【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。いつもお世話になっております。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
一人称です、イシグロ視点です。
よろしくお願いさしすせそ。
よみがえる炉利魂の剣!
今日も今日とて良い天気だ。
ロリは歌い、花は咲き誇っている。クーシェンの春はその日も緑に満ちていた。
つい冬までは不毛の荒野が広がっていたクーシェン領だが、今は楽園そのものといった光景と化していた。急場しのぎに通した道に、馬車の轍が刻まれている。
そんな真新しい街道を、俺達は空戦車で低速移動していた。
「下に来た事はあったけど、お姉ちゃんクーシェン出るの初めてよ! ワクワクしてきたわ~!」
「ていうか見渡す限り草原って景色も初めて。それに川がこんなに綺麗だったなんて……」
地を往く空戦車の座席には、我が一党員以外にもユゥリンとチィレンさんが乗っている。俺は御者席に座り、ルクスリリアはラザニアの背に跨っていた。
ちなみに、シャロは止まり木協会と一緒に一足早く帰っている。学生とルーン使い代表の二足の草鞋を履くシャーロットは地味に多忙なのである。
「レノ、後ろ何か見えるか?」
「特にはない。空飛んでるのは魔物じゃなくて普通の鷹だし」
「あんな遠くにいる鳥よく見えるッスね」
ゆっくり動く戦車の前では、止まり木協会の馬車隊が列を成していた。
今現在、俺達は箱庭の住人達の護送任務を遂行している。何はなくとも安全な所に連れて行くとの事で、王都の近くまで殿を務めるのだ。というのも、ミヅチの死後にクーシェンに魔物が出没するようになった為である。
「まぁそうピリピリせんでええじゃろ。わし等に任されとるのは大きいやつだけじゃし」
とはいえだ。イリハの言う通り、今のところ俺達に仕事はない。見晴らしの良い草原には魔物の影はないし、いたとしてもすぐ気付ける。
「それ、気に入ってるみたいですね」
「ん、これしかないと思った。試してみたけど、光力の通りも良い」
他方、空戦車の前部座席では暇を持て余したレノが野球ボールサイズの水晶を人差し指の上で回していた。
ミヅチ討伐のご褒美で貰った深域武装である。早く使ってみたいらしい。気に入ってくれたようで何より。
「使いどころはそう多くなさそうだけれど?」
「や、いざという時には使えるはず。必殺技みたいなもの」
「検証が楽しみだな」
ゆったり流れる時間の中、俺は水晶を貰った時の事を想い返すのであった。
〇
遡る事数日前、いよいよクーシェンを出る日が決まった時の頃である。
図らずも国を支配していた黒幕的な奴をぶっ倒し、英雄的な活躍をしてしまった我が一党。この世界の常識なら俺等も大々的に祭り上げられるところ、武侠国の体面を守るべく戦功や褒賞は上森英雄たるアリエルさんにお譲りしたのだ。
そこで、武帝代理のドウジュンさんは本来俺達が得られるはずだった名誉の代わりのお礼を用意してくれる事となった。富? 名声? 力? 断然、力である。即ち武器であり、俺が望んだのは深域武装だった。
という訳で、俺達はクーシェン城の宝物庫にやってきたのである。
「どうぞ、ご自由にお選びください」
「「「ほえ~」」」
クーシェン城深奥、国宝級の深域武装が納められた宝物庫。
広い空間、計算された照明、台座に並ぶ槍とか剣とかその他色々。そこは武器を保管する場所というより、美術館といった方がしっくりくる場所だった。おまけに深域武装の下にはその名前と説明書きが付いている。
なんと、この中から好きなのを持ってって良いというのだ。こんなのテンション上がるってなもんで、まさにオタカラ・バイキング状態。我々は早速とばかりに物色を開始した。
「こ、これナタ様の輪では? こっちはミョウサ様の大刀……! なんてすごい……」
「どれも素晴らしい宝ね。見なさい、この剣の美しいこと」
「なるほどのぅ。やっぱりリンジュの刀とは細かいとこ違うんじゃな」
「これ一個売るだけで王都の一等地買えちゃったりするんじゃないですか? それをタダで貰えちゃうなんて、すごいですね。ふへへ……」
そう思ってたのは俺だけではなかったようで、グーラとエリーゼとイリハとユゥリンは各々目を輝かせてはしゃいでいた。
曰く、ここには歴史的に価値の高い深域武装が置かれているとの事。しかし歴史的なアレコレなど俺には関係ない話だ。追い求めるは性能と浪漫也。案内人のドウジュンさんを伴い、一つ一つ見分していく。
「これは何でしょうか?」
「リアンの羽扇です。扇ぐ事で嵐を呼び、使用者はあらゆる魔法を無詠唱で行使可能になり、異層権能では強力な光線を発射します。我が国の伝説的な魔導士が持っていた代物ですね」
「なんか釣り竿あるッスよ。これも武器なんスか?」
「キョショの釣杖ですね。水辺から守護魔龍を釣り上げ、使役する事ができます。あと水属性との親和性が高いですね。面白い事に、桶に張った水からも魔龍を召喚できるんですよ」
「ん、こんなに大きい弓、引ける人いるの?」
「コーウの覇弓です。権能により、あらゆる槍を矢として撃つ事ができます。伝承では山の如き巨獣を穿ったとされていますね」
案内解説役のドウジュンさん。相変わらず生真面目そうな顔をしている彼だったが、やはり彼も男の子なのかレア武器を語る声音が僅かに弾んでいた。
「ん~? これもなぁ……」
手袋越しに持たせてもらって、チートで以て性能を調べる。以前ライドウさんに選ばせてもらったカスレア深域武装と異なり、此処にある深域武装はどれも素晴らしい性能をしていた。
なのだが、いまいちピンとこない。というのも如何せん高性能過ぎてコレという使いどころが見出せなかった為である。鎖鋸剣や飛行槍のような特化型がなく、優等生タイプしか置いていなかったのだ。
「俺はレノ用がいいと思うけど、何か良さそうなのある?」
「特には」
あと、どうせ貰うならレノ用の深域武装が欲しかったり。
原則として、深域武装は一人につき一つである。何故なら、二刀流用のモノを除き深域武装は同時装備できない仕様だからだ。要するに、俺が持ってる鎖鋸剣と飛行槍は同時使用できず、仮に同時に装備しちゃうと両方の権能が不発になってしまうのだ。ついでに攻撃力もダダ下がり。
その点、レノはまだ深域武装を持っていないから装備枠が余っているのだ。
ルクスリリアには冒険当初から持ってる大鎌が、エリーゼには祖父から譲り受けた宝剣がある。グーラは立体機動的なフックショットで、イリハは近接武器兼魔法触媒の太刀。ユゥリンには例の槍をプレゼントした訳で。
ユニーク武装とはいえ必ずしも持つ必要は無いのだが、皆持ってるのにレノとシャーロットは未所持なのである。それは何かこう、俺がモニョる。まぁ当の二人に欲しがってる様子はないのだが。
「それに、必ずしも深域武装を持つ事が最適解じゃないと思う。現状装備は完成してるから、下手に現状のスキル構成を弄るよりはマスターの手札を増やす方が戦力強化に繋がるはず」
「それも一理あるんだよなぁ」
あと、装備制限の問題もある。
武器はともかく、装飾品の深域武装の場合は既存のアクセサリ枠を外す必要があるのだ。
すると各種補助効果の構成を見直す必要があるので、無理に深域武装を装備しても総合的にみると弱くなってしまうかもなのだ。まさか、光力銃型の深域武装がある訳ないし。
「これは……ああ、闇属性特化か。しかも魔族しか使えない仕様じゃん」
かといって、レノが使用可能な短杖を見てみても、天使特性にぴったりな武器は見当たらなかった。
結局のところ、深域武装は使用者に合うかどうかなのだろう。
「ご主人ご主人、なまらゴッツいの見つけたッスよ!」
「これなんてどうかしら?」
「ホウセン様の戟ですよ! それはもう純粋に強いそうで!」
「複雑な武器ですけど、イシグロさんなら使いこなせますよね」
なんて言われてお勧めされたのは、中国版ハルバードみたいな武器だった。
確かに、俺の手持ちに長柄武器はないし、実際見てみた性能もダントツで高かった。
でも、う~んって感じ。
「よろしければ、此処にない深域武装もお見せ致しましょうか?」
「いいんですか? よろしくお願いします」
そうやって悩んでいると、国宝以外の深域武装も見せてもらえる事に。
そうして連れてこられたのは、ザ・武器庫って感じのエリアだった。見栄えよく展示されてたさっきの区画と異なり、此方は管理しやすいよう配置されている。スパイ映画で武器選ぶシーンみたいで、俺はこっちのが好きだな。
「よ、弱いなコレ。もはやネタ枠だ」
で、まぁ此処にあるのはカスレアばっかりだった。
その代わり、中には基礎性能はアレでも特化した権能の深域武装が置いてあった。個人的にはこういう系のが興味がそそられる。
「ごめんこれ戻してもらっていい?」
「うむ。それにしてもいっぱいあるんじゃのぅ」
「捨てるに捨てられない武器ですから。ラリスやリンジュはもっと沢山お持ちだと思いますよ」
ご多忙のドウジュンさんには申し訳ないが、一個一個順番に調べさせてもらった。
第一候補はレノに合う深域武装で、第二候補は俺の趣味。あるいはシャロへ渡す用でもいいかな。
なんて思いつつ物色していると、武器とも装飾品ともつかないモノを発見した。
「ん?」
それは、いわゆる水晶玉だった。
大きさは野球ボールほど。濃紺に透き通った中心に仄かな光が灯っており、その周りを小さな光が回っている。ちょっと詩的な表現をするなら、それは太陽系を閉じ込めたような水晶だった。
「あら、なかなか綺麗な宝珠ね」
「これも武器なんスか? 魔法触媒?」
「リンジュじゃ水晶触媒は珍しくないのじゃ」
「ご興味がおありですか?」
「ええ、はい」
如何にも武器って感じの深域武装が並ぶ中、随分キレイで珍しいなと思っただけだが。
で、調べてみたところ……。
「へえ、使えそうですね……!」
「言うほどそうですか?」
「や、少なくとも天使族との相性はバッチリ」
「じゃあ、これでお願いします」
「あの斧の方が強いと思うけれど」
結局、俺は件の水晶を貰う事になった。
当初は国宝級の深域武装を譲り受ける予定だったが、結果的にクーシェンに良しレノに良しでハッピーハッピーやんけと。
「は、はあ。私としては構いませんが、本当にコレでよろしいので?」
「はい!」
そうして、俺達は未練なくクーシェンを発つのであったとさ。
〇
幾日もの夜を超え、我が一党は護送任務を見事完遂。王都に帰って門を越え、約半年ぶりに西区の景色を見る事と相成った。
「「ほえ~」」
そして、西区の活気を見た麒麟姉妹の第一声がコレである。奇しくも以前にクーシェンの宝物庫を見た俺と同じ反応だった。
道中にも様々な街を経由してきたが、やっぱり王都は格が違った。単に建物の背が高いというのもあるが、同じ国でも雰囲気が別ゲーなのだ。ふと周りを見渡した時の情報量がヤバいのである。
見れば、インテリっぽい魔族奴隷が新入社員っぽい若者を説教していて、身長二メートル半くらいの白獅子人が肩に鼠人少女を乗せて歩いている。軽装の衛兵が屋根の上をパルクールし、ドワーフの職人集団が総回診のように闊歩していた。とにかく王都民は個性豊かで。皆さんお元気なのである。
「どどどどうしようチィ姉! ワタシ達田舎者丸出しだよ! みんなオシャレでド派手だよ!」
「大丈夫なはずよ! ほらあそこ! クーシェン風の人がいるわ! あ、でも木札だわ! 弱いわ!」
「ん、安心していい。王都には色んな人がいるから」
別に王都にゃあお上りさんなんて珍しくない。そして麒麟族がいても「はえーレア種族」でスルーされる。両手両足を使っても数え切れない種族が住んでる王都にあっては、瑞獣なんてその他カテゴリーにぶち込まれて終わりである。
それは俺達全員に当てはまる。ロリサキュバスも銀竜令嬢も混合魔族も仙狐も天使も、珍しいだけで悪目立ちはしないのだ。王都アレクシストはこういう無関心さが良いのである。
「とりあえず、先に家に帰ってから転移神殿行こうか。俺とユゥリンはギルドで手続きしないといけないからな」
「か、かしこまりました……!」
そんな感じであるいていると、なんて事のない道でアレクシストのチャメシ・インシデントを目撃した。
「だから! キノコの方が美味いって言ってるだろうが! 異端者め、死ねぇ!」
「貴様ぁ! タケノコを愚弄する気かぁーっ!」
武器の振り合い殺し合いである。今回は両者ともに鋼鉄札の冒険者だったようで、迷宮用の武器で互いの命を奪い合っていた。
ああ、懐かしい。帰ってきたって感じがする。王都民も刃傷沙汰には慣れてるので、神室町のモブみたいな反応でいらっしゃる。ていうか、いつも思うけど街中で喧嘩してる人って何でそんな場所で戦ってるんだろう。本当に殺したいなら殺せるタイミングで殺ればいいのに。
「うわぁあああ!? 鋼鉄札が刃物を振り回してるぅううう!」
「落ち着いてチィ姉。あの人達、そんな強くないから。それより、止めなくていいんですか?」
「ん? あぁダイジョブダイジョブ。ほらそこ」
ちょうど俺が指差す先から、重装甲の衛兵コンビが駆けてきた。その手には鉄塊の如き武器。囲んでメイスで叩くつもりなのだ。
「「イヤーッ!」」
「「アバーッ!」」
ガッシ! ボカッ! 冒険者は倒れた。スイーツ(笑)
喧嘩両成敗。冒険者は衛兵に叩きのめされ、連行された。
「ほらね」
「やっぱし怖いですね。ラリス王国は……」
「うぅ、お姉ちゃん王都でやってけるかしら……」
「ご安心ください。チィレンさんの身の安全も知り合いに頼んでおきましたので」
そんなこんな。いつものトコで鍵を受け取った俺達は、久しぶりの借家に帰ってきた。
これまた屋敷の大きさに呆然とするチィレンさんを置いて、俺はユゥリンと転移神殿に向かう。
「王都って凄いですね。ヒトの数も種族の数も多いですし、さっき生まれて初めて吸血鬼の方を見かけました」
「マジで色んな人いるからなぁ」
道中、強くなった事で即王都順応できたユゥリンは存外平気そうにしていた。
クーシェンと違い、誰もユゥリンを気にしていないのだ。そうでなくとも一瞥で終わり、あるいは俺の銀細工を見て目を逸らす。そんな現状を、ユゥリンは心地よく感じているようだった。
「あら、イシグロさん! ご無事だったのですね!」
転移神殿近くの広場に着くと、突然声をかけられた。
もう声だけで分かる。そして何気に久しぶりで、いつもお世話になってる人だ。
「はい。お久しぶりです、ニーナさん」
常識人淫魔のニーナさんだ。本日の彼女はオフだったようで、いつもより露出度低めの服を着ていた。腰に剣を下げてるのは異世界の嗜みである。
「ところで、其方の方は?」
「ぴえっ!?」
挨拶の後、目を向けられたユゥリンは甲高い悲鳴を上げて一歩半後ずさりした。しかも腰を落とした警戒姿勢でいらっしゃる。
「あら? あらあら……? ふふっ……♡」
対し、ニーナさんはうっすら微笑んでいた。
冷や汗をかくユゥリン。笑顔のニーナさん。何故か見つめ合う二人。え、マジで何で?
「いいですね、貴女。私は剣を少々やります。今度、模擬戦でもどうですか?」
「ら、嵐極拳のユゥリンです。機会があれば……」
どういう駆け引きがあったのか、突然二人は分かりあったような表情を浮かべた。で、二人は尋常な名乗りをして、ニーナさんは背を向けて去って行った。
戦闘狂気味なニーナさんだ。もしかしたら、ひと目でユゥリンの功夫の程を見抜いたのかもしれない。そんで喜ぶあたり俺には理解できない領域だった。でもってユゥリンも相手の戦闘力にビビッて身構えちゃったと。
「ニーナさんは警戒しなくていい人だよ。他の銀細工と違ってヤバい人じゃないから」
「そのようですね。いやほんと、勝てるビジョンが視えませんでした。ぶっちゃけ道往く冒険者は弱い人ばっかりだったので、内心王都の冒険者舐めてました。調子こいてました、はい……」
地味にユゥリンは危機管理能力が高いんだよな。そういうの、イエスだね。
「イシグロさん! イシグロさんじゃないっすか! ちょり~っす!」
で、その後もお久しぶりな同業者から何度も話しかけられた。
以前一回だけ模擬戦をした冒険者に、一人称が「オデ」の銀細工。羊人少女一党も生き残ってて嬉しい限り。
「トリクシィさん、昇格おめでとうございます!」
「はい、つい先日なんですけどね。二つ名はまだなので、楽しみです!」
奇遇な事に、夏にリンジュで会ったきりのトリクシィさんとも再会できた。
彼の胸には真新しい銀細工が下げられていた。彼は天才剣士であり、自力で飛ぶ斬撃を編み出す変態でもあるので、銀細工昇格は当然と言えるだろう。
「ま、まだワタシのが強いけど、このままだと負けちゃう……」
とは、ユゥリンによるトリクシィ評。
彼女の精神安定の為にも、もっと強くならなきゃな。
「おう、帰ってきたか。クーシェンでの事は聞いてるぜ? 武帝祭の事もな。へっ、そういう事かよ……」
転移神殿では、いつもの受付おじさんに受付してもらった。
クーシェンでの出来事は既に外にも広まっているようで、想定通り内容はアリエルさんの英雄譚になっていた。そこに俺の名前もこっそり載ってる感じ。
「なるほどな。じゃあ新しく同盟作った方がいいな」
「同盟、ですか?」
「正式には冒険者同盟だ。法的に強ぇ繋がりって訳じゃねぇが、一応はギルド公認の集まりだから色々と便利だぜ。保証人は俺がやってやるよ」
ユゥリンの当座の目標は銀細工昇格である。で、俺経由でユゥリンにシャーロットの護衛をやってもらいたい旨を相談すると、受付おじさんは同盟を組む事を勧めてきた。
同盟とは、ざっくり言うと冒険者間の相互扶助組合である。
仲間内の金の管理をギルドが代行してくれたり、ギルド経由で武器の貸し借りができたり、その他にも不安定な迷宮稼業を安定させる為の制度があるのだ。
俺の場合、そこにユゥリンを加えてやればシャロの護衛やら何やらで色々とスムーズになるらしい。
「じゃあ、そうしましょうか」
「あっさりだな。で、同盟の名前はどうする?」
「名前いるんですか?」
「そりゃ、名前がねぇと不便だろ」
同盟を結成するには、名前を決める必要があるらしい。
これは困ったぞ。俺は某精神的怪盗団の名前を“やきとり隊”にしてプレイしていた男だ。悲しい哉、俺にネーミングセンスはなかった。
「すみません。一回持って帰ってもいいですか?」
「いいぞ。別に急いでないしな」
そんな訳で、同盟結成はほぼ確定として、その名付けは皆とホウレンソウしてからって流れになった。
これまた異世界っぽいイベントである。なんか興奮してきたな。
眠らぬ王都の夜である。
麒麟姉妹の初王都という事で、本日の夕食は酒場で宴会を行う事に。
場所はお気に入りの高級酒場。以前、シャーロットと行った異世界居酒屋である。値段が高い分、量も質も高い高位冒険者御用達の優良店だ。
大きなテーブルを囲み、本場冒険者流の料理に舌鼓を打つ。メンバーは我が一党に加えて麒麟姉妹。シャロも誘うつもりだったが、今現在彼女は中央区の魔導院に行っているらしくご一緒できなかった。
「はあ、同盟ッスか」
「そうそう。そのうち作るつもりではあったけど、いい機会かなって」
宴の席で、俺は同盟結成とネーミングについての話題をお出しした。
話しつつ、チーズたっぷりのピザを切り分ける。どうぞとばかりに皿に載せられたピザを、エリーゼはナイフ&フォークで食べ始めた。
「シャーロットは入れないのかしら?」
「シャロは冒険者登録してないしな。現状じゃ登録してもメリットないし。それならギルドを介した身内の護衛で護った方が堅いんだよな」
「ていうか何でシャロさんは登録してないんですか? 銀細工級の腕あるんですよね? 取るだけ取ってぶら下げとけばいいのに」
「冒険者身分は衛兵に守ってもらえないんだよ。なにより税が重くなる。取って即返すのが一番なんだが、流石に今は時間がないんだ」
自由気ままな冒険者稼業だが、その実態は力による自己救済が前提である。荒事に巻き込まれても衛兵に守ってもらえないし、商売をしようにも余計な税金がかかってしまう。その他、細かいとこで一般人と冒険者は分けられているのである。だからドワルフは冒険者証を返却したのだ。
「名前、名前ねぇ? ユゥユゥなにか思いつく?」
「イシグロ・リキタカと愉快な仲間達でいいんじゃないですか? 所詮、名前なんて記号ですよ。適当でいいんです」
箸でパスタを食べようとしているチィレンさんに、フォークでパスタを巻いているユゥリンが応える。
確かにチーム名自体に拘りはないものの、外で呼ばれた時に恥ずかしくない名前にはしたいところ。
「そのうちボク等も入るんですよね? ならカッコいいのがいいですね!」
「じゃな。主様ほどの腕があれば、ちぃとばかし大仰な名でも誰も文句は言わんじゃろう」
今のところ、メンバーは俺とユゥリンのみで、ユゥリンには同盟の指示でシャーロットの護衛をしてもらう。
そんで奴隷証を返却した後、皆にも一旦入ってもらう予定だ。そのへんのプランは前々から考えてあるのだ。
「どうせなら、此処にいる皆の特徴を表す名前にしたいなって考えてるんだけど……」
言うと、皆さん何故か食事を止めて俺の方を見てきた。
「ご主人、アタシ未来が見えるんスけど……」
「どうした急に」
チーズリゾットを食べていたルクスリリアが食器を置いて口を開く。その目はとっても真剣だった。
「多分、メンバー増えるッスよね? 皆の特徴、捉えきれなくなるッスよ」
「そんな訳……」
瞬間、皆の視線が突き刺さった。
ジト目である。勃起しそう。
「あるわね」
「ありますね」
「あるのじゃ」
「ん、ある」
「ありそうですねぇ」
満場一致で「ある」と来た。ここにシャロがいれば彼女も同意すると思う。
一方、チィレンさんは苦笑いである。ユゥリンという生き証人がいるのだ。忍びねぇ忍びねぇ。
「と、とにかく皆の意見が聴きたいな」
半ば無理やりホウレンソウを再開すると、二杯目のコーンポタージュを飲み干したグーラが口を開いた。
「ひとまず周りに倣うべきかと。鬣犬族のエフィーエナさんは“荒野の牙”所属でしたね」
「ん、アリエルは“止まり木同盟”。そのまんま」
「ふぅむ、確か荒野の牙は獣人だけの同盟って話じゃったのぅ。何だかんだ特徴捉えとるんじゃな」
「とりま、ご主人の特徴って何スか? スケベなとこ?」
「ふへへ、“黒剣”が男根のメタファーである事は知っていますね?」
「ユゥユゥ~? あんまりそういう事言っちゃダメよ~?」
「ん、黒髪黒目? けどリンジュには何人かいた」
「二つ名は“黒剣”だけれど、最近そっちで呼ばれる事はないものね」
「気持ち的には剣士やってるつもりです」
軽い話題として出してみたのだが、みんな結構真面目に考えてくれた。
胃の小さなチィレンさんは、もうお腹一杯なご様子でワイン片手に聞きモード。一方、冒険者組はまだまだ食べる所存である。
テーブルの中心に豚モツのトマト煮が届く。蓋を取ると、香辛料の香りが広がった。迷宮潜りの夕飯はまだまだこれから。
「なら“銀竜の騎士団”なんてどうかしら?」
「イシグロさんの同盟な訳ですから、“イシグロ組”とかどうです? ふへへ、武侠っぽいですねぇ」
「決して散らない銀の花という意味を籠めて、“銀花団”など如何でしょう?」
「うぅ~ん」
拘りはないとか言いつつ、かといって縁起の悪い名前を付けたくない気持ちもある。あとパロディネームもちょっと……。
そうなると、やっぱり難しいな。
「ご主人も何か案出すッスよ」
言われ、考える。
こういう時、前世好きだったチーム名が思い浮かんじゃうんだよなぁ。
「六課。ゼロハチ小隊。Aチーム。第六駆逐隊。迫真なんとか部……」
「不思議な響きね」
もしかして、私の脳内……ボキャ貧過ぎ?
本当に困った。何も出てこないぞ。
「ん、他にどんな同盟あるの? 昔あった凄い同盟とか、グーラ知らない?」
「う~ん、ボクが知ってる範囲だと、“弩砲の会”に“暁の斧”。“聖なる森の守り人”や“遠き空の団”などがありますね。勇者様の一党に肖った“聖剣旅団”や“鮮血の鎌”なんてのもありましたよ」
「カムイバラで有名なトコじゃと“湯治隊”とか“八犬団”とかじゃな。実際わしが見た事あるのは“百鬼夜行”っていう酒呑み同盟じゃったが」
「カムイバラは平和ですねぇ。一回行ってみたいです。ラリスと違ってお米たくさん食べるんでしたっけ?」
「行きましょう! 本場のお寿司美味しいですよ!」
「やはり、武器や土地や伝承が組み合わさっている名前が多いようね」
「土地、特徴、伝承か……」
ちょっと本気出して考えてみよう。
俺は日本産まれ日本育ちで、一応異世界で剣士やってます。日本……ヤシマ、大和魂を見せてやる。う~ん?
英雄、英雄かぁ。雑賀孫一とか望月千代女とか? 有名なお話系なら酒呑童子とか舌切り雀とか?
あと、日本で一番強ぇヒーローと言えば……。
「大和武尊。ヤマトタケル……ヤマタケ団。いやいや、流石にそれはなぁ……」
「ん、ヤマタケ?」
「ああ。多分、俺の故郷で最強の英雄」
「日本の英雄! ボク、気になります!」
食い気味なグーラに押されるように、俺は皆が分かり易いよう噛み砕いてからワークニの英雄について語った。
スサノオ伝説に、ヤマトタケルの征伐。藤原秀郷の百足退治とか。俺が覚えてる範囲で、短くまとめてサラッと話す。
「へえ、ご主人様のところにはそんな英雄譚があるんですね! これ本にまとめましょうよ! このまま忘れていくなんて勿体ない!」
「龍殺しの英雄・スサノオ。いいじゃない。少しやり方が狡っ辛いけれど」
「主様ん所にはトンチを利かせて勝つ英雄が多いんじゃのぅ」
「で、そのヤマトタケルって人が最強なんスか?」
「恐らくは。つっても名前そのままってのはなぁ」
「でしたら、英雄が持っていた武器に肖るのは如何でしょう? 鮮血の鎌はリアルイーザ様の武器から取られた名前でしょうし」
「武器か……」
武器、武器か。個人的にはそっちのがいいな。
って、あれ? ヤマトタケルって何か有名な武器持ってたっけ? え~っと、何とか兄弟のお尻に突き刺したやつと、騙し討ちした時の剣と……あと何か凄いのがあった気がする。
あっ、そうだ。クサナギ! あるいはアメノムラクモ! これを異世界同盟風の名前にするなら……。
「“草薙の剣”……」
「へえ、良い響きじゃない。剣のお陰でアナタらしさもあるわ」
「草薙? 草刈りの事ッスか?」
「草を薙ぎ払うとか、草を薙ぐように滅ぼし尽くすとかの意味があった気がする」
「ん、意外と物騒」
「勇ましくて良いと思うのじゃ」
「その草薙の剣を持ってたのは誰なんスか?」
「さっき言ったヤマトタケル。元々はやべぇ強ぇ龍からドロップした武器なんだけど」
「ああ、スサノオ様の……! 異なる英雄譚に繋がりがあるんですね! ボクそういうの大好きです!」
「ていうか、今更だけどイシグロさんってリンジュ人じゃなかったんだ……」
「うん、ワタシもさっき知った。日本ってドコ?」
そんなこんな。飲み会は続き、そのうちお腹いっぱいになって帰る事になった。
他にも案を出してみたけど、一番しっくりきたのが草薙だった。明日申請しに行こう。
草薙の剣……何となくダガーで囲いたくなる名前だが、異世界じゃあ寧ろこういう名前のが悪目立ちしないはず。
「チーム名は……“草薙の剣”だ」
帰り道、酔いどれ気分で宣言する。
「なんで今言ったんスか」
そういう事になった。
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作者のやる気に繋がります。
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200万文字超えてようやく主人公率いるチームの名前が決定する模様。
一党名ではなく、同盟の名前、“草薙の剣”です。よろしくお願いします。
アメノムラクモでもよかったんですけど、クサナギのがシュッとしてるかなって。