【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。


射界21センチ

 さて、である。

 

 タイムイズマネー。この果てしなく長い大団円坂を上り始めたばかりの俺達に、理由なく休んでいる暇はない。

 メンタルブレイクして泣きまくったユゥリンに禁断のチートヒール二度撃ち。心身共にリフレッシュさせてから、チィレンさんを救うべくブリーフィング開始である。

 

「という訳で、宜しいですか? 師匠」

「あ、はい。えっと、その前にいいですか……?」

「何でしょうか?」

 

 なんて思っていたら、ユゥリン師匠に制止される。

 件のロリ師匠はというと、先程とは異なる雰囲気でほんのり顔を赤らめていた。

 

「その、前のままでいいです。師匠じゃなくて、名前で……あと口調も」

「あ、うんわかった。じゃあ、これから円卓会議を始める」

 

 どうやら師匠呼びは慣れなかったようで。呼び方と口調を改めて、今度こそブリーフィング開始だ。

 場所はクローズドにした角端園一階、その真ん中に設置した円卓だ。出席者はユゥリンと俺の一党で、円卓の傍らにホワイトボード代わりの特大イーゼルと特大画布をセット。書記はグーラである。

 

「まず、状況を纏めよう。グーラ」

「はい、お任せ下さい」

 

 真っ白なキャンバスに、太い羽根ペンを握ったグーラが議題を書いていく。目立つように書かれたのは、“チィレン奪還作戦”という文字列だった。

 

「目標はチィレンさんの奪還。ユゥリン率いる嵐極拳チームで武帝祭を優勝し、チィレンさんをゲットする。調べた感じ、残念ながら彼女の身売りに違法性は無かったので、これが正攻法なはず。ここまではいい?」

「はい、大丈夫です……!」

 

 コクコクとユゥリンが頷く。自信なさげなご様子だが、その気にはなってくれているようで安心だ。

 

「当然、悠長にしている暇はない。武帝祭の開始は冬の初め。予選が始まる前に参加申請をしないといけない。それまでに参加資格を得て、可能な限り強くなる必要がある。前者は俺達の課題、後者はユゥリンの課題だな」

 

 ホワイトボードに武帝祭の日程が書き足され、二つのタイムリミットが提示される。

 一つ目は武帝祭の参加申請期限。二つ目は武帝祭の開催日だ。

 

「あの、参加資格って何でしょうか? 武帝祭って、強ければ出られるんじゃないんですか?」

「そうでもないんだ。ざっくり言うと、武術流派ごとに定められた技の習得、もしくは免許が必要なんだ。現状だとイリハだけが確定で出られる感じだな」

「へぇ、そうだったんですね」

「のじゃ。とりあえず、わしとユゥリンの二人は出られるのじゃ」

 

 個人・団体を問わず、武帝祭に出るには特定の武術の熟練が必須である。

 嵐極拳の場合、勁鱗の習得によって最低限の参加資格が認められる。で、現在この中で勁鱗をマスターしてるのはユゥリンとイリハの二人だけ。武帝祭のレギュレーションでは、これはちょっとばかし不利である。

 

「優勝を見据えるなら、可能な限り多人数で出場したいところ。だから、俺達は頑張って勁鱗をマスターする必要がある」

「えと、それは何故でしょうか? 変な話、イシグロさんが暴れたら何とかなったり……したりしませんか?」

「したりしませんのだ」

 

 おずおずと手を上げるユゥリンに、俺は首を振って答える。

 地元民である彼女だが、武帝祭の概要は知らないらしい。

 

「武帝祭は新しい武王を決める大会だから、最終的には誰か一人が武王になって終了する。けど、その実態は団体戦なんだ。個人出場の場合、相手チームと連戦する必要がある。試合ごとに治癒魔法が用意されてるが、それじゃ怪我は治っても精神が持たない」

「要するに、満員で出場した方が有利って話ッス」

「なるほど、そうだったんですね」

 

 武帝祭は新たな武王を決める大会だ。そんで新武王候補者には、個人の強さ以上に強い弟子を鍛えられる指導力が重要視される。だからこその団体戦制度なのだ。

 その点、件の参加資格がミソなのだ。武術を体得してない奴は参加できないから、外部の助っ人を呼べないシステムなのである。そうじゃないとゲルトラウデさんみたいな助っ人が無双しちゃうだろうし。

 まぁそれでも、元冒険者の強者をスカウトして鍛え上げるってやり方がデフォになってるらしいが。むべなるかなと言ったところ。

 

「で、武館単位の参加の場合、参加可能人数は最大九人。現状ユゥリンさんとイリハの二人が確定で、あとはどれだけ埋められるかって感じだな」

「言っとくけど、わし剣術と陰陽術無しじゃとマジで弱いからの。殴り合いは勘弁じゃ」

「そこも課題の一つだな。とにかく最悪は二人、最高は六人参加って話だ」

「私は発勁ができないから、ルクスリリア達に頑張ってもらわないとね」

「うッス! 頑張るッス!」

「ん、地道な鍛錬には適性がある」

 

 書記グーラの方を見れば、ホワボに書かれた申請期限の下に“勁鱗の習得!”という文言が追記されていた。感嘆符付けてるあたりチャーミングが過ぎる。

 和んだところで、お次である。

 

「次、ユゥリンの強化についてだが」

「は、はい……!」

 

 俺等の鍛錬は気合で何とかするとして、ぶっちゃけ今回これが一番重要である。

 

「いくら弟子が強くても、師が弱ければどうしようもないものね」

「そういやユゥリンって実戦処女なんスよね? 狩りとか喧嘩もした事ない感じッスか?」

「うぅ、恥ずかしながら」

「ん、実戦処女……?」

 

 曰く、ユゥリン師匠は嵐極拳正当後継者ではあっても、喧嘩も試合も未経験らしい。

 当然として、型稽古やってるだけじゃ対人戦も対魔物戦も強くなれない。武帝祭で勝ち上がるには、実戦慣れをするのが前提である。

 

「今後の事を考えると、屋上で鍛錬を続けるのは厳しい。どこか好きに使える所とかないか?」

 

 とりま組手なり何なりをしたいところだが、悲しい哉クーシェンの転移神殿に鍛錬場は存在しなかった。

 その辺、現地のトレーニング事情がどうなってるのかは地元民のが詳しいだろう。

 

「人気のある武館は広くて頑丈な部屋があるそうです。うちもお母さんがいた頃は広い別館があって、そこを使っていました。場所がないところは、お金を払って場所を借りるそうです。でも、ワタシ達は借りれないかなぁと……」

「というと?」

「今はもう予約でいっぱいだと思いますので……」

 

 さもありなんである。

 時期も時期だ。武帝祭を前にして、外部の参加者が最後の調整の為に使っているって事情もありそうな。

 そうなると、どこか別の場所を使わざるを得ない。広くて、暴れられて、多少壊していい場所。そんな都合のいい場所は……。

 

「あるんだなぁ、これが」

「え? 今から入れる所があるんですか?」

 

 この程度、想定の範囲内である。

 書記グーラに目配せすると、彼女はユゥリン強化の課題の下に“迷宮探索!”と書き足した。

 目をパチクリさせているツインテロリに、俺はグイッと身を寄せ、言った。

 

「ユゥリン師匠、迷宮行きましょう」

「えぇ……!?」

 

 あえて師匠呼びすると、彼女は耳と尻尾をピーンとさせて驚愕していた。ついでに某便利屋社長みたいに白目まで剝いちゃってる。

 しかしねぇ、迷宮こそ最高の修行場なのだから。

 

「あそこなら壊していいですし、飛んだり跳ねたりしてもいいんですよ師匠。それに魔物を狩れば強くなれるのでお得ですよ師匠。責任持って我々がお守りしますので、迷宮行きましょう師匠」

「むむむ無理ですぅ……! 迷宮探索は二人に一人が死ぬんですよ!? ワタシなんかが迷宮潜ったら入った瞬間魔物の餌ですよぉ……!」

「ん? チィレンさんを助けられるなら何でもするって言いましたよね?」

「言ってない……と思います。いや、う~ん? 言いましたっけ?」

「とにかくだ。本番前にユゥリンには実戦慣れをしてもらう。恐怖を克服させようってんじゃなくて、ビビらない程度に暴力に慣れてもらおうって話。勝率上げる為にもフィジカルに下駄履かせたいしな。強くなるには迷宮踏破が最短最速なんだから、行かない理由がないじゃあないの」

「そ、そうですね……はい! よろしくお願いします! ち、ちなみに何回行けばいいんでしょうか?」

「行けるとこまで、何回も。安心してほしい、安全マージンは取るから」

「ぴぇっ……! こ、これがラリス流……」

 

 最初は反射で拒否ったユゥリンだったが、やがて瞳に決意を漲らせてはギュッと拳を握っていた。

 判断が遅いとは言わない。頭で考えて納得したらば、即決より勝ると思う。

 

「という訳で、ちょっと異能を使ってユゥリンの能力を見せてもらっていい?」

「そんなお力があるんですね。どうぞ」

 

 許可を得たところで、俺はコンソールを呼び出して仲間の欄をタップした。

 パーティメンバーから一旦グーラを外し、ユゥリンをパーティに入れる。これで彼女のステータスを見れるようになった訳だ。

 

「えーと、イシグロさんは何をしてるんでしょうか?」

「何か半透明の文字が見えてるらしいッスよ」

「ステータスと言ったかしら? 強さを数値として視ていると聞いたけれど」

 

 皆がお話している傍ら、俺はユゥリンのステータスを開いた。

 

 

 

◆ユゥリン◆

 

 麒麟:レベル1

 嵐極拳士:レベル2

 

 能動スキル:外勁(麒麟)

 補助スキル:内勁(麒麟)

 

 生命:33

 魔力:31

 膂力:25

 技量:77

 敏捷:52

 頑強:25

 知力:68

 魔攻:17

 魔防:44

 

 

 

 うん、初期ステでこれは普通に強いぞ。

 お迎え当初のエリーゼやグーラほど尖っている訳ではないが、転移直後の俺やルクスリリアよりよっぽど強いじゃないの。

 パッと見、足の速い技量戦士のように見えるが、魔法ジョブでも無いだろうにこの知力の高さは何なのだろう。実際、魔攻はクッソ低い訳で、魔法戦士系の成長をするとは考え難い。

 

 で、この“嵐極拳士”なるジョブは……なにこれ?

 明らかに固有ジョブである。どういう仕組みでそうなってるんだ? シャロのルーン系ジョブの仕様に近いのかもしれないが、はて。

 

 件のジョブをタップしてみたところ、これは戦士寄り武闘家の中位職であるらしく、格闘の他にも様々な武器を使えるようだった。

 ただ、あくまで無手の格闘がメインなようで、使用武器の補正値はどれも格闘と比べて一歩劣っている。ある意味で器用貧乏な気はしなくもないが、状況問わず近接全般強いと言えばそれはそう。

 

「なるほど……」

「ど、どうでしょうか……?」

「全然いける。上位職に成る頃には並みの銀細工より強くなってるかも」

「なるほど、なるほど……?」

「それで、一党に入ると俺が持ってる他の異能が共有されるんだけど。とりあえず、これ振ってみて」

「あ、はい。わかりました」

 

 ステータスを確認したところで、お次はモーションアシストの確認である。嵐極拳士は直剣も使えるらしいので、数打ち品のショートソードを手渡した。

 ラリス式の剣には慣れていないのか、ユゥリンは手渡された刃物を矯めつ眇めつしていた。

 

「説明するより体験する方が早いと思うから、適当に振ってみて」

「はい……! い、いきます!」

 

 机を片付け、ある程度動けるようスペースを作る。

 注目の中、グッと腰を落としたユゥリンは、さながら矢を番えるようにして剣を構え……。

 

「はっ!」

 

 片手突きをしてみせた。

 発勁の籠っていない普通の刺突。それは足の爪先から剣の切先まで完璧に制御された嵐極拳の動きだった。

 と、ここにきて思う。これ普段のユゥリンと何が違うのだろうか? チートが有っても無くても、ユゥリンは以前もこんな感じだった訳で。

 

「ん~? 何かおかしいような気がします……」

 

 けれども、当人には違和感があったようである。

 数秒ほど逡巡した彼女は、再生と巻き戻しを繰り返すように片手突きを反復し、やがて発勁付きの刺突を披露し始めた。

 それから何度かキビキビと型のような動きをして、ビタッと停止した彼女は目を見開いては呆然としていた。

 その顔はうっすらドヤり気味で、小さな唇がむにむにしている。

 

「……ワタシ、剣の天才だったのかもしれません」

「それが異能の恩恵でござる」

「あ、そうだったんですね……」

 

 続いて、モーションアシストを含めたチートについての説明をする。

 とはいえ、元々嵐極拳を修めている彼女にモーションアシストの恩恵は薄いかもしれないが。

 

「へぇ、凄いですねぇ」

 

 説明を終えると、ロリ師匠は獣友達的な例の顔を浮かべていた。

 感情の乱高下の影響で躁状態になってるだけかもしれないが、ともかく感情が死んでないようで何より。

 

「大丈夫よ。例えどれだけ傷ついても、一瞬で治癒してあげるわ」

「実際、手足捥げても一発ッスもんね」

「ところで、麒麟族の治癒能力は如何ほどなのでしょう? 獣人と同じくらいなのでしょうか?」

「それによって色々変わってくるからのぅ」

「えーっと、麒麟族は獣人の中では怪我の治りは早い方と言われてます。手足を失っても暫く安静にしていれば生えてくる……らしいです。そんな経験ないですけど」

「ん、なら多少痛くても平気」

「ぴぇっ……!」

「無問題、ちゃんと守るからさ」

 

 その後も滾々とチートや迷宮探索の説明をしていくと、彼女の覚悟は少しずつ固まっていった。

 文字通りの死ぬ気の覚悟である。俺も死ぬ気で守護らねば。

 

「あっ! でもワタシ迷宮に持ってく装備がありません……!」

 

 なんて思っていると、ショートソードを返してくれた彼女はハッとなって硬直していた。

 

「それについても心配ご無用」

 

 無論、これも想定済みである。

 武帝祭は武術の祭典。クーシェン武術は格闘を基礎に武器術を修める事で完成を見る。当然、武帝祭にはガチ武装の試合が存在するのだ。

 試合形式は当日決まるらしいので、備えあれば嬉しいな。迷宮で使う武装も武帝祭で使う武装も、可能な限りの最上級品を用意して然るべきである。

 

「知り合いの商人がクーシェンに来てるから、その人経由でユゥリン用の装備を整えよう。本番はそれを使う感じで、それまでは今ある物を貸そうと思う」

 

 知り合いの商人とは、クリシュトーさんの事である。彼の所属するストゥア商会は異世界一の大企業であり、当然として武器や防具も取り扱っている。

 そんな商会の知り合い経由で馴染みの工匠に発注し、ユゥリンにはそれを着てもらおうというのだ。

 

「尻尾孔がいるから、ボクかルクスリリアの防具を貸す感じですね」

「わしの防具は脆いしのぅ」

「あ、ありがとうございます。何から何まで……」

「それより、先に武器を選びましょう。ジョブについても決めないと……」

「じょ、じょぶ……?」

 

 当座の防具はいいとして、武器の方はどうすべきかである。

 嵐極拳士が装備できる武器種は非常に多く、中には俺が持っていない武器なんかもあった。

 ステータス成長率や武器適性補正値の事を考えると、使用武器はもう少し絞った方が効率が良い。なので、武器やジョブ方針は今のうちに決めたいところ。

 

「ユゥリンの使う武器は何かしら?」

「えーっと、剣とか棍とか色々……短剣の技も一応修めています。あと節棍もありますね」

「ふむふむ」

 

 無銘やら対人棍・雷式やら、それからアサシンナイフシリーズなどを机に置いていく。ヌンチャクは無いのでご勘弁。

 拳一本でやってくのも悪くはないが、手っ取り早く火力を上げるなら高性能な武器を使うに限る。

 

「い、イシグロさんは何でこんなに沢山の武器を持ってるんでしょう……?」

「主様には収集癖があってのぅ」

「で、何使うんスか? ていうか得意な武器とかないんスか?」

「特にこれといって得意な武器はなく……あっ」

 

 少々唸って思案した後、彼女は何かを思い出したようである。

 

「忘れていましたが、嵐極拳の武器といえば槍が代表的ですね。家宝が槍でしたので、一番長く練習してたと思います」

「槍ね。リーチが長くて良いじゃない」

「ん、実戦的で良いと思う」

 

 槍で確定みたいな雰囲気だが、ちょっと困った。俺が持ってる槍はというと、王子から貰った空飛ぶ突撃槍なのである。

 しかし、これは李書文的な槍ではなくて、結構メカメカしいパイルなランスなのだ。歪な形状をしているので、嵐極拳の技が使えるとは思えない。それ以前に、“突撃槍”という武器カテゴリーは嵐極拳士の使用武器には含まれていないのだ。

 ふと視線を感じた方を見ると、何か言いたげなグーラと目が合った。

 

「ご主人様、強い槍ならお持ちだと思いますよ」

「そんなんあったっけ?」

「白いやつです」

「白いやつ……? ああっ!」

 

 と、ここにきて記憶の扉が開かれた。

 そうだよ。俺持ってたわ、槍。

 

 俺は収納魔法に腕を突っ込み、劇場版の近未来猫型ロボットがよくやるように中身をポイポイと出しまくった。

 そして、例のブツを掴み取り、それを皆の前に晒してみせた。

 

「随分と懐かしい物が出てきたじゃない」

「何じゃこれ?」

「ん、イリハも見た事ないの?」

「そういやぁ、あん時イリハまだ居なかったッスもんね」

 

 それは、とても美しい槍だった。

 穂先から石突まで純白の、シンプルな造形の槍である。長さは大体二メートルちょうどくらいで、無駄な装飾は付いておらず、だからこそ槍そのものの優美さが際立つデザインだった。

 機能美と造形美を併せ持つ、まさしくザ・聖槍。これなら嵐極拳の動きができるだろうし、彼女の固有ジョブにも合っているはずだ。

 

「はい、持ってみて」

「綺麗な槍ですね。儀礼用ですか?」

「いや、深域武装」

「へぇ、しんい……深域武装!?」

 

 名を、“ヴォルフの白槍”。性能は高いのに、使いどころがなく肥やしになっていた哀れな槍である。

 如何にも神聖そうな槍に見えるが、前の持ち主はウンコ級ド外道犯罪者――モブノ・ザクーオ・アンダードッグ氏である。

 モブノとは、一昨年グーラを狙って襲ってきた賞金首の元銀細工犯罪者の事だ。不意打ち三人がかりで瞬殺したからイマイチ実感ないが、曰く奴さんは相当な強者だったらしい。

 

「何ならプレゼントするよ。使わないし、それ」

「い、イシグロさんって想像よりとんでもない人だったんですね……」

 

 君はこの槍を使ってもいいし、使わなくてもいい。

 防具は注文するとして、武器は今ある中から一番合うのを選んでもらうのが丸いかな。

 ともかく、方針は決定である。

 

「まとめると、こうだ」

 

 ホワイトボード代わりのキャンバスに、チィレンさん奪還作戦の概要と目標達成までのロードマップが書かれている。

 勝利条件はチィレンさんの奪還。目標は武帝祭の優勝。その為に、俺達も参加できるよう勁鱗の習得を頑張って、並行してユゥリンを強化する。

 

「善は急げだ。今日中に準備を終わらせよう。商会行って注文して、転移神殿行って冒険者登録して、迷宮の情報も集める。エリーゼ、レノ」

「できたわ」

「ん、こんな感じ」

 

 ぺらりと、円卓の上に羊皮紙が広げられる。

 そこにはクーシェンでよく見かけるチャイナドレスが描かれていた。

 

「これは何でしょう……?」

「防具のデザイン案ね。殆ど工匠任せになるけれど、着慣れた服のがいいでしょう?」

「ん、我ながらよく描けた」

 

 エリーゼがデザインし、レノが描いてみせたのは、ユゥリンのオーダーメイド防具のデザイン&要望書だ。

 性能は麒麟族の特性を加味しつつ、可能な限り良いのを頼む。金に糸目は付けない所存である。

 

「よし! 今からストゥア商会に向かう! 後に続け、ロリ!」

「「「おぉ~!」」」

「て、展開が早いです……!」

 

 報連相直後、俺達は武帝祭の準備をすべく外に出た。

 考える時間はともかく、ユゥリンに悩む時間は与えない。

 ガンガンいこうぜ。

 

 

 

 

 

 

 明日やろうは馬鹿野郎。

 今やれすぐやれマインドで、店を発っては歩き回り食べ歩き、その日のうちに出来る準備はその日のうちに終わらせた。

 

 まず最初に向かったのは、ストゥア商会のクーシェン支部だった。

 クリシュトーさんと対面すべく本日はアポって再来するつもりだったが、彼とはすぐに会う事ができた。

 本日は何用でと問うてきた彼に、予定通りに奴隷売買ではない商談を持ちかけた。我が一党の装備を仕立ててくれた馴染みの防具工匠に、俺に代わって注文してきてほしいと言う謎オーダーである。

 普通なら自分で行けって話だが、今は時間が無いのである。ちょっとトリッキーな注文だったが、デキる男クリシュトーさんは快く承諾してくれた。

 勿論、ストゥア商会には手数料を支払う約束をして、手持ちの金で足りなかった分は希少鉱石を担保に同商会にお借りした。でぇじょうぶだ、迷宮探索ですぐ返せる。

 

「またのお越しをお待ちしています」

 

 帰り際、普段あまり表情を変えないクリシュトー氏からは、ビジネスマン流のアルカイックスマイルを頂いた。

 明らかに今からクーシェンで何かしますって言ってるようなもんだからな。面白がってるのかもしれない。

 

 お次は転移神殿でユゥリンの冒険者登録を行った。祝え、ピカピカの一年生の誕生だ。

 同所ではクーシェンにある迷宮の記録を読み漁った。前来て見知った通りのまま、公民館めいたクーシェン神殿には迷宮が三つしかなく、それぞれ下位・中位・上位のみである。

 で、ちょうどいい迷宮があったので明日試しにアタックしてみようと思う。それで仕様を確認したら、明後日ユゥリンを連れて行く予定と相成った。

 

「もしかしてイシグロさん、クーシェンでも迷宮に潜られるのですか?」

「ええ、そのつもりです」

 

 これまた帰り際、何故か目をキラキラさせた受付嬢にそんな事を訊かれた。

 当然、潜る。目的はユゥリンのレベリングだ。あと、この公民館も使わせてもらう。この中なら武器の携帯が許されるからね。何かあった時はここに逃げ込むつもりである。

 

 転移神殿を出た後は一応貸し運動場を見て回り、案の定予約でいっぱいで諦める羽目となった。商店街では修行に使えそうなアイテムを爆買いし、ついでに滋養のある食材を買い漁って帰宅。

 そして、夜が来た。

 

「んじゃ行ってくるッス!」

「ユゥリンの事はお任せください」

 

 角端園に戻ってきて、飯と風呂を終わらせ就寝タイム。それから、ルクスリリア達はユゥリンの部屋に突撃していった。

 普段、俺達は借りた部屋で固まってたのだが、今日は二手に分かれた。一応、これには理由がある。ユゥリンを一人で寝かせない為だ。

 今日一日で、彼女には本当に色んな事が起こった。姉と別れ、その姉を取り返すべく動き始めたのだ。この状況で一人でいれば、ふとした瞬間に鬱になること間違いなし。多少強引でも、近くに人がいれば鬱になれようはずもない。

 まぁユゥリンは繊細さんなので、大丈夫そうなら一人にさせるつもりである。

 

「それじゃあ、始めるのじゃ」

「ああ、頼む」

 

 そして、部屋に残った俺とイリハは、ベッドの上でお互い下着姿になって向かい合っていた。

 ややあって、イリハは俺の身体に触れてきた。胸、肩、腕。後ろから抱き着いて、平らな胸を押し付けてくる。しかし、そのどれにも柔らかなロリの感触は感じられなかった。

 これは以前ユゥリンと行った発勁練習法――発勁合わせである。あくまで修行であって、猥褻は一切ない。

 

「のぅ主様」

「何でしょうか」

「お元気さんなんじゃけど」

 

 まぁ、それはそれ。

 嵐極拳の使い手として武帝祭に参加するには、勁鱗をマスターする必要がある。

 勁鱗とは、発勁の全身版である。これを体得するにあたっては、頭からつま先まで発勁で覆えるようにならねばならない。

 全身に、発勁を、使えるようにしなきゃなのである。

 

「ほれほれ、発勁せんと触れられんぞ~♡ ちゃんと集中するのじゃ~♡」

「むむむ……!」

 

 時に、クーシェン来訪からこっち俺は一度も股間の無双奥義を発動していない。チャージ満タン状態が継続しているのだ。つまりはバキバキなのである。

 薄皮一枚、イリハのお手々の感触が全くない。彼女の掌に張られた発勁が、素直に気持ち良さを享受させてはくれないのだ。

 彼女に青龍偃月刀を握ってもらうには、俺の蛇矛に発勁を張って彼女の発勁を中和すればいい。だが、俺は股間を含めた下半身の発勁が苦手だった。

 今がその時だ。そう、あくまで修行なのだ。修行なのである。大事な事なので二語言いました。

 

「がんばれ♡ がんばれ♡」

「くっ、うぉおおおお!」

 

 そのようにして、俺は夜通しで発勁を鍛錬するのであった。

 

 

 

 翌朝である。

 

「す、凄い……! 一晩で足の発勁を使えるようになったなんて……!」

 

 結論から言うと、俺は下半身の発勁に成功した。

 あとは全身版を維持できるようになれば、俺も一端の嵐極拳使いと認められる訳だ。

 何にせよ、修行の成果が出ると嬉しいね。

 

「今日行く迷宮には人数制限がある。メンバーは俺とエリーゼとルクスリリア。皆は角端園で発勁の練習をしていてくれ」

「うッス! なんか迷宮久しぶりな気がするッス!」

「クーシェンの迷宮がどの程度か、楽しみね」

「あー、わしは昼まで休ませてもらっていいかのぅ……?」

「ん、なんで? イリハがいれば効率上がるのに」

「お疲れなのかと」

「は、発勁の指導ならお任せ下さい……!」

 

 俺、ルクスリリア、エリーゼが迷宮組。他は待機組だ。

 迷宮によるレベルアップと、修行による発勁の練習。どっちもやらなくっちゃならないのが、チィレンさん奪還作戦の辛いところである。

 覚悟はいいか? 俺はできてる。

 

「そんじゃ、ひと狩り行こうぜ!」

 

 ここからは、ノンストップだ。




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 言わずもがな、嵐極拳のモチーフは八極拳です。
 以前、感想欄にて「この世界に八極拳的なものないの?」という旨のコメントを頂いた事がきっかけで嵐極拳が生まれました。
 当初からそうなのですが、本作は頂いたコメントを積極的に拾ってネタにする方針を取っております。
 そんな訳で、これからもガンガン感想書いてって下されば。


 追記
 乾燥欄で検索かけてみたら件のコメントが見当たらない。
 ワイの妄想やったんか……?
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