【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。感謝の極みです。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
比翼迷宮。クーシェン唯一の上位迷宮である。
例によって例の如く、その仕様は典型的な屋外型迷宮のソレだった。
東西南北見渡す限りに荒れ果てまくった大地が続き、恐らく西の地平線では不気味な赤の太陽が沈まず地上を睥睨している。
出現エネミーはボスを含めて鳥型飛行系オンリーで、最弱雑魚でも機動力はリアル隼を超越している。
これがゲームならプレイヤーの攻撃範囲に入ってきてくれるのだろうが、この世界の魔物はそんなに甘くない。高高度からの魔法爆撃は序の口で、そうでなくとも編隊を組んでのヒットアンドアウェイが此処の魔物の基本戦術である。
なので、攻略の際には飛び道具なり魔法なり、あるいは飛行能力がマストである。逆にそれら三つを持ってる我が一党からすれば、比翼迷宮は中位くらいの難易度だ。
迷路もねぇ、安地もねぇ、ステージギミックある訳ねぇ。ただ只管に広大なだけの、魔物以外存在しない虚無スポットである。
トドメのように稼ぎまで渋かった。獲得経験値はそれなりだが、費用対効果を考えれば巨像迷宮の方が上である。
そんな迷宮にて、俺達は……。
「痛ぁあああい! ちょ、無理無理無理! 回復して下さぁい! 武帝祭出る前に死んじゃいますぅううう!」
「麒麟族には二一五本の骨があるのよ。一本くらい何よ」
「竜族マインドォオオ! イシグロさん助けてぇ!」
「ん~、エリーゼも程々にな~」
「ひぃん!」
修行をしていた。
迷宮内で主にやっているのは組手であり、来る武帝祭本番を意識したトレーニングだ。
今現在はエリーゼとユゥリンで組手をしてもらってる訳だが、当のロリ師匠は銀竜主催の弾幕ゲーから逃げ回るのでやっとのご様子。素直に突っ込めば勝てるのに、痛みと火力に怯えてしまっているのである。
一方、俺は弓片手に空の魔物を警戒していた。
迷宮に入ってすぐ、周囲のエネミーを狩り尽くし、遠くから奇襲してくるやつは組手で余った者が潰していく。どこ壊してもいい迷宮は、実に修行にうってつけ。おまけに然程強くない魔物も付いてきてお得である。
まぁ安全地帯が無いので、敵味方反応レーダーのない一党には真似できない芸当だが。てか真似すべきでないが。
「しゃあっ、魔法【
ついに覚悟を決めたらしい。エリーゼの魔法弾幕を掻い潜り、槍を抱えたユゥリンが直線機動で突貫する。
轟ッ! 刺突に伴う発勁嵐が銀竜の魔法障壁に直撃。まともに防いだエリーゼは地面を滑って後退した。
流石の発勁というべきか、ガードに成功したはずのエリーゼもノーダメージではなかったようだ、ほんの僅かに彼女のHPが減少している。
「今の絶対入ったと思うんですけど!」
「私の反応速度を超えられなかっただけよ。はい、
「あ、ありがとうございます……のはいいんですけど、エリーゼさんってば怪我してもすぐ治るのズルくないですか? 魔族みたいに魔力を消費してる訳でもないのに、後衛でその耐久力は各方面に失礼ですよね」
「あら、心臓を壊せば殺せるわよ?」
「やっぱし怖いですね竜族は」
で、程々にやったところで組手終了である。対戦相手からの治癒魔法を受けたユゥリンは汗ビッショリでへたり込み、エリーゼは自然治癒に任せて涼しい顔だ。
「お疲れ。はい、イリハ特製スポーツドリンク」
「ありがとうございます。ふへへ、これ地味に美味しいんですよねぇ」
一応、この組手はユゥリンの暴力慣れを目的としたものである。
度重なる迷宮踏破によってステータスが急上昇した今、雑魚戦なら“たたかう”連打で楽勝である。しかし同格以上が相手の場合、ユゥリンは持ち前の臆病デバフが発動して彼女本来のポテンシャルを発揮できない傾向にあるのだ。
しかし、俺はその特質を克服させようとは思っていなかった。世界最強のブリーフスナイパーも兎のように臆病だから最強なのである。臆病なまま恐怖を乗りこなせば、彼女はきっと強くなるはずだ。
「……っと、休憩中だがお客さんだ」
なんてまったりしていると、俺の敵味方反応レーダーに感あり。
沈まない太陽を背に、巨大な影が迫ってくる。ザコを殺戮した俺達の存在に気付いたようで、迷宮の主がやってきたのだ。
「うげっ、タイミング悪過ぎ……。せめてもうちょい休憩させて下さいよぉ」
「ならじっとしていなさいな。私一人で斃してあげるわ」
「そ、それだと迷宮に連れてきてもらった意味が……や、やります! やらせてください!」
やがて。逆光の中から二羽の巨鳥が姿を現した。
そう、二羽である。
名を“比翼連禽”。イカつい顔した半エネルギー猛禽夫婦だ。
比翼連禽は二体で一体の飛行ボスであり、物理だけでなく魔法攻撃もお得意だ。それだけなら良いのだが、それぞれHPバーが独立してる都合上、この迷宮を踏破するには両方斃す必要がある。
この比翼迷宮は、固定でこいつの属性違いが出現する仕様である。一番厄介なのが飛び道具無効の風鳥が出てきたパターンで、そうなったら専業アーチャーは何も出来ずにお留守番だ。まぁ素直にクソボスだと思う。
「今回は……炎と氷だな。エリーゼ、バフセット頼む」
「分かったわ」
「先に氷をやろう。ユゥリン、どう立ち回るんだっけ?」
「えと、機動力削って近づいて殴る。あ、火が効かないんでしたよね、どっちも」
「超いいね、最高」
会敵前に準備を整える。俺は収納魔法から突撃槍と銃杖を取り出し、高機動空中戦スタイルになった。ユゥリンは背中に嵐を押し固めたような翼を生成して、いつでも飛び発てる構えだ。
「いくぞ、エンゲージ!」
次いで、バフ盛り状態で出撃する。
俺の後方、同じく空を飛んだユゥリンも飛行機雲を引くように追従。最後尾はエリーゼで、今回彼女は支援役だ。
「速度そのまま!」
互いの射程に入る。会敵と同時、奴さん等は属性魔法を連射してきた。先頭で飛ぶ俺が魔法障壁でそれらを【
すれ違い際に散開し、俺は火鳥へユゥリンは氷鳥へ接近を試みる。最後尾、エリーゼは青白い魔力翼を生成し、ピタッとその場に止まった。戦場が定まる。銀竜を中心とする宙域で戦うイメージだ。
「好きにやれ! 背中は任せろ!」
「ありがとうございます! うぉお突撃ぃいいい!」
俺とエリーゼは火鳥に嫌がらせ魔法を乱射して、ユゥリンの方に近づけさせないよう立ち回った。一方、槍を抱えるようにして飛翔するユゥリンは、氷鳥と激しいドッグファイトを展開していた。
やがて氷鳥の後ろを取ったユゥリンは、槍の穂先から如何にも神聖なビームを発射。当然、避けられる。対する氷鳥も尾羽越しに魔法を生成し、追尾機能付きの氷塊散弾を撃ってきた。
迫りくる氷魔法を前に、ユゥリンは瞬時に
「はぁッ!」
虚空への刺突である。されど純白の穂先は嵐を纏い、それは轟音を伴って射出された。飛ぶ斬撃ならぬ飛ぶ嵐突きである。
迫る嵐を避けられず、氷鳥の片翼に命中。ふらりと、氷鳥がよろめいた。その隙を、麒麟拳士は見逃さない。
空中で静止したユゥリンは、狙いを定めるようにして槍投げの構えを取った。
深域武装の白槍に、清浄な魔力が充填される。すると、どうだ。魔力が注がれるにつれてその手の白槍は巨大化していき、やがて大型の馬上突撃槍を超えるサイズになった。
「ぬぅん!」
巨大槍が投擲される。その穂先は雷鳴轟く嵐を纏い、石突は稲妻の尾を引いていた。咄嗟に張られた魔法障壁を薄紙のように打ち砕き、フラフラ揺れる氷鳥の胴体に直撃する。
鉄柱の如き白槍が、焼き鳥串みたく思いっきり突き刺さった。あまりの威力に落下していく氷鳥が、身を守るべく大雑把な球形バリアを生成。だが、無意味だ。瞬きの刹那、当のユゥリンはバリアの内側に入り込み、突き刺さったままの槍を握っていた。
訳も分からぬとばかりにバリアを張り続ける氷鳥を後目に、ユゥリンは巨鳥の頭部によじ登って右の拳を引いた。
その時、二人の視線が重なった。麒麟の拳に、雷鳴轟く嵐が宿る。
「せいや!」
そして、氷で出来た鳥頭に一切の容赦もなく発勁突きが浴びせられた。
さながら喧嘩中にマウントポジションを取ったヤンキーのように、ゴッゴッゴッとリズミカルに殴りまくる。
返り血のように舞った冷気が彼女の頬にこびり付き、殴った拳に霜が降りている。しかし、知った事かと殴打は続く。
一心不乱に殴り続ける彼女の顔は、さほど平時と変化がなかった。
◆ヴォルフの白槍◆
物理攻撃力:400
属性攻撃力:450(聖)
異層権能:次元招来
補助効果1=自動修復
補助効果2=矢弾防御(至適)
補助効果3=魔法防御(至適)
補助効果4=形状変化(伸縮)
補助効果5=形状変化(廓大)
補助効果6=生命収奪(膂力変換)
補助効果7=魔法装填(聖なる光矢)
ユゥリンにプレゼントした深域武装は、客観的に見て非常に優秀な槍である。
形状変化による任意のサイズ変更だけでも高い
そして、真に特筆すべきはその権能だ。
次元召来――言ってしまえば、それは俺愛用の武器に装填している【武器の呼び出し】の上位互換である。
発動と同時に手元に槍を呼び寄せられる上、その逆の事もできるのだ。要するに、使い手が槍がある座標に瞬間移動ができるというのである。
サイズ調整、攻撃力バフ、対遠隔に疑似転移。使いこなせばという注釈は付くものの、どう考えても強いだろう。まぁ万能過ぎたからコレっていう使いどころが無かったんだけども。あとなんか縁起悪いし。
「おっと、エリーゼ援護頼む」
「世話の焼ける主人だこと」
氷鳥の窮地を救うべく動き出した火鳥に、魔法やら何やらで牽制する。エリーゼの援護射撃も相まって、上手にヘイトコントロールできていた。
そうこうしていると、俺は二つあるHPバーを見て良い頃合いになった事に気が付いた。
「ユゥリン! 交代だ!」
「あ、はい!」
作戦通りに指示を出すと、未だ氷鳥をボコボコにしていたユゥリンはあっさりその場を離脱した。
交代である。今度はユゥリンが火鳥を殴る番だ。で、さっきと同じように俺は氷鳥を死なないように牽制する。
「炎への耐性をかけるわね」
「ありがとうございます! うぅ、無限魔力が羨ましい……!」
火鳥と相対しても、ユゥリンは先ほどの焼き直しのように優位を保ち続けていた。さながらRTAを走っているかのような最適化された動きである。
みるみるうちに、火鳥のHPバーが減っていく。もう何度も見た光景だ。やがて二つあったHPがどちらもミリになり、これにて終了である。
「そろそろ死ぬぞ! エリーゼ、準備はいいか?」
「ええ、任せなさい」
「大技いきます!」
フィニッシュムーヴである。火鳥の上を取っていたユゥリンは嵐の翼を広げ、槍を抱えて突撃。次の瞬間、純白の槍が火鳥を穿ち、殆ど同時にエリーゼの【魔導極砲】が氷鳥を貫いた。
火の方も氷の方も、青白い粒子に変換されていく。同時撃破。ミッションコンプリートである。俺達はゆっくり旋回しながら地上に降りていった。
比翼連禽。迷宮の主の例に漏れず、こいつにもボスギミックが存在する。それは片方が死ぬともう片方が全回復して強化形態になるというものだった。
だが、同時に倒せば無視できる。タイミングもそこまでシビアじゃないので、ユゥリンの初迷宮時以外はずっとこの方法で狩っていた。
あと、特殊撃破のボーナスなのか、この方法で倒したら通常撃破時の倍の経験値が入るのである。そうなったらもう、狙うっきゃないよね。
「ふぅ~! 気持ちいい~! やっぱりレベルアップは何回しても気分爽快ですね! 全能感がヤバいですよ!」
申告通り、ユゥリンはレベルアップしていた。
現在、ユゥリンのジョブは“嵐極老師(槍)”という上位職である。これは嵐極拳士(槍)という中位職の上位互換で、件の中位職は名称そのままノーマル嵐極拳士の槍特化版である。
どうせ武帝祭では使える武器が制限される訳だから、補正値的にも実戦的にも使用武器は絞ってナンボだろうとの判断である。
「よし、休憩したら練習再開だ。エリーゼ、お前の剣を見せてくれ」
「待ってたわ。そろそろ剣を振り回したいと思っていたのよ」
「ひぇ~」
で、ボス戦終わったら鍛錬再開である。
可能ならずっと此処で修行してたいところだが、ボスが居なくなった迷宮は徐々に崩壊していくのだ。カラオケの「お時間まで一〇分前です」コールの感覚である。
「俺も頑張らないとな……」
ユゥリンの強化は順調だが、俺の方はイマイチだった。頑張ってるつもりだが、あれからあんまり進んでいない。このままだと流石に拙い。
締め切りが近いのである。
〇
ユゥリンが鋼鉄札になってから、大体二週間が経過した頃の事。
来訪当初は蒸し暑かったクーシェンもすっかり夏の余韻が過ぎ去って、今となっては街に吹く風が冷やっこく、ノースリーブだった娘達も長袖旗袍になっていた。
「こ、こんなフカフカな椅子初めて座りました。家に欲しいな~、これ」
「確かにそれなりのモノのようね。二〇〇万ルァレほどかしら」
「ぴえっ……!? そんなの座れないじゃないですか!」
「ん、立ってたら不自然。ユゥリンも座るべき」
「このお菓子おいしいですね。んっ、ユゥリンもどうぞ」
「あ、ありがとうございます?」
そんな中、俺達一党はとても豪華な応接室に来ていた。ストゥア商会クーシェン支部である。
向こうからの呼び出しというのもあって、ルクスリリア達にも椅子が用意されていた。大量の茶菓子はグーラ用だろうか。まぁもう殆ど無くなってるんですけどね。
「お待たせしました」
そうしてゆったり待っていると、本日もビシッと決めたクリシュトーさんが現れた。彼の後ろからは謎の箱を持ったスタッフさんが続く。
ローテーブルの上に置かれたのは、如何にもな宝箱だった。中身はもう分かっている。
「ユゥリンが開けて」
「わ、わかりました……!」
クリシュトーさんの許可を得てからユゥリンに促すと、彼女は初対面時を思わせるビクつき加減で箱を開けた。
宝箱の中には、黒地に金の刺繍の施されたチャイナドレス風の防具が入っていた。その他、専用のロンググローブやブーツも同梱されている。
ついに完成したユゥリンの専用装備。本日はこれを受け取りに来たのである。
◆嵐極絹鎧◆
物理防御力:550
魔法防御力:400
補助効果1:自動最適化
補助効果2:自動修復
補助効果3:簡易伸縮
補助効果4:体温保護(小)
補助効果5:闇属性耐性(小)
補助効果6:物理耐性(大)
補助効果7:全状態異常耐性(大)
補助効果8:精神異常耐性(大)
要望通り、そして予想以上の逸品だった。
我が一党の基本思想に則って、補助効果は生存重視の構成だ。その他、多少サイズが違っても着用できるようにサイズ調整の補助効果や動きやすくなる補助効果も付け加えてある。
素材に関しても最高ランクで統一されており、高い防御力を維持しつつ麒麟の特性を活かせるようになっている。
今回、防具工匠・セオドロス氏には間接的な依頼となったが、素晴らしいものをお出ししてくれた。王都に帰ったら菓子折り持って挨拶しに行こう。
「んじゃ行ってくるッス。ほらビビッてないで着るんスよ」
「は、はい。なんか怖いです……」
で、ユゥリンには試着室で着替えてきてもらう。不安だろうからルクスリリアを同行させた。
空気を読んでくれたか、クリシュトーさんはユゥリンの足音が聞こえなくなってから各種書類を出してくれた。領収証と費用明細である。どうやらストゥア商会は最高レベルの高速便を使って届けてくれたようで、その分も費用に含まれていた。
まぁでも既に前金で払っているので、逐一確認しながら余ったお金を返してもらった。こういう馬鹿みたいな金額のやり取り、ユゥリンの前でやったら白目剥いちゃうと思うしな。
「お、お待たせしましたぁ」
ノックの後、試着室から二人が戻ってきた。扉が開かれると、そこには実に理想的な黒髪ツインテ中華ロリの姿があった。
戦闘用チャイナドレスである。私服のソレより丈が長く、さながらロングコートのようだ。華やかで、カッコいい。嵐極拳士の伝統装束である。
腕と足はそれぞれグローブとソックスで隠れているので、露出度自体はナーフされている。しかしその分、肩や脇が強調されて実に叡智に満ちていた。特に素晴らしいのが大胆なスリットからチラリと光る真っ白なロリ太ももである。
この恰好でアクセル・ジャンプを決めたなら、その裾はどこぞの魔術師バイク乗りみたく華麗にはためくこと間違いなし。
「すごい似合ってるよ、ユゥリン」
「うぅ、すいません。ワタシなんかがこんな格好を……」
心からの褒め言葉を贈ると、彼女は赤面して顔を覆った。
獣人らしく露出自体には羞恥を感じていないようだが、こうも豪奢な恰好をするのに抵抗があるのだろう。その奥ゆかしさ、イエスだね。
「いやいや、実際似合っとるのじゃ。むしろお主にこそ相応しいのじゃ」
「ん、いい仕事」
「明日からはソレを着て迷宮探索ですね。頑張ってください」
「は、はい……!」
武帝祭まで、もう時間がない。それまでに着慣れておく必要があるだろう。
彼女の課題は、本番で実力を発揮できるようにする事なのだ。このままいけば大丈夫だと思う。
むしろ、今となっては俺の方に問題があるのだが……。
「ん~?」
そんな中、何故かルクスリリアが訝しげに首を傾げていた。
〇
ユゥリンの専用装備を受領して、ある程度の月日が経過した。気が付けば、武帝祭参加申請締切の前日である。
明日、俺達は嵐極拳代表の参加者として武帝祭の登録をしにいく。
しかし、ここにきて俺は未だ課題を達成できていなかった。
「頑張ってください。あとは維持するだけです。もう一度、素肌で空気を感じるようにです」
「ああ……」
その夜も、俺は発勁合わせをして勁鱗を習得すべく鍛錬していた。
梨の礫だった以前までと異なり、発動自体は成功していた。しかし、古い電化製品のようにオンオフが安定せず、上手くいっても維持ができずに綻んでしまうのだ。
嵐極拳の動き自体はチートでトレースできるのだが、こればっかりはチートに頼る事ができない。所詮、チート無しの俺なんざこんなもんである。それでもやらねばならぬのだ。
苦戦する俺とは対照的に、グーラは勁鱗の習得に成功していた。あまつさえ炎や雷を合わせた独自バリアまで使いこなしている。
他方、ルクスリリアとレノは未だ発勁自体を習得できていなかった。ユゥリン曰くこれが普通らしいが、慰めにはならない。
エリーゼが難しい現状、俺が出られなければケモロリ三人の参戦になるだろう。そうなれば、武帝祭では圧倒的に不利である。
それを今になって一夜漬けめいた鍛錬をしているあたり、見通しが甘かったとしか言えなかった。一応、最近はユゥリンの迷宮は止めて俺の鍛錬に集中しているのだが、結果的にはそれでも判断が遅かったと言えよう。
「少し休むのじゃ」
「いや、今のは上手くいった。忘れないうちにもう一回やってみる」
挫けそうになるが、言い出しっぺの俺が諦める訳にはいかない。
あとひと押し、何かが足りない感じがあった。
「ご主人、ちょっといいッスか?」
ノックと共に、扉の向こうから声がした。ルクスリリアである。現在、彼女はユゥリンの部屋にいるはずだが。
「ど、どうも……」
扉が開くと、ルクスリリアの後ろにはユゥリンの姿があった。ちょっとビックリである。普段なら気配で察知できるのに、余程集中力を消耗しているようだった。
「発勁合わせの練習をしてるって聞いて、お手伝いできるかと思って……」
「それは有難い話だけど」
一応、夜間に発勁合わせをしている事は伝えてある。まぁ下半身の鍛錬については知らないだろうが。
とはいえ、昼の鍛錬ではユゥリンにも発勁合わせを手伝ってもらっていた。彼女の手で背中をペタペタしてもらったし、嫌だったろうに脹脛や太腿も撫でてもらったのだ。もう十分なように思える。
「そ、その……」
「ん?」
なんて思っていると、彼女は後ろ手に持っていた本を突き出してきて、その中身を見せてきた。それは以前持っていた嵐極拳の教本とは別の本で、そこには“秘奥”とかその辺のワードが書いてあった。
「これは?」
「先日発見した奥義書です。“発勁繋ぎ”……という鍛錬法の手引き、らしいです。は、発勁合わせの凄い版で、勁鱗の覚醒を促すそうで……」
赤面しつつ、ユゥリンはごくりと喉を鳴らした。
「まぐわいによって、内勁と外勁の本質を開眼させるとの事です。た、読んでみたんですけど、これ多分できるのワタシだけかなって……」
もじもじするユゥリンに対して、俺は反射的にエチチ・コンロの元栓を締め切った。そうしなければ、ルパンダイブしそうだったから。
俺はチィレンさんから大事な妹を預かっているのだ。お妾にどうかと言われたが、それはそれ。如何なる理由があったとしても、そんな彼女を手籠めにしていい訳がない。
勇気ある決断だが、彼女は彼女自身を大事にできていない。断固とした態度で、されど丁寧に断るべきだ。俺は口を開こうとした……その直前に、ルクスリリアが「んぁ~」と唸った。
「ご主人、一応言っとくッスけど」
「なんだ?」
「発情期来てるんスよ、ユゥリン」
「……え?」
しゅばっと、我知らずギン目でユゥリンをウォッチしてしまった。
顔が赤い。大きな両目が潤んでいる。牛人のような尻尾がピンと上を向いていた。単なる羞恥によるものでは……ない?
「は、恥ずかしながら初めてです……。ルクスリリアさんから、さっき聞きました。イシグロさんならむしろ喜ぶッス、と……」
よくよくよくよくユゥリンの全身を観察する。
今の彼女の状態には見覚えがあった。グーラとイリハ、発情状態に入った彼女等によく似ているのだ。
「前々から興味ありましたし、羨ましいって気持ちも……。我ながら凄くはしたないお願いで、よろしければって話なんですけど……」
目を合わせる。
潤んだ彼女の双眸に、俺の間抜け面が映っていた。
やがて、麒麟の瞳が三日月に歪む。
にちゃ~っと、妙に卑しい笑みを浮かべていた。
「持ちつ持たれつ……みたいな? ふへへ……♡」
勘違いでなければ……。
それは、極めて強い性欲に塗れた淫靡極まる微笑だった。
ネッッットリしておる。
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作者のやる気に繋がります。
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ヴォルフの白槍は上の下くらい。ディエゴの大剣は上の中。ディミトリスの槍は上の上の深域武装です。
素足の猫又が持ってた深域武装は性能的にはウンチですが、権能がエグ過ぎて正確なランク付けはできません。高性能だけどマイナス権能のやつとかも普通にあります。
要するにガチャです。しっくり来るのが出るまで回しましょう。