【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。いつも助かっています。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
前半一人称、後半三人称です。
よろしくお願いします。
あ、前話の続きは避難所にあります。
今現在の俺の強さは、この世界じゃあ大した事はない。
謙遜じゃない。自戒の為、努めて何度も心に留め置いているのである。
俺は弱い。だから、今より強くなれる。
それはステータス云々の話ではなくて、どちらかと言うと心構えとか技術面の話だ。
戦いにおける本当の強さとは何か。思うに、適応力である。
如何に近接戦が強かろうが、距離を詰められなければどうしようもない。如何に小手先の技術に秀でようが、全ての手札が効かないのでは意味がない。如何に足が速かろうが、水中の敵は倒せない。
故にこそ適応力が求められる。即ち、その前提としての心・技・体だ。
無論、一朝一夕で得られるものではないだろう。
一度や二度、凄まじい修行をしたところで本質的には強くはなれない。時間がかかるから、面倒だからと、地道な修行を避けてはならないのだ。
だからこそ、俺は俺の至らなさを都度自覚し、自戒し、その全てを糧にして改善し続けて然るべきなのである。
さて、具体的にはどうすべきか。
クーシェンでの戦いを通して、俺は次にクリアすべき課題を見出した。
即ち、迷宮外における大規模パーティ戦への適応である。
はっきり言おう。俺からしたら、件の戦は落第点だった。
とはいえだ。ミヅチ戦当時、俺はそれなりに上手く立ち回れていたとは思う。
空飛ぶ突撃槍に跨って、俺は前線指揮官としての役割をこなした。検証の結果として【清潔】を決めたあたり、端から見れば俺は及第点の戦働きをしたと言えよう。実際、戦後は淫魔女王やライドウさんに褒められたし。
しかし、である。それじゃ足りない。
改めて宣言するが、俺が目指しているのはあくまでも最強である。最強のロリコンなのである。
戦いは圧倒的で然るべき。自分の身は当然として、仲間に被害が出るなんてのは論外だ。圧倒的な勝利とは何か。被害ゼロ、ノーダメージクリア。万事つつがなく完了し、戦後も戦前と同じ暮らしをできる事。家に帰るまでが戦闘なのだ。何かを犠牲に勝つなんてのは人事を尽くさぬ阿呆の所業に他ならない。
徹頭徹尾最強無敵。誰であろうと滅尽滅相。力、ただ力! 俺達の邪魔ァする不愉快な塵めらを跡形残らず消し飛ばす力が欲しいってな感じで、とりま目指すはゲルトラウデ師匠への恩返しで、最終到達点は銀竜剣豪ヴィーカさんだ。
全て、愛する皆との幸せイチャラブハッピーライフの為である。ロリコン王に、俺はなるってばよ!
閑話休題。
件の戦を振り返り、俺は大規模パーティ戦に適応すべきであると考えた。
その為に、二つの課題を見出したのである。
第一に、高機動空中戦の火力増強。
第二に、指揮能力の向上。
これら二つが俺の当座の課題である。
前者に関しては、空飛ぶ突撃槍を用いた魔女っ娘スタイルにおける火力アップについてである。
言ってしまえば、魔女っ娘スタイルは馬に乗って戦ってるようなもので、俺の得手武器である直剣や打刀ではリーチが心許ないのだ。魔法火力は銃杖を使えばいいとして、物理火力を出すにはもっと長い武器が必要だと考える次第。
なので、これを解決すべく片手で振り回せる長い武器を造ってもらう事にした。小回りの利く銃杖剣士スタイルとは別で、魔女っ娘スタイル専用武器である。
ドワルフとの激論の末、作成する武器は決定された。漢の浪漫にして、男の子の夢である。完成が楽しみでならない。
後者に関しては、大規模レイド戦における指示の重要さを思い知ったが為の課題である。
一党単位、あるいは迷宮内なら問題ないが、先の大乱戦では出すべき指示と範囲が広すぎてイマイチ貢献し切れなかったのだ。もっと言うと処理すべき情報が膨大で、戦いながらの指示やら観察やらは頭がパンクしそうになっていた。
なので、それ専用のジョブを育成すべきと考えた。それ即ち、エリーゼと同じ指揮官系ジョブである。
この世界における指揮官ジョブは基本的にバッファーであるが、指揮特化ジョブになると指揮できる範囲や処理能力にボーナスが入るっぽいんだよな。実際、エリーゼは処理能力が上がって視野が広くなってる訳で。あと拡声スキルがあるらしいので、これが一番欲しいかな。
で、先述の課題をクリアして、同じ轍を踏まないよう心掛ける。
この工程を繰り返し、積み重ね、最終的に最強へ至る。それが俺のロリコン道だ。
まぁ武器が完成するまで俺達は遊び呆けていた訳だが。休暇がないと死んだも同然だからね。
スーパー銭湯行ったり、別の区のギルドを覗いてみたり、王都に流れる水路の船に乗ってみたり……。
そんなこんな過ごしていると、ドワルフからお手紙が届いた。
件の武器と同時注文しておいたエリーゼの新杖が出来たというのだ。
来たわねと、いざいざ行ってみたのだが……。
「すまねぇ! 頼もうと思ってた職人が死んじまって、現状の素材じゃあちと無理になっちまった!」
というお話だった。
どうやら、例の空中戦用武器製作の真っ最中に、メンバーの一人が亡くなってしまったらしい。その結果、現状の規格のままじゃ当初想定していた強度を出せなくなってしまったようだ。
これを解決するには、現段階よりリーチを短くするか、あるいはバカ高いレア素材を使うかの二択だった。まぁでも、逆に言えば後者の素材があれば何とかなると。鉱石ではなく、迷宮のドロップ品が。
なら、そんなの迷う理由がない。
「じゃ、取ってきますよ」
そういう事になった。
そういう事になる前、ドワルフは「やめなよ」と言ってきたが、知らん。俺はどうしてもあの武器が欲しいのだ。夢なんだ、浪漫なんだ。それに、良い機会でもある訳で。そろそろ戦場の空気吸いたいしな。
レベリング兼ドロップ狙いの周回祭。
発動してくれるなよ、物欲センサー!
〇
英霊迷宮。
タイプは屋外型で、位階は上位の中の上位である。どれくらいかと言うと、以前に潜った水晶迷宮を超える難易度らしい。
とはいえ、この迷宮にギミックらしいギミックはない。ザコ倒してボス倒して終わり。本当にそれだけのシンプルダンジョンだ。ウザいボスも出ないし、嫌われエネミーも存在しない。
その上で、この迷宮は水晶迷宮よりヤバいと言われている。理由は単純、敵が強いからだ。
出て来るエネミーは彷徨ってる系鎧さん固定であり、和洋中なんでもござれなカオス集団だ。同じく武器もランダムで、大剣とか太刀とかランスとかハンマーとか手に手に色んな武器を持ってくる。
これといって特殊な耐性も無いし、反射も吸収もしてこない。弱点属性は存在するし、総じてゴースト属性持ちの彼等は聖属性が効きやすい。あと雷属性も通りやすいかな。それでも此処のは英霊で、それでも普通にヤバいのだ。
で、この鎧さん達の何がヤバいかというと……。
「うぉおお忙し過ぎッスぅううう!」
「崖から騎馬隊来るぞ! イリハ!」
「沼張る暇ないのじゃぁあああ!」
「レノ、足止め!」
「ん、やるだけやるけど……!」
「グーラ! あと何匹ぃ!?」
「まだかかりそうです! この魔物、足捌きが達者で!」
仄暗い曇天の空、遠くに見えるは崩れた砦。切り立った大地の方々から、種々様々な戦士が襲い来る。
オタク的に聞きかじった知識によると、攻城戦には三倍の戦力が必要とかで、要するに攻略側には数がいるという話。にも拘わらず、俺達はたったの六人で防衛砦を攻めていた。何故か? そこにボスがいるからさ。
獣の群れとも異なる、魔物らしからぬ軍隊的連携。半壊している砦からは時折強力な弓矢や魔法が飛んできて、どういう絡繰か別の砦から援軍が駆けつけて来る。何気にヤバいのは魔物同士の団結力で、魔物のくせに人間ライクな戦術を使ってくるところだ。
「いいぞレノ! グーラはビームチャージ! ルクスリリアは漏れたの狙って倒せ! イリハ結界ぃ!」
「了解しました! スゥーッ! ハァーッ!」
「淫魔使いの荒いご主人ッス♡ そういうとこ大好き♡ 帰ったら搾り殺してやるッスよ!」
「また矢が降ってきたのじゃ!」
そんな中、多勢に無勢の俺達も人間らしい戦術指揮で迎え撃っていた。
我々の部隊は空中組と地上組に分かれている。俺は空飛ぶ突撃槍に跨って、文字通りの俯瞰視点から指揮官ジョブの拡声スキルで指揮を執っていた。グーラとイリハとルクスリリアが地上で戦って、あっちこっち飛び回ってるレノは射撃しつつ俺のサポートをしてもらっている。
「私も剣を振りたいけれど、今回は流石に無理ね」
「もっと強くなったらな! 北方、砲撃用意!」
「
そんで最も恐ろしいのが、英霊達全員が並みの冒険者を超える武術の練度を持っているところだ。
魔物的なスペックは据え置きで、それを活かしきってくるのだ。流石に能動スキルの類いは使ってこないが、対魔物じゃなく対人戦の強さを要求してくる。
畢竟、怪物狩りに特化した冒険者には荷が勝つ相手なのだ。
『マスター、砦から翼人が飛んで来たよ。オーバー』
「HQ了解。やっぱりな、ここは例の作戦でいく! レノは地上の援護! エリーゼ武器変更!」
「ふふっ、やっと出番ね……!」
敵の中には翼の生えたヴァルキリー的な女騎士なんかもいたりして、指揮官たる俺を狙って編隊突撃を敢行してきた。
「来いよワルキューレ! 武器なんか捨てて掛かってこい!」
襲ってくるヴァルキリー部隊に魔法で引き撃ちし、騎士系スキル【陽動】を使って鬼ごっこ開始。そのまま良い感じの座標まで誘導する。
トレインの後は銀竜にお任せ。タイミングばっちり、光の翼を広げたエリーゼが翠の杖を掲げた。
「
ドッゴォオオオオッ!
瞬間、彼女の持っていた杖から轟音伴い紫電が昇り、トップを狙いそうな追尾レーザーめいてヴァルキリー部隊を一網打尽に撃墜した。
確かに気持ちいい光景だ。雷の主たるエリーゼは恍惚と顔を赤らめていた。
「ふふふっ、ふふふふふ……! この音、この威力。本当に素晴らしいわ……!」
間髪入れず杖を振り回し、エリーゼは雷魔法を乱射していた。
直線的な雷ビームに、凄く大きい雷網。背後に展開した魔法陣から、対空砲めいた雷矢連射。最早やりたい放題である。
他方、次々と落ちていく空の魔物は俺とレノが追撃する。硬い魔物は地上組にお任せだ。
◆夜嵐の雷杖◆
・補助効果1:自動修復
・補助効果2:魔法装填(雷の礫)
・補助効果3:魔法装填(雷の雨矢)
・補助効果4:魔法装填(貫く雷)
・補助効果5:魔法装填(拒絶する雷の衣)
・補助効果6:魔法装填(紫電の鞭)
・補助効果7:魔法装填(聖光の極大治癒)
・補助効果8:魔法装填(雷網)
・補助効果9:魔法装填(餓狼迅雷)
例によって属性特化のこの武器は、言ってしまえば対空特化の杖である。
一党単位での空中エネミー対策はできてるが、こっちはより広範囲のザコを堕とす用に設計されている。これもまた、ミヅチ戦を経たエリーゼのアンサーである。クーシェン城防衛側にいた彼女は、穢龍が吐き出すザコの対処に苦慮していたのだ。
「拙い! エリーゼ!」
「問題……!」
フレクサトーン的効果音。見れば、砦の方からエリーゼ目掛けて槍を持った騎士が突撃してきた。直線的超高速跳躍、とんでもないスピード。あまりに堂々たる奇襲である。
対するエリーゼは杖から伸ばした雷の鞭を振るい、件の槍騎士を止めてみせた。
「ないわ!」
刹那の綱引き、一瞬の硬直。腰の宝剣を引き抜き、二挺杖フォームに移行、次いで流れるように槍騎士の腹へ雷ビームをゼロ距離射撃。
感電デバフを受けた槍騎士は地に落ちて、起き上がる前にグーラに踏み潰されていた。
「火炎の雨が来るぞ! レノ、聖水バリア!」
「了解、暫く動けなくなる」
「これ倒したら向かいます! 凌いでください!」
「やる事が……やる事が多いッス!」
「此処の魔物は剣が上手いから却って防ぎやすくて良いのぅ。しゃあっ、【発勁流し】!」
幸い、対人戦の鍛錬を欠かしていない我々は、英霊の名を冠する騎士や武士の猛攻を上手に凌げていた。
砦からの砲撃を防ぎ、襲ってくる英霊共を駆逐し、少しずつ前進していく。
隙あらば進撃である。砦に向かって進撃し、レノとエリーゼによる砲撃で敵側の遠距離組を一掃。エリーゼが雷ブッパで穴を開け、砦の中にエントリーだ。
「六つ腕近接タイプだ! 防御固めてくぞ!」
そうして流れ込んだ砦の中心には、西洋かぶれの阿修羅君がいた。
六つのお手々に異なる武器。剣三、盾一、斧二。完全近距離仕様である。
戦闘開始だ。
「盾を狙うわ……!」
「ん、隙間狙う」
「そんじゃ俺は適当に」
上から射撃を加えるも、武器を振るって防がれる。流石の近接特化ぶりで、惚れ惚れするような技前である。
何なら今ので見切ったようで、弱い魔法を無視して前衛イリハに突撃してきた。四つ腕武器の攻撃をイリハが太刀で捌いていく。無月流剣術。防御の型だ。師に曰く、これを極めた剣士の守りを打ち崩すのは理論上不可能らしい。
「つっても防ぐので手一杯じゃ!」
「はぁああああ!」
そこにグーラの闇討ち攻撃。斧によるガードを貫通し、鉄塊剣が食い込み食い込み叩き斬る。会心ヒットで阿修羅が姿勢を崩した。通常攻撃でソレは運営からチート判定されても文句言えないと思うよ。
「っと、こっちもさせねぇッスよ!」
掲げられた盾の縁に蛇腹鎌が引っかかり、クイッと角度を変えられる。ルクスリリア選手、いぶし銀の活躍。
「今だ! 火力集中!」
スタン状態、盾はない。なので魔法をお見舞いした。俺とエリーゼとレノ。奴の斧腕に集中攻撃を決めてやると、六つ腕中二つがぶっ壊れた。今のは効いたし、HPも削れた。
「来るぞ武器ビット!」
たった一回のスタンでかなりのHPを削られた阿修羅君が第二形態になる。鎧の隙間から小型武器が飛び出てきて、それらが阿修羅君の背後に整列。近接ビットである。いいね、超カッコいい。
そんで再度暴れ出す。例のビットはさながら見えない手で振り回してるかのようで、その技量は本体の腕と同等だ。
けど、対策済み。一個目の策、効けばいいけど。
「まぁこうするッスよね!」
「俺この魔法好きなんだよな」
「お揃いね……!」
俺、淫魔、銀竜による三種の拘束魔法がフローティング武器を絡め取る。上手に決まった。我が一党の緊縛プレイは一流なのだ。
何とも人間らしい事に、阿修羅君は拘束されたビット武器を反射で呼び寄せようとして、貴重な一手を無駄にした。
「やぁああああ!」
そこにグーラの大振り攻撃。突撃逆胴を食らった阿修羅君が盛大に吹っ飛ぶ。
以降はさっきと同じ。魔法、光弾、魔法。ボスのHPが減っていく。武器を振ったり身を躱したりして抵抗する阿修羅君だが、そこにイリハの妨害陰陽術がヒットし、再度グーラの攻撃がぶち当たる。
跳びあがる阿修羅君。仕切り直して第三形態になるつもりだ。なので俺は接近しつつ空飛ぶ槍を飛び降りて、収納魔法から鎖鋸剣を取り出した。
「チェストォオオオ!」
轟音、擦過。赤熱回転刃の【切り抜け】。哀れ、阿修羅君は第三形態で生やそうとした翼を両断されてしまった。
異世界チェーンソーは部位破壊にて最強なのだ。
「トドメ! 練習通りやるぞ!」
「了解です!」
フィニッシュムーブである。
ボスを水濡れ状態にし、そこに雷の大技を当て、バフを受けたグーラが発勁炎雷斬りで一刀両断。ただでさえ馬鹿火力だったグーラの溜め斬りは、発勁を覚えた事で強化されたのだ。ガード貫通、HP全損である。
「やったッスか!?」
「うん、マジでやったから大丈夫」
ぶっ飛ばされた阿修羅君は、やがて粒子に還っていった。経験値獲得の快楽が身体を駆け巡る。
ザコ戦はともかく、ボス戦は苦戦しなかった。被害なし、ダメージなし。実に理想的な勝利である。
圧倒的じゃないか、我が一党は。
「よし、皆お疲れ~」
「此処の魔物は手強いですね。けど、ボク的にはこっちの方がやり易いです」
「分かるのじゃ。虫系とか無機物系と違って先読みしやすいんじゃよな」
「や、賢い敵は反射で回避しないから射撃が難しい。ちゃんと当てるには二射必要」
「アタシは普通の魔物戦のが気ぃ楽ッスね。慣れてるだけッスけど」
「蹂躙できるなら何でもいいわ」
帰還水晶を確認し、コンソールを開いてみる。すると、先の戦いでレベルアップした俺は他の指揮系ジョブに転職できるようになっていた。
え~っと、攻撃寄りの“戦士長”に、防御寄りの“騎士長”。指揮特化の“軍師”なんてのもあるのか。いや冒険者に軍師って何か違くないか?
「とりあえず、これは後々検証するとして」
課題の進捗は順調と言えよう。
声張れるようになったし、多少のバフも撒けるようになった。情報処理能力は上がった感じはないが、そのうち何とかなるはずだ。
急がず焦らず、地に足着けて育成しよう。
「レノはあと少しだな」
「ん、最上位職楽しみ」
一方、レノはもう少しで最上位職に手が届くところだった。
既に最上位になってる皆もレベルアップしている。エリーゼはクーシェンでの修行もあって皆より一個分高レベルだ。相変わらず必要経験値の多い最上位職だが、その上がり幅たるや凄まじい。
「ご主人! お目当ての出てるッスよ!」
「それは本当か! フゥーッ、やったぜと言わざるを得ない!」
そんなこんなドロップアイテムを探していると、ルクスリリアが帰還水晶の影に隠れていたのを発見してくれた。
それは兜の角飾りみたいな物体だった。これを例の空中専用武器の強化素材に使うのだ。上位迷宮のレアドロップ。だからドワルフはこれ前提で話を進めなかったんだな。
「よし、これをあと一個集めれば済む訳だ!」
「意外とすぐ終わりそうね」
英霊迷宮。レアドロを換金しない分儲けは渋いが、経験値自体はかなり美味しい。あと鍛錬にはなっている。
何であれ、レア素材目当ての周回は楽しいもんで。
ハクスラの充足感を胸に、俺達は迷宮を去るのであった。
〇
春が来た。
そして、なので、案の定、迷宮狂いがまた変な事をやらかした。
何の脈略もなく、英霊迷宮に潜り始めたのである。
英霊迷宮と言えば、歴戦の銀細工一党が一生に一度挑むかどうかの高難度迷宮で、ここを踏破すれば確実に英雄扱いされる程のトップオブトップダンジョンである。
そのくせ件の迷宮の聖遺物はどれも総じて売価が安く、基本的に儲けが渋い。レアなやつなら使い道はあるものの、それとて武器の強化に使える程度。
そんな迷宮を、当の一党は日常茶飯事の延長めいて踏破してのけたのである。しかもレア聖遺物は換金せずに保持するあたり、何がやりたいかは明白だった。まだまだ潜る気なのである。
イシグロとて、暫くは大人しかったのだ。
帰って早々に同盟を立ち上げた時は、すわイシグロ躍進かと西区ギルド全体が騒然となったものだが、実際には担当受付の勧めで節税目的に組んだだけだったらしい。
その後は転移神殿に顔を出さず、王都のあちこちで遊んでいたそうだ。さながら資産家のご家庭みたいに、冒険者とは思えないくらいド健全に遊んでいたのだ。
実際、今のイシグロなら一生遊んで暮らせる。ともすれば、このまま半ば引退生活をするのではと、彼を知らない人にはそう思われていた。
だが、奴は弾けた。急に迷宮に潜り出したのだ。
どうやらまだまだやる気らしい。ギルド的にはひと安心といったところだが、それで行ったのが上位迷宮で、その翌日に英霊迷宮に潜って行った。
そう、奴は上位迷宮を英霊迷宮の前哨戦……あるいは肩慣らしに潜っちゃったのである。この時点で色々おかしいが、迷宮狂いはそれだけで止まらなかった。
英霊迷宮踏破後、あろうことか翌日も同じ所を潜りやがったのである。前哨戦を含めて上位を三連続だ。そのうち二つは英霊迷宮である。
ベキベキと、常識が壊れる音がした。ギルド長からして、今年の新人冒険者に悪い影響が出そうだなと思った。
「はえ~、やっぱしラリスの銀細工って凄いんだな~。パイセンは明日も暇してんです?」
「アレと同じ扱いすんなボケ」
ギルド長の懸念通り、今年の新人にはガッツリ悪い影響が出ていた。
新人からすると、最近まで他国に行ってたイシグロはよく知らない冒険者だった。ついでに一昨年の黒剣大暴れ事件を知らない世代は、彼の容貌も相まって黒剣の銀細工を割と舐めていた。
怖いもの知らずな新人を見て、冒険者先輩は戦々恐々だった。無関係を装うべきか考えるくらいには。
「あと、何であの人奴隷連れてるんですか? 同盟組んだんなら、もっと強い人誘えばいいじゃないですか」
「そりゃお前、奴が止まり木とズブズブだからだよ。クーシェンの話、知らねぇのか?」
「知ってますよ。けどあれ、殆どアリエル様がやったって聞いたんすけど」
「バカ野郎、共闘できる時点でやべーんだよ。あと、お前ぜってぇあのチビ共に
「何でですか? 所詮は奴隷っしょ?」
「だからだよ。イシグロは仲間ぁ傷つけられんのが一番イヤって気質らしい」
「ふ~ん、でもなんか気に入らねぇっすわ。良い子ぶってる感じで」
「お前なぁ……」
他方、魔の一ヵ月を生き延びたピカピカの鉄札冒険者はイシグロへの軽侮を隠さなかった。知ってる人が知らない人を持ち上げてると、つい反発したくなっちゃうお年頃なのである。
仮に、イシグロが如何にも強者でございな見てくれをしていたら血気盛んな彼等とて大人しかっただろうが、当の本人は背が低くて細っこい平たい顔族なのである。言ってしまえば弱そうなので、素直に英雄として見れないのだ。
しかも、そんな男が皆の憧れである“風舞”のニーナや“七つの闇”のクリシャナと仲が良いというのだ。あまつさえ、支援金を積んで“翡翠魔弓”のアリエルに近づいてるってのが心底気に入らない。皆、偽善者ぶった彼奴に騙されてるんじゃないかと思えるのだ。
実績はあるんだろうが、それだけである。実際に戦ったらワンチャン勝てんじゃねと思っていた。だって地味だし弱そうだし。
「あのチビ共、初めから良い武器貰えるんだろ? 引率もしてもらえてよ。そりゃ誰だって強くなれらぁな」
「イシグロ派閥みたいなの作って良い気になってる。貴族にでもなるつもりなのかね?」
「その為の同盟なんじゃねぇか? 活きのいい従順な兵隊を集めるっていう」
「でも募集はしてねぇんだよな」
草薙の剣――イシグロが立ち上げた新進気鋭の同盟である。メンバーは盟主のイシグロとクーシェン人の麒麟族のみ。止まり木同盟とはズブズブの関係で、噂によると盟友の麒麟少女は彼の奴隷と同等の武装を与えられているらしい
件の麒麟少女と同じように、草薙に入れば上手くいくのではないか? 草薙に入れば、アリエルと繋がれるのではないか? 草薙に入れば、最初から強い武装を持って迷宮探索ができるのではないか?
まぁ、所詮は妄想である。現実そんな事はない。反抗精神旺盛なイキり新人と違い、大人しい新人は遠くから草薙の躍進を眺める事しかできなかった。
「はぁ~、僕も入りたいな。草薙の剣……」
「お前男だろ、無理無理。あいつはアリエル様のご機嫌窺ってんだよ。ガキみてぇな奴隷育ててな」
「言うてそこまでするかね? あいつくらい強けりゃ、女に困る事ぁねぇだろ」
「それくらいの女って話だよ、アリエル様は。お前見た事ねぇのか? ありゃ目が焼けるぜ」
「でも、アリエル様にそういう噂ないよな。一応王族なんでしょ? あの人」
「だからだと思うぞ。あと、一応じゃなくてマジな。今の森人の前で言ってみ? ぶっ殺されるぞ」
「で、そいつらに認められるくらいの功績がいるって? 嫌だねぇ、そういう男にだけはなりたくねぇよ」
クーシェンでの英雄譚は耳に入っている。国を揺るがす大乱戦、出来る事なら自分も参戦したかった。
そこで思い切り活躍すれば、あわよくば上森美女の心を射止められたかもしれない。そうでなくとも名声を得られただろう。富、名声、力、全部欲しいもっと欲しい。何なら迷宮狂いの右腕的なポジションでもいいから、とにかくチヤホヤされたい。
畢竟、彼等はイシグロとその仲間達が羨ましいのだ。自分が持っている安物武器など見ると、余計に。悲しい哉、これが迷宮潜り男子のスタンダードであった。
「入りたかったなぁ、草薙……」
「あん? お前、言ってみた事あんの?」
「あっさり断られたよ。勇気出して女装してさ」
「そりゃお前じゃ無理だろ」
「少なくとも迷宮狂いさんにソッチの趣味はねぇんだな。本当にタマ付いてんのかよ」
が、現実は非情である。どだい当の草薙の剣は盟友を募集していなかった。
それでも横紙破りはいるもので、直接イシグロに同盟参加をお願いした新人などは、その場でバッサリ断られていた。諦めきれぬとしつこく食い下がった冒険者には、ギルドからお叱りが飛んできた事もあった。
そういう事情もあり、イシグロは一部の新人から疎まれているのである。逆恨みも混じっているが、恥をかかされた若人からすると冗談ではなかった。
「おうイシグロ、今日も成功したか!」
「はい。あ、これザコから落ちたドロップなんで、換金お願いします」
「分かった。緑の一番だ。あと、主の聖遺物はどうする?」
「こっちは使うんで持っときます」
「おぉ、ついに手に入ったか! これでもう周回ってのは終わり……」
「あと一個ですね」
「えぇ……?」
ふと見てみれば、当のイシグロは今回も傷一つなく英霊迷宮を踏破してきたらしく、冴えないギルド職員と世間話をしていた。
下位迷宮で食いつないでる木札。中位迷宮でひぃひぃ言ってる鉄札。上位迷宮でボコボコにされ自信を失った鋼鉄札。そんな迷宮潜りからして、イシグロのああいった光景は英雄ならぬ冒険者のコンプレックスを刺激しまくっていた。
「クソがよ……」
まとめると、こうだ。
イシグロという男は英雄っぽくないのに英雄的で、強そうじゃないのに強くて、モテなさそうなのに凄いモテてる。そんな奴が西区冒険者の看板やってて、周囲から持て囃されてるのだ。これはもう気に入らないのも無理はない。
あまつさえ、満を持して立ち上げた同盟で才能ある新入りを育成する気もないらしい。新人視点、イシグロは英雄としての義務を全うしていないような気がするのだ。まぁそんな義務はラリス貴族以外には存在しないし、言ってしまえば単にやっかんでいるだけなのだが。
「よう! お前がイシグロだな! ちょっと待つんだぞ!」
と、いつものようにイシグロが帰ろうとした、その時である。転移神殿の一角から、件の男を呼び止める声があった。
立ち止まるイシグロの前に声の主はずかずかと歩み寄り、ふんと腰に手を当て胸を張った。
それは獣人の少女だった。彼女の胸にはラリス様式の真新しい木札が下げられている。
「えっと、君は?」
「うむ! よくぞ聞いてくれたのだ!」
当然の誰何に、何故だか少女は満面の笑みを浮かべた。
赤のメッシュが入った灰色の髪。大きな獣耳は犬系獣人のソレで、太い尻尾もまた同様。クリクリとした大きな目。活発な印象の褐色肌。草薙一行と同等の子供めいて小さな背丈。そして、彼女の胸は平坦であった。
というか、まるきり子供だった。
「オイラの名はリュドミーラ! リュドミーラ・ファーリ! 誇り高き鬣犬族の族長にして、ラリス金細工、“無尽走”のナターリア・ファーリの娘! あと“破砕”のエフィーエナの妹でもあるぞ!」
注目の中、リュドミーラと名乗った少女は堂々と胸を張っていた。
快活そうな声音は、悩み少なそうなアニメ声。そういう性質なのか目立ってるのが気持ちいいらしく、気分良さそうに尻尾をぶんぶん振っていた。
「はるばる宿屋からお前を探しに来たんだぞ! だからオイラを草薙の何とかって部族に入れるのだ!」
ド直球だった。まともな冒険者は「いや色々と隠せよ」と思った。
ナターリアと言えば、獣系単一同盟たる“荒野の牙”の盟主である。厳格なグウィネス流の掟を敷き、内外から尊崇と畏怖を集めるトップ同盟だ。
で、そんな同盟の盟主で種族の長の娘がイシグロに接近してきたと。これはもう疑ってくれと言っているようなものではないか。ていうか本人が言っちゃったし。
「え~っと、リュドミーラさ……」
「ミラでいいぞ! 強い奴にはそう呼ぶ事を許してるのだ! オイラには分かるぞ! 誇れ、お前は強い!」
「あ、どうも、ありがとうございます。その、ミラさんの母上っていうのは……」
どう見ても。リュドミーラは密偵向きとは思えない。
仮にこれが演技だとしたら、恥ずかしいくらいの天真爛漫ぶりである。
「ナターリアだぞ! 知らんのか? エフィーエナとは知り合いだろ? その母ちゃんだぞ!」
「あぁうん? それは存じていますが……」
困った顔をするイシグロに対し、リュドミーラと名乗った少女は太陽のような笑顔である。
頭を掻いたイシグロは鬣犬人を見た。それから首を捻って沈思黙考し、隣にいる奴隷達を見た。
ややあって、うんと頷いた。
「分かりました。とりあえずお話を聞きましょう。これから夕食なので、そこで如何でしょうか?」
「いいぞ! 朝から何も食べてないからオイラぁ腹ペコなのだ!」
え? と、周囲の冒険者は声もなく驚愕した。何ならトラブルかなと思って寄ってきた受付おじさんもポカン顔だ。
まさか、アイツがコイツを草薙の剣に入れるのか? あるいは、試験的なものを受けさせるのか? イシグロに色仕掛けした女は全滅してるのに、あの如何にもアホっぽい鬣犬はいいのか?
なんて勘ぐっているうちに、イシグロ達は今度こそ転移神殿を出て行った。
「あっ、でもオイラ無一文なのだ! ご飯代貸してほしいのだ!」
「はあ。まぁ奢りますよ、それくらい」
「おぉ! お前、見てくれの割に良い男なんだな! 超カッコいいぞ! お前なら姉ちゃんの婿でも文句ないぞ!」
いや、何なんだよ、本当に。
彼等が去った後の転移神殿は、なんか気の抜けた空気が流れていた。
「いやぁ春だねぇ」
「どういう感覚なんすか、おじさん」
受付おじさんにとって、イシグロの奇行は春の季語になっていた。
感想投げてくれると喜びます。
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