【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。
 誤字報告も有難うございます。誠に感謝。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 タイトルもっかい変えました。
 第二案です。よろしくお願いさしすせそ。


ロリと呼ばないで(転)

 草薙の剣と荒野の牙。お互い同盟を率いる盟主として、俺とナターリアさんは正式な契約を交わす事となった。

 内容はミラさんこと盟主の娘・リュドミーラさんの訓練である。ナターリアさんが王都を発つまでの間、俺達が彼女を鍛えるのだ。

 これは荒野の牙から草薙の剣への依頼という事になった。また、何らかの原因でリュドミーラさんが死亡ないし再起不能になった場合、草薙が相応のペナルティを負う事にもなっている。表向きの罰は謝罪と賠償だが、実際は俺による鬣犬族への奉仕活動(意味深)だったりする。

 その他細々とした事項を明記し、立ち上げたばかりの零細同盟と世界有数のスパルタ同盟は魔術的契約を結んだのである。

 

 鍛えるとは言うものの、そこに合格ラインは存在しない。どだい対象を死なせない限り、俺にペナルティは発生しないのだ。課題をクリアするだけなら、適当に稽古つけて済ませるだけでいい。

 だが、金を貰う以上、俺には責任を持って彼女を鍛える義務があった。そもそも言い出しっぺは俺なのだ。本気でやらねば男が廃る。

 それに、上手くいけば荒野の牙にも後ろ盾になってもらえるかもしれないからな。何事も一歩ずつ、その為に、信頼を得なければ。

 

「ふぉおおおおお!? お、オイラぁ剣の天才なのだ! 最初からコレ使ってれば良かったのだ!」

 

 で、翌日である。

 早速とばかりに鍛錬場にやって来た俺達の前で、リュドミーラさんは数打ちの曲刀を楽しそうに振り回していた。

 例によって俺のモーションチートだ。これは使用者のイメージを最適化してくれるものなので、その挙動は脳内にある武術イメージが無意識に反映される仕様である。訓練を受けていたと言ってたように、ミラは初期グーラのようなアクロバティックな動きをしていた。

 

「あれは獣人剣術かしら?」

「はい。たくさん努力してきたようですね。ですが……」

「なにスか?」

「……いえ、何でもありません」

「違和感があるのじゃ」

「ん、マスターから見てどう?」

「う~ん、そうだなぁ……」

 

 チートは問題なし。体捌きの基礎が出来てる分、危なっかしさもない。

 けれども、俺はコンソールに映し出されたミラのステータスを見て、おっさんめいて唸りつつ首を傾げていた。

 

 流石は族長の娘というべきか。ミラには因子継承的な仕様がしっかり働いているようで、彼女のステータスはかなり高かった。具体的に言うと銀細工下位くらい。初期ステでこれなら即戦力になるはずだ。

 しかし、彼女のジョブに、あまりよろしくないデータが載っていたのである。

 

「兄ちゃん! どうなのだ? オイラの動き。何が一番合ってると思うのだ? 正直、今のオイラならありとあらゆる武器を使いこなせると思うのだ!」

「ああ。じゃあ次はこの武器を」

「分かったのだ! よく見てるのだ!」

 

 それを確かめるべく、一通りの武器を使わせてみた。

 習った事あるらしい刀剣類に、メジャーではない初見武器。試しにぶちぬき丸を持たせてみたところ、なんとミラは両手で持ち上げる事ができた。それくらいには強いのだ。

 

「うん、そうだな」

 

 検証終了。データ通りだ。

 なので、俺はハッキリ言う事にした。

 

「ミラは武器の才能が無いな」

「いやぁそれほどでもない……のだ!? あるんじゃないのだ?」

「無いね。残念ながら」

 

 そう、彼女は武器全般の扱いが不向きであった。

 何も、動きが悪いとか言っているのではなくて、もっとシステマティックな話だ。どういう理屈か、彼女は如何なるジョブに就いてもあらゆる武器にマイナス補正がかかっていたのである。

 ゲーム風にいうと、“武器適性値”が軒並み最低だったのだ。

 

 武器適性値。ジョブごとに存在するもので、これが低いと火力が出ない。

 例えるなら、刀剣類全般に程々の適性がある“ソードマスター”と、刀に高い適性値がある“侍”では、同じステータスでも刀を使った際に出る火力は後者が断然高くなる。

 また、ミラの場合は本来剣に適性のあるジョブでも何故だか限界まで低く設定されているのである。剣士ジョブで剣適性が初期職以下ってどういう事よ。

 それが剣だけなら良いのだが、彼女の場合は武器全般の適性値が軒並み低かったのである。

 

「でもでも、母ちゃんも姉ちゃんも剣とか棍棒とか使うのだ! 何だかんだ言いつつ、オイラにもそういう素質が……」

「だとしても、一朝一夕に開花できるものではないと思われるが」

「ガーンなのだ!」

 

 結論、ミラは武器の才能がない。

 その事を異世界流に嚙み砕いて説明すると、ミラはしょんぼりと耳を垂れさせた。

 そんな顔をさせたい訳ではないが、事実を知らねば先に進めない。兄としても身を削られる思いだ。

 

「けど、一つ向いてる戦法がある」

「のだ? それは何なのだ? 教えてほしいぞ!」

 

 が、別に戦い自体が不向きとは言っていない。

 上げて落とすならぬ落として上げる。俺は彼女のジョブを戦士系下位職の“武闘家”に変更した。

 

「拳、あるいは蹴り。あるいは肘膝……つまり、格闘技だ」

 

 何の変哲もない武闘家。これは種族固有のジョブではなく、俺が知る限り全種族が就く事のできる汎用ジョブである。

 ミラの場合、どういう訳か獣人固有の武闘家ジョブは素手格闘にマイナス補正がかかっているのに、後者の汎用武闘家は通常の適性値になっているのだ。

 これなら普通に育成できる。フェアな土俵に立てた感じだな。

 

「武闘家? クーシェンとかリンジュのか? 一応、オイラは鬣犬族の武術を習ってたのだ。けどオイラこれも落第だったんだぞ……」

「というと?」

「これなのだ……」

 

 すると、招き猫ポーズを取ったミラがジャキンと爪を伸ばしてみせた。

 のだが、ほんのちょっとしか伸びていない。だいたい一週間爪切りしてない人の爪くらい。

 

「これじゃ戦えないのだ。それに全然鋭くないし……」

「ん、爪ってそんなに重要?」

「ボクもそうですが、一部の獣人は手足の爪を伸ばす事ができるんです。なので、伝統的な獣人武術は爪を用いる攻撃が多く存在します。鍛冶技術が発展した現代では、爪技を使う獣人は少なくなっているようですが」

「あー、前戦った奴もそんな感じだったな」

「ちなみに、わしは全く伸ばせんぞ。狐人ならできるらしいが、天狐に鋭い爪は無いのじゃ」

 

 爪が何だと思ったら、グーラから解説を受け思い出す。

 裸足の猫又、名前は確か、トゥイとか名乗ってたか。そういえば、あいつも爪を伸ばして攻撃してきたな。それどころか、ビームクローみたいな技も使ってきたか。アレと比べると、ミラの爪はトイプードルである。

 

「オイラはこれができないから落第だったんだぞ……」

 

 言って、ミラは再度しょぼんとなった。

 武器もダメ、爪もダメ。すっかり自信を失っていた。爪が使えないから格闘の道は断たれたと、彼女はそう思い込んでいるようだった。

 

「な~んて、想定の範囲内だよ」

「のだ?」

 

 備えあれば嬉しいな。こんな事もあろうかと、俺はミラの訓練を見ていた仲間達の中から、本日のゲストを紹介した。

 

「こちらにおわす御方をどなたと心得る。おそれおおくも嵐極拳老師、ユゥリンにあらせられるぞ」

「なるほど、その為にワタシが呼ばれたのですね」

 

 みどりの黒髪にツインテール。角と尻尾と馬耳完備。カンフー系美少女、ユゥリンのエントリーだ。

 パチパチ拍手。続いてルクスリリア達もノリで拍手し、ポカンとしてたミラも猿のおもちゃみたいに拍手した。

 

「ドーモ、リュドミーラ=サン、ユゥリンです。嵐極拳に爪技はないのでごあんしんください」

「ど、どーも……。っていうか、嵐極拳ってクーシェンのやつか?」

「おや、ご存じなのですか? 昔ならともかく、今では時代遅れのマイナー武術だと思っていたのですが」

「母ちゃんが少しだけ齧った事あるって言ってたのだ。ジャンプする時に嵐極拳の技使うって」

「あー、それは発勁の応用ですね。技は優秀なんですよね、技は。やっぱり勁鱗の習得が足を引っ張ってたのでは……?」

「とにかく宜しく頼むよユゥリン。その分、給料は支払うからさ」

「お任せください。不肖ユゥリン、お賃金分の仕事は完璧にこなす主義です。ですが時間外労働は絶対しないので悪しからず」

 

 発勁云々を除いた嵐極拳の基本は、一撃重視のヒットアンドアウェイである。それだけに鍛錬しやすく、覚えやすい武術なのだ。

 元々、例えミラが爪技を使えたとしても強い希望がない限り嵐極拳を習わせるつもりだったのだ。爪でなく拳、牙でなく蹴りを覚えてもらおうってな感じである。

 

「お、オイラは故郷では体術も上手くなかったのだ。それでも強くなれるのだ?」

「はい! 強くなれますよ」

「オイラは背も低いし身体も細いのだ。これまで拳法とかやった事ないのだ。それでも強くなれるのだ?」

「はい! 強くなれますよ」

「ゆ、ユゥリンより強くなれるのだ?」

「はい! 一生懸命トレーニングすればワタシより強くなれますよ」

「わ……分かったのだ。オイラに嵐極拳を教えてほしいのだ!」

 

 なんやかんやありつつ、ミラは覚悟を決めたようだった。

 

「せっかくですから、確認の為にも皆さんも稽古をしましょうか。ミラさんの稽古風景をジロジロ眺めるというのもアレですし」

「のじゃ。そういえば、この前刀版の【烈風勁】できるようになったんじゃよな。これの名前なんて言うのじゃ?」

「さぁ? それは嵐極拳から派生した技なので、イリハさんが適当に付ければいいと思いますよ。波動剣でも魔刃剣でもエクスカリバーでも」

 

 そんな感じで、ミラと一緒に俺達にも嵐極拳の稽古をつけてもらった。

 やはり、自主練よりもメンターがいるトレーニングの方が捗るね。俺も発勁技術を練り上げて、いつかヴィーカさんみたいな飛ぶ斬撃を使いたいところ。

 だって撃ちたいじゃん、カッコいいじゃん、飛ぶ斬撃。トレーニングは楽しんでナンボである。

 

「こ、こんな感じなのだ?」

「はい、合ってますよ。なるほど、ミラさんは説明するより何度も見せた方がいいタイプなんですね」

 

 基本ムーブと並行し、武闘家としての立ち回り練習や実戦形式の訓練等も行った。

 幸い、故郷での訓練のお陰でミラには土台となる基礎が出来ていたのでその辺は及第点を超えていた。努力の跡が垣間見える。

 あと、グーラとユゥリンの見立てによれば、ミラの武才は当人が思っているほど皆無な訳ではないそうだ。集中力が高い分、何なら並みより上まであるらしい。

 

「よし、いくぞ。無理に攻撃しようとせず、今回は生き残る事だけに集中してくれ」

「のだ! 頭目の命令も絶対なのだ!」

 

 で、次は迷宮である。

 嵐極拳の鍛錬と、迷宮によるレベルアップ。上手く行けば、これで依頼を完遂できると言えよう。

 そうしてミッチリ準備を整えて、グーラの装備を貸してもらい、いざいざ迷宮へ向かった。

 のだが……。

 

「うぅ、父ちゃん母ちゃん、オイラもう死ぬのだ……。うぷっ、また吐き気が……」

「何言ってるの」

 

 迷宮踏破の翌日、彼女は体調を崩して床に伏していた。

 動悸、息切れ、気つけ……。その他、インフルエンザに近い症状の数々を発症したのである。

 治癒魔法は効かなかった。何かしらの状態異常でもない。獣人専門のお医者さんに診てもらったところ、「精神的負荷による体調不良」らしい。要するにストレスであり、医者が言うには“冒険者病”なる病だそうな。

 命に係わる病ではない。休んでいれば症状は治るし、何度も迷宮に潜れば克服するそうだが、それ以前にこういう人は迷宮の狂気に中てられやすいという。

 結論、新人武闘家リュドミーラは迷宮探索に不向きだった。

 

「これじゃ当分迷宮には潜れないな」

「そ、それじゃ強くなれないのだ……! 一回でも多く潜らないと、母ちゃんについてけないのだぁ……!」

 

 少なくとも、ユゥリンの時のようなパワーレベリングは無理だろう。

 あと、迷宮探索をしてみてもう一つ気付いた事がある。それをやんわり伝えようと思ったら、先にエリーゼが口を開いた。

 

「貴女、魔物を殺すのに躊躇していたわね」

「ぎくぅ!? そそそ、そんな事ないのだ……?」

「わっかりやすいッスね~」

 

 エリーゼの指摘通り、ミラは迷宮のエネミーを殺すのに忌避感を覚えているようだった。

 一応、攻撃はできるのだ。初期ユゥリンと違って迫る危険にビビッてた訳でもない。ただ、魔物相手でも命を絶つ事に抵抗があり、殺生に罪悪感を覚えているようだった。

 日常生活なら問題ないだろうが、この気質は戦場や迷宮では命取りになる。人としては崇高な精神ではあっても、その優しさは戦士としては致命的だ。

 

「か、狩りは出来るのだ。獲物を解体して、食った事もあるんだぞ。最初は辛かったけど、そのうち慣れたのだ。だから、きっと迷宮も……」

「いいえ、貴女の心根は戦士向きではないわ。戦いからは離れて、後方で安全に暮らしなさい」

「のだぁああああ! それじゃ荒野の牙に入れないのだぁあああ!」

「ばっさりじゃの~」

「ん、わたしでも分かる。エリーゼは情緒がない」

「竜族ってそういうトコあんスよね」

「まぁ誰かが言わないといけない事でしたから。それに、エリーゼの意見にはボクも同意です」

 

 他方、エリーゼは顔を背けていた。ちょっと気まずそう。俺は銀の頭を撫でた。

 

「そうだなぁ……」

 

 まとめると、こうである。

 ミラには族長譲りの高い能力があるものの、武器全般が扱えず、殺しに忌避観がある。おまけに迷宮毒過敏症。

 ナターリアさんの見立て通り、ミラは確かに落第戦士だった。彼女の事を思うなら、戦場に連れて行くべきではないだろう。

 

「は、初めて魔物と戦った時、オイラ泣いちゃったのだ。戦ってる最中は上手くいってたんだけど、討伐した後に全身が震えてきて……」

 

 ベッドの上、俯いたミラさんはポロポロと涙を流し始めた。

 

「中にはオイラみたいな子もいたけど、そいつらは訓練から下ろされてった。けどオイラは族長の娘だから、頑張って続けたのだ……」

 

 生まれの責任感から、彼女は辛い訓練を耐えてきたようだ。大好きな家族に恥じぬ自分であれるよう、必死に。

 

「こういうの、全部克服しなきゃいけないんだぞ。そうじゃなきゃ立派な戦士になれないんだぞ。それに、母ちゃんや兄ちゃんにここまでしてもらって、何も無しじゃあ鬣犬族の恥なのだ」

 

 素直な心根や言葉の内容とは裏腹に、ミラは馬鹿でも愚かでもない。

 強くなりたいのは、家族の為だ。生まれからくる責任感も自覚していて、それを全うしようという気持ちもある。

 同時に、自分より優れた個を守るのだという自己犠牲の精神まで持っていた。だけど、それはできない。すべきでない。今のままでは、足手まといになってしまうからだ。

 

 加えて言うと、後方に行った落第娘が故郷の男達に何を言われるか。彼女の選択は彼女だけのものではない。場合によっては、母であるナターリアさんにも害が及ぶ可能性だってある。

 八方ふさがりで、雁字搦め。自分一人では、どうしようもないのだろう。

 

「ミラさん……」

 

 そんな妹に、兄である俺はあえて敬称で声をかけた。

 それから、これまで頑なに言わなかった事を言う覚悟を決めた。

 

「ぶっちゃけ、こうなる事は読めていました」

「え?」

 

 ナターリアさんと話した時から、俺は遠からずこういう事になるだろうと読んでいた。そして、その予想は当たってしまった。

 先の会談を思い返す。契約書の内容と、言外の訴え。彼女はミラを強くしろとは言わず、俺の好きにしろと言っていた。

 迷宮で鍛えられるなら良し。できないなら別の道を。雁字搦めになっているミラに必要なのは、誠実な導きと彼女自身の納得だった。

 

「戦いに出るのが難しいなら、別の選択肢を探すのもアリだと思いますよ」

「でも、逃げるのはダメって教官に教わったんだぞ」

「逃げじゃありません。未来への転身です」

 

 その上で、何を選ぶかは彼女次第である。

 俺にできるのは選択肢を提示する事。そして、どんな理由があっても見守る事。誘導したり操縦しようとするなんてのは、兄として絶対にやってはいけない事である。

 

「ミラさんは、ナターリアさんの役に立ちたいんですか? それとも、一緒に戦いたいんですか?」

「え? それって同じじゃ?」

「違いますよ」

 

 かつて、ミラは家族の役に立ちたいから強くなりたいと言った。けれどもそれは目標や目的であって、その方法は一つに限らないはずである。

 彼女は戦いに固執している訳ではない。向いてない自覚もあった。恐らく、その事を指摘されても分からないまま努力を続けてきたのではないだろうか。

 故に、外部の俺が言うのだ。全ては彼女の幸せの為に。

 

 また、雁字搦めになっているのはミラだけではなかった。

 娘の望まぬ道を強要したがる母など、いようものか。もしいるのなら、そいつは母では断じてない。

 

「でもでも、長の命令は絶対なのだ。オイラを置いてくって決めたのは母ちゃんで……」

「それは当時の貴女への命令であって、数日後の貴女には別の命令が下されるはずです。そうじゃないと、彼女がこの契約を結ぶ訳がない」

 

 クリクリとした大きな目を見つめる。

 理解が及んでいないのか、ミラは困惑しているようだった。

 

「ミラさんは、本心から戦いたいと思っていますか? 戦いの他に、何かしたい事はありますか? あるいは、したくない事でも構いません。全部自分の為でもいい、下らなくたっていい。何でも構いません。言ってみてください、貴女の望みを」

 

 得意な事でもいい。

 やりたくない事でもいい。

 引っかかりさえあれば、俺はその道の先を照らす事ができる。

 照らされた道を見て、考えて、選び取る。それはミラだけが持つ権利である。

 

「これは逃げではありません。むしろ、責任が伴う選択である以上、命令に従い続けるよりも辛い事が続くでしょう。どうか、ミラさんの心で以て答えてください」

 

 言うと、ミラの視線は徐々に下がっていき、やがて目を伏せた。

 己の心を覗き込むかのような沈黙。

 そして、鬣犬の口が開かれた。

 

「お、オイラ、戦いたくなんかないぞ……」

 

 戦いたくない。それは、狩猟種族たる鬣犬族の娘としては認められない望みだった。

 

「でも、皆の事は好きなんだぞ。荒野の牙も、群れの奴等も」

 

 他所からアレやコレや言われているが、荒野の牙は何やかんや良い共同体なんだと思う。

 あの夜、誰もミラを蔑ろにしていなかった。落第戦士の彼女を邪険にしていなかった。故にこそ、強い目で俺を見てきたのだ。

 

「母ちゃんが……」

 

 ぽつぽつと、小さな声音で続ける。

 まるで告解のようだった。ミラは己の中の全てを曝け出していた。

 

「二人だけの時に、故郷の飯よりラリスの飯のが美味いって言ってたのだ。そう思ってるのは母ちゃんだけじゃなくて、同盟の牙もそう。オイラは……オイラは多分、皆にもっと身体に良い飯を食ってほしいんだぞ。元気に生きて、帰ってきてほしいから……」

 

 曰く、鬣犬族の飯は不味いらしい。何かにつけて塩だの濃いめだの。いくら治癒魔術があろうと、例え頑丈な異世界人だろうと、偏った食事は身体に悪いと言われている。

 

「ならミラが作ればいいじゃん」

「オイラが? で、でも、料理は男がするもんだぞ……」

 

 鬣犬族の文化では、料理は男がするものらしい。強い女が弱い男の領分を侵すのは、古から続く伝統に反する。

 けど、それが族長の娘ならどうだろうか。強い娘ならどうだろうか。覚悟してやれば、できなくはないんじゃなかろうか。

 

「仕事を奪うなって、群れの男共は反発するぞ。それに、弱いオイラがあれこれ言うのも絶対嫌がるのだ。それに、あいつら不味い飯しか知らないから時間かかるぞ」

「覚悟がいりますね。強くもならないと。それこそ、相手を殺さない防衛技術が必要になるかも」

 

 ちょっとずつ、ミラの目が輝きを増していった。ビジョンが見えてきたのかもしれない。

 しかし、すぐにしゅんとなった。

 

「できるかな。オイラ、料理なんてやった事ないのだ。もしかしたら、戦いだけじゃなくてこっちもダメかも……」

 

 これまで、ミラは料理をした事はなかったそうだ。

 武器もダメ。迷宮もダメ。成功体験の少なさ故か、彼女はマイナス思考に陥っているようだった。

 

「できるかもしれませんし、できないかもしれません。やってみないと分からないなら、やってみればいいんじゃないでしょうか?」

 

 柄にもなく、グーラが軽い口調で言う。小さくなったミラの背中を、同じくらいの背丈の少女が押した。

 

「意外と向いてるパターンもあるしのぅ。少なくとも舌は敏感じゃ」

 

 実際、料理を練習する事には何の問題もない。やる気があればすぐにでも始められる。好きにしろと言われたのだ。好きにさせてもらう。

 その為にこそ俺がいるのである。

 

「ん、無理だったら別のことやればいい」

「料理だけじゃなくても、色々あるでしょう? それとも故郷の男達はそんなに暇しているのかしら?」

「魔族っぽい考えッスけど、不向きな事なんて楽しくないし続かないッスよ」

「みんな……」

 

 じわっと、鬣犬の大きな瞳にこれまで別種の涙が溢れた。

 それから、ベッドを下りたミラは俺達に頭を下げた。

 

「オイラに、料理の練習をさせてほしいのだ。何がやりたいのか、何をすべきか。見つける手伝いをしてほしいのだ……!」

「ああ。兄ちゃんに任せろ」

 

 極論、彼女が決めた道なら何でもよかった。

 料理でもいい。勉強でもいい。迷宮に潜るのは、あくまで選択肢の一つに過ぎない。やりたい事が見つからないなら、選択肢が増える道を選べばいい。

 何であれ、俺は彼女を支援するつもりだった。

 

「オイラ、料理人になる。そんで母ちゃん達に美味くて身体に良い飯を食わせたいのだ。あと故郷の塩辛い料理も何とかしたいんだぞ」

 

 こうして、ミラの進むべき道は決まった。

 他ならぬ彼女が決定したのである。

 目指すは、戦える料理人だ。

 

 なに、難しく考えなくていい。

 気楽に始めて、真剣にやる。

 それから見えて来るモノだってあるだろう。

 

 若いうちは何でもやってみるものだ。

 いや、それは年を取っても同じかな。

 

 

 

 

 

 

 方針が決まれば、あとは突き進むのみである。

 一日空けて、リュドミーラは二種の訓練を行う事となった。

 料理と拳法の鍛錬である。

 

「こうじゃ、この手。最初はゆっくり、指を切らんように気を付けるんじゃぞ」

「や、やってみるのだ……!」

 

 料理に関しては、イリハが付きっ切りで教える事となった。

 基本的な食材の切り方から、焼き加減やら何やらまで。とにかく数をこなさせた。

 最初はこっちが冷や冷やするくらい手元が怪しかったミラだったが、失敗を繰り返す事で少しずつ慣れていった。

 

「ふへへ、料理教えるだけでお賃金もらえるのめちゃボロいですね~」

 

 ユゥリンにも手伝ってもらい、ごく一般的なラリス料理を作り続ける。

 そうして、今日一日の成果をお出しされた。

 

「うん、普通にいけるな」

「ホントなのだ?」

「普通に美味いッスよ。お世辞とかじゃなくって」

 

 意外と言えば失礼になるが、存外普通に食えるものが出てきた。

 めちゃくちゃ美味しいっていうのではなく、こういうのでいいんだよって感じ。

 

「ぶっちゃけ、料理って才能より正確性のが重要なんですよね。レシピ通りに作るのが一番なので、それ以上はもう専門家の領域です。その点、ミラさんは余計な事しないし、ちゃんと分量通りにやってくれるのでチィ姉よりずっとか上ですよ」

「あとは手先の技術を覚えて慣れるだけじゃな。なに、料理なんてそのうち上手くなるもんじゃ」

 

 とは、ユゥリンとイリハの談である。

 それというのも、ミラは決して適当な調理をしなかったのである。この大きさで切れと言われれば全く同じにして、どれくらい焼くか教えれば言われた通りの焼き加減で仕上げる。塩や調味料は秤で計り、教えた事は全部メモする。その分、教えた側が適当言うと適当にやっちゃうらしいが。

 悪く言うと融通の利かない指示待ちマニュアル人間なのだが、指示とマニュアルがあればその通りに動けるロリなのだ。こういう人を無能扱いする世の中は、個人的には間違いであると思う次第。

 

「美味しいです! もっと下さい!」

 

 ちなみに、練習で作った料理の殆どはグーラが一人で平らげた。我が家にフードロスの概念はないのだ。

 

「じゃあ今からその動きをやってみせるので、真似してみてください」

「分かったのだ!」

 

 拳法については、鍛錬場で嵐極拳の稽古と共に対人戦志向の訓練を行った。

 現状の彼女の目標は、戦えるコックさんである。落第戦士として同族に舐められない程度の腕が必要なのだ。

 不幸中の幸いで、ミラは殺しは不向きでも戦い自体には素養があった。その点、不殺の拳を身に着けるのは存外順調だった。

 

「ユゥリン師匠、オイラはあのハッケーの練習はしなくていいのか?」

「要りませんね。あと多分ミラさんに発勁の才能はないので」

「やっぱオイラぁ落第なのだ……」

「安心してください。世の中、九割の人は無能なんですから」

 

 曰く、達人同士の戦いはともかく、ミラの目標を達成するなら嵐極拳の基本技で事足りるらしい。ミラは高いステータスを持っているので、それを使いこなせるよう訓練すればいいのだ。

 無月流も教えようかと思ったが、「こんがらがると思うので止めておきましょう」となった。まぁ彼女は最強を目指してる訳じゃないしな。

 

「なあ、あれが荒野の牙の……」

「やっぱイシグロもアガり目指してんのかな。いきなり同盟同士でくっついてよ」

「止まり木と荒野の牙か。運だよな、まったく」

 

 そうやって毎日のように鍛錬場を出入りしていると、鬣犬族長の娘であるミラは冒険者達の注目の的になっていた。

 複雑そうな、あるいは剣呑な目を向けているのは主に新人冒険者達だった。中には以前に草薙加入を希望していた子達もいて、俺でも彼等の内心は理解できた。

 当のミラは気にしてなさそうだったので彼女のメンタル面は大丈夫だとは思うが、血の気の多い異世界は何があってもおかしくない。その辺も俺が何とかすべきだろう。

 

「エリーゼ呑み過ぎなのだ。酒は水じゃないのだ」

「美味しい肴があるんだもの。呑まなきゃ失礼というものよ」

「のだ!? お、美味しいって言われても嬉しくねぇぞ! あ、さっき練習で作ったのあるけど食べるのだ?」

「素直過ぎる……修正が必要だ」

「ッスね。騙されないようにしないとッス」

「すみません。次の料理はまだですか?」

「ん、グーラも食べすぎ。いくら何でも体調崩す」

「その分めちゃくちゃ動くからのぅ」

 

 ガチガチにスケジュールを組んで、厨房と鍛錬場を行ったり来たり。友情トレーニングを連発し、スタミナ管理もバッチリカッチリ。まさに強化合宿の様相である。

 便利な魔導コンロに慣れてはいけないというので最低限の器具で練習したり。キャンプ飯的な料理を作ったり。イリハにリンジュ式の栄養学的なモノを教えてもらったりもして。

 初日は料理素人って感じだったミラも、何日もスパルタ料理塾を受講した現在はそれなりの腕になっていた。少なくとも俺より上手なの草である。

 

 そんなこんな。

 

 月日は流れ、決戦前夜。

 その日の夕食は、一切の手伝い無しでミラが一人で作る運びとなった。

 

 献立も自由。調理器具も自由。ミラが考え、ミラが作る。

 そうしてお出しされたのは、俺達一人一人異なる料理だった。

 

 俺とルクスリリアには精の付く料理を。呼ばれて来たシャーロットには陰陽学的に肝臓に良いとされるモノ。他の面々にはハクスラ以外の日に合うような塩気と味気控えめで且つ美味しい料理を。

 料理に心が宿るのだとしたら、ミラ謹製の料理には相手を労わる心配りがあった。

 

「うむ! 合格じゃ!」

「美味かったぜ、お嬢ちゃん!」

 

 食後、俺達は一斉に「グッド」と書かれた札を挙げた。

 強化合宿の成果である。普通に美味い料理から、割と美味い料理にランクアップしたのだ。まだまだプロ級とは言えまいが、この訓練日数でこれは普通に凄いと思う。

 

「よっしゃーなのだ! ありがとう兄ちゃん! ありがとう皆!」

 

 合格を出されたミラはバンザイして喜んでいた。

 彼女が作ったのは、身体に良い戦士飯である。単に塩辛いものではなく、必要な栄養が摂れて、尚且つ士気を保てるよう美味しく仕上げ、休暇日には馬鹿になった舌を教育する。そういうのを目的とした料理だ。

 都合よく、あるいは当然として、武断国家たるラリス王国には戦士用レシピが大量に存在していた。戦士飯を学べる専門学校なんかもあるらしい。

 

「あれもこれも全部兄ちゃんのお陰なのだ! いつかお返しするのだ!」

「気にしなくていい。兄が妹を守るのは当然だろ」

 

 今のミラは料理が出来るようになった事を喜んでいるというより、俺達が満足そうにしてるのを喜んでる風に見えた。

 やっぱり、この子に戦士は似合わない。

 

「よし! じゃ、行ってくるのだ!」

 

 翌朝である。例の風呂敷家出スタイルになったミラは、俺達の家を出て行った。

 一人で荒野の牙の拠点に向かい、書類を持って戻ってくる。それを完遂して、ミッションコンプリートとなるのだ。

 

「行ってら~」

「気負うでないぞ~」

 

 小さな背中が遠ざかる。曲がり角に消えるまで、彼女が此方を振り向く事はなかった。

 その背中は、これまでになく自信に満ち溢れていた。

 

「さて……俺も行くかなっと」

 

 はい、ここで変身バンク入ります。

 全身に地味な革鎧を纏い、腰に馴染みの無銘ロンソ。ホルスターに銃杖を。ナイフホルダーにアサシンナイフを装備。デェェェン! 武装完了である。

 

「ご主人、お出かけッスか? 久しぶりにナメクジみたいな汗だく吸精祭としゃれこみてぇんスけど」

「それは後で」

「ん、何しに行くの?」

 

 扉を開け、振り向く。

 

「ちょっと、お話(・・)をね」

 

 お金を貰う事は、仕事に責任を負う事だ。

 依頼を完遂する為の、最後の仕上げである。

 

 スマートに行かないとな。




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 前書きにもあるとおり、タイトルもっかい変えました。第二案です。
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たのしい異世界ハクスラ生活 ~剣と魔法のファンタジー世界でかわいそうな少女を助けます~

たのしい異世界ハクスラ生活 ~力こそパワーなファンタジー世界で不遇な少女を救い続ける超紳士的英雄譚~







◆イシグロ・リキタカ
・職業=剣士系上位職ソードエスカトスが最も高く、その他斥候や武闘家や魔法職などを上位の節目までまんべんなく育成。現在は指揮系ジョブを育成中。特効対象が限定的なジョブや、汎用性の低い特化ジョブ等は放置している。
・武器=無銘(ロングソード)。アンデッド絶対殺すメイス(槌)。大きな弓(弓)。鏡のような盾(カイトシールド)。橘&湊(打ち刀&脇差)。対人棍・雷式(棍)。アサシンナイフシリーズ(短剣)。深域武装(空飛ぶ槍+ノコギリソード)
・技能=多くのスキルを覚えているが、デメリットが大きいか実戦的ではないスキルは大体封印している。純淫魔契約により一部魔族特性を習得(暗視・再生能力など)。発勁をマスターしている。唯心無月流。嵐極拳。朱鷺流れなど、対人用の必殺技を持っている。
・役割=器用万能型。

◆ルクスリリア
・職業=淫魔妖妃(純淫魔固有魔法戦士系最上位)
・武器=深域武装(大鎌)。護身用の刺剣(短剣)。
・技能=あまり描写していないが、地味に大鎌系スキルを複数習得している(イリハ救出戦で魔法を防いだ時など)他、淫魔特有の魔法などを習得。深域武装の守護獣に乗って立ち回る事が多い。イシグロへの強力なバフ技もある。体内の精を消費し、ステータスを引き上げる時限強化技“超淫魔化”を使えるが、めったな事では使わない主義。
・役割=空中前衛寄り中衛物魔アタッカー兼バッファー兼デバッファー。

◆エリーゼ
・職業=ドラゴンルーラー(竜族固有指揮系最上位職)
・武器=魔法杖。炎杖。氷杖。光杖。闇杖。剣杖。雷杖。深域武装(剣)
・技能=無限魔力による装填魔法ヒールブッパ。権能の呪詛と祝福でバフやデバフや不死殺しも可能。指揮系スキルによるバフ・デバフも重ね掛け可能。深域武装を使えば杖の二つ持ちもできる。骨発勁は練習中で、一応多少頑丈になった。竜族魔翼は例の光の翼で、ホバリングと小回りの利かない高速移動と魔法限定の当て身技が可能。
・役割=後衛賢者職。

◆グーラ
・職業=魔獣勇士(獣系魔族固有近接最上位職)
・武器=ぶちぬき丸(大剣)。護身用の剣(短剣)。深域武装(手錠みたいな短剣)。
・技能=一部武闘家スキルで立ち回り、大剣を振り回す。種族特性の炎はパワー上昇、雷はスピード上昇。発勁により種族特性の扱いが上手くなり、現在の必殺技は炎雷を纏わせた発勁斬り(ガード貫通+相殺無効)。
・役割=地上前衛物理アタッカー。

◆イリハ
・職業=天地仙刀士(天狐固有陰陽剣士系最上位)
・武器=綾景之太刀(深域武装)。
・技能=陰陽術と剣術で立ち回る。発勁を覚えた事で咄嗟の択が増えた。権能によるバフも可能。
・役割=後衛魔法アタッカー兼サポーター。
◆レノ
・職業=天使固有上位職
・武器=クレイグ&ブロスナン(短杖)。深域武装(水晶)。
・技能=射撃能力による圧縮光弾。聖水や発火による援護や治癒も可能。
・役割=後衛寄り中衛アタッカー兼ヒーラー。
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