【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝の念に堪えません。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
リンジュ共和国、首都カムイバラ。
滞在期間、約一ヵ月。
その間ずっとホテル暮らしと考えれば、相当に贅沢な長期休暇である。
結果、そろそろいいかとなったので、帰りの支度をする事に。
「貴殿の事だから心配はしていないが、向こうでも鍛錬は続けるのだぞ。エリーゼ様、ご健勝をお祈りしております」
「はい。シズクさんもお元気で」
「は、はいぃ……!」
猛暑の中の挨拶回りは、王都の時よりあっさりだった。
最初に行ったのは銀竜道場である。門下生達には御使い物のお菓子を渡しておいた。ゲルトラウデ師匠には最後にみっちり稽古つけてもらったので、次会う時こそ一本取りたいね。
宣言通り、鬼人少女のシズクちゃんは道場に通い続けているようだった。以前会った時はグレートクラブの練習をしたがっていた彼女だが、今は小ぶりな棍棒の型を練習しているらしい。元気になってくれたようで何より。
トリクシィさんやミアカさん、カムイバラの同業者にも別れの挨拶をした。トリクシィさん曰く、恋人共々そろそろ王都に戻るつもりらしい。無月流剣術は殆ど覚えちゃったんだとか。
一応、夜回りのバイトでお世話になった同心さんにも挨拶した。アンゼルマさんに勧められたお酒を持って行ったら、めちゃくちゃ喜ばれた。俺にその気はないのだが、なんか賄賂みたいで後ろめたい気持ちがしなくもない。まぁこれくらい普通の事らしいが。
「あっ、お土産買わなきゃ」
門へ向かう道すがら、王都にいる人達用にリンジュ土産を買っていく。
最初は適当に買うつもりだったのだが、皆と土産を選んでたら楽しくなっちゃって、結局あっちこっち散策してしまった。
土産の木刀と一緒にマジで斬れる刀も売られてるの実に異世界って感じでいいと思う。その他、木彫りの像とか陶芸とかも置いてあった。マスクド・テンコことシラヌイさんが召喚していた虎のイラストなんてのもあり、それは俺用に購入した。
「きひひ! なんスかコレ! やだぁ~イケメンすぎ~♡」
「これが、俺……?」
「ふふっ……ええ、似ても似つかないわね。見なさい、こっちの木彫りなんて壮年の剣士になっているわ」
「本物のご主人様の方が素敵だと思います」
「まぁ主様の戦功だけ見れば、これくらいの益荒男で想像するんじゃろうな」
「ん、絵は上手いと思う。実際の人物より特徴が誇張されて描かれてる。なるほど……」
あと、土産屋の中に本物とは似ても似つかないイシグログッズなんてのもあった。ちょっと美化され過ぎというか、勇士化され過ぎなんですよね。
あまつさえ、イシグログッズは冒険者コーナーで多くのスペースを占有していた。イケメン過ぎる謎肖像画に、妙に露出度の高いフィギュア。こんなに黒くねぇよってくらい真っ黒な無銘レプリカなんてのも売っていた。何とも言えず固まる俺の前で、何が面白いのか皆はきゃっきゃとイシグログッズを買い込んでいた。本物がいるんですがソレは。
そんな風に遊んでいたら、カムイバラを出たのは昼過ぎになった。お昼に食べた異世界なめろうが美味しかったです。キンキンに冷えた甘酒も美味しかったです、まる。
「ふぅ~、涼しいのじゃ~」
「暑いのってそんなにお辛いのでしょうか」
「アタシ等には分からんない感覚ッスよね」
「純淫魔契約で大分耐性ついたけど、やっぱ気分的に? カムイバラ蒸し蒸ししてるし」
カムイバラを出て暫く、戦車に乗って空の旅。風を司る守護獣ラザニアのお陰で、戦車内の気温は快適に保たれていた。
今回の旅行はカムイバラだけを回っていたが、広いリンジュには首都以外にも沢山の街や名所がある。次はもっと色んな所に行こうと思う。
あと、夏は暑いから止めておこう。行くとしたら避暑地かな。
宿場町に泊まったり、避暑地の滝を見に行ったり、それからリンジュ共和国を出た後は、王国領の空を飛んでいた。
道も渋滞も速度制限もない空中移動は、とてつもない快速ぶりだった。トップギアのラザニアも機嫌よさそうに走っている。行きのサイクリングは凄く楽しかったが、流石にこの暑さでペダルを漕ぐ気にはなれなかった。
そうこうしていると、空戦車に乗った俺達は王都アレクシストに帰還した。完全にファストトラベル気分である。
王都アレクシスト。世界最古にして最高の巨大都市。
中に巨人が入ってそうな石壁に、巨人タックルで壊されそうなクソデカ門。徒歩の人が通る用の小門には、旅人や同業者達が列を成していた。
そんな混雑を無視し、ファストパスを使って入都する。羨ましそうにする若者達の視線を受け流し、俺達は堂々と門を潜って行った。
「ん~っ! 帰ってきたって感じッスね~!」
「ん、天狗族とか鹿人族とかがいない」
「そういえば王都じゃ見た事ないな。一人くらい居ていいもんなのに」
「リンジュの方が山が多いからのぅ。天狗様は高いトコが大好きなのじゃ」
門を抜けた先は、まさに異世界夏コミの様相だった。カムイバラも栄えていたが、やはり王都は別格である。
熱気あふれる工業区の活動は年中無休で、大中小のお荷物がひっきりなしに往来している。積荷の上で煙草を吹かしている奴隷少女がいれば、なんかキレてる大商人っぽいドワーフおじさんに平身低頭している森人少年。屋根の上には腕組み仁王立ちで周囲を睥睨する衛兵がいて、馬車を操る行商人は王都の街並みを物珍しげに眺めていた。
そんな大都市ド真ん中を、俺達一党はお手々繋いで歩いていった。
「ご主人様、これからどうするのでしょうか?」
「家帰る前に神殿行こうか。今ソファーに座ったら、そのままダラダラしちゃいそうだ」
「お昼は外かしら。久しぶりにラリスのビールが呑みたくなってきたわね」
一度帰宅したら動く気がなくなりそうだったので、帰還報告の為に転移神殿方向へ移動。
道中、大剣で斬り合ってる冒険者を見てほっこりしつつ。帰ってきたなぁと実感する。あ、二人とも棍棒持ちの衛兵に殴り倒された。暑いのに元気だねぇ。
「おう早かったな。また数ヵ月向こうにいると思ってたぜ」
「どうも、お久しぶりです。こちらリンジュ土産になります。ギルドの皆さんで食べてください」
「あんがとよ。あぁそうだ。これ、お前宛てに手紙来てるぞ」
クーラーがあってなお蒸し暑い神殿内、クールビズの受付おじさんにリンジュ土産のお菓子を渡し、ささっと手続きを済ませていく。
次いで渡された手紙を見たら、カムイバラで貰った内容と同じだった。ドワルフからの武器完成報告である。曰く、しばらく店にいるからいつでも受け取りに来いとの事。
「どうぞ。シラノイさんには此方を」
「ほう! これは有難いですねぇ。私、この店の饅頭には目が無くて……あっ、リンジュには行った事がないですけどね、チャキチャキのラリスっ狐ですから、私は」
「故郷で旧家で富豪じゃろ」
「はて何の事やら」
手続きを終えたら、神殿内にいる同業者達にリンジュ土産を配っていった。
ぶっちゃけ打算である。全くの見ず知らずより、ある程度交友のある間柄の方がいざとなった時に助けになってくれるかもだしな。それでも平然と殺し合えるのが迷宮稼業界隈だが、まぁやっといて損は無い筈だ。
そうやって妖怪土産配りなどやっていると、広いくせに混雑している神殿にあって涼しげなオーラを放つ見目麗しい集団を発見した。
「やぁやぁやぁ、イシグロさんと愉快な仲間達じゃあないか! こっちに来て話そうよ! 光景だけならハーレム気分を味わえるよ!」
「きぃいいいっ! ルクスリリア、今日もめちゃクソに精が充実してますわぁ……!」
「お帰りなさいませ。リンジュ旅行は如何でしたか?」
順に、天才芸術家パイモさん、夢胡蝶のグレモリアさん、風舞のニーナさんの淫魔族三人娘である。
彼女等のように顔見知り以上の人達にはその人用の土産を用意している。パイモさんには最高級の墨を渡した。グレモリアさんとニーナさんの土産はルクスリリアが選んだ物で、俺達はその中身を知らなかった。
「おほ♡ これが例のモノですか♡ ありがとうございます♡」
「ま、まぁ? お土産のセンスは認めてあげてもよくってよ? デュフフ♡」
「中身は何だアレ?」
「知らない方がいいッス」
ルクスリリアに渡された箱を覗き見た二人は、それはもうたいそう喜んでいらっしゃった。
いい時間なので、そのまま三人と一緒に昼食を摂る事に。パイモさんに仕事の依頼をしたり、次回の異種間交流会について聞いたり、時にはリンジュでの事を話したり。
「ところで、クリシャナさんは何処に?」
「夏なので、彼女は家に引きこもっていますね。日光を浴びると怠いとかで」
ふと、最近いつもニーナさんの隣にいる吸血鬼娘を見かけない事に気が付いた。
吸血鬼の例に漏れず、この世界の吸血鬼族も太陽に弱い。陽光を浴びたら一瞬で灰になるって程ではないが、真夏の直射日光は避けたいらしい。
なら仕方ないと、クリシャナさん用の土産はニーナさんに渡しておいた。
昼食を食べ終えたら、神殿を出てシャーロットの家に向かう。彼女にも土産があるのだ。
シャロの家は転移神殿エリアにあり、ドワルフの店のすぐ近くに建てられている。ちょっと歩けば到着だ。
「居ないようですね。学校でしょうか?」
と思ったら留守だった。
森に行くとは聞いていたが、まだ帰ってきていないようである。ドワルフが戻ってるあたり、シャロも帰還済みと思っていたが。
仕方ないのでドワルフの店に行くと、そこは手紙の通りにオープンしていた。
「お邪魔しまーす」
「あ、イシグロの旦那じゃあねぇですかい!」
古めかしい店の扉を開けると、森人族の店主は奥の倉庫から出てきたところだった。
玉のような肌に、宝石のような瞳。マジで超イケメンな森人アダムスは、所作といい雰囲気といい相変わらず典型的なドワーフキャラのようだった。ドワーフみたいなエルフ、略してドワルフである。俺の脳内だけの愛称だ。
「いやぁお久しぶりでさぁイシグロの旦那! お嬢さん方もどうぞお座りくだせぇ! へっへっへっ、もう姐御から聞いてるとは思いやすが、ちょいと森の方へ行ってましてね? やれ森人一の工匠だの何だの言われてお偉方とお話させて頂いてたんですが、いやいやあっしぁ前にケナズん里出身だってんで森に入れなかったの忘れてねぇのよとか思いつつ大人の対応ってもんをしてやりましたよ! んで今度ぁクソつまんねぇ葬式だの即位式だので辛ぇの何の! 流石に寝ちまうのも外聞悪ぃんで、バレねぇようにヨモギ噛んで耐えてたぜ! そうそう、式じゃあ姉御が偉い人の前でお話なんかしてましてね! それはもうご立派でご立派で、あの姐御がデッカくなったとそん時ばかりはあっしも泣きそうになっちまって! まぁタッパは今でも小せぇままなんすがね? ギャハハハッ! あー、姐御はまだ森にいるんで、暫くぁ帰ってきませんぜ。なんか他のルーニアと会談があるとか何とかで……」
森への遠征でよほどストレスが溜まっていたのか、どっかりと受付の椅子に座ったドワルフは立て板に水とばかりに言葉の洪水を放出してきた。
武器関連以外で早口になってるドワルフは初めてである。やがて話題がアルヴの森の食事事情に移ったところで、俺は口を挟む事にした。
「あの~」
「っと、すまねぇ。お嬢ちゃんの杖でしたね」
話し過ぎたと思ったかペシッと自身の額を叩いたドワルフは、軽やかに立ち上がっては倉庫に消えて、奥でゴソゴソやった後に戻ってきた。
トンと、受付机の上に木箱が置かれる。大きさはティッシュ箱数個分で、箱それ自体に装飾はないが質の高さが窺える代物だった。
「お待たせしやした。このサイズに収めるのに苦心しましてね。ですが、ようやく納得できるモンが出来上がったんでさぁ」
「エリーゼ」
「ええ……」
促され、立ち上がったエリーゼが蓋を開けると、箱の中には注文通りの代物が納められていた。
一言で言えば、それはエリーゼの愛杖である王笏を小型化した物だった。大きさはカラオケにあるマイクくらいで、グリップはエリーゼが握りやすいよう細めになっている。
「ご要望通り、杖にあるまじき近接特化の触媒になりやす。例の魔法装填ですが、これまでの魔工師じゃなくディングから呼び寄せた職人に刻んでもらいやした。言っておきますが、くれぐれもお嬢ちゃん以外が使わないようにしてくださいよ。軽~く使うだけでパーになっちまうんで。詳しい仕様は此方に」
「ありがとうございます」
こっそりチートで調べつつ、ドワルフから手渡された取説を流し読む。うん、嘘は吐いてないな。
魔力関連もそうだが、これは使用者の技前が直に反映される逸品だ。だが、それも問題無い。今のエリーゼなら使いこなしてくれるだろう。
「ところで、光力銃についてはどうですか?」
「あー、それがからっきしですわ。旦那に貰った研究費の余りで試作してみたんですが……ちょっと待っててくだせぇよ」
新杖にうっとりしているエリーゼを横目に光力銃の話題を振ると、彼は倉庫の方から玩具箱めいた箱を持ってきた。中には研究の過程で作成された失敗光力銃が山積みされている。
レノの使用武器である光力銃は、今でも研究開発を続けてもらっている。紆余曲折あって完成品はクソデカデザートイーグル型になった訳だが、これ以上の光力銃を作れるのなら乗り換えも検討していた。その他、威力重視の光力銃なんかも考えてもらっている。
が、それもこれも苦戦しているようだった。
「どうにもこうにも弾倉と触媒の組み合わせが上手くいかねぇんで」
光力銃とは、天使族等一部種族が生成・行使可能なエネルギー“光力”を圧縮して撃ち出す機能を持った触媒の事である。
その構造は銃型杖の触媒に光力を充填できる機構をくっ付けたもので、言ってしまえば色んな作品に出て来るビームガンみたいなものだ。弾丸及び発射機構が使用者本人ってのも特徴の一つだな。
その仕様上、多くのハンドガンのようにグリップ内部に弾倉がないと上手く光力を圧縮できない。また、グリップに収まる大きさじゃないといけないので、充填できる容量に制限がある。
これを解決すべく、光力弾倉を延長したマシンピストルみたいなのを提案してみたのだが、そしたら何故か触媒機能が無くなってしまい、結果的に光力圧縮機能も弱くなってしまったらしい。
杖の先端に剣を付けたら槍に化ける世界観である。どう見ても拳銃なレノガンも、微妙なバランスで杖型触媒として成立しているのだ。あっちを立てればこっちが立たず、これが意外と難しい。
「一応、こういうもんは出来たんですがね」
言って玩具箱からドワルフが出してきたのは、上下二連ショットガン風の光力銃だった。中折式の孔に、ショットシェルより長い金棒を装填する想定らしい。
確かにこれならハンドガン型より大きい光力弾倉を入れられるので、光力容量も多く圧縮光弾の威力も向上するだろう。銃身が長い為か、ちゃんと触媒としても機能するようだし。
一見、この形こそ最適解のようではあるが、この銃に光力を籠めるには既存のクロスボウと同じように構えて、銃身を支える左の掌から光力を籠める必要がある。レノの場合、それだと困る。
何故なら、ジョブとかモーションアシストとか関係無しに、レノは片手撃ち以外の射撃では命中率が下がるという謎特質を持っているからだ。そんな彼女からすると、しっかり構えてチャージする歩兵銃型は使いづらいというのである。
ならチャージ中だけ両手で構えて射撃時だけ片手で撃てばいいじゃないかとなるかもだが、それだと射撃モーションへの移行中に光力のロスが発生し、最悪コントロールを失って銃内部で暴発する危険性があるというのだ。ならもう片手でチャージできてそのまま片手で撃てるハンドガン二挺がベストマッチだよねとなる訳で……。
ままならないね。楽しいね。
「今のところ、単純な上位互換ってのぁ難しいですわな。けどまぁ特化型ならソレより強ぇモン作れると思いやすぜ」
現状に不満は無いが、今後の事を考えると威力特化や上位互換の研究はしておいて然るべきと考える次第。
何があるか分からない異世界。何が起きても対応できるようにしないとな。
「結局、遅くまで話してたじゃないッスか」
「ごめんて」
会議は踊り、されど進まず。気付けばすっかり夜である。
白熱した光力銃会議もそこそこに、俺達は酷使してきた武器をメンテに出してドワルフの店を出た。
今から家帰って荷下ろしするのを考えると飯を作る時間が無いとの事で、本日はちょっと早めの夕食を食べてから帰った。
「王都でもここら辺は静かじゃのぅ」
「ん、建物が高いと空が遠いね」
借家の主から鍵を受け取り、久々の帰路を歩く。
高級住宅街だけあり、辺りは繁華街と違って静かだった。通りを一つ二つ抜けただけで、全く別の世界が広がる。それはリンジュもラリスも同じだった。
「おぁ、よかった。入れ違いにならなくて……」
「お手紙届いてました?」
「三通ほど」
なんて思いつつ借家に着くと、そこには配達人の恰好をした女性の姿があった。
手指のサインに合言葉、彼女は第三王子直属の人である。連絡の通り、王子から預かった深域武装を持ってきてくれたのだろう。帰ろうとしてたあたり、ギリギリ間に合った感じである。
名刺めいて渡された証明証に魔力を通すと、王家の紋章が浮かび上がった。三段階認証、本物だ。
「大きさが大きさなので、中でお渡ししてもよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞお入りください」
ついに、来た。王家保有のユニーク武器。それを貰える時が来たのだ。ワクワクする内心を抑え、俺は配達人お姉さんを借家の中庭へ案内した。
「失礼。ここに置いてもよろしいですか? はい、では……よっこらしょ!」
「うおっ、でっか……!」
さっそく受け渡しの儀が始まる。すると、配達人さんは自身の収納魔法からクソデカサイズの宝箱を取り出し、大型家電にそうするようにゆっくり地面に下ろしてみせた。
長方形の特大宝箱である。明らかに、それは俺の身長を超えていた。ぶちぬき丸を入れていた棺桶めいた箱よりも、縦も横も一回り以上大きい。本当に武器が入ってるのか、いったい何が入ってるのか分からなくなるサイズ感だ。
「随分と大仰な箱ね……」
「何の武器でしょうか? ここまで大きいと、迷宮内では扱いづらそうですが……」
「ご主人、早く開けるッスよ」
「イシグロ様、鍵は此方に」
促され、都合三つの錠前を外していく。すべての鍵を開け、身を乗り出すように蓋を開ける。
そうして晒されたソレは、サイズだけでなく形まで異様だった。
「な、何だこれ……」
これは、槍? それとも槌? パッと見だけでは、その武器のカテゴリーが分からなかった。
両端に膨らみのある、長大な鉄棒である。俺から見て左の先端には鉄塊の如き突起があり、刺突か殴打の用途で使われる事は分かる。これが槍だと仮定して、その石突部分には岩を砕くような謎の錘が付いていた。その柄は馬上槍のように太く、明らかにヒトの手に収まるものではなかった。
全体的に、ゴツゴツギザギザしたシルエットである。武器というより兵器といった趣が強い。これが槍なのか槌なのかは知らないが、必要ステータスはともかくサイズ的に使いこなせる自信はなかった。
「失礼……」
とにかく、調べてみよう。俺は謎武器の持ち手に触れて、コンソールを使ってその性能を見てみた。
そして……。
「……マジか」
感嘆の息を吐いた。
我知らず、口の端が持ち上がっていく。
観れば、配達人さんを含め皆さんやれやれみたいな顔をしていた。
でもね、グレートなんですよ、こいつは。
「こういうのが欲しかったんだ、こういうのが」
ご褒美に深域武装プレゼントしてあげるよと言われた時、内心では「直接選ばせて欲しかったな~」なんて思っていたが、とんでもない。こんな素晴らしいモノ見せられちゃ、何も言う事ありませんぜ。
さっすが、王子様は俺の好みを分かってらっしゃる。
「お気に召したようで何よりでございます」
「それはもう……」
少年ハートが燃えている。
さっそく試してみないとな。
〇
此処は迷宮、魔物の住処。見上げた先には曇り空。
約一ヵ月ぶりの迷宮は、潜り過ぎてそろそろ枯れる気がしてならない巨像迷宮である。
転移直後は狂耐性&武器破壊装甲&一撃必殺のゴーレムにビビリ散らかしていた俺だったが、今となってはその程度の敵は全く以て相手にならない。油断が禁物なのは当然として、余裕綽々に狩りができる。
ザコを散らし、レアエネミーを潰し、邪魔者を枯らしてボスと会敵。見渡す限り不毛の荒野の片隅で、俺と彼女が気炎を燃やす。
「ひとまずは私に任せて頂戴」
「りょ。援護の準備しとくわ」
異世界迷宮のボスは、一定の属性の中からランダムで生成される仕様である。今回登場したのは、左右一対の翼を生やしたゴリラ型巨像君だった。
大きさはリアルゴリラの倍くらいで、すばしっこさは巨像迷宮トップである。その動きはゴーレムにしては機敏であり、短時間ながら背中の翼で空を飛ぶ事もできる。本気状態になると、掌から魔力属性のビームを撃ってきたりする強めのボスだ。
そんなボスゴリラに相対するは、銀色の髪をなびかせるエリーゼである。その手には剣の柄を思わせる小さな王笏が握られていた。
「行くわよ……!」
心底楽しそうな、好戦的な笑み。魔力が猛り、銀竜の威がその手の杖に注がれた。次の瞬間である。
バシューッと、王笏の先端から青白い魔力の刃が伸長した。振り心地を確かめるように、ブォンブォンと虚空を薙ぐ。柄のような短杖、重さを感じない太刀筋、眩く光る光の剣。要するに、皆大好きアレである。
日本語版で言う電光剣。いわゆるビームサーベル。もしくはレーザーブレード。即ち、エリーゼの新たなる剣ですわ。
「ふっ……!」
一瞬の睨み合い。そして、銀竜剣豪の孫娘は輝く剣を携え駆け出した。
激突、擦過。閃光の如き火花が散って、少女の美貌を照らし出す。流星を押し固めたような剣が、ゴリラゴーレムの拳をいなして削る。まさに宇宙戦争、まさにロリの暗黒卿。巨像の魔法抵抗と光剣の魔法攻撃力が拮抗し、時に反発しては
刃の重みがない剣である。普通の剣とは使い勝手が違うのだろうが、エリーゼは器用に使いこなしていた。彼女のジョブである“ドラゴンルーラー”は、指揮官系の最上位職だ。その適性武器は杖や剣といった何となく指揮官が持ってそうな武器で固定である。一見するとアレは剣だが杖であり、その扱いにはモーションアシストが適用される。それに加え、今の彼女には銀竜道場で習ったヴィーカ流剣術があった。
そんなエリーゼの剣捌きは、どことなく暗黒系イケおじ伯爵のようだった。流麗で、機敏。幼き日、エリーゼが夢見た姿そのものである。
◆星灯りの剣杖◆
補助効果1:自動修復
補助効果2:魔法装填(魔法の剣)
補助効果3:魔法装填(斬滅の魔導剣)
補助効果4:魔法装填(聖光の極大治癒)
星灯りの剣杖。その性能は近接特化だ。
いや、近接特化というよりも剣術特化と言うべきか。とにかく星灯りの剣杖は【魔法の剣】の使用と運用に特化しているのだ。言わずもがな、その威力はエリーゼ級である。
本家の【魔法の剣】は魔力を注ぎ続ければ維持できる仕様なのだが、魔法装填版では発動し続けるとオーバーヒートしてしまう。だが、剣杖に装填された【魔法の剣】は特別製だ。その発動時間は極めて長く、クールタイムは極めて短い。発動を切れば回復できるので、付けたり消したりすれば実質無限使用が可能である。
また、隠し札として【斬滅の魔導剣】も用意しておいた。こっちは王笏にも装填されてる一撃必殺近接魔法で、単発火力なら前述の【魔法の剣】よりも高威力である。剣戟中の奇襲やガード崩し技に使えるだろう。
例によって、威力と維持性能を限界まで引き上げた分、この杖に装填された【魔法の剣】の消費魔力は比喩でも何でもなく死ぬほど多い。魔力が命のルクスリリアやグーラなんかは、間違っても触っちゃいけない特級呪物だ。なお、エリーゼは消費より回復量が勝ってる模様。オーバーヒートさえ無ければ二四時間戦えます。やっぱりこの娘の魔力おかしいよ。
「はあ!」
祖父から貰った深域武装を引き抜いて、右手の剣杖を複製する。二刀流になったエリーゼは、攻めの守勢を敢行した。
魔導士ではなく今度は剣士。敬愛する祖父の技を振るうエリーゼの顔は、満足感に満ち満ちていた。
剣術特化の短杖。普通に考えたら無駄の多いロマン武装のようだが、ちゃんと実戦に堪え得るように仕上げてある。この杖は伊達や酔狂で造らせた訳ではないのだ。
星灯りの剣杖は、突発的な市街地戦を想定して造られている。街の被害を考えると既存の護身杖でも威力過剰なエリーゼは、迷宮外では火力を持て余して補助役に回らざるを得なかった。そこで、周辺被害に配慮しつつ携帯可能な自衛武器を造ろうとなったのである。
無茶な要望のせいかその開発は難航し、結構時間がかかってしまった訳だが。まぁ本人は気に入っているようで何より。ゴリラゴーレムとタイマン張ってるエリーゼは、盾で【弾き返し】た隙にクロスした二刀の【斬滅の魔導剣】をぶち込んでいた。ゴリラくんの頭が無くなっちゃったよ。鎬を削る白兵戦でも例の邪竜スマイルを浮かべるエリーゼなのであった。
「来るわよ。ついでに支援してあげるわ。【竜令鼓舞】……!」
「待っていたぜぇ、この
ロリを相手に近接の不利を悟ったか、首無し有翼ゴリラはその場で大きくバックステップし、翼を広げて滞空した。引き撃ちビーム形態に移行したのである。
こうなったら、今のエリーゼじゃ分が悪い。魔法剣を納めた彼女に、俺は空から返事をした。
そう、空からである。
足場を作って、そこに立っているのではない。ラザニアが引く空戦車からでもない。俺は王子から貰った深域武装に跨って、ボスゴリラの頭上を回遊していたのである。
さながら魔法使いの箒のように、あるいはエアロバイクのように。謎飛行物体に跨って高速マニューバをかます俺の背後では、石突部分からブースターめいた爆炎が噴出していた。
「オラァ!」
バレルロールの最中、俺は柄を掴んでぶら下がるような姿勢になり、空中で身を捻ってランサー能動スキル【投槍】を使用した。そう、王子から貰ったこの謎鉄塊棒は突撃槍だったのだ。
音の壁を砕きに砕き、炎の尾を引いて特大槍が迫り往く。ゴーレムのくせに野生の勘が働いたのか、頭部を修復した有翼ゴリラは此方に振り向いて避けようとした。
だが、無意味だ。
「当たれぇッ……!」
しかも脳波コントロールできる。投げ放った後の槍に、ゴリラの回避先に曲がるよう命じた。結果、破城槌めいた突撃槍はプロ野球投手の変化球のようにキレ良く曲がり、天使めいたゴリラの片翼を貫通した。
会心の確信、今ので奴の体力がゴッソリ減った。グルグル回って落下するゴリラ。グルッと回って戻って来たブースター槍に、銃杖で姿勢を整えた俺はサーフボードのように飛び乗った。
「前に出るわ! 横からお願い!」
不時着したゴリラ目掛け、再度ビーム剣を生成したエリーゼが前に出る。その間に、俺は突撃槍を抱えるように構え、魔力一杯加速し突撃した。
「おいゴルァ!」
ドゴォッ! エリーゼの斬撃を避けたゴリラの横腹に、勢いそのまま激突する。槍には見えない重厚な鉄塊が推進力に押され食い込んでいく。
流石は高耐久のボスゴーレム。おまけに武器破壊効果付きの装甲まで持っている。無理に突撃を続けては、如何な深域武装でも此方が先に砕けるだろう。しかし、これで終わりである。
射程良し、角度良し、耐衝撃姿勢良し。エネルギー充填一二〇パーセント。銃杖で作った足場に乗って、腰を落として身構える。そして……!
「免許持ってんのかぁッ!」
轟ッ! という衝突音。瞬間、巨像の腹に突き刺さった槍の先端から、純魔力属性の杭が突出した。
装甲を砕いた感じはなかった。ただ、撃ち抜いた確信だけがあった。痺れるような反動が、俺の全身に返ってくる。同時、ゴーレム内部に指向性のある爆発が発生し、横腹を貫通してその身体を上下に分割した。
槍を引き、爆破反動を相殺する。圧倒的威力の爆発で吹っ飛んだゴリラゴーレムは、青白い粒子に還っていった。
◆ヴァルゼアの突撃槍◆
物理攻撃力:800
異層権能:思念推進
補助効果1=自動修復
補助効果2=魔法装填(爆導杭)
補助効果3=魔法会心(確定)
補助効果4=投擲強化(大)
補助効果5=貫通付与(投擲)
補助効果6=剛性強化(大)
補助効果7=刺突属性弱化
ヴァルゼアの突撃槍。それは、文字通り突撃特化の槍だった。
特筆すべきは、その権能である。【思念推進】――魔力消費によって推進力を発揮し、使用者の意思で動かす事ができるのだ。推進力を得た槍は騎乗する事も可能で。手放した後もある程度コントロールできる。
そして、この槍には人類が再現できない魔法が装填されている。その名は【爆導杭】。対象に槍の先端が刺さった時限定で、純魔力属性の杭とそれに伴う爆発魔法を発動する事ができるのだ。しかも会心確定。その威力は凄まじく、エリーゼの【斬滅の魔導剣】と同等。なんかおかしい気もするが、気のせいだ。
まとめると、この突撃槍はエアロバイクでありドローン兵器でありパイルバンカーなのである。
好き。それ以外の言葉が見つからない。
「よし、皆戻ってきていいぞ~」
「あら、気持ちよさそうな顔しちゃって」
「エリーゼもな」
確かに武器としての取り回しは悪いが、攻撃能力を持った乗り物と考えればこれほど有難い深域武装もなかった。それこそ、去年戦ったフルアーマー・レノ戦やフルアーマー・パレエス戦でこの槍があれば、もっと上手く立ち回れたと思うくらい。空中機動補助を目的とした銃杖と組み合わせれば、マジで機動力特化形態に変身できちゃうね。
一番気に入ってるのは、自由に動かせる乗り物なところだ。戦車や自転車もいいが、やっぱ思うがままに操縦できる乗り物って素敵だと思う。二人乗りくらいなら出来るので、一党全体の移動力もアップしたと言えよう。
「楽しそうに戦うのぅ、エリーゼはほんに」
「まぁ竜族ってそういうトコあるッスから」
「マスターも楽しそうだった」
「流石はご主人様です。もうあそこまで使いこなせているなんて」
ボスを倒し、隠れていた皆と合流する。レノとグーラはメイン武装をメンテに出しているので、今回は予備武器を持っていた。
ちなみに、各々突撃槍を使えるジョブに変えて皆にも使ってもらったところ、まともに乗りこなせたのはルクスリリアとグーラだけだった。
俺からしたら空飛ぶバイクみたいなイメージで動かしやすいんだけど、自前で飛びがちな異世界人的には逆に難しいそうだ。それこそエリーゼは訓練兵時代の某駆逐系男子みたいになってたし。曰く、「二度と乗らないわ」との事。
「エリーゼも頑張ってきた甲斐があったのぅ」
「ええ。これがあれば、剣術の鍛錬にも身が入るというものね」
とにかく、エリーゼの杖もこの槍もロマンと実用性を兼ね備えた最高の素敵武器なのである。
いつ何処で何と戦うか分からない現状、レベルもそうだが対応力こそ肝腎要。迷宮内も、迷宮外も、諸々備えておくべきだろう。
そうして、武器メンテが終了するまでの間、俺達は武器の習熟がてら巨像狩りをするのであった。
ついでに希少金属ガッポガッポである。また新しい武器作れちゃうドン!
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ドワルフ「よっしゃ、新しい光力銃作ったやで!」ウージー開発
世界「う~ん、これはインテリア!w」触媒使用不可
みたいな事が頻発しています。
突撃槍の外見については、ガンダム・キャリバーンのバリアブルロッドライフルとバルバトス・ルプスレクスの大型メイスが悪魔合体したものを想像して頂ければ。
槍か? メイスか? サブフライトシステム・ドローン・パイルバンカーだ!