「まぁ突っ込めばいいか」

 

 とはいえ、対処は容易だ。

 前に構えた銃杖から錐状の魔力障壁を張って一直線に接近し、それを狩ろうとしてきたトリクシィさんの迎撃技を【受け流し】た。飛び道具で動かして迎撃技で狩る。格ゲーの基本だ。

 こうなる事は分かっていたろうに、しかし己の剣速を信じ剣を振り抜いた覚悟誉れ高い。一瞬の交錯、俺は彼に敬意を表し、右手の木刀を力一杯ぶち込んだ。

 

「ぐはぁっ!」

 

 と、天高く吹っ飛んだところで、空中で三回転した彼は華麗に着地。気絶すると思っていたが、そうはならなかったようである。やはり彼はガッツがあった。

 とはいえ瀕死である。さすがに試合終了でいいだろう。俺は左手の銃杖から【大治癒】をかけてあげた。この魔法を使っても魔力切れ起こさなくなったあたり、俺の魔力ステも強くなったものである。

 

「ふぅ……ありがとうございます。やはり、見抜かれてしまいましたか。魔物も決闘も、だいたいこれで勝てるんですが……」

「前より威力上がってますよ。流石です」

 

 飛ぶ斬撃といえば、去年の桜討会でウラナキさんが使ってきた確二牽制技が印象的である。あれは普通に怖かった。対し、トリクシィさんの飛ぶ斬撃はあくまで通常攻撃の域を出ておらず、当たってもそんなに痛くないからそこまで警戒しなくていいんだよな。

 先の弾幕戦法にしたって、以前ご指導頂いた銀竜剣豪ヴィーカさんの下位互換である。比べる相手が相手とはいえ、ただの接近誘導用の牽制技と常時必殺級の牽制技では怖さが違うのだ。

 畢竟、威力不足である。通常ガードを崩せるくらいの火力か、ガードを貫通できるだけの切断力がほしいところ。

 

「にしても良いですね、飛ぶ斬撃。俺もいつかは使いたいなと」

「イシグロさんも練習すれば出来るようになりますよ」

 

 トリクシィさんはそう言ってくれるが、いくら練習しても俺にはサッパリだったんだよな。

 グーラに訊いても「こうです!」と見本見せられるだけでハテナ。トリクシィさんに訊いても「こうです!」と披露されただけでハテナ。残念ながら、俺のチートはバトルセンスを外付けしてはくれないのだ。

 難しいのは分かっちゃいるが、やっぱり惜しいし欲しい技術だ。隠し札として使うのもいいし、咄嗟の速攻にも良さそうだ。控えめに言って羨ましい。

 

「なんだ、イシグロも斬撃を飛ばしたいのか。道場の子供達もやりたがっているんだが、残念ながら無月流にソレは無いぞ」

 

 なんて話していると、グロッキー状態のルクスリリアとグーラを小脇に抱えた師匠が戻ってきた。

 グルグル目になっている二人が降ろされ、イリハの治癒陰陽術を受け復帰。こういう時、エリーゼのチートヒールで回復するのは良くないらしい。理由は知らないけどね。

 

「ふむ、飛ぶ斬撃と言ったか……」

「【流星斬】です」

「……【流星斬】は一朝一夕で習得できるものではないぞ。私とて、集中して一度放てるくらいのものだ。何にしても、天稟がなければ実用的な技とは言えないな」

 

 言って、師匠が無造作に手刀を振ると、軌道上の木はバッサリと両断された。

 確かに、息をするように連発してきたトリクシィさんと比べると、師匠のソレには一瞬の溜めがあるようだった。

 ゲルトラウデ師匠とグーラは溜め斬撃で、ウラナキさんとかトリクシィさんは通常攻撃でやってくるんだよなぁ。一体何が違うのか、慢心・環境の違い。

 

「以前、お祖父様が振るったものを受けたのよ。自分も身につけたいのでしょう」

「なるほど、そのような技もお見せ頂いたのですね。しかし、ヴィーカ様は天稟をお持ちの方だ。やろうと思ってやれる技では……」

 

 言葉の途中、師匠はグーラを見た。

 グーラは補食のおにぎりを食べていた。

 

「……例外はいる、悔しいが」

 

 結局、グーラもトリクシィさんも天才って話か。

 ふと見ると、トリクシィさんが銀竜剣豪の名を聞いてビックリハテナしてた。そんな彼の反応に、エリーゼがうっすらドヤッている。

 

「とはいえ、あのお方の剣は雄弁だ。あるいは、貴殿の伸び代を鑑みて技をお見せしたのかもしれないな。私の言う事に縛られず、以降も励むといい」

「承知しました」

「よし、次はトリクシィだ」

「え? あ、はい! よろしくお願いします!」

 

 そうして、離れた所で師匠とトリクシィさんが戦いを始めた。

 秒間七閃の飛ぶ斬撃は、端から見ると小さな三日月が連射されてるようだった。実用性はともかく、やっぱりロマンあるよなとか思っちゃうね。

 

「ところで、二人にはアレはどういう風に見えてるの?」

 

 気になったので構造解析班の意見を伺ってみると、彼女等は「ふ~む」と唸って口を開いた。

 

「あの光の周りに、刃の形をした魔力が薄く張られているようね。触れただけで壊れるくらい脆い魔力のようだけれど……」

「うむ、その中に彼奴の氣が流れておるのじゃ。それもほんの少しだけで、ひと呼吸でお釣りが出るくらいじゃな」

「へぇ」

 

 なるほど、件の【流星斬】は魔力の膜の中に氣が詰まってるっていう構造をしているらしい。

 魔力と、氣か。そういえば、以前師匠が羊人少女カリッセさんと戦った時、彼女は波動的なエネルギー弾を撃っていたように思う。もしかすると、アレは飛ぶ斬撃の親戚的な技なんだろうか。

 しかし、俺の使える武闘家系能動スキルにああいう格ゲーのコマンド技みたいなのは無いんだよな。あるいは、俺の取っていないジョブにあるのかもしれないが。

 う~ん、魔法なのかスキルなのか通常攻撃なのか。ちょっと分からないな。

 

「氣か。イリハちょっとやってみてよ」

「えぇ? できるかのぅ」

 

 好奇心の赴くまま、氣マスターであるイリハに見様見真似の飛ぶ斬撃をお願いしてみる。

 上段、刃に氣を纏わせて、イリハは刀を振り下ろした。すると、彼女の太刀の軌道に沿って半透明の三日月が五メートルくらい直進し、やがて煙のように雲散霧消した。

 

「おぉ……! 凄ぇ……!」

「むぅ~、でもあんま飛ばんかったのぅ」

「魔力の形が歪だったわ。もっと綺麗に覆ってみなさい」

「それが中々難しくてのぅ。今のもめっちゃ集中して出来た訳じゃし」

「もっと氣を籠めてみては如何でしょう?」

「もっと? ん~、えいやっ!」

「ちょっとしか飛ばなかったッスね。あれなら素直に【魔力の刃】使った方がいいッスよ」

「氣を混ぜれば混ぜるだけ強くなるって訳ではないようですね」

「魔力と氣のバランスが大事なのだと思うわ」

「や、そんな技に集中するより、近づいて斬った方が良いはず」

「それは……そうだな」

 

 小手先で真似はできても、真に迫る事はできないっぽい。どだいあくまで手札を増やしたいのであって、手品を増やしたい訳ではないのだ。

 本気で習得したいなら、剣鬼流を習うしかないのかな。剣鬼流の鍛錬メソッドを鑑みるに、通常攻撃を極めた過程で出来るようになると思うんだけども……。

 

「ふぅむ、そんなに撃ちたいのか」

「すみません。お力になれなくて」

 

 そうこうしていると、師匠とトリクシィさんとの実戦訓練は終了していた。

 連戦してる師匠の顔に疲労の色は無いように見える。竜族って凄い。俺は改めてそう思った。

 

「ん、マスターは武器だけじゃなく武術にも拘りはじめた」

「男は武術が好きなのよ」

「それは人によるかと……」

「まぁ何だかんだ技術を高める作業は好きだよ、俺は」

 

 敵をぶっ倒すのに快楽を覚えているのではなく、一つ一つ練り上げてくのが楽しいというか。

 レベリングと似た感覚で、段階的なスキルアップを楽しんでいるのだ。そんな俺はルンファクシリーズの大ファンである。結婚できないバグは遺憾の極みだが。

 

「ならば、武術の本場に行ってみてはどうだ? 何か掴めるかもしれんぞ」

「本場?」

 

 師匠の提案に、俺は首を傾げた。それってカムイバラの事ではないのかと。

 すると、師匠は腕組み仁王立ちのまま「うむ」と頷いた。

 

「王都から見て南の方だったか。そこにグウィネス系の独立国があるのだ。そこはカムイバラ以上に武術が盛んでな。国を挙げて傭兵業をしているのだ」

「へぇ……!」

 

 武力を売って国を回してるのか。なんだか知らんがとにかく凄そう。俺の頭の中に様々な作品に登場する傭兵団のイメージが膨らんでいく。

 血で血を洗う闘争を繰り返したりしてるのかな。あるいは、徹底した連携訓練とかしてるのかな。なんだか夢が広がるぞ。

 

「そこはどういうトコなんスか?」

「ふぅむ……カムイバラと比べて、格闘の技を重視しているな。あと、そこの長は武帝を自称している。国の名を、武侠国クーシェン」

「武侠国……!」

 

 俺の脳内傭兵国家が、一気にカンフー映画的なイメージに切り替わった。

 太極拳に八極拳、永春拳に八卦掌。何が何だか詳しくないが、ハイスピードカンフー映画は大好きだ。サッカー映画も大好きだ。

 そういえば、この世界の鬼人は酒を呑んでバフを得るらしいんだよな。異世界酔拳はパワータイプなのかもしれない。

 

「あっ、クーシェンについては本で読んだ事があります!」

「知っているのかグーラ」

「はい、お話が面白くって。その成り立ちはリンジュ共和国に近く、九人の獣人英雄が興した国ですね。ラリスともリンジュとも異なる独特な文化を持っているようです」

「うむ。異なる流派の技は参考になるからな。一度行ってみてはどうだ? 武帝祭も近いしな」

「武帝祭、また気になるワードが……」

 

 悪くない、というか、俄然興味がありますね。

 俺としては旅行感覚でも行きたい気分だ。訊いてみると、皆もその気になっているようだった。聖地巡礼か、グーラの尻尾も揺れている。

 

「ていうか、そこって俺が行ってもいいんでしょうか?」

 

 一応、俺はラリスの銀細工なのだ。強い冒険者は同じ国の都市的にはウェルカムでも、国を跨ぐのは警戒されると聞いた事がある。

 奴隷身分の扱いも気になる。他国の奴隷は入っちゃダメとか言われたら、クーシェン旅行は結婚後になるんだが。

 

「問題ないはずだぞ。だが、何回か絡まれると思っておけ」

「というと?」

 

 問うてみれば、師匠はフッと笑ってみせて、

 

「貴殿はラリスもんだからな」

 

 そう云った。

 

 例によって、余所者には厳しいようだ。

 ヤンナルネ。

 

 

 

 

 

 

 結局、俺達はクーシェンに行く事になった。

 その目的は技術向上の為の修行だが、もう半分は観光である。曰く、ラリスともリンジュとも違う食文化があるらしいのだ。

 

 新たなる国、新たなる冒険、新たなる美食。

 これぞ異世界生活、実に楽しみである。

 

 

 

 さて、翌朝である。

 リンジュを出る旨を伝えるべく、カムイバラの知り合いに挨拶回りをしようと思った時だった。

 

「お久しぶりでございます。イシグロ・リキタカ様」

 

 朝食時、上玉館の従業員に変装した第三王子直属の斥候お姉さんが現れて、俺に二通の手紙を渡してきた。

 手紙には、このような内容が書かれていた。

 

「武器が届いたらしいな」

 

 武器工匠アダムスに頼んでおいた武器と、王子に頼んでおいた深域武装。これらを渡す準備が整った、と。

 しかも、である。曰く、王子からのプレゼントは見てのお楽しみらしい。王子様はようわかっとる。ワクワクが止まらねぇぜ。

 オーダーメイド武器に、王家秘蔵のユニーク武器。楽しみと楽しみが重なり最強に見える。

 

「ん、マスターもエリーゼも嬉しそう」

「そう見えるかしら」

「ご主人は前からそうッスけど、エリーゼも大概ッスよね」

 

 ってな訳で、クーシェン行く前に王都に寄ろうとなった。

 急いでないのである。回り道して行こうじゃないか。

 

 楽しみいっぱい夢いっぱい。幸せ過ぎて困っちゃうね。




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